対人恐怖心性と養育体験の関係性について

帝塚山大学心理学部紀要2012 年 第１号pp.191-199 原 著 論 文

対人恐怖心性 と養育体験 の関係性 につ いて

大 久 保  純 一 郎1 ）

“対 人 恐 怖 ” は 対 人 場 面 に お い て 強 い 不 安 と 緊 張 を 生 じ ， 他 者 か ら へ ん に 思 わ れ る こ と を 恐 れ， 対 人 関 係 を 回 避 す る 傾 向 を 持 つ （ 永 井, 1994) 。 従 来 は， 日 本 特 有 の “神 経 症 ” の一 種 と さ れ て い た が ， 近 年ＤＳＭ-ＩＶ な ど に お け る 社 会 恐 怖 と の 関 係 が 強 い こ と な ど か ら 注 目 を 集 め る よ う に な っ て 来 た 。 そ の 成 因 につ い て は， 従 来 か ら 研 究 が 続 け ら れ て き た が ， 養 育 経 験 や 親 子 関 係 に つ い て も多 く の 研 究 が な さ れ て い る。 山 下(1977) は ， 対 人 恐 怖 症 者 の 家 庭 環 境 に つ い て， 全 体 と し で 愛 情 深 ぐ ， 同 時 に一 応 き ち ん と し た し つ げ が保 た れ た 家 庭 と い う 印 象 が あ る と 述 べ て い る。 朝倉(2004) は社 会恐 怖 患 者 の 人 格 特 性 と 養育 環 境 と の関 係 を 検 討 し た。 社 会 恐 怖 評 価 尺 度LSAS 日 本 語 版 を 用 い 健 常 成 人 群 と社 会 恐 怖 群 に 分 け 比 較 を 行 っ た と こ ろ ， 社 会 恐 怖 群 の 大 は 両 親 の 養 護 が低 い こ と が 示 さ れ た 。 朝 倉 と 山下 の 研 究 結 果 は ， 一 見 相 反 す る もの で あ る。 そ の相 違 の 要 因 と し て ， 時 代 背 景 の 相 違 を あ げ る こ と も で き る。 さ ら に， 対 象 者 の 障 害 の質 の 違 い を あ げ る こ と が で き る。 山 下 の 研 究 に お け る対 象 者 が対 人 恐 怖 症 の 中 で も古 典 的 な “ 確 信 型 対 人 恐 怖 症 ” であ る の に対 し ， 朝 倉 の 場 合 は 基 本 的 に 社 会 恐 怖 が 中心 で あ っ た。 山 下(2009) に よ る と ， 対 人 恐 怖 症 は 日 本 の 社 会 的 背 景 に 関 係 の深 い 視 線 恐 怖 ， 体 臭 恐 怖 な ど を 中心 と し だ 確 信 型 対 人 恐 怖 ” と, DSM-IV に お け る 社 会恐 怖 に 相 当 す る “ 緊張 型 対 人 恐 怖 ” の ２ 種 に 分 け る こ と が 出 来 る。 し た が っ て ， 山 下(1977) の研 究 対 象 は 主 に 前 者 で ， 朝 倉(2004) の 研 究 対 象 は主 に 後 者 で あ る と考 え ら れ た。 し た が っ て， 同 じ よ う に 対 人 恐 怖 症 と い っ て も， 質 的 に 異 な る 問 題 が あ り， 養 育 環 境 の 影 響 も 大 き く異 な る も の と 考 え ら れ る。 し か し な が ら ， 山下 と 朝 倉 の 研 究 で は ， 対 人 恐 怖 症 の 分 類 の 基 準 や ， 養育 環 境 の評 価 が 異 な っ て お り ， 対 人 恐 怖 の 種 類 に よ り， 養 育 環 境 の 影 響 が ど の よ う に 異 な る の か と い っ た 疑 問 に 答 え る こ と は で き な い 。 そ こ で ， 本 研 究 で は， 大 学 生 を 対 象 と し た ア ナロ グ 研 究 で はあ る もの の， 対 人 恐 怖 心 性 を 多 元 的 に 捉 え ， そ の 症 状 や 種 類 に よ っ て ， 養 育 経 験 と の 関 係 が ど の よ う に 異 な る の か と い う 点 につ い て 検 討 し た。 さ ら に ， 対 人 恐 怖 症 の メ カニ ズ ム につ い て も言 及 し た 。 対 人 恐 怖 に か か わ ら ず ， 様 々な 精 神 的 問 題 が 幼 少 期 の 家 族 関 係 や 養 育 環 境 の 影 響 を 受 け る こ と は 広 く知 ら れて い る と こ ろ で あ る。 し か し な が ら， 養 育 の質 や 程 度 を 評 価 す る 方 法 は 十 分 に 確 立 し て い る と は い え な い 。 そ の 中 で ， 被 検 査 者 が 自 ら 受 け た 養育 体 験 を 回 顧 的 に評 価 す る 質 問 紙 と し て, Parental Bonding Instrument （ＰＢＩ : Parker, Tupling, & Btown, 1979) が 開 発 さ れ た。 ＰＢＩは ， 因子 分 析 的 に 導 き 出 さ れ た 養 育 行 動 の 基 本 構 成 要 素 で あ る ケ ア(care)

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と 過 保 護(overprotection) の 二 次 元 で 評 価 さ れ る。 さ ら に, Parker, Tupling, & Btown は， ＰＢＩの ２ つ の 尺 度 の 高 低 を 基 に 親 の 養育 態 度 を 図1 に示 し た よ う に ４ つ に 分 類 し た。 本 研 究 で は ， 大 学 生 に 対 人 恐 怖 心 性 尺 度 とＰＢＩを 実 施 し ， 回 顧 的 に評 価 さ れ た 親 の養 育 態 度 と， 現 在 の対 人 恐 怖 心 性 の 関 連 性 につ い て 検 討 す る 。

affectionless

サ

勹

無 関 心 ／ 拒 絶

犬 ］

保 護

過

干

渉

尺

度

affectionate

囲

ケ ア 尺 度

阿 〕

自 立性 の 尊重

図1 . PBI に よ っ て 得 ら れ る 親 の 養 育 態 度 （ 古 川, 1993 を 参 考 に 作 図 ） 大 学生を対 象として，質 問紙調査を 行っ た。 調 査対象者 帝 塚山大学 において心 理学に関 する講義を受 講してい る学生を対 象に調査を 行っ た。男 性80 名，女性115名の 計195名（ 平均年齢19.47歳, SO =1.53)を 分析の対象 とした。 調 査 時 期 2008 年 ６月 末 か ら ７月 上 旬 に か け て 調 査 を 実 施 し た 。 質問 紙 対 人恐怖傾 向：堀井・ 小川(1996) の対人恐 怖心性 尺度を用い た。 この尺 度は対人恐 怖的な 悩 みを 表す以 下 のよ うな ６ 種の下 位尺 度 からな る： １）“自分 や他人 が 気に な る悩 み”， ２）

大久 保 ：対 人 恐 怖 心 性 と養 育 体験 の関 係 性 につ い て      193 “ 集 団 に 溶 け 込 め な い 悩 み≒  ３ ）“ 社 会 的 場 面 で 当 惑 す る 悩 み ≒  ４ ）“ 目 が 気 に な る 悩 み ≒ ５ ）“ 自 分 を 統 制 で き な い 悩 み ≒ そ し て ６ ）“ 生 き る こ と に 疲 れ て い る 悩 み ≒ 各 下 位 尺 度 は ５ 項 目 か ら な り ， 全 体 で30 項 目 で あ る 。“ 全 然 当 て は ま ら な い （ ０ ）” か ら “ 非 常 に あ て は ま る （ ６ ）” の ７ 件 法 で 回 答 を 求 め る 。 こ れ ら 各 項 目 の 合 計 得 点 が 高 い ほ ど そ の 悩 み が 大 き い こ と を 示 す 。 信 頼 性 と 妥 当 性 に つ い て は 堀 井 ・ 小 川(1996, 1997) が 検 討 結 果 を 報 告 し て い る 。 堀 井 ・ 小 川 に よ る と ， 中 学 生 ， 高 校 生 ， 大 学 生 を 含 む932 名 に 関 す る デ ー タ に も と づ き ， 下 位 尺 度 ご と に α 係 数 を 求 め0.8 程 度 の 値 が 得 ら れ た 。 ま た ， 高 校 生78 名 を 対 象 と し ，10 週 間 の 期 間 を お き 再 検 査 を 行 っ た と こ ろ 信 頼 性 係 数 は 全 体 尺 度 で0.94 と 高 い 値 を 示 し て い た 。 妥 当 性 に つ い て は 大 学 生 を サ ン プ ル と し て 内 的 崩 壊 感 尺 度 ， 自 己 意 識 尺 度 （ 公 的 自 己 意 識 ， 私 的 自 己 意 識 ） な ら び に Ｙ-Ｇ 性 格 検 査 と の 相 関 を 検 討 し た と こ ろ ， 予 測 ど お り の 結 果 が 得 ら れ ， 妥 当 性 も 高 い も の と 考 え ら れ た 。

親 子 関 係:Parental Bonding Instrument （ＰＢＩ : Parker, Tupling, & Brown, 1979) の 日 本 語 版 （ 北 村, 1998) を 用 い た 。 こ の 尺 度 は 親 子 関 係 の 指 標 を 表 す も の で ，16 歳 以 前 の 幼 少 期 に お け る 両 親 の 養 育 行 動 を そ れ ぞ れ の 親 に つ い て 回 顧 的 に 回 答 さ せ る も の で あ る 。 ヶ ア (care) と 過 保 護(overprotection) の 二 次 元 で 評 価 さ れ ， ヶ ア(care) 尺 度 （12 項 目 ） と 過 保 護(overprotection) 尺 度 （13 項 目 ） の 全25 項 目 か ら な る 。“ 全 く 該 当 し な い （ Ｏ ）” か ら “ 該 当 す る Ｏ ）” の ４ 件 法 で 回 答 を 求 め た 。 ヶ ア の 得 点 範 囲 はO ∼36 点 で 点 数 が 高 い ほ ど 親 の 用 語 や 愛 情 を た く さ ん 感 じ て お り ， 低 い ほ ど 無 関 心 ま た は 拒 絶 的 で あ っ た と 感 じ て い る こ と を 示 す 。 過 保 護 の 得 点 範 囲 は0 ∼39 点 て 点 数 が 高 い ほ ど 親 が 支 配 的 ， 干 渉 的 な 態 度 だ と 感 じ て お り ， 点 数 が 低 い ほ ど 親 が 自 立 性 を 尊 重 し て い た と 感 じ た こ と を 示 す 。 信 頼 性 に つ い て は ， 再 試 験 法 で も 折 半 法 で も非 常 に 優 良 な 結 果 が 得 ら れ て い る(Paker, 1979) 。 妥 当 性 に つ い て は ， 面 接 者 の 評 価 と の 併 存 妥 当 性 が 確 立 さ れ て い る(Paker, 1979) 。 ま た ， 第 ３ 者 の 直 接 観 察 と 相 関 す る こ と が 確 認 さ れ ， 実 際 の 養 育 態 度 を も 反 映 し て い る と 考 え ら れ て い る(Paker, 1981) 。 実 施手続 き 大学に おける講義時 間の一部を 用い，質 問紙への 回答を依頼 し， 一斉配布 ，教示， 回答，な らびに回 収を 行っ た。 教示におい て，質問 紙への回答 は義務で はない点， 回答を拒否 し，ない し回答中 に中止で きること， また回答を行 わなか った場合で も， 調査対象 者に不利益 がない点 などを口 頭で説明し た。 同じ内容 の説明は質 問紙のフ ェイスシ ート にも記入 した。

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結 果

Parental Bonding Instrument （PBI ） 得 点 と 対 人 恐 怖 心 性 尺 度 得 点

表 １ に, PBI と 対 人 恐 怖 心 性 尺 度 の 得 点 を 性 別 に 示 し た 。 本 研 究 結 果 と 先 行 研 究 結 果 の 比 較 を 行 っ た 。 対 人 恐 怖 心 性 尺 度 につ い て は ， 堀井 ・ 小 川(1996) の 標 準 化 にお け る 大 学 生 の ノ ル ムを 用 い, PBI に つ い て は 古 川(1993) の 青 年 期 の デ ー タ を 用 い た 。 平 均 値 の差 に つ い て は ， 各 論 文 で 提 示 さ れ た 平 均 値 と 標 準 偏 差 を 用 い て 冫検 定 を 行 っ た （ 表 １ ）。 対 人 恐 怖 心 性 に 関 し て は， す べ て の 下 位 尺 度 に お い て ， 本 研 究 の対 象 者 の方 が 標 準 化 群 に 比 べ， 対 人 恐 怖 的 傾 向 が 有 意 に 高 い と 考 え ら れ た 。 ＰＢＩに つ い て は ， 男 女 と も， 父 親 に つ い て も 母 親 につ い て も， ヶ ア 得 点 が 有 意 に 低 く ， 過 干 渉 得 点 が 有 意 に 高 い 傾 向 を 示 し た。 ま た ， 性 差 に 関 し て 統 計 的 検 定 を 行 っ た と こ ろ ，“ 目 が 気 に な る 悩 み ” は 男 性 の ほ う が 女 性 よ り 強 い こ と が 見 出 さ れ たU (193) = 2.021, P く｡05）。 そ の 他 の下 位 尺 度 に つ い て 有 意 な 性 差 は 見 い だ さ れ な か っ た （ μ ＞｡05）。

表 １． 対 人恐 怖症 心性 尺度 とParental Bonding Instrument （PBI ） の 男女 別平均 値 と性 差の 検定 平均 標準偏差 との差  平均 標準偏差 との差 性 差 尺 度   下 位 尺 度 1. 自 分 や 他 人 が 気 に な る 悩 み 2. 集 団 に 溶 け 込 め な い 悩 み 3. 社 会 的 場 面 で 対 人 恐 怖  当 惑 す る 悩 み 心 性 尺 度4. 囗 が 気 に な る 悩 み 5. 自 分 を 統 制 で き な い 悩 み 6. 生 き る こ と に 疲 れ て い る 悩 み 父 親 の ヶ ア PBI   父 親 の 過 干 渉 母 親 の ヶ ア 15.78 16.93 14.78 16.06 15.37 -20.08 12.63 25.18 13.50 7｡90 ** 8｡00 ＊＊ 8｡30 ＊＊ 7｡51 ** 7｡31 ** 7.64 5.98 6.05 7.04 15.39 16.18 12.44 15.17 14.22 -23.08 13.00 27.40 13.25 6｡91 ** 7｡42 ** 7｡72 ** 6｡08 ＊＊ 7｡27 ** １ ︷000 4 ︷ Ｏ ｎ Ｏ ｑ ｙ ７ ︷ Ｏ ｇ ｖ ︵ ０ n.s. n.s. ＊ n.s. n.s. -＊＊ n.s. ＊ ＰＢＩに よ る 養 育 態 度 で は ， 女 性 の方 が 両 親 の ヶ ア ， つ ま り 養 護 や 愛 情 を よ り強 く 感 じ て い る こ と が 見 出 さ れ た （ 父 の ケ ア, ((190) =2.729, p<｡01 ； 母 の ケ ア, jf (192) =2.336, p<｡05 ）。 干 渉 に つ い て は， 性 差 は見 い だ さ れ な か っ た。 PBI と 対 人 恐 怖 心 性 尺 度 の 関 係 に つ い て 表 ２にＰＢＩと 対 人 恐 怖 心 性 尺 度 の各 下 位 尺 度 間 の 相 関 係 数 を 示 し た 。 男 女 と も に 対 人 恐 怖 心 性 尺 度 の下 位 尺 度 は， 相 互 に 有 意 な 相 関 を 示 し て い る。 ＰＢＩの下 位 尺 度 得 点 は， 男 女 で 類 似 し た パ タ ー ンを 示 し て い る。 ケ ア と 過 保 護 得 点 の 間 は ど の 組 み合 わ せ も負 の相 関 を 示 し ， ケ ア 間

尺度

大久 保 ：対 人 恐 怖 心 性 と養 育 体験 の関 係 性 につ い て

表 ２． 対 人恐 怖症 心性 尺度とParental Bonding Instrument （PBI ）の 各下 位 尺度間 の相 関係 数（ 行列 の 右上が 女性 、左 下が 男性 ） 195 対 人恐怖 心 性尺度 PBI 4｡目 5.自 悩 み 分を統 制 ＊  ＊  ＊  ＊ Ｇ  恥  μ  叺 79 66 44 54 ″  ″  ″  ″  ″ ｎ ３  ０  Ｑ ″ ｑ Ｑ  ｒ Ｄ り Ｑ  ？ ０  ０  ？ｎ ︶ り ￡ ６  ７  ７  ５  ６ 皿 み で み る  で Ｌ こ い 父 親 の過 保 護 母 親 のヶ ア 254* .189 186 .291** .611** . 716** 764** 578** 170 . 309** ＊   ＊   ＊   ＊   ＊ ＊   ＊   ＊   ＊   ＊ ９ り   Ｏ   ｎ ｊ   Ｏ   Ｑ ｕ Ｑ ″ Ｏ   ｎ ｊ   ７   ７ ４   ｒ Ｏ   ｎ ｊ   ４   ｒ Ｑ ＊   ＊   ＊   ＊ ＊   ＊   ＊   ＊ ４   ７   ｎ ３   り 乙 り 言   β ｎ り   ４   ０ ｒ Ｄ   ４   ｒ Ｄ   ｒ ｀ り ＊   ＊   ＊       ＊ ＊   ＊   ＊       ＊ Ｏ   Ｑ ︶ り 乙     ｎ Ｑ Ｑ ︶ り 乙   Ｑ ｕ     ｎ Ｑ ｒ Ｄ   β ０   β ｈｖ     ４ 260* .252# 241 ＊ ･.189 -.01 ･. 269** -.231# -.212* ・301** ･.313** 295** -.512** .249* .318** .162 293** .078 205* 244** - 201* 229* -.260** 345 ＊＊-.353 ＊＊ 508** 462** 258** .176 .119 607** 623** *＊，β< .01 ； ＊. ρ く.05 と過保護 得点 間は どの組み合 わせ も正 の相 関を示 し た。 次に, PBI 得点を 説明変 数とし， 対人恐 怖心性尺 度の各下 位尺度を 目標変数 にし た重回帰分 析を行 った（ 表 ３）。平均 値 において， 無視 し得な い性差 が認め られた ので，男 女別 に重回 帰 分析を 行った。 男性 の場合，“自分や他人 が気 にな る悩 み” は，父 親の ケアと負 の関係 が，母 親の過干 渉 と正 の関 係が みられ，“集団 に溶 け込めな い悩 み” ど 目が気 にな る悩 み” は母親 の過干渉 が正 の影響を およぼ したといえ る。 全般 に， 他者を気 にする傾向 やそのこ とにより集 団に溶け込 めない傾向 に母親の過干 渉が影 響を 及ぼして いるようで ある。 他方， 女性 の場合，“集 団に溶 け込 めない 悩 み” は父 親 と母親 のケア とそ れぞれ負 の関係 に あり，“社 会的場面 で当 惑する 悩み” ど 自 分を統 制できな い悩 み” は父 親の ケアと 負の関係 にあ った。 また，“生き ること に疲 れている 悩み” は， 母 親のケ アと負 の関係 にあっ た。 女性 の場合は， 母親の ケアが弱いこ とが対人恐怖心 性の表 れに影響して いるといえ よう。

表3. Parental Bonding Instrument （PBI ）の 各下 位尺 度を 説明 変数 とし， 対 人恐 怖症 心 性尺 度の各 下 位尺度 を目 的変 数と し た重回 帰 分析 の結果 気 に な る 悩 み 悩 み 当 惑 す る悩 み 父 親 の ケ ア 父 親 の 過 保護 母 親 の ケ ア 母 親 の 過保 護 .352 .024 .184 .380 ＊＊ n.s. n.s. ＊＊ .095 n.s. .104 n.s. .131 n.s. .004 n.s. .076 n.s. .038 n.s. .079 n.s. .288 * -.199 * -.130 n.s. -.232 * .172 n.s. -.141 n.s. -.096 n.s. -.132 n.s. .251 n.s. -.225 ** -.160 n.s. -.125 n.s. .119 n.s. 説 明 変 数 父 親 の ケ ア   ー 父 親 の 過保 護 母 親 の ケ ア 母 親 の 過 保護 決 定 係 数 -ｎ.ｓ･･ no signfi 男 性 -.191 n.s. .023 n.s. .071 n.s. .348 ** -.160 * 女性    男 性 .123 n.s. -.063 n.s. .213 n.s. .178 n.s. .141 n.s. -.129 n.s. .158 n.s. -.070 n.s. .092 n.s. .070 n.s. cant; *, p<. 05; **, ρ<.01 悩 み 女 性 -.232 ** .068 n.s. .189 n.s. .053 n.s. -.132 * い る 悩 み 男 性 一 一210 n.s. .115 n.s. -.074 n.s. .069 n.s. -.133 * 女 性 一 一.157 n.s. .193 n.s. -.230 ** -.044 n.s. -.186 **

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考 察

対 象 大 学 生 の 対 人 恐 怖 心 性 と 養 育 体 験 に つ い て 本 研 究 に お け る 対 象 者 の 尺 度 得 点 を ， 先 行 研 究 に お け る 結 果 と 比 較 し た 。 こ れ ら の 先 行 研 究 結 果 が ， 現 代 の 大 学 生 の 得 点 の 比 較 対 象 と し て 適 切 で あ る か ど う か 判 断 が 困 難 で あ る が ， 本 研 究 の 対 象 者 は 対 人 恐 怖 心 性 が 有 意 に 高 く ， ケ ア の 少 な い ， 過 保 護 の 強 い 養 育 体 験 ， つ ま り “affectionless control ” の 傾 向 が 強 い と い え る 。 こ の 傾 向 は ， 本 研 究 の 対 象 者 に つ い て の み い え る の か ， 現 代 の 大 学 生 の 共 通 傾 向 で あ る の か は ， 今 後 の よ り 広 範 囲 の 研 究 が 望 ま れ る 。 対 人 恐 怖 心 性 の 性 差 は ，“ 視 線 恐 怖 ” に 関 す る 尺 度 で 男 性 の 方 が 高 い 傾 向 が 見 ら れ た が ， 他 の 因 子 で は 性 差 は み ら れ な か っ た 。 対 人 恐 怖 症 傾 向 は ， 一 般 的 に 男 性 の 方 が 強 い と さ れ て い る が ， 本 研 究 で ぱ 視 線 恐 怖 ” に 関 し て の み そ の 傾 向 が 見 ら れ た 。 こ の 傾 向 は ， 堀 井 ・ 小 川 (1996) の 標 準 化 デ ー タ に お い て も み ら れ た 。 し た が っ て ， 対 人 恐 怖 心 性 の 男 女 差 は な く な り つ つ あ る と 考 え ら れ る 。 養 育 経 験 に つ い て は ， す べ て の 尺 度 で 女 性 の 方 が 強 く 感 じ て い る 。 つ ま り ， 女 性 は 男 性 よ り 両 親 の ケ ア を 強 く 感 じ て お り ， ま た 過 保 護 傾 向 も 強 く 感 じ て い る と い え る 。 男 女 と も に ， ケ ア と 過 保 護 は 負 の 相 関 を 示 し た 。 つ ま り ， ケ ア を 感 じ て い る ほ ど 過 保 護 は 弱 い と 感 じ て い る 。 ま た ， 父 の ケ ア を 強 く 感 じ て い る も の は 母 の ケ ア も 強 く 感 じ ， 父 の 過 保 護 を 感 じ て い る も の は 母 に つ い て も 同 様 に 感 じ て い る と い え る 。 つ ま り, PBI に よ っ て 測 ら れ た 親 の 養 育 態 度 は ， “affectionless control ” や“optimal bonding ” に 偏 る 傾 向 か お り ，“affectionate constraint ” や “neglectful parenting ” に 傾 く 傾 向 は 低 い の か も し れ な い 。 こ の 点 に つ い て は ， よ り 多 数 の デ ー タ を 集 め る こ と に よ り 確 認 す る こ と が 望 ま れ る 。 対 人 恐 怖 心 性 尺 度 の 各 下 位 尺 度 に つ い て 対 人 恐 怖 心 性 に お よ ぼ す 養 育 体 験 の 影 響 につ い て 考 察 す る 前 に， 対 人 恐 怖 心 性 尺 度 の 各 下 位 尺 度 に つ い て 検 討 し たい 。 １ ）“ 自 分 や 他 人 が 気 に な る 悩 み ” は 他 者 か ら の 評 価 に 対 す る 不 安 で あ る と と も に，“ 項 目13. 自 分 が 相 手 の 人 に イ ヤな 感 じ を 与 え て い る よ う に 思 っ て し ま う ” とい う 他 者 影 響 型 の 症 状 で 日 本 的 な “対 人 恐 怖 症 ” な い じ 確 信 型 対 人 恐 怖 ” の 典 型 的 な 症 状 で も あ る。 ２）“集 団 に 溶 け 込 め な い 悩 み ” は ， な ん ら か の 問 題 （ お そ ら く 対 人 恐 怖 の 中心 症 状 ） が あ るこ と に よ っ て生 じ る 反 応 と し て の 社 会 的 参 加 の 問 題 で あ り ， 社 会 恐 怖 な い じ 緊 張 型 対 人 恐 怖 ” ど 確 信 型 対 人 恐 怖 ” に 共 通 す る 社 会 回 避 症 状 と で もい う もの で あ る 。 ３）“社 会 的 場 面 で 当 惑 す る 悩 み ” もな ん ら か の問 題 か お る こ と に よ っ て 生 じ る 反 応 と し て の社 会 的 参 加 の 問 題 で あ り ，“ 緊 張 型 対 人 恐 怖 ” ど 確 信 型 対 人 恐 怖 ” に共 通 し た も の で あ る。 た だ し ， 社 会 関 係 の 回 避 と ま で は 行 か な い が， 社 会 的場 面 で の悩 み と そ こ か ら の 消 極 的 な 逃 避 と し て の 症 状 で あ る と 考 え ら れ る。 ４）“ 目 が 気 に な る 悩 み ” は， 自 他 の 視 線 へ の と ら わ れを し め し ，

大久 保 ：対 人 恐 怖 心 性 と養 育 体験 の関 係 性 につ い て      197 他 者 影 響 型 の 症 状 に つ な が り や す く ，“ 確 信 型 対 人 恐 怖 ” に 多 い 症 状 と い え よ う 。 ５ ）“ 自 分 を 統 制 で き な い 悩 み ” に つ い て ， 堀 井 ・ 小 川(1996) は ，“非 現 実 的 な 自 己 認 知 よ り 生 ず る 自 己 愛 的 万 能 感 の 裏 返 し の 表 現 で あ る と 考 え ら れ る ” と 述 べ て い る が ， 項 目 の 内 容 か ら す る と ， 無 力 感 の 表 現 と も 受 け 取 る こ と が で き る 。 こ れ は ， ス ト レ ス や 抑 う つ か ら 生 ず る “精 神 的 な 疲 弊 反 応 ” と 理 解 で き る 。 最 後 に ， ６ ）“生 き る こ と に 疲 れ て い る 悩 み ” に つ い て も 抑 う つ 的 な い し 精 神 的 な 疲 弊 反 応 と 受 け 取 る こ と が で き る 。 し た が っ て ， 対 人 恐 怖 心 性 尺 度 の 各 下 位 尺 度 は ， 統 計 的 に は ６ つ の 互 い に 独 立 な 尺 度 と い え る が ， そ の 意 味 内 容 か ら 次 の ３ 種 に 分 類 す る こ と が で き る ａ ） 確 信 型 症 状 ： “ 自 分 や 他 人 が 気 に な る 悩 み ” ど 目 が 気 に な る 悩 み ” か ら な り ， 確 信 型 対 人 恐 怖 症 の 特 徴 を 示 す も の と い え る 。 ｂ ） 社 会 回 避 症 状 ： “ 集 団 に 溶 け 込 め な い 悩 み ” ど 社 会 的 場 面 で 当 惑 す る 悩 み ” か ら な り ， 社 会 的 関 係 を 回 避 ／ 逃 避 す る 傾 向 を 示 す 。 確 信 型 対 人 恐 怖 症 や 緊 張 型 対 人 恐 怖 症 に 共 通 す る 。 ｃ ） 精 神 的 疲 弊 症 状 ： “ 自 分 を 統 制 で き な い 悩 み ” ど 生 き る こ と に 疲 れ て い る 悩 み ” か ら な り ， 広 く 精 神 的 な 問 題 に 共 通 す る 精 神 的 な 疲 労 感 に 関 す る も の で あ る 。 対 人 恐 怖 心 性 に お よ ぼ す 養 育 体 験 の 影 響 に つ い て 男 性 の 対 人 恐 怖 心 性 で は ，“ 自 分 や他 人 が 気 に な る 悩 み” ど 目 が 気 に な る 悩 み ” と い う 確 信 型 症 状 に対 し て ， 母 の 過 保 護 が 有 意 な 影 響 を お よ ぼ し て い る と い え る 。 他 方 ， 女 性 の 場 合 で は 社 会 回 避 症 状 と 精 神 的 疲 弊 症 状 に 対 し て ， 両 親 の ケ ア の 欠 如 が 有 意 な 影 響 を お よぼ し て い る と い え る 。 特 に ， 父 親 の ケ ア が大 き な 影 響 を 示 し て い る 。 つ ま り， 父 の ケ ア を 受 けな か っ た と 感 じ て い る と 社 会 回避 症 状 や 精 神 的 疲 弊 症 状 が 強 く な る と い え る。 以 上 の 結 果 か ら， 次 の ３点 が 考 察 さ れ る。 １ ． 両 親 の 影 響 力 に つ い て ： 女 性 の 場 合 は 父 親 と の 被 養 育 経 験 が ， 男 性 の 場 合 は 母 親 と の 被 養育 経 験 が， 対 人 恐 怖 心 性 を 形 成 す る のに 重 要 な 役 割を 果 た し て い る と い え る。 ２． 症状 に つい て ： 確 信 型 症状 が 過 保 護， 社 会 回避 症 状 や精 神 的 疲 弊 症 状 がケ ア の欠 如 によ っ て よ り 強 く な る ので は な い か と考 え ら れ る。 こ の結 果 は ， 山 下(1977) の 研 究 に お い て 確 信 型 対 人 恐 怖 症 者 の 家 族 環 境 が 比 較 的 厚 い も の で あ り ， 朝 倉(2004) の 研 究 お け る 社 会恐 怖 傾 向 の あ る 者 の 養育 体 験 が ケ ア に か け る と し た結 果 に 準 ず る と 言 え よ う。 し た が っ て ， 対 人 恐 怖 （ な い し 社 会 恐 怖 ） の 症 状 や 種 類 によ っ て 養 育 態 度 の 影 響 の あ り 方 が異 な る と 言 え よ う。 ３． 養 育 態 度 の パ タ ー ンに つ い て ： う つ 病， 不 安 障 害 に お い て は ， 全 般 に ケ ア が少 な く 過 保 護 が 強 い “affectionless control” 型 の養 育 態 度 が多 い と い わ れ て い る （ 古 川, 1993) 。 本 研 究 で は ， 男 女 で こ と な る が ， 親 の 過 保 護 （ 主 に 確 信 型 症状 に た い し て ） や 両 親 の ケ ア の 不 足 （ 主 に 社 会 回 避 症 状 や 精 神 的 疲 弊 症 状 に対 し て） が 重 要 な 役 割 を 果 た し て い と 言 え る。 し た が っ て， 対 象 者 全 体 を 見 る と， ケ ア が 少 な く 過 保 護 が 強 い “affectionless control” 型 の 養 育 態 度 に よ

198      帝塚山大学心理学部紀要2012年 第１号 り， 対人 恐怖心 性症状全 般が重くな ると考え られ， 従来の 研究結果 に準ずる ものと言 えよう。 以 上 ３点 について考察 された が， 性別に よって養育態 度の影響 パター ンが異なる が， 本研究 の場 合，男女 に分け ると対象者数 が十分でな く，交絡 要因の検討 も十分な ものではな かった。 したがって， 対象者数を 増やした上 で， より詳 しく，系統 的な分析を 行うこ とが望 まれる。 本研究で は対人 恐怖症状 の評価 に対人恐怖心 性尺度を用 いた が， その他 の測度につい ても検 討 する必要 かおる。 また， 今後， 本研究の ような アナロ グ研究 のみではな く， 臨床群 に対する 検討 も望 まれる。 文  献 朝 倉 聡 （2004 ）. 社 会 恐 怖 （ 社 会 不 安 障 害 ） 患 者 の 人 格 特 性 ， 養 育 環 境 お よ び 臨 床 症 状 評 価 尺 度 に 関 す る 検 討 北 海 道 医 誌, 79, 155-166. 堀 井 俊 章 ・ 小 川 康 之(1996). 対 人 恐 怖 心 性 尺 度 の 作 成  上 智 大 学 心 理 学 年 報 ，20 ，55-65. 堀 井 俊 章 ・ 小 川 康 之(1997). 対 人 恐 怖 心 性 尺 度 の 作 成 （ 続 報 ） 上 智 大 学 心 理 学 年 報, 21, 43-51.

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大久 保 ：対 人 恐 怖 心 性 と養 育 体験 の関 係 性 につ い て 199

Relationship between Parenting Style and Anthrophobic

Tendency in University Students

Junichiro Okubo

Abstract

Objective : The purpose of the present study is to determine the association of parenting style and Anthrophobic Tendency ( Ａ Ｔ: or social phobic tendency) in university students.

Method : One hundred and ninety-five students were completed ａ questionnaire comprised of the parental bonding instrument (PBI: Parker, Tupling, & Btown, 1979) and Anthrophobic Tendency Scale (Horii and Ogawa, 1996)･

Results and conclusion : There were significant gender difference regarding to relationship between AT and parenting style. In male sutudents, maternal overprotection and care related to the AT. In female

student, father's care resulted related to the in higher level of AT. ０ｎ the other hand, analysis about more detailed symptoms revealed that symptoms of convinced type related to overprotection, and symptoms

of social avoidance and mental ｅχhaustion (nervous type symptoms) related to care. These findings are consistent with previous studies.