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急性曝露ガイドライン濃度 (AEGL)
Arsine (7784-42-1) Table AEGL 設定値 Arsine 7784-42-1 (Final) ppm10 min 30 min 60 min 4 hr 8 hr
AEGL 1 NR NR NR NR NR
AEGL 2 0.3 0.21 0.17 0.04 0.02
AEGL 3 0.91 0.63 0.5 0.13 0.06
NR: AEGL 2 の値が臭気閾値を下回っているため 濃度の設定は推奨されない (Not Recommended)
設定根拠(要約): アルシンは無色の気体で、半導体産業で使用される他、ヒ素化合物が関わる採掘工程や製 造工程において、またヒ素化合物を含有する塗料・除草剤中でも使用される。 アルシンは極めて毒性が強く、強力な溶血作用を示す。最悪の場合は、腎不全による死亡 をきたす。ヒトの症例報告は多数あるが、これらの報告には、明確な曝露量データが含ま れていない。ただし、これらの症例報告によって、ヒトにおけるアルシンの極めて強い毒 性と、この毒性作用に関わる潜伏期間については確認することができる。 アルシンのAEGL値の導出には、動物を用いた試験で得られた曝露-反応データを用いた。 曝露データの揃っている動物実験のデータから導出されたAEGL値は、ヒトにおける限られ た事例報告的なデータから推定されたAEGL値よりも、科学的に妥当性が高い。ヒトに関し ては曝露データが揃っておらず、多義的に解釈できるデータも多い。また、極めて毒性が 強く、曝露されてから死亡に至るまでに潜伏期間があることも報告されている。これらの ことから、動物のデータを用いて、より慎重を期したAEGL値を導出することが適切と考え られる。指数式(Cn × t = k、ここで、C = 曝露濃度、t = 曝露時間、k = 定数)を用い、動 物実験における曝露時間に基づいて、AEGLの各曝露時間(10分間、30分間、1時間、4時間、 8時間)の値に、スケーリングを行った。アルシンでは、指数nの値を経験的に導出できる データは得られなかった。全身に作用する刺激性の蒸気やガスの多くは、曝露濃度-曝露時 間関係をCn
2 1986)。経験的に導出された指数がないため、短い曝露時間に外挿する場合はn = 3、長い 曝露時間に外挿する場合はn = 1とし、Cn × t = kの式を用いて時間スケーリングを行い、慎重 を期した保護的なAEGL値を導出した。 得られたデータに基づくと、アルシンのAEGL-1値を導出することは、適切でないと判断さ れた。アルシンによって引き起こされる一連の毒性には、AEGL-1の定義に整合する影響が 含まれていないと思われる。ヒトや動物に関して得られたデータは、毒性の徴候がほとん どみられないか、またはまったくみられない曝露量と、死亡がみられる曝露量との差がほ とんどないことを示している。アルシンの毒性(腎不全や死亡を引き起こす溶血)のメカ ニズムと、臭気検知濃度(0.5 ppm)以下の濃度でヒトや動物における毒性が報告されてい ることも、上述の判断が妥当であることを裏付けている。分析の検出限界値(0.01~0.05 ppm)をAEGL-1値の導出の根拠として用いることも考えられたが、AEGL-1の定義にはそぐ わないと判断された。 AEGL-2値の導出は、アルシンに1時間暴露したマウスにおいて血液学的パラメータに有意 な変化がみられなかった曝露濃度に基づいた(Peterson and Bhattacharyya 1985)。アルシン によって引き起こされる溶血に対する感受性の種差が確認できていないため、種間変動に 関しては、不確実係数10を適用した。溶血反応の程度と感受性は、ほとんどの個体で同様 であると予想されるため、種内変動に関しては、小さめな不確実係数3を適用した。これは、 生理学的パラメータ(吸収・分布・代謝、赤血球の構造とアルシンに対する反応、腎臓の 反応など)は同一種における個体差が大きくなく、アルシンに対する反応の重篤度が1桁の 範囲で変化する程度であるという想定に基づいている。一方、個体内変動(赤血球の構造 や機能の変動、溶血に対する腎臓の反応の変動)は、アルシンの毒性について提示されて いるどのような細胞内メカニズムにも、重大な影響を及ぼさないと予想される。動物のデ ータから得られた急勾配の曝露量-反応曲線も、反応のバラツキが小さいことを示している。 なお、AEGL-2値は、マウスにおいて著しい溶血がみられなかった5 ppmで1時間という曝露 量を用いて導出しており、値をこれ以上小さくすることは妥当ではない。 AEGL-3値の導出は、アルシンに1時間曝露したマウスにおける死亡と溶血のデータに基づ いた(PetersonおよびBhattacharyya 1985)。15 ppmで1時間曝露したマウスには著しい溶血 が認められ、26 ppmで1時間曝露したマウスはすべて死亡している。AEGL-2値を導出した 場合と同じ根拠により、総不確実係数30を適用した。AEGL-3値は、マウスに溶血を引き起 こすが死亡を引き起こさない曝露量に基づいて導出したため、値をこれ以上小さくするこ とは妥当ではない。サルにおける限られたデータを用いて導出したAEGL-3値は、マウスの データに基づいて導出した値の妥当性を裏付けた。ヒトの曝露事例に関するデータには質 的な価値があるが、検証できる明確な曝露期間が含まれておらず、AEGL-3を導出するため
3 の、正当な量的尺度としての有用性は極めて低い。 上述のAEGL-2値を導出した場合と同じ方法で、時間スケーリングを行った。AEGL値に関 する上述の3つの曝露濃度から、軽微な影響が引き起こされる曝露量と、死亡が引き起こさ れる曝露量との差が小さいことが見て取れる。アルシンのAEGL値の導出には慎重を期した 手法が用いられたが、その妥当性は、(1) アルシンが急勾配の曝露量-反応曲線を示し、(2) 極 めて低い濃度で溶血が誘発され、(3) 溶血が進行して生命を脅かす腎不全になる可能性があ ることが確認されていることから裏付けられる。なお、AEGL値はすべて、アルシンの臭気 閾値に近いか、それより小さい値になった。Tableに、導出したAEGL値をまとめて示す。 --- 注:本物質の特性理解のため、参考として国際化学物質安全性カード(ICSC)を添付する。
国際化学物質安全性カード
アルシン
ICSC番号:0222
アルシン
ARSINE
Arsenic trihydride
Hydrogen arsenide
Arsenic hydride
(圧力容器)
AsH
3分子量:77.9
CAS登録番号:7784-42-1
RTECS番号:CG6475000
ICSC番号:0222
国連番号:2188
EC番号:033-006-00-7
災害/
暴露のタイプ
一次災害/
急性症状
予防
応急処置/
消火薬剤
火災
引火性がきわめて高い。爆発性。 裸火禁止、火花禁止、禁煙。 供給源を遮断する。それが不可能 でかつ周辺に危険が及ばなけれ ば、燃え尽きるにまかせる。その他の 場合は、粉末消火薬剤、二酸化 炭素を用いて消火する。爆発
気体/空気の混合気体は爆発性 である。 密閉系、換気、防爆型電気および 照明設備。液状であれば、帯電を 防ぐ(例えばアースを使用)。 摩擦や衝撃を与えない。 火災時:水を噴霧して圧力容器を 冷却する。 安全な場所から消火作業を行う。身体への暴露
あらゆる接触を避ける! いずれの場合も医師に相談! 吸入 腹痛、錯乱、めまい、頭痛、吐き 気、息切れ、嘔吐、脱力感。 症状は遅れて現われることがある (「注」参照)。 換気、局所排気、または呼吸用保 護具。 新鮮な空気、安静。医療機関に 連絡する。 皮膚 液体に触れた場合:凍傷。 保温用手袋、保護衣。 凍傷の場合:多量の水で洗い流 し、衣服は脱がせない。 医療機関に連絡する。 眼 液体に触れた場合:凍傷。 顔面シールド、または呼吸用保護 具と眼用保護具の併用。 数分間多量の水で洗い流し(できれ ばコンタクトレンズをはずして)、医師 に連れて行く。 経口摂取 作業中は飲食、喫煙をしない。漏洩物処理
貯蔵
包装・表示
・危険区域から立ち退く! ・専門家に相談する! ・すべての発火源を取り除く。 ・圧力容器を閉じるか、広く安全な場所に 移す。 ・液状の場合:下水に流してはならない。 ・液体に向けて水を噴射してはならない。 ・この物質を環境中に放出してはならな い。 ・自給式呼吸器付気密化学保護衣。 ・建物内にある場合、耐火設備(条件)。 ・涼しい場所。 ・床面に沿って換気。 ・EU分類 記号 : T+, F+, N R : 12-26-48/20-50/53 S : (1/2-)9-16-28-33-36/37-45-60-61・国連危険物分類(UN Haz Class):2.3 ・国連の副次的危険性による分類(UN Subsidiary Risks):2.1
重要データは次ページ参照
国立医薬品食品衛生研究所
国際化学物質安全性カード
アルシン
ICSC番号:0222
重 要 デ | タ 物理的状態; 外観: 特徴的な臭気のある、無色の圧縮液化ガス。 物理的危険性: この気体は空気より重く、地面あるいは床に沿って移 動することがある。遠距離引火の可能性がある。流 動、撹拌などにより、静電気が発生することがある。 化学的危険性: 加熱、光や湿気の影響により分解して、有毒なヒ素 フュームを生じる。強力な酸化剤と反応し、爆発の危 険をもたらす。衝撃、摩擦、または振動を加えると、 爆発的に分解することがある。 許容濃度: TLV:0.05 ppm (TWA)。ただし、0.005 ppm (TWA) へ の変更を提案中である (ACGIH 2006)。(訳注:詳細は ACGIH の TLVs and BEIs を参照) MAK:IIb (MAK値は設定されていないが、データは公 表されている) (DFG 2006)。
(訳注:詳細は DFG の List of MAK and BAT values を参照) 暴露の経路: 体内への吸収経路:吸入。 吸入の危険性: 容器を開放すると、空気中でこの気体はきわめて急 速に有害濃度に達する。 短期暴露の影響: この液体が急速に気化すると、凍傷を引き起こすこと がある。血液、腎臓に影響を与え、血球破壊、腎不 全を生じることがある。これらの影響は遅れて現われる ことがある。死に至ることがある。医学的な経過観察 が必要である。 長期または反復暴露の影響: 人で発がん性を示す。 物理的性質 ・沸点:-62℃ ・融点:-116℃ ・水への溶解度:20 ml/100 ml(20℃) ・蒸気圧:1043 kPa(20℃) ・相対蒸気密度(空気=1):2.7 ・引火点:引火性ガス ・爆発限界:4.5~78 vol%(空気中) 環境に関する データ ・環境中に放出しないように強く勧告する。 注 ・中毒症状は数時間~数日経過するまで現われない。 ・この物質により中毒を起こした場合は、特別の処置が必要である。指示のもとに適切な手段をとれるようにしておく。 ・圧力容器が漏出しているときは、気体が液状で漏れるのを防ぐため、洩れ口を上にする。 ・ヒ素[ICSC番号 0013]も参照のこと。
Transport Emergency Card(輸送時応急処理カード):TEC(R)-20G2TF NFPA(米国防火協会)コード:H(健康危険性)4;F(燃焼危険性)4;R(反応危険性)2 付加情報