昭和55年12月20日 789
未熟児室 の細菌分布
東京女子医科大学微生物学教室(主 任:吉 岡守正教授) 吉 岡 守 正 須 子 田 キ ヨ 中 野 寿 夫 彌 吉 眞 澄 荒 明 美 奈 子 伊 藤 隆 子 河 野 雅 子 若 井 真 理 子 東京女子医科大学 小児科学教室(主 任:福 山幸夫教授) 横 田 和 子 浦 本 恭 子 (昭和55年6月27日 受付) (昭和55年10月14日受理)Key words: neonatal intensive care unit, bacterial contamination, Pseudomonas, Stophylococcus
I. 緒 言 新 生 児,特 に未 熟 児 は感 染 に対 して抵 抗 性 が 弱 い こ とは よ く知 られ て い る.ま た近 年 の病 院 に お い て新 生 児,未 熟 児 を 一 ヵ所 に集 め集 中管 理 す る こ とに よ り哺 育 お よび 治 療 が 合 理 化 され る反 面, 院 内感 染 の危 険 性 が 増 大 す る こ とは 指 摘 され て い る.ま た 院 内感 染 の原 因菌 と して は ブ ドウ球 菌, 緑 膿 菌 等 が あ げ られ て い る1) 2) 3) 4) 5) 6) 7) 8). わ れ わ れ は本 学 未 熟 児 室 の細 菌学 的 な実 態 を 知 る 目的 で1973年,旧 病 棟 内 に設 置 さ れ て いた 未 熟 児 室 よ り ブ ドウ球 菌,緑 膿-菌,病 原 大 腸-菌の分 離 を試 み,そ の成 績 を 発 表 した9).1979年,新 病 棟 に 新 らた に 設 置 され8ヵ 月 を 経 た 未熟 児 室 を 同様 に 検 査 した の で,そ の 成 績 を 比 較 して 報 告 す る. II. 実 験材 料 お よ び方 法 1. 検 査 対 象:未 熟 児 室 内 で使 用 され て い る設 備,什 器 と して ドア取 手,電 話,記 録 机,処 置 台,水 道 蛇 口,流 し排 水 口,消 毒 槽 お よび哺 育 器 (酸 素 供 給 装 置,加 湿 器,湿 球 温 度 計),浴 槽, た わ し(ス ポ ンジ たわ しを含 む),ミ ル ク,使 用 済 乳 首,使 用 済 栄 養 カテ ーテ ル,さ らに室 内落 下 細 菌 お よび入 院児 の 咽頭,医 師,看 護 婦 らの手 指 を も対 象 と した. 2. 検 査 材 料採 集 方 法:上 記 対象 物 件 の 中 で ド ア取 手,机,流 し排水 口等 は 滅菌 生理 食 塩 水 を 浸 した 滅 菌 綿 棒 で 約10cm四 方 を よ く拭 い 取 り, 1mlの 滅 菌生 理 食塩 水 に浮 遊 させた.哺 育 器 の加 湿 器,湿 球 温 度 計,消 毒槽 等 は器 具 内 の液 を検 査 材 料 と した.乳 首,栄 養 カテ ーテ ル は2∼3mlの 滅 菌生 理 食 塩 水 で表 面 お よび 内面 に 附着 して い る 菌 を洗 い落 し浮 遊 させ 検 査 材 料 と した. 室 内落 下 細 菌 は ハ ー トイ ンフ ユー ジ ョ ン寒 天 平 板 培 地 を空 気 中 に30分 お よび60分 曝 露 させ 検 査 し,成 績 は各 時 間,2枚 の平 板 培 地 の集 落 数 の平 均 値 を とつ た. 手 指 の細 菌 に つ い て は指 頭 を直 接,寒 天 平 板 培 地 に触 れ させ 検 査 し,咽 頭 の 細 菌 は滅 菌 綿 棒 で咽 頭 を拭 い,1mlの 滅 菌 生 理 食 塩 水 に 浮 遊 させ 検 査 材 料 と した. 3. 検 査 方 法: 上 記 の検 査 材 料 に つ い て,特 に 病 原 大 腸菌,黄 色 ブ ドウ球 菌,緑 膿 菌 に つ い て 検 査 した.即 ち検 査 に は選 択 培 地 と して,大 腸 菌 に はBTB寒 天 培 地(栄 研),黄 色 ブ ドウ球 菌 に は マ ンニ ッ ト食 塩 培 地(栄 研),緑 膿 菌 に レまNAC 培 地(栄 研)を 使 用 し,各 検 査 材 料0.1mlず つ を,上 記 寒 天 平 板 培 地 に培 養 し,37℃,20時 間 後,出 現 した コ ロ ニー につ い て病 原 大 腸 菌 は ク リ グ ラ ー培 地(栄 研)お よびSIM培 地(栄 研)に よ り確 認 後,血 清 学 的 に 同定 した.黄 色 ブ ドウ球 菌 は マ ンニ ッ ト食 塩 培 地(栄 研)よ り,コ ア グ ラ
790 感 染 症学 雑 誌 第54巻 第12号 一 ゼ テ ス ト,DNaseテ ス トに よ り 同定 した.緑 膿 菌 につ いて はNAC培 地(栄 研)を 用 い て分 離 し,キ ングAお よぼ キ ン グB培 地(栄 研)に よつ て 色 素 産 生 を 確 か め た.さ らに1979年 の調 査 で は パ イルNo.2培 地(栄 研)に よ り同定 した.同 定 され た各 菌 株 は ハ ー トイ ン フ ユー ジ ョ ン寒 天 培 地 (栄 研)を 使 用 し,昭 和 デ ィス クに よる一 濃 度 デ ィス ク法 に よ り薬 剤 感 受 性 試 験 を 行 なつ た. ※.未 熟 児 室 の状 況:1973年(旧 未 熟 児 室)は 既 設 々備 を改 造 した のみ で 換 気 装 置 は 特 に設 置 さ れ て お らず,必 要 な場 合 は2ヵ 所 の換 気 扇 を使 用 して いた.更 衣 室 も特 に設 置 され ず,部 屋 の一隅 で予 防 衣 を 着 用 し,手 洗 い の後 ,病 室 に入つ てい た.重 症 未 熟児 は 隔離 室 に入 れ て いた が扉 は開 放 さ れ た ま ま と な つ て い た.浴 槽 は 一 人 毎 に 湯 を 入 替 え て 使 用 し,最 後 に 浴 槽 を 消 毒 し て い た.消 毒 剤 は す べ て 塩 化 ベ ン ゼ トニ ウ ム(ハ イ ア ミ ン)を 使 用 し て い た.こ の 未 熟 児 室 の 調 査 の 後,同 年 閉 鎖 さ れ た. 1978年,中 央 病 棟 の 建 築 に 際 し,旧 未 熟 児 室 の 細 菌 学 的 検 査 の 結 果 を 考 慮 し た 設 計 でFig.1の 如 く未 熟 児 室 が 新 設 され た.給 排 気 は 強 制 換 気 と し,送 風 は フ ィ ル タ ー(ケ ン ブ リ ッ ジ ・ア ブ ソル ユ ー ト ・フ ィ ル タ ー:NASA10,000)を 通 した 空 気 を 送 り,入 室 す る 者 は 別 室 の 更 衣 室 で 手 洗 い 後 衣 服 を 替 え て 未 熟 児 室 に 入 る.入 室 後,ナ ー ス ス テ ー シ ョ ンに あ る 専 用 手 洗 い 場 で 再 度 ,ク ロル ヘ キ シ ジ ン(ヒ ビス ク ラ ブ)を 使 用 し手 洗 い の 後 に Fig. 1 The sketch of the neonatal intensive care unit in Tokyo Women's Medical
昭和55年12月20日 791 作 業 す る よ うに義 務 づ け られ て い る.手 洗 い ブ ラ シ,そ の他 のた わ しは 一 度 使 用 した もの は す べ て 消 毒 液 に入 れ,こ れ を ま とめ て 高圧 蒸 気 滅 菌 し再 使 用 す る.新 生 児 の 診 察 お よび 処 置 に あ た つ て は,一 人 毎 に ク ロール ヘ キ シ ジ ン(ヒ ビテ ン)の 消 毒 液 で 手 を 洗 って い る.使 用 頻度 に も よ るが 消 毒 液 は 一 日数 回 以 上 取 り替 え て い る.汚 染 の疑 い が あ る新 生 児 を 取 扱 つ た 場 合 は,そ の都 度,流 水 に て ク ロ ール ヘ キ シ ジ ンを使 用 し前 記 の手 洗 い を 行 つ て い る.浴 槽 は 一 人 毎,別 々の 浴 槽 を使 用 し,す べ て 高 圧 蒸 気 滅 菌 を 行 う.感 染 児 は別 室 に 入 れ 哺 育 す る等 の 感 染 防 止 に 重 点 を置 い た運 営 が な され て い る. 収 容対 象 とな る児 は,新 未 熟 児 室 も旧 未熟 児 室 と同様 に,低 出 生 体 重 児(2,499g以 下)ば か り で な く標 準 体 重 の 成 熟 児 で も,異 常 が あ り集 中 看 護 が 必 要 で あ る時 は 入 院 させ て い る.従 つ て実 態 は 新 生 児 集 中 看 護 室 で あ るが,便 宜 上,未 熟 児室 と呼 ん で い る. III. 実 験 成 績 1. 未 熟 児 室 内 の 落 下 細 菌数:1973年 お よ び 1979年 の ナ ー スス テ ー シ ョ ン,病 室2ヵ 所 に お け る,30分,60分 間 の 落 下 細 菌 数 をTable 1に 示 す.測 定 は 午 後2∼3時,通 常 の 作 業 中 に 実 施 し,作 業 は 中 断 す る こ とな く調 べ た.30分 間 の 落 下 細 菌 数 は ナ ース ス テ ー シ ョ ン,病 室(1),(2) ともに1979年 は1973年 に 比 べ て や や 減 少 して い た.し か し両 年 と も落 下 細 菌 数 は ナ ース ス テ ー シ ョ ンが 病 室 内 のそ れ よ りも多 か った.ま た,い ず れ の場 所 か ら も病 原 大 腸 菌,黄 色 ブ ドウ球 菌 お よ び緑 膿 菌 は検 出 され なか つ た. 2. 未 熟 児 室 内 の施 設,什 器 等 の 検 査成 績: 未 熟児 室 内 で 使 用 され て い る 施 設,什 器 等 の検 査 数 量 お よび検 査 成 績 はTable 2, 3に 示 した.机 (記 録 机 お よび 処 置 台),扉 の取 手,電 話 受 話 器 か らは1973年,1979年 と も 検 査 対 象 と した いず れ の菌 も分 離 され な か つ た.水 道 蛇 口か らは1973 年 の検 査 で最 も頻 繁 に使 用 され て い る蛇 口か ら少 数 の ブ ドウ糖 非 分 解 グ ラ ム陰 性桿 菌 が分 離 され た 以 外 は 大 腸 菌,ブ ドウ球菌,緑 膿 菌 と もに分 離 さ れ なか つ た.流 しにつ いて は各 病 室 に設 置 され て いた 流 しか らは1973年,1979年 と もに菌 は分 離 さ れ なか つ た が,1973年 で は 最 も頻繁 に使 用 され て いた 処 置 室 に あ る流 しが 大 腸 菌,黄 色 ブ ドウ球 菌,緑 膿 菌,ブ ドウ糖 非分 解 グ ラ ム陰性 桿 菌 に よ り汚 染 され て お り,1979年 で も全 て の入 室 者 が手 洗 い をす る流 しが 緑 膿 菌 お よび ブ ドウ糖 非 分 解 グ ラ ム陰 性 桿 菌 に よつ て 濃 厚 に 汚 染 され て い た.流 しで使 用 して い るた わ し(ス ポ ンジた わ し を 含 む)は,1973年 で は最 も汚 染 して い た 流 しで使 用 され て いた も のか らブ ドウ球 菌,緑 膿菌,ブ ドウ 糖 非 分 解 グ ラム陰 性 桿 菌 が 分 離 され た.1979年 で は 一度 使 用 した た わ しは 全 て 滅 菌 した後,再 使 用 して い るた め検 査 しなか つ た.浴 槽 は1973年 に は 使 用 後,消 毒 した も のを 検 査 した た め菌 は分 離 さ れ なか つ た.1979年 では 一 人 ず つ 高圧 蒸気 滅 菌 し た浴 槽 を使 用 し,共 用 す る こ とが な い た め検 査 し て い な い. 哺 育 器 か らは大 腸 菌 お よび 黄 色 ブ ドウ球 菌 は分 離 され なか つ た が,緑 膿 菌 が1973年 に湿 球 温度 計 よ り,1979年 に は加 湿 器(2台)お よび湿 球 温 度
Table 1 Estimation of aerial bacteria in neonatal intensive care unit.
Petri dishes containing heart infusion agar medium (Eiken) were exposed to air for 30 and 60 min., and incubated at 37•Ž. for 24 hours.
792 感 染 症 学 雑 誌 第54巻 第12号
Table 2. Isolation and identification of bacteria isolated from the neonatal intensive care unit .
1) Identified as Acinetobacter. 2) Identified as Staphylococcus aureus.
3) Brushes sterilized in the autoclave were used. 4) Examined after washing by disinfectant.
5) Baby-bath tubs sterilized in the autoclave were used for each baby .
6) Disinfectant used was 0.1% benzethonium chloride (hyamin) in 1973, and 0.02% chlorhexidine gluconate (hibitane) in 1979.
- = negative
, ＋ = 1-100 colonies, ++ = 101-200 colonies, and +++ = 200 colonies.
Table 3 Isolation and identification of bacteria from the incubators and suckling tools in the neonatal intensive care unit.
1) Identified as Acinetobacter. 2) Identified as Staphylococcus aureus
昭 和55年12月20日 793 計(3台)よ り分 離 され た.ま た1973年,1979年 と もに加 湿 器,湿 球 温 度 計,酸 素 洗 浄 び ん よ り多 数 の ブ ド ウ糖 非 分 解 グ ラ ム陰 性 桿 菌 が 分 離 され た.さ らに哺 育 器 操 作 口か らは少 数 なが ら表 皮 ブ ドウ球 菌 が分 離 され た もの が あつ た. ゴ ム乳 首 か ら1973年 に は ブ ドウ糖 非 分 解 グ ラム 陰 性 桿 菌 が,1979年 に は表 皮 ブ ドウ球 菌 が 検 出 さ れ,栄 養 カテ ーテ ル か らは1973年 に は大 腸 菌,ブ ドウ球 菌,緑 膿 菌 お よび ブ ドウ糖 非 分 解 グ ラム陰 性 桿 菌 が検 出 され,1979年 で は黄 色 ブ ドウ球 菌, 緑 膿 菌 お よび ブ ドウ糖 非分 解 グ ラ ム陰 性 桿 菌 が検 出 され た.し か し使 用 前 の ミル ク7ゴ ム乳 首,栄 養 カ テ ー テル か らは 全 く検 出 され な か つ た. 消 毒 液 は1973年 に は 塩 化 ベ ンゼ トニ ウ ム(ハ ィ ア ミ ン)を 使 用 して 居 り7ブ ドウ糖 非 分 解 グ ラ ム 陰 性 桿 菌 が分 離 され た が,1979年 で は ク ロル ヘ キ シ ジ ン(ヒ ビテ ン)を 使 用 して 居 り菌 は 検 出 され なか つ た.大 腸 菌,ブ ドウ球 菌,緑 膿 菌 は 両年 と も に検 出 され なか つ た. 以 上 の ご と く病 原 大 腸 菌 は いず れ の試 料 か らも 検 出 され ず,ブ ドウ球 菌 は流 し,た わ し,栄 養 カ テ ー テ ル よ り,緑 膿 菌 は流 し,哺 育 器 の一 部 お よ び栄 養 カテ ーテ ル か ら分 離 され,栄 養 カ テ ー テル は複 数 の菌 種 に よつ て汚 染 され て いた.ま た 各 物 件 よ り分 離 され た ブ ドウ糖 非 分 解 グ ラ ム陰 性 桿 菌 は 同定 の 結果 ア シネ トバ ク タ ーで あ つ た. 3.再 検 査成 績:第1回 の調 査 の後,1973年 で は 手 洗 い を 厳 重 に し7消 毒 液 を 一 日数 回取 り替 え,流 しを清 潔 にす る等 の処 置 が 取 られ,1979年 で は特 に管 理 方 法 を 変 更 しなか つ た が7両 年 と も 緑 膿 菌 が分 離 され た 物 件 につ いて,約1ヵ 月 お よ び2ヵ 月後 に再 検 査 した.両 年 ともに1ヵ 月後7 2ヵ 月後 に は哺 育 器 か らは菌 が 分 離 され な か つ た が,流 しお よび栄 養 カ テ ー テル か らは 緑 膿 菌 が検 出 され た. 4.医 師,看 護 婦 等 の手 指 細 菌 検 査:医 師7看 護 婦,ヘ ル パ ーの手 指 の細 菌 検 査 成 績 をTable 4 に示 す.検 査 した全 て の手 指 か ら表 皮 ブ ドウ球 菌 が 検 出 され 菌 数 は看 護婦 が最 少 で あつ た.さ らに 手 洗 い消 毒 して も菌 数 は減 らず 手 洗 い が不 充 分 で あ る例 が み られ た. 5.未 熟 児 お よび 看 護 婦 咽 雍 よ りの 菌分 離 成 績 :1973年 に は患 児 の咽 頭 拭 い液 に つ い て緑 膿 菌 の 検 出 の み を行 なつ た.Table 5に 示 す よ うに結 果 は,患 児12名 中4名 が 陽 性 で あつ た.1979年 の検 査 で は患 児 お よび看 護 婦 の咽 頭 拭 い液 に つ い て 緑 膿 菌,ブ ドウ球 菌 お よび 大 腸 菌 の 検 出 を 行 な つ た.結 果 はTable 5に 示 す よ うに 大 腸 菌 は検 出 さ れ ず,ブ ドウ球 菌 は患 児14名 中10名,看 護 婦8名 中2名 か ら分 離 され た が,そ の 中患 児2名 か ら黄 色 ブ ドウ球 菌 が検 出 された 以 外 は表 皮 ブ ドウ球 菌 で あ つ た.緑 膿 菌 は患 児14名 中1名,看 護 婦8名 中2名 よ り検 出 され た. 6.分 離 され た菌 株 の薬 剤 感 受 性 試 験 成 績:分
Table 4 Isolation and identification of bacteria from the fingers of doctors, nurses and helpers working in the neonatal intensive care unit.
Fingers were rubbed on the medium.
794 感 染 症学 雑 誌 第54巻 第12号
Table 5 Certain bacteria isolated from the throats of new born infants and nurses.
1) Identified as Staphylococcus aureus.
離 さ れ た 菌 株 は 昭 和 デ ィ ス ク を 用 い て 薬 剤 感 受 性 試 験 を 行 な つ た.分 離 さ れ た ブ ドウ球 菌 はTable 6に 示 す よ うに1973年 の 検 査 で は 流 し お よ び 栄 養 カ テ ー テ ル か ら分 離 さ れ た 各 菌 株 は い ず れ も ペ ニ シ リ ン,エ リス ロ マ イ シ ン7ロ イ コ マ イ シ ン, カ ナ マ イ シ ン,ス ル フ ァ イ ソ キ サ ゾ ー ル に 耐 性 を 示 す 多 剤 耐 性 株 で あ り,各 菌 株 の 間 に 感 受 性 の 差 は み られ な か つ た.1979年 の 検 査 で は 未 熟 児 咽 頭 お よ び 栄 養 カ テ ー テ ル か ら分 離 さ れ た 各 菌 株 は い ず れ も ペ ニ シ リ ン,ア ミノ ベ ン ジ ル ペ ニ シ リ ン, エ リス ロ マ イ シ ン,ス ル フ ァ イ ソキ サ ゾ ー ル に 耐 性 を 示 し,菌 株 に よ る 感 受 性 の 差 は み ら れ な か つ た.ま た 両 年 の 検 査 成 績 の 間 に は ロ イ コ マ イ シ
Table 6 Senstitvity to antibiotics of the Staphylococcus aureus strains isolated.
The sensitivity was determined by the single disc (Showa yakuhin kako Co.) on the Heart infusion agar medium (Eiken).
- = resistant, + = low sensitlve, ++ = sensltlve, +++ = highly sensitive. ン,カ ナ マ イ シ ン,ゲ ンタマ イ シ ンに 対 す る感 受 性 に 差 が み られ,各 年 度 に は 異 な る菌 株 が定 着 し て い た こ とが示 唆 され た. 緑 膿 菌 に つ い て はTable7に 示 す よ うに,1973 年 で は各 物 件 か ら分 離 され た菌 株 は 同一 の薬 剤 感 受 性 を示 し,患 児4名 よ り分 離 され た 菌 株 の間 に も感 受 性 の差 はみ られ なか つ た.1979年 も 同様 に 各 物 件 か ら分 離 され た 菌 株 はそ れ ぞ れ 同 一 の感 受 性 を 示 した.ま た 各 物 件 毎 に 比 較 した 場 合,カ ナ マ イ シ ン,オ キ シテ トラサ イ ク リンに対 す る感 受 性 に 差 が み られ た が,感 受 性 の 異 な る2株 以上 の 菌 が 存 在 した と判 断 す る程 の著 明 な差 で は な か つ た.さ らに1973年 と1979年 の 間 に も著 る しい感 受 性 の 差 は み られ な か つ た.な お,す べ て の菌 株 は ゲ ンタ マ イ シ ンに感 受 性 で あつ た . IV.考 察 1973年 の検 査 以 前,本 学 未 熟 児 室 では 時 々病 原 大 腸 菌 が 分 離 され る患 児 が あ つ た が,本 調 査 で は 全 く分 離 され な か つ た.本 調 査 以後 も未 熟児 に病
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Table 7 Sensitivity to antibiotics of the Pseudomonas aeruginosa strains isolated.
The sensitivity was determined by the single disc (Showa yakuhin kako Co.) on the heart infusion agar medium (Eiken).
- = resistant, + = low sensltive, ++ = sensltlve, +++ = hlghly sensltlve.
原 大 腸 菌 の保 有 者 は み られ て い な い. 黄 色 ブ ドウ球 菌 は両 年 の調 査 ともに,流 し,栄 養 カ テ ー テ ル か ら分 離 され,い ず れ も ペ ニ シ リ ン7エ リス ロマ イ シ ン,サ ル フ ァ剤 に対 して 多 剤 耐 性 株 で あ つ た.ま た1973年 と1979年 の問 に感 受 性 の差 が み られ た こ とか ら新 未熟 児 室 に は新 らた な菌 株 が持 ち 込 まれ た と考 え られ る.さ らに表 皮 ブ ドウ球 菌 が す べ て の 医 療 従 事 者 の 手 指,一 部 の 未 熟 児,看 護 婦 の 咽 頭 等 か ら分 離 され た.黄 色 ブ ドウ球 菌 の院 内感 染 の例 は数 多 く報 告 され て い る が7小 児 科 領 域 に お け る 危 険 性 に つ いて は,徐 6)7),浅 谷10),大 浦 ら8)が院 内感 染 例,動 態7i薬 剤 感 受 性 等 に つ い て報 告 して い る.本 学 未 熟 児 室 も 多 剤 耐 性 黄 色 ブ ドウ球 菌 が分 離 され て い る こ とか ら黄 色 ブ ドウ球 菌 の伝 播 の危 険 性 は充 分 に存 在 す る と考 え られ る. また緑 膿 菌 に つ い て は1973年71979年 と もに検 査 成 績 に大 差 が な く,流 し,た わ し,哺 育器 の加 湿 器 お よび 湿 球 温 度 計 か ら分 離 され,同 時 に 未熟 児 咽 頭 か ら,1979年 で は 看 護 婦 の 咽 頭 か ら も分 離 され た.分 離 株 の 薬 剤 感 受 性試 験 の 結果 か らは菌 株 の 間 に 著 る しい差 は 認 め られ なか つ た.し か し 1973年 の調 査 以 後,旧 未 熟 児 室 は 閉 鎖 され71978 年 に新 築 病 棟 内 に 開設 され た こ とか ら,1973年 と 1979年 で は 別 の緑 膿 菌 株 が未 熟 児 室 を汚 染 して い た こ とも考 え られ る.未 熟 児 室 に お け る緑 膿 菌 の 汚 染 につ いて,吉 岡 ら4)は 哺 育 器,流 しお よび ス ポ ンジた わ し,Wilson11)は 流 し,蛇 口の消 沫 器 お よび ス ポ ンジ タ ワシ,Sever12)は 加湿 器,Edm-ondsonら13)は ネ ブ ライザ ー,Burdonら14)は 消 毒 液 お よび 容 器 の 汚 染 を 報 告 して い る.こ れ らに 共 通 す る点 は緑 膿 菌 の検 出 され る場 所 は 流 し等 の 湿 潤 な 場所 で あ り,わ れ わ れ の検 査 成 績 で も同 様 で あつ た.ま た1973年 お よび1979年 の検 査 にお い て 検 出箇 所 に 大 差 の な い こ とか ら7種 々の感 染 防 止 対 策 を 施 こ して も緑 膿 菌,ブ ドウ球 菌 の侵 入 は 避 け られ な い と考 え られ る.さ らに 未熟 児 お よび 看 護 婦 の咽 頭 か ら緑 膿 菌 が 分 離 され た こ とは患 児 また は 医療 従 事 者 が未 熟 児 室 へ 菌 を 持 ち こみ7人 か ら人 へ の感 染 を起 こ し,部 屋 に菌 を 定 着 させ, さ らに は 室外 へ も拡 散 させ る可 能 性 を 示 唆 して い る と考 え られ る. また 緑 膿 菌 が分 離 され た多 くの検 体 か ら同時 に 分 離 された ア シネ トバ クタ ーは 緑膿 菌 と同様 に水
796 感 染 症学 雑 誌 第54巻 第12号 中細 菌 で あ る こ とか ら,逆 に ア シ ネ トパ クタ ー の よ うな菌 が検 出 され る場 所 に は緑 膿 菌 も生 存 して い る可 能 性 に留 意 す べ き で あ ろ う. 以 上 の結 果 か ら感 染 防 止 を 充 分 に 配 慮 した新 ら しい設 備 を有 す る施 設 では 空 気 中 の 細 菌 は 減 少 す る もの の,人 為 的 に持 ち こ まれ る と考 え られ る ブ ドウ球 菌,緑 膿 菌 に つ い て は 容 易 に 未熟 児 室 を 汚 染 す る と考 え られ,汚 染 を 完全 に な くす る こ とは 容 易 で な い こ とを示 して い る.こ の こ とか ら感 染 に対 す る抵 抗 性 が特 に低 い 未熟 児 等 を収 容 す る部 屋 で働 く医療 従 事 者 は汚 染 の可 能 性 を認 識 す る と と もに 汚染 が拡 大 しな い よ うに常 に注 意 す る必 要 が あ ろ う.例 えば 新 生 児 を 取 り扱 う場 合 に は 医 療 従 事 者 が 入 室 時 に 手 を 洗 うば か りで な く,新 生 児 か ら新 生 児 へ と医 療 従 事 者 の 手 を経 て 感 染 す る危 険 性 を な くす るた め に は 作 業 中 も頻 回 に手 洗 い を 実 行 す る こ とが 大 切 で あ ろ う. また 本 調 査 で把 握 され た諸 事 実 は病 院 の他 の施 設 に お け る細 菌 汚染 に つ い て も示 唆 す る.と ころ が大 きい もの と考 え る. V.結 語 わ れ わ れ は1973年 お よび1979年 に 本 学 未 熟児 室 の落 下 細 菌,病 原 大 腸 菌,ブ ドウ球 菌 お よび緑 膿 菌 につ いて 調 査 を 行 つ た. 落下 細 菌 は1979年 で は新 築 に よつ て施 設 が充 実 した た め か 明 らか に減 少 した. 病 原 大 腸 菌 は1973年,1979年 とも に分 離 され な か つ た. ブ ドウ球 菌 は流 し,栄 養 カ テ ー テル,す べ て の 医 療 従 事 者 の手 指7-一 部 の 患 児 お よび看 護 婦 の 咽 頭 よ り分 離 され た.多 くは表 皮 ブ ドウ球 菌 で あつ た が,多 剤 耐 性 の黄 色 ブ ドウ球 菌 も分 離 され た . 緑 膿 菌 は1973年,1979年 と もに流 し,一 部 の哺 育器(湿 球 温 度 計,加 湿 器),一 部 の患 児 の 咽 頭 か ら分 離 され た.1979年 には 看 護 婦 の 咽 頭 か ら分 離 され た が 両 年 の間 に菌 の分 布 に 殆 ん ど差 が な か つ た.ま た 薬 剤 感 受 性 に も大 差 が な か つ た . 以 上 の 結 果 か ら充分 に 感染 防止 の 配慮 を行 つ た 未 熟 児 室 に お い て も容 易 に緑 膿 菌,ブ ドウ球 菌 に よる 汚染 を生 じ得 る.医 療 従 事 者 は こ の よ うな細 菌 の 汚 染 を 受 け 外 部 よ り持 込 む か,ま た は新 生 児 か ら新 生 児 へ の菌 の汚 染 の 媒 体 と もな り得 る もの と考 え られ充 分 注意 しな け れ ば な らな い . 本論文 の要 旨は第28回 日本感染症学会東 日本地方会 に おいて発表 した. 文 献 1) 福 見 秀 雄 編: 病 院 内 感 染. 医 学 書 院, 7-10, 1978. 2) 西 村 忠 史 , 高 木 道 生, 小 谷 泰, 北 川 秀 雄, 丸 山 俊 郎, 藤 原 弘 久: 緑 膿 菌 性 敗 血 症 に つ い て. 小 児 科 臨 床, 23: 143-154, 1970 .
3) Thom, A. R., Cole , A. P. and Watrasiewicz, K.: Pseudomonas aeruginosa infection in neonatal nursery, Possibly transmitted by a breast-milk pump. Lancet , I: 560-561, 1970.
4) 吉 岡 一, 丸 山 静 男, 滝 本 昌 俊, 末 広 忠 雄, 河 村 慈: 感 染 防 止 か ら み た 新 生 児, 未 熟 児 の 処 置 一 グ ラ ム 陰 性 桿 菌 に よ る 院 内 感 染 を 中 心 と し て. 小 児 科 臨 床, 24: 1835-1841 , 1971. 5) 仁 志 田 博 司 , 坂 上 正 道: 新 生 児 室 に お け る 院 内 感 染 の 疫 学 と 対 策. 産 婦 人 科 の 世 界, 29: 1115-1121, 1977 . 6) 徐 慶 一 郎: 新 生 児 ブ ド ウ 球 菌 感 染 症 に 関 す る 研 究. 1. 昭 和34年 膿 皮 症 流 行 例 に つ い て. 日 本 伝 染 病 学 会 雑 誌, 35: 717-724 , 1962. 7) 徐 慶 一 郎: 新 生 児 ブ ド ウ球 菌 感 染 症 に 関 す る 研 究. 2. 昭 和36年 勝 炎 の 多 発 に っ い て . 日本 伝 染 病 学 会 雑 誌, 36: 14-21 , 1962. 8) 大 浦 敏 明, 美 濃 真, 竹 内 徹, 天 野 明 美, 春 本 喬, 赤 井 昭, 前 田 宏 明: 未 熟 児 の 感 染 と く に ブ ド ウ 球 菌 感 染 と そ の 対 策 . 小 児 科 診 療, 25: 186-195, 1962 . 9) 吉 岡 守 正, 須 子 田 キ ヨ, 弥 吉 真 澄, 中 野 寿 夫, 森 分 由 紀 子, 荒 明 美 奈 子, 横 田 和 子, 遠 藤 晴 久, 山 本 佳 央, 白 戸 佐 和 子: 未 熟 児 室 の 感 染 予 防 に 対 す る 一 考 察. 東 京 女 子 医 大 雑 誌, 44: 532-538, 1974. 10) 浅 谷 秦 規; 病 院 内 ブ ド ウ 球 菌 感 染 に つ い て , 其 の2. 新 生 児 の ブ ド ウ 球 菌 感 染 に っ い て. 小 児 科 学 雑 誌, 68: 317-324, 1964.
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昭和55年12月20日 797
360, 1966.
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Analytical Examination of Bacteria in a Neonatal Intensive Care Unit Morimasa YOSHIOKA*, Kiyo SUSHIDA*, Hisao NAKANO*, Masumi YAYOSHI*,
Minako ARAAKE*, Takako ITO*, Masako KONO*, Mariko WAKAI*, Kazuko YOKOTA** and Kyoko URAMOTO**
Departments of Microbiology* and Pediatrics**, Tokyo Women's Medical College, Tokyo
Examinations of pathogenic Escherichia coli, Staphylococcus and Pseudomonas from various objects, new-born infants and workers in the neonatal intensive care unit in the college hospital were performed in 1973 and 1979. In 1978 new nursery which equipped the clean air ventilation and pre-room for incoming person was opened in the hospital ward newly constructed and had been used for 8 months until this study.
The results obtained as follows:
1. Pathogenic Excherichia coli was not isolated from any specimen.
2. Staphylococcus aureus was isolated from sink and catheters for nutrition. The isolates showed re-sistance to penicillin, erythromycin, and sulfoisoxasol. Staphylococcus epidermidis was isolated from fingers of all of doctors and nurses working in nursery.
3. Pseudomonas aeruginosa was isolated from sink, catheters for nutrition and thermometer and humidifier of incubators in both examinations, and also from the throats of new-born infants in 1973 and from the throats of new-born infants and nurses in 1979. The isolates showed sensitivity to gentamicin.
4. The results suggest that new-born infants and medical care takers are capable both of recieving and of mediating microbial contaminations, and also new-born infants, nurses and spots retentive of moisture are easily contaminated by Pseudomonas aeruginosa.
