博士論文審査報告書
申請者 Abraham Mesgena Tesfai
論文名 Strategic network, strategic attributes and firm performance: A study on Japanese auto parts supplies
戦略的なネットワーク、属性とパフォーマンス:日本の自動車部品企業を中心に
1 論文概要
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Abraham Mesgena Tesfai論文(以下、Abraham論文)は日本の自動車部品産業を事例 として、戦略的属性が企業パフォーマンスに与える影響を検討するものである。現在日本 の自動車・同部品産業は世界的競争力を有すると同時にグローバリゼーションの波のなか で大きな再編の局面に直面している。それは自動車メーカーと部品メーカーの連関を如何 に再編すべきかに集約される。換言すれば、従来の系列関係を保持すべきか、それともグ ローバル調達のなかで、それに適合した関係に修正すべきか、の選択と解してもよい。
Abraham論文は、特定の系列企業群とそうではない独立企業群に分けて、管理体系のパ
フォーマンスの相違を分析し、その影響と有効性を検討しようというものである。
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Abraham論文の構成は以下の通りである。
第1章 序論 研究背景 問題設定 研究意義
理論的展望の概要 研究手法と研究デザイン 研究範囲の限定
第2章
2.1 日本自動車産業の発展と構造
2.1.1 試験段階(1900年代初期‐1945)
2.1.2. 高度成長段階(1940年代後期‐1975)
2.1.3 成熟段階(1975‐1991)
2.1.4 第四段階:世界的な自動車産業の競争 2.2 日本の自動車産業の構造
2.2.1 日本の自動車部品産業
1. 企業系列 2. 専門化
3. ネットワーキング
第3章
3.1 研究の理論的枠組と仮説
3.1.1 関連/ネットワーク論 3.1.2 取引費用論
3.1.3 資源重視論
3.1.4 産業分析パラダイム
3.2 主要な理論的観点のアライメント
3.2.1 重要課題:企業戦略と企業行動
3.2.2 企業行動と企業レベルの戦略的属性の関連性
3.2.3 仮説
第4章 方法論
4.1 研究焦点 4.2 実証研究
第5章 結果と考察 5.1 結果
5.1.1 戦略的ネットワーク企業行動に与える結果
5.2 考察
第6章 結論と提言
付表 参考文献
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以上が本論分の章別編成であるが、以下本論分の評価を述べることとしたい。
第1章では、これまでの企業戦略と企業行動の連関に関する先行研究を広範な範囲で丹 念に整理しながら、その上でどのようなプロセスで企業は戦略的決定及び行動をおこすに いたるのか、またこのような行動は企業の競争力にどのような影響を及ぼすか、日本にお ける自動車部品産業を例にとってそれを研究することの重要性に言及している。
第2章では、日本における自動車産業の歴史(1900年代-現在)を4段階にわけ、各段 階における日本自動車・同部品産業の特色およびその特色を生み出す要因について先行研 究を総覧している。また、この章で日本自動車産業、特に自動車部品産業界において、国 際的な競争力をつけるためにこれまでにどのような戦略がとられてきたかを考察している。
第3章では、日本自動車部品産業における企業行動の戦略的属性および親会社と関連自 動車部品企業の相互依存について4種類の異なる理論的概念を用いてそれを検討し、かつ 折衷して理論モデルを示唆している。また、著者は企業戦略および企業行動について先行 研究を総覧し、10個の仮説を提唱している。
第4章においては、本論文において用いられるデータおよび解析手法についての論述が 行われている。カバーする範囲は1995年から2004年まで系列系企業と独立系企業を包含 した経営データを基にその相関性の分析を行うとする。
第5章では、先の第3章において提唱された戦略的属性間における関連性について統計 解析を行った結果が示される。また、過去10年間(1995‐2004)のデータについて自動 車産業と関連自動車部品産業間における企業行動基準について相関性についての結果が示 されている。
第6章で、著者は本博士論文の結論を述べている。1つは戦略的属性が日本の自動車部品 企業にとって重要であること、2つには独立系部品企業のほうが、系列系部品企業より企 業パフォーマンスに優位性を持つこと、3つにはしたがって独立系部品企業は、その戦略的 企業属性により多くの投資をすべきである、という点である。最後にこの研究における限 界およびこの研究をもとにした将来的な研究展望について言及している。
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Abraham論文は、企業戦略と企業行動に関する経済・経営学的文献を幅広く渉猟し、そ
の上に立って、日本の自動車部品企業の競争力を統計データで策定し、日本企業の系列系 企業と独立系企業の優位性、不利な点に関して具体的提言をまじえている。著者の文献渉 猟能力は大変高いものがあり、その上にたった研究課題の設定は、高度の学問性を有して いると判断する。そしてその結果として出された結論は国際化の中で選択を迫られている 日本自動車部品企業の方向性を適確に指摘していると考える。しかし、いくつかの点で改 善が求められる。1つはデータのカバー領域である。ここでは1995-2004年が対象 とされたが、これが適切か否かに関しては検討の余地がある。なぜなら2000年以前と
以降では、日本の自動車部品企業を取り巻く環境に大きな違いが出てくるからである。2 つには10個の仮説と実証の間に連関性が欠落していることである。各仮説ごとにそれぞれ それに対応した実証がなされるべきではないか、という点である。3つにはこうした戦略と 企業行動に関し関して、もし1,2のケーススタディが実施されたならば、著者の仮説は いっそう説得力のあるものになったであろう、ということである。
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博士論文審査委員会は2007年5月26日Abraham Mesgena Tesfaiに対し面接試験 を実施した。その結果、文献整理やそのうえにたった研究課題の設定に関しては大変優れ たものがあると認定した。しかし仮説と実証作業の間にやや乖離があるため、その欠陥を 補い結論を充実させるため仮説と実証結果の間に若干の技術的架橋を行うことを条件に、
全審査委員は、本論文を早稲田大学の博士学位論文に値すると判定し学位号を推薦するこ とで一致した。
主査 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授
文学博士(東京都立大学) 小林英夫
副査 早稲田大学大学院商学研究科教授
商学博士(早稲田大学) 寺本義也
副査 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授
Ph.D(コーネル大学) 阿部義章
副査 関東学院大学教授 清响一郎