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ルの変動幅は対ドルで.5% にも満たない下落で済んでいますが これは HKMA が 4 月以降 たびたび香港ドル買い 米ドル売り介入を行っているためです ( 図表 2) この香港ドルについて 足下では一部で 米ドル高 新興国通貨安が大きく進む事態となった場合 アジア通貨危機の際のように香港ドルも売り

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2018/05/25

金融市場調査部 シニアアナリスト

石川 久美子

2018/05/25 1

新興国通貨売りは「脆弱国」がターゲット

4 月後半以降、米長期金利の上昇を背景に、米ドルは多く の通貨に対して上昇しました。ドル円は3月26日に104円 50 銭台まで値を下げたところから切り返し、5 月 21 日には 111円40銭台まで値を伸ばしました。ドルに対して、円よりも 大きく売られているのが新興国通貨です(図表1)。特にアル ゼンチンペソの下げは大きく、年初来では一時 30%超の下 落となりました。4 月下旬からの急落の際、アルゼンチン中 銀は通貨防衛のために政策金利を 27.25%から段階的に 40%へ引き上げましたが、それでもアルゼンチンペソの下落 は止まらず、マクリ大統領は国際通貨基金(IMF)に支援を 求めるに至りました。米ドルの上昇局面でアルゼンチンペソ がひと際売られたのには理由があります。①巨額の経常赤 字であること、そして②高いインフレ率です。基本的に、経常 赤字や高インフレ抑制のためには利上げを行う必要があり ますが、利上げは経済を冷え込ませるため、元々景気の悪 い国にとっては厳しい政策となります。アルゼンチンと同様 に財政赤字が大きく、対外債務が積み上がり、高いインフレ 率や政治リスクを抱えるトルコリラも、米ドルに対して大きく 売られました。

米国の金利上昇を背景とする米ドルの上昇で新興国通貨 が急落する例は過去にも見られています。1994年のメキシ

図表1:対ドルでの年初来騰落率(5月24日時点)

出所:BloombergよりSonyFH作成

コペソ急落、通称「テキーラ危機」や、1997 年に発生した「ア ジア通貨危機」などはその代表例です。しかし、現時点では これら前例と今回の新興国通貨安を同じように扱うべきでは ないと見ています。理由としては、第一に、今回の新興国通 貨安のきっかけとなった米国の景気に過熱感がないことが 挙げられます。米ドル高が今後も「急激に」進み続ける可能 性は低いため、それに伴うパニック的な新興国通貨の全面 安は避けられると考えられるためです。第二に、最も売られ ているアルゼンチンペソやその他多くの国の通貨は変動相 場制を採用しており、上記の2つの危機が起こった大きな要 因の一つである「ドルペッグ制採用を背景とする通貨の過大 評価」はごく一部の国を除いて発生していないためです。2 つの危機は、①通貨が過大評価されていると見たヘッジファ ンドが売り仕掛け、②中央銀行がドルペッグ制を維持するた めの介入し、急激に外貨準備高が減少、③結局耐えられず、

ドルとの固定相場制を放棄、④通貨安が暴落し、国家の危 機に発展、⑤世界経済にも不安をまき散らす事態となりまし た。しかし、今回は変動相場制のなか、新興国通貨段階的 に下げており、ヘッジファンドによる急激な売りにも、制度変 更が必要な事態にも繋がっていません。そして第三に、これ までの様々な金融危機から学び、「多くの新興国」は外貨準 備高を積み増している点です。こうした新興国では、米金利 の上昇や米ドルの上昇への「耐性」が高まっている点です。

今回の局面が大きな逆風となるのは「一部」の「外貨準備高 が不十分」もしくは「国内に政情不安など別の火種を抱えて いる」という、基盤が脆弱な国に限られると考えられるでしょ う。これらを勘案すると、足下の新興国通貨安の局面が世 界規模の金融危機に発展する可能性は低いと考えられま す。

ドルペッグ制の「香港ドル」に対する不安

ただし、現時点で、対ドルでほとんど下げていないにも関わ らず不安を集めている通貨があります。香港ドルです。香港 ドルは 1983 年以降、カレンシーボード制という、いわゆるド ルペッグ制を採用しています。当初は1米ドル=7.80香港ド ルに固定されていたましたが、2005年5月以降は香港金融 管理局(HKMA)によって7.75~7.85香港ドルのレンジ内で推 移するようコントロールされています。今年に入っての香港ド

KEY POINT

 米ドル全面高のなかで新興国通貨安が進んだが、現時点で世界規模の金融危機に繋がる可能性は低い

 香港ドルのドルペッグ維持への懸念も一部見られるが、外貨準備が潤沢で、すぐに崩壊する可能性は低い

 香港金利上昇が不動産バブル崩壊に繋がった場合は大きなリスク要因に

「米ドル高・新興国通貨安」相場の中で「香港ドル」を考える

-30 -25 -20 -15 -10 -5 0 5

(%)

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2018/05/25 2 ルの変動幅は対ドルで 0.5%にも満たない下落で済んでい

ますが、これはHKMAが4月以降、たびたび香港ドル買い・

米ドル売り介入を行っているためです(図表 2)。この香港ド ルについて、足下では一部で「米ドル高・新興国通貨安が大 きく進む事態となった場合、アジア通貨危機の際のように香 港ドルも売り浴びせられるのではないか、さらにカレンシー ボード制を維持できなくなるのではないか」との声が聞かれ るようになりました。

そもそも、香港は経常黒字であり、インフレ率も前年比 2%

に留まっており、高インフレとは言えません。また、通貨高圧 力が掛かっていた過去10年以上の間に外貨準備が積み増 されており、介入資金は潤沢です(図表3)。4月以降の介入 により、香港の外貨準備高は2018年2月をピークに減少し ていますが、4月末時点では4000億米ドルを超えており、外 貨売り・香港ドル買い介入の余力は大きいと言えます。仮に アジア通貨危機の際のようにヘッジファンドが大量の香港ド ル売りを浴びせようとしても、それが可能なほど香港ドルを 調達できる可能性は極めて低く(香港ドルの流動性は低く、

図表2:年初来の香港ドルの推移

出所:BloombergよりSonyFH作成

図表3:香港の外貨準備高の推移

出所:HKMA

調達コストが跳ね上がってしまう)、HKMA が外貨を全て使 い切るほどの香港ドル売りの実現性は乏しいと考えられま す。ただし、このところの外貨売り・香港ドル買い介入が、市 中の銀行から香港ドルを吸収することになるため、事実上 の金融引き締めとなっている点が気がかりです。

金利上昇が景気の重しに

銀 行 間 の 資 金 の ダ ブ つ き を 示 す 決 済 性 預 金 残 高

(Aggregate Balance、日銀当座預金に当たる)は、年始の約 1800億香港ドルから5月24日時点では1095億ドルまで減 少しており(図表 4)、足下では金融環境がかなり引き締まっ てきている様子が見受けられます。また、香港銀行間貸出 金利(HIBOR)3カ月物は年始の段階では中国からの投資マ ネーの影響などもあって押さえられていましたが、このところ のHKMAの金融引き締めの影響で上昇しています(図表5)。

本稿執筆時点では、米中通商問題や北朝鮮との関係緊迫 化などリスク要因が意識されて、米長期金利の上昇が一服 し、ドル高圧力が緩和。そうしたなかでHIBORの上昇も一服 していますが、こうしたリスク要因が後退すれば、再び米ド

図表4:決済性預金残高の推移

出所:HKMA

図表5:HIBORと米ドル建てLIBOR(3カ月物)

出所:BloombergよりSonyFH作成 0

50 100 150 200 250 300 350 400 450 500

2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018

10億米ドル)

0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500

2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018

(億HKD)

1.5 1.6 1.7 1.8 1.9 2.0 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5

0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0

2018/01 2018/02 2018/03 2018/04 2018/05 HIBOR3カ月物(左軸)

米ドル建てLibor3ヵ月物(右軸)

(%) (%)

7.80 7.81 7.82 7.83 7.84 7.85 7.86 13.0

13.2 13.4 13.6 13.8 14.0 14.2 14.4 14.6

2018/01 2018/02 2018/03 2018/04 2018/05 対円(左軸)

対ドル(右軸、逆目盛)

(円) (香港ドル)

香港ドル買い・米ドル売り介入ライン

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2018/05/25 3 ル買いが始動し、HIBOR も上昇すると考えられます。そうな

れば、住宅ローン金利(HIBOR やプライマリーレートを元に 算出)の上昇に繋がる可能性があります。

2009年後半以降の香港経済は堅調で、2018年1-3月の国 内総生産(GDP)は前年比+4.7%にも達しています。この好 景気を支えているのは低金利による内需の好調さです。小 売売上高は今年、1-3月の3カ月で月平均+15.2%(前年比)

と大幅な伸びを見せました。ただし、足下では4 月日経香港 PMI が49.1と、好況・不況の境目である 50を下回り、2016 年10月以来の低水準を付けるなど、好況に陰りも見え始め ています。さらに、米国の保護貿易化によって、世界経済の 好調さを支える自由貿易が阻害されれば、アジアの貿易の ハブである香港経済にとっては強い逆風です。こうした状況 下で住宅ローン金利が上り続けた場合、どうなるでしょうか。

現在、不動産価格は「世界で一番買いにくい」と言われるほ ど上昇しており、不動産バブルとの見方も根強いです(図表

6)。足下の香港において、住宅ローンの借り手は25~40歳

の若年層に集中しており、住宅ローン金利の上昇はこうした 世代の不動産およびその他消費財の購買力低下に繋がる 公算です。景況感に弱さが見え始めた香港経済には重しと なるでしょう。不動産への購買力が低下し、もしバブル崩壊 となれば、香港経済は 1997 年の不動産バブルが崩壊した 際のように、長期にわたって低迷することもあり得ます。

「香港ショック」の可能性は否定できないが

では、仮に香港の不動産バブルが崩壊した場合、香港ドル はどうなるのでしょうか。香港はカレンシーボード制を取って いるがゆえに、HKMA は自由な金融政策を取ることが出来 ません。本来であれば景気を支えるために金融緩和に動き たいところです。しかし、米ドルに米国の利上げの影響で上 昇圧力が掛かっており、足下のように米ドルにペッグし続け るために香港ドル買い介入を続ければ「景気悪化のなかで 金融引き締めを行う」事になってしまいます。香港経済に配

図表6:香港の民間不動産価格指数(1999=100)

出所:香港差餉物業估價署

慮するならば、少なくとも現行のカレンシーボード制の維持 を諦めねばならない局面が来る可能性がありそうです。また、

香港の不動産に大量の資金を投入している中国にとっても、

香港のバブル崩壊は大きなダメージになるでしょう。さらに、

これが香港発の金融危機「香港ショック」につながれば、内 需と外需の好循環のなかで拡大している世界経済の腰折 れ懸念が台頭することもあり得ます。

もっとも、「世帯において適切な負担において適切な住宅に 居住できるかどうか」を表す不動産アフォーダビリティレシオ

(図表 7)を見ると、ジリジリ上昇してはいるものの、1997 年

の不動産バブル崩壊直前の水準には程遠いです。また、5 月 9 日、国際通貨基金(IMF)の陳方楠・駐香港分処代表は

「(米国および香港の)今後の利上げによって家庭の債務負 担が高まる可能性があるが、銀行のバランスシートは良好 で緩衝の余地を与えられるため利上げによる香港経済への 影響は大きくない」と発言しており、目先の危機感は薄いこ とは確かです。「米金利上昇に追随しての香港の金利上昇

⇒香港の不動産バブル崩壊⇒中国経済を毀損⇒世界経済 の腰折れ懸念」というシナリオは頭の片隅に置きつつも、過 度に警戒すべきでないと考えます。

石川 久美子

図表7: 香港の不動産アフォーダブルレシオ

出所:Bloomberg 0

50 100 150 200 250 300 350 400

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 0

10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

1997年の不動産バブル

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ソニーフィナンシャルホールディングス 金融市場調査部・研究員紹介

尾河 眞樹 (おがわ まき)

執行役員 兼 金融市場調査部長 チーフアナリスト

ファースト・シカゴ銀行、JPモルガン証券などの為替ディーラーを経て、ソニー財務部にて為替リスクヘッ ジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部 長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。2016年8月より現職。 テレ ビ東京「Newsモーニングサテライト」、日経CNBCなどにレギュラー出演し、金融市場の解説を行っている。

著書に『為替がわかればビジネスが変わる(2014年日経BP社)』、『富裕層に学ぶ外貨投資術(2015年 日経新聞出版社)』、『〈新版〉本当にわかる為替相場(2016年日本実業出版社)』などがある。

菅野 雅明 (かんの まさあき)

シニアフェロー チーフエコノミスト

1974年日本銀行に入行後、秘書室兼政策委員会調査役、ロンドン事務所次長、調査統計局経済統計 課長・同参事などの役職を歴任。日本経済研究センター主任研究員(日本銀行より出向)を経て、1999年 JPモルガン証券入社、チーフエコノミスト・経済調査部長・マネジングディレクターとして日本の金融経済 分析・予測を担当。2017年4月より現職。総務省「統計審議会」委員、財務省「関税・外国為替等審議会」

専門委員、内閣府「経済財政諮問会議グローバル化改革専門調査会、金融・資本市場ワーキンググ ループ」メンバー、内閣官房「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議」

メンバー、厚生労働省「年金積立金の管理運用に係る法人のガバナンスの在り方検討作業班」専門委 員などを歴任。日本経済新聞「十字路」「経済教室」、日経QUICK「QUICKエコノミスト情報」、東洋経済

「経済を見る眼」「論点」、NTT出版「危機の日本経済」など執筆多数。テレビ東京「Newsモーニングサテ ライト」レギュラーコメンテーター。1974年東京大学経済学部卒、1979年シカゴ大学大学院経済学修士号 取得。

渡辺 浩志 (わたなべ ひろし)

金融市場調査部 シニアエコノミスト

1999年に大和総研に入社し、経済調査部にてエコノミストとしてのキャリアをスタート。2006年~2008年 は内閣府政策統括官室(経済財政分析・総括担当)へ出向し、『経済財政白書』等の執筆を行う。2011 年からはSMBC日興証券金融経済調査部および株式調査部にて機関投資家向けの経済分析・情報発 信に従事。2017年1月より現職。内外のマクロ経済についての調査・分析業務を担当。ロジカルかつ データの裏付けを重視した分析を行っている。

石川 久美子 (いしかわ くみこ)

金融市場調査部 シニアアナリスト

商品先物専門紙での貴金属および外国為替担当の編集記者を経て、2009年4月に外為どっとコムに入 社し、外為どっとコム総合研究所の立ち上げに参画。同年6月から研究員として、外国為替相場につい て調査・分析、レポートや書籍、ブログ、Twitterなどの執筆、セミナー講師、テレビやラジオなどのコメン テーターとして活動。2016年11月より現職。外国為替市場の調査・分析業務を担当。

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