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循環器疾患における緩和ケアについての提言JCS/JHFS 2021 Statement on Palliative Care in Cardiovascular Diseases

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日本循環器学会

/

日本心不全学会合同ガイドライン

2021 年改訂版

循環器疾患における緩和ケアについての提言

JCS/JHFS 2021 Statement on Palliative Care in Cardiovascular Diseases

木澤 義之 木澤 義之

神戸大学大学院医学研究科 神戸大学大学院医学研究科 内科系講座先端緩和医療学分野 内科系講座先端緩和医療学分野

古賀 政利 古賀 政利

国立循環器病研究センター 国立循環器病研究センター

脳血管内科 脳血管内科

大石 充 大石 充

鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科

心臓血管・高血圧内科学 心臓血管・高血圧内科学

泉 知里 泉 知里

国立循環器病研究センター 国立循環器病研究センター

心臓血管内科 心臓血管内科

志賀 剛

東京慈恵会医科大学志賀 剛

東京慈恵会医科大学 臨床薬理学 臨床薬理学

竹石 恭知 竹石 恭知

福島県立医科大学医学部 福島県立医科大学医学部

循環器内科学講座 循環器内科学講座

坂田 泰史 坂田 泰史

大阪大学大学院医学系研究科 大阪大学大学院医学系研究科 内科学講座循環器内科学 内科学講座循環器内科学

坂下 明大 坂下 明大

神戸大学大学院医学研究科 神戸大学大学院医学研究科 内科系講座先端緩和医療学分野 内科系講座先端緩和医療学分野

安田 聡 安田 聡

東北大学大学院医学系研究科 東北大学大学院医学系研究科

循環器内科学分野 循環器内科学分野

山本 一博 山本 一博

鳥取大学医学部 鳥取大学医学部 循環器内科・内分泌代謝内科 循環器内科・内分泌代謝内科

福本 義弘 福本 義弘

久留米大学医学部内科学講座 久留米大学医学部内科学講座

心臓・血管内科部門 心臓・血管内科部門

西村 勝治 西村 勝治

東京女子医科大学 東京女子医科大学

神経精神科 神経精神科

石森 直樹 石森 直樹

北海道大学大学院医学研究院 北海道大学大学院医学研究院 心不全医薬連携開発学分野 心不全医薬連携開発学分野

大石 醒悟 大石 醒悟

兵庫県立姫路循環器病センター 兵庫県立姫路循環器病センター

循環器内科 循環器内科

阿部 隆宏 阿部 隆宏

北海道大学大学院医学研究院 北海道大学大学院医学研究院

循環病態内科学 循環病態内科学

赤穂 理絵 赤穂 理絵

東京女子医科大学 東京女子医科大学

神経精神科 神経精神科

衣笠 良治 衣笠 良治

鳥取大学医学部 鳥取大学医学部 循環器内科・内分泌代謝内科 循環器内科・内分泌代謝内科

窪薗 琢郎 窪薗 琢郎

鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科

心臓血管・高血圧内科学 心臓血管・高血圧内科学

加藤 美香 加藤 美香

北海道大学病院 北海道大学病院

看護部 看護部

岡田 佳築 岡田 佳築

大阪大学大学院医学系研究科 大阪大学大学院医学系研究科 内科学講座循環器内科学 内科学講座循環器内科学

班員

協力員 班長 安斉 俊久 安斉 俊久

北海道大学大学院医学研究院循環病態内科学 北海道大学大学院医学研究院循環病態内科学

外部評価委員

斎藤 能彦 斎藤 能彦

奈良県立医科大学 奈良県立医科大学 循環器内科学 循環器内科学

澤 芳樹 澤 芳樹

大阪大学大学院医学系研究科 大阪大学大学院医学系研究科 外科学講座心臓血管外科学 外科学講座心臓血管外科学

木村 剛 木村 剛

京都大学大学院医学研究科 京都大学大学院医学研究科

循環器内科学 循環器内科学

木原 康樹 木原 康樹

神戸市立医療センター 神戸市立医療センター

中央市民病院 中央市民病院

福田 恵一 福田 恵一

慶應義塾大学医学部 慶應義塾大学医学部

循環器内科 循環器内科

筒井 裕之 筒井 裕之

九州大学大学院医学研究院 九州大学大学院医学研究院

循環器内科学 循環器内科学

合同研究班参加学会

日本循環器学会  日本心不全学会  日本脳卒中学会  日本緩和医療学会

鈴木 敦 鈴木 敦

東京女子医科大学 東京女子医科大学

循環器内科 循環器内科

鈴木 豪 鈴木 豪

ゆみのハートクリニック ゆみのハートクリニック

柴田 龍宏 柴田 龍宏

久留米大学医学部内科学講座 久留米大学医学部内科学講座

心臓・血管内科部門 心臓・血管内科部門

佐藤 琢真 佐藤 琢真

北海道大学大学院医学研究院 北海道大学大学院医学研究院

循環病態内科学 循環病態内科学

敦賀 健吉 敦賀 健吉

北海道大学大学院医学研究院 北海道大学大学院医学研究院

腫瘍センター 腫瘍センター

永井 利幸 永井 利幸

北海道大学大学院医学研究院 北海道大学大学院医学研究院

循環病態内科学 循環病態内科学

高田 弥寿子 高田 弥寿子

国立循環器病研究センター 国立循環器病研究センター

看護部門 看護部門

高木 正仁 高木 正仁

国立循環器病研究センター 国立循環器病研究センター

脳血管内科 脳血管内科

弓野 大 弓野 大

ゆみのハートクリニック

ゆみのハートクリニック 義久 精臣義久 精臣

福島県立医科大学医学部 福島県立医科大学医学部

循環器内科学講座 循環器内科学講座

細田 勇人 細田 勇人

近森病院 循環器内科近森病院 循環器内科

濱谷 康弘 濱谷 康弘

京都医療センター 京都医療センター

循環器内科 循環器内科

(2)

目次

はじめに

7

1

総論

8

1. 全人的苦痛の評価と緩和ケアの重要性‥‥‥‥8

1.1 緩和ケアの定義 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥81 緩和ケアの定義 91 エンド・オブ・ライフケアと緩和ケアの違い 9 1.2 緩和ケアを提供する時期 ‥‥‥‥‥‥‥‥92 病の軌跡と緩和ケアアプローチが必要な時期 10 1.3 包括的評価 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥102 患者の包括的評価における評価項目と

おもな評価方法・アセスメントツール 11 1.4 緩和ケアにおける意思決定 ‥‥‥‥‥‥133 「人生の最終段階における医療・ケアの

決定プロセスに関するガイドライン」に基づいた 意思決定のプロセス

14

1.5 循環器領域における緩和ケアの課題 ‥‥153 ICUにおける緩和ケアの課題 154 心不全患者における緩和ケアの提供体制 16 1.6 おわりに ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥16

2. アドバンス・ケア・プランニング(ACP)と 事前指示のあり方‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥16

2.1 ACPをめぐる概念の整理‥‥‥‥‥‥‥165 ACPの概念図 17

2.2 緩和ケアにおけるACPの目的と

必要な要素 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥17

2.3 ACPの効用と害‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥18

2.4 ACPの実践方法‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥184 ACPの実践方法 18

2.5 緩和ケアにおける臨床倫理 ‥‥‥‥‥‥21 3. 予後予測モデル ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥21 3.1 急性冠症候群(ACS)の予後予測モデル‥22

3.2 心不全の予後予測モデル ‥‥‥‥‥‥‥226 GRACEスコア 227 Seattle Heart Failure ModelSHFM 248 MAGGIC予後モデル 25 3.3 予後予測モデルの適用タイミングと

注意点 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥25 4. コミュニケーション‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥26 4.1 患者・家族とのコミュニケーション ‥‥26

4.2 基本的なコミュニケーションスキル ‥‥265 Ask-Tell-Askアプローチ 27

6 NURSE 27

4.3 悪い知らせの伝え方 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥277 SHAREの概要 28 4.4 対応がむずかしい場合の

コミュニケーション ‥‥‥‥‥‥‥‥‥27 4.5 医療従事者間における

コミュニケーション ‥‥‥‥‥‥‥‥‥28

(3)

5. 集中治療における意思決定支援 ‥‥‥‥‥‥28 5.1 循環器疾患における終末期の特徴 ‥‥‥ 28 5.2 循環器集中治療における末期状態と

終末期 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 29

5.3 終末期と判断した後の対応 ‥‥‥‥‥‥299 患者・家族意思の有無による終末期における対応 30 5.4 医療チームの役割 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥31

6. 診療の質‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥31 6.1 診療の質とは ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥32

6.2 Quality indicator(診療の質評価指標)‥3210 Quality indicatorにおける

ドナベディアンモデルに基づく3つの枠組み 32 6.3 がん緩和ケアのquality indicator ‥‥‥ 338 がん緩和ケア領域における一般集団ベースの

quality indicator

33 6.4 循環器緩和ケアに特有の

quality indicator ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥33

6.5 心不全緩和ケアのquality indicator ‥‥34 9 心不全緩和ケア領域のquality indicator 35 6.6 循環器緩和ケアの診療の質 ‥‥‥‥‥‥34

7. 身体症状の評価とケア‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥34

7.1 末期心不全の症状緩和 ‥‥‥‥‥‥‥‥3410 人生の最終段階の身体・精神症状 3611 主観的症状評価ツール 36 7.2 治療抵抗性の苦痛への対処 ‥‥‥‥‥‥36 11 心不全の症状緩和のイメージ 36

12 わが国で使用可能なオピオイドと 開始時の投与方法

37

13 オピオイドの副作用 3714 オピオイドの副作用に対する対策 3812 治療抵抗性の耐えがたい苦痛に対する鎮痛薬の投与 39 8. 精神症状の評価とケア‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥3915 心不全患者の全人的なストレス 39

8.1 心不全における精神症状 ‥‥‥‥‥‥‥ 3913 PHQ-2, PHQ-9を用いたうつ病の

スクリーニング 40

14 PHQ-2, PHQ-9の質問内容 41 8.2 精神症状が循環器疾患の

予後・意思決定に及ぼす影響 ‥‥‥‥‥42

15 心不全患者のうつ・不安が予後を悪化させる メカニズム

42

8.3 循環器疾患に合併する精神症状の

マネジメント ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥43

16 心不全患者のうつ病に対する段階的ケア 4317 向精神薬のQT延長リスク 4418 抗うつ薬の心臓への影響(QT延長を除く) 4516 せん妄に対する薬物療法アルゴリズム 46 9. 多職種チームビルディング‥‥‥‥‥‥‥‥47

9.1 多職種チーム構成 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥4717 多職種チームにおける各種医療モデル 48 9.2 各職種の役割 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥47

9.3 多職種チーム医療の実践 ‥‥‥‥‥‥‥ 49 9.4 多職種チームの現状と課題 ‥‥‥‥‥‥50

10. 在宅医療における緩和ケアのあり方‥‥‥‥5019 非がん患者における入院医療と在宅医療の比較 50

10.1 在宅医療と地域社会資源の活用‥‥‥‥5020 地域の社会資源サービスと保険適用 51

10.2 病診連携‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥5121 入院前カンファレンスにおける地域から病院への

情報提供 51

10.3 社会的苦痛‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥51

10.4 身体的苦痛‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥52

(4)

2

各論

52

1. 心不全‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥5218 心不全患者の臨床経過および提供される

ケアのイメージ 53

1.1 心不全における緩和ケアについて ‥‥‥ 52 1.2 Stage Dの診断,治療について‥‥‥‥54 1.3 Stage Dの患者に対する積極的治療と

緩和ケアの両立について ‥‥‥‥‥‥‥ 54 1.4 Stage Dの患者に対する植込み型

左室補助人工心臓 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥54 2. 不整脈‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥56

2.1 ICD患者における精神的問題と

緩和ケア ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥56 2.2 終末期患者におけるCIED治療と

ICD作動状況 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥57

2.3 CIED植え込み例での終末期状態への

対応 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥57

19 終末期におけるICDの除細動機能停止決定への

話し合いのプロセス 58

3. 虚血性心疾患・末梢血管疾患‥‥‥‥‥‥‥ 59 3.1 急性冠症候群(ACS)における緩和ケア 59 3.2 下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)‥‥‥‥61 4. 弁膜症‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥63

4.1 TAVI/TAVRMitraClip®の医学的治療の

有益性・無益性の検討 ‥‥‥‥‥‥‥‥63

22 TAVI/TAVRの治療成績に関連する因子 6423 MitraClip®の治療成績に関連する因子 64 4.2 Shared decision makingの重要性 ‥‥65

4.3 臨床倫理の重要性 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥65 4.4 積極的な治療と並行した緩和ケア ‥‥‥ 65 5. 高血圧・大動脈疾患‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 66

5.1 高血圧 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 6624 降圧薬の中止および減量を検討する患者像 6625 緩和ケアを受けているがん患者における

降圧治療の推奨 67

5.2 大動脈疾患 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥6726 急性大動脈疾患における緩和ケアのポイントと 問題点

67

27 急性大動脈解離による疼痛の発生部位と発生率 68 6. 肺高血圧症・成人先天性心疾患‥‥‥‥‥‥69

6.1 肺高血圧症 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥6928 特異的肺動脈性肺高血圧症治療薬と代表的な

副作用 69

29 重症度に基づいた特発性肺動脈性肺高血圧症/ 遺伝性肺動脈性肺高血圧症の予後のリスク分類

70

6.2 成人先天性心疾患 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥71 7. 脳卒中‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥71 7.1 脳卒中領域におけるケア ‥‥‥‥‥‥‥ 71 7.2 脳卒中による全脳の不可逆的な

機能不全 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥72

20 脳卒中における終末期の医療およびケアの 方針の決定手続き

73 7.3 脳卒中による身体的・精神的問題,

社会的困難に対する緩和ケア ‥‥‥‥‥72 8. 薬物治療のポイント‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 74 8.1 緩和ケアで用いる薬 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥74 8.2 心不全時の薬物動態と注意点 ‥‥‥‥‥74

(5)

8.3 終末期患者におけるオピオイド ‥‥‥‥74 8.4 ポリファーマシーと減薬 ‥‥‥‥‥‥‥ 75

おわりに

76

付表 班構成員の利益相反(COI)に関する開示‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 77 文献‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 82

(無断転載を禁じる)

(6)

略語一覧

ABI ankle brachial index 足関節上腕血圧比

ACC American College of

Cardiology 米国心臓病学会

ACE angiotensin converting

enzyme アンジオテンシン変換酵素

ACHD adult congenital heart

disease 成人先天性心疾患

ACCP American College of Chest

Physicians 米国胸部疾患学会

ACP advance care planning アドバンス・ケア・プラン

ニング

AD advance directive アドバンス・ディレクティ

ブ事前指示

ADL activities of daily livings 日常生活動作 AHA American Heart Association 米国心臓協会 ARB angiotensin II receptor

blocker アンジオテンシンII受容体

拮抗薬

ASO arteriosclerosis obliterans (下肢)閉塞性動脈硬化症 BADL basic activities of daily living 基本的日常生活動作 BDI Beck Depression Inventory ベック抑うつ尺度 BPSD behavioral and psychological

symptoms of dementia 認知症における行動・心理 症状

BTT bridge to transplantation 心臓移植までの橋渡し

BZD benzodiazepine ベンゾジアゼピン

CBT cognitive behavioral therapy 認知行動療法

CCU coronary care unit 冠動脈疾患集中治療室

CHDF continuous hemodiafiltration 持続的血液濾過透析 CIED cardiac implantable electronic

device 植込み型心臓電気デバイス

CLI critical limb ischemia 重症下肢虚血 COPD chronic obstructive

pulmonary (lung) disease 慢性閉塞性肺疾患 CRT cardiac resynchronization

therapy 心臓再同期療法

CTEPH chronic thromboembolic

pulmonary hypertension 慢性血栓塞栓性肺高血圧症

CYP cytochrome P450 チトクロームP450

DT destination therapy 永久使用目的の治療

DNAR do not attempt resuscitation 蘇生処置拒否 ECMO extracorporeal membrane

oxygenation 体外膜型人工肺

EOLC end of life care エンド・オブ・ライフケア

EOLD end of life discussion エ ン ド・ オ ブ・ ラ イ フ・

ディスカッション ERA endothelin receptor

antagonist エンドセリン受容体拮抗薬

ESC European Society of

Cardiology 欧州心臓病学会

ESAS-r Edmonton Symptom 

Assessment System Revised エドモントン症状評価シス テム改訂版

HRQoL health related quality of Life 健康関連QOL

HPA axis hypothalamic-pituitary-adrenal axis 視床下部-下垂体-副腎軸

(系)

IABP intra-aortic balloon pump 大動脈内バルーンポンプ IADL instrumental activities of daily

living 手段的日常生活動作

ICD implantable cardioverter

defibrillator 植込み型除細動器

KCCQ Kansas City Cardiomyopathy

Questionnaire カンザスシティ心筋症調査

LVAD left ventricular assist device 左室補助人工心臓 MCI mild cognitive impairment 軽度認知機能障害 MLHFQ Minnesota Living with Heart

Failure Questionnaire ミネソタ心不全質問票 NaSSA noradrenergic and specific

serotonergic antidepressant

ノルアドレナリン作動性・

特異的セロトニン作動性抗 うつ薬

NICE National Institute for Health

and Care Excellence 英国国立医療技術評価機構

NPPV noninvasive positive pressure

ventilation 非侵襲的陽圧換気療法

NRS numerical rating scale 数値評価スケール NYHA New York Heart Association ニューヨーク心臓協会 PAH pulmonary arterial

hypertension 肺動脈性肺高血圧症

PCPS percutaneous

cardiopulmonary support 経皮的心肺補助装置 PDE5 phosphodiesterase type 5 ホスホジエステラーゼ5 PH pulmonary hypertension 肺高血圧症

PHQ Patient Health Questionnaire 患者健康質問票 PROMs patient-reported outcome 

measures 患者報告アウトカム尺度

PTSD posttraumatic stress disorder 心的外傷後ストレス障害 QALY quality-adjusted life year 質調整生存年数

QOL quality of life 生活の質

SNRI serotonin-noradrenaline

reuptake inhibitor セロトニン・ノルアドレナ

リン再取り込み阻害薬 SSRI selective serotonin reuptake

inhibitor 選択的セロトニン再取り込

み阻害薬

(7)

はじめに

心血管疾患は欧米における最大の死亡原因であることか ら,各種薬剤や医療機器の開発が進み,その有効性や安全 性が数多くのランダム化比較試験によって検証されてきた.

しかし,これらの治療は生命予後改善をおもな目的とした ものであり,生活の質(

QOL

)を改善するという意味で十 分な効果を発揮するには至っていない.とくに,終末期を 迎えた場合に,どのように対応すべきかという点は未解決 である.さらに,循環器疾患のなかでも心不全患者数は社 会の高齢化とともに急増しており,すべてのエビデンスに 基づいた治療を駆使しても治癒させることができない,あ るいはこれらの治療の対象とはならないような症例も年々 増加している.

医療技術の進歩によっても解決できない状況のなかで,

循環器医が積極的治療による生命予後改善だけでなく,

QOL

改善のために何をなすべきか考える時期に達したと いえる.

2014

年の世界保健機関(

WHO

)の報告によれば,

終末期に緩和ケアが必要とされる疾患のなかで,心血管疾 患は全体の

38%

を占め,悪性新生物の

34%

を超えて第一 位とされている

1)

循環器疾患のなかでも,心不全はがんと同様あるいはそ れ以上に不良な予後を有しながらも,一般的に良性疾患と 認識されている.入院を要するような心不全でも,症状そ のものは急性期治療によってすみやかに改善することから,

患者や家族は病識に乏しいことが多い.過去の報告によれ ば,心不全が重症であるほど,客観的に推測される余命よ り患者本人が考えている余命が長く乖離していることが報 告されている

2)

医療従事者においても,とくに循環器医は,患者や家族 から明確な希望がなければ,最期まで積極的治療を選択す るのが通常である.実際に,機械的補助循環をはじめとし た高度集中治療は,重症例の救命を可能とした.植込み型 除細動器(

ICD

)や心臓再同期療法(

CRT

)などのデバイ スは,心臓突然死の予防を可能にし,経カテーテル大動脈 弁置換術(

TAVI/TAVR

)をはじめとした低侵襲治療は,

年齢や併存症を理由に手術困難とされた重症弁膜症患者に 対する治療を可能にした.さらに,植込み型左室補助人工 心臓(

LVAD

)は,心臓移植待機患者のみならず,移植適

応とならない症例の予後や

QOL

を改善し

3)

LVAD

を用 いた永久使用目的の治療(

Destination Therapy

DT

])も 考慮される時代になった.一方でこれらの治療は,頻回の

ICD

作動やデバイス留置に伴う各種合併症をきたした場 合,逆に

QOL

を悪化させてしまう可能性も否めない.

終末期に移行した際の

ICD

CRT

の停止に関しては,

本来,植込み手術前に本人,家族と医療従事者で十分に話 し合っておくべきものであり,植込み型

LVAD

に関しても,

心臓以外の要因によって終末期に至った場合の対応に関し て事前に十分な説明が必要である.患者の人生観や価値観 をふまえて,将来起こりうる課題について選択できるよう に支援することが重要である

4)

循環器医療における緩和医療導入の重要性は十分に理 解されていながらも,患者,家族,医療従事者の認識の相 違などもあり,現状としては緩和医療の導入はしばしば困 難である.終末期を含めた将来の状態の変化に備えるため に,医療従事者が患者・家族と事前に話し合うプロセスで あるアドバンス・ケア・プランニング(

ACP

)も,日本循環 器学会

/

日本心不全学会の「急性・慢性心不全診療ガイド ライン(

2017

年改訂版)」ではクラス

I

として推奨された が

5)

,十分に普及しているとはいえない状況である.とく に高齢者の終末期医療においては,苦痛を与える医療処置 を行うのではなく,苦痛を緩和する医療処置を行うことも念 頭に置く必要があり,多職種カンファレンスと

ACP

の実施 が重要である.一方で,表面的な

DNAR

do not attempt resuscitation

)指示の取得によって本来必要な救命処置が 放棄されることは決してないようにすべきである.

循環器領域においては,緩和ケアのリソースも十分に活

用されていない.米国の報告によれば,緩和ケアチームに

対する初回コンサルテーションのなかで,循環器疾患患者

が占める割合は

15%

ほどにとどまっている.その内訳とし

ては,心不全が約

70%

を占めるものの,冠動脈疾患,弁

膜症,末梢血管疾患など多岐にわたることが示されてい

6)

.循環器疾患のなかでも心不全患者は,身体的,社会

的,精神・心理的,スピリチュアルな苦痛といった全人的

苦痛を抱えており,これらのあらゆる苦痛を予防し取り除

くためには,早期からの多面的アプローチが必要である.

(8)

多職種のメンバーが,それぞれの専門性を発揮し,協働し て患者診療にあたることで,質の高い緩和ケアの提供が可 能になる.

循環器疾患における緩和ケアでは,疾患そのものに対す る適切な治療が症状ならびに

QOL

改善のために必要であ り,循環器医による介入は必須である.一方,治療抵抗性 の呼吸困難や全身倦怠感,疼痛,抑うつ・不安などに対し て有効とされるオピオイドなどを使用する場合には,緩和 ケア医の経験が必要となるため,両者の連携がきわめて重 要と考えられる.

循環器緩和ケアはエビデンスが乏しい領域であり,推奨 クラスやエビデンスレベルをガイドラインとして記載する ことは困難であるが,循環器診療と緩和ケアをどのように 両立させるべきかという喫緊の課題を解決するため,循環 器疾患の各領域において,とくに侵襲的治療やデバイス治 療を行う際に考慮すべき緩和ケアの視点に重点を置いて,

今回の提言が作成された.本提言が循環器疾患における適 切な緩和ケアの普及・均てん化ならびに患者・家族の

QOL

向上に寄与することを期待する.

1 章 総論

1. 

全人的苦痛の評価と   緩和ケアの重要性

わが国では,緩和ケアはがん医療領域を中心に発展して きた.しかし,緩和ケアはそもそも,すべての生命の危機 に直面した患者・家族に疾患を問わず提供されるものであ る.

2016

年の調査によると,わが国では年間約

130

万人 が死亡し,その

7

割を

75

歳以上が占める.死亡原因は多 い順に,がん(

21%

),心疾患(

15%

),肺炎(

9%

),脳血 管疾患(

9%

)であり,心疾患は非常に大きな割合を占め る.また,

2018

年に世界保健機関(

WHO

)は緩和ケアを

Universal Health Coverage

(すべての人が受けることがで きるように整備しなければならない医療)の一つとして位 置づけ,その対象は “

serious illness

” を含むものとした.

わが国でも

2018

年から循環器疾患の緩和ケアが末期心 不全を対象として始まったが,現状では「積極的治療か緩 和ケアか」といった二者択一で治療選択をする場面にしば しば遭遇する.緩和ケアは治療と同時に行うことができ,

「予後と病状を勘案したうえで,患者の価値観に沿った,

患者のための最善」をテーラーメイドでつくり出す医療・

ケアであるという認識を広めていく必要がある.

また,進行期の心不全患者は,倦怠感,呼吸困難をはじ

めとする苦痛症状を伴うことが多い.心不全患者の緩和ケ アを実践するためには,身体的,心理・社会的,スピリ チュアルな苦痛,患者の価値観など,包括的で多岐にわた る項目の評価が必要である.さらに,治療・ケアの方針決 定のためには生命予後をふまえた検討が必要であり,生命 予後の予測も重要な評価項目となる.がんを中心に整備さ れてきた緩和ケアを,そのまま心不全に適用することはむ ずかしいが,包括的評価に関しては多くの部分を参考にす ることができる.

本節では,循環器医療における全人的苦痛の評価と緩和 ケアの重要性について述べたい.

1.1 

緩和ケアの定義

2002

年の

WHO

の定義では,緩和ケアは,その提供す る時期を問わず,生命の危機に直面している患者や家族に そのニーズに応じて行われるものとされた(表

1

7)

.しか し,

2018

年 に

WHO

は 緩 和 ケ ア を

Universal Health Coverage

の一つとして位置づけ,緩和ケアの対象をさら に拡大することを念頭に置いている.緩和ケアの対象に

serious illness

” を含むことで,「死亡する可能性が非常に 高い状態だが,治療によっては治癒する状態も含む」患者 にも緩和ケアを提供すべきだと提言している

8)

それでは,「終末期医療」,「人生の最終段階の医療・ケ

(9)

ア」と緩和ケアの違いはどのように考えればよいだろうか.

2018

11

月に出された日本医師会第

XV

次生命倫理懇談 会答申「超高齢社会と終末期医療」では,『厚生労働省は,

これまで「終末期医療」としてきたことを,

2015

年から

「人生の最終段階における医療」と呼び変えるようになって いる.これにならって「人生の最終段階におけるケア」を エンド・オブ・ライフケア(

EOLC

)に対応する日本語と すると,日本における

EOLC

は,医学的に判断される身体 的生命が終わりに近づいているという「ターミナル期」に 比して,「人生」の終りに近づいているという個々人の人生 に注目する概念とするのが適当である.』とある

9, 10)

.本提 言では,この英国

National Health Service

NHS

),日本 医師会の考え方を踏襲して,人生の最終段階の医療・ケア を,英国

NHS

で定義している

EOLC

と同様であると考え,

以下のように定義する.つまり,人生の最終段階の医療・

ケアとは,死が避けられない状況にあり,「死に至るまでの 時間が限られていることを考慮に入れる必要性のある状況 下における医療・ケア」すべてを含み,「死に至るまででき るかぎりよく生きるように,また尊厳をもって死に至るよう に(

to die with dignity

)支援する」活動である.また,提 供される時期は,疾患や個人によりさまざまであるが,お もに人生の最後の数ヵ月ないし数年を生きている人々への サポートである,と定義する.

このように定義した場合,英国や米国での考え方をもと に,緩和ケアと

EOLC

との関係は図

1

のように示される.

端的にいうと,緩和ケアは

EOLC

を内包しているというと らえ方である.緩和ケアと

EOLC

は多くの共通する面を もっている.しかし,緩和ケアと

EOLC

の最大の違いは,

緩和ケアが「死が不可避かどうか」を問わずに提供され る,つまり,回復する可能性があるがこのまま死亡するか もしれない状況の患者にも提供されるという点である.循 環器医療の現場においてもしばしば遭遇する場面ではない だろうか.これらの患者・家族にも緩和ケアは提供される べきものであることを忘れないでほしい.

1.2

緩和ケアを提供する時期

それでは,目の前の患者に,いつ,どの時点で緩和ケア を提供すればよいのだろうか.この臨床疑問を考える際に,

Lynn

らが提唱した病の軌跡(

illness trajectory

)が参考と なるため,図

2

として示し,緩和ケアが提供されるべき時 期を青丸で示した

11)

Lynn

らは人生の最終段階における 機能低下の時間経過を

4

つにカテゴリー化し,病の軌跡と して示した.

1

つめは,突然死の場合である.具体的には,

心血管疾患や脳血管障害,事故や災害による死が例として あげられる.このような場合,人生の最終段階は時間単位 から数日単位の経過となることが多く,救急集中治療が同 時期に集中して行われる.第

2

には「がん」があげられる.

人生の最終段階は月単位であることが多く,治療の経過中 も従来の日常生活を送ることができるが,最後の数ヵ月で 急激に機能が低下することが多い.第

3

に「臓器不全」が あげられる.このカテゴリーでは,慢性心不全をはじめ,

代償不能の肝硬変,慢性閉塞性肺疾患(

COPD

)などが例 としてあげられる.人生の最終段階は年単位であることが 多く,寛解と増悪を繰り返して徐々に機能が低下し,死亡 直前は急激に機能が低下することが多い.第

4

にフレイル があり,代表的な疾患として「認知症」があげられる.人

緩和ケアの定義

緩和ケアとは,生命を脅かす病に関連する問題に直面している患 者とその家族のQOLを,痛みやその他の身体的・心理社会的・

スピリチュアルな問題を早期に見いだし,的確に評価し対応する ことで,苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプロー チである。

緩和ケアは,

痛みやその他のつらい症状を和らげる

生命を肯定し,死にゆくことを自然な過程ととらえる

死を早めようとしたり遅らせようとしたりするものではない

心理的およびスピリチュアルなケアを含む

患者が最期までできるかぎり能動的に生きられるように支援 する体制を提供する

患者の病の間も死別後も,家族が対処していけるように支援 する体制を提供する

患者と家族のニーズに応えるためにチームアプローチを活用 し,必要に応じて死別後のカウンセリングも行う

• QOLを高め,さらに,病の経過にもよい影響を及ぼす可能性

がある

病の早い時期から,化学療法や放射線療法などの生存期間の 延長を意図して行われる治療と組み合わせて用いることがで き,つらい合併症をよりよく理解し対処するための精査も含 む

(WHO. 2002 7)より)

1 エンド・オブ・ライフケアと緩和ケアの違い エンド・オブ・ライフケア 緩和ケア

死が不可避かどう かわからない状態 の患者へのケアを 含む

(例:救急集中治療,

感染症)

予後予測 包括的評価

アドバンス・ケア・プランニング 意思決定支援

症状緩和 家族ケア チームアプローチ

(10)

生の最終段階はさらに長く,数年単位から

10

年を超える こともあり,いつが人生の最終段階かを見きわめることが むずかしい.心不全患者は第

3

のカテゴリーに含まれるこ とが多い.寛解と増悪を繰り返すことを前提に,今後の経 過を患者・家族と共有し,患者の人生や価値観,今後予想 される疾患の経過,家族の考えや病状理解などを把握した うえで,現在の治療・ケアにあたることが重要である.病 の軌跡を意識しないと,長期的視野では患者・家族に緩和 ケアを提供するべき状況であるにもかかわらず,医療従事 者が緩和ケアを提供すべき機会を「見逃す」可能性がある.

緩和ケアを適切な時期に提供するためには,すべての患 者・家族の苦痛をスクリーニングし,緩和ケアニーズを把 握する必要がある.

1.3

包括的評価

緩和ケアを提供するためには,まず患者の苦痛や苦悩に 気づく必要があり,患者を包括的に評価することが緩和ケ アを提供するうえで重要である.忙しい臨床現場において,

初診時からもれなく包括的かつ効率的に患者の苦痛を評価 することが求められるが,医療従事者が患者の緩和ケア ニーズを適切に評価できず,緩和ケアが適切に提供されて いないのが現在の課題であると考えられる.したがって,

主治医や担当看護師が緩和ケアニーズのある患者を早期に 同定し,主治医を中心とした適切な緩和ケアが提供され,

必要時には専門的緩和ケアサービスへ紹介できるシステム を構築することが今後求められる.

では,包括的評価をする際には,どのような項目を評価

時間経過

時間経過

時間経過

時間経過

機能 機能

機能 機能

時間経過

時間経過

時間経過

時間経過

機能 機能

機能 機能

2 病の軌跡と緩和ケアアプローチが必要な時期

(Lunney JR, et al. 2003 11)を参考に作図)

突然死 がん

• 全身の機能は比較的良好に保たれた期間が続く

• 死亡前12ヵ月で,急速に状態が悪化する

• 予後の予測が比較的容易

• 急速な転帰

• 機能の低下は瞬間的~数日

• 肺炎をはじめとした感染症の発症などによる急 激な悪化と改善を繰り返しながら穏やかに状態 が悪化する

• 急激な変化が起こったときに,それが改善可能 な変化であるのかどうかの判断がむずかしい

• 死亡直前は比較的急速に変化する

• 全身の機能が低下した時間が長く続く

• 全体的にゆるやかな低下が続き,死亡まで機能 が低下していく

臓器不全(COPD,心不全など) フレイル・認知症など

:緩和ケアが提供されるべき時期

(11)

すればよいのだろうか.以下に評価項目や評価ツールを紹 介する(表

2

).ただし,各症状に特異的な評価方法やツー ルに関しては,本章の

7.

「身体症状の評価とケア」,

8.

「精 神症状の評価とケア」を参照されたい.

1.3.1

全身状態・身体機能

患者はさまざまな程度で日常生活動作(

ADL

)が障害さ れ,心理・社会的な苦痛が増強される.身体機能を評価す ることは,適切なケアや環境を提供するために重要な項目 である.身体機能を評価するツールとして,心不全患者に おいてはニューヨーク心臓協会(

NYHA

)心機能分類があ げられる.また,患者の生活状況を把握するうえでは,基 本的日常生活動作(

BADL

)と手段的日常生活動作(

IADL

) を評価することも重要である.

1.3.2

身体症状・精神症状

身体的・精神的な症状を複数同時に合併することは,循 環器疾患の患者では珍しくない.適切な症状緩和は,緩和 ケアにおける重要な役割の一つでもある.適切な症状緩和 を行うためには患者が抱える苦痛症状をとらえる必要があ る.したがって,包括的な症状評価を継続していくことが 重要である.以下に代表的なツールをあげるが,これらの ツールは各症状に関する一元的評価でしかない点に注意す る必要がある.ここで紹介するツールにより症状をスクリー ニングしたのちに,対応が必要な症状に関しては,各症状 に特異的な多面的な評価を加えることが重要である.

a.  包括的症状評価:患者報告アウトカム尺度

症状は,元来主観的なものであり,患者報告アウトカム

尺度(

PROMs

)は症状評価におけるゴールドスタンダー

ドである.各症状の強度を評価するものとしては,数値評 価スケール(

NRS

)や視覚的評価スケール(

VAS

)が使用 されることが多い.また,複数の症状を同時に評価できる 代表的なツールとしては,エドモントン症状評価システム 改 訂 版(

ESAS-r

),

Integrated Palliative Care Outcome Scale

IPOS

)があげられる.

ESAS-r

は,

8

つの身体・精神症状と全体的な調子に関 して

NRS

を用いて評価するツールである.がん患者を対 象に作成されたスクリーニングツールであるが,心不全を 含めた非がん疾患における症状スクリーニングでも使用さ れている

12)

IPOS

は主要項目として,「身体症状」,「不安や心配,抑 うつ」,「スピリチュアリティ」,「患者と家族のコミュニケー ション」,「病状説明の十分さ」,「経済的,個人的な気がか りに対する対応」から構成されており,症状だけでなく社 会的側面,スピリチュアルな側面なども含むことが特徴で

患者の包括的評価における評価項目と  おもな評価方法・アセスメントツール 評価項目 評価方法・アセスメントツール

全身状態・

身体機能

生活動作

BADL, IADL 心不全

NYHA心機能分類

身体症状・

精神症状

患者報告アウトカム

NRS, VAS, ESAS-r, IPOS 代理評価

STAS-J, IPOS 症状特異的な評価

不安・抑うつ:HADS, PHQ-2,PHQ-9

せん妄:CAM, DST, Nu-DESC

生活の質(QOL)

健康関連QOL(全般的)

SF-36, EQ-5D 疾患特異的QOL

悪性腫瘍:EORTC QLQ-C30 / -C15-PAL,   FACIT

心不全:KCCQ, MLHFQ

心理・社会的な

認知機能スクリーニング

Mini-Cog 高齢者総合的機能評価

G8 screening tool スピリチュアル

な面

スピリチュアルニーズ

FICA, SPIRITual History, HOPE, SpiPas

予後予測

疾患非特異的

サプライズ・クエスチョン, SPICT 疾患特異的

悪性疾患:PPI, PAPスコア, PiPS,   e-prognosis

心不全:SHFM, MAGGIC

BADL: 基本的日常生活動作,IADL: 手段的日常生活動作,NYHA:

ニューヨーク心臓協会,NRS: Numerical Rating Scale,VAS: Visual Analogue Scale,ESAS-r: エドモントン症 状 評 価システム改 訂 版,

IPOS: Integrated Palliative Care Outcome Scale,STAS-J: Support Team Assessment Schedule-Japanese,HADS: Hospital Anxiety and Depression Scale,PHQ-2: Patient Health Questionnaire-2,

PHQ-9: Patient Health Questionnaire-9CAM: Confusion Assessment Method,DST: Delirium Screening Tool,Nu-DESC:

Nursing Delirium Screening Scale,SF-36: Medical Outcome Study Short Forum 36-Item Health Survey,EQ-5D: EuroQol 5 Dimension,

EORTC: European Organization for Research and Treatment of Cancer,FACIT: Functional Assessment of Chronic Illness Therapy Measurement System,KCCQ: カ ン ザ ス シ ティ 心 筋 症 調 査 票,

MLHFQ: ミネソタ心不全質問票,SpiPas: Spiritual Pain Assessment Sheet,SPICT: Supportive and Palliative Care Indicator Tool,PPI:

Palliative Prognostic Index,PAPスコア: Palliative Prognostic Score,

PiPS: Prognosis in Palliative care Study,

SHFM: Seattle heart failure model,MAGGIC: Meta-Analysis Global Group in Chronic Heart Failure

(12)

ある.がん疾患だけでなく,心不全を含めた非がん患者の 評価にも広く使用されている

13)

b.  包括的症状評価:代理評価

症状評価に関しては

PROMs

がゴールドスタンダードで あるが,一方で病状進行に伴い患者の全身状態の悪化や認 知機能障害が合併することで,主観的評価が困難になるこ とがある.そのような場合に,代理報告による「患者中心 のアウトカム評価」が有用となる.包括的症状評価のため の 代 表 的な 代 理 評 価 ツールとしては,

Support Team Assessment Schedule

STAS

)があげられる.

STAS

は患 者の症状および不安や病状認識,家族の不安や病状認識,

患者−家族−医療従事者間のコミュニケーションなどの

9

項目で構成される.さらに,日本語版では症状評価に特化 して,

22

項目の症状を

5

段階で代理評価できる

STAS-J

症 状版が作成されている

14)

.ただし,先述した

IPOS

STAS

の後継版として開発されており,

IPOS

では家族・ケ ア提供者評価用,医療従事者評価用も準備されていること から,今後は代理評価のツールとしても

IPOS

が使用され る機会が増えると考えられる.

c.  症状特異的な評価

詳細については別項に譲りたいが,包括的評価をする際 に必要と考えられるツールを紹介したい.

i. 不安・抑うつ

がん患者における精神症状のスクリーニングツールとし て 代 表 的 な も の に,

Hospital Anxiety and Depression Scale

HADS

),患者健康質問票(

PHQ

-2

PHQ-9

な どがある.どの質問票も短時間で実施可能であり,循環器 疾患の患者でも使用できると考えられる.

ii. せん妄

せん妄のスクリーニングは早期発見・早期介入のために 重要である.適切なスクリーニングツールを用いて評価す ることが 望ましい.代 表 的なものとして,

Confusion Assessment Method

CAM

),

Delirium Screening Tool

DST

),

Nursing Delirium Screening Scale

Nu-DESC

) などがあげられる.

CAM

は急性発症と症状の変動,注意 力障害,まとまりのない思考,意識レベルの変化の

4

項目 で評価できる簡便なツールである.

1.3.3

生活の質(

QOL

緩和ケアの目標は,患者・家族にとって最良の生活の質

QOL

)の達成にある.そのため,

QOL

を評価することは 現在行っているケアや介入の効果を評価するために必須で ある.

QOL

は,身体面,精神面,認知面,機能面,社会 面などの要素により多面的に構成されるものである.した がって,

QOL

評価尺度は,これら多面的な要素を評価で

きるようになっており,基本的には

PROMs

である.

疾患の種類に関わらない全般的な健康関連

QOL

を測定 す る ツ ー ル と し て は,

Medical Outcome Study Short Forum 36-Item Health Survey

SF-36

15)

EuroQol 5 Dimension

EQ-5D

16)

がある.

SF-36

は特定疾患や症状 によらない包括的な健康概念を測定するツールである.

EQ-5D

5

項目の質問で構成される簡便なツールで,質 調整生存年数(

QALY

)を算出するツールとして国際的 にもっとも汎用されている.そのほかに,がん特異的な健 康関連

QOL

測定尺度として,

The European Organization for Research and Treatment of Cancer

EORTC

QLQ-C30

をもとに,緩和ケアの対象患者の負担を考慮し

て項目数を

15

項目に減じた

EORTC QLQ-C15-PAL

が開 発されている

17)

.同じく,がん特異的な健康関連

QOL

尺度をもとに,慢性疾患に特異的な

QOL

測定尺度として 開発されたものとして,

Functional Assessment of Chronic Illness Therapy Measurement System

FACIT

)がある

18)

. 心不全に特異的な評価ツールとしては,カンザスシティ 心筋症調査票(

KCCQ

19)

,ミネソタ心不全質問票(

MLH- FQ

20)

があげられる.

KCCQ

23

項目からなる有効性の 確認された自記式の質問票で,身体的制約,症状,自己効 力感,社会的接点および

QOL

を定量化するものである.

MLHFQ

は,身体面と感情面から構成される

21

項目の自 記式の質問票であり,心不全患者の

QOL

について定量的 に評価できる尺度である.

1.3.4

心理・社会的な面

健康関連

QOL

を評価する際には必ず含まれるものとし て,心理的・社会的な面の項目について触れておきたい.

今後の治療・ケアや療養の目標を患者・家族と意思決定し ていく際には,まずは患者・家族の病状理解を確認してお く必要がある.また,生活史として居宅状況(自宅

/

施設),

就労状況,地域社会での役割,趣味,宗教,患者の性格,

ストレスコーピング(ストレスへの対処方法;問題焦点型 と情動焦点型に分類できる)について評価しておくことも 重要である.患者と今後の治療やケアについて相談する際 には,患者がどの程度情報を知りたいのか,意思決定にど の程度参加したいのか(自分で決めたい

/

家族や医療従事 者と相談して決めたい

/

家族や医療従事者に決めてほし い),医療・療養に関する希望(してほしいこと

/

してほし くないこと),人生観や価値観,死生観や死のイメージ(近 親者との死別経験の有無)なども評価しておくとよい.さ らに,患者が信頼している人,本人の意思を推定する者

(いわゆる代理意思決定者),患者の介護者,医療費を負担

している人なども知っておく必要がある.患者だけでなく

図 7   Seattle Heart Failure Model ( SHFM )
表 6 NURSE Naming 患者の感情を言語化する Understanding 困難な状況や感情を理解していることを伝 える Respecting 相手の感情と存在に敬意を示す Supporting 支援していくことを伝える Exploring 患者の立場になって,その気持ちを探索す る
表 28  特異的肺動脈性肺高血圧症治療薬と代表的な副作用

参照

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