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自制心, 出生率, および資本蓄積

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(1)

著者 宮澤 和俊

雑誌名 經濟學論叢

巻 64

号 3

ページ 839‑855

発行年 2013‑03‑20

権利 同志社大學經濟學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013755

(2)

【論 説】

自制心,出生率,および資本蓄積

宮 澤 和 俊

  

概 要

 個人が何らかの理由で現在偏向的であるとき,個人貯蓄の減少により資本 蓄積が阻害されるのではないかという懸念がある.しかし,現在の経済行動 が長期効果を持つ場合には,マクロ的には資本蓄積が促される可能性があ る.本稿では,Gul and Pesendorfer (2001)の誘惑と自制心(temptation and self-

control)モデルに,Barro and Becker (1989)の出生率内生化のモデルを追加し,

この可能性を理論的に示す.主な結論は次の3つである.第1に,個人の認 識する自制コストが大きいほど,出生率が上昇し,長期成長率が高くなる.

第2に,自制コストが大きいほど1人あたりの所得水準は低下する.最後に,

自制コストが大きいほど,資本成長率は短期的には低いものの長期的には高 くなる.本稿の分析結果は,自制コストの異なる経済を比較するとき,経済 的な豊かさと経済成長の間に負の相関が観察されることを示唆している.

1 は じ め に

 伝統的な経済学は,選択肢が増えることで個人の経済厚生が改善されるこ とを教えてくれる.しかし,近年の行動経済学の発展を背景に,選択肢が増 えることによる心理的コストが認識され,かつ理論分析の基礎が構築されつ

* 名古屋大学,大分大学でのセミナーで貴重なコメントを頂いた.記して感謝申し上げたい.

  本研究は,日本学術振興会科学研究費補助金(課題番号22530190),かんぽ財団平成24年度 研究助成の研究成果の一部である.なお,すべての誤りは著者に属する.

(3)

つある(Gul and Pesendorfer, 2001, 2004)1).また,理論分析の研究成果を踏まえ ながら,政策決定や最適政策に関する応用研究も近年盛んにおこなわれてい る(Krusell et al., 2010; Kumru et al., 2008, 2011; Bucciol, 2011)2)

 一連の研究に共通する特徴の1つは,個人貯蓄の減少である3).裕福な個人 を考えよう.彼は,現在の資産をすべて消費するという選択肢を持つ.しか し実際は,理性的に将来を考え,資産の一部を貯蓄する.Gul and Pesendorfer

(2001)の想定する経済では,この理性的な選択はこの個人にとって必ずしも望

ましいものではない.すべてを消費するという「誘惑(temptation)」を拒むには,

「自制心(self-control)」が必要である.そして,自制心を維持するための心理的

なコストが存在するならば,誘惑を完全に拒否するのではなく,ある程度誘 惑と妥協するような選択が合理的である.その結果,個人の選択は通常の想 定よりも現在偏向的になり,貯蓄が減少する.Gul and Pesendorfer (2001)の想 定する経済は,構造的に,資本蓄積を阻害する要因を持っている.

 本稿の目的は,個人が現在偏向的な選好を持っていたとしても,長期的に は資本蓄積が促される可能性があることを理論的に示すことである.アイディ アは単純である.個人の現在の経済行動は,長期的な経済効果を持つ可能性

1) Gul and Pesendorfer (2001)で提示された特徴的な公理は,

    {x} {x, y} {y}

 である(公理4, p.1408).選択の余地がないとき,yよりもxが選好される.しかし,選択の余 地のある状況は,選択の余地なくxを選ぶ状況よりも選好されないと仮定している.

2) Krusell et al. (2010)は,Judd (1985)の結論とは異なり,最適資本税率は負であることを示して いる.Kumru et al. (2008)は,賦課方式年金の厚生効果を分析している.保険料負担は労働世代 の可処分所得を減少させる.反面,労働期の消費可能性集合が縮小することで,誘惑を退ける ための心理的な自制コストは減少する.効用に占める自制コストのウェイトが大きい経済では,

賦課方式年金は厚生を改善する可能性があることを示している.Kumru et al. (2011)は,公的な 積立方式年金の規模を縮小あるいは廃止するときの厚生損失を分析している.Bucciol (2011)は,

死亡と失業という2つのリスクに直面する個人を想定し,公的年金と雇用保険の厚生効果を分 析している.シュミレーション分析によると,公的年金により経済厚生が改善される可能性が あることが示されている.

3) 近視眼モデルや双曲割引モデルにおいても,通常,同様の性質を持つことが知られている

(Strotz, 1956; Pollak, 1968; Phelps and Pollak, 1968; Laibson, 1997; İmrohoroğlu et al., 2003; Fehr et al., 2008; Cremer and Pestieau, 2011).Salanié and Treich (2006)は,双曲割引モデルにおいて,

貯蓄が過少となるための効用関数の条件を導出している.

(4)

がある.たとえば,親は子どもの数への選好があるとしよう.現在偏向的な 選好を持つ親世代は,そうした選好を持たない者と比較すると,より多くの 子どもを持つだろう.子どもの数が増えると,結果的に,将来の労働供給が 増えるだろう.労働と資本が補完的な生産技術のもとでは,企業の資本需要 が刺激されるだろう.つまり,1人あたりの貯蓄が減ったとしても,人口規 模が拡大することによりマクロの資本蓄積は促されるかもしれない.

 本稿では,Barro and Becker (1989)のモデルを用いて,上述のストーリーを 説明する.主な結論は次の3つである.第1に,個人がより現在偏向的であ る経済ほど,言い換えると,自制心を維持するためのコストが大きい経済ほ ど,均衡経路における出生率が高くなる.第2に,自制コストが大きい経済 ほど,1人あたりの所得水準が低くなる.最後に,自制コストが大きいほど,

資本成長率は短期的には低いものの長期的には高くなる.本稿の分析結果は,

自制コストの異なる経済を比較した場合,経済的な豊かさと経済成長の間に 負の相関が観察されることを示唆している.

 次節ではモデルを導入する.3節では仮定の妥当性と動学的効率性につい て論ずる.最後の節はまとめである.

2 モ デ ル

 2期間世代重複モデルを用いる.毎期,新しい世代が誕生する.各個人は 第1期の労働期に1単位の労働を供給し,労働所得を消費,子どもの養育費,

および貯蓄に配分する.第2期の引退期には資本所得をすべて消費し生涯を 終える.遺産行動は考えない.生産部門は財部門と養育サービス部門からなる.

財部門では投入要素として労働と資本を雇用し,養育サービス部門では労働 のみを雇用すると仮定する.部門間労働移動が完全ならば両部門の賃金率は 一致する.労働,資本,財,養育サービスの4つの市場は完全競争的である.

貿易は考えない.

 t期に生まれた世代を世代tとよぶ.世代tの人口をNtとし,世代tの代表

(5)

的個人の子どもの数(出生率)をntとすると,

    Nt+1

Ntnt (1)  

が成り立つ.

 世代tの個人の第1期,第2期の予算制約式は,それぞれ,

    wt=c1t+ptnt+st (2)  

    Rt+1stc2t+1 (3)  

で与えられる.ここで,c1tは労働期消費,c2t+1は引退期消費,stは貯蓄を表 す.wtは賃金率,Rtは粗利子率であり,ptは子ども1人あたりの養育サービ ス1単位の価格を表している.

 Gul and Pesendorfer (2001, 2004)にしたがい,効用関数を,

    Ut=u(c1t, nt)+βv(c2t+1)-[ ˆVt-V(c1t, nt)] (4)  

とする.ただし,

    Vˆt=max

ˆc1t, ˆnt, ˆst

Vc1t, ˆnt) subject to wt=ˆc1t+ptˆnt+ˆst (5)  

である.

 (4)式中のu(c1t, nt)は労働期の効用を,v(c2t+1)は引退期の効用を表す.

β∈(0, 1)は私的割引要素である.V(c1t, nt)は労働期の配分に対する何らかの 評価関数を表す.誘惑効用(temptation utility)と呼ばれる.(5)式より,ˆst=0で ある.つまり,Vˆtは将来を考慮しないときの最大評価を意味している.(4)式の 最後の項は,最大評価と実際に選択した配分の評価の差を意味しており,誘 惑を退け理性的に将来を考慮した行動をとることの心理的なコストを表して いる.自制コスト(the cost of self-control)と呼ばれる.

 効用関数を次のように特定化する.

    u(c1t, nt)=lnc1t+ρln nt     v(c2t+1)=lnc2t+1

    V(c1t, nt)=λu(c1t, nt)

 ρ>0は子どもの数への選好の強さを表す定数,λ≥ 0は自制コストの大き

(6)

さを表す定数である.

 まず,(5)式から,

    Vˆt=λ[(1+ρ) ln wt-ρln pt+ρln ρ-(1+ρ) ln (1+ρ)]

が得られる.

 次に,(2),(3)式の制約のもとで(4)式を最大化する問題を解くことにより,

出生率,貯蓄が求められる.

    nt= ρ(1+λ) (1+ρ)(1+λ)+β

wt

pt (6)  

    st= β

(1+ρ)(1+λ)+βwt (7)  

 wt, ptが一定であるとすると,出生率ntはλの増加関数,貯蓄stはλの減少 関数である.自制コストが大きいとき,個人は将来よりも現在の効用を重視 する.したがって,労働期の効用に含まれる出生率が上昇し,貯蓄が減少する.

 自制コストは,短期的,長期的に資本蓄積にどのような影響を与えるのだ ろうか.貯蓄の減少は直接的に資本蓄積を阻害する.他方,出生率の上昇は 将来の労働力の増加を意味する.資本と労働が補完的な生産技術のもとでは,

労働の増加により資本の限界生産力が上昇する.その分,企業の資本需要が 増えるから資本蓄積を促す効果を持つだろう.以下,生産技術を特定化し,

一般均衡のフレームワークで均衡経路における出生率と資本蓄積を分析する.

 財生産部門の技術をコブ=ダグラス型生産関数で特定化する.

    Yt=F(Kt, Lt)=AKαtL1−αt

 ここで,Ytは財の生産量,Ktは資本,Ltは労働を表す.α∈(0, 1)は資本分配率,

A>0は技術パラメータである.

 要素市場が完全競争的であるとき,要素価格は,

    wt=(1-α)Akαt (8)  

    Rt=αAktα-1 (9)  

で与えられる.ただし,kt=Kt/Ltは財生産部門における資本労働比率を表す.

(7)

 養育サービスは労働のみを用いて生産され,技術は線型であるとする.

    Let=vYte (10)  

ここで,Yteはサービスの生産量,Lteは労働を表す.v∈(0, 1)は単位費用である.

 サービス市場が完全競争的であるとき,サービス価格は,

    ptvwt (11)  

で与えられる.

 労働,資本,養育サービス,財の4つの市場の均衡条件は,それぞれ,

    Nt=Lt+Let (12)  

    Kt+1Ntst (13)  

    Yte=Nt+1 (14)  

    YtNtc1tNt-1c2tKt (15)  

で与えられる4)

 以下,均衡経路における出生率,1人あたり所得,資本蓄積を分析する.

出生率については次の命題に要約される.

命題 1 出生率は時間を通じて一定であり,

    nt= ρ(1+λ)

v[(1+ρ)(1+λ)+β]≡n(λ) (16)  

で与えられる.(λ)>0である.

証明 (6),(11)式より.□

 解釈は前述の通りである.自制コストが大きいほど個人は将来よりも現在 の効用を重視する.出生率が労働世代の関心であるため出生率が上昇する.

長期均衡では経済成長率は人口成長率,すなわち出生率に一致する.つまり,

自制コストが大きいほど長期成長率は上昇する.

 (1),(10),(14)式より,養育サービス部門の雇用シェアは,

4) 財市場均衡条件(15)式は他の式から導出できる(ワルラス法則)

(8)

    Let

Nt= ρ(1+λ) (1+ρ)(1+λ)+β

で与えられる.λが大きいほど子どもの数が増え,養育サービスへの需要が 増えるため,雇用が財部門からサービス部門へと移動する.

 次に,均衡経路の動学を調べよう.

命題 2 財部門の資本労働比率の時間経路は,

    kt+1=Γ(λ)kαt (17)  

で記述される.ただし,k0K0/ [N0(1-vn(λ))] (K0, N0は所与),     Γ(λ)= β(1-α)A

[(1+ρ)(1+λ)+β][1-vn(λ)]n(λ) (18)  

である.Γ´(λ)<0である.

証明 補論参照.□

 自制コストは3つの経路で財部門の資本労働比率に影響する.第1に,個 人の貯蓄性向である.貯蓄性向の低下により資本労働比率が低下する.第2に,

出生率である.労働人口が増えることにより資本労働比率が低下する.最後に,

部門間労働配分である.子どもの数が増えることにより財部門から養育サー ビス部門に労働が移動する.このため,資本労働比率が上昇する.Γ(λ)の分 母,およびk0の分母に含まれる(1-vn(λ))が労働配分の効果を表している.

 (17)式より,資本労働比率は単調に収束する(kt→k=[Γ(λ)]1-α1 ).自制コ ストが大きいほど長期的には資本労働比率が低下することが分かる.時間経 路も容易に推測できる.資本と労働の初期賦存量および技術が同一である2 つの経済を考えよう.違いは自制コストλだけであるとしよう.自制コスト の大きい経済ではk0の値が大きい.すなわち,初期時点では相対的に賃金率 が高く,利子率が低い.初期の資本労働比率が長期均衡よりも小さい場合,

移行過程で賃金率は徐々に上昇し,利子率は低下する.しかし,長期的には,

(9)

自制コストの大きい経済の方が賃金率の水準が低くなる.つまり,移行過程 のある時点で,2つの経済の賃金率が逆転することが分かる.また,自制コ ストの大きい経済では,初期の資本労働比率と長期均衡の乖離が小さいため,

賃金率の調整速度は遅いだろう.

 次に,経済厚生の指標として,1人あたり所得の時間経路を分析する.t期 の労働者1人あたり所得は,

    ytYt+ptYte

Nt =Akαt[1-αvn(λ)] (19)  

で与えられる.1人あたり所得は長期的に収束する(yty=A[1-αvn(λ)] [Γ(λ)]1-α1 ). n´(λ)>0, Γ´(λ)<0であるから,自制コストが大きい経済ほど,長期的には 1人あたりの所得水準が低くなる.主な原因は賃金率の低下である.子ども の数が増えると養育サービス部門の労働需要が増加するため,短期的には賃 金率を押し上げる力が働く.しかし,長期的には資本労働比率が低下するた め,財部門の賃金率が低下し,均衡賃金率も低下する.利子率は上昇するが,

賃金所得の落ち込みを賄いきれないため,所得水準が低下する.1人あたり 所得の移行過程は次の命題に要約される.

命題 3 1人あたり所得ytの時間経路は,

lnyt=lnA+ln[1-αvn(λ)]+α(1-αt)

1-α lnΓ(λ)+αt+1[lnK0-lnN0-ln[1-vn(λ)]]

(20)  

で記述される.ただし,n(λ)は(16)式,Γ(λ)は(18)式で与えられる.

証明 補論参照.□

 第 1 図は,(20)式を図示したものである5).太い曲線が自制コストのある

5) 資本分配率をα=0.3とする.130年,時間選好率を年率1%とすると,β=1.01-30=0.742

である.このとき,補題5の動学的効率性条件を満たしている.

  自制コストがないときの養育サービス部門の雇用シェアを10%とすると,ρ=0.2である.

(10)

経済における所得の推移を表し(λ=0.2),細い曲線が自制コストのない経済で の推移を表している(λ=0).いずれの経済も,3期ほどで定常状態に収束す ることが分かる.定常値を比較すると,lny(0.2)-lny(0)=-0.077である.

つまり,自制コストがあることにより,1人あたり所得が約7% 減少すること が分かる(exp (-0.077)=0.926).

 最後に資本蓄積を分析する.長期の資本成長率は出生率に一致するため,

自制コストの大きい経済ほど長期的には資本蓄積が促される.しかし,自制 コストにともなう個人貯蓄の落ち込みが生ずるため,短期的な効果は不明で ある.資本の移行過程は次の命題に要約される.

  さらに,自制コストがないときの出生率を年率0.1%とすると(n=1.00130=1.03),v=0.1 ある.初期の資本ストックおよび人口サイズは,K0=N0=1と基準化した.技術パラメータA は裁量の余地があるが,k0<kとなるように設定した(A=10)

第 1 図 1人あたり所得

(11)

命題 4 資本の時間経路は,

    lnKt=αtlnK0+(1-αt)N0+1-αt

1-αln β(1-α)A (1+ρ)(1+λ)+β        -α( 1-αt)

1-α ln [1-vn(λ)]+t-1-αt

1-α lnn(λ) (21)  

で記述される.

証明.補論参照.□

 自制コストλは3つの経路で資本蓄積に影響を与える.第1に,個人の貯 蓄性向である.(21)式の第3項が,貯蓄性向の低下にともなうマイナスの効 果を表している.第2に,出生率である.第5項が出生率のプラスの効果を 表している.係数のマイナスの部分は,(18)式の Γ(λ)を引き下げる効果を 表している.最後の経路は,部門間労働配分である.命題2で述べたように,

財部門の雇用シェア(1-vn(λ))の低下は,資本労働比率を引き上げる効果を持 つ.他方,集計の際は,財部門の雇用が少ないためマイナスの影響を与える.

ネットの効果はプラスである.第4項が労働配分の効果を表している.

 第 2 図は(21)式を図示したものである.太い曲線が自制コストのある経済 における資本の推移を表し(λ=0.2),細い曲線が自制コストのない経済での推 移を表している(λ=0).曲線の傾きが資本成長率を表す.最初の1期間(30年)

では自制コストのある経済の方が資本成長率が低い.しかし,第2期には成 長率はほぼ一致し,第4期には資本ストックの水準も逆転することが分かる.

3 拡 張

3. 1 養育の機会費用

 前節のモデルでは,個人は市場で供給される養育サービスを購入すると仮 定していた.本節では,養育の機会費用を養育費と解釈する.国民所得の計 算を除いて,結果は前節と同じになることを示す.

(12)

 労働期の予算制約式は,

    wt(1-vnt)=c1t+st (2’)  

と修正される.ここで,v∈(0, 1)は子ども1人あたりの養育時間を表す.

 個人の最適化問題より,

    nt= ρ(1+λ) v[(1+ρ)(1+λ)+β]

が得られる.これは,(16)式に一致する.

 養育サービス部門がないため,労働市場の均衡条件は,

    LtNt(1-vnt) (12’)  

と修正される.(12’)式は(12)式と同値であることが容易に確認される.その 他の条件式は変わらないので,資本の蓄積過程は前節と同じである.

 唯一の違いは,家庭内労働という市場化されていない労働を国民経済計算 に算入しない点である.労働者1人あたり所得は,

第 2 図 資本蓄積

(13)

    ˜ytYt

Nt=Akαt[1-vn(λ)] (19’)  

と修正される.(19),(19’)式を比較すると,所得の差は,養育サービス部門 での1人あたり所得であることが確認できる(yt-˜yt=vwtn(λ)).命題3の結果は 定性的には影響されないことが容易に示される.

3. 2 動学的効率性

 本節では,自制コストと動学的効率性の関係を導出する.λが大きいと貯 蓄が減り,資本蓄積が過少になる.資本蓄積を促す政策は移行期の個人の消 費機会を奪うため,パレート改善ではない.つまり,当初の均衡は動学的に 効率である.逆に,λが小さいときは資本が過剰に蓄積されている可能性が ある.このときは,資本を切り崩して移行期の個人に再配分するような政策 によりすべての個人の厚生が改善される.つまり,均衡は動学的に非効率で ある.

 (9),(17)式より,長期均衡における利子率は,

    R=α(1+λ+β)n(λ) β(1-α) となる.したがって,

    R>n(λ)⇔λ>β(1-α)

α -(1+β) (22)  

が成立する.(22)式の右辺が負であれば,すべてのλ≥ 0に対して(22)式が 成立する.すなわち,経済は動学的に効率である.

補題 5 長期均衡が動学的効率であるための十分条件は,

     α

1-α> β

1+β (23)  

である.(23)式が成立しないとき,

(14)

    λ=˜ β(1-α)

α -(1+β)>0

とおくと,0 ≤λ<λのときは動学的非効率,˜ λ>λのときは動学的効率である.˜

4 お わ り に

 本稿では,Gul and Pesendorfer (2001)の経済を想定し,均衡経路における出 生率,所得水準,資本蓄積を分析した.自制コストが大きい経済ほど,出生 率が高く,1人あたり所得水準が低く,長期的な資本成長率が高くなること が示された.本稿の分析結果は,個人の誘惑と自制が,必ずしも資本蓄積に マイナスの影響を与えるものではないことを示している.また,自制コスト の異なる経済を比較したとき,経済的な豊かさと経済成長の間には負の相関 が観察され得ることを示唆している.

 本稿の理論分析はいくつか拡張の余地がある.第1に,現在の経済活動が 長期的な経済効果を持つのは,本稿で想定された親世代が子どもの数への選 好を持つ場合だけに限定されない.たとえば,親世代が子どもの質への利他 心を持つ場合,子どもへの教育投資が強化され,長期成長率に貢献するかも しれない.あるいは,労働世代の消費支出が増えることにより,企業の研究 開発活動が誘発され成長の原動力になるかもしれない.いずれの場合も,本 稿で示されたように,自制コストの大きい経済ほど長期的には資本蓄積が促 されるだろうと予想される.

 第2に,政策評価に関する既存研究の結果を再検討する余地がある.3. 2 節で示されたように,自制コストの小さい経済では動学的非効率になる可能 性がある.こうした状況では,賦課年金に代表される労働世代から高齢世代 への所得移転が望ましいかもしれない.あるいは,国債を用いて直接的に資 本市場に介入するのが望ましいかもしれない.さらに,出生率の上昇は課税 ベースを拡大するという効果を持つため,既存研究では政策効果が過小評価 されている可能性がある.

(15)

 最後に,本稿では1人あたりの所得水準を経済的な豊かさの指標として扱っ ている.功利主義的な視点では,所得水準ではなく,自制コストを考慮した 厚生分析をおこなう必要があるだろう.以上の点は今後の課題である.

補論

[命題2の証明]

 (13)式より,

    kt+1st (1-vnt+1)nt

(A1)  

を得る.(7),(8),(16)式を(A1)式に代入すると,(17),(18)式が得られる.

[命題3の証明]

(17)式で,xt=lnktとおく.

    xt+1=lnΓ(λ)+αxt

これを解くと,

    xt=(1-αt)x*+αtx0 (A2)  

が得られる.ただし,

    x*= 1

1-αlnΓ(λ)

    x0=lnK0-lnN0-ln [1-vn(λ)]

である.

 (A2)式を(19)式に代入すると,(20)式を得る.

[命題4の証明]

Kt=ktLt=kt[1-vn(λ)]N0[n(λ)]tより,

    lnKt=xt+ln [1-vn(λ)]+lnN0+t ln n(λ) (A3)  

を得る.(A2),(18)式を(A3)式に代入して整理すると,(21)式が得られる.

(16)

【参考文献】

Barro, R.J. and G.S. Becker (1989) "Fertility Choice in a Model of Economic Growth,"

Econometrica, 57, 481―501.

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Cremer, H. and P. Pestieau (2011) "Myopia, Redistribution and Pensions," European Economic Review, 55, 165―175.

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Salanié, F. and N. Treich (2006) "Over-savings and Hyperbolic Discounting," European

(17)

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Strotz, R.H. (1956) "Myopia and Inconsistency in Dynamic Utility Maximization," Review of Economic Studies, 23, 165―180.

(みやざわ かずとし・同志社大学経済学部)

(18)

The Doshisha University Economic Review Vol.64 No.3 Abstract

Kazutoshi MIYAZAWA, Self-Control, Fertility, and Capital Accumulation

  It has been argued that present-biased individuals tend to reduce private sav- ings, which discourages capital accumulation in the long term. However, this is not true, if some action chosen by present-biased individuals has a growth-enhancing effect.

  In a simple model of temptation and self-control à la Gul and Pesendorfer (2001), combined with the concept of endogenous fertility à la Barro and Becker (1989), we show that if individuals face strong self-control problems, then (1) fertil- ity is higher, (2) per-capita income is smaller, and (3) the rate of capital growth is lower in the short term, but higher in the long term.

  Our model suggests that a trade-off exists between individual well-being and economic growth, among countries that differ in terms of the cost of self-control.

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