イ ン グ ラ ン ド の カ ウ ン テ ィ ・ コ ー ト ︵ 二 ︶
効率 化 と ア クセ ス 保 障
濱 野
亮
は じ め に 一 カ ウン テ ィ
・コ ー ト の位 置 概 観 近 年 の 制度 改 革 の構 図
︵ 以 上︑
﹃立 教 法 学﹄ 六
〇 号︶ 二 一 九九
〇 年 代の 推 移
︵以 上
︑ 本 号︶ 三 ア クセ ス 保 障の た め の諸 方 策 と 課題 お わ り に
二 一 九 九〇 年 代 の 推 移 1
︶ カウ ン テ ィ・ コ ー ト の手 続 が 開 始 され る パ タ ーン は
︑ 大 き く︑ 二 つ の 類型 に 区 別 さ れる
fo rm
︒is su in g a cl a im
︵わ が 国 の訴 状 の 提出 に 相 当︶ と
︑ 申 立
p et it io n
︵ 個 人及 び 会 社破 産 申 立︑ 離 婚・ 別 居 申 立︑ 養 子 申 立1
等
︶ で あ2
る
︒ 前 者 を 訴 訟事 件
︑ 後 者 を申 立 事 件 と呼 ぶ と す れ ば︑ 次 に 示 すよ う に
︑ カ ウン テ ィ
・ コー ト 全 体 で は︑ 訴 訟 事 件が 多 数 を 占 め てい る
︒
カウ ン テ ィ
・ コー ト の 訴 訟新 受 件 数 を 訴額 別 に み ると
︑ 一 九九 九 年 度 で
︑新 受 件 数 の 四 七・ 三
% が 千 ポ ン ド︵ 日 本 円で 約 二
〇万 円
︶ 以 下
︑二 八・ 六
% が 千 ポ ンド 超 五 千 ポン ド
︵ 約 一
〇〇 万 円
︶以 下
︑ す な わち
︑ 原 則 と し3
て 少 額 請 求 ト ラ ッ ク
sm a ll cl a im s tr a ck
︵ 一九 九 九 年四 月 か ら施 行 さ れた 新 民 事 訴 訟 規 則 に 基 づ く
︶ に 該 当 す る 事 件 が 七 五
・ 九
% を 占 め4
る︒ 五 千 ポ ン ド 超 一 万 五 千 ポ ン ド 以 下
︵ 原 則 と し て 迅 速 トラ ッ クfasttrack
に 該 当
︶ が八
・ 九
% で あり
︑ 一 万 五千 ポ ン ド超 二 万 五 千 ポン ド
︵ 約五
〇
〇 万円
︶ 以 下 が 三・ 二
%で あ る
︒前 稿 で 述 べ たよ う5
に
︑ ここ ま で が 裁 判所 の 振 り 分け 政 策 上︑ 原 則 と し てカ ウ ン テ ィ・ コ ー ト で 審理 す る の が適 切 と され て い る ゾ ー ン6
で
︑ 八 八% を 占 め て いる
︒ 二 万 五千 ポ ン ド 超 は 一・ 二
% に す ぎ な い
︒ こ の 他
cl a im s
にu n liq u id a te d
︵ 金 額 が 特 定 さ れ な い 請 求
︶ が 一
〇
・ 八
% を 占 め て い7
る︒ 日 本 の 簡 易 裁 判 所 の 事 物 管 轄 上 限
︵九
〇 万 円
︶ に ほ ぼ 相当 す る 一
〇
〇万 円 以 下 の事 件 が 多 く を占 め て い るも の の
︑一 割 程 度 は それ を 超 え 五〇
〇 万 円 に 及ぶ こ と も あり
︑ 一 般市 民 に と っ ては 少 額 と はい え な い 事 件も カ バ ー して い る 点に 注 意 す る 必要 が あ る
︒
金銭請求訴訟 不動産明渡請求訴訟 個人破産申立 会社清算申立 養子縁組申立 離婚・別居等申立
[図 1] カウンティ・コートの新受件数の内訳 訴訟と主要申立(1999年)
次 に
︑訴 訟 と 各 種申 立 を あ わ せた 新 受 事 件の 内 容 別 内 訳 を 見 て み よ う
︵﹇
8
図 1
﹈
︒ 一 九 九 九 年 度 の カ ウン テ ィ
・ コー ト 新 受 件 数合 計 は
︑ 約二 一 九 万 件
︑う ち
︑ 最 も多 く を 占 め るの が 金 銭 請求 訴 訟 で 八
〇・ 二
%
︵約 一 七 六万 件
︑続 い て 不 動 産 明 渡 請 求 訴訟 が 一
〇・ 九
%
︵約 二 四 万件
︶ で あ り︑ こ の 二 つ で新 受 件 数 の九 割 以 上 を 占め て い る
︒そ の 他 と し ては
︑ 家 事 事件 の う ち 離 婚・ 婚 姻 無 効・ 裁 判 手 続 に 基 づ く 別 居
ju d ic ia l se p a ra tio n
の 各 申 立 合 計 で 七・ 六
%
︵ 約 一 七 万 件
︑ 個 人 破 産 申 立
〇
・ 八 七
%
︵約 二 万 件
︶ と 続 い て い る︒ 金 銭 請 求 事 件 が 圧倒 的 多 数 を占 め
︑ 取 立 機関 と し て の一 面 を 示 し て い る
︒ そ れ に 続 く
︑ 賃 貸 住 宅 明 渡 訴 訟 や
︑ 住 宅 ロ ー ン 債 務 不 履 行
︵ 譲 渡 抵 当 権 の 実 行
︶ に よ る 不動 産 明 渡 訴9
訟 は
︑ 正 義 への ア ク セ スの 点 か ら も 注目 さ れ て いる
︒ す な わ ち︑ 後 に 述 べる よ う に
︑ 不動 産 明 渡 訴訟 は イ ン グ ラン ド で は カウ ン テ ィ
・ コー ト で 主 に扱 わ れ
︑ か つ近 年 増 加 して い る
︒ そ して
︑ 敗 訴 した 場 合 の 被 告へ の イ ン パク ト
イングランドのカウンティ・コート(2)(濱野 亮)
[図 2] カウンティ・コートの訴訟新受件数 金銭請求訴訟と不動産明渡請求訴訟
不動産明渡請求訴訟 金銭請求訴訟 4000000
3500000 3000000 2500000 2000000 1500000 1000000 500000
81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 0
の 大 き さ から
︑ 法 律 相 談︑ 本 人 訴 訟支 援 や 法 律 扶助 の 重 要 性が 政 府 に よ って も 認 識 され る に 至 っ てい る の で ある
︒ そ こ で
︑ カ ウ ン テ ィ
・ コ ー ト の 新 受 件 数 の 推 移 を
︑ 金 銭 請 求 訴 訟 と 不 動 産 明 渡 請 求 訴 訟 に 限 定 し て 見 て み よ う
︵﹇ 図 2
﹈
︒ カ ウ ンテ ィ・ コ ー ト 全 体の 新 受 件 数の う ち
︑ こ の二 つ の 事 件が 占 め る 比 率は
︑ 一 九 九九 年 度 で
︑ 九一
・ 一
% で あ り︑ こ の 動 き が︑ カ ウ ン ティ
・ コ ー ト 全体 の 動 向 を示 し て い る と見 て よ い
︒ 制 度 の 変更 の た め
︑ 統計 上 多 少 の不 統 一 は あ るが
︑ カ ウ ンテ ィ
・ コ ー トに お け る 金銭 請 求 訴 訟 と不 動 産 明 渡訴 訟 の 合 計 新 受件 数 は
︑ 戦 前か ら 一 九 七〇 年 代 末 ま で︑ ほ ぼ 同 一の 水 準
︵ 一二
〇 万 ない し 一 五〇 万 件
︶ で推 移 し て き10
た
︒ し か し な がら
︑ 一 九 八
〇年 前 後 か ら顕 著 な 増 加 傾向 を 示 し
︑一 九 九
〇 年 には 約 三 八
〇万 件 に 達 し た︒ 先 の い わば 衡 水 準 の 二倍 を 超 え る レベ ル で あ る︒ こ の よ う な 傾 向 に 寄 与 し て い る の は︑
﹇ 図 2
﹈か ら 明 ら か な よ う に 金 銭 請 求 訴 訟 で ある
︒ 興 味 深 いこ と は
︑ この よ う に
︑ 一九 八
〇 年 前後 以 降
︑ 新 受件 数 が 増 加傾 向 を 強 め るの は
︑ 別 稿で 示 し た よ う11
に︑ わ が 国 の 簡易 裁 判 所
︑地 方 裁 判 所 の新 受 件 数 の動 向 と 共 通 して い る 点 であ る
︒ 元 来
︑ カウ ン テ ィ
・ コー ト や 簡 易裁 判 所 は
︑ 市民 の た め の身 近 な 権 利 実現 の 手 続
︑紛 争 解 決 の 場を 制 度 上 標榜 し て き た も のの
︑ 現 実 に は︑ 企 業
︵業 者
︶ に よる 少 額 債 権 取立 訴 訟 に 占 領 さ れ る 傾 向 が あ っ た︒ こ れ が
︑ ク レ ジ ッ ト カ ー ド や 消費 者 金 融 の 普及
︑ 割 賦 販売 の 大 衆 化
︑す な わ ち 消費 者 信 用 の 膨張 と と も に一 層 顕 著 に なる
︒ 一 九 八〇 年 代 は イ ン グラ ン ド に お いて も
︑ ク レジ ッ ト カ ー ド︵ サ ッ チャ ー 政 権下 の 持 ち 家 促 進 政 策 に よ る 住 宅 ロ ー ン も こ れ に 加 わ る
︶ な ど を通 じ て 消 費者
︵ 特 にlowermiddleclass
とworkingclass
︶ に 対 する 信 用 供 与が 著 し く か つ急 速 に 拡 大し た 時 期 で あ っ12
た
︒ 一 九 八
〇年 代 を 画 期と す る 金 銭 請求 訴 訟 と 不動 産 明 渡 訴 訟合 計 新 受 件数 の 動 き は
︑こ れ と 符 合し て い る
︒ 消 費 者 信用 に お い て 債務 不 履 行 は一 定 の 確 率 で折 り 込 み ずみ で あ り
︑ その 点 で
︑ カウ ン テ ィ
・ コー ト や 簡 易裁 判 所 は
︑ 現 代の 消 費 社 会 が成 立 す る 上で 不 可 欠 の 機構 と し て 洋の 東 西 を 問 わず 機 能 す るに 至 っ て い る︒ そ こ で は︑ 債
務 者 た る 消費 者 に 対 す る法 律 情 報 の提 供
︑ 法 的 に正 当 な 権 利の 保 障
︑ 合 理的 で 妥 当 な債 務 整 理 の 実現
︑ す な わち 正 義 へ の ア クセ ス が 重 要 課題 に な る
︒他 方 で
︑ こ れら 以 外 の 紛争 類 型 に 関 して 一 般 市 民に 正 義 と 紛 争解 決 の 場 を提 供 す る と い うカ ウ ン テ ィ
・コ ー ト 等 本来 の 理 念 に 照ら し て
︑ 制度 の あ り 方 を再 す る 動き が 法 的 空 間の 内 外 か ら生 ま れ ざ る を 得な い 宿 命 に ある
︒ イ ン グラ ン ド の 場 合︑ こ れ に 加え て
︑ 前 稿 で述 べ た
︑ カウ ン テ ィ
・ コー ト と ハ イ・ コ ー ト の 歴 史に 由 来 す る 両者 間 関 係 の非 合 理 性
︑ バリ ス タ と ソリ シ タ の 二 分制 が も た らす 葛 藤 と 矛 盾が 関 係 者 に意 識 さ れ ざ る を得 な い 状 況 にあ り
︑ 新 受 件 数 の 急 増 と そ れ に 伴 う 訴 訟 遅 延
︵後 に 示 す よ う に カ ウ ン テ ィ・ コ ー ト だ け で な く
︑ ハイ
・コ ート も 同 様︶ と い っ た 司法 の 機 能 不 全は
︑ 単 純 な効 率 化
︑ 事 物管 轄 の 改 正で は 済 ま な い抜 本 的 な 改革 を 要 請 す る 結果 と な る
︒ サッ チ ャ ー 政権 下 で の 福 祉国 家 解 体 政策
︑ 専 門 職 階層 へ の 攻 撃︑ 競 争 原 理 の強 化 政 策 を触 媒 と し て
︑ 一九 九
〇 年 の 改革 に よ り 裁判 所 制 度 と 法律 家 制 度 の原 理 的 改 革 に先 鞭 が つ けら れ
︑ 一 九 九〇 年 代 の 民事 司 法 改 革 に よる 訴 訟 抑 制 政策 と リ ー ガル エ イ ド 制 度の 根 本 的 改造 に つ な が って い く わ けで あ る
︒ そ の こ とを 鮮 明 に 司 法統 計 は 示 して い る
︵ 前掲
﹇ 図 2
﹈ 参 照
︒ す な わ ち
︑ カ ウ ン テ ィ
・ コ ー ト の 新 受 件 数 は
︑ 一 九 八
〇 年代 末 と 一 九 九〇 年 代 初 頭の 間 に 大 き な断 層 が あ り︑ 一 九 九
〇 年代 初 等 は
︑一 段 高 い 水 準に な っ て いる
︒ こ れ は
︑ 先に 述 べ た 一 九九
〇 年 の 裁判 所 お よ び リー ガ ル
・ サー ビ ス 法
︵CourtsandLegalServicesAct
︶ の 制 定に よ り
︑ 従 来 ハイ
・ コ ー ト で扱 わ れ て いた 事 件 の 多 くが カ ウ ン ティ
・ コ ー ト で扱 わ れ る よう に な っ た 結果 で あ る
︒し か し な が ら
︑一 九 九 一 年 以降 は
︑ 新 受件 数 は 緩 や かに 減 少 を 続け
︑ 一 九 九 八年 に は 一 九八 八 年 の 水 準︵ 二 三
〇 万 件 弱
︶ に 戻 っ て いる
︒ 一 九 九 九年 四 月 か らは ウ ル フ 改 革に 基 づ く 新し い 民 事 訴 訟規 則 が 施 行さ れ て い る が︑ 一 九 九 九年 の 新 受 件 数 は︑ 一 九 九 八 年ま で の 水 準よ り さ ら に 低く な っ て いる
︒ ウ ル フ 改革 は
︑ 訴 訟提 起 を 抑 制 する 様 々 な 工夫 を 施 し て お り︑ そ の 効 果 が現 れ て い る可 能 性 が あ り︑ ま た
︑ コミ ュ ニ テ ィ
・リ ー ガ ル
・サ ー ビ ス の 導入 に 伴 う リー ガ ル エ イ ド 改造
︵ 条 件付 成 功 報酬 に よ る代 替 を 含む
︶ の 影 響 が予 想 さ れ る︒ そ れ ら を 見 き わ め る に は
︑ 今 後 さ ら に 推 移
イングランドのカウンティ・コート(2)(濱野 亮)
を み る必 要 が あ るも の の
︑ 最 新の 司 法 統 計に よ れ ば
︑ 二〇
〇 一 年 まで カ ウ ン ティ
・ コ ー トの 金 銭 請 求 訴訟 と 不 動 産明 渡 訴 訟 の 合計 新 受 件 数は
︑ 一 貫 して 減 少 を 続け て い る の で あ13
る
︒ 以 上の 動 き は
︑圧 倒 的 多 数 を占 め る 金 銭請 求 訴 訟 の 動き を 反 映 して い る
︒ これ に 対 し て︑ 不 動 産 明 渡訴 訟 は
︑ かつ て は 金 銭 請求 訴 訟 と の合 計 数 の 七% 程 度
︵一 九 九
〇年
︶ で あ っ たが
︑ 近 年
︑比 率 を 高 め てき て い る
︒ す な わち
︑ 不 動 産明 渡 訴 訟 が 合計 件 数 に 占め る 比 率 は 一九 九 四 年 に六
・ 四
% と底 を 打 ち
︑以 後 上 昇
︑ 一九 九 九 年 には 一 二
% を 占め て い る
︒上 昇 傾 向 は そ の 後 も 続 い て い る
︵二
〇
〇 一 年 で 一 三
・ 六14
%
︒ 後 に 述 べ る よ う に
︑ 不動 産 明 渡 訴訟 の 被 告 の ため の 助 言
・支 援 サ ー ビ スス キ ー ム がカ ウ ン テ ィ・ コ ー ト をベ ー ス に コ ミュ ニ テ ィ
・リ ー ガ ル
・ サー ビ ス の 一環 と し て 展開 し つ つ ある が
︑ そ の 背景 の 一 つ には
︑ こ う し た不 動 産 明 渡訴 訟 の 比 重の 増 大 が ある
︒ 不 動 産 明渡 訴 訟 は ハイ
・ コ ー ト にも 管 轄 権 があ る が
︑ 大部 分 は カ ウン テ ィ
・ コ ート で 扱 わ れて い15
る
︒ そ して
︑ 同 じ カウ ン テ ィ
・コ ー ト を 舞台 に し た 事 件で あ っ て も︑ 少 額 の 金 銭請 求 訴 訟 と比 較 し て
︑不 動 産 明 渡訴 訟 は
︑ 被 告に と っ て
︑そ の 結 果 が 生活 の 継 続 不能 に 直 結 する 深 刻 な ケー ス が 少 な く な く︑
so ci a l ex cl u si o n
の 問 題 と し て ホ ー ム レス な ど の 権利 保 護
・ 生 活保 障
・ 社 会へ の 統 合 が 真剣 に 議 論 され
︑ 労 働 党政 府 が 重 要な 政 策 的 論 点と し て と りあ げ て い る ため
︑ 注 目 を集 め
[図 3] カウンティ・コートの不動産明渡請求訴訟新受件数の内訳(1999年)
地方自治体による譲渡抵当権に基づく明渡 他の主体による譲渡抵当権に基づく明渡 地方自治体、住宅団体によるその他の明渡 私人の家主によるその他の明渡