社会的経済におけるサービスの交換関係 227 VictorA.Pestofrは,社会を構成する領域として,国家(公共セクター), 市場(民間営利セクター),コミュニティを3角形で表し,国家や市場, コミュニティそれぞれの欠陥を補う存在として社会的経済をその中心に位 置づけた(図1)4。 図1 社会的経済の位置づけ
Victor A. Pestoff, "Third Sector and C0-Operative
Service-AnAlternative to ProvatiZation", Journal of Consumer Policy,
社会的経済におけるサービスの交換関係 229 2-2.社会的企業の諸特性 社会的企業は,経済問題や福祉問題,人々の社会的秤の希薄化といった 社会問題の解決(社会的使命の遂行)をとおして新しい市民社会を多様な 方法で実現しようする経済組織である。それらは特に,医療,文化,余暇, 福祉といった「社会サービス,コミュニティ・ケア・サービス,社会的共 通サービス(social, community care and collective seⅣices)7」の提供に
集中している。これらの分野は,労働集約型技術が必要で,努力をチェッ クするのが難しく,消費者が生産費用のすべてを支払えないような生活領 域である。そのため,社会的企業は,経営資源の多くをボランティアや寄 付といった「互酬の諸規範と市民参画のネットワークポ」によって支えら れている。社会的企業は,互酬関係にもとづく「社会資本(Socialcapi-tal)」9に由来することで,公共財に準ずる財やサービスを低コストで提供 し,経済社会全体における資源の分配機能を果たしている。 社会的企業は一般に人々の協同性と非営利の事業性を併せもっている。 協同性とは,メンバーやコミュニティに共通した社会的ニーズに対して, メンバーが力を合わせて助け合 いながら取り組むことをいう。 非営利の事業性とは,収益性を 第一義としない経済活動である。 こうした性格をもつが故に,社 会的企業はその事業特性によっ て,既存の協同組合や非営利組 織との接点を深めながら動態的 に変化していく(図2)。 社会的企業における協同労働 は,資本に雇われるのではなく, 自らが自らを雇うという主体的 図2 社会的企業の概念 協同組合 ワーカーズ コープ 非嘗利組織 アドポカシー 型NPO
236 から販売に至るすべてのプロセスにおいてみられるO さらに,社会的企業は取引をとおして相互的サービスの関係を地域社会 に実現するO それは,契約にもとづいて取引関係を提携・決済する市場取 引や,政府による財の再配分と異なるところであり,社会的企業が依拠す る交換関係の特殊性でもあるO こうした交換関係を図示すると以下のようになる(図 3)0 図3 社会的経済における交換関係
者による評価・支援のプロセス解明も重要な課題である。 以上の点を踏まえた上で,今後は個々の社会的企業をケースとして,社 会的経済におけるサービス研究を行っていくことが課題となる。 [参考文献] ・林雄二郎・今円息編『改訂・フィランソロピーの思想-NPOとボランティア-』 日本経済評論社, 2000年。
・ Jacques Defoumyand Jos6 L Monz6n Campos (eds.) , Econo'nie sociale Entre
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沢賢治他訳『社会的経済-近未来の社会経済システム-』日本経済評論社, 1995年).
・金子郁容・松岡正剛・下河辺淳著『ボランタリー経済の誕生-自発する経済と コミュニティ-』実業之日本社, 1998年o
・金子郁容著『新版 コミュニティ・ソリューション』岩波書店, 2002年.
・ Karl Polanyi, The liL・elihood of man, Academic Press, 1977 (玉野井芳郎,栗本慎
一郎訳『人間の経済-市場社会の虚構性-Ⅰ ・ Ⅱ』岩波書店, 1998年). ・ Lester M. Salamon, America's Nonprpfit Sector, The Foundation Center, 1992
社会的経済におけるサーピスの交換関係 239 2 Jacques Defourny, The Emergence of Social Enterprise, Carlo Borzaga
&
Jac崎ques Defourny (eds.) , Routledge, 2001 (内山哲朗・石塚秀雄・柳沢敏勝訳『社 会的企業一一一雇用・福祉のEUサードセクタ一一一j
r
緒論 サードセクターから 社会的企業へ」日本経済評論社, 2004年) .3 OECD,Sociα1 Enterprise, OECD Publications, 1999, p 7.
4 Victor A. Pestoff
“
,
Third Sector and Co-operative Service--An Al ternative to Provatization", Journal ofConsumer Policy, No.15, 1992 (岩田正美訳「ソーシャル・サーピスの第3部門一一社会福祉の民営化に関するもう一つの選択肢 一一j r生協総研レポートjNo.5, 1993年) . 5 富沢賢治著『社会的経済セクターの分析一一民間非営利組織の理論と実践一一』 岩波書店, 1999年, 29-30頁。 市場経済(商品経済・貨幣経済)とは,生活に必要な財やサーピスが商品とし て市場に提供され,貨幣を媒介手段として交換が行われ,社会全体の需要と供給 は価格をバロメーターとする市場機構によって調節されるシステムである。この 市場経済の発展を前提として,資本家が労働者を雇い利潤追求を原動力として動 く経済体制が資本主義である。しかし,
r
資本主義経済=市場経済一般 j,r
市場化 =資本主義化 j,r
経済的価値=貨幣価値J
という図式がしばしば一般的に用いら れている現状に対して,r
経済」の本来の目的(生活)と手段(貨幣)との関係を 明示することは重要である。 6 Jacques Defourny, op.cit. 7 Carlo BOI羽 ga& Al be吋oBacchiega, opリ cit,Carlo Borzaga & Jacques De -fourny (eds.), r16章社会的企業のインセンテイブ構造j).8 Robert D. Putnam
,
Mαking Democracy Work: Civic Traditions in Modern It -αly, Princeton University Press, 1993 (河田潤ー訳『哲学する民主主義一一イ云統 と改革の市民的構造一一一jNTT出版, 2001年) . 9 社会資本とは,信頼,社会規範,ネットワークといった社会組織(自発的協力 を促進して社会の効率を上げる社会的グループ)の諸特性であり,協調行動を促 進することによって社会の効率を高める働きをするものである。社会資本のある ところには,さらに社会資本が集積され,信頼,社会規範,ネットワークは使え ば使うほど増加し,使わなければ減少する。 RobertD. Putnam, op. cit.10 Marthe Nyssens & Jean-Louis Laville, opリ cit,C訂10Borzaga& J acques De
-fourny (eds.) , 1f( 8章社会的企業と社会経済理論j).
11 Marthe Nyssens
&
Jean-Louis Laville, opリ cit.この点に関してAlexanderF.L副剖aw,Co-oper,αtives in the yeαr2000 (日本協同組合学会訳編『西暦 2000年に
動の抱える「3つの危機」として, ①信頼性の危機・-・協同組合という考え自体 が社会から信頼を得られないような状況, (彰経常の危機-・・・・協同組合に適合的な 事業経営のあり方が構築できずに失敗してしまう状況, ③思想性の危機--協同
組合運動の本来の目的や独自の役割を見失い,他の企業と同様に商業的な成功以
上は何もしないような状況が指摘されている。
12 PercivalWhite and Walter S. Hayward, Marketing Practice, Page & C0., 1924,
p.288.
13 John.F. Pyle, Marketing Principles, Organization and Policies, McGrawIHill BookC0., Inc., 1931, p.276.
14 Robert C. Judd, "The Case for Redefining Services", Journal ofMarheting,
Vol.28, No.1, January, 1964, pp.58-59.
15 William J. Regan, "The Service Revolution", Journal oFMarketing, Vol. 27,
No.3, July, pp.57-62, 1963。 Reganは,第三次産業への所得や就労人目の移行 といった産業構造の変化のほかに,次のようなサービス業の発展要因を指摘した。 ①有形財の国内市場が飽和状態になってきた結果,大企業は事業拡大の機会(ど ジネス・チャンス)をサービスの分野に求めるようになったこと。 ②製造業で用 いられてきた大量生産技術がサービスの分野で採用され,サービスの工業化が進 んだこと。 (彰企業によるサービスの大量供給システムによってサービスが次第に 大衆化していったこと。 ④人的配慮の代わりに物的設備を用いることでサービス の定型化・標準化が進んだ結果,サービスに対する消費者の期待が画一-化されて いったこと。
16 John M. Rathmell, "What is meant by Service?", Journal ofMarheting, Vol. 30,
No. 3, 1966, pp. 32136. Patric E. Murphy & Ben M. Enis, "Classiかing
Prod-ucts Strategically," Journal of Marketing, Vol. 50, No. 3, 1985, pp. 24142. Martin L. Bell, "Some Strategy Implications of a Matrix Approach to the Classi-fication of Marketing Goods and Services'', Journal of the AcadeTny OFMarketing
Science, Vol.14, No.1, 1986, pp.13-20.ここででは,触知可能性(tangibility)
の程度と,顧客の関与(involvement)の程度とを軸に,商品とサービスを包括し た分類方法(マトリックス)が提示されている。
17 G. Lynn Shostack, "Breaking Free From Product Marketing," JouT・nal
ofMar-keting, Vol.41. No. 1, 1977, pp.73180.
社会的経済におけるサービスの交換関係 241 19 James Donnelly and William RH. George. , eds., Mαrketing of Service, Am eri
-can Marketing Association, 1981.
20 A. Parasuraman, Valarie Zeithaml, and Leonard L. Beロγ,Servqual:αmulti -ple-item scαle for meαsuring customer perceptions of service quαlity, Marketing
Science Institute, 1986.
21 山本昭二『サービス・クオリティ:サービス品質の評価過程』千倉書房, 1999
年。
22 Christopher H. Lovelock
&
Charles Weinberg, .B Public&
Nonprofit Mαrket -ing, 1989(渡辺好章・梅沢昌太郎訳『公共・非営利のマーケテイング』白桃書房,1991年). Philip Ko1 et r, Mαrketing for Nonproβt Orgαnizαtion, Prentice-Hall,
1975(井関利明他訳『非営利組織のマーケテイング戦略』第一法規出版, 1991年)
23 Christopher H. Lovelock& Charles Weinberg.B ,前掲書。