英文和訳の誤答分析に基づく文法指導の改善 長 尾 敦 子
キーワード:英文和訳における誤答分析、誤答分析と文法指導、外国語教育における母語の 活用
error analysis in English-Japanese translation, error analysis and grammar instruction, active use of oneʼs native language in a foreign language education
1.序論
文科省が「使える英語」に力点を移し、コミュニケーション力の育成が中高の英語教育の 最優先課題となってから、文法を軽視する傾向が見られる。学生の中には、「英語を話せる ようになるためには、難しい文法なんか不要だ」と信じ込んでいる者もいる。しかし、文法 が分からないままで、適切なコミュニケーションは取れない。深淵なテーマに関する意見交 換はもとより、ちょっとした日常生活の中でのコミュニケーションですら、文法事項をマス ターしていなければ、成り立たない。例えば、翌日の予定を友達同士で決めようとすれば、
未来形(“Iʼd like to go hiking tomorrow.”「明日は、ハイキングに行きたいな」)や条件法
(“If it rains tomorrow, shall we go to movies, instead?”「もし雨なら、映画にしようか」)
が使えなければならない。したがって、コミュニケーション重視と言っても、文法事項の知 識は必須である。それゆえ、筆者は、英語のReadingの授業で、1文ずつきちんと訳す練習 を積ませることによって、中高で培って来た文法知識の土台を固め、語彙・イディオムも増 やすことで、将来、各自が英語で読みたいと思ったものが読めるようになるように指導に努 めてきた。ところが、近年、中高の6年間の英語教育で学んで来た筈の文法や語彙の知識の 定着が、非常に疑われるようになってきた。本研究は、その原因が、文法事項や語彙・イディ オムなどの知識の不足によるものか、そもそも日本語の読解力や語彙力の不足によるものな のか、などの点を明らかにし、その対応方法を検討することによってより効果的な指導を探 ることを目的とする。その第1段階として文法事項に関わる問題を取り上げる。
2.データとその収集の方法
対象の学生は、人間科学科のトップレベルのクラス(TOEICの得点に換算すると425 〜 575)に属している1年生の学生達(のべ150人)で、分析対象の題材は、Timeに掲載され ている記事や特集の中から、適当な長さ、かつ、学生達の興味の有りそうなものを選んだ(出 所については下記資料の項を参照)。分析の対象としたのは、Reading試験(辞書持ち込み 可)の下線部訳である。(試験では、下線部訳に加えて、paragraph毎の要約も課している。)
下線を施す箇所は、構文的に難しそうなところ、前文の内容を受ける代名詞を含んでいるも の、関係代名詞節や不定詞など文法知識の正確な理解が問われるところなどである。辞書持 ち込み可なので、調べれば分かる熟語などは、原則、ターゲットにはしていない。本研究の データ収集期間は、2017年度後期から2018年度前期の一年間であり、試験7回分である。
因みに、この授業の形態は、まず、初見の題材の試験をやり、翌週からは、その題材の全訳 と要約のやり直し(試験では、下線部のみの訳だが、授業では、全文を訳す)を行う。題材 の長さや学生達の理解度に応じて、3 〜 4回掛かるので、概して言えば、1題材を1ヶ月位 掛けて読むことになる。尚、ここに書いた指導法のいくつかは、実際に授業で行っているも のではあるが、効果の程の検証は、今後の課題としたい。
3.分析
具体的分析方法に関して、訳例は、紙面の関係で最小限に留め、それ以外のものについて は事例数とパーセント(%)で示すことにする。これらのテストで見られた問題点のいくつ かをあげておくと、並列構造、構文関係、間接疑問文、副詞節関係、同格関係、比較構文、
動詞関係、someなどの要素、指示の問題、動名詞、関係節、受動態、否定辞の倒置などで あった。これらの中から比較的広く見られる誤りのなかで、特に注意する必要があると考え られる項目を分析の対象とした。提示の順序は、最初に課題と模範訳を示し、その課題で見 るべき学習の要点を示す。次に、具体的分析を提示し、問題点を指摘する。最後に、それら の問題点を学生が克服できるようにするためには、どのような指導が必要であるかについて 要点を簡潔に述べる。尚、文法に関する説明については、江川(1991)や中村(2018)を 参考にした。
(1)動名詞の問題
課題1. Analyzing the response and grammar mistakes allowed them to draw unusually precise conclusions about language learning.
模範訳:テストの解答や文法上の間違いの分析は、Hartshoneらに言語学習について、非常 に明確な結論を導き出させた。
学習の要点:動名詞の特性の理解 分析
訳例a. 回答と文法のミスの分析は、実験者に言語習得において、いつもとは違う正確な 結果を導かせた。(下線は問題の箇所を示すために筆者が補足したもの、以下同 様)
•動名詞は理解している。このように、構造の把握が出来たものは、約35%(17例中 6例)であった。
訳例b. 解答の分析や文法の間違いの分析をすると、言語能力について普通ではないよう な答えだった。
• 分詞構文 When analyzing~ と誤認している。この間違いは約 18%(17 例中 3 例)
にみられた。
一方、動名詞が前置詞の後にくる課題の理解は、比較的正確であった。
課題2. By doing so, itʼs possible to become conversationally proficient―even without the advantage of a childʼs brain.
模範訳:自分が学びたい言語の母国語話者の住む共同体で、彼らと会話をすることで、その 言語による会話には不自由しなくなることが可能である―「こどもの脳」という利 点がなくても。
訳例a. 真似ることにより、子供の脳の長所であるようにうちとけて熟練されたようにな ることが可能である。
訳例b. 外国語を話す人達と会話をすることによって、うちとけて、堪能になるのは、可 能だ。子供の脳という有利な点無しで。
このようにby +動名詞という構造に限れば、約59%(17例中10例)が正解であった。
これに対して、課題1の訳例(b)同様に、主語の位置に動名詞があると分詞構文と誤っ て解釈する例がほかにも見られた。
課題3. For those billions, gaining access to air-conditioning isnʼt just a luxury.
模範訳:熱帯地方に住みながら、エアコンを持てない莫大な数の人々にとって、エアコンを 利用出来るようになることは、単なる贅沢ではない。
訳例 冷房を利用する28億人の人々にとって、ただ贅沢なことではない。
• 動名詞構造を現在分詞と捉え間違えている。この誤りは、約 35%(20 例中 7 例)
に見られた。
問題点の指導内容:
動名詞が文頭にあると分詞構文と混同するなど、動名詞と分詞の区別がはっきりしないと いう問題がある。このような問題に対応するためには、動名詞と分詞構文の基本的な違いを 説明することによって動名詞の基本的性質を理解させる必要がある。that節と動名詞、分詞 構文、不定詞は基本的には同じ節であるが、時制の部分のみが異なっていることを体系的に 理解させる必要がある。
t h a t 節:that John likes apples (現在時制を表す-sがついている)
動 名 詞:Johnʼs liking apples (動名詞の語尾-ingがついている)
分詞構文:John liking apples, … (分詞語尾の-ingがついている)
不 定 詞:for John to like apples (不定詞のtoがついている)
これらの節(非定形節)は、このように時制の部分のみで異なっていることを「体系的に 指導する」ことによって、他の節との区別および動名詞の特徴をより良く理解できると考え る。
(2)等位構造の問題
課題4. Thatʼs thanks to years of medical advancement, ever better antirejection drugs and the existence of a national system that matches patients to donors.
模範訳:心臓移植を受けた患者の生存率が上昇し続けているのは、長年の医学の進歩、絶え ず良くなる拒絶反応抑制剤と、患者とドナーを結び付ける全国的なシステムの存在 のお陰である。
学習の要点:並列構造の理解 分析
訳例a. それらは長年の医療的進歩のおかげで国家システムにおいて今までより良い拒絶 反応抑制の薬とその存在は、患者やドナー達にマッチしている。
• thanks to A, B, and Cを誤ってthanks toをAのみに掛けてしまっている。この間 違いは、この種の構造の場合最もよく見られる間違いで、この課題でも約40%(15 例中6例)に見られた。なお、この例の正答率は14%(21人中3人)である。
訳例b. 全ての心臓移植を受けた人のうちの半数が13年以上生き、生きのびる確率が常 に上がり続けているのは、毎年の医療進歩、特に、antirejection薬と、患者とド ナーをつり合わせる国の機能の存在のおかげである。
• thanks to がその後に続くもの全部に掛かることは取れているが、Aを、BとCの 上位概念的として捉えてしまっているので、A, B, Cの3つが等価とはなっていない。
この間違いは、約13%(15例中2例)に見られた。
訳例c. 心臓の移植手術を受けた人が13年以上生きられるようになったり、生存率が上 がったのは、ドナーと患者が合うようにする国の生存システムや、体が拒絶しな い薬をよりよいものにした医学の進歩のおかげだ。
• thanks toが後続の全部分に掛かるのは取れているが、A=Bと解釈し、並列構造を 2つに減らしてしまっている。このように、並列であるべきA, B, C間に因果関係 を作ってしまっている間違いは、15例中2例(13%)に見られた。
並列構造は、一見A, B, and Cのように単純に見えるが、A, B, Cの各要素を正しく理解 できない場合が多い構造であるので注意が必要である。同様の誤りは、動詞句の等位接続や 文の等位接続でもよく見られる。
課題5. They are unlikely to change behavior or develop the conduct you want.
模範訳:(子供が嘘をついた時に厳しく罰したり、嘘をつくことが悪いことであることを道 徳的に説明したりすることが)、振る舞いを改め、親の望むような行為をするよう にさせることはないようだ。
訳例 あなたが望むように子供は行動を変えたり、動いたりはしません。
• 動詞句が[change behavior]or[develop the conduct you want]のorによる 等位接続が理解されていない。(be unlikely to~の問題は後述)
課題6. Try these procedures for two to three weeks and see where you are.
模範訳:本当のことを言わせては褒める、親が自ら手本となって本当のことを言う、嘘をつ いた時の罰を軽くする、などの手法を2 〜 3週間試してみて、様子を見なさい。
訳例 これらの手順を試みたら、2 〜 3週間であなたがどんな状態にいるか見える。
• 2 つの命令文が等位関係になっていることが理解されていない。この間違いは約 57%(14例中8例)に見られた。
問題点の指導内容:
等位構造は一見簡単に見えるので学習上の落とし穴の一つである。等位構造の基本的性質 を理解させる必要がある。等位構造のもっとも重要な点は、等位接続される要素は同一の品 詞に限られることである。[young and old] men (形容詞の等位), John [went to the store] and [bought some carrots] (動詞句の等位) のような例を示して、等位構造は同 じ品詞を結ぶこと、結ばれている要素をそれぞれ確定することが大切であることを教える。
この原則を理解すると、上記の [A change behavior] or [B develop the conduct you want] は、Aが動詞句であるのでBも動詞句であるべきだというように理解できるし、Aが 命令文であれば、一般に、Bも命令文であると理解できる。また、John and Tom or Maryは、
2通りに多義であって、[John and Tom] or [Mary], [John] and [Tom or Mary] のよう に分析できることも、要素確定の訓練として教えておきたい。
(3)構文関係
(A)強調構文
課題7. … and it was Bud, a witness to the crime, who tried to rat her (=Glenna) out.
模範訳:Glenn を密告しようとしたのは、Bud—Martin 殺害事件の目撃者—だった。(Bud はオウムの名前)
学習の要点:強調構文の理解 分析
訳例a. それは、Budである。つまり、彼女を捨てようとした犯行の目撃者である。
• 強調構文を取り損ねて、普通のit was Budとして捉えている。この間違いは、約 72%(18例中13例)に見られた。間にa witness to the crimeという挿入句が有 るので、強調構文だと捉えられなかったのかもしれない。又、典型的な強調構文は、
it ~ thatとして教えられているので、that がwhoに代わったことで、更に強調構 文だとの認識が難しかったのではないかとも思われる。ついでながら「彼女を捨て ようとした」を「犯行」だとしているのは、the crime, who tried to rat her out のように理解している可能性があり、これは同格関係の理解の問題である。
訳例b. その事件の目撃者は鳥だった。その鳥は、彼女を密告しようとした。
• 強調構文であるという認識はあるが、間違った所を強調している。即ち、最初のコ ンマを無視し、It was Bud who was a witness to the crime.という文に書き換え て理解していると思われる(これには、同格関係の把握の問題もある)。この間違 いは、約17%(18例中3例)に見られた。
訳例c. Martinが殺された事件の目撃者として、犯人のGlennaを密告したのは、Budだっ た。
• 強調構文は取れているが、asが無いにも拘らず、「として」を入れてしまっている。
これは、同格の非制限用法の関係代名詞句の訳し方が難しいからであろう。この間 違いは、約11%(18例中2例)に見られた。
問題点の指導内容:
従来の学校文法における強調構文の指導では、it is … thatが取り外し可能な構文である という説明が成されていたが、これでは強調構文の性質を説明したことにはならない。この 構文が正しく理解できるためには、その成り立ちを理解する必要がある。つまり、次の文の
下線部をIt is/was A thatのAの位置に移動することによってa ~ cの強調構文が作られるこ とを教える。このような説明によって A の要素が that 節内でどの位置に対応するかが明確 になり、強調構文の解釈が正確になる。
John wanted to buy the video game yesterday.
a. It was John that wanted to buy the video game yesterday.
b. It was the video game that John wanted to buy yesterday.
c. It was yesterday that John wanted to buy the video game.
当然のことであるが、It is/was A thatのAが強調される部分であり、that以下が前提を 表していることも学習させる必要がある。
(B)it turned out that型の構文
課題8. It turned out Washkansky had pneumonia.
模範訳:Washkansky氏は、肺炎を患っていたことが判明した。
学習の要点:It turns out that構文の理解 分析
訳例a. 医師が間違えたのは、Washkanskyが肺炎を持っていたとわかった。
• It~that構文を取り損ねている。thatが省略されている為であろうが、このように、
itを単なる指示代名詞と誤解したものは、約67%(12例中8例)に見られた:
例1 免疫機能を低下させたことによって、Washkanskyは肺炎になった。
例2 彼の免疫機構を停止させる薬を投与した結果、彼は肺炎になってしまった。
• 例2の「した結果」のような日本語からturn outの意味は取れているのに、それで もitを代名詞と理解し、結果的に日本語としておかしな文を作ってしまったのは、
国語力不足に帰するところが大きいのではないか。
訳例b. 中身をあけてみれば、ウオッシュカンスキーは肺炎だった。
• この1例のみであったが、turn outは(結果として判明する)という意味なので「中 身をあけてみれば」は、それに近いと考えられる。
問題点の指導内容:
it~that 構文のthatが省略されている場合があることを指導する。これは、I think that~
などで that が省略されることと同じだと理解させればよい。この型をとる動詞は turn out
「(結果として)分かる、判明する」とprove「(証拠などによって)分かる、判明する」の 対で指導する。さらにseem, happen, fall out(たまたま〜になる)の動詞も類例であるこ とを教える。また、これらの動詞は、次のような書き換えが可能であることも教えたい。(下
記のunlikelyも参照)
a. It turned out (that) Washkansky had pneumonia. →
Washkansky turned out to have pneumonia.
b. It fell out that everything was very well. →
Everything fell out (to be) very well.
(C)be (un)likely to構文
課題9. They are unlikely to change behavior or develop the conduct you want.(既出 課題5)
模範訳:(子供が嘘をついた時に厳しく罰したり、嘘をつくことが悪いことであることを道 徳的に説明したりすることが)、振る舞いを改め、親の望むような行為をするよう にさせることはないようだ。
学習の要点:be unlikely to の理解 分析
訳例 彼らが態度を変える気も無く、あなたが望むような行動に発展する。
• be unlikely to~が取れていない。この間違いは、35%(20例中7例)に見られた:
例1 あなたが望むように子供は行動を変えたり、動いたりはしません。
例2 彼らが、行動や親の育って欲しい通りに育たないように変わるのは、良くな い。
問題点とその指導内容:
be (un)likely to~の指導においては、次のような書き換えによる指導が効果的である。
It is likely that John will win. → John is likely to win
It is unlikely that she will arrive on time. → She is unlikely to arrive on time.
このような書き換えを指導すると、John … to winが、離れているけれども意味上は、主 語述部関係にあることが容易に理解できる。このような性質の形容詞にはlikely, impossible, certain, improbable などがあり、同様の関係をもつ動詞にはseem, happen, prove, turn out, fall outなどがあることも、合わせて提示しておきたい。
(4)間接疑問文
課題10. (At the end of the quiz, people entered their actual native language, ) if and when they had learned any others and where they had lived.
模範訳:他の言語を学んだことがあるかどうか、それはいつか、そしてどこに住んでいたか。
学習の要点:間接疑問文の理解 分析
訳例a. もし、誰かに教わったり、どこかに住んでいたら。
• if 〜を、「もし〜なら」と誤認している。この間違いは、約 61%(18 例中 11 例)
に見られた:
例1 もし、あなたが他の言語を学び、他の場所に住んでいたら、どうしますか。
訳例b. 人々がいつ他言語を学んだのかということと、どこで暮らしていたかである。
• ifを無視している。この間違いは、約17%(18例中3例)に見られた。
訳例c. 言語を学ぶ人々が、他の言語を学んでいた時や、学んでいる言語の場所に住んで いたかどうか。
• if 〜を「〜かどうか」と正しく理解はしているものの、付ける場所を間違えている。
この間違いは、約17%(18例中3例)に見られ、ifを正しく解釈した例は、次の1 例のみであった:
例1 人々が、他の人から母国語を教わったのかどうか、そして彼らが、どこに住 んでいたのか。
問題点の指導内容:
この文は、疑問詞のifとwhenの等位接続であるが、ifを疑問詞と解釈できるどうかの問 題と訳し方の問題があり、少しむずかしいのかもしれない。しかし、等位構造は同じ性質の 要素を結合することと、whenが疑問詞であることを理解していれば、当然、ifは疑問詞で あると分かるはずである。従って、ifの疑問詞としての意味を確認させる必要があるが、さ らに、間接疑問文は、通例の疑問文と同様wh語が前置していること、倒置がないことも教 える必要がある。間接疑問文は、日本語でも英語でも同様の動詞に現れるので、日本語をも とにして教えてもよい。「〜か知っている」「* 〜か思う」の対比は、英語でも同じである:
a. I donʼt know who John invited to the party.
*b. I donʼt think who John invited to the party.
尚、文法指導に母語である日本語の知識を活用することは、桒原(2015)も推奨している。
(5)関係節
課題11. That represents a threefold increase in energy consumption by air conditioners from today, much of which could come in developing countries that remain heavily reliant on fossil fuels.
模範訳:「もし、今後、政府が何も対策を取らなければ、2050年までに、エアコンによる電 力の消費は、今日中国が使用している全電力に匹敵するようになる」ということは、
今日のエアコンによる電力消費の3倍増を表し、そのほとんどは、未だ化石燃料に 大幅に依存している発展途上国由来のものとなり得る。
学習の要点:関係代名詞の先行詞の問題 分析
訳例a. (IEAが政府の行動なしでは、エアコンは、中国が人々のために今日、国の電気 を使っているように、2050年までに多量なエネルギーを使うと見積もったこと は)今日からエアコンによってエネルギー消費において3倍増加している事に相 当し、また、あるいは、そのエネルギー消費の多量は、非常に化石燃料を当てに したままである発展途上国において達した。
• whichの先行詞が取れているものは、10%(20例中2例)のみであった。
訳例b. エアコンは、2050 年には多くのエネルギーを使い、このことは、今日より 3 倍 のエネルギーを消費していることを表している。多くの発展途上国では、非常に 化石燃料に頼っている。
• 関係代名詞のthatは、正しく取れているものと、取り損なったものとが、半々(20 例中10例ずつ)であった。この例ではmuch of whichは無視されているが、that の先行詞は正しく捉えられている。
問題点の指導内容:
関係代名詞がmuch of whichとなっているので、単なるwhichよりも難しかったのかも 知れない。some of which, many of which, few of whichなどの類似のものを学習させる ことが必要であるが、さらに重要なことはこのような関係節の成り立ちを理解させることで ある。
I have many books, + I sent some of the books to my nephew.
I sent some of which to my nephew.
some of which I sent to my nephew.
I have many books, some of which I sent to my nephew.
このような成り立ちを説明することによって、関係節がなぜこのような形をしているか、
その構造を理解しやすくなると思われる。
(6)even, only, justのような副詞
このような副詞は、文の主要要素ではないので、きちんと教えられていない場合が多いが、
正確に意味をとるためには、このような要素に注意を向ける指導が不可欠である。
(A)even
課題12. Some rooks even realize that by dropping the bigger pebbles in first, they can speed the job along considerably.
模範訳:ミヤマガラスの中には、最初に大き目の小石を落とすことにより、作業のスピード をかなりあげることができるということまで理解するものもいる。
学習の要点:evenのかかる要素 分析
訳例 いくつかのカラスは、始めに大きくてたくさんの小石に気付き、彼らは急速にかな り長い間仕事をする。
• 全体として構造を捉えられていないが、evenを無視していることは明らかである。
このように even を無視したものは、73%(15 例中 11 例)に見られ、この単語が 苦手であることが窺える。
(B)only
課題13. (Learning a second language is tricky at any age) and it only gets tougher the longer you wait to crack open that dusty French book.
模範訳:そして、第二言語を学ぶことは、あの埃をかぶった(=長年、ほったらかしにして おいた)フランス語の本を開くのを、先延ばしにすればする程、より難しくなるば かりだ。
学習の要点:onlyの意味の及ぶ範囲 分析
訳例a. 第2外国語を学ぶことは、ほこりまみれのフランス本を開くのを待つより長く、
ずっと難しかった。
• 比較構文の理解は置くとして、only が無視されていることは明らかである。同様 のことは、約68%(19例中16例)に見られたので、この副詞は苦手だから無視し たのか、そもそも認識出来ていないかであろう:
例1. そして、第二外国語を習得することは、難しく、時間がかかる、あなたがフ ランス語の本を開く頃には、本はほこりをかぶっているだろう。
訳例b. また、第二言語を学ぶことは、難しいだけでなく、汚い本が開かれるのを待つ位 長い。
• onlyは取れているが、not only~と混同している。他の例としては、「〜しか〜ない」
としたもの2例、onlyを目的語や主語に付けたものが各1例ずつあった。onlyは離
れた位置にある要素も修飾可能であるので、このような間違いが生じるのだと思わ れる。
訳例c. そして、早く語学を勉強することは、ただ、あなたが役に立たないフランス語教 材を破り捨てるのを早めるだけである。
• onlyは正しく認識できているが、その及ぶ範囲の理解が間違っている。
因みに、この課題19の正解者は、21名中2名であった。
(C)just
課題14. …just 8% of the 2.8 billion people living in the worldʼs hottest regions own an air conditioner, compared with more than 90% in places like the U.S.
and Japan.
模範訳:アメリカや日本などの地域の90%以上のエアコン所有率と比べて、世界の最も暑 い地域に住む28億人のうちの僅か8%しかエアコンを所有していない。
学習の要点:justの正しい理解 分析
訳例 世界の暑い地域に住んでいるちょうど8%の28億人の人々は、自分達のエアコン を使っており、その中でも90%を越える場所はアメリカと日本だった。
• just = onlyの意味を「ちょうど」と誤訳している。この間違いは、約47%(19例 中9例)に見られた:
例1 世界の最も暑い地域に住んでいる 28 億人のちょうど 8% は、アメリカや日 本のような場所の90%以上に比べると、エアコンを所有している。
また、justを無視しているのもが約16%(19例中3例)あった。
問題点の指導内容:
even, only, justや、still, yet, everのような文の主要要素でないものは、学校現場できち んと教えられることが少なく、その結果、学生は無視したり誤訳をすることが多いようであ る。しかし、英語の正確な解釈には、その理解は欠かすことができない。これらの要素は、
多様な使われ方をするので、just =「ちょうど」のような知識だけではなく、事例毎に丁寧 に授業で扱う必要がある。かつて、Sweetは、英語を母国語としない学習者にとって、一見、
些細なmenと man、head とhadのような発音上の区別でも、それを無視すると、文の意 味が理解不能となる場合があるので、これらの違いをはっきり示すことが出来る音声学の知 識が教員には大事であると、述べているが(中村、2016)、これらの副詞は、その語彙版と 言えるので、主要要素でなくても粗末に扱ってはならない。
(7)指示の問題
指示内容の把握は英文解釈にとっては重要な要素であるが、it, this, that, these, thoseな どの代表的な代名詞の指示を的確に捉えることのできない学生が多くいることが(ここでは 取り上げないが)課題の分析から判明している。ここでは、指示に関わる要素の中で、
eachについて見る。これは一種の指示詞であるが、その点に注意が払われることが少ない。
課題15. Each is led by a fallible human who is capable of making a mistake that could end the world as we know it.
模範訳:世界の核保有国9カ国のそれぞれは、私達が知っている世界を終わらせてしまうよ うな間違いを犯し得る、過ち易い人間によって統治されている。
学習の要点:eachの指示内容の正しい把握 分析
訳例 核兵器を所持しているそれぞれの国での核兵器は、私たちが知っている通り、世 界を終わらせることができるという誤った考え方をしてしまっている人間に よってもたらされる。
• eachの示す内容が間違っている。正しい解答は、約43%(21例中9例)だけであっ たので、このように、前に書かれている内容を踏まえながら読み進むということは、
過半数が苦手であると言える。この例に限定すれば、「核兵器」を主語として付け てしまったことが間違いであり、惜しい例と言える。そもそも、eachを完全に無 視して解答しているものも、約33%(21例中7例)あった。
問題点の指導内容:
each, every, all などのいわゆる全称記号の解釈をもつ要素を正しく理解するためには、
これらの要素には必ずそれが指し示すものがあるので、それを捉える訓練が必要である。つ まり、単にeach, allとなっていてもその背後にeach of ~, all of ~ があり、それが文脈から 明らかなときには示されないので、それを補う必要があることをその都度認識させる。これ は、比較級に会う度に比較の対象を確認する必要があるのと同じである。この問題は、広く 言えば、指示の問題であり、代名詞の指示と同様にその都度確認する必要がある事項である。
(8)動詞関係
課題16. Even if it had somehow been possible to bring the bird into a courtroom and have him repeat Martinʼs last words,…
模範訳:たとえ、何とかしてその鳥(オウム)を法廷に連れて来て、Martinの最期の言葉 を繰り返させることが出来たとしても…
学習の要点:使役表現の理解 分析
訳例a. もし、その鳥が法廷に行けさえすれば、Martinの最後の言葉を繰り返すだろう。
• ここでは譲歩節は置いておくことにして、後半の使役部分(have him repeat)は、
全く取れていないし、bringも見落としているので、鳥がこの文の主語になってし まっている。このように、使役部分を訳せていないものは、71%(14 例中 10 例)
であったし、受動態(「Martinの最後の言葉はくり返される」)になっていたものも、
1例あった事からすると、全体的に、使役表現は苦手であると言えよう。この背景 には、使役表現が、日本語よりも英語において、より一般的であるので、日本人と しては、感覚的に馴染みがないということが考えられよう。
訳例b. 例え法廷に鳥を持って行き、Martinの最後の言葉を繰り返させようとしても、
お手上げだった。
• これは、従属節の部分は、概ね出来ているのだが、勝手に主節を作ってしまった(創 作読みの)間違いであるが、使役動詞は正しく理解している例である。
問題点の指導内容:
使役表現に関しては、日英語の違いから、そもそも日本人には難しいものであることを理 解させた上で、敏感になるように指導する必要がある。例えば、「髪を切る」という場合、
英語では、“I had my hair cut yesterday.” と言うが、日本語では、「昨日、髪切ったの」
となる。つまり、日本語の場合、実際に髪を切った行為者が誰なのかは明示しない。明示し なくても「美容院か床屋さんで切って貰った」ということが、多くの場合、前提となってい るので、話し手も聞き手も、敢えて使役表現を使わずとも、正しい理解に困らないのであろ う。しかし、英語では、行為者をはっきりさせるので、自分で切った場合以外は、必ず、使 役表現で表す。このように、日常的に親しみのない使役表現なので、英文で使われていても 気付き難いのかも知れない。make, let, haveは、使役の基本動詞であるので、その用法に 習熟させる必要がある。
4.結語
これまで、各課題に見られる学生の誤りを分析し、それに対する指導内容を簡単に述べて きた。更に、今回は、取り上げなかったが、句読点、大文字や定冠詞など、代名詞の指示内 容など、細部をきちんと押さえない傾向も見られた。したがって、日頃から、まずは構文と いう大きなところを押さえ、その後、細部に目を配る習慣を付けさせることが肝要であろう。
それには、前文との繋がりや論旨の展開なども踏まえながら、1文ずつ丁寧に意味を取って
行くことが大事になってくる。単一の文だけを見ていても、例えば、定冠詞が付いている意 味は、分からないからである。これらの事実は、単に本学の学生に見られる問題ではなく、
日本の大学生全般に見られる問題点である可能性が大きい。したがって、このような資料の 収集と分析を積み重ねることによって、英語教育における問題点が明らかになることが期待 される。さらに、教室の指導において特に注視を払うべき点が明らかとなり、英語指導の効 果を高めることが期待できる。今後も、このような研究を継続し、より多くの分析結果を検 討してゆくつもりである。
資料
題材1. Kluger, J. (2017, Aug. 21). Birdbrain is a misnomer: new studies show birdsʼ remarkable cognitive skills. Time, 19.
題材2. Douglas, M. (2017, Oct. 23). The International Campaign to Abolish Nuclear Weapons. Time,11.
題材3. Kazdin, A. (2017, Oct. 30). Why you shouldnʼt punish your kids for lying.
Time, 20.
題材4. Barone, E. (2017, Dec. 11). 50 years on, new hearts still donʼt come easy.
Time, 12.
題材5. Samuelson, K. (2018, May 14). Indiaʼs last village goes electric, but millions still see dim returns. Time, 7.
題材6. Ducharme, J. (2018, May 28). Why kids learn languages more easily than you do. Time, 18.
題材7. Worland, J. (2018, July 30). The chilling impact of air-conditioning. Time, 17- 18.
参考文献
綾野誠紀(2015) 「大学生を対象とした学習英文法のあり方について」 長谷川信子(編)
『日本の英語教育の今、そして、これから』 111-124. 東京:開拓社 江川泰一郎(1991) 『英文法解説』 東京:金子書房
長谷川信子(2015) 「日本の英語教育は何を目指すか?」 長谷川信子(編) 『日本の英語 教育の今、そして、これから』 2-28. 東京:開拓社
池上嘉彦(1981) 『「する」と「なる」の言語学』 東京:大修館書店
桒原和生(2015) 「英語教育における母語の知識の活用と文法指導」長谷川信子(編)(2015)
『日本の英語教育の今、そして、これから』 30-52. 東京:開拓社
望月昭彦(編)(2014) 『改訂版 新学習指導要領にもとづく英語か教育法』 東京:大修 館書店
中村捷(2018) 『発信型英文法の教え方・学び方』 東京:開拓社
中村捷(編)(2016) 『名著に学ぶ これからの英語教育と教授法』 東京:開拓社 菅原克也 (2011) 『英語と日本語のあいだ』 講談社現代新書2086 東京:講談社
Some Ideas for Grammatical Instructions Based on Error Analysis
NAGAO Atsuko
By analyzing errors found in Japanese university studentsʼ translations of English texts into Japanese, this paper aims at finding ways to make use of the analysis in English classes in order to enable the students to get better at understanding English texts accurately and thoroughly. It also attempts to analyze the nature of the said mistakes and to clarify the difficult points for students, in general, in putting English into Japanese. Finally, issues that teachers need to be aware of in class regarding the difficulties and some effective ways of grammar instruction they can use in helping their students avoid the pitfalls are suggested.