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世界遺産登録のあり方と今後の展望

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(1)

──はじめに

近年、歴史遺産のもつ力を活かした、地域 再生やまちづくりが注目されるようになって きている。

背景のひとつには、地方都市の衰退、人口 減少、少子高齢化、過疎化、産業の空洞化な どに苦慮する地方自治体が、主に観光振興面 での経済効果をねらって地域に活力を与えよ うと世界遺産候補に名乗りを上げていること がある。さらに、文化庁は、「地域を評価す る新しい視点」を地域自らが発見し、価値づ けていく可能性を後押しするものとして、

2006(平成18)年から文化遺産暫定リストの

候補を地方公共団体から提案するという「公 募制」の方針を打ち出した。従来、暫定リス トの候補については、文化遺産は文化庁が、

自然遺産は環境省が、それぞれ省庁内に設置 された検討委員会の中で挙げてきたが、今回、

文化遺産の候補選定については、トップダウ ン方式からボトムアップ方式に大きく舵を切 ったことになる1)

日本における世界遺産観光はやや過熱気味 であり、そのことによる弊害も出てきてはい 2)が、この制度によって、さらに世界遺産 の登録を推進しようとする地方自治体は増え ることになるであろう。一方で、2008(平成20)

年7月に登録の可否が審議されていた「平泉」

が 記載延期 になったことは記憶に新しい。

世界遺産登録のあり方と今後の展望

なぜ、平泉の文化遺産は記載延期になったのか 橋里香

TAKAHASHI Rika

── はじめに 1── 問題の所在

2── 世界遺産委員会の考え方の変遷 3── 文化遺産としての「平泉」の評価 4── 今後の課題分析

── おわりに

【要旨】本稿は、2008(平成20)年7月に、世界遺産一覧表への記載延期が決定された「平 泉」を題材として、世界遺産登録の流れと考え方を概観しながら、そこに所在する問題点 を抽出し、今後の世界遺産登録のあり方と今後の課題を分析するものである。最初に問題 の所在を明らかにした上で、世界遺産委員会の考え方の変遷を見ていく。その上で、「平 泉」が文化遺産として

ICOMOS

(国際記念物遺跡会議)からどのように評価されたかを詳 細に検討した上で、今後の課題を外的要因と内的要因に分けて分析を試みるものである。

(2)

世界遺産ブーム の現在であるからこそ、

世界遺産条約本来の目的に立ち返って、登録 に関わる課題を検証しておくことは意義ある ものと思われる。

本稿では、2008(平成20)年に審議された

「平泉−浄土思想を基調とする文化的景観−

Hiraizumi

Cultural Landscape Associated with Pure Land Buddhist Cosmology

(以下、「平泉」という。)

を題材として、世界遺産の登録のあり方につ いて考察しようとするものである。

1── 問題所在

1.1 記載延期(Deferral) の衝撃

2008(平成20)年7月2日〜10日までカナダ のケベックシティで開催されていた第32回世 界遺産委員会

World Heritage Committee

にお いて、日本政府が推薦していた「平泉」を世 界遺産一覧表に記載するかどうかの審議が行 われた。

2001(平成13)年4月に暫定リスト

Tentative List

に記載し、2006(平成18)年12月26日に 推薦書を提出していた「平泉」が今回記載さ れれば、日本においては12件目の文化遺産と なる予定であったが、審議の結果、「平泉」

は 記載延期 となった(2008年7月6日、日 本時間では7月7日)

世界遺産委員会の新規記載物件に関する決 議は、次の4区分、すなわち、①記載

In-

scription

:世界遺産一覧表に記載するもの)、②

情報照会

Referral

:追加情報の提出を求めた上

で次回以降の審議に回すもの)、③記載

[

登録

]

延期

Deferral

:より綿密な調査や推薦書の本質

的な改定が必要なもの)、④不記載決議(

Deci- sion not to inscribe

:記載にふさわしくないもので、

例外的な場合を除き、再推薦は不可)で示され

ることになっているが、今回「平泉」は、4 段階評価の3番目にあたる 記載延期 と評 価されたことになる。

この記載延期によって、「平泉」は、より 綿密な調査や推薦書の抜本的な見直しを行っ て推薦書を再提出した後、再度

ICOMOS

In- ternational Council on Monuments and Sites

:国際記 念物遺跡会議、イコモス)3)の審査を受け、早 くとも2011(平成23)年の登録を目指すこと になる。

では、なぜ「平泉」は記載延期となったの だろうか。

まずは、重要なポイントとなった勧告を提 出した

ICOMOS

の位置づけを、世界遺産登録 の一連の流れの中で確認しておきたい。

1.2 世界遺産登録の流れ

世界遺産条約

Convention Concerning the Pro- tection of the World Cultural and Natural Heritage

:世 界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約)

は、文化遺産及び自然遺産を人類全体のため の世界の遺産として損傷、破壊等の脅威から 保護し、保存することが重要であるとの観点 から、国際的な協力及び援助の体制を確立す ることを目的に、1972(昭和47)年に第17回ユ ネスコ総会において採択されたものである4)

世界遺産は文化遺産、自然遺産、複合遺産 の3つに分類されているが、推薦された資産 を世界遺産に登録するかどうかを決定するの は、条約の締約国から選挙で選ばれた21ヵ国 で構成される世界遺産委員会である。

世界遺産委員会は、各締約国から推薦され た遺産が「世界遺産条約履行のための作業指

Operational Guidelines for the Implementation of the World Heritage Convention

(以下「作業指針」

という。)に示されている(

i

)〜(

x

)の登

(3)

録基準(149頁、表1を参照のこと)のいずれ か1つ以上に合致しているかどうか等を検討 して、登録の可否を決定する5)が、この決定 に先立って当該資産が文化遺産にふさわしい かどうかを現地調査し、専門的知識に基づい て「顕著な普遍的価値

Outstanding Universal

Value

(以下、

OUV

という。)があるかどうか

を評価し、勧告するのが

ICOMOS

である6)

ICOMOS

は、2種類の報告書、すなわち、① 締約国から提出された推薦書の内容と実際の 保存管理状況を照合するため、推薦資産と同 地域に属する国の

ICOMOS

会員に委託して作 成された現地調査報告書と、②ICOMOS常置 の学術委員会に依頼して作成された

OUV

評価に関する報告書、に基づいて評価をまと める。そして、

ICOMOS

に設置された「世界 遺産パネル」の合議の下、当該資産には世界

遺産にふさわしい価値があるかどうかの検討 が行われ、勧告案が作成される。この勧告案 を原案として世界遺産委員会において審議が 行われ、構成国のコンセンサスを得る方式

(原則)で結論を出す仕組みとなっている(世界 遺産登録の流れについては、図1を参照のこと)

1.3 実らなかった「石見」の経験

「平泉」においても、2008(平成20)年7月 の世界遺産委員会の審議に先立つ、2007(平 成19)年8月にICOMOSの専門家による実地 調査が行われていた。

この調査の評価において「平泉」は、同種 の遺産との比較研究が不十分であるなどと指 摘され、2008(平成20)年5月23日、「記載延 期」の勧告を受けていたのだが、前年2007

(平成19)年の「石見銀山遺跡とその文化的

図1 世界遺産登録の流れ

各国政府

世界遺産センター

世界遺産委員会 ユネスコ ICOMOS

国際記念物 遺跡会議

国際自然IUCN 保護連合

出典:『世界遺産年報 2008 No.13』45頁

文化遺産 自然遺産

世界遺産条約締結 自国内の暫定リストを作成・提出

各国政府から推薦書を受理

審議・登録の決定 物件の現地調査

を依頼 現地

現地 調査報告 調査報告

暫定リスト記載物件の中から 条件の整ったものを推薦

(4)

景観

Iwami Ginzan Silver Mine and its Cultural

Landscape

(以下、「石見」という。)において

ICOMOS

は「記載延期」を勧告していた。

その後、日本政府代表団は、

ICOMOS

の分 析には「石見」の歴史的意義に関する理解が 不十分で誤解に基づくものが多いとして、英 文で約110ページに及ぶ「補足情報

supple-

mentary information

」で説明を行い、さらに、

委員各国に改めて石見の価値を「環境との共 生」7)にあると積極的に働きかけを行った結 果、世界遺産委員会の会期中に一転承認され るという 逆転 記載の決定がなされていた。

このような逆転記載が認められるのはきわ めて異例のことであるが、文化庁、地元自治 体担当者、ユネスコ代表部から成る日本政府 代表団は、このときの「石見」の経験を踏ま えて、「平泉」においてもその価値が適切に 理解されるよう現地調査の際には相当量の補 足情報資料を作成して説明を行ない、意見交 換の会議を開催するなどの手法がとられた。

さらに、「記載延期」の勧告が出された後に は、論点整理を行って、平泉において示され ている浄土思想は「平和希求・万物共生・自 然との融合」の精神を具現化しているとして、

立体模型などを用いて委員各国に視覚的に分 かりやすい説明を行った。しかし、「平泉」

の場合は、残念ながら「石見」のように記載 について委員会全体の合意を得るまでには至 らなかった。

「石見」が記載延期の勧告を覆した一因に は、日本が2007(平成19)年まで世界遺産委 員会の委員国だったこともあるといわれてい 8)が、

ICOMOS

の2回続けての「記載延期」

の勧告は、地元や関係者に大きな衝撃を与え ている。

近年、世界遺産委員会は、世界遺産一覧表

における記念的建造物への偏重や、自然遺産 と文化遺産の数的不均衡、またヨーロッパ・

北米地域の遺産に偏重しているという地域的 偏在などを是正するため、また管理可能な規 模とするため9)、新規登録を極力抑制しつつ、

登録数が少ない国に対しては、新規登録を奨 励する傾向にある10)

したがって、

ICOMOS

の審査が一層厳しく なるであろうことは予測されていたことでは あるが、日本が推薦した候補地が事実上落選 となるのは初めてのことで、今後、世界遺産 登録に向けて、戦略の大きな見直しが迫られ るのは必須となった。

── 世界遺産委員会変遷

2.1 「顕著な普遍的価値」の捉え方

1972(昭和47)年11月のユネスコ総会で、

世界遺産条約が採択されて37年余りが経つ。

世界遺産一覧表に登録された遺産は2008

(平成20)年7月現在で878物件にのぼるが、

世界遺産条約は、一覧表に記載される遺産の 条件として「顕著な普遍的価値

OUV

」を 求めている。しかし、条約において

OUV

明確な定義はなされておらず、「作業指針」

の中に

OUV

を判断するための基準が記され ているのみである。

その「作業指針」において、「顕著な普遍 的価値」とは、「国家間の境界を超越し、人 類全体にとって現代及び将来世代に共通した 重要性をもつような、傑出した文化的意義及 び/又は自然的な価値を意味する

Outstand-

ing universal value means cultural and/or natural signif-

icance which is so exceptional as to transcend national

boundaries and to be of common importance for present

and future generations of all humanity .

11)と定義

(5)

されている。この文化遺産及び自然遺産の

OUV

の基準は条約を運用する中で発展し、

併せて「作業指針」も新しい概念や知見の発 見に伴って、何度にもわたって改訂されてき (表1を参照のこと)

では、

OUV

はどのように解釈されてきた のであろうか。

世界遺産条約の一つの眼目は、文化と自然 とを 世界遺産 という同一の土俵上で国際 的に保護することにある。しかし、客観的に 観察・実験することが可能な事象を取扱う自 然科学分野と、その文化を見る者の価値観が 大きく反映される文化・社会科学分野とでは、

事柄の性質上、

OUV

の解釈や世界遺産一覧

表の取扱いにおいて違いが生じてしまう。

例えば、

IUCN

International Union for Conser- vation of Nature and Natural Resources

:国際自然保 護連合)12)では、

OUV

を「最上の最上

the

best of the best

」、すなわち地球上で一つしか

ないような比類なき貴重な価値をもつものと 理解する一方、

ICOMOS

では「最上の代表

representative of the best

」、すなわち文化の多 様性・地域性に配慮して遺産の代表選手を選 ぶ傾向にあった。

このような考え方の違いは、OUVの基準 を厳格に適用することが一覧表の信頼性を高 めることになる、したがって登録件数に上限 を設けることは可能であるとして1982(昭和

段落77 本委員会は、ある資産が以下の基準(の一以上)を満たすとき、当該資産が顕著な普遍的価値

Outstanding Universal Value,

段落49

-

53を参照)を有するものとみなす。

i

)人間の創造的才能を表す傑作である。

ii

)建築、科学技術、記念碑、都市計画、景観設計の発展に重要な影響を与えた、ある期間にわ たる価値観の交差又はある文化圏内での価値観の交差を示すものである。

iii

)現存するか消滅しているかにかかわらず、ある文化的伝統又は文明の存在を伝承する物証と

して無二の存在(少なくとも稀有な存在)である。

iv

)歴史上の重要な段階を物語る建築物、その集合体、科学技術の集合体、あるいは景観を代表 する顕著な見本である。

v

)ある一つの文化(又は複数の文化)を特徴づけるような伝統的居住形態若しくは陸上・海上 の土地利用形態を代表する顕著な見本である。又は、人類と環境とのふれあいを代表する顕 著な見本である(特に不可逆的な変化によりその存続が危ぶまれているもの)。

vi

)顕著な普遍的重要性を有する出来事(行事)、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品、ある いは文学的作品と直接又は実質的関連がある(この基準は他の基準とあわせて用いられるこ とが望ましい)。

vii

)最上級の自然現象、又は、類まれな自然美・美的価値を有する地域を包含する。

viii

)生命進化の記録や、地形形成における重要な進行中の地質学的過程、あるいは重要な地形学

的又は自然地理学的特徴といった、地球の歴史の主要な段階を代表する顕著な見本である。

ix

)陸上・淡水域・沿岸・海洋の生態系や動植物群衆の進化、発展において、重要な進行中の生 態学的過程又は生物学的過程を代表する顕著な見本である。

x

)学術上又は保全上顕著な普遍的価値を有する絶滅のおそれのある種の生息地など、生物多様 性の生息域内保全にとって最も重要な自然の生息地を包含する。

段落78 顕著な普遍的価値を有するとみなされるには、当該資産が完全性(

integrity

)及び/又は真実性

authenticity

)の条件についても満たしている必要がある。又、確実に保護を担保する適切な保

護管理体制がなければならない。

表1 「世界遺産条約履行のための作業指針」(抜粋)

出典:Operational Guidelines for the Implementation of the World Heritage Convention (WHC.08/01), Paris, January, 2008, paragraph77,78.

(http://whc.unesco.org/archive/opguide08-en.pdf) を仮訳。

(6)

57)年に目録を既に作成していた

IUCN

の姿 勢にも表れている。また、今後の世界遺産一 覧表のあり方について世界遺産委員会から分 析するよう求められて2004(平成16)年の第 28回世界遺産委員会に提出した報告書におい て、

IUCN

が選りすぐりで至高の物件のみを 記載する 閉じた一覧表 を提示したのに対 して、

ICOMOS

は文化の多様性を反映して無 限に存在する文化遺産の 開いた一覧表 を 作成すべきとしていた。

このようにアプローチの仕方に差異が生じ た背景には、条約成立の経緯13)や国際的な保 護の枠組みの成熟度の差14)があるが、自然遺 産側・文化遺産側ともに共通しているのは、

国家的な価値がそのまま世界遺産のOUVと して認められるわけではないとしている点で ある。そして、そこには、世界遺産条約にお いて、他国に所在する遺産であっても 人類共 通の財産 として各国に国際協力で保護する 責任を課しているからには、それだけの努力 を各国に求めるだけの価値を有する世界遺産 一覧表でなければならないという本来の目的 に立ち返った考え方が反映されている。

近年では、世界遺産一覧表を信頼性あるも のにすること、多様性の確保を考えて一覧表 のバランスを整えること、そして自然と文化 の関連性を改めて重視するようになったこと を背景に、

IUCN

OUV

を「最上の代表」と 解釈するようになってきている15)。このよう な志向に基づいて、改めて、そもそも

OUV

とは何なのか、

OUV

の解釈をめぐって基準 線はどこに引くべきか、

OUV

を有する遺産 をどのようにすればバランスよく一覧表に記 載できるかという問題が、世界遺産の登録審 査の場で議論されてきているのである。

2.2 遺産概念の拡大

このように、

OUV

をはじめとする様々な 要素が絡みあいながら世界遺産の概念は発展 してきたが、この間、幾つか時代を画する転 換点があった。

ここでは文化遺産に的を絞って、松浦晃一 郎ユネスコ事務局長が世界遺産条約の30年余 りを振り返ってまとめた変遷過程を基に検討 していきたい。松浦事務局長は、まず、1972 年〜1977年までを世界遺産条約を適用するた めの準備期間とした上で、それ以降の時期を 3つに区分して、その特徴を論じている16)

(1)第一期(1978年〜1991年)

第一期は、条約発効直後の、自然遺産・文 化遺産ともに知名度の高い、世界中の誰しも が世界遺産と認める資産の登録が行われた時 期である。

この期間には、毎年平均して30前後の新規 登録が行われ、評価基準も厳格に適用された。

とりわけ推薦物件が「建造した状態がそのま ま保存されていること」と定義する真正性

authenticity

の条件を満たしているかどうか

が重視された。しかし、この基準は、石や煉 瓦を建築物の主材料とする「石の文化」を中 心とした西欧的なコンセプトに基づいたもの であったため、木の文化をもつ北欧やアジア 諸国では厳密に適用できない部分があった。

(2)第二期(1992年〜2006年)

西欧的コンセプトとは別の、新たな価値を もった遺産の掘り起こしが始まった第二期の キーワードは「柔軟性」である。

この時期にはグローバル戦略17)として、①

「文化的景観」「産業遺産」「20世紀の建築」

の記載促進、②真正性の基準の弾力化、③非 ヨーロッパ圏での登録促進が行われた。

まず、1992(平成4)年の第16回世界遺産委

(7)

員会で導入された「文化的景観

cultural land-

scapes

」は、 人間と自然との共生から生ま

れた共同作品 を意味しているが、この考え 方は人間と自然の共生の概念を深化させるこ とに寄与したほか、世界遺産に地理的広がり と多様化をもたらした。また、「産業遺産」

「20世紀の建築」の記載促進は、キリスト教 や都市に関するものに偏っていた今までの世 界遺産一覧表に、地域と価値の多様性に光を 当てることとなった。

さらに、真正性の解釈が弾力化したことで、

アジア諸国の「木の文化」18)やアフリカ諸国 の「土の文化」、西欧以外の文化遺産の登録 が可能となった。そして、より柔軟な世界遺 産登録を促すために、2005(平成17)年に

「作業指針」が大幅に改訂され、文化遺産と 自然遺産の指標の区別が廃止された。自然/

文化という二分法が廃されたことの意味は大 きい。また、「作業指針」には、第一期に必 ずしも厳格に適用されなかった緩衝地帯の具 体的な方針が盛り込まれて、同時に、景観の 概念が適用され、世界遺産の景観を阻害する ような建物の建築は緩衝地帯の外であっても

「視覚的完全性

visual integrity

」を損なうも のであると指摘されるようになっている19)

(3)第三期(2007年〜)

第三期の最大の課題は、2008(平成20) 現在で878件に及ぶ世界遺産を、地震などの 自然災害や戦争や内戦による破壊、そして都 市開発による脅威から、如何にして保護して いくかである。加えて、第二期に進展したグ ローバル戦略に基づいて、「無形的側面

intan- gible aspects

」「生きている文化

living culture

等をキーワードに今まで見落とされてきた遺 産の掘り起こしに比重が置かれると同時に、

そのふるい落としもまた厳しくなることが予

想されている。

このように、評価が定まっていない新しい タイプの遺産が審査の場に登場するようにな ればなるほど、世界遺産一覧表の信頼性を保 持するために、

ICOMOS

の評価および世界遺 産委員会の審議が厳格化の方向に進むことに なるという指摘もある20)。したがって、資産 を推薦する際には、

OUV

の概念をはじめと して専門化する遺産の価値について、自国だ けでなく、海外にも通じる分かりやすい説明 をしていく努力が一層求められることになる だろう。

──文化遺産としての「平泉」の評価

近年、文化遺産については、単体として

OUVをもつものだけではなく、一群の構成

資産に相互の関連性・連続性をもたせて、総 体として独特の文化を表している資産を推薦 する傾向にある21)

そこでは、複数の文化財を一つの主題・ス トーリーの下に組み立てて、様々な資産を広 域的・総合的に保護することが重視されてお り、「平泉」も「浄土思想を基調とする文化 的景観

Cultural Landscape Associated with Pure Land Buddhist Cosmology

」をテーマに推薦書 がまとめられている。

3.1 平泉の特徴

「平泉」は、11世紀末期〜12世紀の約100 年間、浄土思想が隆盛した時期に、奥州藤原 氏四代(清衡・基衡・秀衡・泰衡)によって形 成された政治・行政上の拠点である。自然地 形に順応させつつ、寺院や一群の浄土庭園を 要所に配して浄土の世界を具現化した「平泉」

は、仏教伝播の東の終着点である東アジア東

(8)

端の地において完成した仏教文化の顕著な事 例として推薦された。

(1)構成資産

では、具体的に「平泉」の構成資産はどの ようになっているのだろうか。

「平泉」は、岩手県平泉町・奥州市・一関 市に所在する政治・行政上の拠点とその周辺 に及ぶ9つの資産で構成されている22)

まず、政治・行政上の拠点としては、①平 泉の中心部北側の関山丘陵に位置し、初代清 衡が12世紀初頭から四半世紀をかけて、その 精神的な中核として最初に造営した寺院であ る「中尊寺」、②平泉の中心部南側に位置し、

京都東山に天皇家の御願寺として造営された 法勝寺を模範として、二代基衡が12世紀中頃 に造営したとされている「毛越寺」など、現 在においても宗教活動が継続されている寺院 がある。

そして、③平泉中心部東側に位置し、三代 秀衡が12世紀後半に、宇治の平等院を模して 建立したとされる「無量光院跡」、④平泉中 心部の東側を流れる北上川と西側の猫間が淵 の縁辺部に立地し、平泉の政治・行政上の中 核的施設を成す政庁跡であった「柳之御所遺 跡」がある。

当初、2001(平成13)年の暫定一覧表追加 記載時には、タイトルも「平泉の文化遺産」

で、この4つの資産で構成されていた。しか し、2006(平成18)年6月8日〜11日に、海 外の専門家に平泉の文化財的価値を評価して もらうために開催した「『平泉の文化遺産』

の顕著な普遍的価値と保存管理に関する国際 専門家会議」において、東アジアにおける宗 教・哲学に起源をもつ資産については、それ らの基盤となった資産のみならず、派生的に 生み出された価値をもつ様々な構成資産を広

く含め、十分な調査研究と確実な保存管理・

整備活用に関する施策を推進していくことが 重要な課題であると指摘されたことを受けて、

また、厳しさを増しつつある世界遺産委員会 の動向等も踏まえて、新たに次の5つの資産 が追加された。

まず、⑤奥州藤原三代が信仰の山として重 視していた「金鶏山」である。金鶏山の山頂 は、毛越寺と無量光院跡の延長線上に位置し、

無量光院東側の中島から西の仏堂を見上げる と、年に2度、4月と8月に仏堂背後に位置 する金鶏山の山頂に日輪が沈むなど、西方極 楽浄土の世界を現世において観想する浄土思 想に基づいて、仏堂・園池・自然の独特の空 間構成がなされた場である。

そして、平泉と周辺の地域とを結ぶ資産と して、⑥奥大道上の陸上交通の要衝地に造ら れた寺院の「達谷窟」、⑦北上川交通の要衝 地に位置している城館跡の「白鳥舘遺跡」、

⑧平泉が形成される以前の境界域に造営され た寺院及び寺院跡である「長者ヶ原廃寺跡」、

⑨中尊寺の経済的基盤を成した「骨寺村荘園 遺跡と農村景観」が追加されている。

(2)推薦書に記載された登録基準

推薦書においてこれらの資産は、「作業指 針」の登録基準(

iii

)、(

iv

)、(

v

)、(

vi

)の観 点から評価が可能として、それぞれの普遍的 価値の説明を行っている。しかし、この証明 が不十分であるとして、今回「平泉」は記載 延期となったのである。

では、

ICOMOS

は「平泉」をどのように評 価したのだろうか。2008(平成20)年5月に 出された勧告の内容を分析する。

3.2 ICOMOSの勧告

ICOMOS

の勧告の主な要旨は、次の7点で

(9)

まとめることができる。

(1)資産の完全性・真実性

「完全性

integrity

」とは、物件に世界遺産

の価値を構成する必要な要素がすべて含まれ ており、長期的な保護のための法律などの制 度が確保されていることをいい、「真実性

authenticity

」とは、オリジナリティを保っ

ており23)、推薦地域だけでなく、利用制限区 域である緩衝地帯

buffer zone

も設けられて、

遺産の保全が重層的に図られていることを指 している。

ICOMOS

は、「平泉」の「完全性」につい て、半都市化した特有の景観が資産に悪影響 を与えているため、個々の構成資産とその周

図2 「平泉─浄土思想を基調とする文化的景観─」の範囲

推薦資産 551.1ha

1 :中尊寺 (137.4ha)

2 :毛越寺 (29.4ha)

3 :無量光院跡 (3.9ha)

4 :金鶏山 (7.5ha)

5 :柳之御所遺跡 (10.5ha)

6 :達谷窟 (5.1ha)

7 :白鳥舘遺跡 (3.6ha)

8 :長者ヶ原廃寺跡 (3.8ha)

9 :骨寺村荘園遺跡 (349.9ha)

と農村景観

緩衝地帯 8,213.1ha 東側 (7,802.0ha)

西側 (411.1ha)

8,764.2ha

県境 市町村境 9.骨寺村荘園遺跡

と農村景観

宮城県

一 関 市

I.C

一ノ関駅

奥 州 市

磐井川

太田川 衣川

南股川

北股川

(市町村界)

北上川

▲東稲山

平泉町

6.達谷窟

2.毛越寺 3.無量光院跡 5.柳之御所遺跡 4.金鶏山

7.白鳥舘遺跡

1.中尊寺 8.長者ヶ原廃寺跡

I.C

出典:岩手県教育委員会『包括的保存管理計画』6頁、図−3を基に作成

Long. 140゜59′47″E Long. 141゜09′47″E

Lat. 39゜00′10″N

0 1 5 10km

N

(10)

辺の自然環境との視覚的関係性を読み取るの が困難になっていると指摘した上で、浄土思 想との関連性の観点から、都市地域について は推薦区域が狭く、農村地域においては関連 性が薄いと述べている24)

さらに、「真実性」については、都市地域 における遺構の真実性は十分にあるが、農村 地域は不明確であるとしている。ただし、都 市地域にある中尊寺金色堂は顕著な残存物で はあるが、金色堂を囲っている1968(昭和43)

年建造のコンクリート造覆堂は、金色堂その ものの保護には有効であるものの、金色堂と その周辺環境との関係を断っているため、金 色堂が、さながら美術品のように見えると指 摘している。また、提供された物証からは、

骨寺村荘園遺跡/一関本寺の農村景観がどの くらい変化し、12世紀の形態の要素をどの程 度維持してきたのか不明確であると述べてい 25)

(2)比較研究

比較研究は、証明しようとしているOUV の文脈の正当性を根拠づけるものとして必要 なものである。

ICOMOS

は、「平泉」において、世界遺産 一覧表への記載を検討するのに十分な比較研 究がなされていないと述べた上で、とりわけ 浄土庭園群について、なぜ

OUV

の可能性が あると考えられるのか、なぜ「平泉」のコン セプトである 浄土思想 と平泉の景観との 関連性に

OUV

があると考えられるのか示唆 されていないと指摘している。

そして、中国・韓国の事例を含めて、同種 資産とのさらなる比較研究を提示するよう求 めている26)

(3)評価基準による価値の証明の熟度 前述のとおり、「平泉」は「作業指針」(149

頁、表1参照)の登録基準(

iii

)、(

iv

)、(

v

)、

vi

)に基づいて価値の証明を行っているが、

現段階においてはそれぞれの

OUV

について 十分に証明がなされていないと

ICOMOS

は指 摘している27)

具体的には、平泉の全体の配置と浄土庭園 群との間における浄土思想との関連性が、

「失われた12世紀の平泉の文化的伝統の存在 を伝承する物証として稀有の存在である」

〔基準(

iii

)〕と十分に証明されていない。むし ろ基準(ii)の下で考慮するほうがより適切で ある。

さらに、「人類の歴史上の重要な段階を物 語る見本である」とする基準(

iv

)は、基準

(ii)の証明の一部をなすものであり、平泉の

景観

landscape

が基準(

iv

)に該当するこ

とを十分に証明しきれていない。

また、「人間とその環境の相互作用を表す 顕著な事例である」とする基準(v)は、推 薦資産の一部というより、全体に適用する必 要がある場合に証明すべきものである。骨寺 村荘園遺跡の農村景観は基準(

v

)を満たし ておらず、その空間配置と計画に浄土思想の 影響が反映されているとは思われない。

そして、平泉と浄土思想との関連性が国家 的な重要性を越えるものであること〔基準

vi

)〕を史料等により示す必要がある、と手 厳しい指摘が続いている。

(4)資産に対する影響

平泉の主要な資産は、主要道路や鉄道が走 る都市地域内にある。これら資産に対する主 な危機は都市開発からきており、とりわけ近 年計画中の道路・橋梁など都市基盤整備事業 は、柳之御所遺跡の環境、すなわち平泉の行 政庁の考古学的遺跡や他の主な寺院・庭園群 との空間的関係に悪影響を与えるだろうと懸

(11)

念している(153頁、図2参照)28)

(5)保護手法、保全・管理体制

「平泉」は「文化的景観」として推薦され、

タイトルにもなっているが、実際の平泉の推 薦資産は、2つの緩衝地帯によって結合され た複数の別個の資産で構成されている。推薦 資産は3つのカテゴリー、すなわち、①遺跡

(寺院、考古学的遺跡、埋蔵された浄土庭園群)

②設計された景観、③進化する文化的景観に 分類できるが、「平泉」の

OUV

が、平泉の古 代都市の空間配置と浄土思想の結びつきに関 連しているならば、推薦資産の範囲を、寺院 群、行政庁、東西南北の道路軸、守護神社な ど主要な構成資産間の空間的繋がりと一体化 させるのが論理的であっただろう。つまり、

平泉の都市内における推薦資産は、文化的景 観の総体というよりも、一群の遺跡を囲い込 んだものになっていると断定している。

そして、建造物を守るための法的保護は適 切ではあるが、分散した遺跡群の都市景観を 守るのは困難であろう。また、作成された管 理・調整は適切であるが、さらに「平泉文化 遺産保存管理委員会」を設置して、保存管理 計画を直ちに進めることが必要であると述べ ている29)

(6)モニタリング

推薦書において、保全状況、管理システム の効果、各種圧力の影響、観光客数の増加見 込みや社会経済的要因などといった4つの主 要な指標は示されているが、浄土思想を理解 する上で重要な構成資産間の繋がりを示す視 覚的要因や、知識の要因が含まれていないの で検討するよう指摘されている30)

(7)結論

「平泉」は、浄土思想の発展を理解する上 で極めて重要ではあるが、幾つかの寺院は仏

教の他の側面に関連しているため、浄土思想 が唯一の影響力であった事例とは考えられな い。骨寺村荘園遺跡、白鳥舘遺跡、長者ヶ原 廃寺跡は浄土思想との関連が希薄であること は明らかである。

また、「文化的景観」として推薦されてい るにもかかわらず、推薦資産は個々の要素に 限定されており、緩衝地帯を設置することで 構成資産間の繋がりをもたせている。つまり、

「平泉」は「連続性のある推薦

serial nomina- tion

」であって、文化的景観とは言い難いと 断言している。しかも、繋がりをもたせてい る緩衝地帯には、平泉の現代都市・主要道 路・鉄道も含まれており、この地域を推薦資 産のコアの部分に取り込むのは困難であろう。

したがって、現時点において「平泉」は、

浄土思想の教義を全体として反映してはおら ず、

OUV

を証明するためにさらなる比較研 究が必要であると結論付けている31)

── 今後課題分析

以上のように、勧告において示されたICO-

MOS

の分析結果は、簡潔かつ説得力あるも のとなっている。

前年の「石見」の場合は、同じ「記載延期

Deferral

」であっても、勧告自体の内容が曖

昧で、しかも説得力を欠いたものであったた 32)、この点を衝いて説明を行い、委員会で 逆転記載にもっていくことも可能であった。

勿論、審査機関の判断が、その後の外交的努 力だけで覆るといった「政治的判断」が世界 遺産委員会の審議の場に持ち出されるようで は本末転倒ではあるが、「石見」の場合は、

反論にそれなりの説得力があったため例外的 ではあるが逆転登録に至ったものと思われる。

(12)

それでは、今回、「平泉」で投げかけられ た課題を今後、どのように生かせばよいのだ ろうか。外的要因と内的要因に分けて、検討 してみたい。

4.1 外的要因

(1)手続上の問題

文化遺産の多様化に伴って、

OUV

など評 価基準の厳格化が進んでいることは前述した とおりであるが、

ICOMOS

は勧告の内容だけ ではなく、評価の手続きについても一層厳密 に取り扱おうとしている。

通常、ICOMOSから要請があった場合のみ、

審査年の2月28日を期限として、推薦書の内 容を補足する「追加情報

additional information

を提出することができることになっている。

つまり、ICOMOSの勧告が出た5月以降には

「追加情報」は出せないことになっているの だが、ICOMOSの勧告内容に事実誤認があっ た場合に限って、推薦国が6月もしくは7月 に開催される世界遺産委員会に向けて、事実 誤認の指摘をした「反論書」を提出できるこ とになっている。

「石見」の場合、2007(平成19)年5月12日 に、推薦国である日本国政府にICOMOSの勧 告が通知された後、日本側は石見の価値につ いて再確認を促す必要があるとの独自の判断 から「補足情報資料

supplementary information

を作成し、

ICOMOS

本部に提出していた。し かし、これは世界遺産委員会のルール、すな わち「作業指針」第168項の規定にないもの であり、

ICOMOS

が世界遺産委員会に評価結 果を報告する際、考慮の対象とされなかった 可能性がある。

この件を踏まえて、「平泉」では、2008(平 成20)年5月に勧告が出される前年2007(平

成19)年8月の、

ICOMOS

調査員が現地調査 を行った時点で、推薦書の内容を補完させる ために「補足情報資料」の作成を行い、提出 を行っていた。しかし、その情報も

ICOMOS

においては十分に考慮されなかったようであ る。

つまり、

ICOMOS

の評価は、原則として、

最初に提出された推薦書に基づいて行うこと となっており、よほどのことがない限り、そ の後、提出された追加・補足情報が反映され て評価結果が変更されることはないというこ とである33)。したがって、「平泉」が再登録 を目指す際や、後に続く地域が推薦書や付属 資料を作成する際には、この点に十分留意し て構成しなければならないということになる。

(2)実質上の問題

次に、実質的な課題としては、「ICOMOS の判断の幅」を考慮に入れておくことが重要 になる。

2008(平成20)年の第32回世界遺産委員会 において、ICOMOSとIUCNの両諮問機関か ら、

OUV

の審査に関する分析レポートが提 出された。このレポートは世界遺産委員会が 2つの諮問機関に作成を要請していた

OUV

ガイダンスマニュアルのようなものであり、

①通常の世界遺産一覧表用(2008年に提出済み)

と②危機遺産一覧表用(2009年以降に提出予定)

の2種類が作成される。今後は、このレポー トに従って

OUV

が判断されることになるた め、推薦書を作成する際には、内容を熟知し ておくことが不可欠になるだろう。

このことと関連して、日本政府代表団の一 人である、本中眞文化庁記念物課主任文化財 調査官は、「石見」、「平泉」と2年連続して

記載延期 を招くことになった原因として、

諮問機関

ICOMOS

による分析レポートの

(13)

作成と、日本の資産の推薦作業が同時並行的 に進んだことを挙げている34)。実際、「平泉」

は、「文化的景観」「産業遺跡」など世界遺産 委員会がグローバル戦略として進めている新 たな分野に属する文化遺産として、日本政府 より2001(平成13)年に、「紀伊山地の霊場 と参詣道

Sacred Sites and Pilgrimage Routes in the Kii Mountain Range

(以下「紀伊」という。)

「石見」と同時に暫定リストに追加された物 件である。

2004(平成16)年に世界遺産一覧表に登録 された「紀伊」は、「吉野・大峯」「熊野三山」

「高野山」の3つの霊場とそれらを結ぶ「参詣 道」など複数の構成資産から成る「連続性を もつ推薦資産

serial nomination sites

」である ことを前提として、

ICOMOS

はその総体を

「文化的景観」として価値評価しており、世 界遺産委員会もその見解を是認している。一 方、「紀伊」方式で推薦書が作成された「平 泉」では、本稿3

.

2(7)の

ICOMOS

勧告の 結論でも指摘したとおり、個別の資産が「連 続性のある推薦」にとどまっており、「文化 的景観」とは言えないと評価されている。4 年前と同様の資産構成が通用しなくなってい るのは、前述のレポートの作成と無縁ではな いと考えられるが、いずれにしても

OUV

基準をめぐって流動的な議論がなされている 現時点においては、

ICOMOS

の見解にやや幅 があることを踏まえて審査に臨む必要がある だろう。

4.2 内的要因

(1)評価基準の適用と範囲の設定

以上のように、世界遺産委員会及び

ICO- MOS

は、従来行ってきたような登録基準の 選択とその説明だけでは不十分として、何が

OUV

なのかについて十分な分析を求めるよ うになっている。

勿論、世界遺産になることを目的化して、

解釈をゆがめるのは不適切であるが、

OUV

の証明の出発点として重要なことは、遺産の 意味、すなわち何がそこでのストーリーなの かをきちんと把握しておくことである。その 上で、推薦範囲が広すぎたり、狭すぎたりし ないよう、推薦資産の主題と推薦資産・緩衝 地帯の区分の在り方についての整理が必要と なる。

「平泉」は 浄土思想 をコンセプトにス トーリーが組み立てられたが、日本人でもな かなか説明が難しい 浄土思想と平泉の空間 配置の関係性 を今回、諸外国の人々にどこ まで説明できたかは不明である。 記載延期 の勧告後、日本政府は、「平和希求」「万物共 生」「自然との融合」といったキーワードを 用いて、奥州藤原氏が多くの戦いで亡くなっ た人々の精魂を敵味方の区別なく浄土に導く 理想郷として平泉を造営した姿勢は、「ユネ スコ憲章」にも通じると補足情報のなかで強 調したが奏功しなかった。

世界遺産一覧表は国際的なものであり、推 薦資産の価値は、国境を超えることを自明と している35)。また、一覧表の不均衡を是正す るため、近年、非西欧的価値をもつ資産の登 録が推奨されていることも事実である。だか らといって、「欧州では重要ではないかもし れないが、アジアでは重要である」といった 一種の価値相対主義的議論はそもそも「顕著 な 普遍的 価値

OUV

」と矛盾するもの である。したがって、日本で、あるいはアジ アで重要な遺産とみなされているものを特定 し、

OUV

をどう証明するかという 帰納法 ではなく、世界史や自然史の中で日本はどの

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