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日本語・日本文化研修留学生プログラムの改善につ いて

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日本語・日本文化研修留学生プログラムの改善につ いて

著者 澤田 田津子

雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

巻 59

号 1

ページ 71‑83

発行年 2010‑11‑30

その他のタイトル How to improve the program for Japanese Studies Students

URL http://hdl.handle.net/10105/4720

(2)

日本語・日本文化研修留学生プログラムの改善について

澤 田 田津子 奈良教育大学国語教室

(平成22年 5 月 6 日受理)

How to improve the program for Japanese Studies Students

SAWADA Tazuko

(Department of Japanese Language Education, Nara University of Education) (Received May 6, 2010)

Abstract

Japanese Studies Students (=international students who specialize in Japanese language and culture in Japan; Hereafter referred to as J.students) show a variety of language skill and interests depending on the features of education in Japanese in their respective countries. All the J.students, however, receive an education at our university for one year based on one education program for the J.students.

This paper shows first the variety of J.students through analysis of their final theses of past J.

students.

If we realize a program for J. students that supports the variety of students, we can clearly improve the results of their study in Japan.

For this purpose, it is necessary to clarify the features of education in Japanese in the respective countries of J. students. I analyzed the features in the countries that send students based on prior research. As a result, I found that there were several patterns of education in Japanese in these countries.

Then, I propose a specific method of using flexibly the existing program for J. students. I expect that this method will provide more effective education to each of various J. students. Also this paper describes problems which teachers and students should consider respectively for realizing the proposed program.

Finally, this paper shows analysis of the courses of past J. students after completion of study in Japan to clarify the role of J. students and confirm the importance of this system of study in Japan and describes the necessity of continuation of the system.

Key Words:Japanese Studies Students,

Variety of education in Japanese language, Flexibly use of the program

キ−ワ−ド:日本語・日本文化研修留学生,

日本語教育の多様性,

プログラムの柔軟な運用 1.はじめに

 現在、日本にいる留学生は約13万人( 1 )、そのうち、日 本語・日本文化(文学)を専攻する留学生はどれぐらい いるのだろうか。

 この分野を専攻する学生は、将来母国において、日本 とのかけ橋、いわゆる「知日派」「親日派」になること

が多く、日本の将来の外交にかかわる大変重要な人材と なる可能性が高い。

 そういうわけで、こういった専攻の学生を対象に文部 科学省給費留学生である「日本語・日本文化研修留学生」

の制度が存在する。以後、本稿では日研生と呼ぶ。

 日研生は全国で約380名在籍しており、国立大学を中 心に55大学に配置されている(2)。彼らはほとんどが母国(3)

(3)

の大学において「日本語学科」「日本学科」 と呼ばれる 専攻課程に属している学部の三年生、または二年生であ る。

 本学においても、毎年日研生が約10名配置される。半 数は大使館推薦、半数は大学推薦である。

 日研生は一年の留学を終えると母国に帰り、再び専攻 課程に戻って多くの場合は卒業論文を書き、学部を卒業 する。その後は、再び研究生として日本に再度留学し、

日本で学位をとるものもいるし、そのまま母国で日本語 を生かした就職をしたり、高校や中学校で 「外国語科目 としての日本語を教える教員」、つまり日本における英 語科教員に相当する仕事についたりする。また数年の研 究期間を日本で過ごし、母国に帰ってから学位をとり、

日本学の研究者となる者もいる。

 そういう彼らにとって、日本での一年間の留学期間中 のプログラムはどのような意味を持ち、留学中のプログ ラムで学んだことは、その後の彼らにとって、どのよう なメリットをもたらしているのだろうか。

2.研究の目的

 筆者は約15年に及び、日研生に対する日本語教育を実 践してきた。当初は日研生プログラムと呼べるものはな く、他の留学生(学部正規留学生)と同一内容の授業の みを提供していた。その後、日研生、および日研生と同 じ目的を持ち、彼らと同じ留学期間で協定校から来る留 学生数が増えるにつれ、プログラムとして形の見えるも のを作るようになった。2001年からは文部科学省から

「日研生プログラムの充実と整備」が求められるように なり、本学でも 6 章に掲げた授業を核としたプログラム を提供し、それに則って日研生対象の留学生教育を行っ ている。しかし年を重ねるごとに日研生を送り出す国

(以下、派遣元の国または派遣元大学)は多様化し、国 によって現行のプログラムの適応しにくい部分が異なる ことに気づかされた。その原因はおそらく派遣元の国の 日本語教育の実態がかなり異なっているからではないか と推察される。全ての学生にとって完璧なプログラムは ないとしても、現行のプログラムでは多様な国々からの 日研生の受け入れに対応しきれないことが明らかになっ てきたのである。現行のプログラムでは日研生の以下の 要望に沿えていない( 4 )

①日研生全員が同じクラスで日本語を勉強するのは良い が、あわせて各自の日本語力に応じた日本語クラスも 用意して欲しい。

②自分の研究テーマに関する調査旅行や、日本でしか体 験できない活動などをあまり制限しないで欲しい。

③派遣元大学で研究していた内容を深める時間がみつけ にくい。

④派遣元大学からの要求が受け入れ大学(本学)に伝わ っていないので、理解してもらうのに苦労する。

⑤プログラムに載っていない科目の履修や、個人的な研 究計画を柔軟に認めて欲しい。

 本稿では、以上のような日研生達の要望に少しでも応 えるために、派遣元の国の日本語・日本文化教育の実際 を視野に入れながら現行のプログラムを見直し、理想的 なプログラムに近づけるための具体的な改善方法を提案 することを目的とする。

 日研生とは、一年間だけの、唯一専門が指定された「国 費留学生」であり、日本の将来に必ずメリットをもたら す人材を育てるプログラムとして理解されてきた。とこ ろが、昨今の経済情勢悪化により、日研生というジャン ルの国費留学生そのものの枠を存続させるか否かという 根本的なところまでが議論されることもある。

 しかし、日研生はやはり日本の将来にとってなくては ならない留学生の枠組みだと思う。そのことについても、

過去の日研生達の追跡調査の結果を根拠としながら、考 察したいと思う。

3.日研生のプログラム

 本学のプログラムについて検討するには、他大学のプ ログラムからも学ぶところが多いと思われるので、他大 学の日研生プログラムについても見ておきたい。

 2010年度版の日研生コースガイドを見ると( 5 )、プログ ラムを提供しているのは、国立大学法人が52大学、私立 大学は上智大学、慶応大学、早稲田大学、南山大学の 4 大学である。

 しかし、中には現在の受け入れ数が 0 ~ 2 人という 大学もあり、実質的にコースが運営されている大学はお よそ30校程度と推察される。歴史的に最も古くから日研 生を受け入れているのは東京外国語大学であるが、現在 最多を受け入れているのは大阪大学日本語日本文化研究 センターである。

 例年 3 名以上の日研生の受け入れ実績がある大学のプ ログラムを検証してみると、以下のような傾向があるこ とがわかった。

1. 10人以上受け入れている大学では、日本語教育の他 に「日本事情」「日本文化」の授業を日研生用に設けて いる。「日本文化」の授業は現代日本についての内容 が多いようであり、歴史や文化史、経済、法学などの 授業の受講も可能ではあるが、それらを受講するには、

大学の通常の授業に参加する形をとることになってい る。なお、宗教に関連する授業を提供している大学は コースガイドを見る限り、本校を含め、 4 校しかない。

2. 受け入れ人数が 1 ~数名の場合は、一般の留学生 のクラスに入れて合同で授業を受けさせ、日研生独自

(4)

のプログラムとしては各自のテーマに基づくレポート や実地研修などだけにしてある。

3. 日研生を他の学部留学生や短期留学生とあまり区別 していないような印象を受ける。

4. 地方の大学の場合、日本事情の授業に「地域性」を 盛り込んであるものがいくつかある。

例)岐阜の地域文化、京都ブランド創世、奈良学、沖 縄の文化 等

5. インターンシップ、レポート、発表会などを義務づ けている大学が多い。

4. 国による日本語教育の傾向の違い  日研生を送り出している国は何カ国ぐらいあるのだろ うか。本学に関してのみ調べた結果では1989年から2010 年までに27カ国から日研生を受け入ている。そこでこの 章では、実際にその国の事情がある程度わかる国々につ いて、その国での日本語・日本文化教育の事情について まとめてみたい。

 現在まで本学が受け入れたのは27カ国からであるが、

この27カ国の日本語・日本文化教育の事情をまとめると、

おおよそ以下の四タイプに分類されると思う。

 毎年本学で受け入れる10数名の日研生は、これらの四 つのタイプの国々から留学してきており、タイプの異な る日本語・日本文化教育を受けてきた日研生が本学に混 在する状態となっているのである。本学では未だ受け入 れたことのない派遣元大学も、この四つのタイプのどれ かに入ると思われ、今後、本学にとっては新たな派遣元 となる国からの受け入れに際しても参考になるので、四 つのタイプの全てについて記述しておく( 6 )

  Aタイプ

 その国において、日本語が中等教育機関から大学の 専攻課程まで継続的に外国語として教えられている国。

これらの国の大学で日本語を専攻している学生は、卒 業後、中等教育機関で日本語教員になるために日本語 を専攻している場合が多い。彼らは日本語教師を自ら の「定職」として選ぼうとしている学生たちである。

したがって、そういう学生を養成する大学での日本語 教育は、日本語の運用能力を身につけ、それを更に次 世代に教えていくための方法、すなわち日本語教授 法・教育法や、教育学全般を教育することになってい る。

 日本語以外の外国語に関しては、高等教育で義務と して学習した英語をのぞき、それ以上の課題はないよ うである。

 更に、彼らが将来教えることになる中等教育機関で は、教えるのが 「現代日本語」 であるので、彼らの関

心も「現代日本語」であり、最近の日本文化であるこ とが多い。日本の伝統文化や、宗教論、歴史学などを 特に専門分野とすることは少ない。Aタイプに入る典 型的な国は韓国、中国、インドネシア、であるが、タ イ、べトナムなどもこの傾向がある。

 タイ、ベトナムでは、中等教育での日本語教師は不 足しており、時には日本語を副専攻として学んだだけ の者でも日本語を教えている場合がある( 7 )

 また、これらの国の大学で日本語教員をしようとす るものは、日研生として学んだあと更に母国、あるい は日本で修士以上の学位をとらなければならない。大 学院での専攻分野も日本語学、日本語教育学が多い。

 これらの国々で使われている日本語教材は、日本国 内の日本語教育機関で使われているものも多い。韓国 や中国では日本語が中等教育機関の正式の科目として 認められているので、国が決めたシラバスに基づき教 科書が開発され使用されている( 8 )。しかしシラバスは 日本でよく使われて来た教材と似た傾向があることが わかる。すなわち、シラバスは構造シラバスで、教え 方は文法重視、正確さ重視、その上に四技能すべてを 育成するような方法である。したがって、文法説明の 仕方、文型提出順、試験問題の出し方なども、日本国 内の日本語教育とよく似た状況下で、同じ文法用語を 使って授業を受けてきている( 9 )。このような国から来 た日研生は、現代日本語についてはかなり流暢に使い こなすことができるが、一方において、伝統的な文化 や思想などについては、やや関心の薄いこともある。

次に述べるBタイプとは最も異なる日本語教育事情の 国々と言える。

Bタイプ

 大学以上の高等教育において、日本語そのものを研 究するのではなく、「日本学」を研究するツールとし て日本語を学習する国。伝統的にヨーロッパの大学に ある日本学科では、日本との長い交流の中から、西洋 にはない東洋的な考え方、死生観、それに基づく文学、

芸術などを研究する流れがあった。その伝統は今でも 受け継がれていると思われる。このような国の学生は、

母国の周辺諸国の外国語をいくつか習得したのちに日 本語を選択している者が多い。彼らの母国における日 常生活では、現代日本の文化、人々、文物に直に触れ る機会は多くないので、彼らの日本語能力は 「読み」

「書き」に偏る傾向がある。よって来日時点ではほと んど話したり聞いたりができず、時にはまるで初級者 のように扱われてしまう傾向がある。しかし話をして みると日本文化の非常に細かい部分に精通しているこ とがあって驚かされる場合がある。このような例はヨ ーロッパで最も古い日本学科のあるライデン大学を擁

(5)

するオランダ、そしてフランス、ドイツなどである。

しかし、オランダの場合はもともと日本との交易を通 じて日本学が発展してきたという経緯があるせいか、

話し言葉や実際の運用能力もしっかりと教育されてい ることが多い。これらの国では日本と交流の始まった 頃は日本から取り寄せた文法書などを使っていたのだ ろうが、現在では国際交流基金の教材や海外技術者研 修協会の教科書が使われている。ただこれらの国の教 員自身が受けた日本語教育のせいか、文法説明は国語 学的であり、教授法も文法訳読法が重要な役割を果た している。このことの背景には将来、翻訳家を目指す 生徒が多いという理由もあるだろう。

Cタイプ

 日本語・日本文化は主に大学以上で専攻するが、ご く限られた中等教育機関において第二外国語として履 修されている国。また日本語学習の目的も、Aタイプ のように将来日本語教員になりたいという者もいれば、

日本学のツールとして学びたいという者もいて、いわ ばAとBが混在しているようなタイプ。

 これらの国の日本語教育のレベルは非常に高い。運 用能力をつけることと、「学問」としての日本語学、

日本文学、日本学がバランスよく教育されているよう に思われる。しかし、最終的に専門とする分野につい ては、ややBタイプ寄りで、語学より文化や文学に偏 る傾向がある。ルーマニア、ポーランドなどがこのタ イプにあたる(10)

Dタイプ 

 つい最近まで外国語としての日本語を大学で専攻す ることができなかった国が、新たに日本学科を設けた ような場合。または大学にはまだ主専攻課程としての 日本学科がないような国。このような国々からも日研 生は採用されている。一般に、中央アジア、中・南米 がこれにあたる。しかし、中央アジアでもたとえばカ ザフスタンやウズベキスタン、モンゴルなどでは、近 年指導者育成が進み、次第にAタイプに移行しつつあ るような印象を受ける。

 以上が日本語・日本文化教育事情の 4 つのタイプで あるが、まとめると、日本語学習者の多い国はAタイプ、

日本語学習者数は少ないが日本から遠く文化的な好奇 心が動機となっている学習者が昔から存在し、今もあ る程度存在する国はB,Cタイプ、日系人や日本企業と のかかわりで日本語学習を始めた学習者の多い国はD タイプといえるのではないだろうか。本学では、この 四つのタイプの国々から来ている留学生が同時に一つ の同じプログラムで学んでいるが、今後はタイプの違

いを考慮したプログラムの柔軟な運用、またはプログ ラムそのものの大幅な改善が必要と言えるだろう。

5.本学の日研生の関心分野

 本学では最初に日研生を受け入れた1989年から2009年 10月までに、27 ヶ国から156人の日研生を受け入れてき たが(11)、その修了レポートを発行するようになったのは 2001年からであり、2010年 5 月現在第 9 号まで発行され ている。そのテーマを分析してみることで日研生の関心 分野がどのようであるかを見てみよう。

 なお、この修了レポート集に原稿を書いた学生は日研 生だけではなく、日研生ではなかったが、同じように日 本学を専攻している学部生で、大学間交流協定によって 留学して来、日研生と同じプラグラムの中で研修を受け た学生も含まれている。このような学生を含めて2001年 から2009年までにレポートを書いた学生の総数は24カ国 123名となる。このうち 3 名はレポートという形にはで きず雑感のようになってしまったので今回の分析からは 除外し、残り120名のレポートを内容によって分類し、

国籍と人数をまとめた結果が表 1 である(12)

 内容によって、①「社会学系」②「日本文学系(マン ガ・アニメは④へ)」③「伝統文化系」④「サブ・カルチ ャー系」、⑤「日本語教育系」⑥「日本語学系」に分けた。

表 1

(6)

表 1からわかることは以下の通り。

1. 伝統文化とサブ・カルチャー系を合わせると50編と なり、全体の41%である。

2. サブ・カルチャー系のレポートは2003年から登場す るが、近年特に増えているということもない。人気 のあるのはやはり伝統文化系である。

3. 日本語教育に関しては韓国に特化していると言って よく、近年さらに日研生の関心の対象から外されて いるようである。

4. 文学についてレポートを書くものは予想を下回って 少なかった。

5. サブ・カルチャー系のレポートはフランスが多い。

6. 伝統文化系の34編を更に細かく見ていくと、宗教に ついてのレポートが 5 編、宗教について直接論じた わけではないが、宗教的な考え方や価値観を考慮す べき内容のものが 9 編であり、日本人と宗教という 視点から日本文化を捉えようとしている学生が一定 数存在することがわかる。

6.学生の関心を反映させたプログラムとは 61.日研生プログラムの現状

 さて、このようなテーマでレポートを書いた日研生・

協定校の留学生であるが、実際に彼らはどのようなプロ

グラムの下に本学での留学期間を送っているのだろうか。

 表 2は2010年度版コースガイドに掲載された本学の プログラムの概要から、時間割部分を抜粋したものであ る。

 これを見ると、日本語の学習に圧倒的な時間を割いて いることは明白である。他大学のコースガイドを見ても、

大凡このような特徴は変わらない。本学の特徴としては、

必修の中に文化に関するものが四つあり、そのうち一つ にははっきりと「宗教」という名称が使われていること である。

 一般に、日本の学校教育においては宗教を教室で「教 える」ことは公立学校の場合は殆ど行われていない。し かし、留学生の多くは出身国では日常生活が宗教と強く 結びついている場合も多い。また、本人は無神論者であ っても日本に宗教的な神秘性を求めている学生もいる。

従って、本学では日研生用のプログラムの中に「日本人 と宗教」という視点から「宗教文化論」を設けているこ とが一つの特色と言えるだろう。

 本学の現行のプログラムを 3 章で紹介した各大学の日 表 2

(7)

研生プログラムに共通する特徴も参考にしつつ、どのよ うに改善できるか、または運用できるかについて具体的 に次節から検討していく。

62.日研生の実情に合わせたプログラムとは  彼らが来日してすぐに「一年間で何を学びたいか」と いうアンケートをとると、予想できるような結果が出る。

すなわち「日本語力を伸ばしたい」「友だちを作りたい」

「色々なところに行って、見聞を広めたい」「専門につ いて資料収集をし、研究したい」である。

 このうちほぼ全員が学びたいことの第一にあげる「日 本語力を伸ばしたい」に関してだが、実はその意味する ところは派遣元の国によって微妙に異なるということが、

日研生への聞き取り調査や、留学終了後のアンケートか らわかってきた。そこでこのことを考察するために、日 研生の派遣元の国による外国語事情の違いについて少し 書いておきたい。

 日研生の専門分野はもちろん「日本語」であるので、

日本語が第一外国語であるべきなのだが、 4 章で述べた B,Cタイプの学生は、派遣元大学において日本語の他に もう一つの外国語を専攻しなければならない場合がほと んどであり、中には「日本語が専攻だが、ダブルメジャ ーの一つ」という学生もいる。たとえば、ルーマニアで は、主専攻として日本語が設置されている大学は 2 大学 のみであり、それもいわゆる「ダブルメジャー」という ことである(13)

 さらに、国境を越えた移動の多いB,C,Dタイプの学生 にとっては、英語、フランス語、ドイツ語、ロシア語の 中のいずれかが容易な言語であり、それらの言語のどれ かと自国語のバイリンガルである学生が多い。そういう 彼らにとっては、日研生とはいうものの、日本語は第二 外国語、または第三外国語になっているケースが殆どで ある。

 一方で、Aタイプの学生の多くは日本語が「第一外国 語」であり、中には中学、または高校時代から外国語科 目として日本語が履修できたため、10年近く日本語を勉 強してきたという日研生もいる。したがって、Aタイプ の国からの学生が日研生として留学してきて「日本語力 を高めたい」という時の到達目標と、B,C,Dタイプの国 から来た学生が「日本語力を高めたい」という時の到達 目標は実はかなり異なっているのである。

 日研生というジャンルの留学生は、殆ど全員が語学習 得に関して非常にすぐれた感性と適性を備えた者の集団 であるが、特に母語が大言語ではない日研生の場合は、

上述した日本語は多数ある外国語の一つにすぎないとい う位置づけの場合もあるわけだ。つまりそういう学生の 中には、日本留学をきっかけに、日本で更にアジアのど れかの言語を学習したいと考える者が少なくはない(14)

このことは筆者が日研生プログラムを担当するようにな って数年後に初めて気づいたことである。日本の受け入 れ側としては「日研生には日本語こそ教えなければ」と 構えがちなのであるが、日研生の中には「日本語だけで なく、アジアの他言語との比較を通じて日本語をよりよ く理解したい」と考える者がいるのであり、このことは 今後のプログラムを考える上で参考になるのではないだ ろうか。

 このように日研生の日本語力にはばらつきがあり、到 達目標も多様である。それなのに一方で彼らは「同じ日 研生なのだから、日本語もある程度は一緒に学びたい」

という矛盾した考えも持っている(15)。そこでコアとなる 日本語授業は同じものに参加させ、その授業が易しすぎ ると思う学生には更なる課題を与え、難しすぎると思う 学生には補習をする、または後述するように評価法など を柔軟化して対応することを提案したい。こうすること によって、 2 章で述べた留学生の要望①に応えることに なるだろう。

 日本語能力を伸ばすことの次に彼らにとって関心のあ る言語的内容とは、日本での言語生活についでである。

表 1によれば「日本語学」については全部で32編のレ ポートが書かれているが、その内容を更に分析すると以 下のようになる

 方言・・ 4 編

 話し言葉、表現、挨拶・・12編  敬語・・ 5 編

 オノマトペ・・ 4 編  その他・・ 7 編   

 方言や敬語も、広い意味では「表現」と言えることか ら、日本語の「言語生活-話し言葉の特徴」に特に関心 を寄せる日研生が多いということがわかる。つまり、母 国では主に机上で日本語を学習してきた日研生が、日本 語が使われている場所に来て、日本語の実態を知りたが るという事実を裏付けていると言えよう。つまり、日研 生プログラムの中には、生の日本語の姿、言語生活を扱 う授業を必修、または選択必修に入れるべきと考える。

具体的には表 2の「日本語コミュニケーション」「日本 語文献購読(言語)」などの授業のシラバスを「日本語 表現」「現代日本語の実態」などを盛り込んだものとし、

日本語教科書にはまだ表れていない日本語の諸相を紹介 するべきと考える。

 また、文化に関しては、教室内だけでは消化しきれな いものも多い。

 たとえば、Bタイプの国から来ている日研生が、「日 本の祭」や「宗教行事」を研究テーマにしている場合が あった。このような場合は積極的に大学外での活動を奨 励してもいいのではないだろうか。

(8)

 学外活動にあたっては、本人に計画を立てさせ、その 計画通りに進行した場合は課題を達成したものとし、表 2 の中で「必修」となっている「日本文化史」または

「宗教文化論」の単位として認めるという方法も考えら れるだろう。

 同じく、B,Cタイプの国から来ている学生の中には、

日本をアジアの中の一つの国としてどのように位置づけ るかを研究したいと思っている学生がいる。そういう学 生は、日研生ではあるが近隣諸国にも行って調査したい と思っている場合があった(16)。こういう場合は、ただ単 に観光に行くのではないことから、授業の一環として 個々の学生の課題として明記し、達成目標も明らかにし たうえで取り組ませる。このことについては 8 章で詳述 する。

 次に、すでに何度か述べた「宗教」に関する授業につ いて、書いておきたい。

 日本では公教育において宗教が教えられることは殆ど ないと思われるが、社会の規範は、何らかの宗教的な価 値観によって形成されている場合がある。留学生は日本 人の考え方を知り、自分の国と日本との社会的ふるまい の違いの原因を知りたがるが、原因の一つに宗教がある のではないか、と考える学生もいる。

 しかしながら、彼らに対して宗教を「客観的」に教え る場がどこにでも用意されているとは言い難い(17)  伝統的な文化に限らず、現代日本社会にも日本人の宗 教観、死生観が反映されているものは少なくない。日研 生達が一年間を有効に過ごせるように、彼らが年中行事 や祭事に参加したり、日本の社寺仏閣を訪問したりする 前に、日本人の宗教観や死生観、価値観の基礎にあるも のなどを学際的に解説する機会を設ける必要があると考 える。よって日研生プログラムにはそういった内容を盛 り込むべきであると思う。

 本学ではすでに「宗教文化論」という授業が2010年度 から提供されることになっているので、この問題は十分 ではないまでも、ある程度は解決されていると言える。

 以上を考慮しながら目標とする日研生プログラムを考 えると、以下のようになる。

1  日本語の運用能力が伸ばせるものであること。

2  学生個々の日本語に対する関心に応えられる授業 であること。

3  コース参加者がある程度一緒にいられるものであ ること。

4  派遣元大学の日本語・日本文化教育の方針と連動 した内容であり、帰国後も継続可能な学習内容が 含まれるプログラムであること。

5  日本社会の随所に反映されている日本的なモノの 考え方とは何か、それは伝統文化、現代文化とど のようにかかわっているのかを考察することので

きる知識的土台、つまり 「日本文化リテラシー」

を育成できるものであること。

6  帰国後、派遣元大学の所属学科において研究すべ きテーマが探せるようなプログラムであること。

 

 以上のうち 1 、 2 、 3 、 5 に関しては現行のプログラ ムのシラバスを変更したり、評価法を変えたりすること で対処できるが、 4 、 6 を実現するためには、派遣元大 学との連携が不可欠である。日研生の派遣元の国では、

それぞれの国により日本語・日本文化教育の事情が異な る、ということは 4 章で述べたが、更に具体的な日本語 教育の内容について検証し、上記の 4 、 6 を可能にする 方法を考察するための参考としたい。

7.日研生の出身大学と連携したプログラムとは  本学が受け入れた日研生で、修了レポートを書いた学 生の派遣元大学のある国を、日本語教育の特徴で分類す ると以下のとおり 7 つの地域に分けることができると思 う。これは 4 章で区分したADタイプを本学が受け入 れた国にあわせて具体的に細かく分類したものといえる

(18)

① 韓国、(中国)

② インドネシア、タイ、ヴェトナム、シンガポール

③ インド

④ アゼルバイジャン、カザフスタン、キルギス、

モンゴル 

⑤ ポーランド、セルビア、ハンガリー、リトアニア、

ロシア

⑥ フランス、ドイツ、ベルギー、スペイン、

オランダ 

⑦ メキシコ、ペルー、アルゼンチン、ブラジル   4 章では日本語・日本文化教育事情の傾向により派遣 元の国を四つに分類したが、ここでは日本留学期間中の 教育を、派遣元国で受けた教育と一貫性のあるものにす るにはどうすればよいかを考察する。そのために①~⑦ の国々の日本語学習者の特徴や卒業後の進路による要望 の違いなどを具体的に考察し、それぞれの日研生に対す る日本でのプログラムの運用について提言する。

 

71.韓国、(中国)(19)

 韓国は 4 章で述べたAタイプの国の一つである。 7.2 で述べる国々もAタイプであるのに韓国だけを別に取り 上げるのは次の理由による。

 韓国語は日本語と文法構造が非常に似ていることから 日本語教育の要点が他の言語圏と異なること、他のAタ イプの国々に比して日本語学習者が圧倒的に多く、また 文化的にも近いという事情で、文化教育にも固有の対応

(9)

が必要と思われるからである。

 本学には韓国協定大学から毎年 1 ~ 2 名の日研生な らびに交換留学生が留学してくる。ごくまれに日本語以 外の専攻学生もいるが、95パーセント以上は日本語学科 の三年生、または二年生である。また大使館推薦で、協 定校外からも日研生を受け入れたことが数回ある。

 前述したように、日研生として書く修了レポートで「日 本語教育」 について書いた 7 人のうち、 5 人が韓国人留 学生であることに韓国の特徴がよく出ている。

 元・日研生の追跡調査をしてみると、韓国の元・留学 生たちは帰国後、そのまま韓国の大学の日本語科を卒業 して、中等教育機関(主に高校)で、外国語科目に属す る日本語科の教員となっている者の割合が最も多い。ま た韓国で言うところの 「塾」(日本のカルチャーセンタ ーや語学学校のような機関)で、日本語教師になってい る者が多い。

 したがって 「日本語教育」 について研究する、という 意識があるのだろう。実際、彼らの派遣元大学において も「日本語教授法」という授業があるということである。

 その一方、古典文学などは最上級学年で選択科目とし て少し学ぶだけなので、日本語の古典文法の知識のある ものは少ない。

 更に最も問題になるのは漢字である。韓国人学習者は、

韓国語と日本語の構文に類似点が多いので、日本語を平 易に感じ、話すことについてはかなり早くマスターでき る。それだけに漢字という時間のかかるものをコツコツ 学習する習慣が身に付きにくいようである。

 しかし、元々は韓国も「漢字を使用していた漢字文化 圏」に属する国であるという意識は強いので、日本留学 期間中に非・漢字圏学生と漢字学習においてまったく対 等に扱われることにも抵抗を感じるようである。

 また、韓国は日本に地理的に極めて近く、文化的、価 値観的にも似た部分がたくさんあるので、さまざまな局 面で他の留学生よりは、日常生活レベルの日本について

「知りすぎている」 という印象を与えられることが多い。

そこで、筆者は韓国からの留学生には、むしろ日本語や 日本文化を彼らなりに他の留学生に 「説明する」 という 役割を与え、その内容について、みんなで検証していく ということを授業内で適宜行っている。このことで、韓 国人留学生は、自分がどのように日本語や日本文化を理 解しているかを自覚し、不足しているところ、間違った 理解をしていたところに自分で気づいていくことがある ようだ。

 以上のことを考慮すれば、韓国からの留学生について は、 1 年間の留学中、以下のことに留意することで、派 遣元大学のカリキュラムと連続した留学期間が過ごせる のではないかと思う。

ⅰ)日本語教育に関しては、特に韓国語との違いに焦点

をあてて、韓国語と日本語との違いを自覚させつつ、日 本の標準的な正書法になれさせながら、漢字を積極的に 導入し、漢字使用の習慣をつける。話し言葉については、

1 年間の日本での日常生活でかなり自然にマスターでき るので、授業内においては、読み・書きを中心に行う。

会話クラスなどに参加させる場合は、教員の補助的存在 として、少し遅れがちな学習者の補助や、日本人学生を 交えたディスカッションなどでは、留学生と日本人学生 との「橋渡し的」役割をあて、自分の役割を自覚させる。

ⅱ)文化に関しては、日本と同じ儒教文化圏であり、中 国大陸から種々の文化を輸入してきた国ではあるが、現 在では表面的にもまた思想的にも日本と韓国には微妙な ズレや違いが出てきていることを自分の力で感じさせ、

発表の機会を設ける。

ⅲ)韓国人留学生には、ある時には日本人学生に代わっ て日本の行事や事物について説明する役割を与えること で、日本語能力も向上させることができ、それと同時に韓 国と日本の違いに自ら気づかせることもできるのではな いかと考える。また、このような経験は派遣元大学を卒 業して母国で日本語教員になる際にも役に立つだろう(20)

72.インドネシア、タイ、ヴェトナム、シンガポール  インドネシア、タイ等②の国々ではいずれも日本語が 中等教育機関で外国語として教えられている。つまり 4 章の分類では、やはりAタイプに属する。これらの国か らの日研生は帰国後、所定の課程を修了して卒業すると 中学・高校の日本語教員になる者が多い。しかし中等教 育の制度やシステムが日本とはかなり異なっているらし く、彼らは日本語教育だけでなく日本の学校教育制度そ のものにも強い関心を抱いていることが多い。

 また、彼らが母国において接することのできる日本文 化は現代日本文化が多い。しかし、専門分野としてサブ・

カルチャーを「研究する」という意識のものは少なく、

日本語学を研究対象と考える学生の割合が最も多い地域 と言える。

 よって、彼らには以下のようなことに留意してプログ ラムを運用したい。

ⅰ) 日本語力に関しては、「日本語能力試験」の合否が

母国に帰ってからも大きな意味を持つので、能力試験の 受験を積極的にすすめ、そのための補習をするなどして 援助する。

ⅱ)日本語を「教える」立場になる学生が多いというこ とを意識して、希望者には韓国人留学生とともに「日本 語の教育実習」をさせる。

ⅲ)日本語学の分野ではどのような観点で論文が書かれ ることが多いか、またどのような基本図書があるかを紹 介し、帰国後、卒業論文を書くための助けとする(21)

ⅳ)アジアの国々はイスラム教、仏教、ヒンディー教と、

(10)

宗教が大きな意味を持っている国が多い。それは生活の 仕方そのものに表れている。日本で彼らの生活の仕方を 守るために、彼らがどのように日本社会と折り合いをつ けていけば良いかを、指導教員、チューター、他の留学 生とともに考える機会を、授業内に自然に盛り込んでい く。

73.インド

  4 章のタイプ別には入りにくいが、あえて言えば、D タイプと言える。インドの特徴は、外国語が「ツール」

と考られている程度が、おそらく最も高いということで はないかと思われる。

 他の日研生に比べて多少日本語の運用能力が低い学生 であっても、臆せず発言し、積極的に授業に参加する。

 また、帰国後の進路を見ると、日本留学をきっかけに、

日本留学が副専攻だったにも関わらず、結局日本とかか わりのある仕事に就く割合が高い。

 よって、彼らには次のようなことに留意してプログラ ムをアレンジしたい。

ⅰ)日本語を運用する時の「正確さ」を高めるための授 業の提供。すなわち発音・作文を必修にする。

ⅱ) ビジネス日本語に関する課題を与える。

ⅲ) 日本語を使ったコミュニケーションの方法について

よく理解させるよう、待遇的な状況を明確にした会話練 習を十分に行う。

74.アゼルバイジャン、カザフスタン、キルギス、

モンゴル

  4 章でもふれたように、DタイプとCタイプの混在型。

これらの国々の学生の第一外国語は、多くの場合ロシア 語であって、英語ではない。

 よって、これらの国から来た日研生の中には、「日本 に来たついでに英語も勉強したい」と言ってくる者があ る。

 その場合の対処については、個々のケースで判断する が、やはり 「日研生の役割」 を理解させたうえで対処す ることが必要だろう。

 これらの国々の学生は、母国においてあまり自発的な 発言や、活動を求められていなかった場合が多いらしく、

日本に来て突然「自主的」な学習と発言を義務付けられ て、混乱している様子が何度か見られた。

 従って、彼らにはわかりやすい課題をその都度与え、

達成の見えるような記録を付けさせ、自分に自信を持た せることが最初の課題と思われる。

 また、風土が日本とは大変違うため、学習以外の生活 面での適応に時間がかかることがある。このことが留学 に影響を与えないように、細かな観察とサポートが必要 である。

 以上のことを考慮して彼らには以下のようなプログラ ムの運用が望ましい。

ⅰ)日本語力については、多くの場合、かなりの運用能 力がある。彼らの母語と日本語の構造が比較的類似して いるためと思われる。しかしながら、漢字と書き言葉に 習熟することは困難を伴うので、話し言葉より、書き言 葉に時間を割く。作文の授業は必修とするのが望ましい。

ⅱ)彼らが日本で生活していると、色々な事物が非常に 目新しく感じられるようだ。そしてそれらを全部日本独 自のものと思い込む傾向がみられる。しかし、それらの 中には日本だけではなく東アジア共通のものも多いので、

それを、たとえば韓国人留学生とのペアワークを行わせ ることで気づかせる。

ⅲ)自分から問題意識を発することが少ないので、常に 考えるヒントとなるような課題を与える。課題は具体的 で、シンプルなものが良いようである。

 

75.ポーランド、セルビア、ハンガリー、リトアニア、

ロシア

 典型的なCタイプの国々。これらの国からの日研生は、

非常に正しい標準日本語を使用する場合が多いが、日本 の同世代の若者の使用する日本語とズレが感じられる割 合も多いようである。

 また、特に伝統的な日本文化について、母国の大学で 大変よく学んできているが、それは極めて学際的で伝統 的なものであるだけに、来日して現代日本の文化的な側 面に失望する様子をこれまでに何度か目にした。例えば、

若者の言葉の乱れ、新語・造語・外来語の氾濫などに不 快感を抱く学生も少なくない。

 この原因は、現代日本文化があまり紹介されていない 国々であるという点にもあるだろう。もちろん、意識的 に情報を探せばサブ・カルチャーにも接することができ るのだが、日本という国そのものの存在感がほとんど無 い地域なのである。

 これらの国々の学生については以下の留意点をあげて おきたい。

ⅰ)現代の話し言葉に慣れさせるため、視聴覚教材も利 用しながら、自然な省略や短縮形を紹介していく。

ⅱ)伝統文化が現代にどのように影響を与えているか、

という視点で、文化関連の授業で考えさせるような工夫 をする。

ⅲ)ⅱの結果、過去の日本と今の日本社会が連続した延 長線上にあるということを理解させるような授業を提供 する。このためには、「比較文化史」や「日本文化史」

のような授業が必要だろう。

ⅳ)彼らはほとんどが複数言語使用者であるので、相手 によって言語を変え、日本留学中でも日本語を使用しな い場合も多い。よって、日本語が授業の中だけになりが

(11)

ちである。このようなタイプの学生には積極的にクラブ 活動に参加させ、同世代の日本人学生との接点を増やす ことで、自然な現代日本語を身につけさせるという工夫 が必要であると思われる。

ⅴ)帰国後も、彼らの多くは研究を続け、そのまま日本 研究者になる者の割合が他の地域に比べて高い。

 したがって、彼らには日研生としての留学期間を終え た後についてのカウンセリングが必要である。具体的に は留学情報の収集、研究会や学会の紹介、他大学の情報 なども紹介するよう心がけたい。

76.フランス、ドイツ、ベルギー、スペイン、オランダ   4 章では主にBタイプに分類した国々。一部、Cタイ プの大学もある。

 これらの国々の大学の中には 7.5 の国の特徴と同じ である場合もあるので、まずそれを見極めたうえで、日 本語運用能力が十分ではないと思われる場合は、次の点 に留意して留学期間のプログラムを運用する。

ⅰ)日本語の授業はとりあえず他の日研生と同じクラス に参加させる。

ⅱ)「聞く」「話す」 能力において難しい場合は、留学期 間の前半は、まずは「読む」「書く」 の能力から彼らの 日本語力を判断する。チューター、クラブ活動の推奨、

地域のボランティアなどとの交流の機会をできるだけ紹 介し、「聞く」「話す」の能力を伸ばすように工夫させる。

ⅲ)研究テーマ、または留学の動機がバラバラなので、

最初に詳しいヒアリングが必要である。

 なお、 7.5, 7.6.のほとんどの国は、1999年にボロ ーニャ宣言(22)に署名し、学制が統一されて、学部が三 年で修了するように漸次移行中である。これがすべて完 了すると、日研生は二年次開始直後に試験を受け、来日 することになる。よって、以前に比べて相対的に日本語 力が低くなっているのが最近の傾向であることを記して おきたい。

77.メキシコ、ペルー、アルゼンチン、ブラジル  この地域の大学には日本語学科がまだない、という国 もあり、日本語を学習したのが日系人用の語学教室だっ たという者もいる。すなわち 4 章のDタイプに属する。

 日研生には日系人も非・日系人もいるが、いずれにし ても周囲に日系人がいたという学生が多く、日本国内に 知り合い、または親族がいる割合も少なくはない。

 日本語の運用能力はおおむね高いが「話す」「聞く」

に比べて、「読む」「書く」の実力が伴わないことがある。

 彼らが母国で接していた日本人、日系社会と現実の日 本社会とのズレに驚く学生もいる。

 よって彼らには以下のことに留意しながらプログラム を運用する。

ⅰ)話し言葉と書き言葉の違いをはっきり認識させ、書 く課題を多めに与え、細かく添削する。

ⅱ)将来、日本語を使って何をしたいのか自覚させ、そ の目標に沿う日本語能力を身につけるには、どのような 勉強の仕方があるかを一緒に考え、実行してもらう。

ⅲ)帰国後、日本語を専攻して研究者になることはほと んどなく、多くが仕事で日本語を使う、または日本語教 室で日本語教師になるので、インド人学生同様、ビジネ ス日本語についてのルールなどをビジネスマナーととも に紹介していく。また、日本語教師希望者には 7.1

7.2 の学生と共に教育実習の機会を与える。

8.個々のニーズに沿った留学プログラムを実現 するには

  7 章において、国あるいは地域によって、同じ日研生 または日研生と同じプログラムで留学している学生に対 し、プログラムを柔軟に運用する方法を提案した。しか し 2 章で書いたように、日研生は「コースガイド」に書 かれているプログラムに則って研修し、所定のコースを すべて修了すると「修了証書」が授与される。取得した 単位は、母校に戻って母校の単位として認められる場合 も多いと聞く。

 したがって、公にするプログラムが複雑過ぎても理解 しにくく適当ではないので、公表するプログラムはほぼ 現行通りのものとし、受け入れ大学側が次のような工夫 をすることで、かなりの部分まで個別対応することが可 能であると思われる。

81.いわゆる「日本語ポートフォリオ」の活用(23)

 多くの日研生は派遣元大学において、日本ほど細かく 指導を受けていないことが多い。もちろん、学生によっ て親しく指導を受けている教員がいたという場合もある が、聞き取り調査によれば、それは非常勤の日本人講師 である場合が多い。

 したがって、日本に留学してきて指導教員と密に連絡 をとるという制度そのものに慣れない学生もいる。

 そもそも自分たちが学ぶことになる日研生プログラム の概要がわからないのに、いきなり「自己主導型学習」

であるポートフォリオ型学習をすすめられても、何をど うして良いのかわからないだろう。

 そこで日本での指導教員はまず表 2に示した共通の プログラム(時間割)を彼らに提示し、説明した後で、

個々の日研生に対し、 7 章で述べた視点を反映させたプ ログラムの運用についてアドバイスする。その結果を 個々にポートフォリオとしてまとめさせ、それに沿った 研修を行うという方法を提案したい。

 以下に一例をあげる。

日研生個人ポートフォリオの例

(12)

[将来、母国で高校の日本語教員になる予定の韓国人日 研生の場合]

 「私が日本に留学しようと思った理由」→日本語がよ り上手になりたい。日本語能力試験 1 級320点以上レベ ル(到達目標 1 ・授業名「日本語 1 」・「日本語 2 」)

 「日本留学で一番したいこと」→日本と韓国の類似点 と相違点を明らかにする(到達目標 2 ・授業名「比較文 化論」)

 「日本語でできること」→他留学生に対し日本語の通 訳をすること(到達目標 3 ・授業名「日本語コミュニケ ーション」)

 「日本語でまだできないこと」→日本の敬語体系の理 解。(到達目標 4 ・授業名「日本語文献講読(言語)」)

 「日本語で説明したいこと」→韓国の学生の生活と日 本の学生の生活との違い(到達目標 5 ・授業名「現代日 本論」)

 「将来、日本語を使ってしたいこと」→優秀な日本語 科の教員になる。(到達目標 6 ・授業名 日本語教授法 特講)      

 以上のようなポートフォリオを確認しながらプログラ ムの時間割を検討するわけである。つまり「日本語教授 法特講」はプログラムとしては選択であるが、上記例の 学生は必ず受講すること、とか、日本と韓国との類似点 と相違点を明らかにして小論文をまとめ、それを発表す れば「比較文化論」の単位が出る、などという個人の計 画表を作成する。学生も指導教員も、授業内および課外 活動において、日研生一人ひとりのポートフォリオを意 識しながら役割を当てることで、授業効果がより上がる のではないかと考える。

82.評価において、個別設定の到達度を考慮する  いわゆる「点数」だけの評価では、日研生の 1 年間の 努力や成果を正確に判断することは不可能なのではない か。特にここ数年のように派遣元の国が多様化するとな おさらである。

 何度も書いているように、それぞれの日本語力が、母 国における日本語教育の影響をうけてかなり多様だから である。

 それなのに日本留学中は同じ授業に入って勉強すると なれば、普通の点数基準の成績判定は妥当なものとは思 えない。

 最も努力し、目標の達成に近づいた者が高く評価され るべきなのではないだろうか。

 よって、ポートフォリオに盛り込んだ「学生個々の到 達目標」に沿って、評価も行いたい。

 本学の場合、評価は半期に一度であるが、まず二月の 評価で、自分の到達目標に対する達成度で評価が行われ

れば、後半の留学期間にも更に努力しようとするだろう。

83.派遣元大学と受け入れ大学の教員同士の連携  日本留学期間が 1 年しかない日研生にとって、その 1 年をどのような 1 年にするかは大きな問題である。

 受け入れる側の教員として、筆者はそのことについて ずっと考えてきた。

 しかしながら、いくら受け入れ側が学生の希望を聞き、

できるだけそれに対応しようとしても、その成果が帰国 後に生かされなければ、 1 年の日本留学は単なる「日本 での生活体験」に終わってしまう虞がある。

 こういう観点から考えると、日研生を受け入れる日本 側の大学と派遣元の大学とは、以下のような情報の交換 を行うことが望ましい。

ⅰ)日研生の配置決定は例年 7 月であるが、配置が決定 し次第、派遣元大学に調査シートを送る。そこでは「当 該日研生に関して、特にどのようなことを 1 年間に体験 させてほしいか、また日本語についてはどのような教育 を希望するか」を問うこととする。受け入れの日本側大 学はその回答に基づき、プログラムのアレンジについて 検討し、できることとできないことを派遣元大学に知ら せる。

ⅱ)日研生が来日した後、ⅰ)の内容と学生の希望に基 づき、 8 章で述べたポートフォリオを作成し、それを速 やかに派遣元大学に知らせ、学生の目標について共通の 認識を持つ。

ⅲ)上述ⅰ、ⅱ の書類のやりとり(あるいはメールで のやりとり)は、最初は学生と直接、または学生を通じ て派遣元大学の教員と行うが、前半の 6 カ月が終わった 段階で、教員同士のやりとりに変更できれば変更する。

ⅳ)後半の 6 カ月は、ポートフォリオの見直し、受け入 れ大学に対する当該学生の留学の様子や成績の「報告」

を加える。

 今まで、留学生の派遣元の大学とは、協定大学に関し ては教員同士のコミュニケーションのある場合も存在し たが、協定大学であっても、また大使館推薦日研生の場 合は当然、コミュニケーションをとっていない場合が多 かった。このような場合は、最初の 6 カ月は日研生本人 に間に入ってもらい、徐々に教員同士のコミュニケーシ ョンを確立していくことができれば良いと考える。

 しかし以上で述べた教員同士の連携には問題点もある。

 日本語教育そのものも国によって特徴がさまざまであ るが、日本語教員、あるいは大学教員に関しても、国に よって立場と役割が非常に違う(24)

 そういう国々と受け入れ側の日本の大学とがスムーズ にコミュニケーションを取ることは、現実的にはかなり 困難な場合があるということは容易に想像できることで

表 1 からわかることは以下の通り。 1 . 伝統文化とサブ・カルチャー系を合わせると50編と なり、全体の41%である。 2 . サブ・カルチャー系のレポートは2003年から登場す るが、近年特に増えているということもない。人気 のあるのはやはり伝統文化系である。 3

参照

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