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イ ング ラ ン ドにお け る団体 に よ る 致 死 罪 の制 定 につ い て(1)

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研 究 ノ ー ト〉

イ ング ラ ン ドにお け る団体 に よ る 致 死 罪 の制 定 につ い て(1)

‐CorporateManslaughterandCorporate

HomicideAct2007の 概 要 一

目 次 1.は じめ に

2.2007年 団 体 に よ る致 死 罪 法 の概 要 2.1本 法 の構 成 と概 要

2,1.1本 法 の 内容 目次 2.1.2規 定 内 容 の概 要

2.2団 体 に よ る致死 罪の 定 義 と構 成 要 件 2.2.1団 体 に よ る致 死 罪 の定 義 2.2.2団 体 に よ る致 死 罪 の構 成 要 件

3.2007年 団体 に よ る致 死 罪 法 の制 定 過 程 の概 要 3.11996年 法 律 委 員会 報 告 書 に お け る提 案 の概 要

3.Ll報 告 書 にお け る法 人 に よ る致 死 罪 の新 設 提案 の位 置 づ け

3.L2故 意 に よ らな い非 謀 殺 罪 に関 す る法 の現 代化 と法 典 化 の提 案 の 概要 (以上 、 創 価 法学38巻1号 。 以 下 、次 号)

3.且.3法 人 に よ る致死 罪 の 新設 提 案 の 概 要 3.22000年 政 府 協 議 文書 の概 要

4.団 体 に よる致 死 罪 に 関す る法 の概 要 4.1如 何 な る範 囲 の 組織 が 適 用 対 象 とな るか 4.2適 用 を受 け る組 織 は如 何 な る場 合 に有 罪 とな るか 4.3如 何 な る救 済 命 令 や制 裁 が 供与 され るか

4.4コ モ ン ・ロ ー上 の重 過 失 非 謀 殺罪 を含 む他 の制 裁 と如 何 な る関係 を有 す るか

5.結 び にか え て

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1.は じ め に

本 年2008年4月6日 、連 合 王 国 の全 体 を通 じてCorporateManslaughter

andCorporateHomicideAct2007と 短 称 され る国 会 制 定 法 が 施 行 さ れ た 。 同制 定 法 は、 そ の 適 用 範 囲 内 に あ る団 体 組 織 の 諸 活 動 に よ っ て 惹 き起 さ れ る人 の 死 亡 に つ い て 、 団 体 の 諸 活 動 の 管 理 や 運 営 に お け る 不 手 際 や 失 敗 (managementfailure)に 基 づ いて 、 当 該 団 体 それ 自身 の 刑 事 責 任 を問 う こ と を可 能 に す る新 た な 犯 罪 を 制 定 した 。

と こ ろで 、 近 代 法 制 度 に お い て は 、 一 般 的 に 、1個 の 団 体 は 、 法 人 化 に よ っ て、 民 事 法 上 、 そ の 団 体 が 負 う法 的 責 任 を 、 法 人 の 管 理 ・運 営 の主 体 を な す 個 人 や 諸 個 人 か ら切 断 され る法 人 資 産 に 限 定 す る こ とを許 され る。 そ の 結 果 、 あ る団 体 が 法 人 を な して い る こ とに よ り生 じる 民 事 責 任 の 限 定 は 、 そ の 団 体 を 管 理 し、運 営 す る個 人 や 諸 個 人 を、 そ の 団 体 が 負 うべ き 民事 責 任 か ら保 護 す る効 果 を 有 す る もの とな る。 しか しな が ら、 団 体 の 法 人 化 は 、 団 体 の諸 活 動 に よ り 生 じ る刑 集 責 任 に 関 して は 、 当 該 の 刑 事 責 任 か ら それ らの 個 人 を保 護 す る こ と は な い 。 何 故 な らば 、 近 代 化 され̀文 明 化 さ れ た'刑 法 制 度 に お い て は 、 少 な く と も、 人 の 死 亡 に 係 る重 大 な犯 罪 に お け る刑 事 責 任 の成 否 は、 問 題 の 行 為 の 外 面 の み な らず 何 らか の 犯 意(mensrea)の 存 否 に よっ て 決せ られ る、 とい う 主 観 的 な 刑 罰 責 任 の ア プ ロー チ(以 下 、 犯 意 ア プ ロ ー チ)に よ っ て 確 定 さ れ て

U

来 て い るた め に 、 刑 事 責 任 の 主 体 は 、1次 的 に は 、 意 思 を 有 し犯 罪 を遂 行 す る 何 らか の 精 神 状 態 に あ る 自然 人 で あ る、 と考 慮 され て 来 た か らで あ る。

しか し、 現 代 の 法 制 度 の下 に お い て は、 各 種 の 団 体 が 重 大 な刑 事 責 任 の 主 体 を な す実 体 と して 考 慮 さ れ る こ とを要 求 す る事 態 が 生 じて い る。 何 故 な らば 、 例 え ば 、 多 様 な物 や サ ー ビス の 取 引 に よ っ て惹 き起 こ され 、 社 会 的 な関 心 衷 と な る人 を死 亡 させ る重 大 な諸 事 故 や諸 事 件 が 、 そ れ らの取 引 に携 わ る団 体 の 個 別 の 業 務 を遂 行 す る1人 の個 人 や 諸 個 人 の 手 に 帰 す る こ との 出来 な い団 体 の 管 理 や 運 営 の 不 手 際 や 失 敗 に よ って 生 起 して い る、 と見 ざ る を得 な い 事 態 が 生 じ

z)

て い るか らで あ る。 諸 国 の 法 制 度 は 、 団 体 の諸 活 動 の遂 行 に よ っ て 生 じる人 の 死 亡 事 件 や 事 故 の 場 合 に つ い て 、 一 体 誰 が 刑 事 責 任 を 負 うべ き で あ る の か 、 ま た、 そ の 場 合 に 、 団 体 組 織 そ れ 自 身 の 刑 事 責 任 を問 う こ とが 出来 るか 否 か の 問

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イ ン グ ラ ン ドにお け る団体 に よ る致 死 罪 の制 定 につ い て(1) i85

題 に直 面 して い る。 現 代 の 法 制 度 は、 諸 国 にお い て 、 こ の重 要 な 課 題 を どの よ う に解 決 す るか を 問 わ れ て い る、 と言 っ て 良 い の で あ る。

CorporateManslaughterandCorporateHomicideAct2007は 、この 課 題 に 対 す る1個 の 解 決 を連 合 王 国 に お い て 与 え た もの で あ る。 本 法 の 制 定 過 程 は、 以下 に お い て そ の概 要 が 紹 介 され る よ う に、10数 年 の 期 間 に及 ん で 進 行 して来 た もの で あ る。 そ して 、 そ の過 程 に は、 そ れ を観 察 す る者 で あ れ ば誰 も が 興 味 を 抱 く こ とに な る だ ろ う、 あ る問 題 が 存 在 して い る、 と述 べ て 差 し支 え が な い よ う に思 わ れ る。 す な わ ち、 本 法 の 制 定 過 程 お よ び本 法 の 規 定 内 容 に お い て、 団 体 そ れ 自身 は、 そ の 諸 活 動 が 惹 き起 した 人 の 死 亡 に つ い て 、 一 体 、 如 何 な る事 由 を根 拠 と して 、 如 何 な る と き に、 如 何 な る刑 罰 責 任 を負 うべ きで あ る か の 課 題 を解 決 す る た め に、 如 何 な る考 究 方 法 が 採 られ て い る か 、 とい う問 題 が そ れ で あ る。 本 法 の制 定 過 程 は 、 上 述 の近 代 法 制 度 に お け る犯 意 ア プ ロ ー チ か ら離 れ て 、 刑 罰 責 任 の 有 無 や 程 度 を問 題 の 犯 罪 が 生 じ る帰 結 の 深 刻 さ を反 映 させ て 決 定 す る客 観 的 な ア プ ロ ー チ を採 っ て い る の で あ ろ うか 、 あ る い は 、 客 観 的 な ア プ ロー チ を よ り重 視 す る立場 を採 って い る に す ぎ な い の で あ ろ うか 。 本 稿 は 、 こ の 問 題 意 識 に 導 か れ な が ら 、CorporateManslaughterand

CorporateHomicideAct2007の 概 要 を そ の 制 定 過 程 を概 観 しな が ら紹 介 す る こ とに よ っ て 、 イ ン グ ラ ン ド法 に お け る 団体 の 刑 事 責 任 の 根 拠 づ けお よ び 刑 事 法 に お け る団 体 責 任 と個 人 責 任 の 関 係 に つ い て の 研 究 の 最 初 の1歩 を踏 む 出

す こ とを 目指 す も ので あ る。

そ こで 、 以 下 に お い て 、 本 稿 は 、 先 ず 、2.に お い て 、 新 た な 団 体 の 犯 罪 が 如 何 な る箏 由 を根 拠 に成 立 す る もの と して創 出 され て い るか を そ の 定 義 条 項 の 規 定 内容 に よ って 確 認 した 上 で 、3.に お い て 、CorporateManslaughterand

CorporateHomicideAct2007、 す な わ ち、2007年 団 体 に よ る致 死 罪 法 の 制 定 過 程 を概 観 し、 同法 が ど の よ う に して 、 また 、 何 故 に 、 制 定 され る に至 っ た か を 瞥 見 す る。 次 に、4.に お い て 、 この新 た に創 出 され た 犯 罪 に つ い て 、① 如 何 な る範 囲 の 組 織 が 適 用 対 象 とな るか 、 ② 適 用 を受 け る組 織 は 如 何 な る場 合 に 有 罪 とな るか 、 ③ 如 何 な る救 済 命 令 や 制 裁 が 供 与 され るか 、 お よ び、 ④ コモ ン ・ロ ー上 の 重 過 失 非 謀 殺 罪 等 の 他 の 制 裁 と如 何 な る関 係 を有 す るか 、 を 明 ら か に す る こ とを 目指 しなが ら、2007年 団体 に よ る致 死 罪 に 関 す る法 の概 要 の 紹

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介 を試 み る こ とにす る。4.2に お い て は、新 た な犯 罪 の 制 定 は上 記 の 犯 意 ア プ ロー チ か ら どの 程 度 に お い て 離 れ て 行 われ て い る か が 明 らか に な るで あ ろ う(な お、

本 稿 中 の1[]内 の 字句 お よび本 文 の 字句 の 上 の ・… は筆 者 に よ り補 わ れ た も の で あ る)。

2.2007年 団 体 に よ る 致 死 罪 法 の 概 要

本 法 の 短 称 に よ れ ば 、 同 法 に よ っ て 創 出 さ れ た 犯 罪 がCorporate Manslaughterお よ びCorporateHomicideの 別 異 の2個 の 犯 罪 で あ る よ う

に 思 わ れ る こ と が あ る か も しれ な い 。 しか し 、 団 体 に よ る 致 死 罪 は 、 本 法 に 定 義 さ れ る よ う に 、 イ ン グ ラ ン ド と ウ ェ ー ル ズ お よ び 北 ア イ ル ラ ン ド に お い て は CorporateManslaughterと 呼 ば れ 、 ス コ ッ ト ラ ン ドに お い て はCorporate Homicideと 呼 称 さ れ る(本 法1条5項)、 同 一 の 犯 罪 で あ る 。

2.1本 法 の 構 成 と 概 要

本 法 は6部 に 分 た れ る29箇 条 と2個 の 附 則 か ら な る簡 潔 で 、 幾 つ か の 点 に つ い て 詳 細 の 規 定 を 置 い て い な い 制 定 法 で あ る 。 そ の 詳 細 な 規 定 の 欠 如 は 、 実 は 、 後 に 明 らか に な る だ ろ う よ う に 、 本 法 に よ っ て 制 定 さ れ た 団 体 に よ る 致 死 罪 が 、

コ モ ン ・ ロ ー 上 の 重 過 失 に よ る 非 謀 殺 罪(commonlawoffenceofgross

negligencemanslaughter)に 関 す る法 を 通 し て 、 そ して 、 同 法 の 上 に構 築 さ れ て い る た め に 、 あ る 問 題 点 の 決 定 の た め に そ の 問 題 点 に 関 す る コ モ ン ・ ロ ー 上 の 重 過 失 非 謀 殺 罪 法 の 参 照 を 前 提 と し て い る か ら で あ る 。

2.1.1本 法 の 内 容 目 次

先 ず 、 本 制 定 法 の 概 観 を 得 る た め に 、 以 下 に 、 そ の 目 次 を 掲 げ る こ と に す る 。

2007年 団 体 に よ る 致 死 罪 法

目次 団 体 に よ る致 死 罪 1条 団体 に よ る致 死 罪

関 連 す る配 慮 義 務 2条̀関 連 す る配 慮 義 務'の 意 味

3条 公 共 政 策 に か か わ る諸 決 定 、 専 属 的 な公 的機 能 お よび 制 定 法 に 基

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イ ング ラ ン ドに お け る団 体 に よ る致死 罪 の制 定 に つ いて(1) 187

つ く調 査 4条 軍 事 活 動

5条 警 察 活 動 と法 の 強 行 6条 緊 急 事 態

7条 子 供 の 保 護 ・観 察

重 大 な 違 反 8条 陪 審 の[考 慮]た め の要 因

救 済 命 令 と公 表 命 令 9条 違 反 等 の救 済 を命 令 す る権 限

10条 有 罪 宣 告 等 の 公 表 を 命 令 す る権 限

適 用 を受 け る特 定 の範 躊 の 組 織 体 ll条 王 の 機 関 に 対 す る適 用

12条 軍 隊 に 対 す る適 用 13条 警 察 隊 に 対 す る適 用 14条 組 合 に 対 す る適 用

雑 則 15条 手 続 き、 証 拠 手 段 お よ び 量 刑 16条 機 能 の 移 転

17条 起 訴 の た め の要 件 とな る公 訴 長 官 の 同 意 18条 個 人 責 任 の 不 存 在

19条 本 法 に 従 っ て 、 お よ び 、 健 康 と安 全 立 法 に従 って な さ れ る有 罪 宣

20条 コモ ン ・ロ ー 上 の 非 謀 殺 罪 を原 因 とす る 団体 の 責 任 の廃 止 一般 規 定 お よび 補 足 規 定

21条1条 を他 の 組 織 に拡 張 す る権 限 22条 附 則1を 修 正 す る権 限 23条2条2項 を 拡 張 す る権 限 24条 諸 命 令

25条 解 釈

26条 軽 微 な修 正 お よ び帰 結 的 修 正 27条 実 施 と留保

28条 適 用 範 囲 と適 用 法 域 29条 短 称

附 則1 附 則2

政 府部門等 一覧

軽 微 な修正 お よび帰結 的修正

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2.1.2.規 定 内 容 の 概 要

第1条 は 団体 に よ る致 死 罪 を定 義 し、 同 罪 の 適 用 が あ る組 織 を 同定 して い る。

2条 か ら7条 は 団 体 に よ る致 死 罪 が お よぶ 範 囲 内 に あ る活 動 の 種 類 を 同 定 し、

ま た 、特 に、3条 〜7条 は 、 そ の 関連 に お い て は 同罪 の適 用 が な い 、 公 的 当 局 に よ っ て 遂 行 さ れ る一 定 の 諸 機 能 を 挙 示 して い る。8条 は 、 陪 審 が 当該 の 組 織 の非 難 性 を評 価 す る際 に 考 慮 す る諸 要 因 の 輪 郭 を提 示 して い る。9条 お よび10 条 は 、 当 該 組 織 が 有 罪 宣 告 を受 け た 際 に裁 判 所 に よ っ て発 出 さ れ う る救 済 命 令

お よび 公 表 命 令 を規 定 して い る。

ll条 か ら13条 は 王 の機 関 お よび 警 察 部 隊 に 対 す る適 用 に 関 す る諸 問 題 を扱 っ て い る。14条 は組 合 に対 す る適 用 を調 整 す るた め の 規 定 で あ る。15条 は手 続 き、

証 拠 手 段 お よび 童 刑 に 関 す る諸 準 則 が 本 犯 罪 の 適 用 を 受 け る王 の 諸 機 関 、 警 察 部 隊 、 お よ び 法 人 化 さ れ て い な い 団 体 に対 して 適 用 が あ る こ と を確 保 す るた め の補 足 規 定 で あ る。16条 は本 罪 に よ る刑 事 責 任 は政 府 機 構 の 改 編 も し くは 問 題 の機 能 が 移 転 す る他 の場 合 に そ れ らの 機 能 の 移 転 を辿 りなが ら適 用 が あ る こ と を規 定 す る。

17条 か ら20条 は一 連 の 付 随 事 項 を取 り扱 っ て い る。 これ らの 規 定 に よ れ ば 、 本 法 に基 づ い て イ ン グ ラ ン ドお よび ウ エ ー ル ズ 、 も し くは、 北 ア イ ル ラ ン ドに

お い て訴 追 が 提起 され る とき に は、 公 訴 長 官 の 同意 が 要 求 され る(17条)。 いか な る個 人 も本 法 に よ っ て 成 立 す る団 体 に よ る致 死 罪 の 犯 行 を 教 唆 し、 糀 助 し、

助言 し、 あ る い は、 斡 旋 す る こ とにつ き、 有 罪 とな る こ とは な い(18条)。 本 法 に従 っ て な され る有 罪 宣 告 は そ の 同一 の 事 実 に基 づ い て 健 康 お よ び安 全 の た め の 立 法 に従 っ て有 罪 宣 告 が な され る こ とを妨 げ な い(19条)。 また 、 コモ ン ・ロー 上 の 重 過 失 非 謀 殺 罪 は、 同 罪 が 本 法 の適 用 を受 け る団 体 に 適用 が あ る限 りに お いて 、 廃 止 さ れ る(20条)。21条 か ら23条 は、 本 犯 罪 の適 用 を他 の 類 型 の組 織 に拡 大 す る権 限 、 附 則1に 挙 示 さ れ る政 府 の 省 庁 お よ び他 の 機 関 に つ いて の一 覧 を修 正 す る権 限 、 お よ び 、 関 連 す る配 慮 義 務 を 生 じ る も ろ も ろ の 方 式 の監 護 も し くは 拘 置 を拡 大 す る権 限 を規 定 す る。29条 は本 法 の 短 称 を規 定 す る。

本 法 は2個 の 附 則 を伴 っ て い る。 附 則1は 本 法 の 適 用 が あ る政 府 部 門 の 一 覧 を掲 げ て い る。 附 則2は 本 法 の 施 行 に伴 っ て 改 正 され る他 の制 定 法 の 規 定 とそ の改 正 内 容 を掲 げ て い る。

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イ ン グ ラ ン ドに お け る団体 に よ る致 死 罪 の 制定 につ い て(1) /89

2.2団 体 に よ る 致 死 罪 の 定 義 と構 成 要 件 2.2.1団 体 に よ る致 死 罪 の 定 義

団 体 に よ る致 死 罪 は、 第1条1項 に こ う定 義 され て い る。 す な わ ち 、

第1条 組 織 に よ る致 死 罪

1項 本 条 の 適 用 が あ る1個 の組 織(anorganisation)は 、 そ の諸 活 動 が 管 理 され 、 あ るい は、 組 織 され る際 の仕 方 が 、 以 下 の 場 合 に 、 組 織 に よ る致 死 に つ き有 罪 で あ る。 す な わ ち 、

(a)人 の死 亡 を もた ら し、 か つ

(b)当 該 組 織 に よっ て 当 該 の 死 亡 者 に対 して 負 わ れ る1個 の 関 連 す る配 慮 義 務 につ い て の 重 大 な違 反 に達 す る、 場 合 で あ る。

さ ら に、 団 体 に よ る致 死 罪 が 成 立 す る場 合 は 、1条3項 の 規 定 に よ っ て 以 下 の様 に 限定 され て い る。 す な わ ち 、

「3項1個 の 組 織 は 、 その諸活動 が その上級 管理者 に よって 、管理 され 、 あ る い は 、 組織 化 さ れ る際 の仕 方 が 、 本 条1項 に お い て 言 及 さ れ て い る違 反 の 実 質 的 要 素 を な す場 合 に お い て の み 、 本 条 に従 っ て 、 団体 に よ る致 死 罪 に つ き有 罪 で あ る。

こ の犯 罪 は陪 審 裁 判 に付 す正 式 起 訴 に基 づ く有 罪 宣 告 に よ って の み 罰 金 が 科 され る(1条6項)。 ま た、 個 人 は この 団 体 に よ る致 死 罪 に つ き何 らか の 罪 に 問 わ れ る こ とは な い 。 す な わ ち 、 諸 個 人 は この 犯 罪 の 犯 行 を教 唆 し、常 助 し、 助 言 し、 あ る い は 、斡 旋 す る こ とにつ き正 式 起 訴 され 得 な い(18条)。

な お 、"上 級 管 理 者"の 意 味 は 、1条4項(c)に お い て 、 以 下 の よ う な言 葉 で 与 え られ て い る。 す な わ ち 、

「4項(c)上 級 管 理 者 は 、1個 の組織 との関連 において、以下の こと が ら に有 意 的 な も ろ もろ の 役 割 を 果 た す 者 を 意 味 す る。 す な わ ち 、

(i)そ の 組 織 の諸 活 動 の 全 体 も し くは1個 の実 質 的 な 部 分 が どの よ うに して 管 理 さ れ 、 あ るい は 、 組 織 化 され る べ き で あ るか に つ い て の 諸 決 定 を な す こ と、 また は (ii)そ の 組 織 の 諸 活 動 の 全 体 も し くは1個 の実 質 的 な部 分

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を実 際 に管 理 す る、 あ るい は、 組織 化 す る こ と、 で あ る。 2,2.2団 体 に よ る致 死 罪 の構 成 要 件

2.2.1に お い て見 た と こ ろ を纏 め るな ら ば、 団 体 に よ る致 死 罪 は 以下 の要 素 が 立 証 され る と き成 立 す る。 す な わ ち 、 被 告 は 、(a)被 告 が 本 法 の 適 用 範 囲 に あ

4)

る適 格 性 を有 す る組 織 で あ る こ と、(b)被 告 組織 が あ る人 の 死 を 生 じ させ た こ と、(c)被 告 組 織 に よ っ て 当 該 の死 亡 者 に対 して 負 わ れ る1個 の 関 連 す る配 慮

v)

義 務 が 存 在 した こ と、(d)そ の 配 慮 義務 の重 大 な 違 反 が 存 在 した こ と、 か っ 、 (e)そ の 重 大 な違 反 の1個 の 実 質 的 な要 素 が 当該 の 団 体 に よ る諸 活 動 が 上 級 管 理 者 に よ って 管 理 され 、 あ るい は、 組 織 化 さ れ た 際 の 仕 方 に あ っ た こ とが 立証

され る と き、 組 織 に よ る致 死 罪 につ き有 罪 とな る。

した が っ て 、 裁 判 所 は 、 問 題 の 致 死 を 生 じさせ た 活 動 が 当 該 の 組 織 全 体 を通 して 如 何 に して 管 理 され 、 あ る い は、 編 成 され た か を考 慮 しな けれ ば な らな い こ とに な る。 そ して 、 当 該 の 組織 内 部 の 不 手 際 あ るい は失 敗 の 実 質 的 な1部 分 は その 組 織 の 上 級 管 理 の レベ ル にお い て存 在 して い た 、 こ とが 認 定 さ れ な けれ ば な ら な い の で あ る。

と こ ろ で 、 この 段 階 に お い て 、 本 法 が 以 上 の 構 成 要 件 の うち の 幾 つ か の 重 要 な事 柄 につ い て 定 義 を与 えて い な い 、 あ るい は、 精 密 な 定 義 を 与 え て い な い こ

とに 対 して 、 注 意 を 払 っ て お こ う。 す な わ ち 、 上 記 の構 成 要 件 の うち 、(b)の 因果 関 係 につ いて は全 く規 定 が 置 か れ て いな い 。 また 、特 に重 要 性 を有 す る(e) の構 成 要 件 を定 義 す る1条4項(c)の 規 定 中 の 「有 意 的 な」(significant)の 語 を含 む 、 管 理 にお い て 「有 意 的 な も ろ もろ の 役 割 を果 た す者 」 の 語 句 、 お よ び、 「実 質 的 な 」(substantial)の 語 を含 む 「そ の組 織 の 諸 活 動 の …1個 の 実 質 的 な部 分 」 の語 句 の 精 密 な 意 味 が 定 義 され て い な い た め に、 本 犯 罪 の 成 否 を左 右 す る こ とにな るだ ろ う重 要 概 念 で あ る 「上 級 管 理 者 」(seniormanagement) の意 味 が 詳 細 に 明 らか に な って い る とは言 い難 く、 本 犯 罪 成 立 の確 定 に つ い て 困 難 が 生 じ る こ と、 が そ れ で あ る。 因 果 関 係 に つ い て は 、 しか しな が ら、 本 法 の制 定 過 程 に お け る論 議 に 照 らす な らば 、 コ モ ン ・ロ ー 上 の 重 過 失 に よ る非謀 殺 罪 に 関 す る判 例 法 の 判 断基 準 を準 用 す る こ とが 前 提 され て い る 、 と見 て差 し 支 え が な い 。

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イ ン グ ラ ン ドに お け る団体 に よ る致 死 罪 の 制定 につ い て(D /91

3.2007年 団 体 に よ る 致 死 罪 法 の 制 定 過 程 の 概 要

本 法 の 制 定 に 至 る動 き は 、1996年 法 律 委 員 会237号報 告 醤"刑 法 典 の 制 定:

故 意 に よ ら な い 非 謀 殺"(LegislatingtheCriminalCode:Involuntary

Mans且aughter)に お け る 法 人 に よ る 非 謀 殺 罪(corporatemanslaughter)

の 新 設 の 提 案 に よ っ て 端 緒 が 付 け ら れ た 。 同 提 案 は 、 そ の 後 、2000年5月 に 、 問 題 点 に 関 す る 法 改 正 の た め に 政 府 に よ っ て 発 表 さ れ た"故 意 に よ ら な い 非 謀 殺 に 関 す る 法 の 改 革:政 府 提 案"(ReformingtheLawonInvoluntary

Manslaughter:theGovernmentlsProposals)と 題 す る 協 議 文{1}の 基 礎 を な した 。 本 制 定 法 の 法 案 の 草 案AdraftCorporateMans且aughterBill(Cm.

6497)は こ の 基 礎 に 基 づ い て 同 年 同 月 に 刊 行 さ れ た 。 政 府 は 、 上 述 の 法 律 委 員 会 提 案 に 公 的 当 局 や 中 央 政 府 の 省 庁 へ の 適 用 拡 大 の 変 更 を 付 し て 、 同 委 員 会 の 提 案 内 容 に 基 づ い て 、 団 体 が 人 を 死 亡 さ せ た 場 合 に そ の 団 体 そ れ 自 身 の 刑 嗣 責 任 を 問 う こ と可 能 に す る新 た な 犯 罪 の 創 出 を 提 案 し た 。 法 案 は 、 同 年 秋 に 、 庶 民 院 に お け る 内 務 お よ び 労 働 と年 金 委 員 会 に よ っ て 精 査 さ れ 、2005年12月 に は そ の 精 査 結 果 に つ い て 同 委 員 会 に よ り報 告 書(HC5401‑III)が 刊 行 さ れ た 。 さ ら に 、2006年3月 に 政 府 は 同 報 告 書 に 応 答 す る 法 案 の 草 案(Cm.6755)を 発 表 し た 。 法 案 は 、2006年6月20日 庶 民 院 に 提 出 さ れ 、 そ の 後 両 院 に お け る 諸 審 議 を 通 じ て 、 法 案 中 の 団 体 役 員 に 関 す る 諸 規 定 の 削 除 あ る い は 整 理 等 を 含 め て 幾 つ か の 修 正 や 整 理 が 行 わ れ 、2007年6月26CIに 女 王 の 裁 可 を 得 て 成 立 した 。 と こ ろ で 、 本 法 の 制 定 以 前 に お い て 、 イ ン グ ラ ン ド と ウ ェ ー ル ズ で は 、1個 の 法 人 格 を 有 す る 団 体(corporation)が 、 予 謀 を 欠 く不 法 な 殺 人(す な わ ち 、 非 謀 殺manslaughter)を 含 む 広 範 な 刑 事 上 の 犯 罪 に 問 わ れ る こ と は 可 能 で あ っ た 。 す な わ ち 、1個 の 法 人 、 例 え ば 、 会 社 は 、 そ の 活 動 に よ っ て 人 を 死 亡 さ せ た と き 、 ① そ の 会 社 が 当 該 の 犠 牲 者 に 対 して 負 う 配 慮 義 務(dutyofcare)に

っ い て 重 大 な 違 反 を 犯 し、 さ ら に ま た 、 ② 当 該 会 社 の 組 織 の̀1個 の 支 配 脳'(a directingmind)、 す な わ ち 、 そ の 個 人 の 諸 行 為 と諸 決 定 に お い て 当 該 の 会 社 を 体 現 す る と 考 え ら れ 得 る 、 上 位 の1人 の 個 人 や 諸 個 人 が コ モ ン ・ロ ー 上 の 重 過 失 に よ る 非 謀 殺 罪 に つ き 有 罪 で あ る と き は じ め て 、 会 社 そ れ 自 身 が コ モ ン ・

ロ ー 上 の 重 過 失 に よ る 非 謀 殺 罪 に つ き 有 罪 と な っ た の で あ る 。 こ の 第2の 要 件

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は、 判 例 法 上 に お い て 、 「同一 化 原 理 」(identificationprinciple)と 呼 ば れ 、 重 大 犯 罪 につ い て の 刑 事 責 任 の成 立 に必 須 と され る犯 意 を 、 団 体 そ れ 自身 に問 う こ との 出 来 る 固 有 の精 神 状 態 を 団 体 が 組 織 の 故 に持 ち得 な い な が ら も、 法 律 上 に お いて 人 為 的 な人 と して 取 り扱 わ れ て来 て い るた め に、 法 人 を な す 団 体 に つ い て 擬 制 す る もの で あ る。 そ して 、 こ の原 理 は、 幾 つ か の社 会 的 な 関 心 事 と な っ た 重 大 事 故 や 大 惨 事 にお け る法 人 の 重 過 失 に よ る非 謀 殺 罪 の 成 立 に 困 難 を

7)

生 じ させ た 要 件 と して知 られ て来 た もの で あ る。

本 法 の 制 定 過 程 は、 問題 点 に 関 す る上 記 の 判 例 法 の 状 態 の改 正 を検 討 す る も の だ っ た の で あ る。 そ して 、 そ の 過 程 に お い て は、 団 体 の 諸 活 動 に よ る人 の 死 亡 事 件 に お け る刑 罰 責 任 に関 す る法 改 正 の検 討 が 、 上 記 の 法 律 委r会 の報 告 警 の タ イ トル が示 唆 す る よ う に、 故 意 に よ らな い 非 謀 殺 に 係 わ る法 の 改 正 問 題 と い う、 刑 法 典 の 制 定 を視 野 に入 れ企 図 され て い た 殺 人 に 関 す る刑 法 全 体 の 立 法 化 と法 典 化 の一 部 を な す 、 よ り広 範 な問 題 の1部 分 と して 行 わ れ て い る こ とに 十 分 な 注 意 を 払 って お こ う。 何 故 な ら ば、 団 体 の 諸 活 動 が 人 を 死 亡 させ た 場 合 の 団 体 それ 自身 の 刑 事 責 任 は殺 人 に 関 す る刑 法 改 正 とい う問 題 の 全 体 に お いて 如 何 な る位 置 を 与 え られ て い る が 明 らか に な って い るだ ろ うか ら、 で あ る。

以 下 にお いて 、 先 ず 、 本 法 制 定 の基 礎 を な して い る法 律 委 員 会 の1996年 の 改 正 提 案 につ いて(3.1)、 次 に、2000年 の政 府 提 出 の協 議 文 書 の 内 容 に つ い て(3.2)、

そ れ ぞ れ の 概 要 を紹 介 しな が ら、 人 を死 亡 させ る事 件 にお け る団 体 の刑 衷 責 任 に 関 す る法 の 問 題 点 の検 討 過 程 を よ り具 体 的 に見 て お こ う。

3.11996年 法 律 委 員 会 報 告 書 に お け る提 案 の 概 要

3.1.1報 告 書 に お け る法 人 に よ る致 死 罪 の 新 設 提 案 の 位 置 づ け

1996年 法 律 委 員 会237号 報 告書"刑 法典 の制 定:故 意 に よ らな い 非 謀殺"は 謀 殺(murder)の 場 合 を 除 い て 、 す な わ ち 、① 人 を死 亡 させ る意 図 か つ 処 罰 軽 減事 由 の 不 存 在 を立 証 で き る場 合 、 あ る い は 、 ② 殺 人 の 意 図 の 立 証 は な い が 重 大 な 傷 害 を生 じ させ る意 図 の 立 証 が あ りそ の 傷 害 の結 果 と して 人 が 死 に 至 っ て い る こ とが 立証 され 、 か つ 、 処 罰 軽 減 事 由 が 存 在 しな い場 合 を 除 い て 、 人 を死 に至 らせ しめ る他 の場 合 、 つ ま り、 非 謀 殺(manslaughter)の 場 合 の うち、 故 意 に よ らな い 非謀 殺(involuntarymanslaughter)に 関 す る判 例 法 の改tl問 題 を 取 り扱 っ て い る。 そ れ で は 、 本 報 告 書 が 取 り上 げ て い る改 正 問 題 の 全 体 の

(11)

イ ング ラ ン ドに お け る団 体 に よ る致 死 罪 の 制 定 につ いて(1) /93

中 で 、法 人 に よ る非 謀 殺 罪 の 新 設 提 案 は 、 どの よ う に位 置 づ け られ て い る の で あ ろ うか?

先 ず 、 本 報 告 香 の 構 成 を 見 て み よ う。報 告 書 は 、 上 に言 及 され た よ う に、 全 体 を9部 に構 成 され た 本 文 お よ び4個 の 付 属 文 書 か ら成 っ て い る。 本 文 の各 部 タイ トル と付 属文 書 の タイ トル は 以 下 で あ る。 す な わ ち、 「第1部:序 説 」、 「 2部:現 行 法 の下 にお け る"故 意 に よ らな い非 謀 殺"の 罪 を 犯 す 異 な る仕 方 」、

第3部:現 行 法 の何 が 間 違 っ て い るか 」、 「第4部:意 図 に よ ら な いで 惹 き起 さ れ る殺 人 につ い て の 刑 事 責 任 の 道 徳 的基 礎 」、 「第5部:私 達 の 改 正 提 案 」、 「

6部:法 人 に よ る非 謀 殺=現 行 法 」、 「第7部:協 議 文 書135号 に お け る私 達 の 暫 定 提 案 と私 達 の 現 時 点 の 見 解 」、 「第8部:新 た な 法 人 殺 人 罪 」、 お よ び 、 「 9部:私 達 の勧 告 の 要 約 」 か ら成 る本 文 に 、4個 の 付 属 文 轡 す な わ ち 、 「付 属 文 害A:非 故 意 に よ る殺 人 罪 法 案 の 草 案 」、 「付 属 文 書B:非 故 意 に よ る非 謀 殺:

皿 刑 」、 「付 属 文 書C:協 議 文 書135号 に論 評 を行 った 人 々 お よび 組 織 の 一 覧 」 お よ び 「付 属 文 書D:協 議 文 書 手 続 きの 終 了後 プ ロ ジ ェ ク トを支 援 した 人 々 の 一 覧 」 が 添 え られ て い る

本 法 に よ る 団体 致 死 罪 の 新 設 の 端 緒 をな した 法 律 委 員 会 の 提 案 に 関 わ る報 告 書 の 部 分 は、 第6部 、 第7部 お よ び 第8部 で あ る。 報 告 書 は 、 これ らの3個 部 に先 立 って 第2部 か ら第4部 ま で の3個 の部 を 配 置 して い る。 そ れ らの3個 の 部 に お いて は 、 先 ず 、 故 意 に よ らな い 非 謀 殺 に 関 す る現 行 法 で あ る判 例 法 の 問 題 点 を検 討 し(第2部)、 現 行 法 の 主 要 な課 題 が 、 イ ン グ ラ ン ドの 法 が 「あ る 人 を そ の 行 為 の諸 結 果 に つ い て 処 罰 す る こ と、 お よ び、 あ る人 を そ の 人 が 行 為 す る 際 の 精 神 状 態 につ い て 処 罰 す る こ と との間 に 設 け て来 て い る 区別 」 が もた らす 、 違 法 な 行 為 に よ る非謀 殺 に 関連 す る不 正 な結 果 に あ る こ とを摘 示 して(第 3部 お よ び第4部)、 第5部 に お い て 、 故 意 に よ らな い 非謀 殺 に 関 す る法 の現 代

B)

化 と法 典 化 の た め の 詳 細 な 勧 告 が 行 な わ れ て い る。

以 上 の1996年 報 告書 の構 成 に照 らす な らば 、 団体 が 惹 き起 す 人 の 死 亡 事 件 に お け る刑 法 上 の責 任 に 関 わ る法 律 委 員 会 の1996年 提 案 は 、 同 委 員 会 が 取 り組 ん だ よ り広 範 な問 題 で あ る非 謀 殺 に関 す る法 の 現 代 化 ・法 典 化 の た め に な され た 諸 提 案 と は区 別 さ れ て 行 わ れ て い る こ とが 明 らか で あ る。 法 人 に よ る非 謀 殺 罪 に 関 す る立 法 案 は 、 故 意 に よ らな い非 謀 殺 に関 す る一 般 刑 事 法 の 立 法提 案 とは

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異 な る特 別 法 と して提 案 され て い る の で あ る。

3.1.2故 意 に よ らな い非 謀 殺 罪 に 関 す る法 の 現 代 化 と法 典 化 の 提 案 の概 要 次 に 、 「第1部:序 説 」 を用 い な が ら、 故 意 に よ らな い 非謀 殺 罪 に関 す る法 の 現 代 化 と法 典 化 の 提 案 の 概 要 を確 認 して お こ う。

先 ず 、 報 告 書 第2部 か ら第4部 ま で の概 要 を見 て み よ う。 報 告 書 発 表 当 時 に お い て 、 コモ ン ・ロ ー 上 、 非 謀 殺 に は、 謀 殺 の 立 証 が 出 来 な い 、 あ らゆ る他 の 違 法 な人 の 死 亡 が 含 まれ て い た 。 そ れ故 、 非 謀 殺 は 、 謀 殺 の 境 界 線 上 の 人 の 死 亡 、 例 え ば 、 挑 発 され て 憤 怒 状 態 で 行 わ れ た 人 の死 亡 の 場 合 か ら、 偶 発 的 衷 故 に よ る人 の 死 亡 の 場 合 に迄 お よぶ 広 範 な概 念 とな っ て い た の で あ る。 そ こで 、 非 謀 殺 は 、 判 例 法 上 に お い て 、1個 の犯 罪 を な して い た が 、 便 宜 的 に 、2個 範 疇 、 す な わ ち 、̀故 意 に よ る'非 謀 殺(̀voluntary'mansIaughter)と̀故

意 に よ ら な い'非 謀 殺(̀involuntary'manslaughter)に 区 分 され て い た 。

故 意 に よ る非謀 殺 」 は殺 人 の意 図 の 立 証 は あ る も の の、 あ る処罰軽減要因(例 え ば 、 上 の 挑 発 に よ る憤 怒)に よ る人 の 死 亡 の た め に謀 殺 の 責 任 が 免 除 され る 場 合 の 殺 人 罪 を指 示 す る。

故 意 に よ らな い非 謀 殺 」 は 、人 の死 亡 をもた らした者 が殺 人の意図 あるいは 重 大 な傷 害 を 生 じ る意 図 を欠 い て い る が 、 他 の 何 らか の 仕 方 にお い て 非 難 に値 す る場 合 を 対 象 とす る。 従 来 の 判 例 法 に よれ ば、 そ の 非 難 可 能 性 が生 じ る場 合 に は2つ の 場 合 が あ る。 先 ず 、 第1に 、̀違 法 行 為 に よ る非謀 殺 と して 知 られ る場 合 が あ る。 こ れ は 、 人 の死 亡 を もた ら した 者 が 当 該 の死 亡 者 に 対 して 何 ら

か の 軽 微 な 傷 害 を生 じ る リス ク を伴 うあ る刑 事 犯 罪 に携 わ っ た 場 合 で あ る。 第 2は 、 上 の 場 合 よ り も よ り一 層 定 義 す る こ とが 困 難 な̀重 過 失 に よ る 非 謀 殺'(grossnegligencemanslaughter)と 呼 ばれ る場 合 で あ る。 この場 合 は、

ご く手短 に述 べ れ ば 、極 端 な不 注 意(extremecarelessness)を 通 じて 人 を死 亡 させ た 者 に よ っ て 犯 され る罪 で あ る。 「第2部:現 行 法 の下 に お け る"故 意 に よ ら な い 非 謀 殺"の 罪 を犯 す 異 な る仕 方 」 は上 の2個 の 類 型 の 故 意 に よ らな い 非 謀 殺 に関 す る現 行 法 を 要 約 し、 「第3部:現 行 法 の何 が 間 違 っ て い るか 」 は そ れ らの 法 が 如 何 な る課 題 を 引 き起 こ して い るか を検 討 して い る。 報 告 香 は次 の 2個 の生 要 な 課 題 が 存 在 す る こ とを確 認 して い る。 す な わ ち 、 第1の 課 題 は 、 現 行 の 非 謀 殺 罪 が あ ま りに も広 範 で あ り過 ぎ る こ とで あ る。 これ は 、 裁 判 官 に

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イ ン グ ラ ン ドに お け る団 体 に よる致 死 罪 の制 定 につ い て(1) i95

とっ て は量 刑 に関 す る課 題 を生 じ、 また 、公 衆 に とっ て は、 裁 判 官 が 広 範 囲 に お よぶ 犯 罪 の とき に 量 刑 を確 定 す る場 合 に直 面 す る量 刑 の 二 者 択 一 の ジ レ ンマ を 理 解 す る こ とに 困難 を感 じ る とい う課 題 を 生 じる。 そ れ 故 、謀 殺 の 境 界 線 上 の 殺 人 罪 と単 な る不 注 意 に よ る殺 人 罪 とに 同 一 の 標 識 が 付 与 さ れ る こ とは 、 い か な る場 合 に お い て も不 適 切 な の で あ る。 第2番 目 の 主 要 な課 題 は、 違 法 な 行 為 に よ る非 謀 殺 に関 連 す る。 す な わ ち、 報 告 書 は、̀違 法 行 為 に よ る非 謀 殺'に

問 わ れ て い る者 の問 題 の 行 為 に 明 らか に 固 有 に存 在 す る最 も重 大 な リス クが い くらか の傷 害 を生 じ させ る リス クで あ っ た と き、 そ の 者 が 生 じた 人 の 死 亡 につ き故 意 に よ らな い非 謀 殺 の 有 罪 宣 告 を行 うこ とは 、原 理 に 照 ら して 不 正 で あ る、

と考 慮 して い る。 この2番 目の 主 要 な問 題 点 は第4部 に お い て 道 徳 的 基 礎 の 観 点 か ら検 討 され て い る。

第4部 に お け る検 討 は、 あ る人 を そ の行 為 の 諸 結 果 につ い て 処 罰 す る こ と、

お よ び、 あ る人 を そ の 人 が 行 為 す る際 の精 神 状 態 に つ い て 処 罰 す る こ と との 間 に 設 け られ て い る 区 別 を探 求 して い る。 報 告 者 は そ の 結 論 の要 点 を こ う述 べ て い る。 す な わ ち 、

あ る人 が そ の人 の 行 為 の意 図 しな い諸 結 果 に つ い て 責 任 を 負 う程 度 は 多 年 に わ た っ て 、 哲 学 者 達 を悩 ませ て来 た 問 題 で あ る。 何 等 か の容 易 に 得 られ る回 答 は 存 在 して い な い。 しか しなが ら、 私 達 が この 争 点 に つ い て1個 の 決 定 に 到 達 す る こ とは重 要 で あ る。 何 故 な らば 、 私 達 は 、 刑 箏 法 は 出 来 うる 限 り一 貫 性 の あ る、 論 理 的 な、 か つ 、 原 理 に基 づ い た基 礎 に依 るべ きで あ る、 とい う強 い信 念 を 抱 い て い るか らで あ る。 … 〈中 略 〉

私 達 は、 最 終 的 に、 次 の 様 に結 論 付 け た。 す な わ ち、 あ る人 は 、 そ の 人 が そ の 人 の行 為 が 他 人 に 対 して死 亡 も し くは 重 大 な傷 害 を生 じ させ る リス ク を創 出 した こ とを 自覚 して い る場 合 、 また は、 そ の 人 が 上 の リス ク を 自覚 す る こ と を怠 っ た 際 に深 刻 に過 失 を した 場 合 に お い て の み 、 人 の死 亡 につ い て 刑 法 上 に お いて 責 任 を負 うべ きで あ る、 と。 私 達 は 、 人 は 、上 の リス ク[の 存 在]が そ の人 の 立 場 に在 る1人 の合 理 人 に と って は 明 白で あ っ た だ ろ う場 合 、 か つ 、 その 人 が そ の リス ク を 当 該 の 重要 な 時 点 で正 し く評 価 す る こ とが 彼 自 身 に お い て 可 能 で あ った 場 合 に お い て 、 そ の リス ク に注 意 を向 け る こ とを 怠 った こ とに つ い て非 難 され るに 過 ぎ

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な い もの とす べ き で あ る、 との 信 念 を抱 い て い る。」(パ ラ1.6〜1.7) こ う して 、 第5部 に お い て 、 現 行 法 に よ っ て 生 じて い る課 題 を解 決 す るた め に2つ の 新 しい犯 罪 の 創 出 が 勧 告 され て い る。 す な わ ち 、 そ の2個 の 犯 罪 の う ち よ り重 大 な犯 罪 は、 最 高 刑 と して 終 身 刑 が 科 され る"無 頓 着 な無 関 心 に よ る 殺 害"(reckIesskilling)と 呼 ば れ る もの で あ る。 この 罪 は、 人 の 死 亡 あ るい は重 大 な傷 害 を惹 き起 す リス ク を 冒 す 決 定 を、 合 理 性 を 欠 き、 か つ 、 意 識 的 に 行 う人 に よ っ て犯 され る とい う こ とに な る。 第2番 目 の新 た な犯 罪 は"璽 大 な 不 注 意 に よ る殺 害"(killingbygrosscarelessness)と 呼 ば れ る。 こ の犯 罪 は 、 従 来 に お いて̀違 法 行 為 に よ る非 謀 殺'と 呼 ば れ て い る場 合 を含 む もの で あ るが 、 以 下 の3つ の こ とが らの 立 証 を 必 要 とす る。 す な わ ち 、 ① 被 告 人 の 行 為 は、 被 告 人 が そ の リス ク を正 し く評 価 す る能 力 を 有 す る 限 りに お い て 実 際 に そ の リス クの 存 在 に つ い て 自覚 して い た こ とを必 要 と しな い と こ ろ の リス ク で あ って 、 人 の 死 亡 も し くは璽 大 な 傷 害 を 惹 き起 す明 白な リス ク を随 伴 して い た こ と、 ② 被 告 人 の 行 為 が 当 該 の全 て の四 囲 の 事 情 に 照 ら して 被 告 人 に予 期 され う る こ とに な るで あ ろ う もの を は るか に低 下 して い た こ と、 また は、 被 告 人 が 他 人 に 対 して あ る違 法 な 傷 害 を 惹 き起 す こ とを 意 図 した 、 あ るい は、 被 告 人 が そ れ を 惹 き起 す こ とを 意 図 した か 否 か に つ い て 無 頓 着 に 無 関 心 で あ っ た こ と、

お よび 、 ③ 被 告 人 は人 の死 を惹 き起 した こ と、 の 立 証 が 要 件 とな る。 上 の 新 た な2番 目の 犯 罪 に つ い て は 最 高 刑 の 量 刑 に つ い て の 勧 告 は な さ れ なか っ た 。

こ う して 、 以 上 の 勧 告 に よ っ て、 そ して、 そ の 勧 告 内 容 に従 っ て 、 立 法 化 が

io)

な さ れ る な らば 、 幾 つ か の 制 定 法 に基 づ く一 定 の 殺 人 罪 を別 に す る な らば 、4 等 級 か ら成 る一 般 刑 法 上 の 殺 人 罪 、 す な わ ち 、① 謀 殺 罪 、② 故 意 に よ る非 謀 殺 罪 、 ③ 無 頓 着 な無 関 心 に よ る殺 人 罪 、 お よ び④ 重 大 な不 注 意 に よ る殺 人 罪 が 創

n)

設 され る こ と に な る の で あ ろ う。 上 の記 述 か ら明 らか な よ うに 、1996年 法 律 委 員 会 報 告書 は、 一 般 刑 法 上 の 殺 人 罪 の 立 法 提 案 の 勧 告 部 分 に お い て は 、 法 人 に よ る非 謀 殺 罪 の新 設 提 案 に つ い て 全 く言 及 して い な い。 法 人 格 を 有 す る 団 体 に よ る非 謀 殺 罪 の新 設 は 、 一 般 刑 法 上 に お け る人 の 死 亡 に 関 す る罪 と して で は な く、 特 別 刑 法 上 の人 の 死 亡 に関 す る罪 と して 、 別 異 に提 案 され て い るの で あ る。

そ こで 、 本 稿 に お い て は 、 問 題 点 とな って い る人 の 死 亡 に 関 す る上 記 の 一 般 刑 法 の 論 理 や 原 理 が 法 人 に よ る非 謀 殺 罪 にお い て も貫 徹 され て い るか 否 か 、 に

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イ ン グ ラン ドに お け る団 体 に よる致 死 罪 の制 定 に つ いて(1) i97

つ い て 十 分 な 注 意 が 与 え られ な が ら、 以 下 に お け る記 述 が 進 め られ る こ と とな

る 。

(つ づ く)

1)刑 法制 度 に よる刑 胴貴 任 の根 拠 づ け に関 しては基 本 的 に対 立 す る2個 の考 え方 が 存在 し て い る。 す なわ ち、 一方 にお いて 、 犯罪 の掃 結 に基 づ い て、 社会 は深 刻 な結 果 を生 じさせ た人 を常 に処 罰 すべ きで あ る、 と論 じる者 が い る。 他 方 に お いて、 刑 罰責 任 に は何 らかの 犯意 を必 要 とす る、 と説 く者 が い る。 例 えば 、H.L.A.Hartは こう・述 べ る。 す なわ ち、 「 す べ ての 文 明化 された 刑法 制 度 は、 刑 罰責 任 を、 少 な くと も重 大 な刑 衷 犯罪 に つ いて は 、単 に 、処 罰 され るべ き者 が あ る刑 廓犯 罪 の 外面 的 行 為 を行 った とい う='lx実 のみ にで は な く、

さ らに また、 そ の者 が その 行為 の 外面 をあ る一 定 の心 理 も し くは意 思 の状 態 あ るい は状 況 に お い て 行 っ た こ と に よ っ て 決 定 さ せ て い る 」(H.L.A.Hart,P観f5'2ηzo12'α η4 Responsibility」EssaysinthePhilosophy(〜jLaw(1968)p.114)。 本稿 にお いて 、Hart の よ うな後 者 の説 を便 宜 的 に犯 意 ア プ ロー チ と記 す こ とに す る。

2)現 代社 会 に必要 とされ る多様 な物 やサ ー ビスの取 引や提 供 は、諸 国 に お いて、 それ らに 関 わ る諸 団体 が、 も ろ もろの 個別 の技 術 を 当該 の 団体 内部 や 諸 団体 間 に おい て複 雑 に結 合 させ なが ら、 また、 それ らの諸 活 動 を遂 行 す るた めの もろ も ろの業 務 を その 団体 内部 にお い て また他 の 団体 間 に お いて分 散 的 に編 成 し組 織化 しな が ら行 われ て い る。 そ して 、 この よ うな団体 の諸 活 動 の編 成 や組 織化 にお け る分 散化 は、一 般 的 に、 問題 の 活動 を構 成 す る 個 々の業 務 を実行 す る個 人 や諸 個 人 が その 活動 に 内在 す る リス クを個別 具 体 的 に特定 す る こ とに困難 を もた らす一 方 に お いて 、当 該 活動 の遂 行 の た めに実 行 され る必 要の あ る業 務 に関 連 して、 それ らの業 務 の効 率 的 な実 行 を可 能 にす る当該 団 体の 組織 化 や その 組織 のi+t 編 成 等 に係 わ る諸 意 思決 定 を 行 うた め に団 体の 管理 ・運営 の 部 門 を構 成 す る個 人 や諸 個 人 が その リス クを実 効 的 に統 御 す る こ とを困難 に しなが ら、重 大 な致 死事 故 ・事 件 や祉 会 的 な大 惨 事 を生 起 させ るこ とが あ り得 る、 の で あ る。 この よ うに して 、 団体 の諸 活 動 の組織 化 の分 散化 あ るい は複雑 化 は 、① 団体 に よる致死7F件 に お け る刑 事 貴 任の 主 体 は誰 で あ る のか 、 また、② その 場合 の 刑罰 貰 任 は、 問題 の リス クに つ いて の その主 体 の何 らか の謝 識 を必 要 とす るのか 、 あ る いは 、 その主 体 の そ う した リス ク につ いて の認 識 や 自覚 を全 く問 うこ とな く成 立す る もの で あ るの か 、の 問 い を、現 代 の法 制 度 に突 き付 けて い る、 と見 て 良 いで あ ろ う。

3)本 法 に 「2007年法人 に よる過 失致 死 罪 法」 あ るいは 「2007年団 体 に よ る過 失 致死 罪 法 」 の訳語 を与 え なか った理 由 につ いて説 明 を行 って お きた い。 す な わち 、何故 な らば、先 ず 、 第1に 、corporateに つ いてで あ るが、 この 新 たな 犯罪 の適 用 を受 け る団 体 は、 以下 にお い て明 らか にな る よ うに、 そ の新 設 の端 緒 とな っ た 且996年の法 律 委 員会 報 告轡 「 刑 事 法 典 の制 定:故 意 に よ らな い非 謀 殺 」(LegislatingtheCriminalCode:Involuntary

Mans且aughter)に お け る問 題点 に関 す る法 の改 正提 案 にお いて は 単独 法 人 を除 くすべ て

の法 人 となっ て いた とこ ろ、 同報 告 轡 をA.N'と しなが ら政 府 に よ って な され た本 法案 の草

案 の提 案段 階 に お いて、 法人 格 を有 しない労 働組 合 等 の私的 団 体 を含 め、 さ らに は、単 に 、

私 的 団体 に止 ま らず 、警 察や 制定 法 に よって 設立 され る地 方 当局 、保 健 当局 等 の非 中央省

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198

庁 の 公 的 機 関 、 ま た さ ら に は 、 政 府 機 関 と して の 中 央 省 庁 を も含 む 広 範 囲 の 公 的 団 体 に も 及 ぶ も の と な る 変 更 が な さ れ た の で あ る 。 し か し な が ら 、 こ の 犯 罪 は 、Corporate ManslaughterandCorporateHomicideAct2007の 短 称 に お い て 、 イ ン グ ラ ン ド と

ウ ェ ー ル ズ お よ び 北 ア イ ル ラ ン ド に お い て は̀corporatemanslaughter'、 あ る い は 、 ス コ ッ ト ラ ン ド に お い て は̀corporatehomicide'と 呼 称 さ れ 、 そ れ ら の 呼 称 中 の

̀ corporate法 人 に よ る'の 語 が 本 法 の 適 用 範 囲 を 法 人 に 限 定 す る こ と を 指 示 す る も の と な っ て い る 。 そ の た め に 、 そ のcorporateを 含 む 犯 罪 の 原 語 の 呼 称 は 誤 導 的 で あ り、 本 法 の 訳 語 と して̀法 人 に よ る'は 不 適 切 で あ る 、 と い う こ と に な る か らで あ る。 第2に 、 manslaughterの 語 に つ い て 、そ れ は イ ン グ ラ ン ド法 に お い て は 、故 意 に よ る(voluntary)

も の で あ れ 、 故 意 に よ ら な い(involuntary)も の で あ れ 、 予 謀 を 欠 く不 法 な 殺 人 、 す な わ ち 、 非 謀 殺 を 指 す 語 と して 使 用 さ れ て 来 て い る 。 し か し、 問 題 の 新 た な 犯 罪 は 、 後 に 明 らか に な る よ う に 、 上 記 の 法 律 委 員 会 の 報 告 書 に お い て は 法 人 に よ っ て 犯 さ れ る予 謀 を 欠 く故 意 に よ ら な い 殺 人(本 稿 に お い て は 、 以 後 、 「 故 意 に よ ら な い 非 謀 殺 」 と 記 す)に つ い て 成 立 す る も の と して 提 案 さ れ 、 最 終 的 に 法 と して 施 行 され る に至 っ て い る と見 て 差 し 支 え な い も の で あ る。 そ して 、 こ の 故 意 に よ ら な い 非 謀 殺 の 観 念 は 日本 法 に お け る傷 害 致 死 や 過 失 致 死 の 観 念 を 含 む 語 で あ る と見 て 差 し支 え が な い が 、 そ れ に も か か わ ら ず 、 本 法 に よ っ て 創 出 さ れ た 団 体 そ れ 自 身 に 適 用 さ れ る犯 罪 は 何 らか の 心 理 状 態 を基 礎 とす る の で は な く団 体 組 織 の 管 理 ・運 営 に お け る 不 手 際 ・失 敗 に 基 礎 づ け られ て い る こ とに 照 ら して 、 過 失 致 死 の 語 をmanslaughterに 充 て る こ と は 適 切 さ を 欠 く こ と に な る場 合 も 存 在 す る 、

と考 え られ る か ら で あ る 。 従 っ て 、 本 稿 は 、 そ こ で 、 以 下 の 記 述 に お い てCorporate Man串laughterandCorporateHomicideAct2007に 対 して 、 「2007年 法 人 に よ る 過 失 致 死 罪 法 」 あ る い は 「2007年 団 体 に よ る過 失 致 死 罪 法 」 の 訳 語 を 与 え る よ り は 、 「 法 人 」

お よ び 「 過 失 致 死 」 の 語 の 採 用 を 回 避 しな が ら、 む し ろ 、 「2007年 団 体 に よ る 致 死 罪 法 」 の 訳 語 を 仮 に あ て て お く こ と と す る 。

4)本 法 の 適 用 が あ る 団 体 の 範 囲 に つ い て は 、 以 下 の 「4.1如 何 な る範 囲 の 組 織 が 適 用 対 象 と な る か 」 を 参 照 。

5)関 連 す る 配 慮 義 務 の 存 在 お よ び そ の 義 務 の 重 大 な 違 反 に つ い て は 、 以 下 の 「4.2適 用 を 受 け る組 織 は 如 何 な る 場 合 に 有 罪 と な る か 」 を 参 照 。

6)本 法 制 定 以 前 、 イ ン グ ラ ン ド法 に お い て は 、 人 を 死 亡 さ せ たjr件 に っ い て は 、 制 定 法 に 基 づ い て 創 出 さ れ た 特 定 の 殺 人 罪(例 え ば 、 出 産 後 の 精 神 状 態 の 不 安 定 性 等 の た め に12

か 月 朱 満 の 乳 児 を 死 亡 さ せ た 母 親 を 一 定 の 条 件 に 纂 つ い て 謀 殺 の 要 件 を 満 た す も の の 非 謀 殺 で 処 罰 す る こ とを 規 定 す る1938年 乳 児 刹 罪 法(lnfanticideActl938,s.1)や 道 路 上

で 車 両 の 危 険 運 転 に よ り死 亡 事 故 を 惹 き 起 し た 者 の 危 険 運 転 致 死 罪(RoadTraffic Acrl991,s,1)等 。)を 除 い て 区 別 され る2個 の 概 念 、 す な わ ちmurder(謀 殺)お よ び manslaughterが 存 在 す る に過 ぎ な か っ た 。Manslaughterは 殺 人 を 畢 前 に 意 図 す る予 謀 に よ っ て 行 わ れ るmurderと 区 別 さ れ る 、 人 を死 亡 さ せ た 広 範 な 場 合 を 含 む 概 念 で あ る 。 そ れ 故 、本 稿 に お い て はmanslaughterを 非 謀 殺 と訳 す こ と に し た 。本 法 の 制 定 に よ っ て 、 人 を 死 亡 させ た 事 件 に お い て 刑 事 責 任 を 問 う概 念 は5種 類 、す な わ ち 、murder、voluntary

manslaughter、recklesskilling、killingbygrosscarelessness、 お よ びcorporate

killingに 分 た れ る こ と に な る、 と記 述 さ れ る(ReformingtheLawonInvoluntary

(17)

イ ン グ ラ ン ドにお け る団体 に よ る致 死 罪 の 制定 につ いて(1) !99

Manslaughter:theGovernment'sProposals,Chapter1)。 な お 、以 下 の 「3 .2007 年 団 体 に よ る 致 死 罪 法 の 制 定 過 程 の 概 要 」 の 「3.1.2故 意 に よ ら な い 非 謀 殺 罪 に 関 す る 法 の 現 代 化 と法 典 化 の 提 案 の 概 要 」 お よ び 注lI)を 参 照 。

7)社 会 的 な 関 心Trと な り本 法 制 定 の 契 機 を な した 大 惨 事 事 件 に つ い て は 、 以 下 「3.1.3 法 人 に よ る致 死 罪 の 新 設 提 案 の 概 要 」 参 照 。

8)以 下 、 「3.1.2故 意 に よ ら な い 非 謀 殺 昇 蔭に 関 す る 法 の 現 代 化 と法 典 化 の 提 案 の 概 要 」 参 照 。

9)Czoα 〃2θ7箏件 に お け るParker控 訴 院 裁 判 官 の 判 事 を 参 照([1966]1QB72,82C‑D)。

こ の 類 型 の 非 謀 殺 罪 の 基 礎 は 、 被 告 人 が 人 の 死 を も た ら して い る と否 とに か か わ ら ず 違 法 で あ っ た だ ろ う行 為 の 遂 行 に よ っ て 、 あ る い は 、 そ の 行 為 の 遂 行 中 に お い て 、 他 人 の 死 亡 を 惹 き起 こ した こ と に あ る 。

10)上 掲 注6参 照 。 な お 、 そ の 他 に 、 且961年 自 殺 法 に よ っ て 創 出 さ れ た 自 殺 粥 助 罪 お よ び 自 殺 教 唆 罪 が あ る(See,SuicideAct1961,s.2)。

lD実 は 、 殺 人 罪 に 関 す る 刑 法 改 革 は 、 現 在 の イ ン グ ラ ン ド法 に お け るfixも 重 要 な 課 題 の1 つ を な して い る 。 す な わ ち 、1996年 の 報 告 書 に お け る勧 告 以 降 、 法 律 委 員 会 は 、2005年 、

「177号 協 議 文 曾:イ ン グ ラ ン ド と ウ ェ ー ル ズ の た め の 新 し い 殺 人 罪 法?」(ANew HomicideActforEnglandandWales?,ConsultationPaperNo.177(2005))を

公 表 し、 殺 人 罪 の 再 構 成 を 提 案 し、 そ の 後 、2006年 に304号 報 告 轡 「 謀 殺 、 非 諜 殺 、 お よ び 乳 児 殺 人 」(Murder,ManslaughterandInfanticide,LawCom.No.304.(2006))

に お い て 、 具 体 的 な 改 革 案 を 勧 告 し た 。 そ して 、 政 府 は 、 同 報 告Ltの 勧 告 に 対 し て 、2008 年6月 、 問 題 点 に 関 す る 法 の 改 革 提 案 の 提 出 の た め の2008年19号 協 議 文 嘗 「 謀 殺 、 非 謀 殺 、お よ び 乳 児 殺 人:法 改 革 の た め の 提 案 」(Murder,ManslaughterandInfanticide:

ProposalsforReformortheLaw,(CP19/08)〉 を 公 刊 した 。 拙 稿 の 簗 者 は 、 これ ら の 刑=r法 の 改 革 論 議 に つ い て は 、 現 在 、 団 体 に よ る 致 死 罪 と の 関 連 に お い て 分 析 を 進 め て い る が 、 本 稿 に お い て は 、 問 題 点 の 法 改 革 の た め に 上 の 様 に様 々 な 文 献 が 公 刊 さ れ て 来 て い る こ と、 お よ び 、 上 記 の2006年 報 告 書 の 勧 告 案 に お い て は 、 以 下 の 様 に 、1996年 報 告 曾 の 勧 告 との 関 連 に お い て 、4等 級 か ら成 る 一 般 刑 法 上 の 殺 人 罪 か ら、3等 級 か ら成 る 一 一 ・ 般 刑 法 上 の 殺 人 罪 へ の 改 革 提 案 が 勧 告 さ れ て い る こ と を 指 摘 して お く こ と で 満 足 し な け れ

ば な ら な い 。 す な わ ち 、 「 謀 殺 罪 」、 「 故 意 に よ る非 謀 殺 罪 」、 「 無 頓 着 な 無 関 心 に よ る 殺 人 罪 」、 お よ び 「 重 大 な 不 注 意 に よ る 殺 人 罪 」 の4等 級 か ら な る 一 般 刑 法 上 の 殺 人 罪 に 替 え て 、 「 策1級 謀 殺 」(4等 級 の 改 革 提 案 に お け る謀 殺 罪 に 相 当 し、 終 身 刑 の 最 筒 刑 の 義 務 付 け が 勧 告 さ れ て い る)、 「 第2級 謀 殺 」(4等 級 の 改 革 提 案 に お け る故 意 に よ る非 謀 殺 お よ び 無 頓 着 な 無 関 心 に よ る 殺 人 罪 に 相 当 し 、 最 高 刑 と し て 終 身 刑 を 選 択 す る こ と を可 能 と す る 権 限 の 付 与 が 勧 告 さ れ て い る)、 お よ び 「 非 謀 殺 」(4等 級 の 改 革 提 案 に お け る勇 大 な 不 注 意 に よ る 殺 人 罪 に 相 当 す る)の3等 級 か ら成 る 一 般 刑 法 上 の 殺 人 罪 の 改 革 提 案 が 勧 告 さ れ て い る の で あ る 。

(本学 法学 部教 授)

参照

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