キャッシュ・フロー会計制度論
上野清貴
Abstract
I study Statement of Financial Accounting Standards No. 95, Inter- national Accounting Standard IAS 7 (revised 1992) , and Statement of Consolidated Cash Flow Accounting Standard in Japan, and search the ideal cash flow accounting system. The conclusions are the followings ; (1) the essential functions of cash flow statement are to represent the ability of the enterprise to generate cash and cash equivalents and to utilize those cash flows, (2) enterprises should report cash flows from operating activities using the direct method, whereby major classes of gross cash receipts and gross cash payments are disclosed, (3) interest received and dividends received should be classified as investing cash flows and interest paid and dividends paid should be classified as financing cash flows, and (4) cash flows arising from taxes on income should be classified as operating, investing or financing activities and should be separately disclosed in a cash flow statement.
Ⅰ ま え が き
わが国の「企業会計審議会」は平成10年3月13日付けで「連結キャッシュ
・フロー計算書等の作成基準の設定に関する意見書」を公表し,平成11年4
月1日以後に開始する事業年度から,企業は従来の損益計算書および貸借対
照表に加えて,キャッシュ・フロー計算書を作成しなければならなくなった。
2 経 営 と 経 済
これによって,平成12年3月の決算期にキャッシュ・フロー計算書がわが国 において初めて作成されることになり 6月頃にはわれわれはそれを実際に 見ることができることになる。
これはわが国の会計史上画期的な出来事であり,会計革命であるといって も過言ではない。周知のように,現在,会計は激変期にあり,デリバティブ 会計,税効果会計,年金会計等,これまでになかった会計が次々と導入され つつあり,時価主義会計まで導入されつつある。しかしながら,これらを会 計上表示するのはあくまでも貸借対照表と損益計算書であり,その意味では,
従来の会計の延長線上にあるということができる。すなわち,これらの会計 は従来と同じ貸借対照表と損益計算書の世界における会計であるのである。
しかし,今回のキャッシュ・フロー計算書の導入はそれらとは根本的に次 元が異なる。というのは,キャッシュ・フロー計算書を会計の主要財務諸表 として新たに導入することによって,これまで2次元であった会計の世界が,
3次元の世界に拡張ないし進展したからである。これによって,会計の情報 量が飛躍的に拡大および充実するということができるのである。
このように,今回のわが国におけるキャッシュ・フロー計算書の導入は,
わが国会計史上画期的な出来事であるのであるが,そこで規定されているキ ャッシュ・フロー計算書の具体的な内容は,必ずしも理想的なものではない といわざるをえない。そこには,理論的および実践的にみて不合理な点がい くつか散見されるからである。せっかく導入されたキャッシュ・フロー計算 書に欠陥があってはならない。
ところで,このようなわが国のキャッシュ・フロー計算書の欠点は先行し たキャッシュ・フロー計算書の作成に関する会計制度の欠点をそのまま受け 継いでいるように思われる。そして,その先行した会計制度とは,主に,
1987年に米国財務会計基準審議会 (FASB)から公表された「財務会計基準 書第95号 (SFAS95) キャッシュ・フロー計算書」および1992年に国際
会計基準委員会(IASC)が公表した「改訂国際会計基準第7号(改訂 IAS
7 )キャッシュ・フロー計算書」における会計制度である。
そこで,本稿ではまず, SFAS 95および改訂 IAS7の概要を説明し,そ れを受けてわが国の意見書がどのように規定しているかを明らかにし,さら に" 3者のキャッシュ・フロー会計制度を比較する。次に,意見書が規定し た具体的なキャッシュ・フロー計算書を提示することによって,キャッシュ
・フロー会計制度の全貌を明らかにする。そして最後に,各キャッシュ・フ ロー会計制度の問題点をいくつかの論点に絞って検討し,望ましいキャッシ ュ・フロー会計制度を探求してみることにしたい。
E
キャッシュ・フ口一会計諸制度
前述したように,本節では,キャッシュ・フロー会計の諸制度,つまり SFAS 95,改訂 IAS7および意見書の概要を説明し,さらにこれら3者を 比較するのであるが,その場合,いくつかの共通的な論点に絞ってそれぞれ 説明するのが妥当であるように思われる。というのは,最後に3者を比較す るときに,それらを同じ基準で比較することができるからである。ここで,
その論点とは,各キャッシュ・フロー会計制度の(1)利用目的, (2)資金の範 囲, (3)表示区分, (4)法人税等の表示区分, (5)利息および配当金の表示区分,
および(6)直接法・間接法である。このことを念頭において,以下,各々の概 要を説明することにしよう。
1 財務会計基準書第95号
最初は SFAS95であるが,そこにおいて,キャッシュ・フロー計算書の 利用目的を次のように規定している [par.5 。]
(1) 正の将来正味キャッシュ・フローを生み出す企業の能力を評価すること
(2) 企業の債務返済能力,配当支払能力,外部金融の必要性を評価すること (3) 純利益と関連する収入および支出との差異の理由を評価すること
4 経 営 と 経 済
(4) その期間における現金および非現金の投資および財務取引が企業の財政 状態に及ぼす影響を評価すること
SFAS 95では,資金の範囲は現金および現金同等物であり [par7 ],ここ で,現金とは手許現金および要求払預金であり,現金同等物とは次のように 短期的な流動性の高い投資である [par.8 。]
(1) 現金に容易に変換しうる投資
(2) 利子率の変動に伴う価格変動リスクがほとんどないほど,満期日が近い 投資
そして,満期日が3か月以内の投資がこれらの要件を満たすとしており,
かかる現金同等物の例として,財務省短期証券,コマーシャル・ペーパー,
短期金融資産投資信託, (銀行業務企業に対する)受入連邦資金を挙げてい る [par.9]
。
表示区分に関して, SFAS 95は,キャッシュ・フロー計算書を営業活動,
投資活動および財務活動に区分して表示すべきであるとしている [par
. 1
4]。 ここで営業活動とは,財貨の製造および販売ならびに用役の提供に伴う活動 のことであり,これにはさらに,投資活動または財務活動として定義されな いすべての取引およびその他の事象が含まれる [par.21]。かかる営業活動による収入として,次のものが挙げられている [par.22]。 (1) 財貨または用役の販売収入(これには,販売によって生じた得意先に対
する売掛金および短期・長期受取手形の回収または譲渡が含まれる。) (2) 貸付金,他企業の債権および株式から生じた利息および配当金収入 (3) 投資活動または財務活動として定義されない取引から生じる,すべての
収入(例えば,訴訟和解による収入,建物の損壊から生じる保険収入のよ うな, (投資活動または財務活動に直接関係のある取引を除く)被保険資 産に対する保険収入,仕入先からの返金)
また,営業活動による支出として次のものが挙げられている [par.23]。 (1) 原材料または商品を取得するための支出(これには,仕入先に支払うべ
き買掛金および短期・長期支払手形の元本に対する支払額が含まれる。) (2) その他の財貨または用役に対する他の購入先および従業員に対する支出 (3) 税金,課金,科料およびその他の手数料または罰金の政府に対する支出 (4) 借入金およびその他の債権者に対する利息の支出
(5) 投資活動または財務活動として定義されない取ヲ│から生じる,すべての その他の支出(例えば,訴訟和解による支出,慈善事業に対する寄付およ び得意先への返金)
投資活動とは,貸付けおよび貸付金の回収,債権または株式と,設備,建 物および備品ならびにその他の生産用資産,すなわち,企業が財貨または用 役の生産に当たって保有または使用する資産(企業の棚卸資産の一部である 原材料以外の資産)の取得および処分に伴う活動である [par.15]。
かかる投資活動による収入として,次のものが挙げられている [par.16]。 (1) 貸付金および購入した他企業の債権(現金同等物以外)の回収または売
却による収入
(2) 他企業株式の売却およびそれらの証券の償還による収入 (3) 設備,建物および備品ならびにそれらの証券の償還による収入
また,投資活動による支出として,次のものが挙げられている [par.17]。 (1) 貸付金の支払いおよび他企業の債権(現金同等物以外)を取得するため
の支出
(2) 他企業の株式を取得するための支出
(3) 設備,建物および備品ならびにその他の生産用資産を取得する時,取得 前または取得後になされる支出
財務活動とは,出資者からの資源の獲得および出資者に対する投資利益と 投資回収を含む資源の提供,借入れおよび借入金返済または別の方法による 借入れの決済ならびに長期信用に基づいて債権者から得られた,その他の資 源の獲得および支出に伴う活動である [par.18]。
かかる財務活動による収入として,次のものが挙げられている [par.19]。
6 経 営 と 経 済
(1) 株式の発行収入
(2) 社債,抵当証券,短期証券の発行収入およびその他の短期・長期借入金 収入
また,財務活動による支出として,次のものが挙げられている [par.20]。 (1) 出資者に対する配当金またはその他の分配の支出(これには,当該企業
の株式を再取得するための支出が含まれる。) (2) 借入金の返済
(3) 長期債権者に対する元本の返済
以上が営業活動,投資活動および財務活動の概要であるが,ここで注意す べきは, SFAS 95では,法人税等は営業活動として区分表示しなければな らないということである。そして,利息および配当金の表示区分に関して,
受取利息,支払利息および受取配当金は営業活動として区分しなければなら ず,支払配当金は財務活動として区分しなければならないということも注意 しておく必要がある。
最後に, SFAS 95は営業活動によるキャッシュ・フローの報告を直接法 および間接法のうち,どちらで行うかをみてみよう。ここで,直接法とは,
営業活動に関係するキャッシュ・フローを各収入および支出の総額で示し,
これらの差額として,正味の営業活動によるキャッシュ・フローを計算する 方法である。これに対して,間接法とは,損益計算書で算定された純利益か ら出発し,これにキャッシュ・フローを伴わない項目を調整して営業活動に よるキャッシュ・フローを計算する方法である1)。
1 )この場合,営業活動によるキャッシュ・フローは次の式で計算される。
純利益+損益計算書における非現金項目の調整額
+貸借対照表における運転資金に関する調整額二営業キャッシュ・フロー この計算は,具体的には次のような方法で行われる[菊池,1998,41頁]。
(1)純利益の調整作業は,まず最初に損益計算に関わる非現金項目を調整し,次に貸借 対照表の運転資金に関係する項目を調整するというように 2段階に分けて行われる。
(2) 損益計算の非現金項目に関わる調整は,増加額と減少額のプラスとマイナスが逆に なる。
(3) 貸借対照表上の資産項目の増減は,増加額と減少額のプラスとマイナスが逆になっ
この直接法および間接法に関して, SFAS 95は,直接法を推奨するが,
間接法も選択適用することができるという立場をとっている [pars.27,28J。 ただしこの場合,直接法を用いる企業は,間接法による調整も必要となる [par.29J。ここに,この基準書の重要な特徴がある。
2 改訂国際会計基準第7号
次は改訂 IAS7であり,そこにおいて,キャッシュ・フロー計算書の利 用目的は SFAS95ほどには明確に規定されていないが,次のように規定し ていると解することができる [par.3 J。
(1) 現金および現金同等物を生み出す企業の能力を評価すること
(2) 企業の債務返済能力,配当支払能力等,現金および現金同等物を使用す る能力を評価すること
改訂 IAS7では,資金の範囲は SFAS95と同様に現金および現金同等物 であり [par.6 J,ここでも,現金とは手許現金および要求払預金であり,
現金同等物とは現金に容易に変換でき,価格変動リスクをほとんど受けない 短期的な流動性の高い投資であり,例えば取得日から3か月以内の短期的な 満期日を有するような投資である [par.7 J。
改訂 IAS7も,キャッシュ・フロー計算書を営業活動,投資活動および 財務活動に区分して表示すべきであるとしている [par.10J。ここで営業活
て調整される。
(4) 負債項目の増減は,プラスとマイナスがそのままで調整される。
また,間接法における主な純利益調整項目は次のようである[菊池,1998,41頁]。 (1) 損益計算書上の非現金項目
減価償却費,営業権償却などの減価償却と類似の性格をもっ項目,貸倒引当金,持 分法損益(受取配当金を除く),有価証券評価損
(2) 貸借対照表の繰延勘定・見越勘定の項目
売掛金・受取手形の増減,棚卸資産の増減,未収収益の増減,繰延費用の増減,買掛 金・支払手形の増減,未払利息の増減,未払法人税の増減
(3) 損益を伴う投資活動・財務活動に関わる項目 有形固定資産の売却損益,投資有価証券の売却損益
8 経 営 と 経 済
動とは,企業の主たる収益・生産活動および投資活動または財務活動ではな い他の活動であり,それは一般に純損益の計算に関わる取引およびその他の 事象から生じる。改訂 IAS7によれば,営業活動によるキャッシュ・フロー の額は,外部金融に頼ることなしに借入金を返済し,企業の営業能力を維持 し,配当金を支払い,新投資を行うために,企業の営業がどの程度十分なキ ャッシュ・フローを生み出したかの重要な指標である [par.13]。
かかる営業活動によるキャッシュ・フローの例として,次のものが挙げら れている [par.14]。
(1) 財貨の販売および用役の提供による収入
(2) 特許権使用料,報酬,手数料およびその他の収益による収入 (3) 財貨および用役の提供者に対する支出
(4) 従業員に対する支出
(5) 保険料や請求,年間配当およびその他の政策的便益に対する保険会社の 収入および支出
(6) 法人税の支払いまたは還付(ただし,それらが財務活動および投資活動 として特別に識別できない場合)
(7) 取引目的で締結した契約による収入および支出
投資活動とは,長期資産および現金同等物に含まれないその他の投資の取 得および処分に関わる活動であり,投資活動によるキャッシュ・フローの開 示は,それが将来の利益およびキャッシュ・フローを生み出すことを意図し た資源に支出がどの程度なされたかを表すために,重要であるとされる。そ して,かかる投資活動によるキャッシュ・フローの例として,次のものが挙 げられている [par.16]。
(1) 有形固定資産,無形固定資産およびその他の長期資産を取得するための 支出
(2) 有形固定資産,無形固定資産およびその他の長期資産の売却による収入 (3) 他企業の株式または債券および合併企業の権利を取得するための支出
(4) 他企業の株式または債券および合併企業の権利の売却による収入 (5) 他の団体に対してなされた貸付金
(6) 他の団体に対してなされた貸付金の返済による収入
(7) 先物契約,オプション契約およびスワップ契約に対する支出
財務活動とは,企業の株主資本および借入金の規模および構成の変化をも たらす活動であり,財務活動によるキャッシュ・フローの開示は,企業に対 する資本提供者が将来キャッシュ・フローに関する請求権を予測するのに有 用であるために,重要であるとされる。そして,かかる財務活動によるキャ
ッシュ・フローの例として,次のものが挙げられている [par.17J。 (1) 株式またはその他の持分証書を発行することによる収入 (2) 当該企業の株式を取得または買い戻すための支出
(3) 債券,貸付金,手形,社債,譲渡抵当権,およびその他の短期または長 期借入金を発行することによる収入
(4) 借入金の返済
(5) ファイナンス・リースに関連する未払負債を減少するためのレシーによ る支出
法人税等の表示区分に関して,改訂 IAS7は,法人税等を個々に認識する 必要があり,それが財務活動および投資活動として特別に認識できないなら ば,営業活動として区分すべきであり,投資活動および財務活動として識別 できる場合には,投資活動および財務活動として区分すべきであると規定し ている [pars.35,36J。
また,利息および配当金の表示区分に関して,受取利息,支払利息および 受取配当金はすべて営業活動として区分しでもよいし,もしくは,財務活動 および投資活動として区分してもよい [par.33J。支払配当金は財務活動と して区分しでもよいし,営業活動として区分してもよく,選択適用が認めら れている [par.34J。支払配当金を営業活動として区分しでもよいというの は,改訂IAS7だけの特徴である。
AU
1A 経 営 と 経 済
最後に,営業活動によるキャッシュ・フローの報告を直接法で行うべきか,
間接法で行うべきかに関して,改訂 IAS7は,直接法を推奨するが,両者 の選択適用を認めている [par.18,19J。しかし, SFAS 95においてみられ たように,直接法を採用する場合には,間接法も併せて用いなければならな いというような規定はない。
3 企業会計審議会意見書
最後に,上記の SFAS95および改訂 IAS7に影響を受けていると思われ るわが国企業会計審議会の意見書をみてみることにしよう。意見書では,キ ャッシュ・フロー計算書の具体的な作成方法は「連結キャッシュ・フロー計 算書等の作成基準」において規定されているが,そこではまず,キャッシュ
・フロー計算書の利用目的が規定されていない。この利用目的が規定されて いないところに,意見書の特徴がある。
意見書における資金の範囲はやはり現金および現金同等物であり,ここで も,現金とは手許現金および要求払預金であり,現金同等物とは容易に換金 可能であり,かつ価値の変動について僅少なリスクしか負わない短期投資で ある[第二,一]。この現金同等物には,例えば,取得日から満期日または 償還日までの期日が3か月以内の短期投資である定期預金,譲渡性預金,コ マーシャル・ペーパー,売戻し条件付現先,公社債投資信託が含まれる[注 解2J
。
意見書は,これまでと同様に,キャッシュ・フロー計算書を営業活動,投 資活動および財務活動に区分して表示すべきであるとしている[第二,二 1J。
「営業活動によるキャッシュ・フロー」の区分には,営業損益計算の対象と なった取引のほか,投資活動および財務活動以外の取引によるキャッシュ・
フローが記載され,例えば,次のようなものが記載される[注解3J。 (1) 商品および役務の販売による収入
(2) 商品および役務の購入による支出
(3) 従業員および役員に対する報酬の支出 (4) 災害による保険金の収入
(5) 損害賠償金の支払い
「投資活動によるキャッシュ・フロー」の区分には,固定資産の取得およ び売却,現金同等物に含まれない短期投資の取得および売却等によるキャッ シュ・フローが記載され,例えば,次のようなものが記載される[注解4J。 (1) 有形固定資産および無形固定資産の取得による支出
(2) 有形固定資産および無形固定資産の売却による収入
(3) 有価証券(現金同等物を除く)および投資有価証券の取得による支出 (4) 有価証券(現金同等物を除く)および投資有価証券の売却による収入 (5) 貸付けによる支出
(6) 貸付金の回収による収入
「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分には,資金の調達および返 済によるキャッシュ・フローが記載され,例えば,次のようなものが記載さ れる[注解5J。
(1) 株式の発行による収入 (2) 自己株式の取得による支出 (3) 配当金の支払い
(4) 社債の発行および借入れによる収入 (5) 社債の償還および借入金の返済による支出
法人税等の表示区分に関して,法人税等に係るキャッシュ・フローは,
I
営 業活動によるキャッシュ・フロー」の区分に記載される[第二,二2J。ま た,利息および配当金に係るキャッシュ・フローは,次のいずれかの方法に より記載され[第二,二3J,選択適用が認められている。(1) 受取利息,受取配当金および支払利息は「営業活動によるキャッシュ・
フロー」の区分に記載し,支払配当金は「財務活動によるキャッシュ・フ ロー」の区分に記載する方法
12 経 営 と 経 済
(2) 受取利息および受取配当金は「投資活動によるキャッシュ・フロー」の 区分に記載し,支払利息および支払配当金は「財務活動によるキャッシュ
・フロー」の区分に記載する方法
最後に,
I
営業活動によるキャッシュ・フロー」の表示方法に関して,意 見書は直接法または間接法のいずれかの方法により表示しなければならない として,両者の選択適用を認めている[第三,一]。この場合,改訂 IAS7 と同様に,また SFAS95とは異なり,直接法を選択した場合に,間接法を 同時に用いなければならないという規定はない。4 キャッシュ・フロー会計制度比較
表 1 キャッシュ・フロー会計制度比較
項 目 SF AS 95 (1987) 改訂IAS7 (1992) 意見書(1998) (1) ①現金創造能力の評価 ①現金創造能力の評価 規定なし
利用目的 ②債務返済能力等の評価 ②債務返済能力等の評価
①純利益とCFの差異評価
④現金・非現金の投資・財 務取引の財政状態に及ぼ す影響評価
(2) 現金および現金同等物 現金および現金同等物 現金および現金同等物 資金範囲
(3) 営業活動,投資活動,財務 営業活動,投資活動,財 営業活動,投資活動,財務
表示区分 活動 務活動 活動
(4) 営業活動 活動ごとに認識 営業活動
法人税等 認識できない場合,営業
表示区分 活動
(5) 受取利息,支払利息,受取 受取利息,支払利息,受 次のいずれかの方法(選択 利息・配当 配当金:営業活動 取配当金:営業活動,ま 適用)
金の表示 支払配当金:財務活動 たは財務活動・投資活動 ①受取利息,受取配当金,
区分 支払配当金:財務活動ま 支払利息:営業活動
たは営業活動 支払配当金:財務活動 (選択適用) ②受取利息,受取配当金:
投資活動
支払利息,支払配当金:
財務活動
(6) 両者の選択可(選択適用) 両者の選択可(選択適用) 両者の選択可(選択適用) 直接法・ 直接法を用いる場合,間接
間接法 法も必要
以上,本節では, SFAS 95,改訂 IAS7および意見書の概要を説明して きたが,本節を終えるに際して,各キャッシュ・フロー会計制度の特徴を明 らかにするために,これら3者をl表にまとめて比較してみようo そして,
これを行ったものが表 1である。
E
具体的なキャッシュ・フ口一計算書
前節では,キャッシュ・フロー会計制度に関して, SFAS 95,改訂 IAS 7および意見書の概要を説明し,これら3者の要点を比較した。本節ではこ れを受けて,具体的なキャッシュ・フロー計算書をみてみることにしよう。
その場合,これらを代表して,わが国企業会計審議会が公表したキャッシュ
・フロー計算書を提示することにする。ところで,前節で明らかにしたよう に, r営業活動によるキャッシュ・フロー」の表示方法に関して,直接法お よび間接法という 2つの方法があるので,以下ではこれらを順に示すことに する。
1 直接法
既述のように,直接法とは,営業活動に関係するキャッシュ・フローを各 収入および支出の総額で示し,これらの差額として,正味の営業活動による キャッシュ・フローを計算する方法である。直接法では,これによって,営 業活動,投資活動および財務活動によるキャッシュ・フローのすべてが,各 収入および支出の総額で示されることになる。意見書はかかる直接法による キャッシュ・フロー計算書を次のように提示している[注解7。]
キャッシュ・フロー計算書 I 営業活動によるキャッシュ・フロー
営業収入
原材料又は商品の仕入支出
xxx
‑xxx
14 経 営 と 経 済
人件費支出 ‑xxx
その他の営業支出 ‑xxx
小計 xxx
利息及び配当金の受取額 xxx
利息の支払額 ‑xxx
損害賠償金の支払額 ‑xxx
xxx
法人税等の支払額 ‑xxx
営業活動によるキャッシュ・フロー xxx E 投資活動によるキャッシュ・フロー
有価証券の取得による支出 ‑xxx 有価証券の売却による収入 xxx 有形固定資産の取得による支出 ‑xxx 有形固定資産の売却による収入 xxx 投資有価証券の取得による支出 ‑xxx 投資有価証券の売却による収入 xxx 連結範囲の変更に伴う子会社株式の取得 ‑xxx 連結範囲の変更に伴う子会社株式の売却 xxx
貸付けによる支出 ‑xxx
貸付金の回収による収入 xxx xxx 投資活動によるキャッシュ・フロー xxx E 財務活動によるキャッシュ・フロー
短期借入れによる収入 xxx
短期借入金の返済による支出 ‑xxx
長期借入れによる収入 xxx
長期借入金の返済による支出 ‑xxx
社債の発行による収入 社債の償還による支出 株式の発行による収入
自己株式の取得による支出 親会社による配当金の支払額 少数株主への配当金の支払額
財務活動によるキャッシュ・フロ‑
N 現金及び現金同等物に係る換算差額 V 現金及び現金同等物の増加額
¥i 現金及び現金同等物期首残高 四 現金及び現金同等物期末残高
2 間接法
xxx
‑xxx xxx
‑xxx
‑xxx
‑xxx xxx xxx xxx xxx xxx xxx
次に間接法であるが,既述のように,間接法とは,損益計算書で算定され た純利益から出発し,これにキャッシュ・フローを伴わない項目を調整して 営業活動によるキャッシュ・フローを計算する方法である。ここでは,主な 調整項目は2つであり,そのlつは減価償却費などの損益計算書上の非現金 項目であり,他の 1つは売掛金や買掛金の増減などの貸借対照表上の運転資 金に関する調整項目である。
この間接法と上記の直接法との相違は,
I
営業活動によるキャッシュ・フ ロー」の区分のみであり,I
投資活動によるキャッシュ・フロー」および「財 務活動によるキャッシュ・フロー」の区分に関しては,両者は全く同じである。
ただ, SFAS 95等の通常の間接法におけるキャッシュ・フロー計算書は 損益計算書で算定された税引後の純利益から出発するのであるが,意見書に おけるキャッシュ・フロー計算書は,
I
税金等調整前当期純利益」から出発16 経 営 と 経 済
する点にその特徴がある。この税金等調整前当期純利益とは,大雑把にいえ ば,税引前の純利益のことであり,これから始めるのは,営業活動によるキ ャッシュ・フロー計算中に法人税の支払額等を明示するためである。このよ うな理由から,意見書は間接法によるキャッシュ・フロー計算書を次のよう に提示している[注解7J。
キャッシュ・フロー計算書 I 営業活動によるキャッシュ・フロー
税金等調整前当期純利益 xxx
減価償却費 xxx
連結調整勘定償却額 xxx
貸倒引当金の増加額 xxx
受取利息及び受取配当金 ‑xxx
支払利息 xxx
為替差損 xxx
持分法による投資利益 ‑xxx
有形固定資産売却益 ‑xxx
損害賠償損失 xxx
売上債権の増加額 ‑xxx
棚卸資産の減少額 xxx
仕入債務の減少額 ‑xxx
xxx
小計 xxx
利息及び配当金の受取額 xxx
利息の支払額 ‑xxx
損害賠償金の支払額 ‑xxx
xxx
法人税等の支払額 ‑xxx
営業活動によるキャッシュ・フロー x x x E 投資活動によるキャッシュ・フロー(上記と同じ) E 財務活動によるキャッシュ・フロー(上記と同じ) N 現金及び現金同等物に係る換算差額 x x x V 現金及び現金同等物の増加額 x x x M 現金及び現金同等物期首残高
四 現金及び現金同等物期末残高
N キャッシュ・フロー会計制度の論点
x x x x x x
これによって,キャッシュ・フロー会計制度の全貌が明らかになったこと と思われるので,本節ではこれらを受けて,かかる会計制度の問題点をいく つかの論点に絞って検討してみることにしよう。その論点とは, (1)キャッシ ュ・フロー計算書の利用目的, (2)直接法と間接法, (3)利息および配当金の表 示区分,および(4)法人税等の表示区分である。それでは,キャッシュ・フロー 計算書の利用目的の論点から考察することにしよう。
1
利用目的第E節で述べたように,わが国の意見書はキャッシュ・フロー計算書の利 用目的に関して規定していないが, SFAS 95および改訂 IAS7はこれにつ いて規定している。いまこれを再述すれば, SFAS 95において,キャッシ
ュ・フロー計算書の利用目的は次のように規定されていた [par.5 。] (1) 正の将来正味キャッシュ・フローを生み出す企業の能力を評価すること (2) 企業の債務返済能力,配当支払能力,外部金融の必要性を評価すること (3) 純利益と関連する収入および支出との差異の理由を評価すること (4) その期間における現金および非現金の投資および財務取引が企業の財政
状態に及ぼす影響を評価すること
18 経 営 と 経 済
また,改訂 IAS7では,キャッシュ・フロー計算書の利用目的は次のよ うに規定されていると解釈することができた [par.3 。]
(1) 現金および現金同等物を生み出す企業の能力を評価すること
(2) 企業の債務返済能力,配当支払能力等,現金および現金同等物を使用す る能力を評価すること
これら両者の規定を比較してみると, (1)企業の現金創造能力を評価するこ と,および(2)企業の債務返済能力,配当支払能力等を評価することが,共通 の利用目的であることが分かる。これは,企業の現金創造能力および支払能 力を評価することと言い換えることができ, SFAS 95および改訂 IAS7は,
これらをキャッシュ・フロー計算書の固有の利用目的と考えているのであ る2)
。
両者の規定はこれ以上述べていないが,これは,見方を変えていえば,キ ャッシュ・フロー計算書は企業の現金創造能力および支払能力を表す機能を 有しているということができる。そして,ここで問題となるのは,キャッシ ュ・フロー計算書のどの部分が企業の現金創造能力を表しており,どの部分 が支払能力を表しているかである。
既述のように,キャッシュ・フロー計算書は営業活動,投資活動および財 務活動に区分して表示しなければならなかった。これと現金創造能力および
2 )これに対して, SFAS 95が規定している,純利益とキャッシュ・フローの差異を評価 すること,および現金および非現金の投資および財務取引の財政状態に及ぼす影響を評 価すること, というキャッシュ・フロー計算書の利用目的は副次的なものであるという
ことができる。というのは,前者は間接法を意識してのことであると思われるが,そこ で規定しているように,確かにSFAS95では直接法を選択する場合にも間接法によって 営業活動によるキャッシュ・フローを計算しなければならないが,それは元来直接法を 推奨しているからであり,さらに後述するように,間接法は疑問視されざるをえないか らである。また,後者は元来キャッシュ・フロー計算書の直接的な利用目的ではなく,
とりわけ非現金の問題はキャッシュ・フロー計算書とは直接関係がないからである。こ のことからも,キャッシュ・フロー計算書の固有の利用目的は,企業の現金創造能力お よび支払能力を評価することであるということができるのである。
支 払 能 力 と を 関 係 づ け て み る と , 企 業 の 現 金 創 造 能 力 は 営 業 活 動 お よ び 投 資 活 動 に よ る キ ャ ッ シ ュ ・ フ ロ ー に お い て 表 さ れ , 企 業 の 支 払 能 力 は 財 務 活 動 に よ る キ ャ ッ シ ュ ・ フ ロ ー に お い て 表 さ れ る と 思 わ れ る 。 さ ら に , 営 業 活 動 に よ る キ ャ ッ シ ュ ・ フ ロ ー は 企 業 の 現 在 の 現 金 創 造 能 力 を 表 し , 投 資 活 動 に よ る キ ャ ッ シ ュ ・ フ ロ ー は 企 業 の 将 来 の 現 金 創 造 能 力 を 表 す と 思 わ れ る 。
す な わ ち , 営 業 活 動 に よ る キ ャ ッ シ ュ ・ フ ロ ー は 企 業 の 本 務 で あ る 営 業 活 動 に お け る 現 金 創 造 能 力 の 現 在 の 結 果 を 表 し , 投 資 活 動 に よ る キ ャ ッ シ ュ ・ フ ロ ー は 将 来 の 現 金 創 造 能 力 を 高 め る た め に , 企 業 の 現 金 を ど の 投 資 活 動 に 投 下 し た か を 表 示 す る の で あ る 。 そ し て , 財 務 活 動 に よ る キ ャ ッ シ ュ ・ フ ロ ー は 営 業 活 動 お よ び 投 資 活 動 を 受 け て , 企 業 に 債 務 返 済 能 力 や 自 己 株 式 の 購 入 能 力 が ど の 程 度 あ り , 配 当 支 払 能 力 が ど の 程 度 あ る か を 表 示 す る で あ る 。 し た が っ て , キ ャ ッ シ ュ ・ フ ロ ー 計 算 書 の 表 示 区 分 は そ れ ぞ れ 独 自 の 表 示 機 能 を 有 し て い る と い う こ と が で き る の で あ る3)4)。
3 )ここで,キャッシュ・フロー計算書の表示区分とキャッシュ・フロー経営において重 要であるといわれている「フリー・キャッシュ・フロー」との関係について考えてみよ う。フリー・キャッシュ・フローに関しては明確な概念が存在していないが,基本的に は,企業の経常的な事業活動から得られる営業によるキャッシュ・フローから,経常的 な経営活動上で必然、的に支出される様々な項目を控除して残ったキャッシュ・フローで あるということになり,具体的には,営業活動によるキャッシュ・フローから(1)生産維 持に必要な設備投資.(2)必要な有価証券投資,および(3)安定配当分の支払いを控除した ものであるということになる[菊池.1998. 184. 187‑190頁]。この意味からすると,フ リー・キャッシュ・フローはキャッシュ・フロー計算書の表示区分とは明確な対応関係 がないといわざるをえない。というのは,投資活動によるキャッシュ・フローには生産 維持に必要な設備投資および必要な有価証券投資以外の投資支出が含まれるし,財務活 動によるキャッシュ・フローには安定配当分の支払い以外の収入および支出が含まれる からである。しかしながら,キャッシュ・フロー経営の観点からするならば,フリー・
キャッシュ・フローの概念は非常に重要であり,企業の目的は事業活動によってフリー
・キャッシュ・フローを最大化することであるといっても過言ではないので,キャッシ ュ・フロー計算書にこの概念を何らかの方法で組み込む必要があると思われる。
4 )なお,このフリー・キャッシュ・フローとの関係でさらに述べておかなければならな いのは,キャッシュ・フロー計算書の最後に表示される「現金及び現金同等物期末残高」
の性格である。キャッシュ・フロー経営の観点からすれば,上述したように,企業の
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2 直接法と間接法
直接法および間接法に関して,既述のように, SFAS 95は,直接法を推 奨するが,間接法も選択適用できるという立場をとっていた。ただしこの場 合,直接法を用いる企業は,間接法による調整も必要であるとされた。また,
改訂 IAS7は,直接法を推奨するが,両者の選択適用を認めていた。そし て,わが国の意見書は何の付帯条件もなしに両者の選択適用を認めていた。
すなわち, 3者とも直接法および間接法の選択適用を認めているのである。
その理由は各会計制度によって若干異なるが,共通していえることは,それ らのすべてが直接法の利点と間接法の利点を認めているということである。
SFAS 95は直接法の利点を次のように述べている。「直接法の主な利点は,
それが営業収入および支出を示すということである。営業収入の特定の源泉 に関する知識および営業支出が過去の期間においてなされた目的に関する知 識は,将来の営業キャッシュ・フローを見積るのに有用である。主要なクラ スの収益および費用に関する相対的な額および財務諸表における他の項目に 対するそれらの関係は,それらの計算合計,つまり純利益だけの情報よりも 企業業績を評価する際に有用であると思われる。同様に,主要なクラスの営 業収入および支出の額は,それらの計算合計,つまり営業活動による正味キ ャッシュ・フローだけの情報よりも,その債務を返済するため,その営業に 再投資するため,およびその株主に分配するために営業活動から十分な現金 目的はフリー・キャッシュ・フローを最大化することであり,現金期末残高を最大化す ることでは必ずしもないことに注意する必要がある。菊池教授によれば, I米国では,必 要以上の手元資金をもつことは,経営上のリスクにつながる状況さえ生まれてくる。手 元資金をたくさん抱えることは,資金の効率的運用を怠っているとして,経営者の能力 が疑問視される。それだけでなく,敵対的な企業買収が横行している米国では,キャッ シュ・リッチな会社は買収のターゲットにされかねない。J[菊池, 1998, 215頁]会計的 見地から,これを損益計算書の最後に表示される「当期純利益」の性格と比較すると,
その相違は明らかである。損益的観点からすると,企業の目的は当期純利益を最大化す ることであるのに対して,キャッシュ・フロー的観点からすると,企業の目的は現金期 末残高を最大化することではなく,適正化することであるからである。この意味で,両 者の計算書における最後の数字の性格が異なるということができるのである。
を生み出す能力を評価する際に,おそらく有用であろう。J[par.l07] また.SFAS 95は間接法の利点についても次のように述べている。「間接 法の主な利点は,それが純利益と営業活動による正味キャッシュ・フローと の相違に焦点を当てるということである。……ある投資者および債権者は将 来のキャッシュ・フローを評価するのに,部分的にまず過去の利益報告に基 づいて将来の利益を確定し,それからキャッシュ・フローと利益との期間的 なずれを考慮することによって,彼らの将来利益見積を将来キャッシュ・フ ロー見積に変換する。過去における類似の時間的ずれに関する情報は,その 過程で有益であると思われる。利益項目とそれに関連するキャッシュ・フ ローとの相違を識別することはまた,利益に影響を及ぼす非現金項目の測定 と認識における企業聞の相違を識別したい投資者および債権者を援助しう る。J[par.108]
そして,これらのことから.SFAS 95は次のように結論づけている。「審 議会は,直接法と間接法の両者が潜在的に重要な4情報を提供すると考えてい る。より包括的でおそらくより有用な方法は,キャッシュ・フロー計算書に おいて直接法を採用し,別個の明細表において純利益と営業活動による正味 キャッシュ・フローとの調整を提供することであろう。それによって,収入 および支出に関するキャッシュ・フロー計算書の焦点を維持しながら,両者 の方法の利益を得るのである。したがって,本ステートメントは企業がその 方法を行うことを推奨する。J[par.119]
このように.SFAS 95は直接法と間接法の両者の利点を認めており,両 者を共に採用することを推奨している。当会計基準では,直接法を選択する 場合に,間接法も合わせて用いなければならないと規定していたが,それは このような理由に由来しているものと思われる。したがって,ここでは,企 業が直接法を選択することが,理想的なキャッシュ・フロー計算書に近づく
ことになるのである。しかし現実には,直接法の遂行にはコストがかかり [par.113].また大多数の企業が間接法を採用しているので,直接法と間接
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法の選択適用を認めたのであろう。
同じような理由が,わが国の意見書においてもみられる。そこでは,次の ような理由から,継続適用を条件として,直接法と間接法の選択適用を認め るとしている[三, 4 。]
(1) 直接法による表示方法は,営業活動に係るキャッシュ・フローが総額で 表示される点に長所が認められること
(2) 直接法により表示するためには,親会社および子会社において主要な取 引ごとにキャッシュ・フローに関する基礎データを用意することが必要で あり,実務上手数を要すると考えられること
(3) 間接法による表示方法も,純利益と営業活動に係るキャッシュ・フロー との関係が明示される点に長所が認められること
各会計制度におけるこれらの理由をまとめてみると,直接法は営業活動に よるキャッシュ・フローを総額で表示するところにその利点があるが,コス トがかかることにその欠点があるということができる。そして,間接法は純 利益と営業活動によるキャッシュ・フローとの関係を明示するところにその 利点があるが,営業活動によるキャッシュ・フローを総額で表示しないとこ
ろにその欠点があるということができる。
そこで,これらのことを踏まえて,直接法および間接法の問題を改めて検 討してみることにしよう。ここで問題となるのは,間接法が果たして真の意 味で利点を有しているのかどうかということである。上述したように,間接 法の利点は,純利益と営業活動によるキャッシュ・フローとの関係を明示す るということであった。これは具体的には,純利益に非現金項目を調整する ことによって,営業活動によるキャッシュ・フローを計算するというように して行われる。このような計算の背後には,純利益や減価償却費などの非現 金項目が現金の源泉となるという考えが内在しているように思われ,また実 際に,キャッシュ・フロー計算書に関する解説書などではそのようにいわれ ている。
しかしながら,純利益や減価償却費などは現金の源泉ではないことは明ら かであり,キャッシュ・フロー計算書を利用する利害関係者を混乱させるこ とになりかねず,会計に慣れていない利用者に対しては特にそうである。こ のことを,ヒースは次のように強調している。「調整法(間接法一一筆者) は致命的である。というのは,利益および減価償却費が現金の源泉であると いう信じられない考えを強いることによって,財務諸表の利用者を混乱させ ることはほとんど確実であるからである5)0 J [Heath, 198 ,1p. 170J
そして彼は,これに続いて次のように述べている。「他方,収支法(直接 法一筆者)は,事業活動と現金収支との関係に関して現在存在している混 乱のいくつかを解消するのに有用であろう。というのは,それは,利益が現 金でも現金の源泉でもなく,現金は顧客から生じるのであり,それは商品,
販売費および一般管理費,税金等に支払われ,減価償却費は現金の源泉でも 使用でもないということを明確に示すからである。J[Heath, 198 ,1p. 170J そもそも,キャッシュ・フロー計算書が必要とされるようになった原因の lつは,損益計算書における純利益の動向とキャッシュ・フローの動向とが 異なることであり,利益が計上されていても現金が存在せず,企業が倒産に 追い込まれるケースが多発したことである。このことからすれば,利益とキ ャッシュ・フローとを関係づけることにほとんど意味がなく,キャッシュ・
フロー計算書は企業活動において生起するキャッシュ・フローを直接法によ って独自にしかも詳細に表示すべきであるのである。
次に,直接法はコストがかかるが,間接法はかからないという論点を検討 してみよう。これに関して,わが国の意見書は,
I
直接法により表示するた 5 )同じことを,国際会計基準の解説書は次のように述べている。「間接法の大きな欠点は,利用者が提示された情報を理解しにくいということである。この方法は,現金がどこか ら受け取られ,現金がどこに支払われたかを示さない。発生基準の純利益に対する調整 が示されるだけである。ある場合には,それらの調整は混乱を招きうる。例えば,発生 基準で損失となった設備の売却は,その損失を営業活動による正味現金に到達するため に純利益に加算することを必要とするのである。J[Epstein and Mirza, 1997, p. 99J
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めには,親会社および子会社において主要な取引ごとにキャッシュ・フロー に関する基礎データを用意する必要があり,実務上手数を要すると考えられ るJ[三, 4 ]と述べていた。これに対して,間接法は既存の損益計算書お よび貸借対照表を主に利用するので,それほど手数はかからないというわけ である。
かかる意見に対して,鎌田教授は次のように反論しておられる。「しかし,
わが国の有価証券報告書等提出会社は,資金繰表および資金収支表をとおし て,直接法による収支情報の開示について十分の経験をもっているから, w意 見書』の見解には同意できない。J[鎌田, 1999, 23頁]すなわち,米国のよ うに伝統的に間接法でキャッシュ・フロー計算書を作成している国では,新 たに直接法で作成するには追加的なコストがかかるかもしれないが,わが国 では伝統的に直接法によって資金収支表等を作成してきたのであり,キャッ シュ・フロー計算書を直接法で作成する場合でもこの経験を生かせるからそ れほど追加的にコストはかからないのであり,間接法の論拠は成立しないと いわれているのである。
そして,鎌田教授は次のように結論づけられる。「上で述べたような諸 点6)およびわが国の実務経験からみても,わが国の連結キャッシュ・フロー
6 )鎌田教授は直接法の利点を次のように要約されている[鎌田.1999. 112‑113頁]。 (1) 直接法は.1期間の収益・費用に関連するキャッシュ・フローの総額を示す。これは
借入限度額あるいは借入金返済に利用可能な額を判断するための指標として用いられ る。また,将来のキャッシュ・フローを予測することに役立つ。
(2) 直接法は,営業活動によるキャッシュ・フローと収益・費用の関係,すなわち,利 益の質を評価することに役立つ。
(3) 直接法は利益や減価償却費をキャッシュ・フロー計算書に表示することはないから,
利益や減価償却が現金の源泉であるという誤解を解消させることに役立つ。
(4) 直接法のために必要な記帳は,現金出納帳への記入と同様に容易で,実践的で実行 可能である。このために追加的費用を負担しなければならないことはあるが,それは,
それほど多額に上ることはない。
(5) オーストラリアおよびニュージーランドの会計基準は直接法だけを規定している。
間接法だけを規定している国はない。アメリカ,イギリス,カナダ,南アフリカお よび改訂 IAS7は直接法と間接法との選択を認めている。このうち,イギリスを除く 諸国と改訂IAS7は直接法を推奨している。
(6) 直接法の採択は会計基準の調和化の方向と一致している。
計算書における営業活動によるキャッシュ・フローの表示法として,直接法 だけを認めるべきである。直接法と間接法との選択適用を認めるような基準 は適切ではない。J[鎌田, 1999, 113頁]これはまったくそのとおりであり,
少なくともわが国は理論的にも実践的にもオーストラリアやニュージーラン ドと共に直接法のみを規定すべきであると思われるのである。
3 利息および配当金の表示区分
利息および配当金の表示区分に関して, SFAS 95は,受取利息,支払利 息および受取配当金を営業活動として区分し,支払配当金を財務活動として 区分していた。改訂 IAS7では,受取利息,支払利息および受取配当金は すべて営業活動として区分され,もしくは,財務活動および投資活動として それぞれ区分された。そして,支払配当金は財務活動または営業活動として 区分された。わが国の意見書では,受取利息,受取配当金および支払利息を 営業活動に区分し,支払配当金を財務活動に区分するか,それとも,受取利 息および受取配当金を投資活動に区分し,支払利息および支払配当金を財務 活動に区分するかを選択しなければならなかった。
SFAS 95が受取利息,支払利息および受取配当金を一括して営業活動と して区分する理由は次のようである [par.90]。
(1) 受取利息および支払利息は銀行およびその他の金融機関の営業キャッシ ュ・フローであると一般に考えられている。
(2) 営業キャッシュ・フローは,純利益と営業活動による正味キャッシュ・
フローとの相違を理解させるために,その影響が純利益の算定に含まれる 項目をできるだけ含めるべきである。
(3) 受取利息および支払利息の分類に際して一般的な実務を変更すること が,必然的にキャッシュ・フローのより有意味な表示をもたらすであろう
ということに,確信をもてない。
これに対して,改訂 IAS7は,受取利息,支払利息および受取配当金に