54 長崎大学学芸学部自然科学研究報告第2号(1952)
Heterocepon marginatum Shiino (Bopyridae)
に於ける雌雄性分化に関する實驗的研究 1.成体雄の性の逆轉について
森田真一 (生物學数室)
Experiments on the Sex‑differentiation in a Bopyrid, Heterocepon marginatum shiino
1. On the Sex‑reversal of Adult Male.
Shin‑ichi Morita
Reverberi and Pitotti (′42)はIone thoracicaについての草驗で雌を失って孤猫となった 雄が宿主の組葉につき充分な柴藁をとると雌に極換する事を報脅した2)。然るにReinhard ('49)はStegophryxus h坤tinsに於ける草験結菜から.一度分化した舞がその性を逆捧して 雌になるが如き事はあり得ないだらうとのべている。この相反する箕駄結果は恐らく叔料とし
た動物の生態.習性の相異によるものではないかと考えられる。即ち前者はCallianaJJa la‑
ticaudaの組卦こ寄生するものであり.後者はPagurus long如rpusの腹部に外部寄生をなす ものであるo筆者はPinnotheres cardii Burgerの組宝に寄生するHeterocepon marginatum Shiinoの雌雄性分化について研究しつ1あるが,本種に於ける成体雄が性を逆極して雌とし
て醤油を真相するfc'‑fiったn拾締り上を紺tlteでm,'ォfする。
材料と方法
有明海に鱒養する二枚貝Mactra veneriformis Reeveの外套陣にすむPinnotheres cardii Burgerを貰敬愛で飼育し貰驗に供した。他のBopyridaeに於けると同様.雄は雌に此して甚 だ小形で雌の腹部背軌こ附着するO寄生された側の宿主の鮮宝は大きく膨らみ.右又は左の何 汁.J1時こもはらUX'vJi同時に骨l:.ち.1け‑:ll <r㌻吊机t C・:tfrい. 1鵬幸二さイi.i 'iO'i‑it^そ</Jf陀逆 特するか否かを知るためには攻の方法によった。第一の方法は宿主の膨らんだ賦宝の後端.胸 節との接喝部から寄生虫を注意裸く取り出すOその後再び雄のみをその酪童に入れる。第二の 方法は醍頚にいる雌のみを外部より針で刺殺する。殺された雌は1‑2日で退化滑滅しあとに は雄のみが洩る.何れの場合でも好都合に行けば雄は宿主の組につきその後の豪速をとげる.
この様に虎・宣した5匹宛の動物を直揮15cm,深さ5cmのシャーレにて飼育し醇けるo魔道後 2‑3日の問に堆寄生虫仕組嚢から這ひH¥して宿主の体表に附斎するものが少数ある。これらは 分離飼育して封照とした。宿主が死亡するか.或は甚だ弱ったものはBouin液で固定し形態
的.糾級撃的観察に供した。切片は凡てi/x,染色にはDelafield's HaematoxylinとEosinと を用いた。この茸駿は1951年6月から10月にわたって行った。
(I)長崎大学学芸学部生物学教室栄時等5報、この一部については第22回日本動物学会大会で発表した。
(2)原著を入手的来ずBiological abstractによる
實 、験 結 果
1・第一表に示す様に2群を通じて實験個体数は114個体で、宿主の死亡率は爾群を通じて 略同じで甚だ高く最初の1 一2日で牛数以上に達した。10日以上生存して性逆韓を示したもの は合計23個体で、その他のものは寄生虫が鮒室外に這ひ出すか、或はそれまでに宿主が死亡 したのである。10日以内に宿主の死亡したものでは寄生虫は形態的に雌形質が蛮現するまでに 至つていなかつたo
第1表 実験結果
実験種別 実験個体数
処置後1〜2日で 亡した個体数 10日以上生存
た個体数1（雄のみ挿入）
艦欝し）
55
9
34
3
13
0
これら實験群の内一例につV・てその経過を示す。この實験は1951年6月8日に20個体に つV・て第一一の方法で行つたものであるo
June 9
10
11
13 14 25
July 2
13
6個体死亡、2個体では寄生嵐這ひ出し宿主の体表につく．対照として労離飼育・12個
体生存。
5個体死亡、2個体で寄生虫這ひ出す、分離5個体生存・
1宿主脱皮中 1個体死亡 1個体死亡 1個体死亡 1個体死亡 1個体死亡
4個体生存 3個体生存
（No・2） 2個体生存．
（No・5） 1個体生存
（No・艮6）
10日以上宿主が生存していてその鮒葉についた雄は例外なく外形的にその生存期閥に慮じた 攣形を示して雌えの輻換が見られた。然るに鮒室から這ひ出して宿主の体表につV・たものでは たとえその生存期間が長期に亘つても何等の攣化を示さなかつた。例ば60日以上体表に附着し た雄に何等の攣形を認めなかつた。㈹鰐室中にいても鰐葉につがす鰐室の内壁に附着したもの で35日生存したものも攣形を示さなかつた。
これらの結果は孤猫にされた成体雄が宿主の鰐葉につくと、Reverberi and P三tottiカミ行つた ん惚の場合と同じくその性を逆樽する事を示す。
2・同様な結果は何等塵置を施さなかつた飼育群のものからも観察された。1951年6月6日 に探集したものの中から寄生虫の雌のみ死亡消滅して、大きく膨らんだ鰐室内に雄のみ軍猫に いるもの3個体を得た。その各々が孤猫になつた正確な日は知るを得ないが夫々分離飼育して その一は17日間、第二は22日間、第三は31日聞生存した。そして何れも寄生虫は宿主の 鰹葉に清v・ていて雌えの攣形を示した。その攣形は實験例の場合と同様である。實験室にて飼 育中に雄寄生虫が蝿室から這ぴ出し宿主の体表に附着するものも度々見受けられるが（貝の外 套腔から宿主を取り出したときにも度々見られるのでか』る事は飼育條件下に於ける例外的な 事ではないらしめ。）か』るものが長い飼育期聞にも拘らす雌の形質を得るに至るものは今ま
56 森
田で一一仏りも見當らなカ》つた。
3・1951年6月15日に虞置し、性が逆輻して雌（No．32）となつたもののV・る鮒室に他の 成熟雄を7月25日に入れた。この宿主は8月5日に死亡したが、この轄換雌の育嚢中には喪 生途上の卵を多藪含んでv・た。この結果は前にのべた雌が自然死してあとに淺つた雄がその性 を薄換した事實と考え合せると、新に侵入し、生長した雄によつて投精せしめられる場合も起
り得るものの如くである。丑θ紛064ρoπの産卵期が5月から11月に及ぶ長期にわたる事實か らもこの様な可能性は充分に考へられる。
4・8月2日に挿入した雄が10月18日に至つてもその寄生部位は正常であるに拘らす街 雌形質を得たらしくないので取り出したところ、この個体は頭部と胸部第1節を失つているの であつた・どうしてこの部が失われたか全く不明であるが、恐らく挿入の際傷けられたためで
あらう。宿主の鰹葉につき而も78日間生存していたにも拘らす外形的に何等雌形質は現れて》・
ないし、生殖腺も正常雄と何等異る所はなかつた。この事實は鮒葉につく事が適當な養科を得 る事と密接な關係があるためと思われる。そしてこの事が雄が性韓換を行つて雌になる必要な 條件となるものであらう。鮒葉につく事が体表につくものに比し多くの養料を得るであらうこ とは宿主の生活歌況よりも考へられるし、頭部を失つて（この様な長期間生存し得た事實が既 に甚だ著しいことであるが．）養料の概受が出來ないことが性の逆轄を妨げこめ侃休を雄にと どめたのであらう。ReVerberi and Pitottiカミ述べた如く鰐葉につき充分な養料を得ることが性 逆薄の條件になるものの如くであるが、術この爲には他の實験的な証明を必要とすると考える。
形態璽化と生殖腺の墾化
π8」8伊06砂伽の雄は別に報告したように…等脚類の典型的な形態を示す。（Fig．1．A．）。この 精巣ぱ胸部第3節に始まる1封の細長v・管で肝臓の外背側を後走し第7節で夫々体外に開く。
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Fjg・1・ Them飢uremaleandthreephase・f漁nsf・m6dmale・A・maturem・1e・跳rgalview・
B・Transformed male with slightly developed・late：al plates and pleopod・（No・12）
Ventral view・ C・More advanced stage・0αstegite51igh重1y developed・（：No・35）
Ventral view・ D・Almogt perfectly transformed male with well developed ooste・
glte（No・32）Ventmlview・
その末端部は細くなり貯精嚢としての機能を醤む。精巣は平岩（〆34）がEρ｛ρ朗α60η掴φoπio4 にっV・て、Reinhard（ 49）FがS∫099ρhlly籍3妙1ρ地 5について記載した如く明らかに3暦・を
匝別出來る。（Fig・2・）。即ち肝臓に近V・最内暦にSpermatocyte，中央部にSpematid，最も外 側にSp6rmatozoaの暦がありこれらを取り園んで榮養的細胞と考えられるうすV・一暦の細胞
暦がある。
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Fig・2・ Left half of cτoss sectioh through tわe third thora、c糞c segment
・famaturemale王地ro・6ψ，π あα ・9鰍 嚇measuring4・5m m inlengしh・ The testis shows the chaτacteristic zona1臨τrang剛 ment．X360 T．Testis。L．L竃veτ．
宿主の鮒葉に附着し10日以上経過した個体はその期闇に鷹じた外形の攣化を示すが、その 攣形の歌態はBopyτUs larvaから雌の成体に焚達する場合に見られる攣形（これについては 別に報告する）と相同である。（Fig。1・B．C・D・）この場合には腹部の1ateml platcが伸長し 始めP！eopodが1申びても．幼虫に存在する頭部爾側の眼及び胸部から腹部に亘つてその背側縁 に散在する黒褐色の色素が欠如している黙で、この攣形が幼生より雌えの螢達でない事は明ら かである。10日以上経過した23個体についてその攣形の程度によつて分類したものが第二表
である。
第2表 区分
1
置
一
w
経過日数 10＿15
16−25
26−35 35−11
個
（L
（3・
体 数
番号）
備 考
11
2：1呈：ll）
側板伸長、腹1却は痕跡的かや・伸長生殖湶は著し
変化なし
418・22）
側板はよく伸長、腹脚も発逮する、胸節は幅広く
り、あるものでは育板現る、精巣は肥大し卵母 胞発遠する◎ ・
330』31）
側板は両伸びその後端は鎮歯伏になる腹御は分枝
る。育板は充分発達す、精巣は唯雄同体型とな
532・38・40）
全く雌形となる、生殖腺にも雄性要素な全然含ま
58
森田
1 では腹部の側板が僅かに仲びその基部に突起欺の腹脚が現れる。（F19．1』B♪。精巣は正 常者と著しV・相異ばなく、只FoUide cel1が大きくなりこの暦が厚くなる。IIでは側板が伸びる に楚び体幅が廣くなり腹脚もよく焚達する。（Fig．1C）。精巣には前期に比して著しい攣化が 現江て正常者ではSpermatocyteとSpematidとで出來てV・た内側と中央部とが甚だ厚くなる
と共に最も外側（肝臓に封して）の一端を除いて精渠全体を包むように横がつてSPermatOzoa の部分をその中心に包み込む。この外贋、特に肝臓に接する部分には多くの分裂像が見られ生 殖細胞の獲蓮参盛んである。即ち精巣は中心部の精子塊とそれを包む雌性生殖紬胞の2要素が 明らかに匠別されるo
III では雄形質は外形的に殆んど失は t〜 れて全く雌の形態を示す。（F19・1，C）育 板もよく獲達し育嚢の形成も定全である。
＼
蓉◎ ・菱欝謂締灘欝書
の蓄磧されたものもある。生殖腺は甚だ 太くなり体の背面及側面に向つて分枝歌
鱗難鐙．
F量9・ 5 Closs section of tbe kermaphrod冠ic testisinthet−ansfon・・edmale，No．
3。（X180）Theaccompanyingfigure shows the position of the gonad〔Xl 30）A。dorsalao−tat．t．hefmaphroditi
ctestls 1・ L童ver．os。 Oosteglte SP．
SpermatozoaO．Ovaτy
にのびる。中央部には精子の集團が淺存 するが、周邊部には精母細胞その他の雄 性生殖細胞が叢達しつ』ある歌態は認め られぬ如くである。（Fig．3）IVに於て は正常雌と直騎すべきものは外見的には 何等認められす、2例を除いては他は凡
て全く卵巣のみよPなるものであり．既 にのべたNo，32の如く薩卵したものも
あつたo
要 約
P伽o h6郷6曜薦の鰐室に寄生する
H8雄06θpoπ吻俳9伽4㍑，πの雌雄一封を取 砂出しそのあとに雄のみを挿入するか、
或よ外部より雌乞刺殺して雄のみを淺す かして、宿主の鰐室に雄のみを輩猫にし ておくと好都合な場合には10日以上を経 過するとこの雄進徐々に雄の形質を失い・経過日数に感じた程度に雌の・形質をもつに至る。
Reverberi and Pltottの原著≧見る事が出來なV・ので10惚♂hoγα6ゴ昭との詳細な比較が出來な V・のは淺念であるが．Eβ君870吻oπの雄ば夏期には35−40日を宿主の鰐葉に附着して輩猫に 経過するとその性セ逆博して機能的な雌になると思はれる。60日の長朝に亘つて宿主の体表に 附着してv・た場合にも、鮒室内にありながら鰐葉につかす鮒室の内壁に附清するのみでは性の 逆榑は起らなかつたこと、頭部欠失の個体が鰐葉につきながら雄に留まつた事から、鮒葉につ
く事が豊富な養料を得るために必要な條件となりこのことが性逆傳を起さす要件なのであらう。
R inhardの場合にぱその寄生虫の生態陶な要11トから性ρ逆傳を實駆的に証明し得なV・のであ つて、Reverber最and Pitottiの10ηθD場合を考へ合ぜて、條件さへ適賞に出來れぱS1θgoρhly鰍ε でも成体雄が性の逆縛を起しうるものではなからうか。別に報告する予定であるが幼虫の場合
,fr tL ))j" ] ! s ';̲.< f )'1 ; #!tl 'T. , L )f/r fn ;) ̲'J" : ) lC . Heterocepon q)1)J 4 lC p ; lfO " : { :' ' '{, , ‑‑T‑(D'f ili { ' UC ,' L{ < ( j < ,D } ) 5 o
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q) = , s,m jC C) V$ C I it ) ;X ) ;.j.. J 't U ' t C E : t ;
‑
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Rtegophryxus hyptius Thompson. Biol Bull 96
tC '･+ ,l
R sume
The present experiments show t at the adult male H,!terocefon llrar.'.'inatum Shiino, which was once differentiated and performed the functions as a male, is transformed into female if it succeeds in attaching to the host g̲ ill and getting
nourishment, as was shown Reverberi and Pitotti (19i2). In summer time it
reverses its sex perfectly for about 35‑40 days under the condition of attaching to the host gill, while 'the male bopyrid clinging on the surface of the carapace or' innerwall of the branchial cavity of the host crab is not transformed into female, although its clinging continues so long. The fact that a male bopyrid attaching to the host gili, which lacked the cephalon and the first thoracic seg‑ment, did not transformed its sex, seems that etting nourishment is the most important factor to differ ntiate the male into femele. And the fact that a per‑
fectly transformed male, Iaid eggs when another mature male was inserted in the same branchial cavity shows that the transformed male , not only has modified its external characters, but has become functional as a female. The result of the
experiments mry throw s)me light on the mechanism of sex differentiation in
Bopyridae.: ir' O IJF tC :k i { f F ; i :(7) u P= .S‑ Reve*beri and I>itotti
