授業計画に基づく授業分析の方法
一授業計画時の意志決定を焦点にして一 村山 功*
Amethod of the plan−based lesson analysis
−focusing on decision−making in lesson planning −
Isao Murayama abstract
・Less。n St。dy・i・av・luabl…u・ce・f teach・・d・vel・pment i・J・p・n・T…nd・・t it・ffecti・・ly・・f・・us sh・uld be°n teach。,s・deci、i。n m・ki・g, P・・ti・ul・・ly・n deci・i・n m・ki・g i・pl・nni・g less・n・・Less・n plan i・c・mp・・ed・f・f・w imp°「tant
。1,ment,, educati。。、l g・al・,1…ni・g acti・iti・・,・nd leami・g t・・k・・The c・n・i・tency・m・ng th・・e el・ments sh・uld be examined b。f。,e less。。, and、。n、i・tency b・tween a pl・n・nd・less・n carri・d・ut・h・uld be ex・mi・・d・ft・・less・n・Seve・al points of analysis are explained in this article・
キーワード: 授業分析 授業計画 校内研修 研究授業
1.はじめに
研究授業と事後検討会による授業研究を中心とした 校内研修は、教員の力量形成において大きな位置を占 めている。また、授業研究は日本の教育の優i秀さを支 えるシステムとして、 !esson study という名称で海 外でも注目されている(Wiburg, K.&Brown, S.,
2007;橋本・坪田・池田,2003)。しかし、個々の学 校における校内研修の実態を見ると、必ずしも有効に 機能しているとは言えない(村川,2005)。事後検討 会での討論の進め方が非効率的なために、無意味な時 間となっている例も多い。
経験上、事後検討会においてよく見られる非効率的 なパターンは、論点が決まらないまま単なる感想を言 い合うパターンと、授業のよかった点だけを述べて課 題を論じないパターンである。同じ授業を見て感想を 述べ合うことも、授業観や子ども観などの学び合いと いう点ではよいかもしれないが、限られた時間という 制約と研修という目的を考えれば効率が悪いと言わざ
るを得ない。また、授業のよかった点を明確にして共 有することは重要であり、特に若手教師にとってはよ い学習の機会となるが、これもバランスの問題であっ て、授業の課題を差し置いて授業者をほめるだけでは 研修とは言えない。
授業は、教師にとっては意図的な行為である。そこ には、目標があり、工夫があり、結果がある。検討す べき内容はいくらでもある。事後検討会において適切 な論点を立てて議論すれば、そこで検討された内容は、
それぞれの教師にとって次の授業の目標や工夫のため に役立っはずである。そのためには、授業分析のポイ
*静岡大学教育学部
ントを押さえておかなければならない。
本稿では、効果的な校内研修を行うために、授業計 画に基づいた授業分析のポイントについて論じる。
2.授業の基本構造
授業はいくつもの要素を組み合わせて作り上げられ ている。教師や単元によって様々な工夫がありうるに しても、授業と呼ばれるための基本構造は押さえられ ていなければならない。
授業を行う目的は「学習の成立」にある。ゆえに、
授業には、まず教師が狙いとする学習目標が存在しな ければならない。この目標を達成するために、授業の すべてが組み立てられ、実行される。そして、学習目 標の達成・未達成がその授業における学習の成立・未 成立となるため、学習目標は授業評価の最大の基準と
なる。
それでは、学習はどのようにして成立するのか。学 習者が頭や手や体を使って、自分で考えることによっ て学習は成立する。ここから帰結することは、授業時 間の中に学習者による学習活動の時間が十分に保証さ れていなければならないと言うことである。高等教育 においては、教師の一方的な独演会によっても学習を 成立させることができるが、それは話を聞きながら情 報を主体的に処理する技能を学習者が持っているから である。しかし、義務教育段階ではそのような学習技 能を習得すること自体が目標であり、その技能を前提
とした一方的な授業を行うことはできない。
次に、学習活動はどのようにして生じるのか。学習 者が学習活動を行うためには、学習課題が必要である。
学習課題を解決するための活動が、学習活動だからで ある。一斉授業であればクラスで共有される学習課題
が、また、個人テーマによる探求学習ではそれぞれの 学習者に学習課題が必要である。学習形態によって学 習課題のあり方は異なるが、学習課題が必要であるこ とに変わりはない。ただし、学習課題は単に課題を提 示すればよいわけではなく、学習者がそれを自分の課 題として引き受けなければならない。っまり、学習者 が課題意識を持つ必要がある。課題意識を持たないま までの活動は、活動ではなく作業である。作業の結果
として、学習目標が達成されることはない。
以上をまとめると、学習課題を提示することで学習 活動が行われ、学習活動が行われた結果として学習者 が何かを身にっける。この身につけたものが、学習目 標と合致しているとき、学習が成立したということが できる。授業はこのように構成されていると考えられ
る。
学習目標 ↓
学習課題 ↓
学習活動 ↓
学習の成立 = 学習目標の達成 図1 授業の基本構造
3.授業分析
授業は様々な観点から分析することができるが、本 稿では学習の成立の部分にのみ注目する。また、授業 研究のほとんどは、実施された授業に関する研究であ る(秋田他,2005;平山,1997)。しかし、授業計画 あるいは授業に関する意思決定の段階から授業は始まっ
ている。
授業研究が教師にとって研修であること、あるいは 授業が教師の意図的な行為であることから考えると、
特に重要なのは教師の意志決定の部分である。意志決 定の妥当性やより適切な意志決定について議論するこ とは、授業に携わるすべての教師にとって有益である。
この意志決定は、授業計画時の意志決定と、授業実施 時の意志決定の2段階に分けられる。校内研修の授業 研究では、基本的に授業案に基づいて検討を行うため、
ここでは授業計画時の意志決定にっいてのみ考えるこ とにする。
もちろん、事後検討会においては、授業実施時の意 志決定にっいても検討されるべきである。ただし、授 業実施時の意志決定は、突発的な出来事に対する即時 的対応もあるものの、多くは授業計画を背景として行
われる、授業計画の実現もしくは修正のための意志決 定であると考えられる。ゆえに、授業計画時の意志決 定について検討することは、授業実施時の意志決定に っいて考える上でも有効である。これを支持する一例
として、授業計画時におけるモニタリングスキーマの 形成が授業実施時の意志決定の質に影響することが、
吉崎(1988)によって主張されている。
授業計画時の意志決定に対する検討は、2つの段階 に分けることができる。一つは、計画それ自体として の妥当性・整合性であり、これは授業実施前に検討す ることができる。前述したように授業は、学習課題が 学習活動を、学習活動が学習目標の達成を生むという 構造を持っており、それらが整合性を欠いていれば学 習は成立しない。もう一つは、予測としての妥当性で ある。授業計画には、学習課題が学習者に理解される こと、学習課題によって想定した学習活動が生じるこ と、想定した学習活動によって学習目標が達成される ことなど、様々な予測が含まれている。この予測が現 実と合致しているかどうかは、実際に授業を行うこと で検討が可能になる。
以下、 「学習目標」 「学習活動」 「学習課題」の順 に、分析のポイントを示していく。
計画時
o
実施時
m
計画の整合性
予測の妥当性
計画に基づく
計画と無関係
図2 授業分析の観点
1)学習目標
授業を分析する上で、学習目標は2つの大きな役割 を果たす。
第一に、授業を分析していく上で前提となるのは、
その授業が学習目標を達成したか否かである。この結 果によってその後の分析の方向が、 「なぜ成功したの か」という成功の原因探しになるか、 「なぜ失敗した のか」という失敗の原因探しになるか、大きく異なる からである。
第二に、計画時及び実施時を問わず、授業に関する 教師の意志決定及びそれに伴う行動は、学習目標を達 成するという目的のために行われる。ゆえに、学習目 標の達成につながる意志決定や行動は適切であり、達 成にっながらない意志決定や行動は不適切であると判 断される。授業を観察する場合には、学習目標を詳細 なレベルまで明確に理解しておくことが、個々の意志
決定や行動の妥当性を判断するための前提となる。
学習目標に関連して、以下の4つの分析ポイントが 考えられる。
a.行動目標
授業においては学習目標を達成したか否かが重要で ある以上、授業の終了時にそれが判定できなければな らない。そのためには、学習目標の表現形態に工夫が 必要である。 「植物が成長するための条件を理解する」
という表現では、その学習目標が達成されたか否かを 判定することはできない。
そのため、学習目標は行動目標として書かれる。行 動目標とは、授業によってどのような行動を学習者が 示せるようになるかを表現するものである(鈴木,
2002)。先の例で言えば、 「植物が成長するための条 件を3つ言える」という表現に変えることである。こ の表現であれば、授業者にも授業観察者にも学習目標 が達成されたか否かを判断することができる。
ただし、目標は単に学習者の行動で表現すればよい のではなく、具体的に書かれなければならない。前述
したように、目標が具体的に示されることよって、観 察者は教師の個々の言動を目標と結びつけて理解する
ことができるからである。
なお、すべての教育目標/学習目標を行動目標で表 わすことができるかという疑問に関しては、 「c.到 達目標と方向目標の区別」で触れる。
b.目標の達成を確認する場面
学習目標が行動目標として書かれていても、授業の 中で学習者にその行動をとらせる機会がなければ、学 習者が実際にその行動を示せるようになったかどうか 観察することはできない。 「植物が成長するための条 件を3つ言える」という学習目標であれば、実際に学 習者が3つ言えるかどうか観察しなければならない。
そのためには、授業の最後で発言させたりワークシー トに書かせたりするなどして、確認の場面をつくる必 要がある。
このように、研究授業における授業分析を効果的に 行うのであれば、単に観察者の力量に依存するだけで はなく、授業計画自体に授業分析のための仕掛けを含 めておく必要がある。これは日常の授業でも同じであ り、日々の授業の評価を適切に行うためには、常に授 業の最後に評価場面を設けておかなければならない。
同様に、授業過程における評価と支援の一体化を目指 す場合にも、評価場面を授業計画の中に意図的に組み 込んでおくべきである。
c.到達目標と方向目標の区別
学習目標を考える際には、到達目標と方向目標を区 別する必要がある(梶田,1995)。到達目標はその時 間/単元の終わりで到達すべき目標であり、上記の行 動目標についての議論はこの到達目標に関わるもので ある。一方、方向目標はその時間/単元だけでは達成
できないが、授業の積み重ねによって将来的に達成さ れるべき目標を示している。そのため、到達目標とは 異なり、その授業時間内での達成の正否を問われるこ とはなく、行動目標として書かれたり授業の中で確認 場面が設けられることもほとんどない。ただし、それ は授業分析の対象としないということではなく、方向 目標の実現に向けてどのような寄与があったかの議論 はなされなければならない。
学校における研修主題は、 「自ら学ぶ」や「学び合 い」といった方向目標であることが多く、一時間の授 業でこれを達成することは本来期待できないものであ る。しかし、研究授業においては、授業の中で研修主 題に関する提案を組み込まざるを得ない。このとき、
到達目標と方向目標を混同したり、優先順位を間違え たために、おかしな研修になる場面がしばしば見られ
る。
例えば、学び合いという研修主題であるために、小 集団の中で意見に違いがないにもかかわらず話し合い をさせることがある。この話し合いは理解の深まりに はっながらないため、結果的に学習目標(到達目標)
は達成されない。にもかかわらず、「今日の授業では 学び合いの機会があったのでよかった」という評価が なされるのは、優先順位を間違えているからである。
このような授業は、学習が成立していない上に、学び 合いが学習の成立に寄与していないため、学び合い自 体の価値を学習者が肯定的に捉えられず、方向目標に
も寄与しない。
なお、「a.行動目標」の最後で触れたように、教 育目標/学習目標のすべてを行動目標で表すことはで きないという批判もある(梶田,1995)。これに対し ては、 「兆候としての目標」 (沼野,1979)のように 操作的な表現を用いることで、情意的な目標も行動目 標として表現するアプローチが提唱されてきた(西之 園,1979)。このようなアプローチの追求も重要では あるが、本稿のように単元あるいは一時間の授業に対 する分析を目的とする場合には、到達目標と方向目標 の区別を意識的に用いて、到達目標のみを行動目標と
して書くのがよいと思われる。なぜなら、対象とする 授業時間内においては方向目標が達成されない以上、
方向目標をあえて行動目標として表現する利点は少な いからである。
これに関連して、授業案においては、関心・意欲・
態度に関する学習目標が到達目標として書かれること が多いが、到達目標と方向目標の区別という観点から それが適切かどうか問い直す必要がある。
d.学習指導要領との整合性
学習目標そのものの妥当性の検討は、授業の計画あ るいは観察とは別の基準で行われる。それは、目標そ のものの妥当性は、目標の達成方法とは半ば独立だか らである(半ばというのは、一見妥当に見える目標で
あっても、達成方法が存在しない場合にはその妥当性 は失われるからである)。多くの場合、授業は学習指 導要領に依拠しているため、学習指導要領との整合性 が学習目標そのものの妥当性についての最大の基準と
なる。
総合的な学習の時間など、学校ごとに目標を定める 必要があるものについては、学習指導要領の代わりに 各学校の教育課程を基準とすればよい。
以上、授業計画時の学習目標については、
a.
b.
C.
d.
行動目標として書かれているか 目標の達成を確認する場面があるか 到達目標と方向目標が区別されているか 学習指導要領との整合性があるか という分析ポイントがある。
授業
学 習 指 導 要 領
‡
整合性…d
:[
観察くトー到達目標司←一一叫〉方向目標 視点 1 区別…c
行動目標…a
↓
確認場面…b
図3 学習目標の分析ポイント
2)学習活動
学習活動の適否が学習の成立を直接左右するという 意味で、学習活動は学習の成立のための中心的部分で ある。学習の成立における個人差の問題や、授業にお ける評価と支援の問題も、学習活動の部分で扱われる ことが多い。結果的に、学習活動の分析が授業分析の 大きな部分を占めることになる。
学習活動の分析は、学習目標の分析とは異なり、授 業前でもできる分析と授業後にできる分析に分けるこ
とができる。
a.学習活動と学習目標の整合性
授業の中で学習活動が行われても、それが必ず学習 の成立にっながるという保証はない。例えば、計算練 習を繰り返せば計算技能には習熟するが、計算方法の 正しさを説明することにはつながらない。計算方法に ついての理解を深めるのが目標であれば、計算練習は 不適切な学習活動である。つまり、学習活動によって 学習者が何かを身につけたとしても、学習活動の内容 によっては、それが目指したものとは異なることも大 いにあり得る。
このように、学習目標と学習活動との整合性は、授
業計画としての整合性の一例である。授業者の想定し た学習活動を行うことによって、学習者が授業の学習
目標を達成することが可能かどうかを、授業計画の段 階で検討することができる。
ただし、分析において注意すべき点がある。授業が 教師の意図的な行為であり、授業計画が教師の意志決 定の結果であるため、授業計画時の立案・分析・検討 は教師の視点から行われがちである。その結果、学習 活動も、学習者が何を行うかではなく、教師が何をさ せるかという捉え方をされることになる。しかし、こ こでは、学習者が何を課題として捉え、そのためにど んな取り組みを行い、その中で何を考え試みるかを考 えなければならない。そして、その学習活動の結果と して学習者に何が身にっくかを推測し、それが学習目 標と一致しているかを検討しなければならない。
b.学習者の実態との関係
授業計画は、同じ学年であればどの学校のどの学級 に対しても同じものが使えるというわけではなく、学 級の実態に合わせて立てられるものである。そのため、
学級の実態との整合性も問われなければならない。ま た、一斉授業の授業計画は学級全体を対象にして立て られ、個々の学習者向けに立てられるのではない。そ のため、学級の実態との整合性は、2つの相補的な観 点から検討する必要がある。
まず、学級単位で検討した場合、少なくとも学級の 学習者の大半が、特別な支援なしに学習活動に取り組 めなければならない。これは、授業時間の中で個別に 支援できる学習者の数が、極めて限定されているから である。たとえ個別の課題による学習活動であっても、
大部分の学習者が自力で学習活動に取り組めるべきで あり、個別支援を前提とした学習活動案では実現性が 低い。支援を求める学習者が教師の前に行列をなして いる状態は、学習活動に取り組んでいるとは言えず、
学習目標の達成も難しい。
さらに、個々の学習者を念頭において授業計画を検 討すると、想定された学習活動に取り組めない学習者 や、その学習活動では新たな学習が成立しない学習者 が出てくる。その場合には、何らかの形で個別に対応 する必要があるが、それも授業計画の中に含まれてい なければならない。授業の中で行われる評価と支援は 突発的な事態に対する臨機応変な対処ではなく、学習 者の実態を想定した計画的なものである(吉崎,
1988)。
この場合も、学習課題の「b.目標の達成を確認す る場面」で述べたように、授業計画の中に机間指導等 の評価・指導場面をあらかじめ用意しておくべきであ
る。
c.学習活動の実態
ここから2つの項目は、計画と実態とのずれ、すな わち予測に関する検討事項であり、授業実施後に検討
される。本稿では扱わないが、計画と実態とのずれを 検討することで、それに起因する授業時の教師の意志 決定の妥当性にっいて検討することができる。
授業を観察することにより、学習者が具体的にどん な学習活動を行っているかを知ることができれば、授 業計画で想定していた学習活動が行われていたかどう かが判定できる。これは、学級単位での大まかな傾向
と、事前に計画した個別の指導・支援の、どちらにも 言えることである。
まず、学級単位で検討すると、授業計画が妥当であ れば、ほとんどの学習者が教師の支援なしに想定され た学習活動を行っていなければならない。このシナリ オからの逸脱には3つのパターンがある。第一に、多 くの学習者が、想定した学習活動を行ったものの教師 の支援を必要とした場合である。これは、授業計画時 点での学習者の実態に関する判断の誤りに起因する。
第二に、多くの学習者に教師が支援を行ったにもかか わらず、想定された学習活動が生じなかった場合であ る。これは、学習者の実態に関する想定の誤りと、そ こで行った支援が不適切であったことによる。授業計 画時に用意しておいた支援策が有効でなかった場合に はそれが不適切であったことになり、用意していなかっ た場合にはそのこと自体に問題がある。最後に、支援 を行わずに想定した学習活動が成立しなかった場合に は、支援が必要なことに気づかなかったことになる。
これは、授業実施時点で学習者の状況を適切に評価で きていないことを意味し、授業計画時に適切な評価場 面を組み込んでおかなかったことに問題がある。
このように、授業実施時に現れる問題の原因の多く を、授業計画時の意思決定の問題として捉えることが できる。このことは、授業実施時の教師の力量の向上 とは独立に、授業をある程度改善できることを意味し
ている。
d.学習活動の結果
授業を実施した後では、学習者が実際に何を身につ けたかを検討することができる。これが想定した学習 目標と一致していれば、授業はその目的を達成したこ とになる。
学習目標を達成できなかった場合には、いくつか検 討すべき事項がある。まず、想定通りの学習活動が行 われたかどうかが問題となる。想定通りの学習活動が できていながら学習目標が達成されなかった場合には、
学習活動と学習目標との整合性に関して何らかの誤解 があったことになり、それを検討する必要がある。逆 に、学習活動が想定通りにいかなかった場合には、前 項の「c.学習活動の実態」で分析する部分、もしく は次項で述べる学習課題に問題があったことになる。
以上、授業計画時の学習活動については、
a.学習目標との整合性があるか b.学習者の実態との整合性があるか
という分析ポイントがあり、授業実施時の学習活動に ついては、
c.実際に行われたのはどんな学習活動か a. 学習者が実際に身につけたものは何か
という分析ポイントがある。
学習活動成立 学習活動不成立 支援あり 学習者理解の不足 不適切な支援 支援なし 計画通り 不適切な評価場面
表1 学習活動の実態とその原因
個別支援の対象とされていた学習者についても、同 じように考えることができる。想定された学習活動が 行われた場合、それが教師による支援の結果であれば 計画通りであり、支援が不要だった場合にはその学習 者を過小評価していたことになる。想定された学習活 動が行われなかった場合、計画していた支援を行って いたならそれは不適切な支援であったことを意味し、
支援を行っていなかったなら時間配分その他のミスと いうことになる。
学習活動成立 学習活動不成立 支援あり 計画通り 不適切な支援 支援なし 過小評価 時間不足等
表2 個別支援の実態とその原因
学習目標くトー→レ実際の学習成果…d
ト・
学習活動くト→実際の学習活動…c
乍援b
学習者の実態
図4 学習活動の分析ポイント
3)学習課題
授業の基本構造で示した授業の主要構成要素のうち、
最後に取り上げるのが学習課題である。ただし、授業 計画における学習課題の決定がかなり困難で重要な作 業であるのに対し、授業分析における学習課題の扱い はそれほど複雑ではない。それは、本稿においては、
学習課題が適切に学習活動を導いたかどうかだけを問 題にするからである。ただし、事後検討会において学
習課題の代案を検討することまで含めるならば、それ は困難な課題となる。
学習活動の分析と同様に、学習課題の分析も授業前 でもできる分析と授業後にできる分析に分けることが
できる。
a.学習課題と学習活動の整合性
学習者に学習課題を提示し、学習活動が始まったと しても、それが授業者の求める学習活動と一致すると は限らない。課題の内容、あるいは表現の仕方によっ て、学習者の取り組む活動は大きく変わってくる。そ のため、その学習課題を提示された学習者が、想定さ れた学習活動に取り組むことが期待できるかどうかを 検討しなければならない。
ここでも、学習活動の場合と同様に、授業者の意図 によるバイアスがかかりやすいので、学習者の立場か ら検討する必要がある。
b.課題意識を持たせる工夫
学習課題が学習者自身から出てきたのであれば、課 題意識を持たせるための工夫は不要である。しかし、
学習課題は教師が提示することが多く、また学習者か ら出てきた課題であっても一斉学習の場合にはそれが すべての学習者に共有される必要がある。そのため、
学習課題を学習者自身のものとするための工夫が不可 欠である。
そのために、学習者の実態と学習課題とを照らし合 わせた上で、どんな工夫がなされているかを検討する。
ここで述べた学習者の実態は、 「意見を聞く姿勢はで きているが、自分の考えを積極的に述べようとしない」
などの単なる一般的な傾向ではなく、その単元/時間 に関連した実態でなければならない。そうではければ、
学習課題を学習者に導入するための課題と工夫が理解 できないからである。
c.学習課題の受け止められ方
実際に授業を行ってみると、学習課題を明確に提示 したつもりでも、学習者が教師の意図とは異なる受け 止め方をすることがある。そうすると、予想と異なる 発言が続いたり、小集団での話し合いや作業が始まら ないなどの事態が生じて、授業計画を実現することが 困難になる。こうなると、授業者は学習課題の表現等 を変えて、学習課題を提示し直さなければならない。
事実、一授業時間の中で学習課題を何度も提示し直す 授業も、まれに見られる。
学習課題に関する混乱の直接的な原因は、学習課題 そのもの、もしくはその提示の仕方にある。しかし、
意志決定という観点から考えれば、授業計画時にこの 授業案で大丈夫だと判断したことに原因が求められる。
学習課題に関するこのような予測ミス生じるのは、学 習者の実態についての理解に問題があるからであり、
授業分析を通して学習者観の修正を行わなければなら
ない。
d.学習課題の引き起こした学習活動
学習課題がきちんと伝わっても、そこから想定した 学習活動が始まるとは限らない。既習事項や生活経験 といった学習者の実態によっては、想定とは異なる活 動が生じることもある。このような学習者の実態に対 する誤解から生じた予測ミスであれば、学習者観の修 正が必要である。また、学習者が必要な知識・経験を 有していても、導入や学習課題の提示の仕方によって、
それが活性化されないこともある。この場合には、学 習者に対する文脈作りについて再検討しなければなら
ない。
しかし、その他にも、グループのメンバー構成や、
用意した教具・資料などによっても、学習活動が意図 とは異なるものになっていくことがある。こうした場 合の原因の解明は困難であり、機械的に判断できるこ とではないが、授業や学習者を見る豊かな目が要求さ れるため、校内研修において議論するにふさわしい問 題であるとも言える。
以上、授業計画時の学習課題については、
a. 学習活動との整合性があるか
b.課題意識を持たせる工夫が書かれている という分析ポイントがあり、授業実施時の学習課題に ついては、
c. 学習者に意図通り伝わったか d. 実際に生じた学習活動は何か
という分析ポイントがある。
学習活動く一→実際の学習活動…d
ト・
学習課題く→学習者の課題…c
乍哉b
学習者の実態
図5 学習課題の分析ポイント
4)研修主題
これまで検討してきた授業の構成要素とは別に、も う一っ考慮しなければならない点がある。それは、研 修主題である。
研究授業と事後検討会は、校内研修の一環として行 われる。そのため、授業計画に研修主題が反映されて いるかどうかをチェックする必要がある。ただし、反 映される場所は研修主題によって異なるため、ここで 具体的に特定することはできない。
____一一 一一一一〕一
黶Q____一 一一一一)一^一一『
一一一一一一一一一一一一一
@ 分析可能時点
分析項目 授業前 授業後
学習目標 a.行動目標として書かれているか aD目標の達成を確認する場面があるか メD到達目標と方向目標が区別されているか пD学習指導要領との整合性があるか 学習活動 =D学習目標との整合性があるか●
aD学習者の実態との整合性があるか
c.実際に行われたのはどんな学習活動か пD学習者が実際に身につけたものは何か 学習課題 a.学習活動との整合性があるか
aD課題意識を持たせる工夫はあるか
c.学習者に意図通り伝わったか пD実際に生じた学習活動は何か 研修主題 a.研修主題が授業計画に反映されているか
表3 授業計画の分析項目と分析可能時点
4.授業計画分析シートと授業案
別紙に、授業計画時の意志決定のチェックポイント を示した授業計画分析シートを付した。授業前の分析 では、このシートを埋めながらチェックポイントを確 認していくことにより、本稿で論じた授業分析のポイ
ントをチェックすることができる。
また、研究授業のための授業案を作成する場合にも、
このチェックシートは有効である。事後検討会におい て授業計画に基づく授業分析を行うのであれば、実践 者の授業計画時の意志決定が授業案に明確に記されて いなければならない。そのために必要な項目がチェッ クシートに書かれているからである。
授業をどういうものとして捉えるかによって、この ような授業計画に基づく授業分析の方法を採用するか どうかは変わってくるだろう(村山,1999)。しかし、
授業計画が教師の意志決定の結果であり、意志決定を 支える教師の知識や経験を豊かにしていくことが授業 の改善や向上につながるのであれば、本稿で述べたも のと形は異なるものであっても、それを校内研修で扱
う意義はある。
村山功「授業をデザインする」藤岡完治・吉崎静夫編 著『シリーズ新しい授業を創る2 学ぶ力を育て る授業づくり』,ぎょうせい,1999,pp.87−97.
西之園晴夫「授業のモデルと授業の設計」中野照海編 『教育学講i座6 教育工学』,学習研究社,1979,
pp.61−85.
沼野一男「授業目標の明確化」中野照海編『教育学講 座6 教育工学』,学習研究社,1979,pp.88−99.
鈴木克明『教材設計マニュアルー独学を支援するため に』,北大路書房,2002.
吉崎静夫「授業における教師の意志決定モデルの開発」
『日本教育工学雑誌』,12(2),51−59,1988.
Wiburg, K. & Brown, S, Lesson Study
Communities: Increasing Achievement with
Diverse Students , Corwin Press, 2007.
文献
秋田喜代美・恒吉僚子・佐藤学編著『教育研究のメソ ドロジー 学校参加型マインドへのいざない』,
東京大学出版会,2005.
橋本吉彦・坪田耕三・池田敏和『今、なぜ授業研究か 一算数授業の再構1築』,東洋館出版社,2003.
平山満義編著『質的研究法による授業研究 教育学・
教育工学・心理学からのアプローチ』,北大路書 房,1997.
梶田叡一『教育評価 学びと育ちの確かめ』,放送大 学教育振興会,1995.
村川雅弘編著『授業にいかす教師がいきるワークショッ プ型研修のすすめ』,ぎょうせい,2005.
A
⊥1
,,x
回
戻
チェック3:学習課題が学習者の言葉で書かれているか
チェック5:上の学習課題から下の学習活動が生じるか チェック4:学習活動が学習者を主体として書かれているか
チェック6:上の学習活動から下の学習目標が達成できるか チェック1:授業終了時の学習者の姿が具体的に書かれているか
チェック2:学習目標の達成は以下の場面で確認でぎるか
「この単元に関する実態」が書かれているか
8
i−・−t