継続企業の前提に関する追記情報の機能
―― 格付との比較を通じた考察 ――
繁 本 知 宏
.は じ め に
日本を代表する大企業のひとつである東芝は, 年 月 日に「不適切 会計」を公表した後も,度重なる決算発表の延期や監査法人との対立が表面化 するなど,市場からの信頼は大きく揺らいでいる。また,米国原子力事業に関 連した巨額損失計上ならびに債務超過転落,さらにはメモリ事業の売却を巡る 混乱もあって,東芝の経営危機は混迷を深めているのが実情である。こうした 状況下,東芝は 年度第 四半期決算において継続企業の前提に関する注 記(以下,GC注記)を行い,監査人は当該注記に関し継続企業の前提に関す る追記情報(以下,GC追記)を四半期レビュー報告書に記載した。追記情報 とは,財務諸表の記載について強調する必要がある事項および説明を付す必要 がある事項を,監査報告書において情報として追記するものであり(『監査基 準』第四報告基準 二監査報告書の記載区分 ),GC追記はこの一種である。
学界の多数意見によると,追記情報は意見表明とは明確に区別されるものであ るから,監査本来の機能である保証機能とは別の機能,すなわち情報提供機能 を備えているとされる。しかし,GC追記は現実に情報提供機能を果たせるの だろうか。この疑問を解決することが本稿の主題である。
本稿では「不適切会計」発覚後の東芝を事例として取り上げる。そして当該 事例における監査人と格付会社のアクションを比較しつつ,その違いの原因を 検討する。ここで格付会社を採り上げるのは,監査人と業務目的は異なるもの の,財務分析の専門能力を持つ独立の専門家としての立場から企業の財務内容
を評価する点において共通点を見出せるからである。こうした比較を通じて,
GC追記が情報提供機能を果たせるか否かを考察するための手がかりを得たい と考えている。なお,誤解なきよう付言しておくと,本稿は東芝,格付会社,
監査人のアクションに対する批判,論評を企図しているのではない。あくまで 本稿の目的は,これら関係者のアクションを通じて,GC追記の情報提供機能 を考察することにある。
本稿の構成は以下の通りである。まず 節では継続企業の前提(以下,GC の前提)に関連する制度を整理する。次に 節では本稿の主題と関連する先行 研究を概観した上で,リサーチ・クエスチョンを提示する。 節では「不適切 会計」発覚後の東芝を事例として取り上げ,主な出来事と格付の動き,監査人 のアクションを時系列に沿って整理しつつ,監査人のアクションは格付会社の アクションと比べて遅かった点を指摘する。続く 節では,この遅さの原因を 検討するための基礎として,継続企業の前提に関する監査(以下,GC監査)・
GC追記と格付の異同を整理する。そして 節では前節の整理を踏まえて監査 人のアクションが遅くなる原因を検討した上で,GC追記が現実に果たす機能 を考察し, 節で本稿を締め括る。
.継続企業の前提に関する制度の整理⑴
GCの前提とは,企業が倒産することなく将来にわたって事業を継続すると いう前提である(桜井[ ])。GCの前提に重要な疑義を生じさせる事象ま たは状況が存在する場合,有価証券報告書の「第一部 企業情報 第 事業の 状況 事業等のリスク」においてその旨ならびに具体的な内容を記載する とともに,「第一部 企業情報 第 事業の状況 財政状態,経営成績及び キャッシュ・フローの状況の分析」において当該重要事象等についての分析・
検討内容およびそれを解消しまたは改善するための対応策を具体的に記載しな
( ) 本節では年度決算を前提に説明する。四半期決算においても企業自身によるGCの前 提に関する検討・開示と,それについての監査人による検討が求められるが,年度決算 ほど厳密な対応は求められない。
ければならない(以下,GC開示)。その上で,当該対応策を講じてもGCの前 提に関する重要な不確実性が認められる場合は,財務諸表にGC注記を付すこ とが要求される⑵。このように現行の有価証券報告書では,非財務情報として GCの前提に疑義を生じさせる事象等とその対応策を記載した上で,それでも 重要な不確実性が認められる場合は財務諸表に注記が求められる⑶。また,有価 証券報告書の提出に先行して発表される決算短信の添付資料においても⑷,一定 事項が開示される⑸。
こうした企業自身による開示を踏まえた上で,監査人は二重責任の原則の 下,GC監査を行う。監査人の監査判断の類型は次のとおりである。GCの前 提の下での財務諸表の作成が適切であり,かつGC注記が適切であれば無限定 適正意見を表明した上で,GCの前提に関し監査報告書にGC追記を記載する。
GC追記の内容は基本的にGC注記の反復記載であり,GC注記の内容を超え た情報は記載されない。GC注記が適切でない場合は,その程度に応じて限定 付適正意見あるいは不適正意見を表明する。GCの前提に重要な疑義を生じさ せる事象または状況に関して経営者が評価および対応策を示さない時は,状況 に応じて限定付適正意見あるいは意見不表明となる可能性がある。そしてGC の前提の下での財務諸表作成が適切ではない場合は,不適正意見を表明する。
( ) 財務諸表等規則第 条の が求めるGC注記の記載事項は,①GCの前提に重要な疑 義を生じさせるような事象または状況が存在する旨およびその内容,②当該事象または 状況を解消し,または改善するための対応策,③重要な不確実性が認められる旨および その理由,④重要な不確実性の影響を財務諸表に反映させているか否かの別,の 項目 である。
( ) 八田・町田[ ]が指摘するように, 年の監査基準改訂前は,GCの前提に重 要な疑義を生じさせる事象または状況が存在する場合,実務では機械的にすべてをGC 注記,GC追記の対象とする保守的な対応がみられていた。そうした対応を修正するた めに 年の監査基準改訂では「重要な不確実性」の概念を導入し,二段構えで開示 を求めるようになった。
( ) 四半期決算の場合,四半期決算短信発表と四半期報告書提出が同日のケースも少なく ない。
( ) 年 月期から決算短信および添付資料の簡素化が図られた。これに伴い,GCの 前提に関する開示も影響を受ける可能性がある点に注意が必要であろう。
.先 行 研 究
GC監査ならびにGC追記については多くの先行研究の蓄積がある。以下で はGC監査ならびにGC追記の機能に関する研究と,GC追記(あるいはGC に関する特記事項⑹)の情報価値に関する研究を概観する。
⑴ GC 監査・GC 追記の機能
財務諸表の信頼性の保証という財務諸表監査の枠組みの下では,GC監査の 位置付けは座りの悪い問題である(鳥羽[ ])。このため,わが国における 規範的研究の領域では,GC監査・GC追記の機能について,保証機能の枠組 みの中で捉えるのか,それとも保証機能とは別の機能を認めるのか,という議 論が盛んになされてきた。保証機能とは,財務諸表の信頼性の保証という監査 の伝統的な機能を意味する。GC監査・GC追記を保証機能の枠組みの中で捉 える文献としては友杉[ ]が挙げられる。友杉[ ]は,GC監査は監 査人が二重責任の原則の下において,経営者がGCを前提として財務諸表を作 成することの適否を合理的期間内において判断し,GCの前提に重要な疑義を もたらす事象または状況の存否の妥当性,表示の適切性などを判断し,監査意 見を表明するものと述べる。そしてGC追記は,監査本来の機能を補足するた めの説明機能を付加するものと考え,従来の会計監査の概念の枠内で把握可能 であると位置付けている。
これに対し,保証機能とは別の機能としての情報提供機能を認める研究があ り,こちらの方が学界の多数意見のように思われる。もっとも,情報提供機能 の意味合いは,論者によって強弱がみられる。井上[ ]は,監査報告書は 財務諸表利用者の意思決定に役立つ目的適合的な情報を提供すべきとの論陣を 張りつつ,追記情報の記載は保証機能の枠組みの外側における情報提供機能の
( ) 監査報告書に追記情報が導入された 年の監査基準改訂以前は,それと同時に廃 止された特記事項において,監査人がGCの前提に関する問題に言及する実務がみられ ていた。詳しくは林[ ]第 章を参照されたい。
発露であると指摘し,追記情報について積極的に価値を見出そうとしている。
さらに松本[ ]は,追記情報に限らず追加的な監査情報の提供は情報の非 対称性の緩和を通じて投資家の意思決定を支援する機能があると述べ,この機 能は財務諸表の信頼性の保証とともに監査の直接的な機能であると論じてい る。
他方,鳥羽[ ]は,わが国では監査人による情報提供機能,すなわち監 査報告書において保証の枠組みから離れた事項を別個に記載する監査機能を強 調する独特の議論があると指摘する。その上で,GC追記は保証情報ではなく 一種の警報メッセージと位置付け,監査人による情報提供機能の発現と捉え る。もっとも,鳥羽[ ]は二重責任の原則を強く意識し,情報提供機能と いっても極めて限定された意味での情報提供であると断っている点から考える と,井上[ ]や松本[ ]のように追記情報の情報提供機能を積極的に 評価している訳ではない。
⑵ GC 追記・GC 注記の情報価値
こうした規範的研究の領域における議論に対し,実証研究の領域ではGC追 記あるいはGC注記の情報価値が議論の焦点とされてきた。これまでの先行研 究の結論としては,情報価値が有るとするものと,無いとするものに分かれて おり,決着はついていない。
まず,情報価値が有ると結論付けた研究として浦山[ ]がある。浦山
[ ]は決算短信におけるGC注記の情報価値を検証した研究である。具体 的には, 年 月期から 年 月期の間に発表された決算短信におい てGC注記が付された 社について短信発表日の株価変化をみたところ,
GC注記が株価にマイナスの影響を及ぼしていることを発見した。加えて,市 場が事前にGC注記が付されることを予想していた場合にはほとんど影響がみ られず,市場が事前に予想していなかった場合には大きなマイナス反応が観察 されたと述べている。
他方,GC注記やGC追記に情報価値は無いと結論付けた研究として,高田
[ ],高田・井上・及川[ ],及川[ ]がある。高田[ ]と高 田・井上・及川[ ]はGC追記あるいはGCに関する特記事項の情報価値 を検証した研究である。高田[ ]はGC監査導入前である 年 月期 から 年 月期にGCに関する特記事項が記載された 社をサンプルと し,高田・井上・及川[ ]は 年 月期に追記情報が記載された 社 をサンプルとして,それらの記載が公に知れ渡る有価証券報告書提出日の前後 の株価変化率に有意差が認められるかどうかを検証した。その結果,両研究と もに,有意差があるとする証拠を見出せなかった。他方,及川[ ]はGC 注記とGC追記それぞれの情報価値を検証した。具体的には, 年 月期 から 年 月期の間に決算短信でGC注記が付され,かつ監査報告書にGC 追記が記載された 社をサンプルとして,決算短信発表日および監査報告書 公表日の前後における株価変化率と出来高変化率に有意差が認められるかどう かを検証した。その結果,いずれについても有意差があるとする証拠は見出せ なかった。
これらに対し及川・大橋[ ]は, 年 月期から 年 月期に初 めて監査報告書にGC追記が付された 社をサンプル企業群として,超過リ ターンをコントロール企業群と比較した。その結果,GC注記,GC追記のい ずれについても,AltmanのZスコアが . 以下の財務困窮企業では情報価値 がない半面,非財務困窮企業ではGC注記やGC追記が予想外の新情報として 情報価値を有する可能性が示唆されたと述べている。
⑶ リサーチ・クエスチョンの提示
ところで,高田[ ],高田・井上・及川[ ],及川[ ]はいずれ も,GC注記,GC追記,あるいはGCに関する特記事項が情報価値を有しな い理由のひとつとして,投資家はこれらの情報の公表前に,利用可能な会計情 報を用いて企業の財務悪化を知り得ることを挙げている。この指摘は傾聴に値 すると同時に,投資家が利用する情報は会計情報に限らない点にも留意すべき であろう。投資家が会計情報以外の情報(例えば適時開示情報や格付,アナリ
スト・レポート)も利用して日常的に企業の財務状況を把握しているとすれ ば,四半期決算を含めても年 回しか公表されない会計情報は,投資家にとっ て想定外の数字が出ない限り,新たな判断材料としての魅力に欠けるかもしれ ない。ましてや,未監査とはいえ決算短信においてGC注記を含む会計情報が 開示された後,しばらく間をおいてからGC追記が公表されても,もはや投資 家の意思決定の材料となることは難しいだろう。以下ではこうした点を念頭に 置きつつ,GC追記は果たして情報価値を有するのか,換言すれば投資家の意 思決定に影響を与えるという意味での情報提供機能をGC追記は有しているの かという点について,事例を用いながら若干の考察を試みる。
.事 例 分 析
本節では, 年 月に「不適切会計」を公表し,目下経営再建の行方が 社会的にも大きな注目を集めている東芝を事例として取り上げる⑺。次に掲げた 図表では,「不適切会計」の公表から,本稿を脱稿した 年 月 日まで の間の出来事,株価,格付会社のアクション⑻,監査人のアクションを整理し た。ここで格付会社を採り上げるのは,格付会社は格付対象企業と契約関係に あり⑼,財務分析の専門能力を持つ独立の専門家としての立場から企業の財務内 容を評価する点において,監査人によるGCの前提に関する評価と共通点を見 出せるからである。こうした共通点を有する両者の比較を通じて,GCの前提 に関する監査人のアクションの特徴を浮き彫りにしたい。
図表には決算発表関連の出来事(短信発表.有価証券報告書・四半期報告書 提出)のほか,東芝の業績や市場評価に大きな影響を与えるような出来事を時 系列で整理した上で,各出来事の発生日の前日から翌日にかけての株価変化を
( ) 東芝の「不適切会計」を巡っては様々な論点を見出せるが,本稿では考察の対象をGC 追記に絞る。
( ) 東芝は格付投資情報センター(R&I),Moody’s,Standard & Poor’s(S&P)の 社から 格付を取得しているが,本稿では,過去の格付アクションをホームページにおいて遡及 検索できるR&IとMoody’sを調査対象とした。
( ) 非依頼格付は除く。なお,東芝の格付はR&I,Moody’s,S&Pともに依頼格付である。
年月日 主な出来事※ 株価※ 格付会社のアクション※ 監査人のアクション※
. . 「不適切会計」を公表 →
. . 第三者委員会設置 FY 決算発表の延期発 表,業績予想の取消
→
. . → R:不適切会計の影響を注
視するコメント発表
. . → M:不適切会計の発表につ
いてのコメント発表
. . 第三者委員会報告書(要約 版)発表
→
. . 第三者委員会報告書(全文)
発表
→ R:格下げ方向でモニター 指定
. . 関係会社(コネ社)株式売 却を発表
→ M:第三者委員会報告書を 受けたコメント発表
. . 関係会社(トプコン社)株 式売却を発表
→
. . FY 決算短信発表
(▲ 億円の赤字)
FY 有報提出
過年度の訂正報告書提出
→ R:決算発表を受けたコメ ント発表
追記情報とし て 後 発 事 象
(関係会社 社の株式売却)
を監査報告書に記載
. . → M:Baa 維 持(見 通 し:
安定的)
. . FY Q決算短信発表
(▲ 億円の赤字)
FY Q報告書提出
→ 追記情報とし て 後 発 事 象
(関係会社 社の株式売却)
を監査報告書に記載
. . → R:A−→BBB+(方向性:
ネガティブ)
. . FY Q決算短信発表
( 億円の黒字)
→
. . → M:Baa→Baa(見通し:
ネガティブ)
. . FY Q報告書提出 →
. . FY 通期業績予想発表
(▲ , 億円の赤字予想)
→
. . FY からの監査人異動 発表(新日本→後任未定)
→ R:BBB+→BBB(格下げ 方向でモニター指定)
M:Baa→Ba(格 下 げ 方 向で見直し対象に)
. . 子会社ウェスチングハウス がCB&Iス ト ー ン・ア ン ド・ウ ェ ブ ス タ ー を 買 収
(発表は . . )
→
. . 後 任 監 査 人 の 内 定(PwC あらた)発表
→
図表 東芝「不適切会計」発覚から足もとまでの主な出来事等
年月日 主な出来事※ 株価※ 格付会社のアクション※ 監査人のアクション※
. . FY Q決算短信発表
(▲ , 億円の赤字)
→ R:BBB→BBB−(格下げ 方向でモニター継続)
. . → M:Ba→B(格下げ方向
の見直し対象継続)
. . FY Q報告書提出 →
. . → M:B→B(見 通 し:ネ
ガティブ)(格下げ方向の 見直し解除)
. . FY 決算短信発表
(▲ , 億 円 の 赤 字→
. . に▲ , 億円 の赤字に訂正)
→
. . → R:BBB−維持(方向性:
ネガティブ)(モニター解 除)
. . 減資,監査人異動の株主総 会付議を発表
→
. . FY 有報提出 減資,監査人異動を株主総 会で承認
→ 追記情報とし て 後 発 事 象
(減資等)を監査報告書に 記載
. . FY Q決算短信発表
( 億円の黒字)
FY Q報告書提出
→ 追記情報とし て 後 発 事 象
(減資等)を監査報告書に 記載
. . FY Q決算短信発表
( , 億円の黒字)
FY Q報告書提出
→ 追記情報として監査人異動
に関する説明を記載
. . CB&Iストーン・アンド・
ウェブスター買収に関し数 千億円規模の減損計上の可 能性を発表
→
. . → R:BBB−→BB(格下げ方
向でモニター指定)
M:B→Caa(格下げ方向 で見直し対象に)
. . メモリ事業の分社化方針決 定を発表
→
. . FY Q決算発表延期 →
. . → R:BB→B(格下げ方向で
モニター継続)
. . FY Q決算発表再延期 →
. . → M:Caa 維 持(見 通 し:
ネガティブ)(格下げ方向 の見直し解除)
. . 子会社ウェスチングハウス が米国連邦倒産法第 章 に基づく再生手続を申立
→
. . メモリ事業分社化を臨時株 主総会で承認
→ R:B維持(格下げ方向で モニター継続)
年月日 主な出来事※ 株価※ 格付会社のアクション※ 監査人のアクション※
. . FY Q決算短 信 発 表
(▲ , 億円の赤字)
FY Q報告書提出 記者会見で監査人変更を示 唆
→ ①CB&Iス ト ー ン・ア ン
ド・ウェブスター買収に関 する評価手続等が未了であ ることを理由として結論不 表明
②GCの前提に関する重要 な不確実性が認められると してGC追記を記載
③追記情報として後発事象
(メモリ事業分社化,子会社 ウェスチングハウスの米国 連邦倒産法第 章に基づ く再生手続の申立)を記載
④追記情報として監査人異 動に関する説明を記載
. . FY 通期業績見通しを 発表(▲ , 億円の赤字 見通し)
→
. . FY 有報提出期限延長 発表
FY 通期業績見通しを 更新(▲ , 億円の赤字 見通し)
東証 部への指定替え決定
( . . 指定替え)
→
. . 定時株主総会開催(FY 決算報告は後日開催の臨時 株主総会で行う予定)
→
※ 決算数値は連結ベースの株主に帰属する当期純利益(累計ベースの四半期純利益)を記載している。
※ 前日終値→翌日終値を記載している。
※ R : R&I,M : Moody’s。R&Iの格付は発行体格付を記載した。Moody’sについては 年 月 日に発
行体格付が取り下げられ,それ以降はコーポレート・ファミリー・レーティング(一般に投機的等級の発 行体に用いられる格付)が付与されているため,同日の前後において記載した格付に違いがある。なお,
両格付会社の格付符号(R&I),格付記号(Moody’s)の定義は下に掲げた附表を参照されたい。
※ 監査人は 年 月期までは新日本有限責任監査法人, 年 月期以降はPwCあらた有限責任監査法 人である。
(出所)東芝,R&I,Moody’sの各ホームページおよびYahooファイナンスからデータを入手 し筆者作成
附表 格付符号・格付記号の定義
① R&I
格付符号 定 義
AAA 信用力は最も高く,多くの優れた要素がある。
AA 信用力は極めて高く,優れた要素がある。
A 信用力は高く,部分的に優れた要素がある。
BBB 信用力は十分であるが,将来環境が大きく変化する場合,注意すべき要素がある。
BB 信用力は当面問題ないが,将来環境が変化する場合,十分注意すべき要素がある。
併記した⑽。株価は市場全体の動きなど個別銘柄固有の材料以外の影響も受ける ため幅をもってみる必要はあるが,ネガティブな出来事に対して株価は速やか に反応している。特に, 年 月 日の 年度決算発表延期, 年 月 日の 年度通期業績予想発表, 年 月 日の数千億円規模 の減損計上の可能性発表, 年 月 日の 年度第 四半期決算発表 延期といったネガティブな出来事の前後では株価が大幅に下落している。もっ とも,決算発表に対する株価の反応は鈍いようにみえる。例えば大幅赤字がア ナウンスされた 年度第 四半期決算発表( 年 月 日)や 年 度第 四半期決算発表( 年 月 日)をみると,株価は下がったものの,
B 信用力に問題があり,絶えず注意すべき要素がある。
CCC 信用力に重大な問題があり,金融債務が不履行に陥る懸念が強い。
CC 発行体のすべての金融債務が不履行に陥る懸念が強い。
D 発行体のすべての金融債務が不履行に陥っているとR&Iが判断する格付。
② Moodyʼs
格付記号 定 義
Aaa 信用力が最も高いと判断され,信用リスクが最低水準にある債務に対する格付。
Aa 信用力が高いと判断され,信用リスクが極めて低い債務に対する格付。
A 中級の上位と判断され,信用リスクが低い債務に対する格付。
Baa 中級と判断され,信用リスクが中程度であるがゆえ,一定の投機的な要素を含 みうる債務に対する格付。
Ba 投機的と判断され,相当の信用リスクがある債務に対する格付。
B 投機的とみなされ,信用リスクが高いと判断される債務に対する格付。
Caa 投機的で安全性が低いとみなされ,信用リスクが極めて高い債務に対する格付。
Ca 非常に投機的であり,デフォルトに陥っているか,あるいはそれに近い状態に あるが,一定の元利の回収が見込める債務に対する格付。
C 最も格付が低く,通常,デフォルトに陥っており,元利の回収の見込みも極め て薄い債務に対する格付。
(出所)R&I,Moody’sの各ホームページ
( ) イベント公表の時刻次第で当該イベントが公表当日の終値に反映されるか否かが左右 されるため,前日終値→翌日終値の株価変化を図表中に記載した。
下落幅は然程大きくない。
次に,格付会社のアクションをみると,総じてみれば格付投資情報センター
(R&I),Moody’sともに,ネガティブな出来事の発表後に速やかに動いている 様子が窺える。ここで格付とは,債券の発行体の債務返済能力や,個別債券の 約定通りの履行の確実性ならびに債務不履行時の損失の可能性を格付会社が評 価し,一定の符号を用いて表したものである⑾。東芝の格付は,「不適切会計」発 覚直前ではR&IでA−,Moody’sでBaa であったが,足もとではそれぞれB,
Caa まで下がっている。この間,R&IとMoody’sを合わせて延べ 回の格下 げが行われており,格下幅は ノッチが 回, ノッチが 回, ノッチが 回と,小刻みな格下げが多かったことが分かる。また格下げだけでなく,格下 げ方向での見直し作業入りやその解除,格付けの先行き見通しの提示も頻繁に 行われている。さらにこうしたアクションを行う際はその理由も公表している。
このように,格付会社は東芝の債務返済能力に関する情報を,早い時期から小 刻みかつ断続的に提供してきた。
他方,監査人のアクションについて,監査報告書および四半期レビュー報告 書における追記情報の記載を確認すると, 年度第 四半期までに重要な 後発事象に関する追記情報が何度か記載された後, 年度第 四半期では 監査人異動に関する説明が記載されている。もっとも,いずれの追記情報も監 査報告書公表日以前に実施・公表済みの事実に関する情報に過ぎず,監査意 見・レビュー結論も無限定適正・無限定結論である。ところが, 年度第 四半期の四半期レビュー報告書では,監査人は重要なレビュー手続の未了を 理由として結論を不表明とした上で,重要な後発事象に関する追記情報に加え てGC追記も記載した。すなわち,監査人は東芝のGCの前提に関する異変に 対し, 年度第 四半期までは特段のアクションを起こさず, 年度第 四半期の大幅赤字を受けてはじめて,GCの前提に関する重要な不確実性の 存在について警報を鳴らす結果となったのである。
( ) R&Iの格付符号とMoody’sの格付記号の定義については,図表の附表を参照された
い。
では,格付会社と監査人との間で,アクションのタイミングや頻度にこのよ うな相違が生じた原因は何なのか。また,そうした相違を踏まえて考えた場 合,監査人による情報提供とされるGC追記は現実にどのような機能を果たせ るといえるのか。これらを考察するに当たり,次節ではGC監査・GC追記と 格付の異同を整理する。
.
GC
監査・GC
追記と格付の異同⑴ 両者の共通点
まず,監査と格付の共通点をみてみると,両者ともに,市場のゲートキーパ ーとしての役割が期待される主体,すなわち監査人,格付会社による判断,評 価である点が挙げられる。監査人と格付会社はいずれも,企業の財務情報につ いて独立した専門家としての立場から判断,評価を加えた上で,投資家に情報 を伝達することが期待される。そして判断,評価の結果は監査報告書や格付リ リース等を通じて投資家一般に提供される。また,監査人,格付会社ともにそ の役割の重要性に鑑み,法令による規制が課せられている。同時に,監査は会 社法や金融商品取引法,格付は自己資本比率規制(銀行法)といった法制度に 取り込まれ,大きな社会的影響力を有している。
次に,GC監査・GC追記と格付の共通点を考える。GC監査・GC追記は企 業の存続能力について,監査人が独立した専門家としての立場から,企業の実 態面まで踏み込んで評価を行うものである。すなわち,企業そのものの現状や 将来の展望についての検討・評価を行い,その前提となる経営者の思考や将来 の予測について意見を表明するのである(長吉[ ])。企業の将来見通しに ついて,企業の実態面に踏み込んで専門的な見地から評価を行う点は格付も同 じである。また,GC追記の記載や低格付の付与は,企業の実態に精通した専 門家が財務悪化に関する警告メッセージを発することを意味する。そしてその 影響としては,資金調達コストの上昇や営業面でのマイナス作用等を生むだけ でなく,場合によっては予言の自己成就のごとく破綻の引き金になりかねない ほど深刻になる可能性もある。
⑵ 両者の相違点
以上のようにGC監査・GC追記と格付の間にはいくつかの共通点が見出せ る。しかし,GC監査・GC追記は財務諸表の適正性を保証する財務諸表監査 の中で行われるものである一方,格付は企業の債務返済能力を簡易な符号で示 すものであり,その行為目的は全く異なる。さらに,両者の間には,主として 制度面の制約の違いに起因する様々な相違が観察できる。
まず,評価の対象となる企業をみると,GC監査・GC追記は金融商品取引 法や会社法に基づく監査を受ける企業すべてが関係するのに対し,格付は公募 債発行企業が中心であって監査対象企業と比べると少数である⑿。次に情報利用 者については,GC監査・GC追記は株式・債券投資家のみならず財務諸表利 用者一般であるのに対し,格付は社債投資家が中心であり,GC監査・GC追 記の方が格付よりも広範囲である。また,評価すべき企業の能力についても,
GC監査・GC追記が企業の存続能力であるのに対し,格付は企業の債務返済 能力である。債務返済が滞れば企業存続が危険状態に陥るのは確かであるが,
企業存続は債務返済能力だけに左右される訳ではないため,GC監査・GC追 記の方が格付よりも評価すべき領域が広いといえる。以上から,評価の対象と なる企業,情報利用者,評価すべき企業の能力のいずれについても,GC監 査・GC追記の方が格付より守備範囲が広いことが分かる。
次に,ややテクニカルな相違をみてみると,GC監査が評価の対象とする期 間は 年であるのに対し,格付は一般に 〜 年と長い。このため格付は目前
( ) 例えば, 年度まで東芝の監査人であった新日本有限責任監査法人のホームページ
(https://www.shinnihon.or.jp/about-us/our-profile/)をみると,同法人が監査を担当している 会社数は 年 月 日現在,金商法・会社法監査 社,金商法 社,会社法 , 社である。有限責任あずさ監査法人,有限責任監査法人トーマツの監査担当社数もそれ ぞれ , 社を超えているため,これら 法人だけ , 社以上を監査している計算と なる。これに対し,R&Iの 年 月 日現在の日本企業の格付一覧(https://www.r-i.
co.jp/jpn/cfp/data/lists/previous_month/topics_data_lists_japanese-corporate- .pdf)をみると,
の発行体(地方公共団体や学校法人なども含む日本企業)に格付を付与している。
Moody’sとS&Pの格付社数(事業法人と金融機関)はいずれも 〜 社程度である
が, つの格付会社の格付先は重複が多いため, 社分を単純に合算しても格付対象社 数は分からない。
に迫ったリスクだけでなく,中長期的に顕現化が見込まれるリスクも評価に織 り込む。また,評価に関する情報提供の頻度や内容においても重要な差異があ る。すなわち,GC監査・GC追記は四半期レビューを含めて年 回に限られ る上,GC追記の内容は基本的にGC注記の反復記載であり,GC注記を超え た情報は記載されない。他方,格付は随時見直しが可能であるし,格付理由や 臨時コメントの内容は格付会社の責任において自由に決定できる。評価結果の 示し方についても,監査意見・レビュー結論は 節で述べたようにパターンが 少数に限定されている。これに対し格付は相当に細かく債務返済能力が示され る。例えばR&Iの場合,発行体格付は最高位のAAAから最低位のDまで 段階に分かれている上,AAからCCCは ノッチに細分化されるため,格付 は 段階に分けて示される。加えて,格付の方向性や,レーティング・モニ ター(臨時の格付見直し)指定による格付変更の可能性に関する情報も公表さ れるため,情報利用者は多くの情報を得ることができる。このように,格付は 非常に柔軟なアクションが可能であるのに対し,GC監査・GC追記はアク ションに制約がかけられている。
さらに,格付は複数の格付会社から別個に取得することが可能であるのに対 し,監査意見(監査報告書)は つしか得られない点も見過ごせない相違点で ある⒀。
.若干の考察
節でみた東芝の「不適切会計」に関する監査人と格付会社のアクションの 違い,および 節で整理したGC監査・GC追記と格付の異同の整理を踏まえ,
本節ではまず,東芝の事例において監査人と格付会社のアクションのタイミン グや頻度に相違が生じた原因を検討する。その上で,後追い情報とならざるを 得ないGC追記が現実に果たす機能について若干の考察を加える。
( ) 共同監査であっても監査意見は つである。
⑴ アクションに相違が生じた原因
節で指摘した通り,格付会社は東芝の債務返済能力の低下について,「不 適切会計」の発覚直後から小刻みかつ断続的にアクションを起こしてきた。こ れに対し監査人は東芝のGCの前提に関する異変に対し, 年度第 四半 期の大幅赤字計上を受けてはじめて,GCの前提に関する重要な不確実性の存 在について警報を鳴らした。
こうした相違の最も大きな原因となり得るのは制度的な要因であろう。ま ず,情報提供が可能な頻度として,GC追記は四半期ごとの年 回に限られる のに対し,格付は随時可能である。また,評価結果の示し方についても,GC 監査では利用可能なパターンが少数に限定されるのに対し,格付は相当に細か く債務返済能力を示すことができる。
ここで,これらの点を考慮に入れつつ,格付会社と監査人のアクションを細 かく比較してみる。R&Iの平均格付推移行列をみると, 年後のデフォルト率 はBB−から急激に高くなっている⒁。Moody’sの平均年間格付遷移率ではCaa−
Cの区分において急激な高まりが観察される⒂。これらを踏まえると,R&Iによ
るBB−への格下げ,あるいはMoody’sによるCaaへの格下げ後の最も早い決
算に関する監査報告書あるいは四半期決算に関する四半期レビュー報告書にお いてGC追記が記載されていれば,情報提供頻度に関する制約が,GC追記が 格付の後追いとなった一因として指摘できるだろう。この点について 節の図 表を参照して確認すると,R&Iは 年 月 日にBBからBへ格下げして おり,Moody’sは 年 月 日にB からCaa へ格下げしている。これ に対し監査人がGC追記を記載したのは,これらの格下げ後の最も早い決算発
( ) R&I[ ] 頁に示される「平均格付推移行列( コホート〜 コホート)」
をみると, 年後のデフォルトへの推移率はBB+が .%,BBが .%であるのに対 し,BB−は .%,B+は .%となっており,BBとBB−の間に大きな段差がみら れる。
( ) Moody’s[ ] 頁に示される日本の「平均年間格付遷移率 − 年」をみる
と,デフォルトへの遷移率はBaが . %,Bが . %であるのに対し,Caa−Cでは
. %となっている。なお,Moody’sの資料ではノッチ別の数値は示されていないほか,
Caa以下のゾーンはCaa−Cと一括して数値が示されている。
表である 年度第 四半期決算( 年 月 日発表)に関する四半期 レビュー報告書であった。したがって,GC追記が格付の後追いとなったの は,情報提供頻度に関する制約が一因となったと考えられる。
また,それ以前に監査人が特段のアクションを起こさなかったのは,監査は 評価結果の示し方が限定されているため,GCの前提に関する不確実性が一定 水準に達するまでは,監査人としては沈黙を守る以外に方法がなかったことが 原因だといえよう。加えて,監査人には二重責任の原則の縛りがあるため,監 査人がGCの前提に関する情報のファースト・プロバイダーとなることもでき ない。
さらに,情報提供頻度や評価結果の示し方といった制度的な要因とは別に,
格付とGC監査・GC追記がそれぞれ評価すべき企業の能力の違いも,両者の アクションに差をもたらす一因となる可能性がある。すなわち,格付が評価す る能力は債務履行能力,換言すれば債務不履行(デフォルト)の可能性である。
債務不履行には法的破綻だけでなく,金融債務の支払不履行や債権者にとって 著しく不利益となる条件変更の要請・実施も含まれる。これに対し,GC監査 が評価する能力は企業の存続能力であり,清算や事業停止に追い込まれる可能 性である。企業の破綻のプロセスとしては一般に,まずは債務返済条件の変更 などの金融支援や事業リストラが行われる。その後,法的破綻処理すなわち更 生手続あるいは再生手続へと移行し,それでも事業継続が不可能となれば事業 停止,清算へと向かうことを考えれば,GC追記の記載が格付アクション(格 下げ)に遅行するのは自然な順序ともいえる。
⑵ GC 追記が現実に果たす機能
以上の検討を踏まえると,GC追記の記載が格付アクションの後追いになる ことはやむを得ないと考えられる。そうであれば,GC追記は内容面でもGC 注記の反復記載に止まることも加わって,投資家にとって新鮮味のある情報と はいえなくなることから,情報価値を有するとは考え難い。監査人がGC追記 を記載すること自体に意味があるとの反論もあり得るが,全くの情報不足など
によって投資家が企業の財務状況の実態を判断し得ない状況でもない限り,あ まり説得力を持たないだろう。東芝のように様々な形で市場に情報が供給され ていれば,投資家はGC追記が記載されてもおかしくない状況にあることを事 前に理解しているため,GC追記の記載に対し投資家は特段の反応を示す必要 がない。
また,財務諸表利用者ひいては監査報告書の読者は,株式投資家だけでなく 社債投資家も含む。社債投資家の第一の関心事は元利払いが約定通りに行われ るか否かであり,清算や事業停止の可能性を念頭に置くGC追記を基に意思決 定を行っていては手遅れである。つまり,社債投資家にとってのGC追記の情 報価値は,株式投資家以上に希薄に感じられる。
このように考えれば,GC追記は,投資家の意思決定に影響を与えるという 意味での情報提供機能を現実には果たすことはできないと結論付けられる。監 査報告書において保証情報以外の情報を記載することを追記情報の情報提供機 能と考えるならば,GC追記は情報提供機能を果たすといえるかもしれない が,この場合の情報提供は形式的な意味合いに止まり,投資家にとって実質的 な意味はない。むしろ,GC追記は,形式的には保証の枠組みから外れた情報 ではあるものの,実質的には友杉[ ]がいうように監査本来の機能を補足 するための説明機能を付加するものであると整理する方が,現実に観察される 事象をうまく説明できると考えられる。
.お わ り に
本稿では,「不適切会計」公表以降の東芝を事例として取り上げ,格付との 比較を行いつつ,GC追記が現実に果たす機能について考察した。結論として は,GC追記はGC注記や格付の後追い情報とならざるを得ない事情もあっ て,投資家の意思決定に影響を与えるという意味での情報提供機能は果たせ ず,むしろ監査本来の機能を補足するための説明機能を付加するものであると 整理する方が現実をうまく説明できる,というものであった。
もっとも,本稿には多くの限界があるため,本稿の結論を一般化することに
は慎重でなければならない。まず,本稿は単一事例を用いた考察であるため,
結論が他の事例にもそのまま当てはまるとは限らない。また,本稿が採り上げ た東芝は つの格付会社から格付を取得しているほか,多くの株式アナリスト が調査対象としている上⒃,マスコミも関心を寄せる企業であるため,投資家が 得られる情報は質,量ともに充実している。このため,東芝については,GC 追記が新鮮味に欠ける情報となる可能性は一層高くなる。しかし,市場やマス コミの注目度が低い企業でも,東芝同様にGC追記に情報価値がないといえる かどうかは未知数である。情報不足などによって投資家が企業の財務状況の実 態を判断し得ない状況においてGC追記が付された場合も同様である。
さらに,本稿の考察はGC追記に止まるものであり,監査報告書における GC追記以外の情報提供機能については考察の射程外である。現在,監査報告 書の長文化すなわち監査報告書における監査上の主要な事項(KAM)の記載 に関する検討が進んでいる。KAMの具体像は現時点では固まっていないもの の,本稿の結論が示唆するように,投資家にとって既知の情報を後追いで反復 記載するだけでは情報提供機能は期待できない。しかし,監査人による情報の 独自提供は,二重責任の原則との関係を慎重に検討しなければならない。これ らに関する研究は今後の課題としたい。
参 考 文 献
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