NIMBY問題と市民委員会型政策形成︵都法五十七‑一︶ 二三五 金 今 善
NIMBY 問題と市民委員会型政策形成
││東京都狛江市の事例からみた機能と陥穽││
一 問題の所在
本稿で取り扱う一般廃棄物処理施設は︑一般に施設そのものの社会的必要性は認めつつも︑立地点の住民にとっ
ては不都合である︑典型的な迷惑施設である︒そのため︑その立地に際しては︑通常︑立地地域住民のNIMBY
︵Not-In-My-Backyard ウチの裏にはダメ!︶的態度が付きまとうことが多く︑その対応をめぐっては︑特に行政 を巻き込んだ形で紛争が生じる場合が多い ︵
︵籠 二〇〇九︶︒ 2︶
こうしたNIMBY問題に対する政策的対応では︑主として官僚や政治家等の政治エリートが専門家の高度な専
門的知見に基づき︑一方的に立地を決めて︑立地地域住民に受け入れさせるという傾向が強かった︒しかし︑この
ようなテクノクラートの主導する意思決定メカニズムが︑﹁専門家や政府︑利害関係者のみにより支配されており︑
声なき多数派である一般市民の声が反映されていない﹂︵鈴木ほか 二〇〇七一四頁︶との批判や反省から︑近 ︵
1︶
二三六
年︑迷惑施設の建設に際しては︑従来の有識者・関係者のみによる審議会に加えて︑一般住民を含む多様な社会的
主体︵アクター︶の参加・関与により﹁開かれた﹂﹁参加型﹂の政策形成の場︵以下︑﹁市民委員会﹂︶が設定され
ることが多く︑そこでは単に行政が知っている住民を若干数参加させるものではなく︑一定の人数が公募等の開か
れた形で広く参加するものとなっている︒
ところが︑NIMBY問題の解決手法の一つとして︑近年︑その導入が拡大されつつある市民委員会型政策形成
には︑以下のような問題が横たわっている︒
第一に︑﹁市民委員会﹂という新たな意思決定の仕組みが︑﹁総論賛成・各論反対﹂といった社会的ジレンマの一
種でもあるNIMBYを︑果たして乗り越えることができるかどうか︑という問題である︒
迷惑施設建設事業では︑利益を受ける者や圏域︵受益圏︶は広く存在する一方で︑不利益を受ける者や圏域︵受
苦圏︶は一部の地域だけに濃く狭く存在するという﹁受益圏と受苦圏のアンバランスな関係﹂︵益田 二〇一三
五六︶がどうしても生じてしまう︒それゆえに︑受益圏の大多数の住民は加害者であることを忘れて完全に傍観者
になってしまい︑折衝に当たる職員と周辺の反対住民だけが厳しい緊張関係に陥ることが少なくない︵佐藤
一九九〇一三一︶︒その結果︑負担をどのように分かち合うかについて地域全体の課題とすることなく︑立地対
象とされた特定地域が受け入れるかどうかに問題を矮小化してきた︒
こうしたNIMBY問題に対し︑政府・事業主体による従来からの主な取り組みとは︑施設の必要性や安全性を
強調し︑補償・代償措置という形で利益供与することによって分配上の不公正性を是正するといったものであっ
た︒ところが︑近時︑社会全般の環境保全や生活の質的向上に対する期待値が増大するにつれて︑経済的補償は事
後的なもので︑魅力も薄れつつある︵大山 二〇〇三︶︒一方︑﹁分配正義から過程主義へ﹂︵新井 二〇一一︶と
NIMBY問題と市民委員会型政策形成︵都法五十七‑一︶ 二三七 いう環境正義に関わるパラダイムの変化を受け︑近年︑﹁参加と討議﹂を通じた︑﹁納得と同意﹂に基づく手続き的
公正︵配分の結果に至るプリセス︑機会など︶が迷惑施設問題の解決の重要な条件となりつつある︵増田
二〇一三︶︒ところが︑一見公正な手続きを踏んだとしても︑結果として住民の理解を得られず︑その選定理由を
めぐって激しく対立し︑問題解決には至らなかったケースも少なくない現実を見過ごすべきではないだろう︵金
二〇一五︶︒
第二に︑迷惑施設︑とりわけ原子力発電所や廃棄物処理施設の立地には︑地理的・技術的条件にふさわしい場所
にのみ可能だという制約がある︒そのため︑用地選定及び維持管理においては専門家および技術官僚によるテクノ
クラティックな知見や見解が重視されがちである︒しかし︑近年︑政府の直面する環境政策関連の諸課題は複雑
化・高度化し︑その意思決定は絶えず不確実性を含み︑リスクを伴うことも多くなってきた︒しかも︑科学者や専
門家の合理的な判断への懐疑とその決定の正統性確保の限界も早くから指摘されている︵藤垣 二〇〇三︶︒こう
した背景から︑最近のリスク評価に関しては︑一般市民を含めて幅広いアクターの参加に開かれたガバナンスモデ
ルの構築が求められている︒
ところが︑ダイオキシンに象徴されるように各種大気汚染物質の保管施設や最終処理施設からの有害科学物質の
漏出などを契機に廃棄物処理施設のリスク認識が浸透した今日の日本の地域社会において︑NIMBY現象が発生
し得るような施設の立地にかかわるイシューを︑利害関係を有する当事者住民の加わった﹁市民委員会﹂のような
公共空間で議論することは極めて困難を伴うであろう︒
こうした市民委員会型政策形成を取り巻く現状を踏まえ︑本稿では︑市民委員会方式によって用地選定を図っ
た︑東京都狛江市ごみ中間処理施設建設事業を事例に︑なぜ︑狛江市当局はこのような市民委員会方式を導入する
二三八 ことになったのか︑そして市民委員会は実際どのような役割・機能は果たしたのか︑その設置は紛争の解決や政策
的帰結にどのようなインパクトを与えたのか︑それはいかなる制約・課題を抱えていたかを考察したい︒
以下では︑まず︑先行研究において示された立地推進方式の類型別特徴と問題点について検討する︒次に︑本研
究の分析の素材である一般廃棄物処理施設立地選定プロセスの日本的特徴を描くと共に︑その立地選定プロセスを
﹁行政の対応﹂︑﹁住民の反応﹂︑そして﹁その相互作用の結果﹂を基準に類型化を図る︒これにより︑東京都狛江市
リサイクルセンター建設事業の分析対象事例としての特徴及び位置づけを明確にする︒次に︑事例を検討するため
の分析の枠組みを提示し︑それに基づいて﹁ごまえごみ市民委員会﹂の設置に至った背景及びそこでの参加アクタ
ー間の相互作用︑そしてその政策的帰結及び課題について分析を行い︑最後に︑まとめとして︑事例からのインプ
リケーションを論じる︒
二 一般廃棄物処理施設の立地推進方式の類型化とその特徴
︵一︶既往研究に見られる立地推進方式の類型別特徴と課題
以下では︑先行研究において示された迷惑施設の立地推進方式を大きく四つに分けて概観し︑それぞれの特徴と
限界について検討する︒
第一に︑Ducsik︵1983︶のDAD︵Decide︲Announce︲Defend︶アプローチが挙げられる︒これは︑官僚およ び技術的専門家が主体になって基本的な検討や意思決定を行ない︵Decide︶︑その内容を地域住民に報告し
︵Announce︶︑様々な質問を受けながらも当初の決定内容を守る︵Defend︶︑というスタイルである︒このアプロ
NIMBY問題と市民委員会型政策形成︵都法五十七‑一︶ 二三九 ーチは︑施設立地に伴う影響を計量的に示すことで︑地域住民からの科学的理解が得られやすいというメリットが
ある︒しかし︑政策決定の合理性と科学性︑そして政策執行の効率性のみを前面に押し出して︑利害関係者の参加
を徹底的に排除する︑あるいは︑形だけの参加に止めることにより︑紛争の根本的な解決が困難になるという限界
がある︒
第二に︑O’Hare︵1977︶及びO’Hare とBacow and Sanderson︵1983︶の研究によって紹介されはじめた補償的 アプローチがある︒これは︑DADアプローチの技術的・科学的側面のみでは地域住民の反対に適切に対応するこ
とができないとし︑施設の立地に伴う費用と便益の非対称性という問題に注目する︒すなわち︑立地地域住民に経
済的補償やインセンティブを提供することでそれを克服しようとする手法である︒このアプローチは︑補償に対す
る期待が住民と事業推進側との間に立地議論を活性化させ︑施設立地を効率的に進めることができるというメリッ
トをもつ︒しかし︑このアプローチでは︑﹁政策決定者は合理的な費用│便益分析に基づいて行動する﹂ことを前
提にしているが︑選択可能な諸代替案の経済的効率性のみでは富の分配︑基本的人権︑手続きなどは無視されうる
という問題点がある︵岩橋 一九九四︶︒
第三に︑一九八一年のマサチューセッツ有害廃棄物処理施設立地法の制定以来︑アメリカにおいて広く利用され 始めた交渉的アプローチがある︵Kiser 1992︶︒このアプローチでは︑まず︑事業主体による技術的︑経済的妥当
性の検討を通じて︑立地候補地が選定されると︑直ちに立地候補地住民に公表し︑立地候補地になった地域では交
渉団を構成して施設立地によって予想される環境及び健康上の危険︑交通混雑︑補償などに関する対策案を事業主
体側と交渉する︒このとき地域団体や環境団体は交渉に直接参加し︑また︑住民に有用な情報と論理を提供する︒
このような過程を経て諸問題が円満に解決されると︑該当地域への立地が確定され︑建設工事が始まるのである︒
二四〇
このように︑利害関係者が意思決定過程に直接参加することによって施設の必要性を理解することができ︑強要さ
れた基準ではなく︑交渉による基準が採用されるので利害当事者が受け入れやすく︑それによって社会的費用を減
少させることができるというメリットがある︒しかし︑これは︑両当事者がともに交渉を選択する場合のみ成立す
る限界をもつ︒また︑交渉過程においてすべての立地地域住民が直接参加することは不可能であるため︑地域住民
の代表者が交渉過程に参加することになるが︑誰が代表になるか︑そして交渉参加者の代表性をどのように確保す
るかが重要な争点となる︒すなわち︑交渉過程における﹁限定された住民参加﹂という限界を持つのである︒な
お︑反対住民が感情的で攻撃的な態度を採ると︑﹁交渉の場﹂が設けられても相互に適切なコミュニケーションを
行うことができず︑紛争を長期化させることがある︒
第四に︑Munton︵1996︶の自発的立地プロセス︵Voluntary Choice Siting Process︶である︒DADアプローチが
技術的合理性と効率性を指向する事業者中心のトップ・ダウンアプローチであるのに対して︑この自発的立地プロ
セスはボトム・アップアプローチの性格をもつ︒このアプローチでは︑紛争を当然のものと見なし︑立地選定及び
施設の管理・運営のすべての段階における住民の参加と熟議︵deliberation︶を強調する︒また︑DADアプローチ
のように︑政策立案者による事前の立地決定︑受容の強要︑リスク緩和措置による同意の雰囲気の助長ではなく︑
計画実施に伴う費用と便益に関する情報の完全の公開︑自発的なリスク負担︑意思決定プロセスに対する正当性と
信頼等をその特徴とする︒したがって︑交渉的アプローチが︑﹁如何にして相手を論破し︑自分が勝ち収めるかと
いうことを眼目とする︑勝ち負け︵win︲lose︶を前提とするスタイル﹂とすれば︑このアプローチは﹁協働的な 交渉によってお互いの便益を高め︑交渉当事者全員が勝者になること︵win︲win︶を前提としたスタイル﹂であ
るといえよう︒しかし︑市民参加による熟議の場が整えられても︑実質的な対話が行われるとは限らない︵土屋
NIMBY問題と市民委員会型政策形成︵都法五十七‑一︶ 二四一 二〇〇四一四〇︶︒
ただし︑実際に迷惑施設が建設される場合には︑特に立地選定に係わっては︑住民と事業者との対立のみなら
ず︑特定地域の住民とそのほかの住民との対立もあって︑上記の四つのアプローチは︑紛争状況に応じて混合的・
並行的に使われると思われる︒
︵二︶一般廃棄物処理施設の立地推進方式の類型化
この節では︑実際の一般廃棄物処理施設の立地推進方式の類型化を図るとともに︑類型別特徴を考察する︒ 一般廃棄物処理事業は︑市町村︵区︶の固有事務の一つとされ︑地方行政のなかでも︑特に住民生活と密着した
対応が求められる︒そのため︑その処理計画を策定する際には︑住民の理解と協力を得て︑合意形成を図っていく
ことが不可欠の要素となっている︒
ところが︑一般廃棄物処理施設は︑いわゆる典型的な迷惑施設であって︑その特性上︑立地地域に否定的効果を
誘発せざるをえない一方︑立地地域にもたらされる便益は他の地域ほどは大きくなかったり︑せいぜい同程度の公
共施設である︒そのため︑自分が住む地域内に一般廃棄物処理施設が設置されることは︑立地地域住民にとって
は︑﹁なぜ自分達だけがこのような処理施設を受け入れなければならないのか﹂といった不公平感や︑他の地域に
比べて相対的な剥奪感が生じることになり︑結局︑施設の受容は難しくなるのである︒こうした特性をもつがゆえ
に︑その立地・建設をめぐっては費用負担を最大限回避しようとする費用負担者による政治的影響力が強く働く︒
その結果︑有権者の票を意識する議会︵政治︶は特定の立場を表明することはなるべく避け︑その政治的解決を官
僚︵行政︶にゆだねる傾向が強い︒ところが︑行政を握っている首長といえども政治家であるから︑首長自身も議
二四二
員と同様に︑その事業を先送りするか︑選定過程を非公開で行う場合が多い︵籠 二〇〇七二一七︶︒これまで
の行政側による処理施設の立地の多くが︑地形や地質的条件を十分に考慮して選定されたものではなく︑どちらか
といえば用地確保の容易さや︑地権者の意思といった点からなされてきた要因の一つがここにある︒このため︑一
般廃棄物処理施設の建設計画を提示する地方政府・事業主体は︑住民の﹁何故ここに立地するのか﹂﹁何故ここに
立地しなければならないのか﹂という疑問に対して︑住民を納得させることのできる科学的回答を示すことができ
ず︑そのことがさらに住民の感情的かつ攻撃的な反対運動を巻き起こすことになる︒しかも︑ダイオキシンに象徴
されるように︑廃棄物焼却炉などで焼却される物質は質的にも量的にも特定できないため︑焼却により生成される
物質の予測は基本的に不可能である︵鵜飼 二〇〇〇一〇四︶︒ところが︑日本では︑その立地設定及び運営管
理において技術官僚や専門家による専門的知識・能力をベースとした合理的意思決定が重視される傾向がある︒
こうした特性から︑一般廃棄物処理施設の立地選定過程は︑まず計画策定主体が地域全体の公共的必要性から住
民の最大公約数的なニーズを予想して将来のビジョンを描き︑技術合理性・効率性を重視したトップダウン的な計
画が提示されることが多い︒もちろん住民説明会や公聴会︑意見公募等︑住民参加の機会も保障されてはいるもの
の︑それらは環境影響の少なさや被害発生の蓋然性の低さを示すことが主眼となっていて︑住民に事業の内容を理
解してもらうことが目的であり︑提案された住民の意見に対する応答もないなど︑一方通行的なものである場合が
多い︵籠 二〇〇九︶︒しかし︑こうした方式によって提供される施設は︑価値観の多様化した地域住民のニーズ
を必ずしも反映していないため︑事業施行過程で利害の対立を生じさせる場合が多い︒その際︑もし住民側が﹁絶
対反対﹂ではなく﹁条件闘争﹂に出れば︑事業主体は立地選定過程に住民を参加させて住民との話し合いによる合
意形成を図るか︑または計画そのものを凍結あるいは撤回することになる︒反対に︑﹁絶対反対﹂のために話し合
NIMBY問題と市民委員会型政策形成︵都法五十七‑一︶ 二四三 いが﹁決裂﹂︵ないし対立が硬直化︶すると︑事業主体は強制執行を行うか︑計画そのものを中止するか︵ないし
計画を大幅に変更するか︶の選択に迫られるのが現状である︒
こうした現状を踏まえて︑﹁行政の立地選定に対して住民がどのように反応したか﹂︑﹁これに対して行政はどの
ような対応を採ったか﹂︑﹁その相互作用の結果はどうなったか﹂を基準に︑一般廃棄物処理施設の立地選定をめぐ
る行政対応プロセスを類型化すると︑次のように﹁参加型﹂︑﹁取消型﹂︑﹁固執型﹂︑﹁強制執行型﹂の四つのタイプ
に大別することができる︒ただし︑実際の事例においては︑住民参加と話し合いなどが同時に進行するため︑﹁参
加型﹂と﹁固執型﹂を明確に区別することは困難である︒そのため︑本研究では︑説明の便宜のために︑計画の凍
結や撤回を基準に︑計画の凍結や撤回が前提とされている場合は﹁参加型﹂︑計画の撤回が考慮されていない場合
は﹁固執型﹂と区分する︒以下︑タイプ別の具体的な特徴を見てみると︑
①参加型は︑計画策定段階で事業主体による事業計画の発表及び説明に対して地域住民が反対し︑請願や陳情︑
専門家の動員など多様なルートを通じて計画策定主体に計画策定過程への参加を求める︒こうした住民の要求が計
画策定主体によって受け入れられると︑計画策定主体は既に自らが行っていた用地選定の結果を白紙に戻すか凍結
し︑立地に係わる議論の場に住民を参加させ︑必要性や代替案などについての討議過程をへて出された助言や提案
が立地計画に最大限反映されると︑施設建設に至るタイプである︒このタイプは︑Ducsik のDADアプローチによ
る失敗から自発的な選択立地プロセスへと転じた類型であるといえる︒本稿の取り上げる狛江市リサイクルセンタ
ー建設事業はこの類型に近いものと分類される︒
②取消型において計画策定主体による白紙撤回あるいは凍結が採択されるのは︑強行によって得られる利益が交
渉によるコストを下回る時である︒これは︑計画策定主体が計画を執行できないことを認識した場合︑住民の受容