論文の内容の要旨
氏名:長 島 沙 樹
専攻分野の名称:博士(医学)
論文題名:乳癌におけるCD147蛋白の発現と予後の検討
背景と目的:
乳癌の90%は、乳管上皮細胞から発生し(非浸潤性乳管癌、Ductal carcinoma in situ : DCIS)、進展する と基底膜を越え、浸潤性乳管癌(Invasive ductal carcinoma: IDC)となる。実臨床の現場では、DCISがIDC に移行していく過程の期間は症例によりまちまちである。どのようなきっかけで、DCISがIDCに移行し ていくのかが明らかになれば、治療方針の選択に有益である。
今回、我々はCD147に着目した。CD147は多機能膜糖蛋白であり、腫瘍の浸潤に関与し、各種固形癌 で過剰発現するとされる。しかしながら、乳癌におけるCD147発現の臨床的意義は充分に明らかにされて おらず、「DCISからIDCに移行するとCD147陽性率が増加する」という仮説をたて検討を行った。
対象と方法:
2004年から2009年までに、日本大学医学部附属板橋病院で乳癌と診断され手術が施行された症例で、
初発・術前未治療・女性・重複癌なし・29歳から83歳に相当する125症例を対象とした。手術検体の病 巣のパラフィン包埋切片を用いて、免疫組織化学染色を行った。判定は光顕的に行ない、合計5000個の癌 細胞をカウントし、CD147 に染色される細胞の占有率で判定を行った。陽性細胞数が 5%未満を CD147 陰性、5%以上を陽性とした。2群間の検定にはχ2 testおよび一般化Wilcoxon検定、多群間の検定には多 変量分散分析法を用いて、p<0.05 を有意差ありとした。無再発生存率と累積生存率の算出には Kaplan-Meier法を用いた。
結果:
全体の69%がCD147陽性であった。
DCISとstageⅠ、DCISとIDC、pStage別ではCD147の発現程度に差を認めなかった。早期癌と進行 癌では、進行癌でCD147陽性率が高い結果となった。その他、年齢、腫瘍径、リンパ節転移個数、Ki-67-PI、
無再発生存率で差を認めた。無再発生存期間においてCD147発現の程度に差を認め、独立した予後因子か 否かを多変量解析で検討したが、有意な予後因子とならなかった。閉経の有無、組織型、ホルモン受容体 およびHER2受容体、累積生存率では差を認めなかった。
考察:
CD147の発現は、DCISからIDCに移行する段階で、差を認めなかった。しかしながら、進行癌でCD147 陽性症例が多く、乳癌でもCD147が浸潤・増殖に関与を示す因子であることが示唆された。
CD147陽性群は高齢であり、腫瘍径が大きく、進行癌であり、リンパ節転移個数は多く、Ki-67-PIが高 い結果となった。
まとめ:
CD147の発現が、DCISからIDCに移行する契機になるかどうかは、本研究の結果からは明らかになら なかった。しかしながら、乳癌原発巣におけるCD147の発現程度を検索することは、腫瘍の持つ生物学的 悪性度を予測できる可能性が示唆された。