Title UPI テストからみる学生の不安傾向の理解
Author(s) 竹渕, 香織
Citation 聖学院大学総合研究所紀要, No.35, 2006.3 : 515-533
URL http://serve.seigakuin-univ.ac.jp/reps/modules/xoonips/de tail.php?item_id=4155
Rights
聖学院学術情報発信システム : SERVE
SEigakuin Repository and academic archiVEUPIテストからみる学生の不安傾向の理解
竹
香 織 淵
目的と方法
子どもから大人への移行期である青年期は︑さまざまに自己定義を模索し苦悩する期間である︒開ユ
28 (
一九
五O
)
は生涯発達の立場から︑青年期の発達課題として﹁アイデンティティの確立﹂をあげ︑この時期の急速な身体的成長と
性的成熟がもたらす自己意識の混乱や動揺を克服して︑複数の﹁としての自分﹂という自我の獲得と体系化を行うこと
で︑それぞれの他者・集団・社会と共通する観点・一般化された他者の観点を獲得するとしている︒それは社会の中で
生きる個人としての立場を明確にすることである︒このようなことから︑大学時代は﹁自分とは何か﹂を考える自分探
しの時代であり︑また自分の進路や生き方を考え模索しながら︑将来へと続く他者との関係を築き上げていく時期であ
ると
言え
る︒
アイデンティティ確立の過程では︑心理社会的な課題に関わるさまざまな葛藤を経験するため︑自信を喪
失したり自己を見失って混乱したりと精神的に不安定になることも多い︒
大学学生相談室は︑このような時期を過ごす学生が︑大学での生活を営むうえで生じる問題や課題に︑幅広く柔軟に
対応していくことを目的とし︑また学生がより健全な学生生活を過ごせるよう支援することを中心に開室している︒最
UPIテストからみる学生の不安傾向の理解 515
近は身体的精神的︑または発達的問題や課題を抱えている学生も少なくなく︑青年期特有の課題克服のために生じる問
題のほかにも︑多くの問題や悩みをもつことも多い︒多様化する社会への適応を求められ︑しかも社会的不況の時代に
あって︑自信を無くし将来への不安を深める学生も増えている︒
年々多様化し複雑化する学生の課題や問題に柔軟に対応し︑そしてより効果的な支援を行うためには︑学生のニーズ
を把握し明確にすることが大切である︒
本研究においては︑UPI学生精神的健康調査(口口町2巴守司28
ロ畠
qF SE
︒弓
一以
下UPIテスト)を利用し︑学生
の不安を因子により類型化することで︑本学の学生が抱える不安の傾向を探り︑またそれらの臨床的な検討を行うため
に典型例を決めて事例研究を行うことを目的とする︒
( 1 )
調査方法
付録に示したアンケート調査票を用いて︑二
OO
五年四月の聖学院大学新入生オリエンテーション期間中の学生課ガ
イダンス時(二
OO
五年四月四日)の︑学生相談室紹介・説明時間に実施した︒実施時間は約一五分であり︑事前に学
生相談室の説明とアンケート内容・回答の説明を行い︑一斉法で実施・回収を行った︒
( 2 )
調査道具
アンケート用紙は︑①フェイスシlト一性別︑学科︑年齢︑
入試方法︑住居体系の学生の基本状況︑②
UPI
テス
ト一問題のある学生のスクリーニングテスト︑③面談希望の記入欄一本調査の質問に答える中で︑また学生相談室のガ
イダンスを聞く中で︑自分の課題などに興味を持った学生が︑学生相談室の予約を取りやすいようにするための項目︑
からなっている︒
UPIテストは︑問題の早期発見・早期治療を目指して一九六六年に全国大学保健管理協会の学生相談カウンセラー
と精神科医が中心になって作成したスクリーニングテストであり︑実施が簡単であるため現在も全国の国公私立大学な
どで広く入学時に実施されているものである︒学生精神的健康調査は六0項目の
﹁は
い﹂
﹁い
い泊
え﹂
で答える設問に対
して︑あてはまるものに丸をつけるもので︑特に心身症・神経症の早期発見に効果がある(松原︑
一九
九五
)︒
( 3 )
対象
調査対象は︑二
OO
五年度入学の新入生で︑新入生オリエンテーションのガイダンスに出席していた学生である︒二
00
五年度新入生全体数は八O七人であり︑留学生・編入生を含む︒アンケート回収数は六六七名(男子一三八六名︑
女子一二六四名不明一一七名︑平均年齢一一八・三三歳)で︑回収率八二・六%であった︒学生の基本的属性は以下
に示す(表
11
表
3)
︒
II
分析A
アンケート調査
( 1 )
心身症・神経症が疑われるケ1スのスクリーニング
UPIテスト六0項目中︑健康尺度および検証尺度(質問項目番号5︑初︑お︑日)を除いた五六項目中﹁はい﹂が三
五項目以上ある場合︑問題がある傾向︑特に心身症・神経症の可能性が高いと考えられている︒今回の調査では︑三五
UPIテストからみる学生の不安傾向の理解 ヲ17
項目以上に﹁はい﹂と答えた人数は三五名(男子一五名︑女九名︑不明一名)であり︑全体の六六七名のうち五・二%
であった︒三五項目以上に﹁はい﹂と答えた人数の分布は図1
に示
した
︒
( 2 )
面談予約
面談予約の希望に関しては︑﹁学生相談室で相談してみたいと思いますか﹂に﹁はい﹂と答えた学生は八一名(一
一了一四%)︑尚且つ﹁予約を希望しますか﹂に﹁はい﹂と答えた学生八名(一・二%)であった︒このうち連絡先を
記入してあったケlスには︑学生相談室より連絡をとった︒実際に連絡ができ︑予約をとった学生は六人であった︒
( 3 )
結果と考察
スクリーニングテストによると︑新入生の約五・二%が神経症・心身症の疑いがある︑という結果となった︒また学
生相談室を利用してみたいと答えた学生は一二・一四%であったが︑実際に学生相談室の面談の予約をしたのは六名で
あった︒現在は︑希望した学生のみ学生相談室から連絡を取ることにしているが︑今後はUPI得点の高い学生への予
防的ケア︑または積極的介入を検討する必要性があると思われる︒
表1 学科別アンケート回収数 学科
回答数
%
司 ゴ 一
%
利一 日一
ω
表2 回答者の入試区分
人 数
%
無記入 40 6.00%
表3 住居形態
男子 (n= 386) 女子 (n= 264) 全 体 (N= 650) 311 195 506
45 44 89
5 5 10
25 20 45 自 宅
アパート・下宿 そ の 他 無 記 入
図1 35項目以上の人数
30
5 25 20
受
1510
。
~-~ ~-~ ~-~
「はい」と答えた項目数
519 UPIテストからみる学生の不安傾向の理解
2
不安傾向分析
( 1 )
総得点
① 性 別
健康尺度および検証尺度の四項目を除く五六項目の総得点に関して︑男女のグループに分けてt検定を行った
(Z
H
∞ミ
︑男
子ロ
H ω
袋︑女子ロH虫色︒平均値はそれぞれ5
・ ∞ ∞ と
5・8
で︑
で
HIN‑色(司︿0・0印)となり女子が男子より有
意に得点が高かった︒したがって︑不安に関する総得点に関しては女子学生のほうが高いという結果が得られた︒
②住居形態別
健康尺度および検証尺度の四項目を除く五六項目の総得点に関して︑住居形態別にt検定を行った(ZHg
印︑
家族
の同居ロH印
g
︑一人
暮ら
しロ
H
∞叩
)︒
平均
値は
口・
ぉ︑
ロ
‑ g
で︑
昨日
H I
・C0
8 司(
︿
0・ c
u )
で有意差がみられた︒
一人
暮ら
しのほうが︑家族と同居よりも不安に関する総得点が高いことが分かった︒
③学部別
健康尺度および検証尺度の四項目を除く五六項目の総得点に関して︑学科別に一元配置の分散分析を行ったところ
司HH・N怠︑有意確率・
N S 司(
︿ 0・0
印)
で有
意差
が認
めら
れた
ため
︑多
重比
較(
叶ロ
長︒
可¥
図︒
ロ貯
号︒
包法
)を
行っ
たと
ころ
政
治経済学部と人文学部の間に有意差N・E
・︿Q00
日)
で差
がみ
られ
た︒
④結果と考察
総合得点による比較では︑女子学生の得点が高いこと︑一人暮らしの学生の得点が高いことが示された︒特に一人暮
らしの学生に関しては︑初めて家族と離れるケ1スが大多数を占めるであろうことは理解しやすく︑大学生活への適応
以前に︑生活全般への不安が大きいことが推測できる︒人間福祉学部は︑人と関わる仕事を将来の目的に選んでいる学
部ということで︑人への関心が高く︑また自己洞察力も高いため全体的な不安が低いのではないかと推測できる︒
( 2 )
因子分析による類型化
次に六0項目を︑主因子法・パリマックス回転による因子分析を行った(表
4)
︒その中から因子付加の絶対値の大
きい変数を三因子選択し︑因子付加量が・ち以上の項目を各因子の構成要素となる項目として採用した︒なお今回の調
査は主に不安感情について分析することを目的とするため︑家族に関する質問項目は削除した︒次に各因子の解釈を行
い︑主に他人との関係性の中から生ずる不安群であることから第一因子を﹁対人不安﹂︑身体症状を伴う不安群である
ことから第二因子を﹁身体不安﹂︑自信のなさや︑自己肯定感の低さ︑情緒の不安定さから起こる不安群として第三因
子を﹁自己不安﹂と命名した︒クロンパックのα係数による信頼性統計量を算出したところ︑それぞれき
ωw
S0・
吋お
と
なり信頼性は充分であった︒
( 3 )
各要因間比較
それぞれの因子について︑性別︑学部︑住居形態において平均値の差を調べるために分散分析を行った︒
その
結果
︑
第二因子において性別(司H尽
‑ S H )
︑学
科(
司 H ω
・Nロ)の有意差があったので︑それらについては多重比較(吋ロ
w a
¥
図︒足︒号︒巳法)により分析を行った︒結果は以下に示す(表
5)
︒
UPIテストからみる学生の不安傾向の理解 521
表4 因子分析の構造(パリマックス回転後)
項目番号 質 間 因子1 因子2 因子3 共通性
43 付き合いが嫌いである .712 一.010 .199 .679 37 一人でいると落ち着かない .698 .012 .007 .517 47 気にすると冷や汗が出やすい .665 .044 一.002 .501 42 気をまわしすぎる .651 .057 .117 .510 60 気持ちが傷つけられやすい .637 .057 .214 .552 36 なんとなく不安である .611 .023 .253 .598 39 何事もためらいがちである .604 .033 .179 .512 32 どもったり声が震えたりする .597 .032 .020 .662 51 こだわりすぎる .596 .000 .096 .472 41 他人が信じられない .594 .023 .292 .500 55 自分の変な匂いが気になる .593 一.018 .019 .731 38 物事に自信がもてない .547 一.011 .263 .707
44 引け目を感じる .478 .430 .079 .459
1 食欲がない 一.040 .775 .005 .611 2 吐き気や胸焼け腹痛がある .019 .762 .159 .628 4 動惇や脈が気になる 一.024 .646 .024 .432 18 首筋や肩がこる .057 .635 .035 .450 17 頭痛がする .001 .620 .054 .405 16 不眠がちである .051 .608 .088 .406 33 身体が火照ったり冷えたりする .528 .577 .014 .662 48 めまいや立ちくらみがする .525 .575 .044 .643 19 胸が痛んだり、しめつけられる 一.006 .558 .121 .518 46 身体がだるい .452 .536 .142 .738 27 記憶力が低下している .062 .527 .119 .593 28 根気が続かない .015 .459 .226 .368 31 赤面して困る .108 .443 一.065 .285 26 何事もいきいきと感じられない .025 .051 .578 .386 12 やる気が出てこない .048 .084 .576 .462 13 悲観的になる .184 .044 .562 .439 11 自分が自分でない感じがする .056 .176 .516 .333 15 気分に波がありすぎる .080 .044 .480 .384 10 人に会いたくない .067 一.001 .479 .350 14 将来のことを心配しすぎる .116 .044 .467 .349 6 不平不満が多い .064 .061 .441 .367
表5 各因子の分散分析結果
第1因子
変動因 平方和 自由度 平均平方 F値
12.532 2 6.266 .203 男 女 20464.916 664 30.821
64.783 2 32.391
1.040
学 部 20341.339 653 31.151 46.488 3 15.496
.503 住 居 20430.960 663 30.816
第2因子
変動因 平方和 自由度 平均平方 F値
152.838 2 76.419 12.621
*
男 女 4020.322 664 6.055
40.777 2 20.389 3.271
*
学 部 4070.380 653 6.233
23.764 3 7.921 1.266 住 居 4149.396 663 6.259
第3因子
変動因 平方和 自由度 平均平方 F値
7.902 2 3.951 .644 男 女 4072.208 664 6.133
13.034 2 6.517 .345 学 部 3993.186 653 6.115
50.442 3 16.814 2.766 住 居 4029.669 663 6.078
*
p < 0.05523 UPIテストからみる学生の不安傾向の理解
分散分析で有意差が見られた第二因子について︑性別︑学科それぞれの多重比較を行った︒性別に関しては︑女子が
男子に比べ︑有意に身体不安が高いことがわかったな︿・8
印 ) ︒
学部聞の比較では︑政治経済学部と人間福祉学部聞に有意差(℃︿0・0印)がみられた︒よって︑第二因子に関しては︑
人間福祉学部よりも政治経済学部に不安が大きいとヰコ守える︒総得点分析の際にも述べたが︑人間福祉学部は︑人と関
わる仕事を目指す学部ということで︑自己・他者への関心が高く︑自己洞察力も高いため不安が低いのではないかと推
測す
る︒
血
分析B
二OO五年四月から七月に学生相談室を利用した学生の中で︑初図面談時の主訴に﹁不安﹂を挙げた学生に再度
U P
ーテストを実施し︑因子分類による典型例を挙げ事例検討を行った(学生本人を
α
︑筆
者を
百と
示す
)︒
( 1 )
第一因子﹁対人不安﹂
︻事
例
1︼
男子
学生
︑
一八
歳︑
家族
と同
居︑
一般入試(第一因子一三項目中八項目該当)
① 主 訴
友達に気を遣い︑疲れてしまう︒自分のことをいつも誤解されてしまう︒悪口を言われるのではないかとい
つも
心配
して
いる
︒
②家族・生育歴
両親
と妹
︑
α
の四人家族︒父親はサラリーマン︑母親はパ1ト職︒高校生の妹︒小さい時から﹁いい子﹂として育つ︒高校まで殆ど学校を休むことはなかった︒
③面談経過
予約時間には遅刻することはない︒落ち着いた雰囲気︒丁寧な口調で淡々と話す︒椅子にきちんと座り︑
面談中も姿勢を崩さない︒周囲の友人を見ていると︑悩みなどないように見えてうらやましい︒自分だけが辛い思い
をしていると思う︒大学に入ったらいろいろな制約から開放されて楽しくなると思っていたのに︑気後れしてしま
う︒入学式に隣に座った男子学生と仲良くなり︑一緒に昼食を摂るようになったが︑彼が自分の趣味に
α
を誘ってくるのに困っている︒
α
には興味がないこと︒誘われて断ると︑もう誘われないのではないかと思ってしまう︒中学校時代に︑カラオケに誘われたのを断ったら︑それ以来そのグループから誘われなくなってしまった経験があり︑断つ
たら昼食も一緒に食べられなくなるのではないかと思い恐怖がある︒孤立してしまうのではないか︑という不安を続
けて訴えていたが︑面談の回数が進むにつれ︑自分が﹁ZC﹂を言うことを極端に怖がっていることに気付く︒友達だ
けではなく︑家族といても緊張してしまう︒自室にいる時だけがリラックスできている︒家族からはこれまで何の問
題も起こさなかった﹁いい子﹂と思われている︒だから両親の言うことに反対したり︑違う意見を言ったりすると両
親を落胆させてしまうのではないかと思い不安になる︒﹁嫌だと思うことを断れるようになりたい﹂と面談の目的を
自ら設定︒面談開始当初は緊張度が高かったが︑徐々にリラックスした雰囲気に︒
α
が嫌だと思うことすべてを断るミとは難しいので︑嫌と思う度合いを考え︑
﹁ど
うし
ても
嫌﹂
﹁ど
うに
か我
慢で
きる
﹂
というレベルに分類し︑
﹁ 嫌 ﹂
まず﹁どうしても嫌﹂なことを断ることを目的とする︒また断り方も︑代替案を出すなどして罪悪感を薄めることと
する
︒
④事例検討
このケ1スでは︑家族だけでなく友人に対しても﹁いい子﹂でいることが当たり前になってしまい︑極端に他人の
気持ちに敏感になってしまうため︑対人関係のことにのみ関心が向いてしまっている︒目の前の関係性に振り回わさ
れて
︑
つまり﹁どうして自分は他人の気持ちに敏感になってしまうのか﹂ということに焦点が向その根本的な問題︑
UPIテストからみる学生の不安傾向の理解 525
けられないままに︑不安や緊張感が高まってしまうことになる︒
面談を進める中で︑問題は対人関係の中に起こっているが︑目を向けるのは
α
の学生自身の内面であることに気づかせることが大切である︒
しかし︑本人が自覚する不安は対人関係に関わることに集中していることが分かる︒よって︑﹁対人不安﹂との因
子の命名は妥当であると考える︒
( 2 )
第二因子﹁身体不安﹂
{事
例
2︼
女子
学生
︑
一八
歳︑
一人暮らし︑推薦入試(第二因子一四項目中一一項目該当)
① 主 訴
大学に入学してから体がだるく︑立ちくらみが頻繁にある︒記憶力が低下していて︑勉強に集中できない︒
②家族・生育歴
両親と祖母︑本人の四人家族︒両親が自営業の共働きだったため︑祖母に育てられたおばあちゃん
子 ︒
③面談経過
立ちくらみがひどいので内科を受診したが︑異常なしとのこと︒しかし症状が改善されないので保健室
に相談に行ったら︑相談室を紹介されたとのこと︒顔色が悪く︑声も小さい︒五O分の面談時間︑座っているのが辛
いというので︑面接開始時は三O分の面談とする︒内科で異常なしとされたことで︑理由が分からず益々落ち込むと
のこと︒これまで
α
は友達も多く︑悩むことはあってもひどく落ち込んだりすることはなかった︒大学に入ってからは体調が悪いので友達ともなかなか遊んだりできず︑駄目な人間になったような気持ちがする︒心療内科の説明を
し︑受診を勧めるが︑拒否︒面談の回数が進むにつれ︑元々家族から一人暮らしを反対されていたが︑押し切って本
学を受験︒実家は東北なので必然的に一人暮らしになった︒反対されていたこと︑一人暮らしに憧れがあったことか
ら︑寂しくてもなかなか実家に電話ができないという状況であることが判明︒食欲も落ちてきたとのこと︒その後︑
祖母から食料が送られてきたことで︑お礼の電話をすることができた︒寂しい気持ちを言うことはできなかったが︑
祖母から﹁寂しいから頻繁に電話で声を聞かせて欲しい﹂と言われ︑実家に電話をするきっかけをもらうことができ
た︒立ちくらみは治まってきたが︑食欲不振と無気力はひどくなっている︒百は︑内科の結果に問題がないのに︑身
体症状が治まらないことは精神のSOSではないか︑と心療内科受診を再度勧める︒その後祖母に﹁あまり食べたく
ない﹂と話したら﹁病院に行け﹂と言われ︑受診を決意︒大学から近く︑授業の合間に診療が受けられる病院を紹介
する︒心療内科では﹁病気ではないが︑精神的に不安定になっているから体が悲鳴をあげている﹂と︑安定剤を処
方される︒﹁精神的︑身体的な病気ではない﹂と言われたことでかなり安心でき︑どんなに明るい人でも落ち込むこ
とは
ある
んだ
︑
その後の面談では︑服薬を継続しつつ︑﹁無理をしない﹂ことを目的に︑家族との関わ
と納
得す
る︒
り方を話し合うことになる︒薬を飲むことに慣れてきたころから︑大学での友人関係について話題にするようにな
った
︒
④事例検討
身体の病気の中で︑発症やその後の経過に心理社会的な要因が密接に関係しているものを心身症と定義し︑社会的
ストレスなどを挙げることができる︒このケlスの場合は︑家族と離れて暮らす中で要因とは性格や行動パターン︑
の寂しきゃ不安からくるストレスが原因で︑内科では特定できない身体的な症状が発生したと考えることができる︒
α
は内科で﹁問題なし﹂と診断されても症状がなくならないことで︑更に精神的負担が大きくなったと推測できる︒このようなケ1スの場合︑まずは心療内科などの専門機関での診察と治療が必要となってくる︒それと平行して︑
精神的な課題へと意識を向ける面談が効果的になってくる︒この
α
の場合は︑家族(祖母)の介入で心療内科を受診することができ︑体調不良の原因が明らかになったことで急速に心身両面での回復がみられた︒
以上のことから︑精神的なストレスが体調不良という形で起きていることは明確で︑﹁身体不安﹂との因子の命名
UPIテストからみる学生の不安傾向の理解 527
は妥当であると考える︒
( 3 )
第三因子﹁自己不安﹂
︻事
例
3︼男子学生︑二一歳︑家族と同居︑推薦入試(第三因子八項目中六項目該当)
① 主 訴
突然やる気がなくなり︑何をどうしたらいいのか分からず不安︒他人ができることが自分にはできない︒自
分は生きている意味があるのか分からない︒
②家族・生育歴
両親と有名大学に通う兄と
α
︑弟の五人家族︒父親は大企業の管理職︒母親は主婦︒高校までは休みも多くなく︑仲の良い友人も数人いた︒
③面接経過
急に登校しなくなったということで︑アドヴァイザ!教員と母親に付き添われ来室︒初回面談は︑面談
中は沈黙も多く︑話すことが苦手である様子が伺われた︒表情がなく︑声も小さい︒百が質問をするスタイルでこれ
までのことを聞くが︑それが続くと
α
が問い詰められているような気持ちになることもあると考え︑第二回面談からはノ
ンパ
lパルな方法(本人の希望で箱庭)で面談を進めることにする︒毎回箱庭を作り︑その後
α
が話したいことがあれば話してもらうこととする︒箱庭は嫌ではないようで毎回進んで作品を作る︒面談のキャンセルもない︒五回
目の箱庭作成後︑﹁大学を辞めたいのか辞めたくないのかも分からない﹂と話し出す︒高校までも本当は登校するの
が辛かったが︑両親を悲しませたくないので登校だけはしていたとのこと︒周囲は
﹁急
に﹂
とい
う印
象で
ある
が︑
α
からするとずっと続いている﹁辛い気持ち﹂があり︑大学に入ったあとに︑それが限界を超えてしまった︒その翌回
から︑箱庭をしないで話したいと言い出し︑﹁自分は生きている意味があるのか﹂﹁楽しいことも悲しいこともない﹂
﹁大学で特に何かがあって登校できなくなったわけではない﹂などということを徐々に話すようになる︒﹁大学を続け
る意味は感じないが︑辞めた後のことを考えると辞める決心がつかない︒今の学科で勉強していることには全く興味
がないが︑辞めて仕事をする自信がない﹂とのことなので︑面談では
﹁辞
めな
い場
合﹂
﹁辞
めた
場合
﹂
のことをひと
つひとつ検討することとし︑また︑現在在籍している学科にこだわらず︑
α
のやりたいことを探すことを目的として面談を継続することとする︒
④事例検討
﹂れ
は
﹁自分の気持ちが分からない﹂ことからくる不安が大きくなったケ1スである︒﹁やりたいのか︑やりたく
ないのか﹂﹁退学したいのか︑したくないのか﹂という答えの出ない問いを繰り返している︒本研究の冒頭でも述べ
ているが︑大学時代は︑﹁自分とは何か﹂を探す時期であり︑不安定になる時期である︒このような発達課題への取
り組みと同時に︑このケl
スの
α
は極端に自己に対する自信がなく︑小さなことでも判断できずにいる︒小さい判断さらに自信が失われるということになってしまう︒自己肯定感も低く︑自分の存在について大きができないことが︑
な不安を抱えている︒
自己肯定感が低く︑自分の内から不安を覚えるようなケlスであり︑第三因子を﹁自己不安﹂と命名したことは妥
当であると考える︒
( 4 )
考察
それぞれの因子の典型例を比較すると︑もともと﹁やる気がない﹂わけではない︑自分で不安の理由が分からない︑
一人で悩みを抱え込んでしまう︑という共通点がある︒
しか
し︑
それぞれのケ1スにはそれぞれの回復への過程がある
と思
われ
る︒
第一因子の﹁対人不安﹂の場合には︑他人から否定されることへの過度の恐怖︑自分の意思を他人に伝えることの不
得手さ︑が目立ち︑自分の感情や気持ちを話すことが少ない︒まず︑他人の視点からではなく︑学生本人の感情や気持
UPIテストからみる学生の不安傾向の理解 529
ちを学生本人に自覚させることが大切である︒その後で︑自己と他者︑の関係を学んでいくことになる︒自分の感情に
ついて取り上げず︑学生が訴えてくる﹁他者との関係性﹂だけに焦点を当てた面談を継続していても︑課題は解決でき
ないと考えられる︒
第二因子の﹁身体症状﹂は︑身体に出ている症状が︑内科機能的なものなのか︑精神的なものから生ずるものなのか︑
を見極めることが大切である︒内科的な問題がない場合は︑精神的ケアの必要性を学生に理解させていく︒しかし学生
の意識が身体の症状に向いているものを無理に内的なものに向けるのではなく︑保健室と連携するなどし︑﹁困ってい
る﹂ことに関して支援しつつ︑身体の問題から精神的なものへの洞察を深めていくことが必要であると考える︒原因が
分かれば精神的不安はかなり軽減されることも多い︒
第三因子﹁自己不安﹂に関しては︑本人も﹁何が理由か分からない﹂ということが多い︒理由の分からない不安ほ
ど︑不安の度合いは大きい︒﹁何から手をつけていいのか分からない﹂というケ1スが目立つ︒聖学院大学学生相談室
で扱うケ1スとしては︑青年期特有の揺れや不安定さをも苧んでいるこのようなケ1スが多い︒第三因子のようなケl
スの場合は︑まず︑足元を照らし︑﹁今何をするか﹂という課題を与えていくことが大事である︒また自己評価の低い
学生が多いので︑現実検討をしつつ︑小さい目標をひとつひとつクリアすることで自信を持たせ︑﹁自分は自分でいい
んだ﹂という自己への肯定感を育てていくことを目的としたい︒
このように︑同じように﹁不安﹂を訴えてくるケIスでも︑不安の内容の違いによって学生相談室での支援の方法も
変わ
って
くる
︒
そして回復︑または達成への道筋はそれぞれに違い︑そのスピードも各々違う︒画一的に学生の訴える
﹁困ったこと﹂に焦点を当てるのではなく︑その不安がどこから生じるものなのかを見極めて︑適切な方法によって学
生を支援していくことが大事である︒
以上のようなことから︑UPIテストは︑学生の不安を理解する上で︑有効な一方法であると言える︒
W
まとめと今後の課題
大学時代は精神的・社会的自立への過程として大事な時期である︒大学での教育は︑専門知識の習得だけではなく︑
自己への理解を深め円満な人格の形成と︑将来の職業や目的を選択する力を得るためにも重要となってくる︒
﹁不安﹂という訴えで学生相談室を利用する学生でも︑不安の内容が異なることで︑その回復過程や必要とする方法
が違うことが明確になった︒これは学生を理解し︑学生の抱える課題や問題を分析していく上で有効である︒
UPIテストを分析することで︑本学の学生の不安の傾向を理解するためのひとつの資料となることは確かである︒
それ
に加
え︑
UPIテストを受けることで学生が自ら抱える課題や問題を意識化し︑それらに取り組んでいく機会とな
ること︑問題に早期に対応するという予防的役割も期待できる︒
以上のような点からUPIテストの分析を行うことは︑学生の不安傾向を把握する一助となることは明らかになった
が︑現在は自由記入欄で﹁予約したい﹂と記入した学生ヘ連絡し面談に繋げるということに留まっているが︑今後は
UPIテストで高得点を記録した学生︑または各因子で得点している典型例のようなケ1スへの積極的介入も検討する
必要があると思われる︒
UPIテスト得点は︑単に心身が健康かそうでないかということだけでなく︑内面への洞察力の高さや敏感さ︑問題
への取り組み方などが理由になり変化するものであると考える︒今後はそのような視点も含め︑学生理解の一方法とし
て活用していきたい︒
UPIテストからみる学生の不安傾向の理解 531
文 献
(1
)E
・H・エリクソン︑岩瀬庸理訳﹃アイデンティティ改訂││青年と危機﹄︑金沢文庫︑
(2
)E
・H・エリクソン︑仁科弥生訳︑﹃幼児期と社会2﹄︑みすず書房︑一九八O
( 3 )
松原達哉(編)︑﹃心理学テスト法入門﹄︑日本文化科学社︑一九九五8
・口 ア口
∞
(4
)J
・ コ
1
ルマ ン︑ L・へンドリ1︑白井敏明他訳﹃青年期の本質﹄︑ミネルヴァ書房︑二
OO
三
(5
)F
・B・ニュートン他編︑同国臣他訳﹃大学生の学生指導﹄︑玉川大学出版部︑一九八六
( 6 )
阿部千香子︑﹁入学時調査について﹂︑麗津大学学生相談室︑二
OO
三
( 7 )
阿部千香子︑﹁志向度調査とUPI調査の関連性について﹂︑麗津大学学生相談室︑二OO三
( 8 )
独協大学カウンセリングセンター︑﹁カウンセリングセンター新入生調査﹂︑独協大学カウンセリングセンター︑二OO四
( 9 )
田中亜裕子︑﹁学生に対する
QOL 調査││学生チェックカタログの学年間比較﹂︑江南女子大学学生相談室︑二OO四
一九 八二
同} 司・ ]戸
︒︒
IH
∞ ∞