口 本管理会 計 学会 誌
管 理 会計学1999年 第7巻第1・2A 併号
論 文
日本 にお け る企業 間 関 係の 構 築によるコ ス ト低減 戦 略
鈴 木 浩三 *
〈論 文 要 旨〉
最 近の 日本の製 造 業に おい て は, コ ス ト低 減の ための 戦 略 的 意思決 定 とし て, 従 来の 系 列や 企業 集 団を超え た合 併 ・買 収,提 携が増 加 してい る.既 存の企 業 集 団 (系 列 ・企 業グループ)内の再 編 ・統合 も進行 し てい る.さらに,国際規模での合併 ・提携が増加
してお り, それ らの 大 規 模 化とい うトレン ド も み ら れ る.
そ れ ら は,従来の 日本の製造業にお け るコ ス ト低減の パ ラダ イム に, 大きな変化の潮
流 をもた らし て い る。
そこ で本 稿では, 1997 〜 1998 年にかけて 日本の 製 造 業が 関 係 した企 業 間 関 係の 構 築 に係る事例 研 究 を 基 礎に, 次の(1)〜
(3)の内 容 を 示 す.また,企業問関係が成立する背後
に存 在 する企 業,業 界,政 府の行 動 様 式 につ い て も触れ る.それ らを通 じて , 現 在 日本
の製造 業で進行しつ つ あるコ ス ト低減に向け た 戦略性の一端を描い てい く.
(1)コ ス ト低減を 目 的 と す る合 併,買収,提 携とい っ た 企 業間 関係 (以 下,「企業 間関係」
とい う)の構 築に おい て低 減 対 象 と なるコ ス トの種 類は, その 産 業の属 する産 業の
ラ イフ ・サ イ クル (induStria1 life Cycle : ILC )や, 主 力製品の プロ ダク ト・ラ イフ ・サ イ クル (Product life Cycle : PLC >に応 じ た も の と な る.
(2) ある産 業に お け る企 業 間 関 係の構 築 目 的や,態 様 も,その産 業の ILC や PLC と一 定の関係を持つ .
(3) 日本 特 有の企 業・業 界 政 府の行 動パ ターンが,コ ス ト低 減の た めの企 業 間 関 係に も 影 響 を与え てい る.
〈キ ーワー ド〉
企業間 関 係,合併, 買収, 提携, コ ス ト低減, 産業の ライフ ・サ イ クル ,プロ ダ ク ト ・
ライフ ・サ イクル ,戦 略 的コス トマ ネジ メ ン ト,競 争 優 位,価 値 連 鎖 1999年4月 受 付
1999 年 6月 受埋
*東 京 都 職 員 研 修 所 調 査 研 究 室 課 長 補 佐
1. は じめに
L1 本稿の 目的
世界 的規模で の競 争激化の 中で , 「良い 製 品を安 く」生産するこ との 重要性が高まっ て
お り, 最 近の 日本の 製 造 業で は. コ ス ト低 減の た めの 戦 略 的 意 思 決 定 と して , 従 来の系列
や企 業 集団を超 え た合 併 ・買収, 提 携が増 加 し てい る.その 一方で, 従来か ら み ら れ た 既
存の企 業 集 団 (系 列 ・企 業グル ープ)の再 編 ・統 合 も盛んで ある . さら に, 国 籍の異 なる 企業どうし や, 異 なる業種間での 合併 ・提 携 も増 加し てい る.
その 背 景 に は, 競 争 を勝 ち抜 くた め に不 可 欠 な コ ス ト低 減に 向けた企 業 戦 略 におい て ,
他 社の経 営資源の 活 用 に よる 迅速 ・確実 なコ ス ト低 減へ の 指向が強 まっ て い るこ と が考え
ら れ る.そ れ は後 述の ように, 従 来 型の企業 間結 合 に基づ くコ ス ト低 減の 限 界が 生 じて き た一方で,新たな形 式の企業間 関係の 構築を通 じ た コ ス ト低減の有 効性 とス ピー ドが強く 認 識 され, 期 待されて い る か らで ある.つ ま り, 21 世紀を目前に した現在, 従 来の 企業
間関係の パ ラ ダイム に変化が生 じて い るの で はない だ ろ うか.
そこ で本 稿で は,独立 し た 企業 どうしの 結 合 ・協力 関係 間の構築, すな わ ち,合 併 ・買 収, 提 携 とい っ た企 業 間 関係 を対象に しなが ら, 現 代の 日本の 製 造 業 に お ける コ ス ト低減
の た めの戦 略的レベ ル で の 意 思 決 定の特 徴 を示 して い きたい .
L2 戦略的 コ ス ト低減と価 値連 鎖
経 営 戦 略は 「競 争 優 位 の獲 得 をめ ざ して , 自杜 が どん な事 業 を営むかに関 して , 環 境 適 応 的 に行 う, 一連 の 基本的 な意思 決定と行 動 」(柴田’ 中橋 [1997]P ,106)で あ り, 事 業戦略, 実行戦 略 , 全社戦略に大 別 される .こ の うちの 実行戦 略は 「競 争 優 位 を獲得で きる 製 品やサ ービス を 生み出 す価 値 連 鎖の 構築に 関 する基 本 的 な 意 思決定と行 動」である (柴
田 中橋 [1997]P119)一方 ,戦略的 コ ス トマ ネジメ ン トは 「戦 略 的 要 素が ます ます意識 さ れ, 明確 に さ れ, 公 式 化さ れ た, 広い 意 味で の コ ス ト分 析 」で あ り, そこ で は, コ ス ト データ を用い た戦 略立案が行 わ れ れ (Shank and GoVindaragan [1993 ]訳書 P,3), 価 値 連 鎖 分 析, 戦 略 的ポ ジシ ョ ニ ン グ分 析, コ ス ト ドラ イバ ー分 析の 3つ の 会計 分析 手法か
ら成 り立つ とさ れ る (Shank and Govindaraga血 [1993]訳書P, 10).
つ ま り, こ こ でい う, 「コ ス ト低減の ための 戦略的 レベ ル で の意思決 定」の 中心 的 プロ
セス は戦略的コ ス ト低 減で あ る が, そ れ は, 戦略的コ ス トマ ネジメ ン トの 具体 的 手段 の一
つ と して, 経 営 戦 略の 一環 と して位 置づ けら れ る.
日本に おける企業 問関係の構 築によるコ ス ト低 減戦 略
一方, ポーターの 戦略類型論に よ れば, 競 争優 位の タ イプは低 コ ス トと差 別 化 の 2つ に
大 別さ れ, そ れを達成するための 3つ の 基本戦略 ( コ ス ト ・リーダーシ ッ プ, 差 別化, 集 中 [コ ス ト集 中と差 別 化 集 中])が 識 別 されて い る (Porter [1998]訳 書 PP .15−17).
コ ス ト優位の源 泉として は, 規模の 経済性の 追求, 独 自技術 によ る もの , 他 社 よ り有 利 な 原 材 料 確 保な ど多様で あ り, 業 界の構 造 に よっ て 異 なる とされ て い る.た だ し, 低コ ス ト
と差 別 化は択一的 な関係にある もの で はな く, 低 コ ス ト戦 略 を とる場 合で も, 製 品が他 社 よ り も優れて い ない と評 価 され れ ば競 争 優 位の確保は困 難 と な る.差別化戦略をと る場 合 も, 他 社 よ りもコ ス ト地 位が著し く劣るの であれば , 差 別 化 に よっ て もた ら される プ レ ミ ア ム の 幅が減少 するこ とに もな る. また, 効 率 的な工程管理や , 技術 革新な どに よっ て差 別 化 を追求 しなが らコ ス ト低 減に成功する こ ともある (Por七er [1998 ]訳 書PP .16 −25 ).
例 え ば ,製 品に含ま れ る部 品の大 幅な コ ス ト改善 と機 能向上 が , 技術革新に よっ て 同時 に 達 成 される 場 合 が ある . 最 先 端 技 術 の 追 究 に よ り, 業 界 をリー ドする技 術 力 を獲 得 す る
(差別化 )一方で , その技 術 を低 価格 品に応用 するこ とで , 規模拡 大な どに よ るコ ス ト低 減を実 現で きる, 可 能 性 もある.
つ ま り, 競争優 位の 獲 得の ため に は, 低 コ ス ト戦略で あれ差別化戦 略であれ, コ ス ト低 減の対 象 分 野や 目的は別に して も,コ ス トマ ネジメ ン トへ の 視 点 を欠かす こ と はで きない . 一方, 西 口 に よれば, そうし た競争に係 る 戦略 と は 別 に, 組織どうしの 相互作 用 の 中に
は, 単なる競 争や調 整で はない 新た な価値の創造 を指 向す る もの が含 まれてお り, それが 組織 間 関係 の 「共進化」で ある と されて い る (西 田敏宏 [1998]P.199).そ こに コ ス トマ
ネ ジメ ン トの領域 が含 ま れ る とすれ ば,企 業 間 関係 を軸 と し た コ ス ト低 減の た めの 新た な 戦 略の展 開 も考え られ る.
本稿で 企業 間関係に着目 した理 由は , 合併の 場 合で は外 部経営 資源の 直接 的な獲 得,提 携で は内 部 成 長 戦 略 と合 併 ・買 収の 中 間 的 方法が と ら れ る (若杉 [1989 ]PP .4 −7)よ う
に,そうし た ケース で は , 他社 との 関係構築 を契 機に, 通常は外部 に は見えに くい 内部的 なコ ス ト低 減 戦 略 や企 業 経 営上の 最 高 レベ ル の 戦 略 性が, 外 部 に表わ れる機 会 が多い か ら
である。 ま た, 企業間 関係の 構築の 中 に, そ れ ぞ れの企 業の もつ 価値連 鎖の 統合 作用 を具 体的に観察する こ と が で きる か ら である。
し か も,ある業 界 に属す る企業の 価 値 連 鎖 は,企業の 歴 史や ,企 業の発 展 段 階や 製 品の 性 格 によ っ て異 なるが, そ うし た価 値 連 鎖の相 違は競 争 相 手に対 す る競 争 優位の 差 異 にな り得
る.それ 故, 企 業 問 関係の構築に よっ て , 同業 種 ,異 業 種の 別 な く, 他社 の価値連鎖 を 自社に 取 り込んだ り (合併 ・買 収 ), お 互 い の価 値 連 鎖 を調整 し た り同…化し て (提携 ),自社の 価値 連 鎖の 幅 を効 果的 に広 げる こ とに よ っ て ,薪た な競 争優位 を獲 得 するこ と も可 能 と な る
(Porter [1985]訳 書 PP .47−49).
以 上の ような前 提の もとに, 戦 略 的 なコ ス ト低減を実現 する 企業 間結 合を模 索する に は, 自
企業 と相手企業そ れ ぞ れの 発展 段 階に応 じて形成 される「性 格」を的確に把握する必要が 生 じ る.
この こ と は, 自社 と相 手企業の価値 連 鎖の調整や同一化の 対象部分を絞り込む こ とで ある,
本 稿で は, こ の 「性 格」の 把握 に資する た め に, ある企業が属 する産 業の ラ イフ ・サ イ
クル (ILC ) (森 川英正 [1995]訳 書 PP .14−17.Vernon [1966]P.199)や 主力 製 品の プ
ロ ダク ト ・ラ イ フ ・サ イ クル (PLC )(村 田眼 次 [1987 ]訳 書PP 。262−266)の 状態 と, 企業 間 関係の 結 合 形 態や 目的, 企 業間関係 構築を通 じ た コ ス ト低 減の対 象 項 目との 問に存 在 する と考えら れ る一定の 相互 関 係 を検討す る,そ して , そ れ らの 結果 を, 効果 的なコ ス
ト低 減 を目 的とする 企業 間関 係を模 索 する際の , 相 手企業を 選 択 す る た め の指 針 と して示 す もの で ある.そこ に は,競争優 位 を め ざ す 中で , 自社 と他 社 それ ぞ れの 価 値 連 鎖の どこ
の 部分 を調 整すれば効果 的 なコ ス ト低 減 に結び くの か とい う問題 意 識がある.
なお, 本稿で い うプロ ダ ク ト ・ラ イ フ ・サ イク ル (PLC )とは , 新製 品 には , 導入期 ・
成 長期 ・成 熟 期 ・衰 退 期 とい う4 つ の段 階が ある こ とを指 す .そ し て, PLC の段 階に応 じ
た形で 価 値 連 鎖の 形態も特色 を帯び,あ るい は, 競 争 条 件や コ ス ト条 件 な ど も そ れぞれ の 段 階に よっ て 影 響 を受 ける もの と考 えら れ る .
一方 , 産 業の ライ フ ・サイクル (ILC )は ,ヴァ ーノ ン の 「プロ ダ ク ト ・サ イク ル 論 」 や赤 松 要の 「雁行形態論 」 とい っ た個 々 の 産業の 発 展 ・衰退 を説 明する 理論に基づい
て い る . しか し, ポー タ ーは
, ラ イ フ サ イ クル 初期に お い て は製 品 革新に 主 力 が注が れ, 業界の 成 熟 に従っ て 技 術 変 化の 主 役が 製 品 革 新か ら製 法革新 に 移 行 し, 製 品の 規 格 化に よ る コ ス ト削 減が 主 目的 に な り, 成熟末 期 に な る と あ らゆ る革 新 が減 速 す る ,
とい う プロ ダク ト ・サ イ クル 論に対 して , すべ て の 業 界に こ の 技 術 発 展パ タ ー ン が該 当す る もの で は な く, 技 術 進 化 の 様 子 も業 界 に よ っ て多 様で あ り,技術進 化の パ ター
ン は業 界の 特 性 の 結果で あ り, 総体的業 界 構造 の 進化の 一環 と して 理 解 すべ きで ある と述べ て い る (Por七er [1985]訳 書 PP .240−241).
し か し, 企業間関 係の構 築に よ るコ ス ト低 減 戦 略を考 える場 合, 個々 の 企業の さ まざま
な レベ ル の 価値 連 鎖を考 察 する必 要が ある の と同様, その 業界に特有な環 境条件 ・競 争 条 件を, ILC をフ ィ ルタ ーに用 い なが ら把 握 し て お くこ とは, 自社 と相 手企 業の価 値 連 鎖の 調 整や 同一化, 結 合 に よる コ ス ト条件へ の 影響を検討する上で 有益 と なろ う.
こ の よ うに本 稿で は , 日本の製 造 業に お け る 企業 間 関 係 を大 観 し, そこ で の戦 略 的 コ ス ト低減 に関 する基 調 を明 ら か にす る こ と を重 視 し た. その ため , デ ータ の 収 集 ,処理,検 証方法など に関 して 未 解 決の 部 分が多い 点や, 具 体 的 なコ ス ト データを用い た分 析 を行 う