体外発 育培養液 への抗酸化剤 の添加 は

体外発 育培養液 への抗酸化剤 の添加 は

各種哺乳動物 の卵母細胞 の胚発生能 を 向上 させ るか

〜受精能及 び初期胚 の発 生能 向上 を 目指 して〜

内 堀

要 旨

生 殖 補 助 医療(ART)に お い て、 体 外 受 精 胚 移 植 法 の 成 功 率 の 向上 に 向 け て 、 低 成 熟 率 ・低 受 精 率 ・胚 の形 態 的不 良 の た め移 植 に まで 至 らな い症 例 を 如 何 に 克服 す るか が 大 き な 課 題 とな っ て い る 。 これ ま で、

この課 題 解 決 に 向 け た基 礎 的 研 究 が 報 告 され て お り、 活 性 酸 素 に よ るDNA損 害 、 脂 質 過 酸 化 、 タ ンパ ク 質 の損 傷 な どの卵 子 を取 り囲 む 卵巣 卵胞 内環 境 の 悪 化 が 重 要 な 要 因 とな って い る こ とが 明 らか とな って い る。 現 在 、 こ の卵 巣 卵 胞 内環 境 悪 化 を軽 減 す る 目的 で 、 患者 に 対 す る 抗 酸 化 剤 の サ プ リ メ ン トの 服 用 が 試 み られ て い る。 さ らに、 そ れ らの抗 酸 化 剤 を直 接培 地 に 添 加 す る試 み も行 わ れ てお り、 卵 成 熟 能 、 受 精 能 及 び初 期 胚 の発 生 能 に対 して有 効 性 が示 さ れ て い る報 告 も認 め られ る。 そ こで 本 論 文 で は、 哺 乳 動 物 にお い て体 外 発 育 培 養 液 へ の抗 酸 化 剤 の 添加 が 卵母 細胞 の 胚 発 生 能 に 及 ぼ す 影 響 を 検 討 して い る最 近 の 研 究 動 向 につ い て 概 説 す る 。

キ ー ワ ー ド 活 性 酸 素(ROS)、 抗 酸 化 剤 、 コ エ ン ザ イ ムQ10、 メ ラ トニ ン 、 レス ベ ラ ト ロ ー ル

1.緒 論

現 在 、 不 妊 症 治 療 と して広 く行 われ てい る生 殖 補 助 医 療(ART)に お い て 、 体 外 受 精胚 移 植 法(IVF‑ET) の妊 娠 率 は 胚 移 植 あ た り26.4%(日 本 産 科 婦 人 科 学 会2009)と さ れ て い る。 この 妊 娠 に至 らな い 症 例 と して、 形 態 的 に 良 好 な胚 を移 植 して も妊 娠 に至 らな い反 復 不 成 功 例 が あ げ られ る が 、低 成 熟 率 ・低 受 精 率 ・ 形 態 的 な胚 の質 の不 良 を如 何 に克 服 す る か が、ARTに お け る大 き な課 題 とな っ てい る。 これ ま で、 この 症 例 を改 善 す る た め に様 々 な基 礎 的研 究 が 行 わ れ て お り、 特 に 、 活 性 酸 素 種 と女 性 生 殖 との 関 連 を 調 べ た研 究 で は 、 活 性 酸 素 な どの 「酸 化 剤 」 とそ れ を 消 去 す る 「酸 化 防 止 剤 」 の 間 の バ ラ ンス の異 常 に起 因 す る DNA損 害 、 脂 質 過 酸 化 、 タ ンパ ク質 の損 傷 な どが、 卵 子 を 取 り囲 む 卵 巣 卵 胞 内 環境 の悪 化 を招 く こ とが 明 らか とな っ て い る(2)(11)。一 般 に 、細 胞 は活 性 酸 素 種 に 対 して 抗 酸 化 作 用 に よ る防 御 シス テ ム を 備 えて お り、 非 酵 素 系(低 分 子 抗 酸 化 剤)、 酵 素 系 な どを 中 心 に して 、活 性 酸 素 種 か ら細 胞 を 守 る シ ス テ ム が 構 築 され て い る(35)。ARTの 臨床 現 場 で は 、活 性 酸 素 種 か ら細 胞 を 守 る シ ス テ ム が うま く機 能 して い な い と考 え られ る症 例 に お い て、 卵 巣 卵 胞 内環 境 の 悪化 を 防 ぐ試 み と して 、 抗 酸 化 剤 の サ プ リ メ ン トを 適 用 す る こ とが行 われ て い る。 これ ま で 、排 卵 障 害 、受 精 能及 び 初 期 胚 の 発 生 能 低 下 、 卵 管 障 害 、 子 宮 内膜 症 な どに 起 因 す る酸 化 ス ト レス 軽 減 を 目的 と して コエ ン ザ イ ムQ10(CoenzymeQ10;CoQ10)、 レス ベ ラ トロー ル 、 メ ラ トニ ン、 ビ タ ミ ンE、 ビ タ ミ ンCな どが 用 い られ てい る(31)。 ま た、 そ れ らの抗 酸 化 剤 を 直 接 培 地 に添 加 す る試 み(4)(15)(21)も 行 わ れ て お り、 そ の卵 成 熟 能 、受 精 能 及 び初 期 胚 の 発 生 能 に対 す る有 効 性

原 稿 受 付2014年2月28日

1.近 畿 大 学 生 物 理 工 学 部 遺 伝 子 工 学 科,〒649‑6493和 歌 山 県 紀 の川 市 西 三 谷930

2.近 畿 大 学 大 学 院 生 物 理 工 学 研 究 科 生 物 工 学 専 攻,〒649‑6493和 歌 山 県 紀 の 川 市 西 三 谷930 3.医 療 法 人 三 慧 会IVFな ん ば ク リニ ッ ク 培 養 環 境 部 門,〒550‑0015大 阪 市 西 区 南 堀 江1‑17‑28

が示 唆 され て い る。

本 論 文 で は、 哺乳 動 物 の卵 母 細 胞 の胚 発 生 能 の 向 上 を 目的 に 、体 外 発 育 培 養 液 に添 加 した抗 酸 化 剤 が 受 精 後 の胚 発 生 に及 ぼ す影 響 を調 べ た 最近 の 研 究 を概 観 して 、 生 殖補 助 医 療 現 場 にお い て 今 後 の 抗 酸 化 剤 の 活 用 の 展 望 につ い て 言及 す る。

2.各 抗 酸 化 剤 の 体外 発 育 培 養 液 へ の 添 加 の 影 響

2.1体 外 発 生培 地へ の コエ ンザ イ ムQlo(CoQlo)添 加 が胚 発 生 に及 ぼ す 影 響 の可 能 性 につ い て 最 近 、 多 くの ヒ ト疾 患 の 中 で ミ トコ ン ドリア機 能 低 下 に よる疾 患 の治 療 に おい て、 抗 酸 化 作 用 やATP産 生 元 進 の両 面 か ら ミ トコ ン ドリア機 能 を 改 善 す る 目的 で 、 脂 溶 性 の ビ タ ミ ン様 物 質 で キ ノ ン構 造 を 有 す る 補 酵 素 コ エ ン ザ イ ムQ10(CoQ10)が 服 用 さ れ て い る。 このCoQ10は 、細 胞 内 で は ミ トコ ン ド リア に多 く分 布 し、 複 合 体1(NADHデ ヒ ドロ ゲ ナー ゼ)、 複 合 体II(コ ハ ク酸 デ ヒ ドロ ゲ ナ ー ゼ)か ら複 合 体III (補酵 素Q一 シ トクロ ムcレ ダ ク ター ゼ)の 電 子 授 受 に 関 与 し、電 子 伝 達 系 の 補 酵 素 と して 重 要 な 働 きを 有 す る と共 に、 ミ トコ ン ドリ ア呼 吸鎖 の 活 性 を 高 め 、ATPエ ネ ル ギ ー の 産 生 を 高 め る重 要 な物 質 で あ る(6)

(図1)。

Mitochondri日

〔oQIO

■

Coq10

■ V

ADPATP

ATP

図1.ミ ト コ ン ド リ ア の 電 子 伝 達 系 とATP合 成 に お け るCoQloの 機 能

ま た、 ヒ トの 生 体 内 で酸 化 型 か ら還 元 型 に変 換 され て 抗 酸 化 作 用 を 示 すCoQloは 生 体 内 で生 合 成 可 能 な酵 素 で もあ るが 、 加 齢 と と も にCoQ10そ の もの の体 内 生 産 量 が 低 下 す る と と も に、 酸 化 型 か ら還 元 型 へ の変 換 力 が低 下 す る こ とが 明 らか に な っ て い る(27)。 これ らの こ とか ら、ARTの 臨 床 現 場 にお い て、 加 齢 等 に よ り卵 巣 卵 胞 内 の細 胞 の ミ トコ ン ドリア 機 能 が 低 下 した と考 え られ る患 者 がCoQ10を 服 用 し た場 合 、 血 中及 び 卵 胞 液 中 のCoQlo量 の増 加 に よ って 卵 巣 卵 胞 内 の 細 胞 の ミ トコ ン ドリ ア機 能 の元 進 と卵 巣 卵 胞 内環 境 に お け る酸 化 ス トレス の 軽 減 を 導 き 、 そ の結 果 獲 得 さ れ る卵 子 の 卵 成 熟 能 や 受 精 能 及 び 初 期 胚

の発 生 能 の 改 善 が 期待 さ れ る。

Turiら は、 ヒ トの 卵 胞 液 に 存 在 す るCoQ10と 卵 の受 精 ・発 育 と卵 胞 液 中 のCoQ10の 濃 度 との相 関 につ い て調 査 し、 卵 胞 液 に はCoQloが 存 在 し卵 の 成 熟 や 胚 の質 の 向上 と相 関が あ った と報 告 した(39)。 この こ とよ り卵 子 の 成 熟 、 受 精 の過 程 でCoQloの よ うな 抗 酸 化 剤 が 生 殖 細 胞 の機 能 維 持 に関 わ っ て い る こ とが 示 唆 さ れ た 。 実 際 に、 ウ シ の 卵 の 培 養 液 へ のCoQ10の 添 加 に よ り、 フ リー ラ ジ カ ル を 捕 捉 す る こ とで リ

ボ ソ ー ム 膜 の 酸 化 ス トレス を軽 減 させ 胚 発 育 の 改 善 が み られ た とい う報 告(34)も あ り、 抗 酸 化 とATPの 合 成 に 関わ るCoQ10は 、 卵 子 の 成 熟 か ら胚 盤 胞 形 成 や そ の 後 のHatchingの プ ロセ ス に必 要 な 物 質 で あ る

こ とが示 唆 さ れ た。 以 上 の こ とよ り、 マ ウ ス に お い て も電子 伝 達 系 の 必 須 因 子 で あ り抗 酸 化 物 質 と して 生 体 内 で 重 要 な 物 質 とさ れ るCoQ10の 体 外 発 育 培 養 液 へ の 添 加 に よ るマ ウ ス 卵 子 の 体 外 受 精 お よ び 体 外 で の初 期 胚 発 生 に お け る効 果 を検 討 し、酸 化 ス トレス を軽 減 さ せ エ ネ ル ギ ー 代 謝 を 賦 活 させ る こ とで 卵 子 の 質 を改 善 させ る こ とが示 唆 され る。

経 口投 与 の 場 合 は初 め か ら還 元 型 のCoQ10を 服 用 す る こ と に よ り、 そ の ま ま 小 腸 で 吸 収 さ れ 変 換 され る必 要 な く体 内 でCoQloの 機 能 を 発 揮 で き る こ とが 明 らか に され て い るが(図2)、 体 外 発 育 培 養 液 へ の 還 元 型CoQ10の 添 加 に よ る卵 子 の質 の 改 善 を 目的 と した 研 究 は行 わ れ て い ない 。 現 在 、 我 々 は 、 高 純 度 還 元 型CoQloを マ ウ ス 卵 子 の 体 外 発 育 培 養 液 へ 添 加 す る こ とで 、 還 元 型CoQloの 卵 子 に対 す る安 全 性 、 卵 成 熟 能 、 受 精 能 及 び初 期 胚 の発 生 能 を 確認 す る と と もに 、 最 終 的 に は ヒ ト卵 子 へ の 応 用 を 見 据 え た検 討

を行 って い る。

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図2.酸 化 型CoQ10と 還 元 型CoQ10が 体 内 で 発 揮 す る エ ネ ル ギ ー 量 の 違 い

2.2体 外 発 生 培 地 へ の メ ラ トニ ン 添 加 が 胚 発 生 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て

メ ラ トニ ン(N‑acetyL5‑methoxytryptamine)は 脳 の 松 果 体 か ら 分 泌 さ れ る ホ ル モ ン の1つ で 、 抗 酸 化 作 用 を 有 す る こ と が 明 ら か と な っ て い る 。 活 性 酸 素 だ け で は な く、 一 酸 化 窒 素 や 過 酸 化 脂 質 な ど 様 々 な ブ リー ラ ジ カ ル も 消 去 す る こ と が で き 、 ア ル ツ ハ イ マ ー 病 や パ ー キ ン ソ ン 病 の 予 防 効 果 も 期 待 さ れ て い る 。 ま た 、 メ ラ トニ ン は 直 接 フ リー ラ ジ カ ル を 消 去 し た 場 合 で も 、 自 身 が 酸 化 さ れ て も 安 定 で 他 の 物 質 を 酸 化 す る こ と は な く 、 さ ら に グ ル タ チ オ ン ペ ル オ キ シ ダ ー ゼ な ど の 酵 素 系 抗 酸 化 剤 の 活 性 を 高 め る 効 果 も 報 告 さ れ て い る(29)(図3)。 こ の よ う な 多 方 面 の 抗 酸 化 作 用 に よ っ て 、 細 胞 内 の タ ン パ ク 質 、 核 内 のDNA、 ミ

トコ ン ドリ ア な ど の ダ メ ー ジ を 防 ぐ こ と が で き る と考 え られ て い る 。

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Oxidative s廿os呂

図3.細 胞 内 にお け るメ ラ トニ ン の抗 酸 化 作 用

メ ラ トニ ン の 服 用 に よ り卵 巣 内 に お け る 酸 化 ス ト レ ス を 低 下 さ せ 卵 の 質 を 向 上 さ せ る こ と は 、 臨 床 系 の 論 文 で も 示 さ れ て い る 。Nishiharaら は 、 低 受 精 率 群 で の メ ラ トニ ン の 服 用 前 と 服 用 後 の 受 精 率 が35.1%

か ら68.2%に ま で 上 昇 し 、 ま た 胚 移 植 が 可 能 な 胚 の 割 合 も 服 用 前 の48.0%か ら65.6%に 改 善 さ れ 、 結 果 と し て 胚 の 利 用 率 が 向 上 し た と報 告 し て い る(24)。 こ れ は 、 メ ラ トニ ン の 服 用 に よ る 抗 酸 化 作 用 が 卵 胞 液 中 の 活 性 酸 素 を 減 少 さ せ 、 胚 質 不 良 例 に 対 し て 卵 子 の 質 を 改 善 さ せ る こ とを 示 唆 して い る 。 ま た 。 排 卵 前 の 卵 胞 液 に は 血 清 よ り も 高 濃 度 で メ ラ トニ ン が 存 在 す る こ と(7)や 、 穎 粒 膜 細 胞 の レ セ プ タ ー を 通 じて 卵 巣 の 機 能 を 調 節 し て い る 可 能 性 も示 唆 さ れ て お り(37)(38)(42)、 メ ラ トニ ン の 生 理 作 用 が 睡 眠 に 関 わ る 本 来

の 働 き で は な く、 女 性 生 殖 の 生 理 作 用 に 関 わ っ て い る こ と が 示 唆 さ れ て い る 。

培 養 液 へ の メ ラ トニ ン の 添 加 は 、 ヒ ト以 外 の 哺 乳 動 物 卵 子 で 成 熟 が 促 進 さ れ た とい う報 告 が あ る(17)(30)。

ま たKimら は 、 卵 胞 液 に は 高 濃 度 の メ ラ トニ ン が 存 在 し、 穎 粒 膜 細 胞 か ら分 泌 さ れ て い る こ と も 証 明 して い る(19)。 卵 胞 液 中 の 穎 粒 膜 細 胞 を 回 収 し培 養 す る こ と で 、 培 養 液 中 の メ ラ トニ ン 濃 度 が 上 昇 し 、 穎 粒 膜 細 胞 存 在 下 で メ ラ トニ ン が 合 成 さ れ て い る こ と が 証 明 さ れ 、 メ ラ トニ ン の 前 駆 体 で あ る ト リ プ トフ ァ ン 存 在 下 でacetylserotoninO‑methyltransferase(ASMT)やaralkylamineN‑acetyltransferase(AANAT)な ど

の メ ラ トニ ン 合 成 の た め の 酵 素 の 発 現 が 促 進 さ れ て い る こ と か ら も 穎 粒 膜 細 胞 に よ っ て メ ラ トニ ン が 合 成 さ れ て い る こ と が 証 明 さ れ た 。 こ の こ とか ら、 体 外 成 熟 培 養(IVM)の 際 に メ ラ トニ ン 分 泌 が 不 十 分 で あ る と、 卵 子 の 細 胞 質 成 熟 に 影 響 し核 成 熟 との 不 調 和 に よ る 胚 発 生 能 の 低 下 が 懸 念 さ れ 、 特 にIVMは 通 常 の IVFよ り も 早 い 時 期 か ら 卵 子 を 体 外 に 出 す た め 、 培 養 液 へ の メ ラ トニ ン の 添 加 が 成 熟 率 の 向 上 を も た ら す 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 実 際 に 妊 娠 率 ・着 床 率 の 上 昇 も み ら れ た こ と は 、 メ ラ トニ ン がIVM中 の 卵 の 細 胞 質 成 熟 とそ の 後 の 胚 発 育 が 促 進 し た こ とを 示 唆 し て い る 。

2.3体 外 発 生 培 地 へ の レ ス ベ ラ ト ロ ー ル 添 加 が 胚 発 生 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て

レ ス ベ ラ ト ロ ー ル は ポ リ フ ェ ノ ー ル に 含 ま れ て い る 化 合 物 で(40)、 ピ ー ナ ッ ツ(41)、 桑 の 実(33)、 コ コ ア(14)、 イ タ ド リ(9)な ど の 食 品 に 含 ま れ て お り、 特 に ブ ド ウ(16)や 赤 ワ イ ン(5)に 含 ま れ て い る 抗 酸 化 物

質 で あ る 。 レ ス ベ ラ トロ ー ル の 生 物 学 的 重 要 性 は 、 頻 繁 に 研 究 さ れ て い る 。 マ ウ ス や ラ ッ トな ど を 用 い た 研 究 で は 、 寿 命 延 長(13)、 抗 癌(16)、 抗 糖 尿 病(26)、 循 環 器 系(36)、 認 知 症 予 防(18)に お い て レ ス ベ ラ ト

ロ ー ル が 効 果 を 持 つ と い う こ と が 明 ら か に な っ て い る 。 し か し 、 レ ス ベ ラ ト ロ ー ル の 生 物 学 的 メ カ ニ ズ ム に つ い て は 、 十 分 に 明 ら か に さ れ て い な い 。 これ ま で の 研 究 で レ ス ベ ラ ト ロ ー ル はSIRT1を 活 性 化 さ せ 、 ミ トコ ン ド リ ア 機 能 を 保 護 す る と い う こ とが 示 唆 さ れ て い る(3)。 レ ス ベ ラ ト ロ ー ル の ウ シ の 卵 子 成 熟 に お よ ぼ す 効 果 と そ の メ カ ニ ズ ム を 調 べ た 研 究 に お い て は 、 プ ロ ジ ェ ス テ ロ ン の 分 泌 が 有 意 に 増 加 し、 エ ス ト ラ ジ オ ー ル ー17β の 分 泌 が 有 意 に 低 下 し た 。 一 方 、 成 熟 卵 子 に お け る 細 胞 内 の 活 性 酸 素(Reactiveoxygen species;ROS)レ ベ ル を 有 意 に 低 下 さ せ 、 グ ル タ チ オ ン の レベ ル が 増 加 し た(40)。 細 胞 内 に お い て グ ル タ

チ オ ン は 主 な 抗 酸 化 剤 の 一 つ で 、 酸 化 還 元 ホ メ オ ス タ シ ス の 維 持 、 ペ ル オ キ シ ドの 除 去 、 生 体 異 物 を 解 毒 す る な ど 中 心 的 役 割 を 果 た し て い る(12)。 ま た レ ス ベ ラ ト ロ ー ル はSIRT1の 活 性 化 物 質 、Sir2(silent informationregulator2)の 哺 乳 類 相 同 体 と して 知 ら れ て お り(20)、 ニ コ チ ン ア ミ ドア デ ニ ン ジ ヌ ク レオ チ

ド(NAD+)依 存 性 ク ラ ス 皿 ピ ス ト ン脱 ア セ チ ル 酵 素 と し て 機 能 し て い る(23)。 ∬R71遺 伝 子 は 、 穎 粒 膜 細 胞 、 卵 丘 細 胞 、 胚 盤 胞 に お い て 発 現 が 確 認 さ れ た(40)。 ま た 、Priceら は 、 レ ス ベ ラ トロ ー ル がAMP活 性 化 タ ン パ ク 質 キ ナ ー ゼ を 刺 激 し 、 ミ ト コ ン ド リ ア 機i能 を 向 上 す る た め に は 、invivo、invitro両 状 態 に お い てSIRT1の 活 性 化 が 不 可 欠 で あ る と示 唆 し て い る(28)。 動 物 モ デ ル に お い て レ ス ベ ラ ト ロ ー ル で 処 理 す る こ と で 、SIRT1の 発 現 パ タ ー ン が 反 転 す る(32)。 こ れ ら の 結 果 か ら 、 レ ス ベ ラ トロ ー ル は 、SIRT1の 活 性 化 を 介 す る こ と で 卵 子 成 熟 、IVF後 の 胚 発 生 に お い て そ の 効 果 を 及 ぼ す こ と が 示 唆 さ れ た 。

2.4体 外 発 生 培 地 へ の ビ タ ミ ンCお よ び ビ タ ミ ンE添 加 が 胚 発 生 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て

脂 溶 性 ビ タ ミ ン の 一 種 で あ る ビ タ ミ ンEは ト コ フ ェ ロ ー ル と も 呼 ば れ 、 特 にD一 α一トコ フ ェ ロ ー ル は 自 然 界 に 広 く普 遍 的 に 存 在 し(1)、 生 殖 細 胞 の 脂 質 過 酸 化 を 軽 減 さ せ る 抗 酸 化 物 質 と し て 働 く と考 え られ て い る(22)。 フ リー ラ ジ カ ル を 消 失 さ せ る こ と に よ り、 ラ ジ カ ル と な っ た ビ タ ミ ンEは ビ タ ミ ンCな どの 抗 酸 化 物 質 に よ り ビ タ ミ ンEに 再 生 さ れ る こ と が 分 か っ て い る(8)。 ま た 、 水 溶 性 ビ タ ミ ン で あ る ビ タ ミ ンC

も 強 い 還 元 能 力 を 有 し、 ス ー パ ー オ キ シ ド(02‑)、 ヒ ド ロ キ シ ラ ジ カ ル(・OH)、 過 酸 化 水 素(H202)な ど の 活 性 酸 素 類 を 、 グ ル タ チ オ ン ーア ス コ ル ビ ン 酸 回 路 に よ っ て 消 去 す る こ と が 明 ら か と な っ て い る(25)。

体 外 発 生 培 地 へ 添 加 し た ビ タ ミ ンEや ビ タ ミ ンCの 成 熟 、 胚 発 育 へ の 影 響 を 調 査 す る 目 的 で 研 究 が 行 わ れ て お り、Dalvitら は 、 体 外 成 熟(IVM)に お け る 成 熟 、 体 外 受 精 に お け る 胚 発 育 へ の 影 響 を 調 査 す る 目 的 で 、 ビ タ ミ ンC、 ビ タ ミ ンE、 ま た は そ の 両 方 を 体 外 発 生 培 地 に 添 加 し発 生 と の 関 連 を 調 査 して い る(10)。

卵 丘 ・卵 母 細 胞 複 合 体 中 の ビ タ ミ ンEの 濃 度 は 、 ビ タ ミ ンCを 添 加 す る こ と で 高 濃 度 に 保 た れ る こ とが 分 か っ た が 、IVMに お け る 卵 成 熟 は 改 善 さ れ な か っ た 。 ま た 、 胚 盤 胞 到 達 率 も 、 ビ タ ミ ンC、 ビ タ ミ ンEの 両 方 を 添 加 し た 群 で 有 意 に 到 達 率 が 低 下 し て い る 。 こ れ は 、ROSがDNA損 害 、 脂 質 過 酸 化 、 タ ン パ ク 質

の 損 傷 な ど を 引 き 起 こ す 一 方 で 、 生 殖 細 胞 に お い て 一 定 の 生 理 作 用 を 有 し て い る こ と が 示 唆 さ れ る 。

3.体 外発育培養液へ添加 した各抗酸化剤が胚発生に及ぼす影響の分子的作用機序解明への展望

これ ま で に述 べ た現 在 ま で の知 見 よ り、体 外 発 育 培 養 液 へ の 抗 酸 化 剤 の 添 加 に よ り、 各 抗 酸 化 剤 が 細 胞 内 の タ ンパ ク質 、 核 内のDNA、 ミ トコ ン ドリア な どの酸 化 に よ る ダ メ ー ジを 防 ぐ こ とに よ って 初 期 胚 発 生 に お け る培 養 状 態 を 改 善 させ る こ とで 、 細 胞 質 成 熟 とそ の 後 の 胚 発 育 が促 進 さ れ る こ とが示 唆 され た。

た だ し、 どの抗 酸 化 剤 を用 い るに して も、胚 の発 育 不 良 が 本 当 に酸 化 ス トレス に よ る悪影 響 の結 果 な のか 、 卵 子 、 胚 内 の酸 化 ス トレス が各 抗 酸 化 剤 に よ って軽 減 さ れ て い るか 、 指 標 を 用 い て 検 討 を 行 う必 要 が あ る

と考 え られ る。

サ プ リメ ン トの服 用 は種 類 に よ って は 、毎 日数 回 を 連 日服 用 しな け れ ば な らず 、 そ の 費 用 も 問題 とな っ て くる。 も し、 培 養 液 へ の添 加 に よ っ て胚 の質 が 改 善 さ れ るの で あ れ ば 、 費 用 や サ プ リ メ ン ト服 用 の コ ン プ ライ ア ン ス の 問題 も解 消 で き る と考 え られ る。 また 、 経 口投 与 と培 養 液 の 添 加 を 合 わ せ る こ とで、 よ り 高 い効 果 が 得 られ る こ と も考 え られ る。 今 後 は 、 卵 胞 液 中 の 抗 酸 化 剤 の活 性 や プ ロテ オ ー ム解 析 を 進 め 、

そ の結 果 か ら得 られ た知 見 と結 び つ け る こ とで 、培 養 液 へ 添 加 した 抗 酸 化 剤 が 胚 発 生 に及 ぼ す 影 響 の 分 子 機 構 解 明 の 切 り口に な る こ とが期 待 され る。

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英 文 抄 録

Additionofantioxidantstoculturemediumimproves oocyteandembryoqualityinmammals?

ShoUchibori1,TaktU●iNishihara2'3andKazuyaMatsumoto1'2

Abstract

Assistedreproductivetechnologiesarewidelyacceptedproceduresforthetreatmentofinfertility.

Unfortunately,thesuccessrateofinvitrofertilizationandembryotransfer(IVF‑ET)stillremainslimited to30‑40%duetodevelopmentalandf6rtilizationfailuresandmorphologicalabnormalities.Somestudies haveindicatedthatoxidativestressmaybeacauseofpooroocyteandembryoqualities.Reactiveoxygen species(ROS)havebeenlinkedtoDNAdamage,lipidperoxidation,andproteindamageleadingto

deteriorationofovarianreserve.Recentstudieshavedemonstratedthepotentialbenefitoforal

supplementationofantioxidantfbrpatientswithfertilizationdifficultyand/orpoorembryoquality.This articleprovidesanoverviewofresearchconductedontheeffectivenessofaddingtheantioxidantsdirectly toculturemedium.

Keywords:Reactiveoxygenspecies(ROS),Antioxidant,CoenzymeQ10,Melatonin,Resveratrol

1.DepartmentofGeneticEngineering,KinldUniversi重y,Wakayama649‑6493,Japan

2.GraduateSchoolofBiology‑OrientedScienceandTec㎞ology,KhUdUniversity,Wakayama649‑6493,Japan 3。WFNambachnic,Osaka550‑0015,Japan