論 文
光源スイッチング方式時分割ホログラフィックディスプレイ
※松田 篤史
†∗松島 恭治
†Time-Division Holographic Display by Switching Light Sources
※Atsushi MATSUDA
†∗and Kyoji MATSUSHIMA
†あらまし 電子ディスプレイデバイスによってホログラフィを再生する電子ホログラフィの問題点として,デ バイスの解像度が古典的なホログラムと比較して圧倒的に低いことが挙げられる.この問題を緩和する一つの方 法として,高フレームレートのデバイスを用いて再生像を時分割多重化する手法を提案している.提案手法では,
高速応答が可能なレーザダイオード(LD)光源のスイッチングにより,従来法のような複雑な光学系や可動部品 を用いずに,再生像の時分割多重化を行い,解像度を拡大することができる.提案手法の原理確認のために空間
光変調器(SLM)を用いて試作した,解像度を約4倍に拡大したディスプレイシステムを報告している.
キーワード 計算機合成ホログラム,電子ホログラフィ,三次元表示ディスプレイ,時分割多重表示,空間光 変調素子
1.
ま え が き左右の視差で奥行を知覚する両眼視差方式の
3D
映 像ディスプレイシステムは,現在本格的な実用化に 至っている.しかしながら,この方式では水晶体によ るピント調節からもたらされる立体感を刺激しないた め,視距離が近い場合,観察者のふくそうとピントの ずれ,いわゆるふくそう調節矛盾を発生し,眼精疲労 を引き起こす要因となる.一方,ホログラフィは光の波面そのものを再生する ため,両眼視差だけではなく人間が有する全ての奥行 知覚や運動視差機能を複合的に刺激し,全く違和感の ない完全な
3D
映像を再生することができる.古典的 なホログラフィは写真技術であるが,近年のコンピュー タの飛躍的な技術発展に伴い,現在では実在しない 物体の干渉縞を作成することも可能となりつつある.これを計算機合成ホログラム(
Computer-Generated Hologram
,以下CGH
)と呼ぶ.近年我々は,新しい 計算手法とレーザリソグラフィ技術を用いて超高解像 度CGH
を作成しており,古典的な光学ホログラムに†関西大学システム理工学部電気電子情報工学科,吹田市 Department of Electrical and Electronic Engineering, Kansai University, 3–3–35 Yamate-cho, Suita-shi, 564–8680, Japan
∗現在,TDK株式会社
※本論文は学生論文特集秀逸論文である.
匹敵する深い奥行感のある美しい空間像の再生に成功 している
[1]
〜[7]
.また,ディスプレイデバイス技術の発展に伴い,パ ネル型の空間光変調器(
Spatial Light Modulator
,以 下SLM
)を用いて低解像度のホログラムを電子的に 再生することが,近年可能となった.これを電子ホロ グラフィと呼ぶ.しかしながら,電子ホログラフィに は大きな問題点がある.それは,その絶対的なディス プレイ解像度が古典的なホログラムの干渉縞に比べて 圧倒的に低く(注1),広い視域を得ることが困難なこと である[8]
.古典的なホログラムと比肩するほどの再 生像を得るためには,数百億ものピクセル数が必要で あると考えられている[1]
.これに対して現行のディス プレイデバイスの解像度はたかだか数百万ピクセルで あり,今後も数倍程度の向上しか見込めない.しかし,デバイスの高フレームレート化は進んでおり,
2020
年 ごろには毎秒表示可能なピクセル数は10
11を超える と予想されている[9]
.これは30 [fps]
で解像度40
億 ピクセルを表示した場合に相当する.このような高フ レームレートデバイスを有効に利用するためには,高 速な時分割多重化技術が必要不可欠である.電子ホログラフィにおける再生像の多重化方式には,
(注1):典型的なホログラムでは,1,000〜7,000 [本/mm]程度の干渉 縞が感光材料に記録されている.
空間分割多重方式と時分割多重方式の二つが提案され ている.空間分割多重方式は,複数台の
SLM
の再生 像を一つの像として合成することにより,高解像度の 再生像を得る方式である[10]
〜[12]
.一方,時分割多 重方式は,単一のSLM
に表示するCGH
を切り換え,何らかの方法で空間的に走査することにより一つの像 として合成し,高解像度の再生像を得る方法である.
なお,多重化方式としては空間分割と時分割を組み合 わせる方法も提案されている
[13]
.時分割方式としては,ビーム分岐機構とシャッター 機構を組み合わせて単一光源からの光を複数のビー ムに分岐して
SLM
を照明するビーム分岐型[13], [14]
と,ガルバノミラーなどを用いて再生像を走査する走 査型
[15]
が提案されている.しかし,ビーム分岐型で はビーム分岐機構とシャッター機構を組み合わせるた め,後者のスイッチング速度の遅さが問題となる.一 方走査型では,ガルバノミラーなどの可動部品を用い るため,その同期制御や安定性,耐震性が問題となる.そこで本論文では,シャッター機構や機械的な走査 が不要で高速スイッチングが可能な新しい時分割方式 として,
LD
を光源として用いそのスイッチングによ り再生像を多重化する手法を提案する[16], [17]
.この 手法では,応答速度の速いLD
光源のスイッチングに より多重化を行うため,高フレームレートデバイスと 組み合わせた場合大規模な多重化が可能になる.なお,類似した方式として,複数の点光源と
4 f
光学系を用 いて解像度変換光学系を構成する方式が報告されてい る[18]
.しかしながら,この手法では全光源が常時点 灯しており,像を多重化して解像度を増大するのでは なく,同じ解像度のまま垂直視域を犠牲にして水平視 域を拡大する方式となっており提案方式とは基本的に 異なっている.図1 光源スイッチング方式時分割多重電子ホログラフィの構成(K= 4) Fig. 1 The schematic structure of time-division electro-holography by switching
light sources (K= 4).
本論文では,提案方式の原理確認のため,最大フ レームレート
60 [fps]
のフルHD
位相変調型SLM
を 用い,最適化誤差拡散法でコーディングした位相型CGH [19]
を4
倍に多重化して再生を行った.その結 果,再生フレームレート15 [fps]
で垂直方向視域を犠 牲にすることなく水平方向視域を約4
倍に拡大できる ことを確認した.2.
提案方式の原理2. 1
時分割多重化の原理本論文で提案する光源スイッチング方式時分割多重 化電子ホログラフィの光学系の構成を図
1
に示す.提 案方式では,点光源からの球面波をコリメータレン ズで平行光にしてSLM
に入射する.点光源は,コリ メータレンズの前側焦点面上で水平方向に光軸から外 れた位置に複数個配置してあり,各瞬間にはその中の 一つのみが点灯している.したがって,点灯している 点光源の光軸からのシフト量に応じて,異なった空間 周波数の平行光がSLM
に入射する.この入射光波は
SLM
により空間変調を受け,その 変調光波がフーリエレンズ1
に入射し光学的にフーリ エ変換され,フーリエ面上にフーリエ変換像を再生す る.このとき,フーリエ変換のシフト則により,SLM
に入射している平行光の空間周波数に応じてフーリエ 変換像の位置が水平方向にシフトする.そのため,点 灯する点光源に応じて,フーリエ面上の異なった位置 にフーリエ変換像が現れる.本方式では点灯させる光 源とSLM
に表示するCGH
を同期して切り換え,こ れらのフーリエ変換像がフーリエ面ですき間なく接続 するように配置する.これにより,K
個の光源を用い た場合,SLM
の見かけの水平方向解像度をK
倍に拡 張することができる.この拡張したフーリエ変換像をフーリエレンズ
2
によって再びフーリエ変換して再生 像を得ると,再生面でSLM
の水平方向サンプリング 間隔を1 /K
に縮小したことと等価になり,水平方向 最大回折角をK
倍に拡大することができる.2. 2
光源位置と再生位置の関係図
1
に示すように,光軸と垂直な平面上の座標を(x, y)
で表す.光軸から水平方向にΔx
iだけシフトし た光源から出射する球面波を焦点距離f
cのコリメー タレンズで平行光にしたとき,SLM
に入射する光源はF{δ (x + Δx
i, y)} = exp [i2πΔx
iu
c] (1)
となる.ここで平行光を平面波とみなしている.
( u
c, v
c)
はこの入射平面波のフーリエ空間周波数であり空間座 標とはx = λf
cu
c, y = λf
cv
c(2)
の関係がある.式
(1)
の平面波がSLM
によりH (u, v)
の空間変調を受けたとすると,変調光波はG ( u, v ) = H ( u, v ) exp [ i 2 π Δ x
iu
c] (3)
となる.ここで,フーリエレンズ
1
の焦点距離をf
1とするとフーリエ周波数
( u, v )
と空間座標( x, y )
の関 係はx = λf
1u, y = λf
1v (4)
となり,SLM
上に表示する位相パターンはH ( u, v ) = h ( λf
1u, λf
1v ) = h ( x, y ) (5)
となる.したがって,式
(2)
と式(4)
からx
を消去す ると,u
c= f
1f
cu (6)
となる.これを代入すると,式
(3)
はG ( u, v ) = H ( u, v ) exp
i 2 π f f
1cΔ x
iu
(7)
となることが分かる.
したがって,フーリエレンズ
1
によるフーリエ変換 により,フーリエ面で再生する光波複素振幅分布はF{G ( u, v ) } = h
x − f
1f
cΔ x
i, y
= h ( x − Δ x
o, y ) (8)
となり,光軸から水平方向に
Δ x
o= f
1f
cΔ x
i(9)
だけシフトして表示されることが分かる.
このように,図
1
の光学系を用いると光源位置のΔx
iのシフトにより,フーリエ変換像の再生位置をΔ x
oシフトすることが可能である.2. 3
フーリエ面における水平方向高解像度化 フーリエ面において時分割再生したフーリエ変換像 を水平方向にすき間なく配置するためには,各フーリ エ変換像の再生位置の間隔をフーリエ変換像のサイズ と等しくする必要がある.今,SLM
のピクセルピッ チをΔ x
s,Δ y
sとすると,一つのフーリエ変換像のサ イズw
x× w
yは,w
x= λf
1Δ x
s, w
y= λf
1Δ y
s(10)
と表される.そこで,式
(9)
で求めたフーリエ変換像 の水平方向シフト量がw
xに等しいとしてΔ x
o= w
xとすると,式
(9)
はΔ x
i= f
cf
1w
x= λf
cΔx
s(11)
となり,これが最適な光源間隔を与えている.この結 果から最適な光源間隔はコリメータレンズの焦点距離 と
SLM
のピクセルピッチで決定されることが分かる.これにより,
K
個の点光源を高速に切り換えて順次 点灯すると,見かけ上フーリエ面上でサイズKw
x×w
yの切れ目のないフーリエ変換像が得られる.
SLM
の ピクセル数をN
xs× N
ysとすると,このフーリエ変 換像の総サンプリング数はKN
xs× N
ysとなり,見か け上SLM
の水平方向解像度をK
倍拡大しているこ とになる.2. 4
像面における水平方向分解能の高密度化 図2
に示すように,フーリエ面で水平方向解像度がK
倍に拡大した像をフーリエレンズ2
により再度フー リエ変換する.ここで単一の光源によってフーリエ面 で再生されるフーリエ変換像の水平方向と垂直方向の サンプリング間隔はそれぞれΔ x = λf
1N
xsΔ x
s, Δ y = λf
1N
ysΔ y
s(12)
である.複数の光源によるシーケンシャルなフーリエ図2 高密度化による水平方向視域拡大(K= 4) Fig. 2 Expansion of the horizontal viewing-angle by
increasing resolution (K= 4).
変換像を単一の像とみなすと,この統合したフーリエ 変換像は焦点距離
f
2のフーリエレンズ2
によって再 びフーリエ変換される.これによって得られる再生像 の水平方向と垂直方向のサンプリング間隔はそれぞれΔ x
= λf
2KN
xsΔ x , Δ y
= λf
2N
ysΔ y (13)
となる.式(12)
を式(13)
に代入し整理すると,水平 方向と垂直方向の像面サンプリング間隔はそれぞれΔ x
= f
2f
1Δx
sK , Δ y
= f
2f
1Δ y
s(14)
となり,
f
1= f
2の場合にはΔx
= Δ x
sK , Δy
= Δy
s(15)
となる.
このように,
K
個の光源をスイッチングすることに より,水平方向像面サンプリング間隔は1 /K
倍とな る.Δx
をフレネル型CGH
のピクセルピッチと考え るとその水平方向視域角はΩ = 2 sin
−1λ
2Δ x
(16)
と表される.したがって提案方式では水平方向視域角 が約
K
倍に拡大されることになる.本論文では,光 源数を4
個としているため,水平方向視域角は多重化 により約4
倍に拡大される.また,同様に垂直方向に 光源を並べることにより垂直方向視域角を拡大するこ とも可能である.ただし,各光源が担う視域は決まっ ているため,用いる光源数がK
個の場合,本手法で の再生フレームレートはSLM
の最大フレームレート の1/K
になり,SLM
の最大フレームレートが低いと 激しいフリッカーが生じることになる.2. 5
再生像サイズと空間バンド幅積水平方向と垂直方向の再生像サイズはそれぞれ
w
x= (KN
xs) Δx
, w
y= (N
ys) Δy
(17)
となり,式(14)
を代入するとw
x= f
2f
1N
xsΔ x
s, w
y= f
2f
1N
ysΔ y
s(18)
となる.よって,f
2/f
1を変えることにより再生像の サイズを変えることができる.しかしながら,式
(14)
が示すように,画面サイズ を大きくすると像面サンプリング間隔が大きくなって 視域角が狭くなり,小さくすると視域角が広がるとい う関係になる.これは,光学でよく知られているよう に,空間バンド幅積が一定なためである.本手法の多 重化ではこの空間バンド幅積は光源数K
に比例する ため,K
を増加すると視域を保ったまま再生像サイズ を増加することも可能である.一方,再生フレームレートは
SLM
の最大フレーム レートを光源数K
で除算した値である.したがって,高フレームレート
SLM
を用いずに空間バンド幅積を 増加すると前述のとおり著しいフリッカーが生じるこ とになる.3.
試作再生システム光学再生実験に用いた光学系を図
3
に示す.光源 は,波長637 [nm]
で定格出力7 [mW]
の偏波保存型 ファイバカップリングLD
である.4
個の光源の出力 を焦点距離f
c= 150 [mm]
のコリメータレンズで平行 光とし,焦点距離f
1= f
2= 200 [mm]
のレンズ2
個 で4 f
光学系を構成した.SLM
には,ピクセルピッチΔ x
s= Δ y
s= 8 [ μ m]
で解像度1920 × 1080
,最大フ レームレート60 [Hz]
のHOLOEYE
社製PLUTO
を 用いた.式(11)
より最適光源間隔はΔx
i= 11.9 [mm]
となるため,ファイバ端部をこの間隔で配置した.し たがって,フーリエ面における単一光源からの像サイ ズは
w
x= w
y= 15 . 9 [mm]
となる.実際には次節で述 べる最適化誤差拡散法の評価領域外のノイズ拡散部分 を遮光する必要があるため,64.0 [mm]×8.4 [mm]
サ イズのマスクで非回折光と高次回折像,ノイズ拡散部 分を遮光している.以上の光学系を用いたため,像面 サイズは15.36 × 8.64 [mm
2]
となり,像面でのサンプ リング間隔がΔ x
= 2 . 0 [ μ m]
,Δ y
= 8 . 0 [ μ m]
とな るため,視域角は水平方向18.38 [
◦]
,垂直方向4.56 [
◦]
となる.試作再生システムのパラメータを表1
にまと める.時分割再生を行うためには,
SLM
と光源を正確に図3 提案方式時分割ホログラフィックディスプレイの試作再生システム Fig. 3 The prototype of the proposed time-division holographic display system.
表1 試作再生システムのパラメータ Table 1 Parameters of the prototype system.
Focal distance of Collimator lens (fc) 150 [mm]
Focal distance of Fourier lens1 (f1) 200 [mm]
Focal distance of Fourier lens2 (f2) 200 [mm]
Reconstruction wavelength (λ) 637 [nm]
No. of samplings in image plane
7680×1080 (KNxs×Nys)
Sampling interval in image plane
2.0×8.0 [μm2] (Δx×Δy)
Dimensions of reconstructed image 15.36×8.64 [mm2]
同期して
60 [Hz]
で切り換える制御を行う必要がある.そのため,
MS Windows
のDirect X
を用いてグラ フィックボードを直接制御し,SLM
へ送られる映像 信号の垂直同期信号を取得し,それを主タイミング信 号としている.すなわち,取得した垂直同期信号をト リガ信号としてタイミング発生装置に入力している.このタイミング発生装置では,再生する
CGH
のセグ メント番号(#1
〜#4
)と対応したLD
を点灯する だけでなく,SLM
にCGH
が表示されるまで点灯を 遅延する制御や点灯時間の調整を行っている.なお本 試作再生システムでは,SLM
の最大フレームレート が60 [fps]
であるので実効的な再生フレームレートは15 [fps]
となる.4.
ホログラムデータの計算手順時分割ホログラフィックディスプレイによる再生に 用いるホログラムデータの計算手順を図
4
に示す.本 研究では,4
個のファイバ光源を用いて再生像の水平図4 SLMに表示するCGHの作成手順 Fig. 4 Procedure for generating CGH fringes
displayed in SLM.
方向視域角を約
4
倍に拡大を行っているため,水平方 向サンプリング間隔を垂直方向の1/4
倍,サンプリン グ数を4
倍にして物体光波を数値合成する.FFT
を用いるため,実際の数値合成は8K2K
サイ ズで行い(1 K=1024
),得られた物体光波を逆フーリ エ変換して水平及び垂直方向サンプリング間隔が等し い横長のフーリエ変換像を得る.このフーリエ変換像 を水平方向の4
セグメントに分割し,各セグメントを2K2K
サイズとする.この2K2K
サイズの像を更に逆 フーリエ変換する.このようにして,サンプリング間隔が
SLM
のピクセルピッチに等しい2K2K
サイズの ホログラムデータを得ている.本論文では,位相変調型
SLM
を用いてキノフォー ムタイプCGH
の再生を行ったため,位相コーディン グを行わなければならない.しかしながら,単純な位 相コーディングでは複素コーディング誤差による影響 で再生像にノイズが発生してしまう.発生するノイズ を低減するために最適化誤差拡散法による位相コー ディング[19]
を行った.更に,フーリエ面上でフーリ エ変換像をy
軸方向にシフトして非回折光と分離する ためにキャリヤ信号を重畳し,SLM
の解像度に合わ せてトリミングを行い,SLM
に表示する位相パター ンを得ている[16]
.ここで,分離した非回折光をマス クで遮へいするためのy
軸方向シフト量は,w
y/ 2
と している.なお,このマスク遮へいにより非回折光周 辺に存在する空間周波数の高い信号成分がカットされ るため,垂直視域が狭くなる.しかしながら,カット する帯域に存在する信号成分はごくわずかでありその 影響はほぼ無視できると考えられる.一方,これによ り再生像の目視を阻害する非回折光を遮光でき,再生 品質を著しく改善することができる.5.
試作システムによる光学再生像5. 1
ホログラムデータの作成図
5
に再生実験で用いた3D
シーンを示す.この3D
シーンでは,ホログラム面から奥行25 [mm]
の位 置に背景として二次元平面物体を配置し,更にその手 前20 [mm]
の位置にミロのヴィーナスを模したポリ ゴンモデル三次元物体を配置している.物体光波計算 にはポリゴン法[20]
を用い,ヴィーナス像がファント ムイメージとなることを防ぐためにシルエット法[21]
を用いている.再生実験ではワイヤーフレームモデ ルも用いている.この場合は,ホログラム面から奥行
25 [mm]
の位置に立方体形状の三次元物体を配置し,図6 異なる視点位置から撮影した光学再生像(ポリゴンモデル)
Fig. 6 Photographs of optical reconstruction taken from different viewpoints (polygon model).
物体光波計算には点光源法
[22]
を用いた.これらの物 体光波の数値合成に用いたパラメータを表2
に示す.なお最適化誤差拡散法
[19]
では,評価領域を中央か ら2048 × 1080 [pixel]
とした.5. 2
光学再生実験の結果光学再生実験では,水平方向に左右
± 7 . 5 [
◦]
の範囲 で視点移動し,ピントを三次元物体に合わせてその光 学再生像を撮影した.図6
にポリゴンモデル,また 図7
にワイヤーフレームモデルの光学再生像を示す.なお,この写真では左右から撮影した再生像が正面か ら撮影した像よりボケが多く見えるが,肉眼ではピン トの合った像を確認することができた.
この結果から,視点を移動することにより背景と
図5 再生実験に用いた3Dシーン(ポリゴンモデル)
Fig. 5 The 3D scene of the polygon model used in optical reconstruction.
表2 物体光波の数値合成に用いたパラメータ Table 2 Parameters used for calculation of the
object waves.
Polygon model
No. of polygons (front face only) 702 Height of object (The Venus) 7.75 [mm]
Dimensions of background 8.0×8.0 [mm2] Wire frame model
Linear density of point sources 20000 [point/m]
Height of object (Cube) 6 [mm]
図7 異なる視点位置から撮影した光学再生像(ワイヤーフレームモデル)
Fig. 7 Photographs of optical reconstruction taken from different viewpoints (wire frame model).
ヴィーナス像の重なり具合や立方体のワイヤーの見え 方が変化することが分かる.すなわち,単一の
SLM
で確認困難な運動視差が本ディスプレイでは確認でき,水平方向視域角が拡大していることが分かる.またそ の結果,両眼での再生像の確認も可能であった.
6.
議 論前章の光学再生実験において,時分割再生による影 響でフリッカーが発生し視点によっては像の劣化が生 じた.特に,図
7
のワイヤーフレームモデルでは,時 分割により隣り合うセグメントの再生像のノイズが映 り込んでいる.すなわち,例えばセグメント#2
の再 生像を再生している瞬間に,隣接する#1
や#3
の高 次回折像が#2
の再生像に重畳してしまっている.この問題はフーリエ面に挿入するマスクの形状を再 生中のセグメントに合わせて動的に変化すれば解決す ると考えられる.このようなダイナミックなマスクと しては液晶シャッターを用いる手法
[12]
が提案されて いるが,その応答速度が遅いため高フレームレートデ バイスとの組合せには向かない.そのため,今後の再 生像品質の改善には,高次回折像をダイナミックにマ スクする手法やそれを抑制する手法の開発が必要で ある.本論文では,提案手法の原理確認のため共役像が発 生しない位相変調型
SLM
を用い,キノフォームCGH
として光学再生像を確認した.その際,位相コーディ ングによるノイズを抑制するため,最適化誤差拡散法 を用いた位相コーディングを行った.しかし,用いた 位相型SLM
の最大フレームレートが60 [fps]
であった ため,実際には激しいフリッカーが生じる結果となっ た.高フレームレートSLM
を用いればこの問題は解 決するはずであるが,一般に高フレームレートSLM
は振幅変調型であり,共役像が発生する.しかし,提 案手法は4 f
光学系となっているため,シングルサイドバンド法
[23]
を用いることで振幅変調型でも共役像 を除去することができる.むしろ,コーディングノイ ズがほとんど発生しない振幅変調型SLM
を用いて再 生する方が高品質な再生像が得られると考えられる.7.
む す び本論文では,高速スイッチング可能な複数の
LD
光 源を用い,SLM
に表示するCGH
と同期してそれらの 光源を切り換えることにより再生像を走査する時分割 方式のホログラフィックディスプレイを提案した.こ の方式では,従来法のガルバノミラーのような可動部 品や応答速度の遅いシャッター機構が不要であり,デ バイスのフレームレートに応じてK = 4
を超えて多重 度を増加することも容易であるため,将来の高フレー ムレートディスプレイデバイスの能力を発揮できる方 式となっている.この提案方式の原理確認のため,位相型
SLM
を用 いてCGH
の光学再生を試みたところ,多重化した像 の水平方向視域が,多重化しない場合の約4
倍拡大す ることを確認した.また,フレームレートが15 [fps]
となるため激しいフリッカーが生ずるものの,動画の ホログラム再生像を確認することは十分に可能であっ た.今後は実際に高フレームレートデバイスと組み合 わせた実証実験が課題である.
謝辞 本試作システムの同期制御に用いたライブ ラリを提供して頂いた本学の寺口功氏に感謝する.
また,本研究は日本学術振興会の科研費
(21500114)
の助成を受けたものである.The mesh data of The Venus object is provided courtesy of INRIA by the AIM@SHAPE Shape Repository.
文 献
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Proc. SIGGRAPH Posters’ 2010, Los Angeles, 2010.
[3] K. Matsushima, Y. Arima, and S. Nakahara, “Digi- tized holography: Modern holography for 3D imaging of virtual and real objects,” Appl. Opt., vol.50, no.34, pp.H278–H284, 2011.
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(平成24年6月3日受付,9月12日再受付)
松田 篤史
2010関西大・工・先端情報電気工学科 卒.2012同大大学院理工学研究科修士課 程了.同年,TDK(株)入社.
松島 恭治 (正員)
1984阪市大・工・応用物理卒.1990同大 大学院博士課程了.同年,関西大学助手.同 大専任講師を経て,2003同大助教授,2010 同大教授.2000ドイツFriedrich-Schiller Jena大学客員研究員.計算機合成ホログ ラム,回折光学素子の研究に従事.工博.