博 士 ( 理 学 ) 石 井 英 一
学 位 論 文 題 名
北海道中軸部における後期鮮新世
〜前期更新世の大規模珪長質噴火に関する研究 学位論文内容の要旨
大 規 模 な 珪 長 質 噴 火 に よ っ て し ば し ば カ ル デ ラ 群 を 形 成 さ れ る こ と が あ り 、 そ の 時 空 変 遷や テ ク ト ニ ク ス と の 関 連 性 の 議 論 が 活 発 に な さ れ て い る 。 一 方 、 カ ル デ ラ 形 成 を 引 き 起 こ し た 大 規 模 珪 長 質 噴 火に 伴 っ て 発 生 し た 火 砕 流 か ら は 多 量 の 広 域 テ フ ラ が 発 生 し 、 そ れ ら の 広 域 テ フ ラ は 鍵 層 と し て 様 々 な 諸 問 題を 解 決 す る 上 で 重 要 視 さ れ て い る 。
北 海 道 中 央 部 は 東 北 日 本 弧 と 千 島 弧 が 衝 突 す る 島 弧 会 合 部 に 位 置 し て お り 、 同 地 域 に は 新生 代 後 半 の 多 量 の 火 砕 流 堆 積 物 と と も に カ ル デ ラ 群 が 存 在 す る こ と が 地 形 ・ 堆 積 物 ・ 地 質 構 造 に 関 す る 検 討 か ら指 摘 さ れ て い る 。 近 年 、 同 中 央 部 の 詳 細 な 重 カ デ ー タの 解 析 に よ り そ れら の カ ル デ ラ 群 の 分布 の 全 容 が 明 ら かに さ れ た 。 し か し な が ら こ れ ら の カ ル デ ラ 群 と 周 辺 の 火 砕 流 堆 積 物 の 対 比 は 十 分 に は 行 わ れ て お ら ず 、 カ ルデ ラ 群 の 時 空 変 遷 な ど も 不 明 の ま ま で あ る 。 ま た 、 新 生 代 後 半 に 、 北 海 道 周 辺 に お い て 北 米 プ レ ー ト と ユ ーラ シ ア プ レ ー ト の プ レ ー ト 境 界 の ジ ャ ン プ が 起 こ っ た と さ れ て お り 、 こ の よ う な テ ク ト ニ ッ ク な イ ベ ン ト が上 記 カ ル デ ラ 群 の 活 動 に 何 ら か の 影 響 を 及 ば し た こ と が 想 定 さ れ る が 、 そ の プ レ ー ト 境 界 の ジ ャ ン プ に つ いて は 様 々 な 見 解 が あ り 、 一 定 の 理 解 が ま だ 得 ら れ て い な い 。
島 弧 会 合 部 の カ ル デ ラ 群 の 存 在 は 北 海 道 中 央 部 以 外 に 例 が 無 く 、 同 中 央 部 の カ ル デ ラ 群 の時 空 変 遷 や テ ク ト ニ ク ス と の 関 連 性 を 明 ら か に す る こ と は 、 カ ル デ ラ 群 の 成 因 や 地 殻 の 進 化 過 程 を 検 討 す る 上 で重 要 な 知 見 を も た ら す 可 能 性 が 高 い 。 こ の よ う に 重 要 な 地 域 と し て 位 置 づ け ら れ る 北 海 道 中 央 部 だ が 、 同 中央 部 は こ れ ま で 、 カ ル デ ラ 群 の 形 成 時 期 が や や 古 く (鮮 新 世 以 前 〜 前 期更 新 世 ) 、 浸 食 作 用や 後 続 す る 堆 積 物の 埋 没 に よ る 火 砕 流 や カ ル デ ラ の 地 形 の 消 失 が 原 因 で 、 カ ル デ ラ の 調 査 ・ 研 究 が 立 ち 遅 れ た ま ま の 状 態 で あっ た 。 し か し 、 や や 古 い 時 代 の カ ル デ ラ で あ っ て も 、 地 質 学 的 、 地 形 学 的 、 岩 石 学 的 お よ び 地 球 物 理 学 的 な手 法 を 駆 使 し た 調 査 を 行 な え ば 対 応 可 能 で あ り 、 北 海 道 中 央 部 で も そ の よ う な 調 査 手 法 を 適 用 す れ ば 、 大 規模 火 砕 流 と 給 源 カ ル デ ラ が 対 比 で き る 可 能 性 が あ る 。 さ ら に は カ ル デ ラ 群 の 時 空 変 遷 も 解 き 明 か す こ と が でき る 可 能 性 が あ る 。 北 海 道 中 央 部 の カ ル デ ラ 群 の 活 動 を 検 討 す る 上 で 重 要 と な る 上 記 プ レ ー ト 境 界 の ジ ャ ンプ に つ い て も 、 例 え ぱ 北 海 道 北 部 の 幌 延 地 域 は 千 島 前 弧 の 西 進 の 影 響 を 受 け な い 位 置 に あ る た め 、 純 粋 に プレ ー ト 境 界 の ジ ャ ン プ に 関 す る 地 殻 変 動 の 情 報 を 取 得 で き る 可 能 性 が 高 く 、 そ の よ う な 地 域 で 広 域 テ フ ラ の調 査 を 行 な う こ と に よ り 、 プ レ ー ト 境 界 の ジ ャ ン プ に 関 し て 新 た な 知 見 を 提 供 で き る 可 能 性 が あ る 。 そ こ で 本 研 究 で は 、 大 規 模 珪 長 質 噴 火 に 関 す る 基 礎 研 究 の 観 点 か ら 北 海 道 中 央 部 の カ ル デラ 群 に 着 目 し 、 ま ず 、 同 中 央 部 の 十 勝 三 股 盆 地 を 対 象 に 、 カ ル デ ラ 調 査 が 困 難 な 地 域 に お け る 大 規 模 火 砕 流 と 給源 カ ル デ ラ の 対 比 例 と し て 、 そ の カ ル デ ラ 形 成 に 関 わ っ た 火 砕 流 堆 積 物 に 関 す る 調 査 を 行 な っ た 。 次 い で 、島 弧 会 合 部 に お け る カ ル デ ラ 群 の 検 討 例 と し て 、 同 中 央 部 の 火 砕 流 の 層 序 ・ 年 代 ・ 噴 出 量 に 関 す る 調 査 を 行な い 、 カ ル デ ラ 群 の 時 空 変 遷 に つ い て 検 討 を 行 な っ た 。 一 方 で 、 大 規 模 珪 長 質 噴 火 に 関 す る 応 用 研 究 の 観 点か ら 北 海 道 北 部 の 幌 延 地 域 の 広 域 テ フ ラ に 着 目 し 、 広 域 テ フ ラ を 用 い た 地 殻 変 動 の 解 析 例 と し て 、 大 曲 断 層近 傍 の 背 斜 成 長 の 開 始 時 期 を 検 討 し た 。
十 勝 三 股 盆 地 の カ ル デ ラ 形 成 に 関 わ っ た 火 砕 流 堆 積 物 に 関 す る 調 査 の 結 果 、 十 勝 三 股 盆 地が1.0 Maの 十 勝 三 股 火 砕 流 の 噴 火 に よ っ て 形 成 さ れ た カ ル デ ラ で あ る こ と が 判 明 し 、 同 中 央 部 の よ う な カ ル デ ラ調 査 が 困 難 な 地 域 で あ っ て も 、 地 質 学 的 、 地 形 学 的 、 岩 石 学 的 お よ び 地 球 物 理 学 的 な 調 査 を 駆 使 す れ ば 大 規模 火 砕 流 と 給 源 カ ル デ ラ が 対 比 し 得 る こ と を 例 示 す る こ と が で き た 。
さ ら に 北 海 道 中 央 部 の 火 砕 流 の 層 序 ・ 年 代 ・ 噴 出 量 に 関 す る 調 査 の 結 果 、 カ ル デ ラ 群 の 活動 は 鮮 新 世 以 前 か ら 始 ま っ て お り 、 概 ね1.0 Maに 活 動 を 終 了 さ せ た こ と な ど 、 時 空 変 遷 に 関 す る 概要 が 明 ら か と な り、 他 地
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域のカルデラ群との平均噴出率や活動休止期間に関する類似点や相違点についても明らかとなった。また、
島弧会合部としての特徴として、千島前弧と東北日本弧との衝突に関連する横ずれ断層帯が、カルデラ径の 大き さ( あ るい はマ グマ 溜ま り の規 模) に深 く 関与 して いる 可能 性 を指 摘することができ た。
一方で、北海道北部の幌延地域における広域テフラの調査の結果、広域テフラと埋没続成境界面を組み 合わせた方法を適用することによって同背斜成長が2.2‑‑‑1.0 Ma の間に開始したことを明らかにすることが でき、北海道中央部のカルデラ群の活動を検討するために必要な、北米プレートとユーラシアプレートのプ レート境界のジャンプに係わる新たな情報を提示することができた。今回適用した方法はこれまでに適用例 が知られなかったが、今後、幌延地域の様に、対象とする時代の堆積物の大部分が侵食により失われてしま って いる よ うな 場で 地殻 変動 を 解析 する 際に 、 有効 な方 法の ーつ と して 活用できると考え る。
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学 位 論 文 審 査の 要 旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 准教授 助教
中 川 光 弘 竹 下 徹 新井田清信 古 本 充 宏
学 位 論 文 題 名
北 海 道 中 軸 部 に お け る 後 期鮮 新 世
〜 前 期 更 新 世 の 大 規 模 珪 長 質 噴 火 に 関 する 研 究
カルデラ火山群の発生〜終息過程と関連したテクトニクスに関する研究は、大規模なマグマの 生成を伴う点で地殻の発達過程を議論する上で重要である。しかしそのためには基礎的な地質学 的研究だげではなくマグマ組成やテクトニクス場の解析など広範囲なデータが必要であり、現時 点で十分な研究が行われていなぃ。その中でもカルデラ群の研究が盛んに行われているニュージ ーランドのタウポ火山地域や東アフリカのエチオピア火山地域では、プレート運動に伴う横ずれ 断層運動がカルデラ群のマグマ溜まりの生成に寄与していることが指摘されている。このように カルデラ群の発生がテクトニクスと密接に関連していることが具体的に明らかにされつっあり、
より一般的な議論を発展させるためには、上記の地域とは異なるテクトニクス場での高精度の研 究が必要である。本論文は、北海道中央部のカルデラ群を事例に、カルデラ群の火山活動の時空 変遷と背景テクトニクスに関して地質学的・地球物理学的に研究し、カルデラ群の発生〜終息と テクトニクス変遷との関係を明らかにすることを目的として議論を展開したものである。対象地 域は千島弧と東北日本弧の会合部であり、後期中新世から複雑なテクトニクス変遷を行っており、
これま での研究事例とは異なる観点からカルデラ火山群の活動 が議論できると考えられる。
本論文では、十勝平野から北見周辺にかけての広範囲な地域において火山地質学的調査を行い、
大規模火砕流の層序を確立した。その中で北海道中央部のカルデラ群の中でも地形的に最も新し い可能性のある十勝三股カルデラの形成時期を初めて明らかにした。さらに重力異常データと火 山地質学的データを用いてカルデラ群の時空変遷の全貌を検討した。またこれらのカルデラ群を 給源とする広域テフラを用いて、北海道北部の東西圧縮地殻変動(大曲断層近傍の背斜成長)の 開始時期を地殻変動の解析により明らかにした。
まず十勝三股カルデラ周辺に分布する火砕流および火山体を対象に露頭調査、記載岩石学的分
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析 および
K‑Ar年代測定を行った結果、降下火砕堆積物の層厚変化、火砕流の層厚・溶結度・上 面高度の変化、噴出年代、本質岩片の斑晶鉱物組み合わせ・ガラス組成・鉱物化学組成から、従 来それぞれの地域で異なる名称で呼ばれていた4 つの火砕流(無加・芽登凝結凝灰岩、屈足火砕 流、黒雲母石英安山岩質軽石流)がすべて十勝三股カルデラの形成を引き起こした同一の火砕流
( 十 勝三股火砕流と提唱)として 対比でき、その形成年代は約
lMaであることが分かった。
さらに、足寄一池田地域をはじめとする北海道中央部全体の3 Ma 以降における火砕流の層序・
年代・対比・噴出量を明らかにし、カルデラ群の活動度の推移を検討した。加えて、重力異常デ ー タと地質分布の対比から同定されるカルデラ埋積物の堆積年代をK‑Ar 年代測定と文献調査に より明らかにし、個々のカルデラの形成時期を推定した。その結果、北海道中央部のカルデラ群 の活動は
8 Ma以前から始まっており、次第にその活動域を現在の第四紀火山活動域に収束させ、
約
l Maの十勝三股カルデラの形成を最後に終息した(安山岩質溶岩を主体とする火山活動へと 移行した)ことが分かった。
また、大曲断層近傍の背斜成長の開始時期を知るために、同背斜軸部周辺の新第三紀珪質岩を 対象にボーリング調査および露頭調査を行い、挟在するテフラ層の記載岩石学的特徴とFT 年代、
op al‑A/CT
の続成境界面の深度分布、および岩石の有効間隙率を明らかにした。テフラ層の対比 か ら ,
2層 の テ フ ラ 層
(HT1,
HT2)が背 斜軸 部周 辺で 追跡 で き、
HT1から 約2.9 Ma 、HT2 か ら 約
2.2 MaのFT 年代を得た。これ らのテフラ層とHT2 の最大埋 没深度に基づき背斜軸部周辺 の 約
2.9 Ma以 降の 堆積 速度 を検 討すると、約2.2 Ma からHT2 最大埋没時(遅くとも1.0 Ma) の間に背斜軸部の堆積速度が周囲より有意に遅くなり始めたことが示唆され、2.2 〜1.0 Ma の間 に大曲断層近傍の背斜成長が開始したことが考えられる。
これら上記の研究結果を総括して著者は、北海道中央部のカルデラ群の活動時期は、千島前弧 スリバーの西進運動に伴う上支湧別構造帯(カルデラ群と同位置)の横ずれ運動(9 〜1 .7 (1.0)
Ma)とほば同時期であり、さらに活動終了時期はアムールプレートの東進開始時期(2.2 〜1.0 Ma 以降)ともほば同時的であると結論づけた。したがって、カルデラ群は上記横ずれ断層運動によ ってpull‑apart マグマ溜まりの生成が促進されたことにより発生したことが考えられ、このこと は個々のカルデラの形状・径と隣接する断層の走向・長さの関係からも支持される。また、カル デラ群の活動終了は、上記横ずれ断層運動の終了と、アムールプレートの東進開始による北海道 全体の圧縮化への転化に起因すると推定した。
以上のように著者は、北海道中央部カルデラ群の発生〜終息とテクトニクス変遷との関係を多 方面からの膨大なデータに基づぃて初めて例示したものであり、カルデラ火山群の研究に対して 大きく貢献するものである。
よ って 著者 は、 北海 道大 学博 士(理学)の学位を授与され る資格があるものと認める。
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