音声ストレス分析技術
Layered Voice Analysis
8
と
気分状態プロフィール
(
POMS
)
との相関について
荒毛将史・竹内由則
Correlation between Layered Voice Analysis
8
and Profile of Mood States (POMS)
Masashi ARAKE & Yoshinori TAKEUCHI
Arake, M. & Takeuchi, Y. Correlation between Layered Voice Analysis
8
and Profile of Mood States (POMS).Rep. Aeromed. Lab. 50(1): 1-7, 2010. ISSN 0023-2858, Aeromedical Laboratory, Japan.Abstract
(
)
’
.
Voice stress analysis VSA
is a technique which tries to detect speakers lies from their voice
One of the VSA-based computer programs called Layered Voice Analysis LVA
“
(
)
”
is the core engine
,
,
of some lie detector software and has been introduced to practical scenes such as airports
police
and private companies in western countries; though its scientific validity and reliability are
.
controversial
On the other hand
,
some studies made the suggestions that LVA could work as the monitor of
negative mental states stress
(
,
strain
,
or anxiety
).
Present study tested the possibility that LVA is
sensitive to speakers
’
negative mood
.
Seven male participants seated in front of the personal
(
)
,
computer and read aloud the questions of Profile of Mood States POMS
presented on the screen
then replied to them with their voice and mouse-click
.
We applied LVA to participants
’
voice of
each questions and replies
.
Then we calculate Spearman's rank correlation between LVA parameters
.
and POMS subscales
Our data showed that two subscales of POMS
,
T-A and A-H
,
significantly correlated with the
LVA parameter
,
Lie Stress
,
representing levels of stress associates telling lies
.
There was also
significant correlation between F subscale of POMS and JQ parameter
,
indicating anxiety and stress
in LVA
.
However
,
later result is contrary to the previous study reported that F subscale was
negatively correlated with JQ parameter
.
This suggests that LVA could have some problems in
measuring stability and therefore could not detect negative mental mood effectively from healthy
’
.
adults voice
(
),
(
),
,
Key words: Voice Stress Analysis
VSA
Layered Voice Analysis
LVA
Mental Health
(
)
は じ め に 音声分析とは一般に、音声に信号処理を施し、基 本周波数やフォルマント等の特徴量を得て行う物理 学的な分析を指す。一方、発話者の精神状態(スト レス、不安、緊張など)を音声から把握しようとす Voice Stress る心理学的な試みは音声ストレス分析( , )と呼ばれる。本研究ではこの に
Analysis VSA VSA
ついて検討した。 は主に虚偽検出の技術として用いられてお VSA り、容疑者が虚偽の供述を行う事により生じるスト レスが音声に反映され、これを分析する事で虚偽検 出が可能であるとされている。特にイスラエルの Nemesysco社により開発されたLayered Voice Analysis (LVA)というVSAアルゴリズムを実装した虚偽検 出プログラムは、同社の発表によれば欧米諸国にお いて警察の犯罪捜査や入国管理、民間企業の採用面 接等に導入されている 。しかし1) には学術的な VSA 根拠が乏しく、LVAについても虚偽検出技術とし ての科学的な信頼性や妥当性の検討が十分でないと する報告が米司法省2)、3)、米国防総省 、ストック4) ホルム大学 等によりなされている。5) 一方でLVAがメンタルヘルスに問題を抱える者 の不安 や気分状態 を音声から把握する手段として6) 7) 利用できる可能性について日本の研究グループが検 討しており、心理検査や血圧といった既存の尺度と 相関がある事を報告している。医実隊においても、 操縦者作業負担度測定装置による飛行シミュレー ション時に状況を口頭で報告させた音声をLVAに より分析した。その結果、緊張度の指標として用い られる瞬時心拍数の増加をLVAにより算出される 。 指標によって予測し得る可能性が示唆されている8) そこでLVAによる精神状態把握の応用的場面を Profile 想定して 本研究では気分状態プロフィール(、 , )の質問項目を利用した心理 of Mood States POMS
検査を実施した。POMSは回答時の感情・気分状態 を測定するための心理検査として広く普及してお り 「緊張-不安 ・ 抑うつ-落ち込み ・ 怒り-、 」「 」「 敵意 ・ 活気 ・ 疲労 ・ 混乱」の6つの気分状態」「 」「 」「 を測定出来るとされている 。9) と の関係 LVA POMS について、太刀川ら の研究においてストレス関連7) 質 問 に 対 す る 回 答 音 声 をLVAで 分 析 し た 結 果 と の各尺度得点の相関を検討し、 により算 POMS LVA 出された複数の指標とPOMSの各尺度得点の間に有 意な相関がある事を報告している。そこで本研究で もPOMSを用いる事とした。 航空自衛隊においてはパイロット候補者の選抜過 程で精神安定性を把握する事も重要な課題である。 そこで、LVAを採用面接の材料として用いる場面 を想定してこのような測定を実施し、有用な評価指 標と成り得るか検討した。 は自記式質問紙であり、通常は被検査者に POMS 筆記用具を用いて回答させるものであるが、本研究 では音声を記録するために質問を1項目ずつ回答の 選択肢と共にPCディスプレイ上に表示し、質問及び 回答を口頭で述べさせた上で回答をマウスクリック で選択させた。自記式質問紙では被検査者が自分を より良く見せるために回答を社会的に望ましい方向 へ偽る事が珍しくないが 、音声を同時に分析する10) 事で被検査者の状態をより正確に把握出来る可能性 がある。またメンタルヘルスに関する質問は回答者 にとって答え辛いものも多く、面接官が直接質問す 。 ると被面接者に負担や不快感を与える可能性がある 一方今回実施した方法では、コンピュータに対して 。 回答するためそのような問題を回避し得ると考えた 方 法 1 被検査者 7名の健常男性(平均年齢42.14歳、SD=10.22) が検査を受けた。 2 使用器材 質問呈示、回答取得及び気分プロフィール作成
Windows Excel VBA
は マ シ ン 上 で 動 作 す る 、
(version 2003, Microsoft社製)で記述したマクロ で行った。音声はUSB接続のマイクを用いて集音 audacity The Audacity し、音声処理ソフトウェア( ,
製)により に取り込みハードディスクに保 Team PC
存した。VSA LVA versionは ( 7.0, Nemesysco社製) で行った。
受付2009年10月30日、受理2009年12月1日
: Masashi ARAKE, Human Engineering Sect. Aeromedical Reprint request to
Laboratory, 1-2-10, Sakae-cho, Tachikawa-shi, Tokyo 190-8585, Japan 東京都立川市栄町 航空医学実験隊 第1部 人間工学科 190-8585 1-2-10,
3 刺激と手続き (1) 刺激 日本版POMS1 1)の質問項目65項目及び回答の 選択肢を使用した。ただし質問項目は回答と併 せて音読した際に自然な文章となるように文末 を改変した(例「気がはりつめる」を「気がはりつめ ることが」に改変)。また、被検査者のネガティ ヴな気分状態の検出を目的としたため、 尺度V (Vigor, 活気)の質問項目は内容を否定文に改 変した(例「人付き合いが楽しい」を「人付き合い が楽しくないことが」に改変)。 回答の選択肢は「まったくありませんでし 」、「 」、「 」、 た 少しありました まあまあありました 「かなりありました」、「非常に多くありました」 の5つであった。Fig 1. に刺激呈示画面の例を 示した。
Sample of a measurement interface presented on the computer screen. Participants
Fig.1
read aloud question and an answer they select then input the same answer with mouse-click. (2) 手続き 被検査者をPCの前に着席させ、ディスプレ イに表示された質問文及び選択した回答を音読 しながら回答をマウスでクリックする事を教示 した。練習試行により課題を問題なく遂行出来 る事を確認した後実験者は測定室から退出し、 本試行を実施した。本試行遂行中の被検査者の 音声及びマウスクリックによる質問への回答を 記録した。 4 分析 POMS (1) 日本版POMS手引 に従い、被検査者毎に -9) T A( Tension-Anxiety, 緊 張 - 不 安 ) ・ D (Depression-Dejection,抑うつ-落ち込み)・ , ,
A- (H Anger-Hostility 怒り-敵意)・ (V Vigor 活気)・ (F Fatigue,疲労)・ (C Confusion,混乱) の6尺度の標準化得点を算出し気分プロフィー ルを作成した。 VSA (2) 本試行の音声を1試行毎に切り出し、発声が 行われていない部分を無音化した上でサンプリン kHz bit グ周波数11.025 、サンプルフォーマット16 に編集してLVAにインポートした。LVAからは 数十の指標が算出されるが、本研究ではオフラ Lie Stress Lie イン分析を行い、 (虚偽ストレス)・
.( 虚偽確率)・ (危険価 ・
Prob RISK VALUE ) . (感情的ストレス)・ . (認 Emo Stress Cog Stress 知的ストレス ・) Glb.Stress(全般的ストレス ・) Frg Stress. (部分ストレス)・SPT(情動負荷 ・) SPJ (認知負荷 ・) JQ(包括的ストレス ・) AVJ(思考 負荷 ・) FMAIN(集中度)・SOS(瞬時的関心度)の 13指標を算出した。 (3) POMSとLVAの関連性 の6尺度と の13指標の関連性を検 POMS LVA 討するためにSpearmanの順位相関係数を算出し 。 、 。 た 有意性の検証のため 無相関検定を行った
結 果 POMS 1 . に被検査者全員の平均気分プロフィールを Fig 2 示した。 尺度の標準得点のみが高く、他の尺度V 。 の得点が低い氷山型のプロフィールとなっていた LVA 2 . に各指標の平均値及び を示した。尚、 Tab 1 SD については全被検査者・試行におい RISK VALUE て値が0であったため分析対象から除外した。
Averaged profile of participants’ mood states. With high V-score and low other
Fig.2
scores, this profile forms typical “iceberg profile”, represents well state of mental health. Each participant showed quite similar profiles with this one.
Raw data of parameters generated by LVA.
3 POMSとLVAの関連性
. に の6尺度と の12指標の順位相 Tab 2 POMS LVA
。 、 関を示した T- 尺度とA Lie Stress r =(s .86,p=.02) A- 尺度とH Lie Stress r =(s .87,p=.02)、F尺度とJQ (r =s .87,p=.02)に有意な相関が認められた。また 尺度と ( .70, .08) 尺度と ( .76, V SOS r =s p= 、F SPJ r =s .06)、 尺度と ( .73, .07)の相関が p= C FMAIN r =s p= 有意傾向を示した。 . に参考として、 の尺度との相関が Tab 3 POMS
示唆されたLie Stress・JQ・SOS・SPJ・FMAINに ついて、LVAの開発元であるNemesysco社が提唱 する各指標の解釈を示した。
Correlation between LVA parameters and POMS subscales (Spearman’s rank correlation).
Tab.2
Meanings (according to Nemesysco) of LVA parameters significantly correlated with POMS subscales.
考 察 POMS 1 マウスクリックによるPOMS質問項目への回答 から作成した気分プロフィールは典型的な氷山型 であった。これは精神的に健康な状態にある者に 特徴的な型であるとされている 。本研究では健11) 常成人を被検査者としており、強い心的ストレス を意図的に付加しない検査を用いたため、このよ うなプロフィールとなったのは妥当な結果である と考えられる。 2 POMSとLVAの関連性 尺度(抑うつ-落ち込み)を除く5つの尺度 D が、LVAの1つないし2つの指標と相関してい た。5つの尺度はそれぞれ相関するLVAの指標 が他の尺度と重ならない傾向があるため、例えば (虚偽ストレス)は緊張と抑うつ、 (総合 Lie Stress JQ ストレス)は疲労といったようにLVAの各指標はそ れぞれ被検査者の気分の異なる側面を反映してい る事が推察される。ただし、集中・緊張の程度を 示すとされるFMAINが - 尺度(緊張-不安)でT A はなく 尺度(混乱)と相関するなど、C Tab 3. に示し LVA た各指標の解釈が妥当であるとは考えにくい。 はこれまでに状態-特性不安検査(STAI)6) 、7)・ との比較が行われているが、これら以外 POMS 7) にもストレス指標として評価の確立されている心 LVA 理検査や各種生理指標との比較検討により の測定対象について精緻化される事が望まれる。 またストレスに関連した質問に対する回答音声 をLVAで分析し、POMSとの相関を検討した太刀 SPJ JQ F 川ら の研究では、本研究とは反対に8) ・ が 尺度(疲労)と負の相関を示した。太刀川らの研究 と本研究ではLVAのバージョンが異なり、算出さ れる指標名も若干異なるなど直接的な比較は出来 ないものの(ただし、Erikson & Lacerda(2007) に5) よりバージョンアップに伴い指標名が変更されて も算出のアルゴリズムに変更が無い例も指摘され ている)、結果の再現性など信頼性の問題につい て今後も検討が必要だろう。特にLVAは分析結 果が音声測定の設定やデータの切り出し方に依存 して大きく変化するアルゴリズムとなっている ため 、測定・分析方法の標準化が重要であると5) 考えられる。特に、一人分の実験参加者の音声 データについて、実験開始から終了までの音声を まとめてLVAにかけてから試行毎に切り出す場 LVA 合と、予め試行毎の音声に切り出した後で にかけた場合とで結果が異なる場合が存在するの で、音声の切り出しとLVAによる解析実施の順 序は明確にする必要がある。また、太刀川らは と ・ の 指標に有意な相関が認め LVA STAI POMS
られた事からうつ・不安症状の評価法として有用 である可能性が示唆されたと述べているものの、 は認知的負荷の高まり、 は総合的な不安や SPJ JQ ストレスの増大によって値が上昇するとされてお り、そういった指標が疲労を表す 尺度と負の相F 関を示した結果からは彼らの解釈が妥当であるか 6)7) 疑問が残る。STAIやPOMSを用いた先行研究 や本研究において、LVAの複数の指標がそれら 心理学的指標と相関を示しているため、LVAは 開発者の意図しなかった何らかの心理的状態を捉 LVA えている可能性は否定できない。従って、 の指標がどのような心理的状態を反映しているか 精緻に検証できるならば、LVAの有効な利用法 が発見できるかもしれない。 しかし以上のように、LVAの指標の説明の妥 当性に問題がある事、研究間で同じ指標について 結果が安定しない事から、LVAを現段階におい て面接試験に用いる事は適切でない。本研究の結 果から気分評価の指標としてのLVAに否定的な 結果が得られたが、音声は簡便かつ非侵襲的に測 定可能な指標であるため、他のVSAについては今 後更なる検討を行う価値があると考えられる。 要 約 の質問項目及びその回答を音読させた際の POMS 音声をLVAにより分析した結果、5つの指標がそ POMS LVA れぞれ の異なる尺度と相関した 従って。 は気分状態の複数の側面と関係していると考えられ るが、各指標が何を反映しているのか明確でなく、 現段階において気分評価の指標として有用であると は言えない。そのため、精神状態把握の指標として 確立するためには他のVSA技術も含め今後更なる検 討が必要である。
文 献
1) Nemesysco.Ltd: Nemesysco Press Center -Voice Analysis around the World. Nemesysco.Ltd -Voice Analysis Tools for Security & Commercial Use (online), available from: <http://www.nemesysco. com/ press.html>, (accessed 2009 November 24). 2) Haddad, D., Walter, S., Ratley, R. & Smith, M.:
Investigation and Evaluation of Voice Stress Analysis Technology. Final Report, National Institute of Justice, NCJRS., 193832. 2002. available from: <http://www.ncjrs.gov/pdffiles1/nij/193832.pdf>, (accessed 2009 October 13).
3) Damphousse, K. R., Pointon, L., Upchurch, D. & Moore, R. K.: Assesing the Validity of Voice Stress Analysis Tools in a Jail Setting. Report Submitted to the U.S. Department of Justice. 2007. available from:<http://www.ncjrs.gov/pdffiles1/nij/grants/ 219031.pdf>, (accessed 2009 October 13).
4) Hollien, H. & Harnsberger, J. D.: Voice Stress Analyzer Instrumentation Evaluation. Final Report, CIFA Contract - FA 4814-04-0011., 2006. available from:<http://www.clas.ufl.edu/users/jharns/Research% 20Projects/UF_Report_03_17_2006.pdf>, (accessed
2009 October 13).
5) Erikson, A. & Lacerda, F.: Charlatanry in Forensic Science:A Problem to Be Taken Seriously. Forensic Linguist., 14(2), 169-193, 2002. 6) 根元清貴・太刀川弘和・谷向知 他:Layered Voice Analysisによる心理的ストレス検出の試み. , 50(10), 959-967, 2008. :精神医学 太刀川弘和・根元清貴・橋本幸紀 他:音声分 7) 4 析技術は、うつ・不安症状を評価できるか?第 , 40, 回日本うつ病学会総会プログラム・抄録集 2007. 秦 淳一郎・竹内由則:音声分析による精神緊 8) 張度評価の試み-横風着陸時の音声と心拍数の関 , 44(3), 171-174, 2008. 係-:人間工学 9) 横山和仁・荒記俊一:日本版POMS手引,15-29, , , 1994. 金子書房 東京
10) Ellingson, J. E., Sacket, P. R. & Hough, L. M.: Social desirability corrections in personality measurement: Issues of applicant comparison and construct validity. J. Appl. Psychol., 84(2), 155-166, 1999.
11) 横山和仁・荒記俊一:日本版POMS検査用紙, , , 1994.