はじめに
事業承継は全ての企業に共通の課題であります。 企業活動の継続は、少子高齢化や人口減少が進行する中、地域 社会にとっても、地域経済の活力維持や活性化、雇用の場の確保 など、大変重要であります。 上川総合振興局では、当振興局と包括連携協定を締結している 旭川信用金庫と連携し、事業承継に課題を抱える中小企業の皆様 を支援するため、本ハンドブックを作成しました。 現在、少子化等により後継者を確保できない企業も多く、検討 時期が遅れたために、廃業に追い込まれるケースも多くあります。 様々なリスクを回避し、円滑な事業承継を実現するためには、 早い時期から検討を始め、計画的に様々な対策を進めることが、 何より重要です。 事業承継支援を行う公的支援機関はご存じでしょうか? 事業承継を進めるにあたり、それら支援機関やお近くの商工会 議所・商工会、税理士などの専門家、お取引金融機関に相談され るなど、本ハンドブックが事業承継を検討するきっかけとなり、 御社の円滑な事業承継の一助となれば幸いです。目次
1 事業承継とは (1)事業承継で承継する項目・・・・・・・・・・・・・・・1 (2)項目ごとの留意点 ①ヒトの承継・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 ②無形資産の承継・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 ③有形資産の承継・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 2 事業承継対策の重要性 ケース1(株主構成の問題 その1)・・・・・・・・・・・・5 ケース2(株主構成の問題 その2)・・・・・・・・・・・・5 ケース3(経営者不在の問題)・・・・・・・・・・・・・・・6 ケース4(貸借対照表の問題)・・・・・・・・・・・・・・・7 (1)利益剰余金が多い・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 (2)経営者から多額の役員借入金がある・・・・・・・・・・8 (3)土地が多い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 (4)経営者個人が所有する土地や建物を会社に貸している・・9 3 具体的な事業承継対策 (1)事業承継の進め方・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 (2)各承継方法のメリットとデメリット・・・・・・・・・・11 (3)各承継方法の主な対策・留意点 ①親族内承継・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 ②親族外承継(従業員等)・・・・・・・・・・・・・・・・・21 ③親族外承継(第三者)・・・・・・・・・・・・・・・・・・22 (4)事業承継計画の作成・・・・・・・・・・・・・・・・・25 4 事業承継についてのご相談・サポート窓口・・・・・・・・・271 事業承継とは
(1)事業承継で承継する項目 事業承継とは、現在の経営者から後継者に事業をバトンタッ チすることをいいます。 承継する代表的な項目は下の図のとおりです。個人の相続対 策はこのうち有形資産の承継の一部に過ぎません。 これらの検討を開始し、承継方法の決定、承継計画の作成、 計画の実行、承継完了までは、相当な期間が必要となります。 円滑に事業を承継するためには、早期の着手が何より重要です。 以下本書では、事業承継対策の重要性や具体的な対策につい てご説明します。 ヒトの承継 有形資産の承継 株式 事業用資産 無形資産の承継 経営理念 現在の経営者の価値観や信条 経営者として必要な業務知識や経験 人脈 リーダーシップ 特許その他のノウハウ株
後継者の選定、育成(2)項目ごとの留意点 なお、承継する項目ごとに留意する点は、以下のとおりです。 ①ヒトの承継 後継者の候補には、「親族」、「従業員等」、「第三者」があり ますが、それぞれに様々なメリット、デメリットがあります。 後継者を選ぶにあたっては、それぞれのメリット、デメリット を十分把握することが必要です。(具 体的なメリット・デメリットは、11 ペ ージ) ②無形資産の承継 「無形資産」としては、現在の経営者の価値観や信条といっ た経営理念や経営者として必要な業務知識や経験、リーダーシ ップ、取引先や顧客との間に長年培ってきた信頼関係がありま すが、これらは簡単に引き継ぐことができません。そのため、 早い時期からの後継者教育が重要です。 早い段階で後継者が決まっている場合には、実際に経営に参 加させて身につけさせる方法がありますし、社外経営セミナー などを活用することも方法の一つです。 そして最も難しいのが、「経営理念」の承継です。経営理念 は、社是や定款などに明確化される場合もありますが、経営者 や従業員の頭の中にだけあって、明確化されていない場合もあ ります。この場合には、過去に経営者と して考えてきたこと、今までの経営で大 事にしてきたことなどを整理するなど して、経営理念を目に見える形にして、 確実に後継者に引き継いでいく必要が あります。
また、企業が有している特許や 商標などの知的財産やソフトウェ アなどのほか、それまでに独自に 開発してきた技術やノウハウなど の「無形資産」を的確に承継するこ とが必要です。 会社が保有する知的財産(特許、実用新案、意匠等)につい ては、適切な管理を行った上で、後継者に引き継ぐことが必要 ですし、経営者が個人名で特許権や商標権を取得している場合 には、事業承継時に、移転登記申請等、種々の手続きが必要と なります。また、会社や経営者が持つ技術やノウハウには権利 化できるものもあります。こうした権利化できるものについて は、必要な手続き(特許権、実用新案権、意匠権の出案など) を行うことも必要です。 ③有形資産の承継 後継者が安定的に経営して いくためには、後継者に株式 や事業用資産を集中的に承継 させることが必要です。 経営者に複数の子どもがい る場合、後継者以外の相続人 の権利(遺留分(※))によっ て、株式や事業用資産が分散してしまうことがあります。こう した場合、後継者が安定的な経営をすることが困難となるケー スがあることから、後継者以外の相続人への配慮について検討 することが重要です。 また、中小企業では、経営者が会社の株式の大半を所有して
いたり、経営者の個人資産を事業の用に供している場合も多く、 後継者は、相続資産に係る相続税の納付や株式・事業用資産の 買い取りのため、多額の資金が必要となる場合があるため、早 い時期からの検討が重要です。 (※)遺留分・・・配偶者や子などに民法上保証される最低限の 財産承継の権利。 誰に、いつ、どうやって承継するかを決めることが必要
2 事業承継対策の重要性
事業承継対策をとらないと、次のような問題が起こります。 ケース1(株主構成の問題 その1) 先代の経営者(たとえば現在の会長)が株式の過半数を所有しており、 後継者である社長への実質的な権限委譲が進んでいないケース 会社で最も強力な権限を持っているのは株主であり、役員の選任 と解任の権限を持ち、会社の重要な意思決定を行うことができます。 後継者以外に大株主がいると、会社の意思決定が混乱する可能性が ありますので、中小企業では後継者が株式の大半を所有すべきです。 会長が大株主として経営の意思決定の実権を握っている場合には、 後継者に社長職を譲ったとしても、実質的な事業 承継がなされているとはいえません。一定の引き 継ぎ期間を設けて社長職を譲った後は、先代の経 営者は後継者に経営を任せるようにしましょう。 ケース2(株主構成の問題 その2) 代表者でない方や過去に代表者でなかった方が株式を多く持って いる、あるいは多数の株主が存在するケース 後継者が株式の大半を持っていない場合の大きな問題点はケース 1のとおりですが、現在の経営者でない方はもちろん、過去にも経 営者でなかった方が株式の大半を所有している場合には、後述する (18 ページ)いわゆる経営承継円滑化法が使えないという問題も起き るので注意が必要です。株
また、中小企業では親族による経営が行われており、株主の数も ごく少数であるのが一般的です。しかし、中には第三者を含めて多 数の株主がいる中小企業の場合、経営権が分散してしまうというリ スクを抱えることがあります。現在の株主が存命のうちは問題が起 きなくても、それぞれの株主が亡くなり、その親族が 相続によって新たな株主となった場合には、これ までと同様、「物言わぬ株主」でいてくれるかどう かはわかりません。なお、株主の数が多い会社の 場合、それが単なる「名義人」(※)となっている 場合もありますので注意が必要です。 (※)名義人・・・実際には出資していないにもかかわらず株主にな っている人のこと。平成2年の商法改正前までは 株式会社を作るには発起人(株主)が7名以上必 要でしたが、この7名を集めるのが容易でない場 合に名前だけの株主をお願いすることがあったよ うです。名前だけの株主が持つ株式のことを「名 義株」ともいいます。 ケース3(経営者不在の問題) 後継者を決めないまま経営者の体調が悪化し、経営者不在の状況 になるケース 高齢の経営者が体調を崩したり、あるいは判断能力の低下や、最 悪の場合亡くなってしまうことによって事業そのものの存続が危ぶ まれる場合があります。もちろん経営者にとって体調管理も大切で すが、経営者が健康なうちからなるべく早く後継者を決めて、事業 承継の準備をしておきましょう。
適当な後継者がいない場合には従業員の雇用を守るために第三者 への承継などを検討することも選択肢の一つです。 また、遺言書を作成しないまま経営者が亡くなり、後継者を含め た相続人に会社の株式と事業用資産が分散することになれば、会社 の株式と事業用資産を後継者に集中させられなくなる可能性があり ます。遺言書を作っておくことによってこれらの分散を最小限にす るとともに、事業承継対策をとることで後継者へこれらの資産を集 中させるようにしましょう。 なお、何ら事業承継対策をとらないまま経営者が亡くなると、相 続税の納付のため、多額の資金が必要になる場合もあります。 現在の経営者が存命のうちから生前贈与 や、いわゆる経営承継円滑化法(詳しくは18 ページを参照)の活用など、早めの対策を検 討しましょう。 ケース4(貸借対照表の問題) 会社の貸借対照表に利益剰余金が多い(1)、会社に経営者から多 額の借入金がある(2)、会社が土地を多く所有している(3)、ある いは経営者が個人で所有している土地や建物を会社に貸している(4) (1)利益剰余金が多い 図のように利益剰余金が多い会社は、過去、利益を計上し続け てきた会社であり、一般的には財務内容が良いといわれる会社で す。 しかしながら、財務内容が良い会社は株式の評価額が高くなる ため、後継者が株式を買い取ろうとしても多額の資金が必要にな り、また贈与をする場合にも贈与税が多額となり、株式を動かす ことが容易ではありません。
(2)経営者から多額の役員借入金がある 経営者からの借入金がある会社は実務上多く見られます。経営 者からの借入金は、経営者の側から見ると会社への貸付金であり、 経営者個人の財産として、経営者が亡くなった場合にそれが相続 税の課税対象になることは見過ごされがちです。多額の役員借入 金がある会社は、早めに対策を検討しましょう。 資 産 負 債 純 資 産 (内訳) 役員借入金 50,000 資 産 負 債 純 資 産 (内訳) 資本金 10,000 利益剰余金 100,000
(3)土地が多い 最近購入した土地であれば問題ありませんが、社歴のある会社 が昔購入したもので、購入時の価格に比べて現在の時価が高くな っている場合も注意が必要です。会社の株価を評価するにあたっ て、会社が持つ資産は基本的に時価で評価されますから、土地が 多額の含み益を抱えている場合には、前述した利益剰余金が多く なる可能性があります。 (4)経営者個人が所有する土地や建物を会社に貸している 後継者へ引き継ぐべき資産は会社の株式だけではありません。 株式は後継者へ引き継ぎしたものの、会社の社屋、あるいはそれ が建っている土地など、会社が事業用に使用している資産が後継 者以外の人に渡った場合、賃料をめぐるトラブルなどが起きる可 能性もあります。 株式同様、後継者(経営者)は事業用資産も所有すべきでしょう。 資 産 負 債 純 資 産 (内訳) 土地 100,000
3 具体的な事業承継対策
(1)事業承継の進め方 次のようなステップを経て具体的な対策(12 ページの「(3) 各承継方法の主な対策・留意点」に記載)を実行することで円 滑な事業承継を進めることができます。 【現状の把握】 ・従業員の数や年齢、会社の資産など経営資源の状況 ・会社の負債や将来の見込みなど経営リスクの状況 ・経営者の保有株数や個人名義の資産など経営者自身の状況 ・後継者の有無や能力・適性など後継者候補の状況 ・相続人同士の関係や相続税額の試算など相続発生時の問題点 ステップ1 ステップ2 【後継者・承継方法の確定】 ・親族内に後継者候補がいる → ・社内に後継者候補がいる → ・社内に後継者候補がいない → 親族内承継 親族外承継(従業員等) 親族外承継(第三者) ステップ3 【事業承継計画の作成】 ・中長期の経営計画に、事業承継の時期や具体的な対策などを盛り込 んだ事業承継計画書を作成(2)各承継方法のメリットとデメリット 事業承継の方法には主に、親族内承継、親族外承継(従業員 等)、親族外承継(第三者)の3つがあります。各承継方法の メリット・デメリットは次のとおりです。 出典:独立行政法人 中小企業基盤整備機構発行 「平成27年度版 中小企業者のための事業承継対策」
(3)各承継方法の主な対策・留意点 ①親族内承継 親族内承継は、現経営者の子供が後継者となるケース、甥 や娘婿、配偶者が後継者となるケースなどが想定されます。 〈関係者の理解〉 ・後継者候補との意思の疎通をとりましょう。 ※候補者が複数名いる場合は特に注意が必要です。 ・社内や取引先・金融機関へ事業承継計画を公表し理解を得 ましょう。 ※借入がある場合、時期は特に注意が必要です。 ・将来の経営陣の構成を視野に入れて役員・従業員の世代交 代を準備しましょう。 〈後継者教育〉 ・社内での教育 経営者の直接指導、各部門ローテーション、責任ある地位への就任。 ・社外での教育 他社勤務を経験する、後継者塾、セミナー等への参加。 〈会社の強み・弱みを後継者と一緒に考える〉 ・経営理念・ノウハウ、顧客とのネットワークなど目に見え にくい資産を一緒に考え承継する必要があります。第三者 を交えて経営会議を開くのも有効な手段です。 〈個人保証・担保の処理〉 ・現オーナー経営者の個人保証について、後継者も連帯保証 人に加わることを求められる場合があります。 ・現経営者は、事業承継に向けて債務の圧縮に努めると共に 経営者保証ガイドラインにもとづいた金融機関との交渉や、 後継者の負担に見合った報酬の設定等の配慮が必要です。
〈株式・財産の分配〉 ・後継者以外の相続人へ配慮することも踏まえて後継者への 自社株式、事業用資産を集中させる方法を検討しましょう。 ア 贈与の活用 贈与には、暦年課税制度と相続時精算課税制度の2つがありま す。両制度の違いをまとめると次のようになります。 区分 暦年課税制度 相続時精算課税制度 概要 1月1日から 12 月 31 日 までの1年間に贈与された 価額の合計に対して贈与 税を納める 親から子又は孫への贈与税 を一度納め、相続発生時に 相続税との差額を精算する 贈与者 制限なし 60 歳※以上の親又は祖父母 (父・母ごとに選択可) 受贈者 20 歳(兄弟姉妹ごとに選択可) ※以上の子又は孫 選択の 届出 不要 必要 (一度選択すると相続時ま で適用) 非課税枠 年間 110 万円(基礎控除) 相続時までの合計 2,500 万円 税率 110 万円を超えた部分に 10%~55% 2,500 万円を超えた部分に20% 手続き 翌年3月 15 日までに 申告書の提出と納税 選択した年の翌年3月 15 日までに本制度を選択する旨 の届出書を提出 精算 相続税とは別枠 (ただし、相続開始前 3年以内の贈与は相続 財産に加算して相続税 の計算に算入) 相続税の計算時に精算 (贈与財産は贈与時の 時価で評価) ※贈与を行った年の1月1日時点での年齢
贈与税の税率(一般・・・右記以外) 特例(20 歳以上の者が直系尊属から贈与) 基礎控除を差し引いた 後の課税価格 税 率 控 除 額 (万円) 基礎控除を差し引いた 後の課税価格 税 率 控 除 額 (万円) 200 万円以下の金額 10% ― 200 万円以下の金額 10% ― 300 万円以下の金額 15% 10 400 万円以下の金額 15% 10 400 万円以下の金額 20% 25 600 万円以下の金額 20% 30 600 万円以下の金額 30% 65 1,000 万円以下の金額 30% 90 1,000 万円以下の金額 40% 125 1,500 万円以下の金額 40% 190 1,500 万円以下の金額 45% 175 3,000 万円以下の金額 45% 265 3,000 万円以下の金額 50% 250 4,500 万円以下の金額 50% 415 3,000 万円超の金額 55% 400 4,500 万円超の金額 55% 640 相続税の税率 法定相続分に応ずる 取得金額 税 率 控 除 額 (万円) 1,000 万円以下の金額 10% ― 3,000 万円以下の金額 15% 50 5,000 万円以下の金額 20% 200 1億円以下の金額 30% 700 2億円以下の金額 40% 1,700 3億円以下の金額 45% 2,700 6億円以下の金額 50% 4,200 6億円超の金額 55% 7,200
イ 遺言の活用 遺言書を作成することで、後継者に株式や事業用資産を集中 させやすくなります。遺言には主に、「自筆証書遺言」と「公 正証書遺言」の2種類があります。それぞれの特徴と遺言の作 成例は次のとおりです。なお、遺言は遺言者が生きている間い つでも撤回できるため、生前贈与に比べて後 継者の権利が確実でないことと、例え全財産 を後継者に相続させる遺言があったとして も、法律で定められた相続人が遺産を取り戻 すことができる権利(遺留分減殺請求権)が ある点には注意が必要です。 自筆証書遺言 公正証書遺言 作 成 方 法 遺言者が、日付、氏名、財産の分 割内容等全文を自書し、押印し て作成。 遺言者が、原則として、証人2人 以上とともに公証人役場に出か け、公証人に遺言内容を口述し、 公証人が筆記して作成。 メ リ ッ ト ・手軽に作成できる。 ・費用がかからない。 ・遺言の形式不備等により無効 になるおそれがない。 ・ 原本は、公証人役場にて保管 されるため、紛失・隠匿・偽造 のおそれがない。 ・家庭裁判所による検認手続き が不要である。 デ メ リ ッ ト ・文意不明、形式不備等により無 効となるおそれがある。 ・遺言の紛失・隠匿・偽造のおそ れがある。 ・家庭裁判所の検認手続が必要で ある。 ・作成までに手間がかかる。 ・費用(注)がかかる。 (注)費用の目安として1億円の 遺産を3人の相続人に均等 に与える場合は、約 10 万円 の手数料が必要となる。
ウ 自己株式の活用 会社に資金的な余裕がある場合には、会社自らが後継者以外 の所有する株式を買い取ることで、結果的に、後継者の持株比 率を高めることができます。会社が自ら買い入れた自己株式に ついては議決権がないからです。 エ 種類株式の活用 株式会社では、普通株式のほかに種類株式といわれる普通株 式とは権利内容の異なる株式を発行することができます。事業 承継対策に利用できる種類株式としては、議決権制限株式や拒 否権付株式などがあります。 (ア)議決権制限株式 株主総会での議決権の全部または一部が制限されている 株式のことです。後継者には議決権のある株式を取得させ、 それ以外の相続人などには議決権のない株式を取得させる ことで、後継者に議決権を集中させることができます。 (イ)拒否権付株式(黄金株) 株主総会における一定の決議事項については、必ず、拒否 権付株式の株主総会決議が必要という株式のことです。会 社の株式の大部分を後継者に譲るけれども不安が残る、と いうような場合に、経営者が拒否権付株式を保有し、後継者 の経営に助言を与えられる余地を残しておくこともできま す。
オ 生命保険の活用 生命保険には、たとえば次のような活用方法があります。 ・死亡保険金の受取人を相続人にすることにより、相続税の納 税資金を確保できます。 ・遺産分割協議(※)を行う必要がありません。 (※)遺産分割協議…誰がどの財産をもらうのか、について 相続人間で決める話し合いのこと。 ・死亡保険金の受取人は1人でも複数人でも可能ですので、受 取人を指定することにより、財産分割のバランスをとること ができます。 ・一定の契約形態の生命保険には、死亡保険の非課税枠(500 万円 ×法定相続人の数)があります。 ・代償分割(※)時の代償交付金として活用できます。 (※)代償分割・・・自社株などの現物を取得することで、相続分 より多く遺産をもらうことになった相続人が、 他の相続人にそれぞれの相続分に見合う金銭 等を支払うことで過不足なくする方法。 生命保険を活用した代償分割イメージ図
カ 経営承継円滑化法の活用 平成 20 年 10 月に施行された「中小企業における経営の承継 の円滑化に関する法律(いわゆる経営承継円滑化法)」によっ て、たとえば次のようなことができるようになりました。 ・事業承継税制 非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予・ 免除制度 ・民法の特例 生前贈与株式を遺留分の対象から除外 生前贈与株式の評価額を予め固定 ・金融支援 中小企業信用保険法の特例 株式会社日本政策金融公庫法の特例 (例)かみかわ商事の会長は 3,000 万円相当の不動産と 3,000 万 円相当のかみかわ商事株式を持っていました。子供は長男、 次男、三男の3名です。会長はとりあえず後継者である長男 にかみかわ商事の株式をすべて生前贈与して、長男に会社を 承継させました。 その後、長男のがんばりでかみかわ商事株式の価値は贈与 時の4倍の1億 2,000 万円になりました。これによって遺留 分算定の基礎財産は合計 6,000 万円だったものが合計1億 5,000 万円に増えたことになります(※1)。 しかし、この結果、次男と三男の遺留分合計がそれまでの 2,000 万円(※2)から 5,000 万円(※3)に増えてしまった ため、この時点で相続が発生してしまうと、次男と三男には不 動産 3,000 万円の他に、さらに 2,000 万円の資産を渡さなけれ ばならなくなります。すなわち、長男が会社経営でがんばれば がんばるほど、次男と三男の取り分も増えてしまうわけです。
(ア)そこで、経営承継円滑化法を使うと、長男が贈与された 株式を遺留分から除外するか、贈与した株式の価値を贈与 時点で固定するという民法の特例を利用することができ るようになりました。 (イ)また、例では会長から長男へ株式を贈与したことにして いますが、贈与ではなく買い取ることにした場合の 3,000 万円という買取資金について、経営承継円滑化法を使うこ とで、政府系金融機関から低利での融資が受けられたり、 通常の保証とは別枠で信用保証協会の保証を使うことが できます。 (ウ)さらに、会長から長男へ株式を贈与する場合でも、通常 の暦年課税制度を使うと非課税枠の 110 万円(年間)を超 えた部分に贈与税がかかり相続税精算課税制度によって も 2,500 万円(相続までの累計)を超えた部分に贈与税が かかってしまうところ、経営承継円滑化法の制度を使うと、 贈与税の全額について納税が猶予されます(ただし、対象 となる株式は議決権総数の3分の2まで)。 この納税猶予制度は、株式を相続することによって発生 する相続税についても適用されますが、この場合の猶予税 額は相続税の 80%です(ただし、対象となる株式は議決権 総数の3分の2まで)。 (※1)贈与前 会長の不動産 3,000 万円+特別受益としての持ち戻し の対象となる株式 3,000 万円の計 6,000 万円 贈与後 会長の不動産 3,000 万円+特別受益としての持ち戻し の対象となる株式 1 億 2,000 万円の計 1 億 5,000 万円
(※2)(3,000 万円+3,000 万円)×1/2(遺留分)÷3名× 2名 (次男・三男) (※3)(3,000 万円+1 億 2,000 万円)×1/2(遺留分)÷3名 ×2名 (次男・三男) 経営承継円滑化法を活用するためには、事業承継税制及び金 融支援を利用する場合、経済産業大臣の認定を受けることが必 要であるほか、民法の特例を利用する場合には、経済産業大臣 の確認及び家庭裁判所の許可を受けることが必要です。その他 必要となる主な要件は次のとおりです。 ・中小企業であること(特例有限会社や持分会社も対象) ・先代経営者(被相続人または贈与者)が会社の代表者であった こと(本制度を利用する場合、先代経営者は役員のままでも 構いませんが、代表者からは退任していただく必要がありま す。ただし、民法の特例を利用する場合は、遺留分算定に係 る合意時点において代表者であることを含みます。) ・先代経営者(被相続人または贈与者)が 50%超の株式を保有 していたこと ・後継者(相続人または受贈者)は会社の代表者であること(後 継者は親族に限られません。ただし、民法の特例を利用する 場合を除きます。) ・後継者(相続人または受贈者)が相続あるいは贈与後 50%超 の株式を保有していること その他必要となる要件もございますので、詳しくは中小企業 庁ホームページをご覧頂くか、支援機関、専門家にお問い合わ せください。
②親族外承継(従業員等) 役員や従業員など社内へ承継するパターンと、取引先・金 融機関等外部から雇い入れる承継パターンがあります。 株式と事業用資産を後継者に集中させるべきなのは、親族 内の後継者の場合と同様です。ただし、親族以外の後継者へ 事業承継する場合には、特に以下のような点に留意しましょ う。 ア 関係者の理解を得る 関係者の理解を得るまでに、親族内承継の場合より多くの 時間がかかることがあり、丁寧な調整が大切です。 イ 後継者教育 ウ 親族への相続も考慮した株式・事業用資産の分配 (MBO(※)や EBO(※)の利用も検討する) エ 個人(債務)保証や担保の処理 現経営者の個人保証について、後継者も連帯保証人に加わ るよう求められることもあることから、債務の圧縮に努める とともに、後継者の負担に見合った報酬の設定等の配慮も必 要です。 (※)MBO…Management Buyout の略 会社経営陣が株主から自社株式を買い取ったり、事 業部門統括者が当該事業部門を事業譲渡されたり することで、オーナー経営者として独立する行為 (※)EBO…Employee Buyout の略 経営陣ではなく従業員が自社の株式を取得し、会 社や事業部門等を譲り受けること
③親族外承継(第三者) 親族や従業員等に後継者がいない場合には、会社そのものを 譲渡し、第三者に経営を譲ること(M&A)も選択肢のひとつ です。会社を継続することによって、従業員の雇用を維持する とともに取引先の仕事を確保し、経営者の老後の生活資金を確 保することもできるからです。会社を譲渡する方法には、大き く分けて次のような方法があります。 ・会社の全部を譲渡する方法 合併、株式の売却、株式交換 ・会社の一部を譲渡する方法 会社分割、事業譲渡 会社の譲渡を成功させるためには、準備段階で秘密を漏らさ ない、専門家に相談するなどいくつかの留意点がありますが、 最も大切なことは、会社の引き受け手にとって魅力のある会社 にしておくことです。 ア 魅力のある会社にするためのポイント 実際に相手先との交渉に入る前に、つぎのような項目に特 に注意して、自社の実力を高めておくことが重要です。 ・業績の改善・伸長、無駄な経費支出の削減 ・貸借対照表のスリム化(事業に必要のない資産の処分等) ・セールスポイントとなる会社の「強み」を作ること ・計画的に役職員への業務の権限委譲を進めること ・オーナーと企業との線引きの明確化 (資産の貸借、ゴルフ会員権、自家用車、交際費等) ・各種社内マニュアル・規程類の整備 ・株主の事前整理
イ 自社の価値を知る方法
下記の手順で自社の株価を簡易的に計算することができ ます。
ステップ1
ステップ2
株式の評価にはさまざまな方法がありますが、ここでは純資 産法と収益還元法の 2 つの方法で計算してみましょう。 自社株式簡易試算表
(4)事業承継計画の作成 事業承継を円滑に進めるためには、前もって計画を立て、周囲 の理解を得ながら対策を実行することが重要です。具体的な対策 を盛り込んだ事業承継計画を作成しておけば、対策を計画的に実 行していくことが可能になりますので、早めに検討を始めること が重要です。 現経営者の年齢や、後継者の年齢から円滑に経営資源、経営 権を承継するはどれぐらいの期間が必要なのか、実際に計画を 立ててみましょう。計画を作成することで、対策をとる時期が 分かるだけでなく、思ったより時間が必要になることが分かる 場合もあります。現状を把握し将来の見通しを明確にさせます。 事業承継計画の一例
事業承 継 計画 表( ※ 10 年計画 の場 合) 自 社の 計 画を作 成して みまし ょう
4 事業承継についてのご相談・サポート窓口
情報収集やご相談は下記の公的支援機関のほか、お住まいの地 域の商工会議所・商工会、金融機関、専門家などにご相談ください。<公的支援機関>
北海道事業引継ぎ支援センター 経済産業省北海道経済産業局から委託を受けて、札幌商工会議 所内に設置された公的相談窓口です。事業承継全般の相談を無 料、秘密厳守で受付。事業承継に精通した3名の専門家により、 公正中立な立場で豊富な経験に基づいたアドバイスを行って おり、事業承継、M&A をお考えの経営者の方々に事業承継の課 題の整理や悩みを安心してご相談いただけます。 札幌市中央区北1条西2丁目 北海道経済センタービル7階 電話:011-222-3111 URL :https://www.sapporo-cci.or.jp/hikitsugi/ 独立行政法人中小企業基盤整備機構 北海道本部 中小企業の経営、財務、法律、事業承継など、幅広い相談を無 料で受け付けております。経験豊富な弁護士、公認会計士、税 理士、中小企業診断士などで構成される事業承継コーディネー ターが連携してアドバイスいたします。また、中小企業大学校 旭川校では、後継者教育等各種研修プログラムを実施しており ます。 【北海道本部】 札幌市中央区北 2 条西 1 丁目 1 番地 7 ORE 札幌ビル 6 階 電話:011-210-7471 URL :http://www.smrj.go.jp/hokkaido/ 【中小企業大学校旭川校】 旭川市緑が丘東3条2丁目2番1号 電話:0166-65-1200 URL :http://www.smrj.go.jp/inst/asahikawa/北海道よろず支援拠点 北海道経済産業局から委託を受けて、公益財団法人北海道中小 企業総合支援センター内に開設された公的相談窓口です。札幌 の本部のほか、旭川など道内6箇所に支部があります。事業承 継を含めた複雑・高度・専門的な経営課題を抱える中小企業・ 小規模事業者に対し、ニーズに応じたきめ細かい支援サービス をワンストップで提供する無料の相談窓口です。 【札幌本部】 札幌市中央区北一条西二丁目 北海道経済センタービル9階 (公財)北海道中小企業総合支援センター内 電話:011-232-2407 URL :http://yorozu.hokkaido.jp 【道北支部】 旭川市緑が丘東 1 条 3 丁目 旭川リサーチセンター内 電話:0166-68-2750 商工会議所・商工会 事業承継全般に関する助言、専門家の紹介、情報提供、経営者・ 後継者育成等に関するセミナーの実施等行っております。
<専門家等>
公認会計士 監査・会計の専門家として、主たる業務である監査証明業務の ほか、経営・業務改善・情報システム等に関するコンサルティ ングを行います。 日本公認会計士協会北海道会 札幌市中央区北 1 条西 4 丁目 2-2 札幌ノースプラザ 8 階 電話:011-221-6622 URL :http://hokkaido.jicpa.or.jp/ 税理士 顧問税理士等として中小企業との関わりが深く、税務面はもち ろん、企業経営に関する総合的なサポートを行っています。 北海道税理士会旭川支部 旭川市常盤通1丁目道北経済センター5階 電話:0166-25-1601 URL :http://www.do-zeirishikai.or.jp/ 中小企業診断士 企業の経営戦略策定やその実行のためのアドバイスのほか、中小 企業と行政・金融機関等をつなぐパイプ役など、中小企業が経営 課題に対応するためのコンサルティング、助言を行っています。 一般社団法人中小企業診断協会北海道 札幌市中央区北4条西6丁目1番地 毎日札幌会館4階 電話:011-231-1377 URL :http://www.shindan-hkd.org/弁護士 事業承継に関する法律面の全般において中小企業の事業承継 をサポートします。 旭川弁護士会 旭川市花咲町4丁目 電話:0166-51-9527 URL :http://kyokuben.or.jp/ 司法書士 商業・法人登記手続のほか、中小企業の顧問・アドバイザーと して企業法務等に関する情報提供・書面作成に関するアドバイ スを行っています。 旭川司法書士会 旭川市花咲町4丁目 電話:0166-51-9058 URL :http://www.asa-s.jp/ 金融機関等 中小企業に対して、資金面をはじめとする総合的なサポートを 行い、中小企業の経営課題や事業承継全般に関する様々な助言 も行っています。