ポ ップ ア ウ トの試 行 間促 進 効 果 に対 す る
注 意 の構 え とプ ライ ミン グの影 響
林美恵 子1熊
田孝恒 独立行政法人産業技術総合研究所
Influence of attentional setting and priming on the inter-trial facilitation effect on pop-out
Mieko Hayashi and Takatsune
Kumada
(National Institute of Advanced Industrial Science and Technology)
In visual search situations, it is known that not only bottom-up factors relative to the presented stimulus display
but also top-down factors, which include foreknowledge about the target or observers' strategies for the task, have
an influence on search performance. The present study examines how top-down attentional control settings affect
the visual search process by using the within-dimension facilitation (WDF) and the inter-trial facilitation (ITF)
effects. In Experiment 1 we showed the WDF effect using foreknowledge about the target-defining dimension
within one block. In Experiment 2 we found the ITF effect using foreknowledge about the target-defining
dimension in every trial. These results suggest that search performance is improved both top-down attentional
setting using foreknowledge and inter-trial priming by repetition of target-defining dimensions, and they are
interactive. Furthermore, the influence of the priming effect strongly appeared when observers had an attentional
setting every trial. These results show that the magnitude of bottom-up inter-trial priming effects depends on the
top-down attentional setting.
Key words: visual search, feature search, attentional setting, inter-tria facilitation, priming of pop-out.
The Japanese Journal of Psychology
2007, Vol. 78, No. 1, pp. 1-8
複 数 の 刺 激 の 中 か ら,特 定 の 目標 刺 激 を 探 し出 す と い う視 覚 探 索 状 況 に 関 して,多 くの モ デ ル が 提 案 され て、き て い る が,そ の ほ とん ど は 目標 検 出 の た め に,並 列 処 理 ・逐 次 処 理 段 階 と い う二 段 階 の 情 報 処 理 を 仮 定
し て い る(Cave & Woife, 1990; Treisman & Gelade, 1980; Wolfe, 1994)。 そ して 各 段 階 で,様 々 な 要 因 に よ り 探 索 遂 行 が 影 響 を 受 け る こ と が 知 ら れ て い る (Wolfb,1998)。 例 え ぼ 探 索 画 面 に 提 示 さ れ る 刺 激 項 目 の 持 つ 特 徴 次 元 や 項 目 数 とい っ た ボ トム ア ッ プ要 因 だ け で な く,観 察 者 の 目 標 刺 激 に 関 す る事 前 の 知 識 や 課 題 要 求 に 対 す る観 察 者 の 方 略 と い っ た トッ プ ダ ウ ン要 因 も,探 索 遂 行 に 影 響 を及 ぼ す(Bacon & Egeth, 1994; 林 ・熊 田,1999)。
視 覚 探 索 を 制 御 す る ト ッ プ ダ ウ ン要 因 の一 つ に,観 察 者 の 注 意 の 構 え(attentional control setting)が あ る。 Folk, Remington, & Johnston (1992, 1993)は 視 覚 探 索 と空 間 的 手 が か り課 題 を 用 い て,注 意 の 捕 捉 が 起 こ る 状 況 で,意 図 的 ・目標 指 向 的 に 課 題 関 連 の 特 徴 次 元 を 選 択 す る こ とが で き る こ と を 示 し た 。 彼 ら の 実 験 で 'は ,手 が か り と 目標 を 定 義 す る 特 徴 次 元(こ こ で は 色 と突 然 の オ ン セ ッ ト)が 同 じ場 合 は,手 が か り と異 な る位 置 に 目標 が 提 示 さ れ た とき の 目標 の 同 定 に は 時 間 が か か る こ と を 見 い だ した 。 こ の 意 図 的 な 次 元 選 択 は,実 験 参 加 者 が 前 も っ て 特 定 の 次 元 に"構 え る"こ とに よ っ て 生 じ る こ とか ら,注 意 の 構 え と呼 ば れ て い る。 しか し, ,こ の 注 意 の構 え が 視 覚 探 索 に 与 え る効 果 は 明 ら か に な っ て い な い 。 本 研 究 で は,視 覚 探 索 に お け る 次 元 内促 進 効 果 及 び 試 行 間 促 進 効 果 を 指 標 と し,ト ッ プ ダ ウ ン要 因 の 一 つ で あ る 注 意 の 構 え が,探 索 過 程 に 対 して ど の よ うに 関 与 す るか を 明 らか に す る こ と を 目的 と した 。 単 一 の 特 徴 で 定 義 さ れ た 目標 を 探 索 す る特 徴 探 索 課 題 に お い て,目 標 定 義 次 元 に つ い て の 先 行 知 識 が あ る 場 合,す な わ ち 注 意 の構 え を 持 つ こ とが 可 能 な 場 合, 目標 検 出 が 促 進 さ れ る こ とが 示 さ れ て い る(Found & Miiller, 1996; Miiller, Heller, & Ziegler, 1995; Treisrnan,
1988)。 こ の 効 果 を"次 元 内 促 進 効 果(within-dimen-sion facilitation: WDF)"と 呼 ぶ(Found & Miiller., Correspondence concerning this article should be sent to: Mieko
Hayasm, School of Human Science, Waseda University, Mikajima, Tokorozawa 359-1192, Japan (e-mail:rits-lin2924@yahoo.co.jp)
1996; Kumada, 2001)。 例 え ばTreisman(1988)は,特 徴 探 索 課 題 に お い て,ブ ロ ッ ク 内 で 目標 が 一 定 の 目標 固 定 条 件 と,目 標 の 次 元 は 一 定 で あ る が 特 徴 値 が 異 な る 次 元 内 条 件 で は,探 索 時 間 に 差 が な か っ た が,目 標 の 次 元 が 異 な る 次 元 間 条 件 は そ れ らの 条 件 に 比 べ て 探 索 時 間 が 約90 ms増 加 し た こ と を 示 し た 。Treismanは,特 徴 定 義 さ れ た 目標 は 単 一 の 特 徴 マ ッ プ 内 で は 直 ち に検 出 さ れ る が,異 な る マ ッ プ 間 に ま た が る場 合 に は,各 モ ジ ュ ー ル を 順 次 チ ェ ッ ク しな け れ ぼ な ら ず,次 元 間 条 件 で は そ の た め の コ ス トが か か るた め,次 元 内 促 進 効 果 が 生 じ る と説 明 した 。 ま た,Muller et al. (1995)も 同様 に,次 元 間 条 件 の 探 索 時 間 が60ms増 加 す る こ と を 示 し た(実 験1)。 Mullerら は この 次 元 内 促 進 効 果 を,視 覚 探 索 の 代 表 的 な モ デ ル で あ る誘 導 探 索 モ デ ル(Wolfe, 1994)に,次 元 加 重(Dimension-weighting)メ カ ニ ズ ム を 加 え る こ
とで 説 明 した 。 ま ずFound & Muller (1996)は,既 知 特 徴 次 元 の 特 徴 マ ッ プ には他 次 元 よ り も大 き い 重 み 付 け が な さ れ(次 元 加 重),こ の 次 元 加 重 に よ っ て 変 調 さ れ た 信 号 が,マ ス タ ー マ ッ プ 上 で 目標 位 置 の 活 性 化 値 を 増 大 さ せ る こ と に よ り探 索 が 促 進 さ れ る と説 明 し た 。 さ ら に,Muller et al. (1995)は,次 元 間 条 件 に お い て 同 じ特 徴 で 定 義 され た 目標 が 連 続 し た 試 行 で 提 示 さ れ る と,目 標 探 索 時 間 が 短 縮 す る こ と を 明 ら か に し た 。 こ の 効 果 は 試 行 間 促 進 効 果(inter-trial facilita-tion: ITF)と 呼 ぼ れ て い る 。 彼 ら は,連 続 す る 試 行 間 で は 次 元 加 重 が 持 続 さ れ る こ と を 仮 定 す る こ と に よ り,こ の 効 果 を 説 明 して い る。 一 方,試 行 間 促 進 効 果 の 説 明 と し て,ポ ッ プ ア ウ トの プ ラ イ ミ ン グ(priming of pop-out: PoP)と 呼 ぼ れ る メ カ ニ ズ ム が 考 え られ て い る(Maljkovic & Nakayama, 1994)。Maljkovic & Nakayamaは,こ の メ カ ニ ズ ム は 実 験 参 加 者 の 構 え と は 独 立 に 働 き,ボ トム ア ッ プ処 理 の 結 果 が 自動 的 に 記 憶 痕 跡 と し て 蓄 積 さ れ,後 続 の 目 標 探 索 に 対 して 促 進 的 に働 く と考 え て い る。 この よ う に,次 元 内 促 進 効 果 と試 行 間 促 進 効 果 は, 構 え に よ る ト ップ ダ ウ ン の 効 果 と,プ ラ イ ミ ン グ に よ る ボ トム ア ッ プ の 効 果 が 相 互 作 用 す る こ と に よ っ て 表 れ る と考 え ら れ る が,そ の メ カ ニ ズ ム は 十 分 に 理 解 さ れ て い な い 。 特 に,Muller et al. (1995)は,次 元 間 条 件 に 対 し て 次 元 内 条 件 の 探 索 時 間 が 短 縮 さ れ た 結 果 を,次 元 内"促 進"効 果 と表 現 して い る が,あ く ま で 相 対 的 な 効 果 を 示 して い る に 過 ぎず,促 進 的 な メ カ ニ ズ ム に よ っ て 探 索 時 間 が 短 縮 さ れ て い る か ど うか は不 明 で あ る。 そ こで,本 研 究 で は,構 え た 次 元 と目 標 が 一 致 す る条 件 と一 致 し な い条 件 に 加 え,中 立 条 件 と し て 実 験 参 加 者 に 注 意 の 構 え を 与 え な い 条 件 を 設 定 し た 。 こ れ に よ り,注 意 の 構 え に よ る次 元 内 促 進 効 果 が,次 元 重 み 付 け の よ うな"促 進 的"メ カ ニ ズ ム に よ る の か,何 らか の"抑 制 的"メ カ ニ ズ ム が 関 与 す る可 能 性 が あ る の か を 検 証 す る こ とが で き る と考 え ら れ る 。 ま た,試 行 間 促 進 効 果 が,ボ トム ア ッ プ の プ ラ イ ミ ン グ メ カ ニ ズ ム の み に よ っ て 生 じ る と す る と,構 え を 持 た せ た 条 件 と構 え を 持 た な い 中 立 条 件 で,同 程 度 の 試 行 間 促 進 効 果 が 生 じ る と考 え られ る 。 そ こで 本 研 究 で は,目 標 定 義 次 元 に 関 す る先 行 知 識 が あ る場 合,す な わ ち注 意 の 構 え が あ る と き に,プ ラ イ ミ ン グ に よ る試 行 間 促 進 効 果 は 起 こ り得 る か,ま た そ の効 果 は 構 え に ど の よ うに 影 響 さ れ る の か を 検 討 す る こ と に よ っ て,試 行 間 促 進 効 果 と次 元 内 促 進 効 果 の 生 起 メ カ ニ ズ ム と,そ れ らの 相 互 作 用 を 調 べ る こ とを 目 的 と した 。 実 験1:ブ ロ ッ ク内 次 元 加 重 効 果 実 験1で は,特 定 の 特 徴 次 元 に対 す る注 意 の構 え が 試 行 間 促 進 効 果 を 変 化 させ る か 否 か を調 べ る こ とが 目 的 で あ っ た 。Muller et al. (1995)の 実 験3で は,特 定 の 目標 が 他 の 目標 よ り も 高 頻 度 で提 示 さ れ る よ う な試 行 ブ ロ ッ ク が 設 け ら れ た 。 さ ら に 実 験 参 加 者 は,目 標 の 種 類 ご との 出 現 頻 度 に つ い て の情 報 が 十 分 に 与 え ら れ て い た 。 実 験 参 加 者 は 高 頻 度 目標 の 方 が 低 頻 度 目 標 よ り も速 く検 出 で き た 。 こ の よ う な 結 果 か ら,Muller et al.は,目 標 に つ い て の 知 識 が 次 元 内 促 進 効 果 を も た らす こ と を明 ら か に した 。 し か し な が ら,Muller et al.の 実 験 で は,次 元 内 促 進 効 果 が,次 元 に対 す る構 え に よ る もの か,あ る い は 試 行 間 促 進 効 果 に よ る も の か は 明 ら か に な っ て い な い 。 そ こ で 本 実 験 で は,目 標 の 出 現 頻 度 を 操 作 した 場 合 の 試 行 間 促 進 効 果 を調 べ た 。 さ ら に 試 行 間 促 進 効 果 ,のベ ー ス ライ ン を 得 る た め に,目 標 が 等 頻 度 で 提 示 さ れ る ブ ロ ッ ク(neutral条 件)を 設 け た 。 試 行 間 促 進 効 果 が,注 意 の 構 え に よ っ て 変 化 す る とす る と,次 元 内 促 進 効 果 が,試 行 間 の プ ラ イ ミ ン グ と注 意 の 構 え の 相 互 作 用 に よ っ て 生 じて い る こ と が 示 唆 さ れ る 。 一 方,試 行 間 促 進 効 果 が 注 意 の 構 え に よ ら ず 一 定 な ら ば,次 元 内 促 進 効 果 は プ ラ イ ミ ン グ と は 独 立 の メ カ ニ ズ ム に よ っ て 生 じ る可 能 性 が 示 唆 で き る。 方 法 実 験 参 加 者 大 学 生 及 び 大 学 院 生10名(男 性1名, 女 性9名)が 実 験 に参 加 し た。 全 員,視 力 は 裸 眼 も し くは 矯 正 で0.7以 上 あ り,健 常 な 色 覚 を 有 して い た 。 装 置 コ ン ピ ュ ー タ(Apple社 製Power Macintosh 7200/90)と15イ ン チCRTデ ィ ス プ レ イ を 用 い た 。 刺 激 提 示,反 応 時 間 測 定 は 実 験 制 御 用 ソ フ ト ウ ェ ア (Cedrus社 製SuperLab)に よ っ て 制 御 さ れ た 。 反 応 は キ ー ボ ー ド上 の 二 つ の キ ー(Z,/)が 用 い られ た 。
られ た 。 刺 激 定 義 次 元 は 方 向(垂 直 か ら 時 計 回 り,ま た は 反 時 計 回 り45゜)と 大 き さ(大1.4゜ ×0.4゜,ま た は 小095゜ ×0.25゜)で あ っ た 。 妨 害 刺 激 は い つ も 反 時 計 回 りの 小 さ い 長 方 形 で,目 標 刺 激 は,方 向 定 義 の と き は 時 計 回 りの 小 さ い長 方 形,大 き さ定 義 の 時 は 反 時 計 回 り の 大 き い 長 方 形 が 用 い られ た 。 刺 激 図 形 は, 4×4(視 角6.0゜ ×6.0゜)の 仮 想 マ ト リ ッ ク ス 上 に16個 配 置 され た 。 目標 刺 激 は 画 面 内 に1個 含 ま れ る か 含 ま れ な い か で あ り,出 現 位 置 は ラ ン ダ ム で あ っ た 。 用 い られ た 刺 激 画 面 例 をFigure 1に 示 す 。 条 件 注 意 の 構 え 条 件 と し て,"方 向"あ る い は "大 き さ"で 定 義 さ れ た 目標 が よ り多 い と い う情 報 を 実 験 参 加 者 に 与 え た 。 方 向 次 元 条 件 は,ブ ロ ッ ク 内 に お い て 方 向 次 元 で 目標 が 定 義 さ れ る確 率 が80%,大 き さ 次 元 条 件 は,ブ ロ ッ ク 内 に お い て 大 き さ次 元 で 目 標 が 定 義 さ れ る 確 率 が80%で あ っ た 。 中 立 条 件 と し て,方 向 次 元 と大 き さ 次 元 で 定 義 さ れ た 目標 が50% ず つ 提 示 さ れ た ブ ロ ッ ク が 用 意 さ れ た 。 い ず れ の 場 合 で も,目 標 刺 激 は 全 体 の 半 数 の 試 行 で 提 示 さ れ た の で,実 際 に は 上 記 の 確 率 の 半 分 の 試 行 で 目標 が 提 示 さ れ た 。 手 続 き 実 験 参 加 者 の 課 題 は,各 刺 激 画 面 に つ い て,一 つ だ け 異 な る 要 素 の 有 無 を 答 え る こ と で あ っ た 。 ま ず 画 面 中 央 に 注 視 点 が800ms提 示 さ れ,そ の 後 刺 激 画 面 が 実 験 参 加 者 の 反 応 ま で 提 示 さ れ た 。 反 応 後 す ぐ に 注 視 点 が800ms提 示 さ れ,次 の 刺 激 画 面 が 提 示 さ れ た 。 つ ま り,反 応 一 刺 激 間 間 隔 は800msで あ っ た 。 実 験 参 加 者 は,左 手 及 び右 手 の 人 差 し指 で キ ー ボ ー ド上 の 二 つ の キ ー を 用 い て"あ り"か"な し" を で き るだ け 速 く正 確 に答 え,そ の 反 応 時 間 と誤 反 応 数 が 記 録 さ れ た 。 目標 定 義 次 元(2)× 目標 数(2)× 目標 提 示 位 置(16)の64条 件 を5回 繰 り返 し た320試 行 を 1ブ ロ ッ ク と し,そ れ ぞ れ 方 向,大 き さ,中 立 条 件 を きブ ロ ッ クず つ 行 っ た 。 注 意 の 構 え 条 件 の 順 序 は各 実 験 参 加 者 間 で カ ウ ン タ ー バ ラ ン ス が 取 ら れ た 。 各 プ ロ (a)ORIENTATION-DEFINED
TARGET PRESENT (b)SIZE-DEFINEDTARGET PRESENT
Figure 1. Example of a stimulus display used in
Experiment 1. The left panel (a) shows the
orientation-defined target present condition, and the right (b) shows the
size-defined target present condition.
ッ ク の 前 に 練 習 を16試 行 行 っ た 。 結 果 得 ら れ た 反 応 時 間 の う ち 目 標 あ り 試 行 に つ い て,前 試 行 が 同 じ 目 標 定 義 次 元(same),異 な る 定 義 次 元 (different),目 標 な し(absent)の 三 つ に 分 け て,現 試 行 と 前 試 行 が と も に 正 答 で あ る と き の 反 応 時 間 を 分 析 し た 。 ま た,方 向 ・大 き さ 次 元 条 件 に お い て,目 標 の 定 義 次 元 が 構 え た 特 徴 次 元 と 同 じ 場 合(compatible) と 異 な る 場 合(incompatible)に 分 け,そ れ ら と 中 立 条 件(neutral)の3条 件 に 対 し て,平 均 反 応 時 間 を プ ロ ッ ト し た(Figure 2)。 図 よ り,全 体 的 に,different よ り もsameで 反 応 時 間 が 短 く な っ て い る こ と が わ か る 。 反 応 時 間 に つ い て,定 義 次 元(方 向 ・大 き さ)× 注 意 の 構 え 条 件(compatible・incompatible・neutral)× 前 試 行 定 義 次 元(same・different・absent)の3要 因 分 散 分 析 を 行 っ た 。 そ の 結 果,す べ て の 主 効 果 と,注 意 の 構 え × 前 試 行 定 義 次 元 の 交 互 作 用 が 有 意 で あ っ た (そ れ ぞ れ,F(1,9)=46.20, p<.001; F(2,18)=5.82, p<.025; F(2,18)=15.51, p<.001; F(4,36)=3.55, p< .025)。 下 位 検 定(Mean contrast)の 結 果,注 意 の 構 え 条 件 に お い て,compatibleとneutralに 差 は な く,in-compatib1eが 有 意 に 遅 い こ と が わ か っ た(p<.05)。 こ れ は 構 え と 異 な る 次 元 の 目 標 が 提 示 さ れ る と反 応 時 間 が 遅 延 す る こ と を 示 し て お り,試 行 間 促 進 効 果 と い う よ り も む し ろ 抑 制 的 な 効 果 が あ っ た と 言 え る 。 そ こ で こ れ よ り,こ の 効 果 の こ と を"試 行 間 効 果"と 記 述 す る こ と に す る 。 ま た 前 試 行 定 義 次 元 に お い て,absent とsameよ り もdifferentが 有 意 に 遅 か っ た(p<.05)。 注 意 の 構 え ×前 試 行 定 義 次 元 の 交 互 作 用 が 有 意 で あ る
Figure 2. Mean reaction time for the preceding trial target condition in Experiment 1.
こ と は,試 行 間 効 果 が,注 意 の構 え に よ っ て も影 響 さ れ て い る こ と を 示 して い る。 試 行 間 効 果 はincompati-bleで 最 も 大 き く(53.3ms),次 にcompatible(39.9 ms)と な り,neutra1で 最 も小 さ か っ た(23.3ms)。 こ れ ら の 試 行 間 効 果 の 大 き さ を 比 較 す る た め に, differentの 反 応 時 間 か らsameの 反 応 時 間 を 減 じ た 値 を 実 験 参 加 者 ご とに 求 め,1要 因 分 散 分 析 を 行 っ た 。 そ の 結 果 注 意 の 構 え の 主 効 果 が 有 意 で あ り(F(2, 18)=8.44, p<.005),下 位 検 定 の 結 果,incompatible とcompatibleの 間 に は 差 が な か っ た が,incompatible とneutral, compatibleとneutralの 間 に は そ れ ぞ れ 有 意 な 差 が 認 め ら れ た(p<.05)。 こ れ よ り,注 意 の 構 え を 持 つ こ と に よ っ て,試 行 間 効 果 が 大 き くな る こ とが わ か っ た 。 誤 答 率 に対 して,反 応 時 間 と 同 様 の3要 因 分 散 分 析 を 行 っ た 結 果,前 試 行 定 義 次 元 の 主 効 果 と定 義 次 元 × 注 意 の 構 え の 交 互 作 用 が 有 意 で あ っ た(そ れ ぞ れ, 17(2,18)=10.19, p<.01; F(2,18)=12.49, p<.001)。 前 試 行 定 義 次 元 の 主 効 果 に 関 し て は,下 位 検 定 の 結 果,absent,sameの 誤 答 率(そ れ ぞ れ6.2%,49%) に 比 べ てdifferentの 誤 答 率(85%)が 高 か っ た(p< .01)。 こ れ は反 応 時 間 の 結 果 と一 致 した 傾 向 で あ る 。 ま た,定 義 次 元 ご と に注 意 の 構 え の 効 果 を 見 る と,方 向 次 元 で は 反 応 時 間 と 同 様 の傾 向 で,incompatibleが 他 と比 べ て 誤 答 率 が 高 か っ た(9,1%, compatible, neu-tralは そ れ ぞ れ5.1%, 5.4%)。 一 方,大 き さ 次 元 で は neutralの 誤 答 率 が 高 か っ た(8.7%, compatible, in-compatib1eは そ れ ぞ れ5.7%, 5.3%)。neutral条 件 の み が 他 の 条 件 と は別 の ブ ロ ッ ク で 行 わ れ た た め,大 き さ と方 向 に 対 す る反 応 の 傾 向 に違 い が 生 じ た 可 能 性 も あ る。 し か し,前 試 行 定 義 次 元 と他 の 要 因 との 交 互 作 用 が な い こ とか ら,反 応 時 間 で 得 られ た 試 行 間 効 果 は 速 さ と正 確 さ の ト レー ドオ フ に よ る も の で は な い と言 え る。 考 察 本 実 験 で は,目 標 の 出 現 頻 度 に 関 す る情 報 を 実 験 参 加 者 に与 え る こ と に よ り,特 定 の 次 元 に対 す る注 意 の 構 え を 持 た せ た 。 構 え た 次 元 と一 致 す る 目標 が 提 示 さ れ た 時(compatible)よ り も,一 致 し な い 目標 が 提 示 さ れ た 時(incompatible)に 反 応 時 間 が 遅 延 し た 。 こ の結 果 は,Muller et al. (1995)と 同様 に,実 験 参 加 者 は 目標 の 出 現 頻 度 の 情 報 に従 っ て,特 定 の 次 元 に 構 え る こ とが で き る こ と を 示 し て い る 。 さ ら に,compati-ble条 件 で は,neutral条 件 に 比 べ て 探 索 時 間 は 促 進 さ れ な か っ た 。 この こ とか ら,特 定 の 次 元 に構 え る こ と は,次 元 重 み 付 け の よ う な 促 進 メ カ ニ ズ ム に よ る の で は な く,特 徴 マ ッ プ間 で 注 意 を 順 次 切 り替 え る た め の コス ト(Muller et al., 1995; Treisman, 1988)の よ う な, 抑 制 的 な メ カ ニ ズ ム を 反 映 し て い る可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 ま た い ず れ の 構 え 条 件 で も,前 試 行 がabsentと same次 元 よ り もdifferent次 元 の と き の 探 索 時 間 が 遅 い と い う試 行 間 効 果 が 確 認 され た 。 ま た,こ の 効 果 は 注 意 の構 え に か か わ ら ず 生 じ た。 こ の 結 果 か ら,特 徴 探 索 過 程 が,実 験 参 加 者 が 特 定 の 次 元 に構 え た 場 合 に も直 前 試 行 に よ る プ ラ イ ミ ン グ の 影 響 を 受 け る こ とが わ か っ た 。 ま た さ ら に,試 行 間 効 果 の 大 き さ は注 意 の 構 え に よ っ て 変 化 し,注 意 の 構 え を 持 っ た 場 合 に 比 べ て,注 意 の 構 え を 持 た な いneutral条 件 で 最 小 で あ っ た(Figure 2参 照)。 これ は,目 標 定 義 次 元 に 関 し て 何 らか の情 報 を 与 え られ,注 意 の 構 え を 持 つ こ と に よ っ て,そ れ が 有 効 か 否 か に か か わ らず 次 元 切 り替 え に よ る 抑 制 的 メ カ ニ ズ ム が 働 き,前 試 行 の 目標 定 義 次 元 に 探 索 が 影 響 さ れ た 結 果,前 試 行 がdifferent次 元 の と き に よ り大 き な コ ス トが 生 じ る た め で あ る と考 え られ る。 以 上 の こ とか ら,プ ラ イ ミ ン グ は注 意 の 構 え と は 独 立 で は な い こ とが 示 唆 さ れ た 。 実 験2:試 行 間 に お け る 注 意 の 構 え の 効 果 実 験1で は,1ブ ロ ッ ク 内 で 提 示 され た 各 目標 定 義 特 徴 の 比 率 が 異 な っ て い た た め,特 にCompatible条 件 で は,複 数 試 行 間 の プ ライ ミ ン グ 効 果 が 大 き く探 索 に 影 響 し た 可 能 性 が 否 定 で き な い 。Maljkovic & Nakayama (1994)の 研 究 に お い て,ポ ッ プ ア ウ トの プ ラ イ ミ ン グ は,直 後 の 試 行 との 間 に の み 起 こ る の で は な く,多 少 減 衰 す る も の の 後 続 の5-11試 行 に わ た り,遂 行 成 績 に 影 響 を及 ぼ す こ とが 示 さ れ て い る 。 つ ま り 実 験1で は,compatible次 元 の 目標 がincompati-ble次 元 の 目 標 よ り多 く提 示 さ れ て い た た め,compat-ible次 元 の 目標 の 方 が 大 き な プ ラ イ ミ ン グ 効 果 を 受 け て い た 可 能 性 が あ る。 そ こで 実 験2で は,こ の 間 題 を 解 決 す る た め,1ブ ロ ッ ク 内 に お け る 定 義 次 元 ご と の 目標 を 同 じ数 に して,試 行 ご と の 定 義 次 元 に 対 す る 注 意 の 構 え を操 作 す る こ とに よ っ て,試 行 間 促 進 効 果 に 対 す る注 意 の 構 え の 影 響 を 調 べ た 。 注 意 の構 え は,定 義 次 元 が 連 続 す る試 行 間 で 反 復 あ る い は 変 化 しや す い か に つ い て の 情 報 を 実 験 参 加 者 に 与 え る こ と に よ り操 作 し た 。 反 復 ブ ロ ッ クで は 実 験 参 加 者 が 直 前 の 目標 次 元 と 同 じ家 元 に対 す る注 意 の構 え を 持 ち,変 化 ブ ロ ッ ク で は 直 前 の 目標 定 義 次 元 と は異 な る 次 元 に 対 す る構 え を 持 つ と考 え られ る。 方 法 実 験 参 加 者 大 学 生 及 び 大 学 院 生10名(男 性3名, 女 性7名)が 実 験 に 参 加 し た 。 全 員,視 力 は裸 眼 も し くは 矯 正 で0.7以 上 あ り,健 常 な 色 覚 を 有 し て い た 。 刺 激 刺 激 図形 は 実 験1と 同 様 で あ っ た 。 条 件 注 意 の 構 え 条 件 と して,目 標 定 義 次 元 が"反 復(repeat)"あ る い は"変 化(change)"し や す い か
の 情 報 を ブ ロ ッ ク ご と に 実 験 参 加 者 に 与 え た 。repeat 条 件 は,試 行 間 で 同 じ定 義 次 元 が 反 復 す る 確 率 が 目標 あ り試 行 の う ち80%,定 義 次 元 が 変 化 す る 確 率 が 20%で あ り,change条 件 は,試 行 間 で 定 義 次 元 が 変 化 す る確 率 が80%,定 義 次 元 が 反 復 す る確 率 が20% と な る よ う に刺 激 提 示 順 序 が 事 前 に 決 め ら れ た 。 統 制 条 件 と して,定 義 次 元 が ラ ン ダ ム(つ ま り,変 化 と反 復 が50%)に 提 示 さ れ た 条 件 が 設 定 さ れ た(neu-tral)。各 条 件 と も,1ブ ロ ッ ク 内 で 提 示 さ れ る 目標 定 義 次 元 は 等 頻 度 に 設 定 さ れ て お り,提 示 順 序 の み が 操 作 さ れ た 。 手 続 き 実 験1と 同様,刺 激 中 に 目標 が あ る か な い か を 判 断 す る こ とが 実 験 参 加 者 の 課 題 で,そ の 反 応 時 間 が 測 定 さ れ た 。 実 験 参 加 者 に は,"つ だ け 他 と異 な る も の"が 目標 で あ る と教 示 した 。 ま た,repeat条 件 で は"連 続 す る試 行 間 で 目標 定 義 次 元 が 反 復 しや す い"と 教 示 し,一 方change条 件 で は,"連 続 す る試 行 間 で 目標 定 義 次 元 が 変 化 しや す い"と 教 示 し,試 行 ご とに 目標 定 義 次 元 に 関 す る注 意 の 構 え を持 た せ た 。 目 標 定 義 次 元2× 目標 数2× 目標 提 示 位 置16の64条 件 を5回 繰 り返 した320試 行 を1ブ ロ ッ ク と し,そ れ ぞ れrepeat・change・neutralを3ブ ロ ッ ク ず つ 行 っ た 。 注 意 の構 え 条 件 の 順 序 は 各 実 験 参 加 者 間 で カ ウ ン タ ー バ ラ ン ス さ れ た 。 各 ブ ロ ッ ク の 前 に練 習 を16試 行 行 っ た 。 結 果 実 験1と 同様 に,目 標 あ り試 行 の 反 応 時 間 を 前 試 行 が 同 じ定 義 次 元(same),異 な る定 義 次 元(different), 目標 な し(absent)の3条 件 に 分 類 し て 分 析 し た 。 注 意 の構 え 条 件 ご と に,各3条 件 の 反 応 時 間 を プ ロ ッ ト
Figure 3. Mean reaction time for the preceding trial target condition in Experiment 2. し た(Figure 3)。 こ の 平 均 反 応 時 間 に 対 し て,注 意 の 構 え 条 件(repeat・change・neutral)× 前 試 行 定 義 次 元(same・different・absent)の2要 因 分 散 分 析 を 行 っ た 。 そ の 結 果,前 試 行 定 義 次 元 の 主 効 果 と注 意 の構 え ×前 試 行 定 義 次 元 の 交 互 作 用 が 有 意 で あ っ た(そ れ ぞ れ,F(2,8)=18.39, p<.005; F(4,36)=11.17, p< .005)。 下 位 検 定 の 結 果,す べ て の 前 試 行 定 義 次 元 の 間 に 有 意 差 が 認 め られ た(p<.05)。 ま た,differentと sameの 反 応 時 間 の 差 で あ る 試 行 間 効 果 は,repeat・ change・neutralブ ロ ッ ク に お い て そ れ ぞ れ71.4ms, 14.7ms; 26.5msで あ っ たo交 互 作 用 に 対 す る下 位 検 定 の 結 果,changeブ ロ ッ ク のabsen#とsame及 びab-sentとdifferentの 間 に は 有 意 差 が な か っ た 。 ま たneu-tralブ ロ ッ ク のabsentとdifferentの 間 に も有 意 差 が な か っ た 。 そ れ 以 外 の 組 み 合 わ せ に は す べ て 有 意 差 が 認 め られ た(p<.05)。 こ れ ら よ り,定 義 次 元 す な わ ち 目 標 刺 激 が 次 の 試 行 で 繰 り返 し提 示 され る こ とに よ る 試 行 間 効 果 が あ り,ま た,定 義 次 元 が 試 行 間 で 変 化 す るか 否 か に 関 す る構 え が 探 索 を効 率 的 に し た と考 え ら れ る 。 注 意 の構 え が 連 続 提 示 に よ る プ ライ ミ ン グ に影 響 し て い る こ と を 確 認 す るた め に,repeat条 件 とneutral条 件 に お い て,連 続 す る複 数 のsame試 行 に 対 す る 反 応 時 間 を 比 較 し た(Figure 4)。 も し構 え が 試 行 間 効 果 に 影 響 を 及 ぼ す な ら ば,repeat条 件 に お い て 連 続 試 行 数 の 効 果 が よ り大 き く な る と予 想 され る。 連 続 す る試 行 数 は2, 3, 4試 行 の3条 件 を 取 り 出 し,試 行 数 ×注 意 の 構 え 条 件 の2要 因 分 散 分 析 を 行 っ た 結 果,試 行 数 の 主 効 果 及 び1次 の 交 互 作 用 が 有 意 で あ っ た(そ れ ぞ れ,F(2,18)=7.35, p<.01; F(2,18)=3,93, p<.05)。 下 位 検 定 の 結 果,連 続 試 行 数 が 大 き く な る に つ れ 反 応
Figure 4. Mean reaction time for the repetition times of continuous "same" trials.
時 間 は 速 くな り,連 続 試 行 数2で はneutralよ り もre-peatで 反 応 時 間 が 有 意 に遅 か っ た の に 対 し,連 続 試 行 数3,4で は そ れ ら の 差 は有 意 で は な か っ た 。 す な わ ち, 、連 続 試 行 数 の 効 果 はrepeat条 件 に お い て よ り大 き くな っ た 結 果 で あ る と考 え られ る。 こ れ ら の 結 果 は, 構 え が 試 行 間 効 果 と相 互 作 用 が あ る こ と を支 持 す る も の で あ る。 ま た,実 験1と 同 様,各 ブ ロ ッ ク に お け る 試 行 間 効 果 の 大 き さ に つ い て1要 因 分 散 分 析 を行 っ た と こ ろ, 注 意 の 構 え の 主 効 果 は 有 意 で あ っ た(F(2,18)= 13.24, p<.001)。 下 位 検 定 の 結 果,changeとneutral の 間 に は 有 意 な 差 は な か っ た が,repeatとchange,re-peatとneutralの 間 に 有 意 差 が 認 め ら れ た(p<.01)。 これ よ り,repeatの と き に 試 行 間 効 果 が 有 意 に大 き く な っ た こ とが 示 さ れ た 。 誤 答 率 につ い て,平 均 反 応 時 間 と 同様 の2要 因 分 散 分 析 を 行 っ た 結 果,前 試 行 定 義 次 元 の 主 効 果 の み 有 意 で あ っ た(F(2,18)=5.89, p<.05)。different条 件 の 誤 答 率 が 高 く(6.6%, same, absentは そ れ ぞ れ3.6%, 4.3%),平 均 反 応 時 間 と全 体 的 な 傾 向 は 同 じ こ どか ら,速 さ と 正 確 さ の ト レ ー ドオ フ は な か っ た と言 え る。 考 察 neutralプ ロ ッ ク及 びchangeブ ロ ッ ク に お い て,前 試 行 で 定 義 次 元 が 異 な る 目 標 が 提 示 さ れ た と き に 比 べ,同 じ と き に は反 応 時 間 は 速 か っ た 。 こ れ は試 行 間 効 果 が あ っ た こ と を 示 して い る 。 さ ら に,repeatブ ロ ッ ク で は よ り大 き な 効 果 が あ っ た 。 こ の 差 は,repeat ブ ロ ッ ク で は プ ライ ミ ン グ に よ る試 行 間 効 果 だ け で な く注 意 の 構 え に よ る試 行 間 効 果 が 加 算 さ れ た こ とを 反 映 して い る と考 え ら れ る。 試 行 ご と に 注 意 の 構 え を 持 た せ た 本 実 験 で は,構 え と異 な る次 元 で 定 義 さ れ た 目 標 探 索 が 抑 制 さ れ,試 行 間 効 果 へ の 影 響 が さ ら に大 き く な っ て い た 。 す な わ ち,実 験1で は 一 致(compati-ble)試 行 と 不 一 致(incompatible)試 行 の 試 行 間 効 果 の 大 き さ の 差 は 認 め られ な か っ た が,実 験2で は反 復 (repeat)と 変 化(change)の 試 行 間 効 果 の 大 き さ の 差 は 有 意 で あ っ た 。 この 効 果 の 大 き さ の 違 い は,試 行 ご とに 注 意 の 構 え を持 た せ た こ と に よ り,構 え に よ る試 行 間 効 果 へ の 影 響 が ブ ロ ッ ク を通 して 持 続 的 に働 い た 結 果 で あ る と考 え られ る。 ま た本 実 験 で は,注 意 の構 え と異 な る 特 徴 次 元 の 処 理 に コ ス トが 生 じ て い る と解 釈 さ れ た 実 験1と 異 な り,注 意 の 構 え を 持 た な い と き に 比 べ,repeat・ change条 件 に か か わ ら ず,試 行 ご とに 構 え た 特 徴 次 元 と 目標 定 義 次 元 が 一 致 して い る と き に 探 索 が 促 進 さ れ た 。 こ の 結 果 はMuller et al. (1995)の 実 験1と 一 致 し て い る。 彼 らの 実 験 で は,探 索 に影 響 を 及 ぼ す 特 定 特 徴 次 元 に 対 す る重 み 付 け は,ブ ロ ッ ク を 通 し て行 わ れ て い た。 そ の 結 果,同 じ 刺 激 図 形 しか 提 示 され な い 統 制 条 件 と,ブ ロ ッ ク 内 で 提 示 され る特 徴 次 元 が 一 貫 して い る 次 元 内 条 件 の差 は な く,ブ ロ ッ ク 内 で 特 徴 次 元 が ラ ン ダ ム に 変 化 す る次 元 間 条 件 で,探 索 が 遅 く な っ た 。 本 実 験 の 結 果 と合 わ せ て 考 察 す る と,同 じ特 徴 次 元 に 対 す る 一 貫 し た 注 意 の 構 えが 時 間 的 に 持 続 し て い る 場 合 に は,注 意 の構 え と一 致 しな い 特 徴 次 元 が 出 現 した と き,探 索 処 理 が 抑 制 さ れ る と考 え られ る。 あ る い は,一 種 の 次 元 切 り替 え コ ス トを 反 映 す る と も 考 え られ る。 ま た,本 実 験 の よ う に試 行 ご とに 構 え を 持 た せ た 場 合 で も,ブ ロ ッ ク を 通 して 構 え を 持 た せ た 場 合 と 同 じ よ う に 次 元 内 効 果 が 見 られ た こ と か ら, Muller et al. (1995)が 主 張 し た 次 元 内 促 進 効 果 は,実 験 参 加 者 が 直 前 の 目標 定 義 特 徴 を 意 図 的 に 持 続 す る こ と に よ る試 行 間 効 果 を 反 映 し て い る 可 能 性 が あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。 総 合 考 察 本 研 究 で は,目 標 定 義 次 元 に 関 す る先 行 知 識 が あ る 場 合,す な わ ち注 意 の 構 え が あ る と き に,次 元 内 促 進 効 果 は起 こ る の か ど うか,ま た,プ ラ イ ミ ン グ に よ る 試 行 間 促 進 効 果 が 起 こ る の か ど うか を 調 べ た 。 さ らに 注 意 の 構 え が この 効 果 に ど の よ うに 影 響 す る の か を 検 討 す る こ とに よ っ て,試 行 間 効 果 と次 元 内 効 果 の 生 起 メ カ ニ ズ ム と そ れ らの 相 互 作 用 を 調 べ る こ とを 目 的 と した 。 実 験1で は,ブ ロ ッ ク を通 して 特 定 の 特 徴 次 元 の 出 現 頻 度 を操 作 し,そ の 知 識 を 実 験 参 加 者 に 与 え る こ と に よ り注 意 の 構 え を 持 た せ た 場 合,構 え が な い 場 合 に 対 して 次 元 内効 果 が どの よ う に 変 化 す る か ど うか を 調 べ た 。 そ の 結 果,プ ラ イ ミ ン グ に よ る試 行 間 効 果 は 注 意 の構 え に よ り影 響 を 受 け,中 立 条 件 との 比 較 か ら そ の 影 響 は 抑 制 的 に働 く こ とが 示 さ れ た 。 一 方,実 験2 で は,試 行 ご と の 目 標 定 義 次 元 の 変 化 可 能 性 を 操 作 し,そ の 知 識 を 実 験 参 加 者 に与 え る こ と に よ っ て 定 義 次 元 に対 す る 注 意 の 構 え を 持 た せ た 場 合 に,試 行 間 効 果 が 変 化 す る か ど う か 調 べ た 。 そ の 結 果,実 験1で 見 ら れ た プ ラ イ ミ ン グ に よ る 試 行 間 効 果 へ の 影 響 が さ ら に大 き くな っ た 。 実 験2で は各 定 義 条 件 の試 行 数 は 同 じ で あ っ た が,そ の 連 続 す る確 率 が 操 作 さ れ て い た こ とか ら,試 行 数 の 偏 り に よ る効 果 で は な い と言 え る 。 つ ま り,Muller et al. (1995)と は 異 な り,1試 行 ご と に注 意 の 構 え を 持 た せ る と,試 行 ご との プ ラ イ ミ ン グ に よ り直 接 的 ・連 続 的 に影 響 を 与 え,探 索 を よ り促 進 さ せ る こ とが 示 され た 。 本 研 究 で 実 験 参 加 者 に 持 た せ た 特 定 次 元 へ の 注 意 の 構 え は,ト ッ プ ダ ウ ン 的 に 探 索 に影 響 を 与 え る と考 え られ る 。 い ず れ の 実 験 に お い て も,注 意 の構 え を 持 っ こ と で,構 え と一 致 す る条 件 の 探 索 時 間 は,一 致 し な い 条 件 よ り も速 い こ とが 示 さ れ た 。 こ れ は 注 意 の 構 え
に よ る トッ プ ダ ウ ン の 次 元 加 重 効 果 が あ る こ とを 示 し て い る。 しか し中 立 条 件 と比 べ る と,一 致 条 件 が 速 い の で は な く,不 一 致 条 件 が 遅 くな っ て い る。 す な わ ち,注 意 の構 え に よ る探 索 の促 進 で は な く,注 意 の構 え と異 な る 次 元 が 提 示 さ れ た とき に 次 元 切 り替 え コス ト が 生 じ て い る こ と を 示 唆 し て い る(Treisman, 1988)。 ま た,い ず れ の 実 験 に お い て も注 意 の 構 え条 件 に か か わ らず,連 続 す る試 行 に お い て,目 標 が 前 試 行 と異 な る と き に 比 べ 同 じ と き の 探 索 時 間 は 有 意 に 速 か っ た 。 こ の よ うに 同 じ定 義 次 元 の 繰 り返 しに よ る試 行 間 効 果 が あ る こ と は,構 え の 有 無 に か か わ らず プ ラ イ ミ ン グ が あ る こ とを 示 して い る。 さ らに,注 意 の 構 え方 に よ っ て こ の 効 果 の 大 き さ に違 い が あ っ た こ とか ら, ボ トム ア ッ プ 的 な プ ラ イ ミ ン グ 効 果 に トッ プ ダ ウ ン 的 な 注 意 の構 え が 何 ら か の 影 響 を 与 え る こ と,す な わ ち 相 互 作 用 が あ る こ とが 示 唆 さ れ た 。
Maljkovic & Nakayama (1994)の 実 験 で は,目 標 刺 激 と妨 害 刺 激 の 色 が 一 定 のBlocked条 件 に比 べ て,ラ ン ダ ム に 色 が 入 れ 替 わ るMixed条 件 の 探 索 時 間 は 遅 か っ た 。 色 が 変 化 す る確 率 を 上 げ る と,探 索 は さ ら に 遅 くな っ た 。 こ の こ とか ら,ポ ッ プ ァ ウ トの プ ラ イ ミ ン グ は 視 覚 的 短 期 記 憶 に 関 係 し,受 動 的 ・自動 的 に起 こ る と主 張 され た 。 こ れ は,ボ トム ア ッ プ 的 ・前 注 意 的 な プ ラ イ ミ ン グ が,記 憶 とい う比 較 的 高 次 な 機 能 か ら の 影 響 を 受 け て い る と い う 可 能 性 を 示 唆 し て い る (Maljkovic & Nakayama, 2000;葭 田 ・苧 阪,2000)。 た だ し,プ ラ イ ミ ン グ が 視 覚 的 情 報 処 理 過 程 の い ず れ の 段 階 で 起 こ る メ カ ニ ズ ム な の か は,必 ず し も 明 確 で は な い。 一 方 ,本 研 究 で は,注 意 の 構 え を 持 た せ る こ とに よ っ て,試 行 間 効 果 に 影 響 が 与 え られ た,す な わ ち,注 意 の コ ン トロ ー ル が 可 能 で あ っ た こ とが 示 唆 さ れ た 。 これ は,試 行 間 効 果 が 刺 激 駆 動 型 の プ ラ イ ミ ン グ に よ る と解 釈 さ れ た が,反 復 効 果(Hillstrom, 2000; Tanaka & Shimojo, 2000)と 同 様 の 効 果 と考 え る こ と も で き る。Hillstrom(2000)は,定 義 次 元 の 反 復 効 果 は,単 一 要 素 探 索 だ け で な く,ト ッ プ ダ ウ ン 要 因 が 影 響 す る 相 対 的 顕 著 性 操 作,特 定 特 徴 探 索,結 合 探 索 課 題 に お い て も見 られ る こ とを 明 らか に した 。 ま た,報 告 特 徴 の 反 復 効 果 は,反 応 選 択 段 階 に影 響 す る こ と を 示 唆 し た 。 こ の 知 見 は,試 行 間 効 果 に 対 し て ト ッ プ ダ ウ ン的 な 注 意 の 構 え が 影 響 を 及 ぼ す と い う本 研 究 の 結 果 と一 致 す る 。 し か し,こ の よ うな 次 元 内 効 果 や 試 行 間 効 果 は,具 体 的 に 視 覚 情 報 処 理 段 階 の どの 段 階 で 生 じ る か に つ い て は,プ ラ イ ミ ン グ 効 果 が どの 段 階 で 生 じ る か と同 様 に,さ らな る検 討 が 必 要 で あ る 。 例 え ば,こ の よ う な 促 進 及 び抑 制 効 果 が 感 覚 運 動 系 の 反 応 段 階 で 生 じて い る可 能 性 も否 定 で き な い(Bertelson, 1961; Keele, 1973; Kumada, 2001)。 ポ ヅ プ ア ウ ト と い う比 較 的 初 期 の 前 注 意 的 情 報 処 理 段 階 に 関 連 す る現 象 に お い て,短 期 記 憶 に媒 介 さ れ る プ ラ イ ミ ン グ 効 果 や,注 意 の 構 え に よ る次 元 内促 進 効 果 と い っ た,比 較 的 高 次 の 情 報 処 理 が 関 与 す る証 拠 が 確 認 さ れ た が,そ れ ら の 相 互 作 用 につ い て は 今 後 さ ら な る研 究 が 必 要 と さ れ る。
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