青果物のポリエチレン・冷蔵法に関する研究
Ⅷ プラスチックフィルムによるCA貯蔵条件の調節
樽 谷 隆 之,野 田 啓 良,北 川 博 敏
Ⅰ緒 口 青果物の優れた貯蔵法としてCA貯蔵(ControlledAtmosphereStorage)も定着化してきた.この貯蔵法の原理は, 貯蔵室内の大気組成を変えて青果物の呼吸生理を抑制し,貯蔵性を高めんとするものである.通常02温度を下げ CO2濃度を適度に高めた状態に維持する申 その際,技術的に最も問題となる点は,青果物の呼吸作用により貯蔵室 内のガス組成が変動するのを如何にして適温度に維持するかである‖ これまでに実用化されている方法を原理的に大 別すると,・一つは呼吸により高まる貯蔵室内の CO2 を炭酸ガス除去装置を通して低下させ,消費された02は大気 から補給し所定の浪度まで高める方法(1,2・8・4湖でも う一つは,貯蔵室の外であらかじめ所定のガス組成大気をつくり, そ■れを貯蔵室内に導入する方法(6・7)である .これに対し全く新しい試みとして,MARCELいNら(8)はプラスチック フィルムのガス透過性を利用して,ガス組成を調節する方法について報告している..前二名が,いずれも設備費ヤ維 持費がかさみ,管理に相当面倒な技術を必要とするのに対し,プラスチックフィルムを利用する方法は,維持・管理 の大半をフイルム自体の特性に依存するため,湛資・技術などの面で非常に簡素化される.筆者ら(9・10・1=2) もすで に,ポリエチレンフィルムのガス透過性を利用し,各種青果物の長期貯蔵法に対する検討を進めてきたが,今回は特 に,貯蔵室内のガス組成ばかりでなく,湿度の管理もフイルムを利用して自動的に行なう方法についての基礎試験を 行ない,装置ならびに維持管理の面で非常に有望な方法となる見通しを得たので報告する. 本報告の要旨は園芸学会昭和47年度秋季大会において発表した. ⅠⅠ実験装置の概要 実験のために組立てた装置の概要を第1図に示す.CA貯蔵室内の空気をポンプPlで常時循環させ,その回路に 試料ガス採集口 第1図 フイルムによるCA貯蔵条件調節装置の略図 試験に供する交換膜を装着した.これまでの一億の研究と予備試験の結果,ガス組成調節用の膜として高圧法ポリエ チレンフィルムを,湿度調節用の膜としてはセロフアンフイルムを用いることにした.装着する交換膜の形態として 吼直径14cmの硬質塩化ビニルの筒を約5cm巾に輪切りにし,その両面に供試フイルムを張った,いわゆるドラム 形で,膜面の面療は310cm2とをる.なお,通気のために筒の両側に直径8mmのパイプを接着した.これに対しチ.ユ∵−ブというのは,巾10cmのフイルムチニL−ブを所定の長さに切り,その両端に通気孔を設けたけ 装置内の全容盈 は約15Jである−図中のRは後述の湿度調節器で,設定湿度を越えるとRが作動しP2のポンプが働いて貯蔵室内 の気体がセロファン交換膜回路を流れ,過剰な湿度が除かれるようになっている.なお,気体の流量はコックCで 調節したい ガス組成の測定は既報(1さ)の方法によった. ⅠⅠⅠ実験結果および考察 1フイルムの特性試験 ポリエチレンとセロファン両フイルムの,ガス組成および湿度に対する特性試験を行なったL.3つの装置を用い, 交換膜を装着しをい密封区,厚さ002mmポリエチレンフィルムを張ったドラム1個を装着したポリドラム区,それ にセロファンフイルムを張ったドラム1個を装着したセロドラム区の3区を設けた.各区とも約850gのナツダイダ イを貯蔵室に置いた.,をお,供試果の呼吸量は21mg/kg/hrであった。通気盈は1200ml/minであるL各区におけ る貯蔵室内のガス組成の消長は第2図に示すごとくであった. 貯蔵開始後果実の呼吸により02が減少し,CO2が増加す る傾向は各区ともみられたが,セロドラム区は密封区とほと んど同じ動きを示し,セロファンフイルムがガス体を透過し 凌い性質をもつことをこの成墳からもうかがうこができる. これに対しポリドラム区は02濃度の低下,CO2浪度の上昇 がいずれも小さく,フイルムを透してガス交換が行をわれて いることが推察され,ガス組成の調節の可能性が明らかとな った′ 一・方,貯蔵室内の湿度の消長をみたのが第3図である.こ
の場合はガス組成とは全く逆の傾向を示した巾・すなわち,ポ
リドラム区は貯蔵開始後室内湿度は100%とをり,水蒸気を 透過させなかった。これに射し,セロドラム区は常に低い湿 炭 酸 ガ ス 濃 度 5 0 1 1 密封・ポリドラム1個 ラム / ▼、− ′ ′ ′ ヽ′/、\
、 −\、L、、ノ ′ 、
0 1 酸 素 濃 \′▼\./
V
/
′ 外気湿度 度 0 2 4 6 貯 蔵 日 数 8 10 8 10 4 6 貯蔵 日 数 0 2 第3図 フイルムの種類とCA室内の湿度の 消長 第2図 フイルムの種類とCA室内 のガス組成の消長 皮で経過したが,外気湿度の影響を受けて大きく変動した. 2い ガス組成の変動に影響を及ぼす要因 プラスチック・フイルムでガス組成の調節を行なわんとする際,ガス組成の変動に影響を及ぼす要因について明らかにしておく必要がある。. (1)・フイルムの厚さおよび面積 本主題の−・連の研究において,ポリエチレンフィルムのガス交換性に重要な関連をもつ要因として,フイルムの厚 さおよび面積があることを明らかにしてきた(10・11・12).本装置を用いて特にフイルムの面積について試験した1例を 示す. 呼吸量の高い青果物としてキウリを供試胡料とし,密封区,0.02mmポリドラム1個区,0一02mmポリドラム2佃 連結区の3区を設けた‖ 各区とも約550gのキウリを貯蔵室に納め,ガス組成の消長を調べたのが第4図である.な お,キウリの呼吸盈は87mg/kg/hIであった. 密封区は8日目には02浪度が0となった、.反対にCO2は異常な高まりを示した、.しかし,ポリドラムを装着し た区はいずれも面掛こ応じて一・定の濃度で安定した.この成績から青果物の呼吸盈に対応して適当な面撥を選べば, フイルムだけで相当程度自動的にガス調節ができる可能性がうかがわれた. 炭15 酸 ガ ス 10 5 炭酸ガス濃度 \ヽ一一一、 −−、 5 濃 度 ポリチュ■−−プ 「\ニ丁子T‡二ニ フイルム交換 酸15 素 濃 度10 、
\\ \ ポリドラム2個 \ 、−−・・・・・・・・・・・・・・・■−_+__一−−一一・一
フイルム交換 \\ 、、 J \ \\\ −−一 __ 、、、ヾ\\、、\ 25cmポリチュい・・・−・プ 50c.。ポリチュ、−ブ 2 4 6 8 10 貯 蔵 日 数 10 貯蔵 口 数 20 30 40 第5図 ポリエチレン‥フイルムの面墳の変 更とCA室内のガス組成の消長 第4図 ポリエチレンフィルムの面墳の違 いとCA室内のガス組成の消長 つ削こ,実際を考慮して貯蔵の途中でフイルム面積を変えて,人為的に好適ガス濃度に近づける実験を行なった. 貯蔵室に880gのリンゴを入れ,はじめCAの好適ガス条件に早く適するようガスボンベからCO2を適盈貯蔵室内 に導入し試験を開始した1.リンゴの呼吸量は20mg/kg/hI・で,ガス交換膜としては0106mmポリエチレンチューブ の長さ25cmと50cmの2種を用いた.もともとリンゴのCA貯蔵における好適ガス濃度は,02およびCO2ともに 3∼5%が良いとされている.結果は第5図に示す通り,はじめ25cmポリチューブで出発したが,リンゴの呼吸盈 に対しガス交換速度が小さいため,急速にリンゴの好適ガス浪皮に近づいたい しかし,その後も02の減少が続き,CO2は多少高目で経過したので,貯蔵開始後18日目50cmポリチ.コ」−−ブと交換した… その結果,呼吸畳とガス交換 盈が良く均衡し,長期間安定して好適ガス淡度が維持された. (2)通気盈 ガス交換膜の表面を流れる通気盈の違いが,貯蔵室内のガス組成にどのような影響をもたらすかについて試験した. ナツダイダイ1250gを貯蔵室に入れ,0.06mmポリエチレン50cmチコ.・−ブを装着し,1200m〝min,の通気畳で試験 を開始した.12日目に100ml/minに通気盈を落し,27日目にふたたび1200ml/min,さらに36日目に100m〝minと 変え,その間の貯蔵室内のガス組成の動きを測定した.結果は第6図のごとくであった. 通気畳とガス組成との関係は,通気盈が大きいとガス交換速度が高まり,小さいと低下する傾向は認められたが, 短期間ではその影響は比較的小さいものであった. ー2300g貯蔵 ・−−−− 1000g月宇蔵 フイルム交換 %10 %10 5 炭酸ガス濃度 5 炭酸ガス濃度 0 0 2 10 20 貯蔵 日 数 30 40 20 30 40 貯蔵 日 数 50 60 第6図 ポリエチレンフィルム面への気体流盈 の変更とCA室内のガス組成の消長 第7図 果実の貯蔵盈とCA室内のガ ス組成の消長 (3)貯蔵盈 前述までの試験はいずれも常温実験室で行なったものである.そこで,実際の貯蔵を想定し,装置を本学部低温実 験室に移し,100Cの低温でナシを材料として試験した.その場合,貯蔵室に入れた果実盈を1000gと2300gの2区 とし,両区とも0.06mmポリエチレンチエpブの25cm長さのものを装着し,気体通気盈は1200mん′minで貯蔵を 開始L.た.なお,貯蔵前のナシの呼吸盈は12.2mg/kg/hIであった。結果を第7図に示す. 貯蔵盈の違いは即呼吸盈の違いとなるので,当然同一・面墳のガス交換膜の場合はガス組成に大きを差がみられる. 貯蔵1カ月後に貯蔵盈の多い区のポリチエー・ブを2倍の50cm長さのものに取換えた.その結果,02は急を高まり をみせ,また,CO2は次第に低下して貯蔵量の少ない区のガス組成に近づいた.さらに貯蔵盈の少ない区の通気盈 を500m〝minに下げたところ,ゆっくりとCO2濃度の上昇と02汲度の降下がおこり,両区のガス組成がほぼ同じ 状態とをった.以上の成威から,ガス組成を短時間に変えるためにはフイルムの面培あるいは厚さを変えることが効 果的であり,ゆっくりと変えるためには交換膜面を流れる通気盈を変えるのが良いように思われた.
3.貯蔵室内の湿度調節 (1)湿度調節器の試作 貯蔵室内のガス組成をフイルムで調節せんとする場合,フイルムの外側の空気組成がほぼ一億であるため,貯蔵室 内のガス組成は比較的安定した動きを示す.これに対し湿度は外気の方が常に変動するため,第3図でみたごとく貯 蔵室内の湿度も外気湿度につれて大きく変動する.その欠点を補をうためには,どうしても温度に感応して作動する 装乱すなわち,湿度調節器と組合わせなければ,セロファンフイルムだけでは実用性が低いことが考えられた.そ こで,第8図に示すような湿度調節器を試作した.これは毛髪湿度計の原理を応用したもので,湿度が高まれば毛髪 第8図凰湿 度 調 節 器 が伸び,水銀(Hg)接点で6Vのリレー回路が閉じて作動し,100Vの空気ポンプP2を動かす.これにより貯蔵室 内の気体がセロフ7・ン交換膜部を通り,そこで水蒸気が装置外ににげる.湿度が低下すると毛髪が縮み,ポンプの作 動が止まるようにしたものである.をお,湿度の設定は水銀接点の上下で行なう.この調節器を第1図のRの位置 に置いた. (2)湿度調節器の性能試験 湿度調節器とセロファンフイルムとの組合わせによる性能試験を行をった.貯蔵室にナ・ツダイダイ1350gを入れ, セロドラム3個を連結して試験を開始した.調節器の湿度は85%に設定した一.その結果を第9図に示す. 調節器と組合わせると相当効果的に設定湿度に近づけることができたが,ヤはり外気湿度の影響がみられた..2日 日に湿度調節器の作動を止めると貯蔵室内は急速に100%の湿度となり,作動を再開するとふたたび設定湿度近くに 維持されたい この結果から調節器とフイルムの組合わせの効果が確認できたu 作動停止 作動再開 CA室内湿度 < へ′へ′へ′へ ′一 I I 、、、 ′ -I 、′′ 6 8 0 2 4 貯蔵 日 数 第10図 改良型湿度調節器によるCA室内湿度の調節 第9図 湿度調節器の作動如何とCA室内の湿度の消長
(3)湿度調節器の改良試験 第9図でわかるよう/に,湿度調節器である程度設定湿度に近い値が得られたが,決して満足すべき成績ではなかっ た.その原因について種々検討した結果,リレーの作動が十分鋭敏ではないように思われた.使用したリレーはナシ ョナ・)レ製AW522型で,6Vで作動し10A,250VACの開閉を行なう性能のものである.はじめは乾電池6Vを電源 としたが,それを高砂製作所製GPM602型定電圧,定電流直流電源装置に切替えた.その結果は予想通りリレーが 非常に鋭敏に作動するようにをり,貯蔵室内の湿度の動きが非常に安定化したい その1例を第10図に示す.これは, 貯蔵室内に直径9cmのシャーレー2個に水を張ったものを入れ,セロファンドラム3個を直列に装着した条件で, 調節器の湿度を90%に設定したものである“試験の結果セロファンフイルムを用いての湿度調節は,貯蔵室内におけ る蒸発量に対し1一分余裕のある面積のフイルムを装置し,鋭敏に作動する湿度調節器と組合わせれば,効果的に所定 の湿度を維持させることのできる可能性を明らかにすることができたり ⅠⅤ 摘 要 青果物の CA 貯蔵における貯蔵室内のガス組成および湿度の調節を,プラスチックフィルムを用いて行をう方法 について基礎的研究を行をった. 1.ガス組成調節のためにはポリエチレンフィルムが,湿度調節のためにはセロファンフイルムがそれぞれ適する 交換膜と考え.られた. 2ポリエチレンフィルムでガス組成を調節する場合,交換速度に大きく影響する要因はフイルムの厚さと面撥で ある..従って,′好適条件に近づけるための大きな変化はそのいずれかを変えて行なうのがよい.これに対し,小さな 変化は交換膜面を流れる気流の速度を変え.て調節するのがよいように思われた. 3.セロファンフイルムは,貯蔵室内のガス組成に影響を及ぼすことをく湿度だけを調節する膜として優れている. そ・の場合,膜の面積に十分な余裕をもたせ,毛髪湿度計の原理を応用した調節器と組合わせ,膜面を流れる気流を変 えることにより,効果的に湿度を維持し得ることを明らかにした… 引 用 文 献 (7)加藤 煎:園芸学会シンポジュウム講演要旨. 97−101(1967) (8)庖潟博高編:果実の生理障審と対策,171。東 京,誠文堂新光社(1968). (9)樽谷隆之,鼠部正敏:園学雑,29(2),30−36 (1960).