• 検索結果がありません。

評論・社会科学 119号(P)☆/1.福田

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "評論・社会科学 119号(P)☆/1.福田"

Copied!
18
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

要約:本稿では 2012 年に発覚した AIJ 投資顧問事件とそれに伴う厚生年金基金の廃止に至 る一連の過程について,私的諮問機関や審議会の部会,さらには当時の政権党であった民 主党の動きを検討した。その結果,私的諮問機関である「厚生年金基金等の資産運用・財 政運営に関する有識者会議」では基金は存続させるという意見が主流であったのに対し, 民主党のワーキングチームや社会保障制度審議会年金部会に設置された「厚生年金基金制 度に関する専門委員会」は基金を廃止すべきという立場であり,結果的に後者の政策が実 現された。また,行政改革によって審議会の数が削減されたことの反動として,私的諮問 機関が増えている可能性があり,行政組織におけるガバナンスの観点からも重要な課題が 浮き彫りになった。 キーワード:厚生年金基金,厚生労働省,私的諮問機関,審議会 目次 1.はじめに 2.厚生年金基金の変容 3.審議会および私的諮問機関 4.AIJ 投資顧問事件と 2013 年の改革 4-1.AIJ 投資顧問事件と政府の対応 4-2.法改正とその帰結 5.まとめ

1

.はじめに

1966 年に発足した厚生年金基金は 2012 年に生じた AIJ 投資顧問事件をきっかけに, 原則として廃止されることが決まった。厚生年金基金は企業年金である一方で,公的年 金の保険料を事業者が代行して運用するという先進国では特異な制度であった。2000 代以降,厚生年金基金は急激にその数を減らしていた。その主たる原因は基金の運用利 回りの低下と会計基準の変更である。これに呼応する形として 2001 年に確定給付企業 ──────────── † 同志社大学社会学部助教 *2016 年 9 月 30 日受付,2016 年 10 月 12 日掲載決定

論文

厚生年金基金廃止における政治過程

──諮問機関が果たした役割──

福田 順

† 1

(2)

年金法と確定拠出年金法が成立し,厚生年金基金は新しい企業年金制度へと移行してい った。この結果,AIJ 投資顧問事件が生じたときには,厚生年金基金は中小企業を中心 とする制度へと変化していた。 従来の研究では,国家行政組織法 8 条の適用を受ける審議会とは異なり自由闊達な議 論が行われやすく,また,官僚や政治家との関係も補完的であり,政策に与える役割も 大きい,などが私的諮問機関の特徴として挙げられている。しかしながら,このような 議論は政策決定に関与するアクターがある程度固定化され,その結果漸進的な政策変化 という政治状況を暗黙の裡に前提としていたように思われる。本稿で扱う AIJ 投資顧 問事件と厚生年金基金廃止に当たっては,私的諮問機関であった「厚生年金基金等の資 産運用・財政運営に関する有識者会議」の報告書が会議の実勢を踏まえると偏ったもの なっていた。加えて,その結論が民主党政権や社会保障審議会には尊重されなかった。 本稿の構成を以下に述べる。2.では厚生年金基金の概要について述べる。3.では国 家行政組織法に根拠のある審議会等とそのような法的根拠を持たない私的諮問機関に関 する先行研究について紹介し,特に私的諮問機関がどのような性格の存在であったか, また日本の行政の中でどのような位置にあったかを述べる。4.では 2012 年に発生した AIJ 投資顧問事件とそれに対する政府の対応を述べる。着目する会議体は主として 4 つ である。第 1 に厚生労働省に設置され,副大臣が本部長を務めた「厚生年金基金等の資 産運用に関する特別対策本部」,第 2 が当時の政権与党であった民主党の「財務金融部 門年金積立金運用のあり方及び AIJ 問題等検証ワーキングチーム」である。第 3 が, 厚生労働省に設置された私的諮問機関である「厚生年金基金等の資産運用・財政運営に 関する有識者会議」,第 4 が,社会保障制度審議会年金部会が設置した「厚生年金基金 制度に関する専門委員会」である。この他,民主党内の動きについても検討し時系列順 に整理する。加えて,2013 年の法改正で導入された特例解散制度の見直しが,既存の 基金にどのような影響を与えたのか,企業年金連合会の資料を通じて明らかにする。5. ではまとめを述べる。

2

.厚生年金基金の変容

河村健吉によると厚生年金基金を含む積立方式の年金制度は制度ができてから相当の 期間が経過すると数式 1 の関係が成り立つ。 給付=掛金+積立金×運用利回り(数式 1) すなわち,退職者に支払われる給付は,その都度基金に払い込まれる掛金と,基金の資 厚生年金基金廃止における政治過程 2

(3)

産の運用益によって調達される,という関係にある。確定給付である厚生年金基金の場 合,先に左辺の給付額が決まっている。そして掛金を推定する際に,積立金が産み出す 収益を見積もる必要があり,この見積もり収益率を「予定利率」と呼ぶ。給付を一定と する場合,この予定利率を高く見積もれば,企業や従業員が負担する掛金は少なくて済 むことを意味する。この予定利率は長い間 5.5% に固定されてきた。 運用実績が予定利率を下回った場合,積立不足が発生するため,運用実績と過度に乖 離した予定利率を設定している場合は,予定利率の引下げを行う必要がある。この場 合,給付設計を変更しないならば,掛金の引上げが必要である。この予定利率は 1997 年度より自由化されている(1)。しかしながら 2012 年 3 月 14 日の段階で,予定利率を 5.5% としている基金は 581 基金中 507 基金(87%)と,基金の大半を占める(2) バブル経済崩壊後,総利回りは予定利率の 5.5% を下回るようになった。生じた運用 差損は企業の補填が必要となった[河村 1999, p.11]。また,2000 年以降,新会計基準 による債務負担が生じるようになった。企業会計では掛金は損益計算書の費用であり, 給付債務は将来の費用負担をあらわす負債である。旧基準では掛金を費用処理するだけ で,給付債務は財務諸表には反映されなかった。しかしながらこれまで貸借対照表に計 上されなかった企業年金の隠れ債務は,新基準では負債として表面化し,企業の自己資 本比率は低下する。企業年金の負債は費用処理しなければならず,将来の企業利益は悪 化する。これに先立ち,1997 年秋ごろから企業は年金給付額の引き下げや予定利率の 引き下げ,積立金の不足分の追加負担などを行い始めた[河村 1999, pp.4-7 ; 26-31]。 1998 年以降,日本の労使は代行返上の簡素化,代行廃止を強く主張するようになっ た。高山憲之は先述した運用利回りの低下と新会計基準の導入に加えて,免除保険料率 の凍結と節税メリットの消滅にその原因を求めている。 まず,免除保険料率の凍結について説明する。厚生年金基金は厚生年金保険料の一部 を厚生年金本体に納付することが免除され,それぞれの基金内部で積み立てることにな っている。納付を免除された保険料は「免除保険料」と呼ばれる。この免除保険料率は 予定利率を前提に決められているため,厚生年金基金の予定利率の引き下げを行う場 合,免除保険料率を引き上げなければならない。しかし 1999 年の年金改革では厚生年 金保険料引き上げを凍結したことに伴い,免除保険料も凍結してしまった。これによっ て基金の財政は深刻な打撃を受けた。 次に節税メリットの消滅について説明する。税制適格年金の積立金に課されていた特 別法人税は厚生年金基金には課されてこなかった。しかし,1999 年度より特別法人税 が執行停止となり,厚生年金基金が享受していたメリットは消滅した[高山 1999, pp.170-173]。 2001 年,確定給付企業年金法と確定拠出年金法が制定され,代行部分を持たない新 厚生年金基金廃止における政治過程 3

(4)

たな企業年金が発足した。新川敏光によると企業倒産等による基金解散は従来から認め られていたが,確定給付企業年金法によって厚生年金の代行部分の返上が認められるよ うになった。厚生年金基金は(1)そのまま存続する,(2)代行部分を返上した後,企 業年金部分を基金として残す(基金型確定給付企業年金),(3)基金を解消し,企業が 自ら企業年金を運営する(規約型確定給付企業年金),(4)確定拠出年金(企業型)に 移行する,の 4 つの選択肢が与えられた[新川 2005, p.305]。 2006 年 10 月 10 日に開催された第 1 回企業年金研究会で配布された資料「企業年金 の施行状況について」によると,1737 基金(2002 年 3 月 31 日現在)のうち,2006 年 9 月 1 日の時点で解散が 235 基金,厚生年金基金として残ったのが 672 基金,将来返上 が 848 基金(うち過去返上が 773 基金)となっている。単独型・連合型の代行返上が数 多く行われ,中小企業を中心とした総合型が残った。代行返上を行うに当たって,代行 部分に積立金不足がある場合,企業が不足分を負担する必要がある。大企業は一時的な 負担を受け入れて代行返上を行った。一方中小企業は代行部分の不足を穴埋めする体力 に乏しく,解散すら難しいという事情があった(3) ここで企業年金連合会の資料をもとに厚生年金の財政運営について簡単に説明を行 う。厚生年金基金は将来の支出と収入のバランスが保たれるよう設計を行い,掛金の徴 収や年金資産の積み立てを行っていく。しかしながら,実際には予定と実績の間にかい 離が生じ,不足ないし余剰が生じる。このようなかい離に対応するため毎年財政検証が 行われる。財政検証には継続基準によるものと非継続基準によるものがある。 継続基準による財政検証は厚生年金基金が今後も継続していくうえで年金資産が計画 通り積み立てられているかという観点からの検証である。純資産額が責任準備金を下回 る場合は継続基準に抵触する(4)。抵触した場合は許容繰越不足金および資産評価調整額 を考慮して,あらためて掛金の見直しの検証を行う。その結果,不足額が「許容繰越不 足金+資産評価調整額」を上回る場合は,掛金の見直し(変更計算)を行い,特別掛金 の設定を行わなければならない。 非継続基準による財政検証は厚生年金基金が解散した場合に加入員などの受給権が確 保されているかという観点からの検証である。純資産額が「最低積立基準額×100%(5) と最低責任準備金×105% の大きい方の額」を下回っている場合,掛金の追加拠出が必 要となる場合がある(6)。なお,後で詳しく述べるが,2013 年の改正法の施行日から 5 年以降において存続基準(最低積立基準額×100% と最低責任準備金×150% の低い方 の額)を下回った場合には,翌事業年度末に当該基準を上回るように掛金の追加拠出が 必要である。この積立不足が解消されない場合,解散命令の対象となる[企業年金連合 会,2014, pp.24-31]。 厚生年金基金廃止における政治過程 4

(5)

3

.審議会および私的諮問機関

笠京子によると,諮問機関には法制度上の存在である審議会と,法律や政令に根拠を 持たない私的諮問機関がある(7)。前者には 2 つの定義があり,1 つは助言機能を持って 政策形成に参画する諮問機関を意味するもので,機能面を重視した定義である。もう 1 つは根拠法に基づいたものであり,国家行政組織法第 8 条に基づいて設置された合議制 機関であって,行政機関の附属機関であることを意味し,諮問機関と審査・検定を行う 参与機関の両方を含む。1992 年の段階で 212 の広義の審議会があり,このうち諮問審 議会は 169 で,広義の審議会の 80% を占めていた。 笠は審議会の評価について,①既存の利益構造に縛られ,新しい行政需要への適応に 失敗しているとするいわゆる隠れ蓑論と呼ばれる評価,②特定の政治的立場に偏向して いるという評価,③専門性を比較的小さな費用で活用しうるという肯定的な評価,の 3 つを紹介している。笠が『審議会総覧平成 4 年版』を用いた分析では諮問審議会で設置 数が多い省庁は順に総理府(36, 21%),通産省(31, 18%),農水省(19, 11%)となっ ている。基本的には常設の機関であり,設置レベルは 72% が大臣級である。委員の実 数は平均 22.1 人,また委員の構成比は上から学識・マスコミ(1277 人, 34%),経済団 体(925 人, 25%),政府系法人(768 人, 21%)となっている。審議会が作成する答申 は助言であり,行政上の決定を伴わないが,実現度は相当に高いと笠は指摘している [笠 1995](8) 次に私的諮問機関について論じる。笠によると私的諮問会議は出席者が個別意見を表 図 1 積立水準の推移(非継続基準) 注:倍率は 2011 年度までは 0.90, 2012 年度は 0.92, 2013 年度は 0.94, 2014 年度は 0.96, 2015 年度は 0.98, 2016 年度は 1.00 となっている。2006 年度以降は各年度の調査に回答のあった基金についての集計で ある。2013 年度と 2014 年度は解散・代行返上計画に基づく財政検証を実施した基金は除いている。 出所:企業年金連合会『企業年金に関する基礎資料』 厚生年金基金廃止における政治過程 5

(6)

明する場に過ぎず,名称についても懇談会,懇話会,研究会,考える会,検討会など と,審議会との重複が生じないよう,指導されている。笠が『1987 年度版官公庁私的 諮問委員会実態調査総覧(富士経済)』に依拠して分析したところでは 1985 年から 2 年 間で 284 の私的諮問機関が設置されており,うち構成比は上から郵政省(63, 22%), 通産省(62, 22%),総理府(53, 19%)となっている。設置期間は平均約 13 カ月であ り,約 70% が局長級に設置されている。また,委員の人員は平均で 21.3 人と審議会と ほぼ同じであり,構成比は企業出身者が約 32%,大学教員が約 20% である。企業以外 の経済団体の出身者も多く,こうした経済団体出身者の割合は審議会における経済団体 出身者の割合(25%)を大きく上回ると笠は推測している[笠 1995]。 こうした諮問機関について包括的に研究を行った西川明子によると,公的な機関であ る審議会については 2001 年の中央省庁等改革に伴って整理合理化が行われたものの, 私的諮問機関については大規模な整理・統合は行われてこなかった(9)。私的諮問機関は 法的な情報公開の義務はなく,頻繁に設立・廃止されていることから,正確な総数を把 握することは困難であるが,2006 年 2 月現在で総務省では少なくとも 54 の私的諮問機 関が存在していた[西川 2007]。先の笠が研究で明らかにした 1985 年からの 2 年間に 郵政省と自治省に設置された私的諮問会議の数は 67(63+4)であった(10)。なおこの数 字は設置数であり,同一時点に存在した会議の数はより少ないと考えられる。郵政省で の会議設置数が多いのは 1980 年代に NTT 民営化などの電気通信政策の急速な展開が 行われたからであると笠は指摘している(11)。このような時代背景およびその後の行政 改革による審議会の削減を考慮すると,54 という数字はかなり多いと判断できる(12) 辻中豊は日本の諮問機関についていくつかの特徴を挙げている。①政治的・社会的な 注目が大きい。②公的な審議会と法的基礎に乏しい私的諮問機関の二重構造となってお り,準備作業やより本音の議論が私的諮問機関で,正当化の仕上げが審議会で行われる ことが多い。③諮問機関制度の安定性,自律性とその構成における緩やかな多元的傾向 がある。④委員の間での協議・審議というより,官僚制と社会の諸アクターの間の複合 審議体という傾向が強いという点などである[辻中 1999]。 辻中が指摘した②の観点に関連して,曽根泰弘は以下のように述べている[1998]。 小渕内閣のスタートの際に設置された「経済戦略会議」は国家行政組織法の八条機関,つ まり審議会にするのか首相の諮問機関にするのか,という問題が,メンバーの候補者たちの 参加意欲を左右した。経済団体のある有力者は「私的諮問機関でないと自由に発言できず, 官僚が書いた筋書きに従わざるを得なくなる」といって,メンバーへの委嘱を断った。 さらに,このような私的諮問機関の性格について,新藤宗幸は以下のように述べてい る。 厚生年金基金廃止における政治過程 6

(7)

いずれにしても,私的諮問機関が政策・事業の制度設計にどこまで踏み込むかは時々の状 況によるにしても,各省における「官学コミュニティ」を中核とした政策・事業案の「前審 的」機能をもっていることはたしかだ。官僚側はけっして「丸投げ」しているのではない。 官僚機構サイドは自らの問題意識,情報,法体系上の整合性などについて懇切に説明する。 いわば「施主」としての要望を建築士に伝え,設計案原案にも注文をつける家屋の設計過程 に類似するともいってよい。 このように私的諮問機関は,官僚機構にとって知的源泉であると同時に,政策・事業設計 に「外部」の眼を導入し,官僚機構の視野の限定を補完するものであるといってよい[新藤 2012, p.129]。 さらに新藤は 2016 年の論考で,2015 年のマンション傾き事件=杭打ち偽装事件への 国土交通省の対応や,同年都道府県知事が実際上都道府県の組織としてハローワークを 活用できる仕組みづくりを検討するよう報告をまとめた地方分権有識者会議の雇用対策 部会を例に挙げ,これらの問題は官僚機構には周知のことであったと指摘し,有識者会 議の濫設は行政への信頼性を損ないかねないと述べている[新藤 2016]。 笠,辻中,曽根,新藤の指摘におおむね共通することは,私的諮問会議を媒介にした 官僚と学識経験者を中心とした外部のアクターとの共存関係,および時折みられる私的 諮問機関の優越性にあると言えよう。以下ではこうした先行研究の見方が妥当するか否 か,厚生年金基金改革を題材に検討する。

4

.AIJ 投資顧問事件と 2013 年の改革

4-1.AIJ 投資顧問事件と政府の対応 2012 年 2 月 23 日,AIJ 投資顧問の企業年金から受託していた約 2000 億円の大部分 が消失していることが証券取引等監視委員会の検査で判明した。顧客の大半は総合型の 厚生年金基金であった(13)。2013 年 12 月 18 日に行われた東京地裁での判決では,被告 らは 17 の基金から計約 248 億円を詐取したと判断された(14)。運用資産は 2012 年 3 月 末の時点で 1458 億円であり,回収された年金資産は 85 億円であった。1300 億円以上 の消失は確実な状況とされる(15) この事件を受けて厚生年金基金の見直しの機運が高まった。表 1 に示したように,政 府・厚労省には以下のいくつかの動きか見られた。第 1 に「厚生年金基金等の資産運用 に関する特別対策本部」である(16)。本部長は辻泰弘厚生労働副大臣(年金担当),本部 長代理は厚生労働大臣政務官(年金担当),副本部長は年金局長である(17)。第 1 回の会 議は 2012 年 3 月 14 日に開催され,計 7 回の会議を経て,9 月 28 日(第 7 回開催日) に「決定事項」が公開された。ここでは厚生年金基金の廃止が明確に打ち出された。 「対策本部」は議事次第や参考資料は公開されているものの,議事録は公開されていな 厚生年金基金廃止における政治過程 7

(8)

い。 第 2 に与党民主党の動きである。民主党の「財務金融部門年金積立金運用のあり方及 び AIJ 問題等検証ワーキングチーム」が 4 月 24 日に「AIJ 問題再発防止のための中間 報告」を提出し,厚生年金基金の一定期間の経過後廃止を提言している。さらに 7 月 11 日には民主党厚生労働部門会議・財務金融部門会議・および先述のワーキングチー ムの合同会議が行われ,ここでもワーキングチームの蓮舫座長が基金の廃止を改めて主 張した。その一方で,財務金融部門の大久保勉座長は後述する有識者会議報告書と民主 党中間報告の現状分析にほとんど違いはなく,結論(両論併記と将来的な廃止)のみが 異なるという見解を示した(18) 第 3 に「厚生年金基金等の資産運用・財政運営に関する有識者会議」(以下,「有識者 会議」座長;山口修横浜国立大学経営学部教授・付属図書館長)である。この会議体は 先の「対策本部」の第 3 回の会議に基づき,設置された私的諮問機関である。この会議 は,厚生労働大臣の下,開催 さ れ,庶 務 は 年 金 局 企 業 年 金 国 民 年 金 基 金 課 が 行 っ た(19)。第 1 回の会議は 2012 年 4 月 13 日に開催された。計 8 回開催され,7 月 6 日に 「厚生年金基金等の資産運用・財政運営に関する有識者会議報告」(以下「報告」)が公 開された(20)。「報告」では厚生年金基金の今後について「代行制度が公的年金である厚 生年金保険の財政に与える影響」との観点からの意見と,「代行制度が中小企業の企業 年金の維持・普及に果たしてきた役割」との観点からの意見に整理している。 まず,前者については以下のように論じられている。 ①過去 10 年間における最低責任準備金に対する平均積立状況を見ると約 3 割の基金が代 行割れ状況にあり,また,全体の約 6 割の基金が,最低責任準備金に対する年金給付等積立 金のバッファーが 10% 未満である。今後の産業構造や経済金融環境の変化を経ても代行制 度が中長期にわたり持続可能であるかどうか,厚生年金保険本体の財政に与えるリスクを考 えて判断すべきである。 ②代行部分が公的年金財政の一部となっている以上,将来的には基金制度の存在が公的年 金の保険料引上げや年金積立金の減少につながるリスクは残る。公的年金である厚生年金保 険の被保険者の中には企業年金を持たない中小企業の従業員も多いことを考慮すれば,こう したリスクを持つ制度をこれ以上存続させるべきではなく,一定の期間をおいて廃止すべき である[「報告」,pp.10]。 次に,後者については以下のように整理している。 ①財政状況は基金により様々であり,個別の基金ごとの状況を分析する必要がある。ま た,資産運用の実績も,単年度ではなく長期的に見て評価すべきである。健全に運営されて いる基金や健全化に向けて努力を続けている基金も数多くあることから,現場の努力を尊重 し制度を維持すべきである。 厚生年金基金廃止における政治過程 8

(9)

②総合型基金の上乗せ部分の給付水準は低く,代行部分がなくなれば,スケールメリット が働きにくくなり,確定給付企業年金や確定拠出年金に移行したとしても効率的な資産運用 はできない。中小企業の企業年金を維持するとの観点から,代行制度は維持すべきである [「報告」,pp.10] すなわち「代行制度が公的年金である厚生年金保険の財政に与える影響」の観点から は厚生年金金は廃止するべきであるが,「代行制度が中小企業の企業年金の維持・普及 に果たしてきた役割」の観点からは基金は維持すべきという,両論併記の形がとられて いる。しかしながら出席者の中では制度廃止を主張したのは花井圭子委員(日本労働組 合総連合会総合政策局長)ただ一人だけであった(21)。したがって上記の「報告書」は 会議の実勢を踏まえると「偏った」ものと言える。もっともこの報告書のとりまとめに ついて,出席者からは目だった異論はなかった。 こうした動きを検討した栩木助博は以下のように整理している。まず民主党のワーキ ングチームについて評価できる点は,現行の基金の役職員は資金運用の専門家とは言え ない人材が多いということを指摘した点,課題は基金の廃止のプロセスと積立不足の基 金の資産の財源措置への言及が欠如している点である。また有識者会議について評価で きる点は,①基金の理事長や理事の受託者責任の明確化と趣旨の徹底,②基金のガバナ ンス強化や役職員の資質向上を通じた資産管理運用体制の徹底,③外部の専門家等によ る支援体制や行政におけるチェック機能の強化といった項目について具体策を提示して いる点である。一方課題は代行制度の廃止については両論併記とされている点,また代 行部分の積立不足に対する母体企業の責任を指摘する一方で,中小企業への影響などか ら制度的な対応が必要であると,矛盾とも受け取れることを述べている点である[栩木 2012]。 第 4 に 2012 年 10 月 24 日に開催された第 13 回社会保障審議会年金部会での決定に基 づいて設置された「厚生年金基金制度に関する専門委員会」(以下,「委員会」委員長; 神野直彦東京大学名誉教授)である。設置場所は社会保障審議会年金部会であり,委員 構成は年金部会に属する委員から部会長が指名するものであった(22)。この会議は審議 会である社会保障審議会の「孫会議」であり,私的諮問機関とは異なる(23)。第 1 回の 会議は 2012 年 11 月 2 日に開催された。計 7 回開催され,2013 年 2 月 8 日に「『厚生年 金基金制度の見直しについて(試案)』に関する意見」が公開された(24)。特に第 4 回の 会合では基金関係者によって基金の廃止に反対の意見が提示されたものの,「意見」で は覆らなかった。「意見」の「3.代行制度の見直し」の「1.基本的な考え方」では以 下のように述べられている。 総論でも指摘したように,基金の制度的基盤である代行制度については,経済・金融環境 厚生年金基金廃止における政治過程 9

(10)

の変化等に伴い,「労使の自治による自律的な運営」「企業年金部分である上乗せ給付の確実 な実行」「公的年金である代行部分について厚生年金本体に財政リスクを負わせない」とい った制度創設時の前提条件が崩れてきており,制度としての今後の持続可能性は低い[「意 見」p.9]。 (中略) いずれにしても,総論でも指摘したように,もはや看過できない代行割れ問題を特例解散 制度(引用者注:後述)の見直しにより制度的に解決する以上,代行制度についての抜本的 な見直しを行わないという選択肢はあり得ない。この点については,当委員会として改めて 強調しておきたい[同 p.11]。 表 1 厚生年金基金改革の動き 厚生年金基金等の 資産運用に関する 特別対策本部 厚生年金基金等の 資産運用・財政運営 に関する有識者会議 厚生年金基金制度 に関する 専門委員会 民主党 2012 年 3 月14日 第 1 回会議 3 月28日 第 2 回会議 4 月 6 日 第 3 回会議 (「有識者会議」 開催要項①) 4 月13日 第 1 回会議(①に基づく) 4 月24日 第 2 回会議 民主党ワーキング チーム中間報告② 5 月15日 第 4 回会議 5 月16日 第 3 回会議 (②を検討) 5 月29日 第 4 回会議 6 月 7 日 第 5 回会議 6 月12日 第 6 回会議 6 月19日 第 7 回会議 6 月29日 第 8 回会議 7 月 6 日 報告書とりまとめ③ 7 月11日 民主党合同会議 (③を検討) 7 月12日 第 5 回会議 (③を検討) 7 月26日 第 6 回会議 9 月28日 第 7 回会議 厚生年金基金廃止決定 11月 2 日 第 1 回会議 11月19日 第 2 回会議 11月27日 第 3 回会議 12月10日 第 4 回会議 2013 年 1 月10日 第 5 回会議 1 月24日 第 6 回会議 2 月 1 日 第 7 回会議 2 月 8 日 意見とりまとめ 注:厚生労働省「報道発表資料」(http : //www.mhlw.go.jp/stf/houdou/index.html 2016 年 4 月 24 日最終アクセ ス),同「厚生年金基金等の資産運用・財政運営に関する有識者会議」(http : //www.mhlw.go.jp/stf/shingi/ other-nenkin.html?tid=129232 2016 年 4 月 24 日最終アクセス),同「社会保障審議会(厚生年金基金制度 に関する専門委員会)」(http : //www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-hosho.html?tid=126724 2016 年 4 月 24 日 最終アクセス)「厚生年金制度の改革を提言」『週刊社会保障』2677, 14。「基本ポートフォリオ策定や運 用方針の大臣届出を義務化」『週刊社会保障』2687, 26-33。 厚生年金基金廃止における政治過程 10

(11)

ここでは制度としての長期的な持続可能性が低く見積もられていることに加え,代行 割れ問題を「特例解散制度の見直し」によって解決することから,制度そのものの見直 しが必要不可欠という認識が示されている。この特例解散制度の見直しについては後述 する。 2013 年 6 月,公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の 一部を改正する法律が自公民の賛成により成立した。この法律によって新たな基金の成 立は認められなくなり,9 割の基金が解散する見通しとなった(25) 4-2.法改正とその帰結 ここでは主として社会保障審議会企業年金部会の第 3 回会議(2014 年 3 月 18 日)で 参考資料として配布された「厚生年金基金制度改正の主な内容」(以下「内容」)をもと に改正法の概要について述べる。なお,この部会会議は 2015 年 1 月 16 日まで,計 15 回開催された。 「内容」によると改正厚生年金法のポイントは特例解散制度の以下の 4 点である。(1) 施行日(厚生年金基金に関する部分は 2014 年 4 月 1 日)以後は厚生年金基金の新設は 認めない。(2)施行日から 5 年間の時限措置として特例解散制度を見直し,分割納付に おける事業所間の連帯債務を外すなど,基金の解散時に国に納付する最低責任準備金の 納付期限・納付方法の特例を設ける。(3)施行日から 5 年後以降は,代行資産保全の観 点から設定した基準を満たさない基金については,厚生労働大臣が第三者委員会の意見 を聴いて,解散命令を発動できる。(4)上乗せ給付の受給権保全を支援するため,厚生 年金基金から他の企業年金等への積立金の移行について特例を設ける。 ここでは(2)の特例解散制度についてよりくわしく見ていこう。代行割れ基金が法 施行後 5 年間に解散する場合,一定の要件を満たす場合は「特例解散」を選択すること ができる。この特例解散の際には①納付額の特例,②納付猶予の特例の 2 つを申請でき るところが通常解散とは異なる(26) そのうち,②について詳しく述べると,通常は解散時に最低責任準備基金を一括で国 に返済する必要があるものの,特例解散の場合は,返済期間に猶予を申請することがで きる。法改正による見直しは以下の 3 点である。第 1 に,複数の事業所からなる総合型 基金の場合,倒産した事業所の分の債務は他の事業主が負担することになっていたが, この制度改正で解散時に各事業所の債務が確定することになった。第 2 に,国に返済す る債務の利息は固定されることになった。第 3 に,事業主が国に納付する債務の最長納 付期間が 15 年から 30 年に延長された。 なお,今回の特例解散制度は「自主解散型」を基本とするが,代行割れを二度と起こ さないという観点から,財政状況が一定水準に満たない基金について,「清算型基金」 厚生年金基金廃止における政治過程 11

(12)

という枠組みが設置された。厚生労働大臣が基金を「清算型基金」に指定した場合,基 金は速やかに清算計画を提出した上で解散となる。指定基準は①基金の純資産が責任準 備金相当額の 8 割未満かつ支出が収入を上回るなど事業継続が著しく困難であり,なお かつ②財政均衡水準の掛金を徴収し,給付費用抑制措置を講じているなど業務運営上の 相当の努力をしていることである。清算型基金は自主解散型基金と同じく納付額特例, 納付猶予といった特例措置を申請することができる。しかしながら①指定を受けると直 ちに上乗せ給付が停止される,②上乗せ給付の再建について,十分な検討を行うことが 困難であり,受給者等が不利益を被る可能性がある,という 2 点のデメリットが存在す る。 この他,法施行日に旧来の制度であった「特定基金」に該当する基金(27)については, 各事業主は清算未了特定基金型納付計画を国に提出することで今回の法改正に基づく納 付猶予の特例措置を受けることができる。 次に(3)の解散命令について詳しく述べる。法施行後 5 年後以降も基金として存続 することを目指す場合は継続基準・非継続基準とも適用され,5 年後以降存続に向けた 段階的な積立水準を満たすことが求められる。一方法施行後 5 年以内に解散または代行 返上をする予定の場合は,継続基準・非継続基準の適用は受けない。非継続基準の財政 検証においては従来の純資産と最低積立基準額との比較に加え,純資産と最低責任準備 金との比較が追加される。2013 年度は最低責任準備金の 1.05 倍,2014 年度は 1.1 倍, それ以降は 1 年ごとに 0.1 ポイント増え,2018 年度以降は 1.5 倍の純資産が要求され る(28)。5 年後以降は純資産が存続基準(最低責任準備金の 1.5 倍または最低積立基準額 の小さい方の額)を下回った場合,速やかに積立不足を解消しなければ,解散命令の対 象となる。 この,1.5 倍という数字には根拠がある。先述の企業年金部会第 3 回会議で配布され 図 2 厚生年金基金の今後 出所:厚生労働省「厚生年金基金制度改正の主な内容」(http : //www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000040456. pdf 2016 年 5 月 31 日最終アクセス)14 枚目のスライドに基づき筆者作成。 厚生年金基金廃止における政治過程 12

(13)

た「厚生年金基金に関する基礎資料」によると,2000 年度から 2011 年度までの 12 年 間の全基金の決算データでは 1 年から 2 年後に代行割れとなる基金を発生させないため には代行部分対しておおむね 1.5 倍を超える程度の積立が必要としている。加えて,あ る年の代行に対する積立水準(純資産÷最低責任準備金)が 0.8 だと,1 年から 2 年後 には 100% の水準で代行割れ(29),積立水準が 1.0 だと 1 年から 2 年後には 50% の確率 で代行割れとなる。改正法の枠組みでは基金を「代行割れ」「代行割れ予備軍」「健全」 の 3 つのタイプに分類している。判断基準は純資産÷最低責任準備金であり,1 を下回 っているのが「代行割れ」,1 以上 1.5 未満が「代行割れ予備軍」1.5 以上が「健全」と 判断される。この枠組みで「健全」と判断される基金が将来的な存続を許されることに なる。 次に,2013 年の法改正で導入された特例解散制度の見直しがどれほど浸透されてい るか確認したい。企業年金連合会が発行している『企業年金に関する基礎資料』では 2014 年から改正法に基づく財政検証の結果を掲載するようになった。2013 年度の結果 では単独・連合型と総合型で,通常の財政検証を実施したのか,それとも解散または代 行返上計画に基づく財政検証を実施したのか尋ねている。それを見ると,単独・連合の 方が存続前提の通常の財政検証を実施している割合が多いものの,総合型も大半が通常 の財政検証の方を選択していることが分かる。しかしながら 2014 年度になると,総合 型基金では解散または代行返上計画に基づく財政検証を実施する基金の割合が高くなっ ている。したがって,見直された特例解散制度が次第に普及していることが分かる。

5

.まとめ

本稿では以下のことが明らかになった。まず,私的諮問会議である「有識者会議」の 決定は民主党および審議会の下部機関によって覆されたことが明らかになった。従来の 表 2 改正法施行後の財政検証状況(2013 年,2014 年) 設立形態 合計 単独・連合 総合 2013 2014 2013 2014 2013 2014 通常の財政検証を実施 51 (87.9%) 28 (75.7%) 307 (69.5%) 129 (43.4%) 358 (71.6%) 157 (47.0%) 解散または代行返上計画に基づ く財政検証を実施 7 (12.1%) 9 (24.3%) 135 (30.5%) 168 (56.6%) 142 (28.4%) 177 (53.0%) 合計 58 (100.0%) 37 (100.0%) 442 (100.0%) 297 (100.0%) 500 (100.0%) 334 (100.0%) 出所:企業年金連合会[2014, p.103]および企業年金連合会[2015, p.113]。原典は企業年金連合会 「財政・事業運営実態調査」。 厚生年金基金廃止における政治過程 13

(14)

諮問会議をめぐる議論では私的諮問会議と他のアクターの相互依存関係を強調する研究 が多かったが,本研究の成果はこのような私的諮問会議と他のアクターの関係に別の一 面を明らかにした。また,これまでの行政学,政治過程論の分野では審議会と私的諮問 機関を対象とする研究が行われていたが,本稿で取り上げた事例では社会保障審議会年 金部会に設置された「厚生年金基金制度に関する専門委員会」が大きな役割を果たした ことが明らかになった。 また,先行する諸研究で明らかにされた私的諮問会議を時系列で比較したところ,そ の数はあまり減少していないことが分かった。2001 年の行政改革で審議会の数が大き く削減されたことを踏まえると,行政需要を審議会ではなく私的諮問機関が吸収してい るという解釈も可能である。新藤が指摘したように,行政組織のガバナンスという観点 からも,重要な課題が浮き彫りになった。 本稿に残された課題を述べる。「対策本部」での 2012 年 9 月 28 日の決定に影響を与 えた要因は他にも考えられる。有識者会議の報告書が取りまとめられた 7 月 6 日と 9 月 28 日の間に,「社会保障・税一体改革」の関連法案が成立している(30)。この法案が厚生 年金基金改革にも大きな影響を与えた可能性がある。 加えて「対策本部」本部長であった辻泰弘厚生労働省副大臣(当時)や民主党ワーキ ングチームの蓮舫座長のリーダーシップについても検討が必要であろう。特に厚生労働 省の OB の再就職問題は重要である。その上で特に重要と思われるのは第 2 回の会合 (2012 年 3 月 28 日)である。この会合では参考資料として「厚生年金基金への国家公 務員等退職者の再就職状況調査」と「厚生年金基金の運用体制等に関する調査結果」が 提示された。ここでは AIJ 投資信託の被害にあった基金を含め,厚生年金基金の役員 ・職員に厚生労働省や旧社会保険庁の OB が多数再就職していることなどが明らかに された(31) また,同時期に発生した長野県建設業厚生年金基金の脱退訴訟の存在も見逃せない。 この事件は長野県建設業厚生年金基金の加入事業所が財政悪化を理由に基金からの脱退 を求めた訴訟である。2012 年 8 月 24 日,長野地裁は加入事務所の脱退を認める判決を 言い渡した。訴状によると原告の事業所は 2011 年 1 月脱退申請を行ったが,基金の代 議員会で不承認と議決され,同年 6 月に提訴していた(32)。敗訴した基金側は判決を不 服として東京高裁に控訴したが,その際,厚生年金保険法の解釈も争うため,監督官庁 の厚生労働省にも訴訟の参加を要請した(33)。結果として厚生労働省は訴訟には参加せ ず(34),2013 年 9 月に和解が成立し基金の脱退は認められた(35)。この顛末から厚生労働 省は訴訟リスクを回避するために,厚生年金基金の制度の廃止を模索するようになった 可能性がある。 厚生年金基金廃止における政治過程 14

(15)

注 ⑴ 日経金融新聞 1997 年 4 月 28 日 7 ページ。なお,本稿での新聞記事の書誌情報はすべて日経テレコン によるものである。 ⑵ 厚生労働省年金局「厚生年金基金等の現状について」(http : //www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r985200000252 qc-att/2r985200000252u4.pdf 2015 年 2 月 21 日アクセス) ⑶ 日本経済新聞 2012 年 3 月 5 日 3 ページ。 ⑷ 責任準備金は厚生年金基金においては「数理債務+最低責任準備金−特別掛金収入現価」である[企 業年金連合会用語 集(https : //www.pfa.or.jp/yogoshu/se/se06.html 2016 年 5 月 30 日 最 終 ア ク セ ス)]。 純資産額は「流動資産+固定資産−流動資産−支払備金」である[企業年金連合会 2014, p.100]。 ⑸ この積立水準には経過措置が取られており,2011 年度までは 90%,その後 1 年に 2% ポイントずつ上 昇していき,2016 年度以降は 100% となっている[企業年金連合会 2014, p.101]。 ⑹ ここで最低責任準備金と最低積立基準額の関係について述べると,前者が代行部分の最低積立基準額 であり,後者は前者とプラスアルファ部分の最低積立基準額の和である。最低積立基準額はこれまで の加入期間に応じて発生している,または発生しているとみなされる給付(最低保全給付)の支払総 額を現在価値に割引計算した金額である[企業年金連合会用語集(https : //www.pfa.or.jp/yogoshu/sa/sa 07.html 2016 年 5 月 30 日最終アクセス)]。 ⑺ 本稿では①審議会と②その分科会,および③私的諮問機関を合わせて「諮問機関」と呼称する。なお, 審議会の設置根拠について,かつてはすべて法律とされていたが 1984 年に国家行政組織法を改正し, 政令を設置根拠とすることを可能にした[萩原 2000]。 ⑻ 曽根は審議会を答申内容とメンバー構成で大別し,それに答申の規模,省庁のコントロール,政治的 対立の程度を考慮して①行政および省庁間協議型,②オーソライズ型,③政策立案型,④臨調型,⑤ 利害調整型,⑥個別専門型,⑦不活動型の合計 7 つの類型に分類している[曽根 1998]。 ⑼ 審議会については分科会,部会などの下部機関も存在する。下部機関においてあらかじめ専門的かつ 詳細な調査審議を行うメリットがあるものの,審議会本体が形骸するというデメリットもある。この ことを踏まえ 2001 年の中央省庁等改革に伴う整理合理化では,必要性の乏しい下部機関が設置されな いようにするなどの改革が行われた[萩原 2000]。その一方で,廃止された審議会のうち多くはこう した下部機関に整理され,整理・統合された審議会の下部機関に組み込まれた[細野 2003]。 ⑽ 2001 年の中央省庁等改革により,郵政省,自治省,総務庁は総務省へ再編された(首相官邸ホームペ ージ「中央省庁を再編します。」http : //www.kantei.go.jp/jp/cyuo-syocho/ 2016 年 5 月 27 日最終アクセ ス)。 ⑾ この時期郵政省は審議会(3, 2%)と私的諮問機関(63, 22%)と全省庁における構成比に大きな偏り があった[笠 1995]。 ⑿ 萩原によると,2001 年の中央省庁等改革に伴い,審議会は 211 から 90 に削減された。特に基本政策 を審議できる審議会の数は 176 から 29 へと大きく減少した。また,従来は複数省庁の領域にまたがる 審議会については総理府を設置場所とするケースがあったが,2001 年の省庁改革によって,審議会の 設置場所はすべて当該審議会の所掌事務に最も関連が深い省庁とすることになった[萩原 2000]。 ⒀ 日本経済新聞 2012 年 2 月 24 日 1 ページ。 ⒁ 日本経済新聞 2013 年 12 月 18 日夕刊 1 ページ。 ⒂ 日本経済新聞 2013 年 12 月 19 日 5 ページ。 ⒃ 3 月 5 日に発足した「AIJ 問題対策特別プロジェクトチーム」は対策本部に合流した。詳しくは厚生労 働省「厚生年金基金等の資産運用に関する特別対策本部設置要綱」(http : //www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2 r985200000252qc-att/2r985200000252 ts.pdf 2016 年 4 月 22 日最終アクセス)を参照のこと。 ⒄ 本部員は大臣官房審議官(年金担当),年金局総務課長,大臣官房参事官(資金運用担当),年金局企 業年金国民年金基金課長,年金局企業年金国民年金基金課基金数理室長の 5 人である。 ⒅ 「基本ポートフォリオ策定や運用方針の大臣届出を義務化」『週刊社会保障』2012 年 7 月 23 日号, 2687, pp.26-33. ⒆ 厚生労働省「厚生年金基金等の資産運用・財政運営に関する有識者会議開催要綱」(http : //www.mhlw. 厚生年金基金廃止における政治過程 15

(16)

go.jp/stf/shingi/2r98520000027zv6-att/2r9852000002801m.pdf 2016 年 4 月 24 日最終アクセス) ⒇ 厚生労働省「『厚生年金基金等の資産運用・財政運営に関する有識者会議』報告」(http : //www.mhlw. go.jp/stf/shingi/2r9852000002ekia.html 2014 年 9 月 17 日最終アクセス) 「財政運営・制度の見直しで次期通常国会に法案提出」『週刊社会保障』2012 年 7 月 9 日号(2685),6-9。 厚生労働省「社会保障審議会年金部会「厚生年金基金制度に関する専門委員会」の設置について」 (http : //www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002njif-att/2r9852000002njjw.pdf 2016 年 4 月 22 日最終アク セス) 厚生労働省のホームページでは「ホーム>政策について>審議会・研究会等>社会保障審議会(厚生 年金基金制度に関する専門委員会)」という階層になっている(「社会保障審議会(厚生年金基金制度 に関する 専 門 委 員 会)」http : //www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-hosho.html?tid=126724 2016 年 4 月 25 日最終アクセス)。 厚生労働省「『厚生年金基金制度の見直しについて(試案)』に関する意見」(http : //www.mhlw.go.jp/stf /shingi/2r9852000002uyvf.html 2014 年 9 月 17 日最終アクセス) 日本経済新聞 2013 年 6 月 19 日夕刊 2 ページ。 ①納付額の特例については従前の特例解散制度と同様である。具体的には厚生年金基金が解散した場 合,最低責任準備金を国に返還する必要がある。その額については,基金は 1999 年 9 月末を起点に元 利計算したものと,基金設立時を起点に元利計算したものの低い方の額を選択できる。 従前の特例解散制度の適用を受けた基金であり,解散した基金の代行不足額の返済について,各社連 帯責任を負っている。解散した基金は国に代行不足額を最長 15 年で分割返済を行っている。2013 年 9 月末の時点で特定基金は 5 存在する。 厚生労働省「厚生年金基金制度改正の施行に向けた検討内容」(http : //www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai -12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000032561.pdf 2016 年 4 月 22 日 最 終 アクセス) 積立水準が 0.8 になると代行割れを短期間に克服できないことを意味する。 内閣官房ホームページ「社会保障・税一体改革に関連する国会提出法案等」(http : //www.cas.go.jp/jp/ seisaku/syakaihosyou/houan.html 2016 年 3 月 11 日最終アクセス) 厚生労働省「厚生年金基金等の資産運用・財政運営に関する特別対策本部(第 2 回)について」(http : //www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000026j51.html 2014 年 9 月 13 日最終アクセス) 日本経済新聞 2012 年 8 月 24 日大阪夕刊 18 ページ。 日本経済新聞 2012 年 9 月 13 日地方経済面(長野)3 ページ。 日本経済新聞 2012 年 11 月 28 日 42 ページ。 日本経済新聞 2013 年 9 月 27 日 43 ページ。 参考文献 萩原 靖[2000]「2001 年中央省庁等改革における審議会等の整理合理化について」『季刊行政管理研究』 第 92 号,pp.67-75。 栩木 敬[2012]「「代行制度」と「基金」の持つ根本的な問題の解決には不十分(特集 どうなる!?厚 生年金基金)」『先見労務管理』2012 年 8 月 25 日号,pp.2-26。 細野助博[2003]「審議会型政策形成と情報公開の意義−「決定の質」の政策分析」『公共政策研究』第 3 号,pp.55-67。 笠 京子[1995]「省庁の外郭団体・業界団体・諮問機関」西尾 勝・村松岐夫『政策と管理(講座行政学 第 4 巻)』有斐閣,第 3 章,pp.77-113。 河村健吉[1999]『企業年金危機』中公新書。 企業年金連合会[2014]『企業年金に関する基礎資料(平成 26 年 12 月)』。 企業年金連合会[2015]『企業年金に関する基礎資料(平成 27 年 12 月)』。 西川明子[2007]「審議会等・私的諮問機関の現状と論点」『レファレンス』2007 年 5 月号,pp.59-73。 厚生年金基金廃止における政治過程 16

(17)

新藤宗幸[2012]『政治主導』ちくま新書。 新藤宗幸[2016]「有識者会議の濫設が意味するもの」『UP』東京大学出版会,第 45 巻,第 2 号,pp.1-5。 新川敏光[2005]『日本型福祉レジームの発展と変容』ミネルヴァ書房。 曽根泰教[1998]「「族学者」がはびこる審議会 廃止より競争を」『論座』1998 年 11 月号,pp.106-113。 高山憲之[1999]『年金の教室』PHP 新書。 辻中 豊[1999]「審議会等の透明化・公開の政治学的意義」『都市問題研究』第 51 巻,第 11 号,pp.57-69。 辻中 豊[2000]「官僚制ネットワークの構造と変容−階統制ネットワークから情報ネットワークの深化 へ」水口憲人他編『変化をどう説明するか:行政篇』木鐸社,pp.85-103。 厚生年金基金廃止における政治過程 17

(18)

In this paper, the AIJ investment advisory incident in 2012 and the subsequent abolition of the employees’ pension fund (Kousei Nenkin Kikin) is questioned by analyzing the private advi-sory body, the council subcommittee, and the ruling Democratic Party at the time. The results show that the private advisory body (advisory council on asset management and financial man-agement, such as employee’s pension fund) believed the employees’ pension fund must be con-tinued, while the Democratic Party and the council subcommittee (technical committee on em-ployee’s pension fund plan installed in social security system council pension subcommittee) ar-gued that the employees’ pension fund should be abolished. The latter opinion was realized. Fur-thermore, the probability may exist that the number of private advisory boards will increase as a result of the decreasing number of official councils due to administrative reform, and important issues are found in respect to administrative governance.

Key words : Employee’s Pension Fund, Ministry of Health, Labour and Welfare, Private

advi-sory body, Council

The Political Process in the Employees’ Pension Fund Abolition :

Role of the Advisory Body Jun Fukuda

厚生年金基金廃止における政治過程 18

参照

関連したドキュメント

We also describe applications of this theorem in the study of the distribution of the signs in elliptic nets and generating elliptic nets using the denominators of the

Kilbas; Conditions of the existence of a classical solution of a Cauchy type problem for the diffusion equation with the Riemann-Liouville partial derivative, Differential Equations,

We shall see below how such Lyapunov functions are related to certain convex cones and how to exploit this relationship to derive results on common diagonal Lyapunov function (CDLF)

In Section 13, we discuss flagged Schur polynomials, vexillary and dominant permutations, and give a simple formula for the polynomials D w , for 312-avoiding permutations.. In

Analogs of this theorem were proved by Roitberg for nonregular elliptic boundary- value problems and for general elliptic systems of differential equations, the mod- ified scale of

Then it follows immediately from a suitable version of “Hensel’s Lemma” [cf., e.g., the argument of [4], Lemma 2.1] that S may be obtained, as the notation suggests, as the m A

Definition An embeddable tiled surface is a tiled surface which is actually achieved as the graph of singular leaves of some embedded orientable surface with closed braid

Classical Sturm oscillation theory states that the number of oscillations of the fundamental solutions of a regular Sturm-Liouville equation at energy E and over a (possibly