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日本内科学会雑誌第104巻第4号

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Academic year: 2021

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はじめに

肥 満 は 世 界 中 で 増 加 し て お り,Body Mass Index(BMI)25 kg/m2以上の人口は 1980 年の 8.6億人から2013年には21.0億人に達すると推 定されている.それに伴い,2 型糖尿病患者は 1980年の1.5億人から2008年の3.5億人と増加 し,2035 年には 5.9 億人になると予測されてい る.我が国においても肥満は増加しており,平 成 23 年 国 民 健 康・ 栄 養 調 査 に よ れ ば 成 人 の 25.7%,2,700 万人にのぼる.肥満に起因ない し関連する健康障害を合併した「肥満症」では, 積極的な指導および治療介入が必要となるが, 特にBMI 35 kg/m2以上の「高度肥満」では内科 的アプローチだけでは治療に難渋するケースも 稀ではない. 近年,肥満外科手術の有効性は減量手術(bar-iatric surgery)としてだけではなく糖尿病も含 めた代謝改善手術(metabolic Surgery)として も世界的に注目されるようになり,我が国でも 徐々に増加してきている.2014年4月からは腹 腔鏡下スリーブ状(袖状)胃切除術が保険収載 され,今後さらに増加することが予想される. 本稿では肥満外科治療の現状について概説す る.

1.術式とその特徴

肥満外科治療の術式としては胃バンディング 術,スリーブ状(袖状)胃切除術,胃バイパス 術などがあり(表 1)1),最近ではほとんどが腹 腔鏡下に行われている.世界全体では 2003 年

肥満外科治療

要 旨 徳山 宏丈 北原 綾 服部 暁子 横手 幸太郎 高度肥満における外科治療は減量手術(bariatric surgery)としてだけで はなく,糖尿病も含めた代謝改善手術(metabolic surgery)として注目 され我が国でも増加してきている.高度肥満患者の長期的なbenefitのた めに,肥満外科治療は有効な選択肢である.より安全で有効な肥満外科治 療のためには,多職種チームでの治療・バックアップ体制を確立していく ことが重要である. 〔日内会誌 104:742~747,2015〕

Key words 肥満外科手術,Metabolic Surgery,スリーブ状胃切除術

千葉大学大学院医学研究院細胞治療内科学

The Update of Obesity Syndrome:Molecular Mechanism, Pathophysiology and Therapies. Topics:II. Recent Topics on Care and Treatment of the Obesity Syndrome;4. Bariatric surgery.

Hirotake Tokuyama, Aya Kitahara, Akiko Hattori and Koutaro Yokote:Clinical Cell Biology and Medicine Graduate School of Medicine, Chiba University, Japan.

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の合計15万件/年から2011年には34万件/年へ と増加している.スリーブ状胃切術は高い安全 性と比較的良好な減量効果から近年急速に増加 しており,その一方で胃バンディング術は減少 している(図 1)2) 我が国の肥満外科治療は 1982 年に千葉大学 で開腹術として始まり,その後,2000年に入っ て腹腔鏡下の手術が次々と導入された.しか し,その件数は 2011 年でわずか 170 件とまだ 非常に少ない.我が国で現在行われている腹腔 鏡下肥満外科治療の術式1)と特徴を表 1に示す. 胃バンディング術は胃上部にシリコン製のバン ドを巻き付け,皮下に埋め込んだポートから生 理食塩水を注入してバンドの締めつけにより胃 の容量を調整できる.胃や小腸は切除しないた め容易で安全な術式として腹腔鏡下の手術とし ては比較的早期に広まった.しかし,減量や糖 尿病改善効果は他の術式に劣る.スリーブ状胃 切除術は胃バイパス術には及ばないが,減量効 果や糖尿病改善効果は比較的高く,術後残胃の 内視鏡での観察が容易であることもあり,胃癌 の多い我が国ではよく行われている.食欲増進 作用のあるグレリンの分泌細胞が多い胃底部を 図1 世界における術式別件数の変化(2003,2008, 2011年)(文献2より) 合計: 340,000件/年 米国/カナダ: 101,645件/年 日本: 170件/年 350000 300000 250000 200000 150000 100000 50000 0 2003 2008 2011 (年) (件数) 表1 腹腔鏡下肥満外科治療の術式と特徴(文献1などより一部改変) 摂食量を制限 摂食量+消化吸収を制限 術式 胃バンディング術 スリーブ状(袖状) 胃切除術 胃バイパス術 スリーブ状胃切除術+十二指腸スイッチ術 (スリーブバイパス術) 体重減少効果 やや弱い 比較的大きい 大きい 大きい 糖尿病改善効果 やや弱い 比較的大きい 大きい 大きい 特徴的な合併症 バンドのスリップポートトラブル 逆流性食道炎 ダンピング症候群吸収障害 逆流性食道炎吸収障害 その他 効果はやや弱い.バンドの調節のため頻回の 来院が必要. 現在,腹腔鏡下の手術 としては日本で唯一, 保険適応がある. 米国では最も行われて いる.通常の内視鏡で は胃の観察が困難にな るため,胃癌が多い日 本人では注意が必要. 通常の内視鏡で残胃の 観察が可能.術後長期 の効果は不明.

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切除するためグレリンが低下し,食欲低下も期 待できる.ただし,長期的な効果については今 後の課題である.胃バイパス術は摂食量抑制に 加えて消化吸収も抑制するため,減量効果や糖 尿病改善効果が大きい.しかし,術後残胃の観 察が通常内視鏡では困難となるため,胃癌が多 い日本人では注意が必要となる.

2.手術適応基準

米国の肥満診療ガイドラインではBMI 40 kg/ m2以上の場合やBMI 35 kg/m2以上で肥満合併 症のある場合に外科的治療を考慮するとしてい る3).米国糖尿病学会(American Diabetes Asso-ciation:ADA)では内科的治療が奏功しないBMI 35 kg/m2以上の2型糖尿病患者では外科治療を 考慮すべきとしている.国際糖尿病連盟(Inter-national Diabetes Federation:IDF)もBMI 35 kg/

m2以上の 2 型糖尿病患者ではよい適応であり, さらにBMI 30~35 kg/m2未満の2型糖尿病患者 においても治療選択肢として考慮すべきとして いる. 我が国では,2013年に肥満症治療学会より高 度肥満症に対する外科治療ガイドラインが出さ れている(表2)1).その中では,「内科的治療に 抵抗性の 18 歳から 65 歳までの原発性肥満患者 で,①減量が主目的のbariatric surgeryの場合は BMI 35 kg/m2以上,②合併症治療が主目的の metabolic surgeryの場合はBMI 32 kg/m2以上」 を手術適応としている.アジア人では欧米人よ りも低いBMIから代謝合併症を伴いやすいこと から,適応基準のBMI値が欧米より低く設定さ れている. 上記の適応基準を満たしていても,コント ロール不良の精神疾患が合併している場合には 手術非適応となる.精神疾患と診断されていな くても,高度肥満患者では心理的・社会的問題 を抱えていることが少なくない.肥満外科治療 をより安全に行っていくためにも術前から心理 的・社会的問題について十分に確認し,術前後 に必要に応じた治療・サポートを行っていくこ とが重要となる.

3.我が国における保険適応基準

2014年4月にスリーブ状胃切除術が腹腔鏡下 の肥満外科手術として初めて保険収載された. 算定要件としては「6 カ月以上の内科的治療で 効果不十分なBMI 35 kg/m2以上で,2型糖尿病, 高血圧または脂質異常症のうち 1 つ以上を合併 した患者」を対象とし,実施にあたり「高血圧 症,脂質異常症又は糖尿病の治療について 5 年 以上の経験を有する常勤の医師が治療の必要性 を認めていること」が挙げられている.また, 施設基準として,「腹腔鏡を使用した胃の手術が 年間 20 例以上実施されていること」や,「習熟 した医師の指導の下に術者として 10 例以上実 施」など術者の経験に関する基準に加えて,「常 表2 手術適応基準(2013年肥満症治療学会)(文献1より) 手術適応となる肥満症患者は,原則として年齢が18歳から65歳までの原発性(一次性)肥満症患者であり,6ヵ月以上 の内科的治療を行ったにもかかわらず,有意な体重減少および肥満に伴う合併症の改善が認められず,次のいずれかの 条件を満たすもの. 1)減量が主目的の手術(BariatricSurgery)の適応はBMI35kg/m2以上である. 2)合併疾患(糖尿病,高血圧,脂質異常症,肝機能障害,睡眠時無呼吸症候群など)治療が主目的の手術(Metabolic Surgery)の適応は,糖尿病か,または糖尿病以外の2つ以上の合併疾患を有する場合はBMI32kg/m2以上とする. 3)BMI35kg/m2未満への適応は臨床研究として取り扱うのが妥当であり,厳格なインフォームドコンセント,追跡 調査,さらに臨床登録を必須とする.

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勤の内科医,麻酔科医,管理栄養士の配置」に よるチームでの肥満診療体制や,「術後 5 年の フォローアップ率は75%以上が望ましい」こと を定めている.そのため,現時点では適応され る施設は限られ,さらに上に挙げた合併症がな い場合は適応とならないことや,合併症があっ てもBMIの基準は35 kg/m2以上と肥満症治療学 会が提唱する 32 kg/m2よりも高く設定されて いるなど,当面は腹腔鏡下の肥満外科手術を安 全に実施していくことをより重要視していると いえる.なお,日本肥満学会,日本糖尿病学会, 日本内視鏡外科学会など関連 7 学会は,肥満外 科治療の安全な普及のために「肥満症外科治療 に関する内科系・外科系関連七学会合同委員 会」を 2014 年に組織し,手術登録制度の導入 やチーム医療の構築,スタッフ教育機会の充実 などを行っていくことを確認している.

4.肥満外科治療の効果

術後 2 年以上観察した研究を対象とした報告 において,減量効果は%EWL(%excess weight loss:過体重減少率)が胃バイパス術で65.7%, ス リ ー ブ 術 で 64.5%, 胃 バ ン デ ィ ン グ 術 で 45.0% で あ っ た. ま た 糖 尿 病 寛 解 率(HbA1c 6.5%以下)は胃バイパス術で 66.7%,胃バン ディング術が 28.6%であった4) コントロール不良の肥満糖尿病患者(ベース ラインHbA1c 9.3%,BMI 36.0)に対する外科手 術(胃バイパス術,スリーブ状胃切除術)と内 科治療を比較した米国のランダム化比較試験 (観察期間3年)では,体重減少効果・HbA1c改 善効果・糖尿病治療薬減少効果はいずれも外科 治療を行った群で大きかった.さらに,スリー ブ状胃切除術でも胃バイパス術には及ばないも 図2 肥満外科治療による体重減少効果,糖尿病改善効果(文献5より) 内科的強化療法 内科的強化療法 内科的強化療法 A)BMI 0 3 6 9 12 Month Month Month 24 36 P=0.006 P=0.02 P<0.001 P<0.001 P<0.001 P<0.001 P<0.001 P<0.001 0 0 3 6 9 12 24 36 3 6 12 24 36 0.0 -2.0 -4.0 -6.0 -8.0 -10.0 -12.0 0.0 -0.5 -1.0 -1.5 -2.0 -2.5 -3.0 -3.5 3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0

Change from Baseline Change from Baseline (percentage points)

Average Number C)糖尿病治療薬数 B)HbA1c スリーブ状胃切除術 スリーブ状胃切除術 スリーブ状胃切除術 胃バイパス術 胃バイパス術 胃バイパス術

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のの高い効果があることや,外科治療の効果が BMI 35 kg/m2未満の群とBMI 35 kg/m2以上の 群で同様であることが示された(図 2)5)

肥満外科手術による糖尿病に対する長期的な 影響についてはスウェーデンの前向きコホート 研究であるSwedish Obese Subjects(SOS)study (最長観察期間15年)において報告されている. 外科手術群では非手術群よりも糖尿病発症が抑 制され,糖尿病寛解率が高く,合併症(細小血 管障害,大血管障害)の発症が抑制されていた. 肥満症治療の最終的な目標は,継続した減量 とそれによる合併症の改善や死亡率低下であ る.これに関して,外科手術は内科的治療より も有意に心筋梗塞を抑制することや(図 3)6) 特に女性では悪性腫瘍のリスクを低下させるこ と7),生命予後も改善することが報告されてい る8)

5.体重減少・代謝改善効果の機序

肥満外科手術後には食事摂取量の大幅な減少 が起こり,胃バイパス術などでは消化吸収も抑 制されるため,体重減少・代謝改善がもたらさ れる.さらに術後のGLP-1,ペプチドYY,コレ シストキニンといった消化管分泌ホルモンの濃 度増加や,グレリンの濃度低下も体重減少・代 謝改善効果に関与すると考えられている.ま た,胃バイパス術での糖尿病改善効果に胆汁酸 や回腸由来ホルモンである線維芽細胞増殖因子 19(FGF-19)が関与している可能性や9),手術 による腸内細菌の変化が関与しているとの報告 もある.一方,高度肥満患者ではしばしば成長 ホルモンの分泌反応が低下し,術後に改善する ことを著者らは経験しており(未発表データ), これも長期的な内臓脂肪蓄積抑制や筋肉量維持 につながると考えられる. 現時点で術後の体重減少・代謝改善について の詳細な機序はまだ不明な点も多く,今後さら に解明されることが期待される.

6.肥満外科治療の安全性,長期的な合併症

肥満外科手術の減量効果は大きく肥満関連疾 患のリスクを低下させる.しかし,一方で手術 合併症や再手術などのリスクについてはまだ課 題が残されている.2003 年から 2012 年に発表 図3 肥満外科治療による心血管イベント抑制効果(文献6より) 致死性心血管イベント 0 No. at risk Control Surgery20372010 19931970 14231557 405412 6 Follow-up,y 12 18 0 No. at risk Control Surgery20372010 19451921 13261468 361375 6 Follow-up,y 12 18 0.035 0.030 0.025 0.020 0.015 0.010 0.005 0 Cumulative Incidence 0.16 0.14 0.12 0.10 0.08 0.06 0.04 0.02 0 Cumulative Incidence Control(49 events)

Surgery(28 events) Control(234 events)Surgery(199 events) HR,0.56;95%CI,0.35-0.88;

Log-rank =.01P 

HR,0.83;95%CI,0.69-1.00; Log-rank =.05P 

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された 164 件の研究(患者数合計 16 万人)の データを用いたメタアナリシスにおいて,術後 合併症は9.8~17.0%,再手術は5.8~7.0%,死 亡 率 は 0.08~0.35% で あ る と 報 告 さ れ て い る10).腹腔鏡手術の普及により以前よりも減少 しているものの,引き続き,さらなる安全性の 向上が期待される. また,長期的には肥満外科手術により骨折リ スクが増加するとの報告もあり,十分な経過観 察と適切な治療介入が必要である.

おわりに

肥満症治療では患者の抱える肥満合併症の重 症度と内科的治療効果の限界を考慮し,短期的 な減量のみにとらわれずに長期的なbenefitを目 標とすることが重要である.我が国でもようや く腹腔鏡下スリーブ状胃切除術が保険適応とな り,今後は高度肥満の外科治療という選択が増 加することが予想される.しかし,手術だけで 全てが解決するわけではない.医師,看護師, 管理栄養士,臨床心理士,理学療法士,ソーシャ ルワーカーといった様々な職種の人々が一丸と なって,術前後の心理的・社会的問題へのアプ ローチも含めたチームでの治療・バックアップ 体制を確立していくことが重要である. 著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容 に関連して特に申告なし 文 献 1) 日本肥満症治療学会:日本における高度肥満症に対する安全で卓越した外科治療のためのガイドライン(2013 年 版).

2) Buchwald H, Oien DM : Metabolic/bariatric surgery worldwide 2011. Obes Surg 23 : 427―436, 2013.

3) Jensen MD, et al : 2013 AHA/ACC/TOS guideline for the management of overweight and obesity in adults : a report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines and The Obesity Society. Circulation 129 : S102―138, 2014.

4) Puzziferri N, et al : Long-term follow-up after bariatric surgery : a systematic review. JAMA 312 : 934―942, 2014.

5) Schauer PR, et al : Bariatric surgery versus intensive medical therapy for diabetes―3-year outcomes. N Engl J Med 370 : 2002―2013, 2014.

6) Sjostrom L, et al : Bariatric surgery and long-term cardiovascular events. JAMA 307 : 56―65, 2012.

7) Tee MC, et al : Effect of bariatric surgery on oncologic outcomes : a systematic review and meta-analysis. Surg Endosc 27 : 4449―4456, 2013.

8) Pontiroli AE, Morabito A : Long-term prevention of mortality in morbid obesity through bariatric surgery. a sys-tematic review and meta-analysis of trials performed with gastric banding and gastric bypass. Ann Surg 253 : 484―487, 2011.

9) Begg DP, Woods SC : The endocrinology of food intake. Nat Rev Endocrinol 9 : 584―597, 2013.

10) Chang SH, et al : The effectiveness and risks of bariatric surgery : an updated systematic review and meta-analy-sis, 2003-2012. JAMA Surg 149 : 275―287, 2014.

参照

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