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分娩前7日間に妊婦が行った陣痛発来への取り組み

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聖路加国際大学大学院看護学研究科博士後期課程(St. Luke's International University, Graduate School, Doctoral Course)

2015年6月5日受付 2015年10月9日採用

原  著

分娩前7日間に妊婦が行った陣痛発来への取り組み

Pregnant women's efforts to induce labor during

the seven days before parturition

髙 畑 香 織(Kaori TAKAHATA)

* 抄  録 目 的  分娩前7日間に妊婦が行った陣痛発来への取り組みの実態と分娩誘発の関連を探索することを目的と した。 対象と方法  2013年7月から10月に,病院,診療所,助産所20施設にて,正期産児を分娩し条件を満たした褥婦 694名に質問紙調査を行った。有効回答を得られた530名(76.3%)について統計的に分析を行った。 結 果 1.何らかの陣痛発来への取り組みを実施したのは530名中491名(92.6%)で,その割合は重複回答にて, ウォーキング66%,乳頭刺激55%,スクワット44%,階段昇降42%,鍼灸指圧20%,下剤13%,性交9% であった。 2.初産婦ローリスク群において,【ウォーキングを中等度の運動強度で1日最低50分以上7日間合計300 分以上実施した】グループでは,分娩誘発を有意に減らしており,オッズ比は0.425(95%CI:0.208-0.866) であった。 3.乳頭刺激は自然な陣痛発来を期待できる方法とされているが,研究で推奨されている方法で実行さ れていなかった。 結 論  陣痛発来への取り組みとして運動が上位を占め,特に初産婦ローリスク群ではウォーキングの実施と 誘発減少との関連が認められた。 キーワード:妊産婦,分娩誘発法,歩行,主観的運動強度,乳頭刺激 Abstract Purpose

The purpose of this study was to identify pregnant women's efforts to induce labor during the seven days be-fore parturition, and to clarify the relationship to medically induced labor.

Methods

A self-administered questionnaire survey was distributed to 694 puerperants in 20 hospitals, clinics, and ma-ternity homes. Included were puerperants who had given birth to a full-term infant and met other inclusion criteria

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between July and October 2013. Results

1. A total of 530 questionnaires (76.3% effective response rate) were analyzed.

2. Of the 530 puerperants, 491 (92.6%) made some kind of effort to induce labor. Multiple responses were allowed. Practices included the following: walking 66%, nipple stimulation 55%, squatting 44%, stair stepping 42%, acupunc-ture, moxa cautery, acupressure or the like 20%, laxatives 13% and sexual intercourse 9%.

3. Low-risk primiparas were analyzed using logistic regression analysis after adjusting for maternal age,gestation period and walking. The group that walked at moderate intensity at least 50 minutes or more per day or a total of 300 minutes or more during the seven days showed a significant decrease in the rate of medically induced labor compared to the other methods (OR 0.425 ; 95%CI:0.208-0.866).

4. Nipple stimulation was not performed as directed by previous research. Conclusion

Exercise ranked the highest for pregnant women's efforts to induce labor. For low-risk primiparas, walking was associated with a significant decrease in medically induced labor.

Keywords: pregnant women, labor induction, walking, rating of perceived exertion, nipple-stimulation

Ⅰ.諸   言

 分娩は病ではなく生理的現象であり,多くの女性は 自然な陣痛の発来を願っている。出産が正常範囲から 逸脱しないよう,女性は陣痛発来に至るまで様々な取 り組みを行っている。  陣痛発来には多くの仮説が提唱されているが,その 正確な機序はまだ解明されていない。日本では,計画 分娩や予定日超過などの理由で,薬剤による分娩誘発 を行う施設が多いが,世界的にも分娩誘発の割合は上 昇しており,アメリカでは22%(American College of Obstetrics and Gynecology: ACOG, 2009, pp.386-397), イ ギ リ ス で も20% 以 上(National Institute for Health and Clinical Excellence:NICE, 2008)の女性が分娩誘 発を受けている。日本産科婦人科学会周産期委員会 (2013, pp.1377-1387)による192施設(うち85%は周産 期センター)の報告では,分娩誘発と促進分娩の合計 は25.3%である。しかし,WHOの勧告では,分娩は 便利さのために誘発されてはならず,分娩誘発は特定 の医学的適応のみ用いられるべきであり,いかなる地 域においても,分娩誘発の割合が10%を超えてはなら ないとしている(Wagner, 1994/2002, pp.158-163)。加 えて,妊娠41週0日から41週6日の間に行う分娩誘発 の是非には結論が出ていない(Gülmezoglu, Crowther, Middleton, et al., 2012)ことからも,歩行や乳頭刺激 といった伝統的かつ非侵襲的な技術である補完代替医 療が注目されている。  非薬理学的に分娩を誘発できるとして伝統的に信じ られているものには,歩行,性交,激しい運動,ひ まし油などの下剤,乳頭刺激などがあるとされる (Schaffir, 2002, pp.47-51)。オハイオ州で201名の褥婦 を対象に行ったChaudhry, Fischer, Schaffir(2011, pp. 168-171)の調査では,分娩7日前から分娩になるよう に何らかの方法を試したことがあるのは50.7%で,若 い女性,初めての妊娠および妊娠39週を超えた女性 にその傾向が高かった。使用された方法は,複数回 答により,歩行85%,性交45%,辛い食べ物の摂取 22%,乳頭刺激15%であった。以上のことから,で きるだけ医療介入を最小限にしたいと思う女性たちは, 様々な手段を用いていることが分かる。  陣痛発来を目指して,これまで多くの研究が行われ ている。現在,薬物や器械的方法を用いない陣痛発来 方法の中で,コクランレビューにより有効であるとさ れているのは,卵膜剥離と乳頭刺激のみである(Boul-vain, Stan, Irion, 2010; Kavanagh, Kelly, Thomas, 2005)。 Kavanagh, Kelly, Thomas(2005)によるシステマティッ クレビューの結果では,乳頭刺激後72時間以内に出 産に至らない妊婦が有意に減少したと報告されている。 しかし,1時間の刺激を3日間行う方法や,1日最低3時 間の刺激など,各研究により方法が異なり,効果的な 方法の提示はない。他に,性交,ひまし油,鍼に関す るシステマティックレビューもあるが,採用されて いる論文は少なく,方法論の質も低いため十分な根 拠とならないとされている(Kavanagh, Kelly, Thomas, 2008; Kelly, Kavanagh, Thomas, 2012; Smith Crowther, 2012)。さらに,ウォーキングなどの運動による分娩 誘発については,ランダム化比較試験は無かった。  以上より,陣痛発来を目的とした取り組みの根拠は 様々であるが,本邦では妊婦における実態調査は行わ れていない。加えて,運動による陣痛発来への影響は

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ほとんど研究されていない。  本研究の目的は,分娩前7日間に妊婦が行った陣痛 発来への取り組みの実態と分娩誘発の関連を探索する ことである。 【用語の操作的定義】 ・陣痛発来への取り組み:乳頭刺激や運動など,陣痛 発来する可能性がある方法のこと。先行研究の介入 方法では分娩の3日前から7日前に実施しているた め,本研究では陣痛発来への取り組みとして分娩前 7日間に実施した方法を調査した。 ・分娩誘発:子宮収縮剤,または器械的方法で陣痛を 誘発し,分娩にいたらしめること。本研究では,「自 然な陣痛発来」を「分娩誘発の実施がないこと」とし た。 ・予定日超過:分娩予定日である40週0日以降のこと を指す。 ・ローリスク妊婦:医学的疾患のある妊婦ならびに妊 娠に起因した疾患のない妊婦を指す。ただし,妊娠 中の感染症を除く。

Ⅱ.研究方法

1.研究デザイン  自己記入式質問紙法を用いた横断的量的記述研究を 用いた。 2.研究対象  研究の対象は,以下の条件をすべて満たした女性と した。 1 ) 研究協力施設において頭位の単胎児を分娩し,産 褥経過が順調な女性。 2 ) 日本語で書かれた質問紙の理解と回答ができる女 性。 3 ) 研究の趣旨に同意が得られている女性。  上記のうち,以下のいずれかに該当する女性は除外 とした。 1 ) 分娩週数が37週0日未満の女性。 2 ) 予定帝王切開の女性。 3 ) 医学的適応ではなく妊婦の希望により出産日を決 定した計画分娩の女性。 4 ) 死産や新生児死亡であった女性 3.研究対象の人数  本研究は,各項目の関連を探る探索的研究であるた め,最低必要な対象数を質問項目の5倍(石井,2007, pp.60-62)とすると,本研究の質問数は85項目であり, 必要対象者数は425名となる。留め置き法のため回収 率を60%とし,質問紙の配布人数を700名程度とした。 病院・診療所・助産所で各100部以上の回答を得るこ とを考慮した。 4.調査期間と対象施設  対象施設は,東京および神奈川において,入院での 分娩取扱いのある病院,診療所,助産所で,研究の 趣旨に同意が得られた施設とした。質問紙の配布は 2013年7月3日から10月11日まで行い,回収は2013年 10月31日まで行った。 5.データ収集 1 ) データ収集手順  研究者または研究協力者が,入院中の褥婦に研究協 力依頼を行った。質問紙は返信用封筒に入れてもらい, 所定の回収箱からの回収または郵送とした。 2 ) 調査項目 (1)陣痛発来への取り組みに関する質問票  先行研究と文献検討から,陣痛発来への取り組みの 実態を把握するために必要となる項目を導き出し,質 問項目を作成した。質問紙は母性看護学の研究者また は出産経験のある女性合計12名にプレテストを行い 表面妥当性の検討を行った。質問は,「陣痛が始まっ た日から数えて7日前までの行動についてお尋ねしま す。※入院した後に行った行動は含めません」と教示 を行い,次のように質問を続けた。(例)「ウォーキン グを実施しましたか」「陣痛が始まる前の7日間で,あ なたがウォーキングを実施した全ての日に○をして ください」「1日に平均して何回程度実施しましたか」 「1日の平均実施時間はどのくらいですか」「ウォーキ ングは平均どの程度の強度で行っていましたか」「ウ ォーキングは陣痛を起こすことが目的でしたか」 (2)日本語版Rating of Perceived Exertion:主観的運

動強度

 ACSM(American College of Spor ts Medicine, 2010/2011, pp.168-192)は,運動強度の指標の一つと してRating of Perceived Exertion(以下,RPEと称す) の使用を勧めている。RPEは,Borg(1970)の考案に よる主観的強度と心拍数の関係を比尺度で表した運動 強度を測定する尺度であり,小野寺ら(1976, pp.191-203)が日本語版を作成した。「非常にきつい」から「非

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常に楽である」までの7段階から,自覚した運動強度 を回答する尺度である。日本臨床スポーツ医学会学術 委員会(2004, pp.2-3)は,胎児への悪影響がないとさ れる運動強度を,心拍数で150bpm以下であり,RPE では「ややきつい」以下としている。 3 ) その他  産科歴等のデモグラフィックデータは,診療録の閲 覧ではなく質問紙から回答を得た。 6.分析方法  各変数の基本統計量を算出した後,各変数間の関連 や差の分析を行った。χ2検定で期待度数5未満のセル が全セルに対して20%以上存在するときはFisherの正 確確率検定を行った。また,複数の要因がアウトカム に影響していると考えられる場合には,強制投入法に よる二項ロジスティック回帰分析を行った。分析には 統計ソフトSPSS version22.0を使用し,すべての有意 水準は5%とした。 7.倫理的配慮  参加は自由意思に基づくもので,拒否しても不利益 を受けないことを説明し,質問紙の回答をもって同意 を得たものとした。本研究は2013年度聖路加看護大 学倫理審査委員会(承認番号13-018)ならびに研究協 力施設の倫理審査委員会の承認を受けて実施した。

Ⅲ.結   果

1.対象者の属性  質問紙は694名に配布し,567名から回答を得た(回 収率81.7%)。有効回答は530名であった(有効回答率 93.5%)。研究協力は34施設へ依頼し,協力を得られ たのは20施設で,病院6施設,診療所6施設,助産所 8施設であった。  対象者の年齢は19歳から45歳の範囲で,平均32.6 歳(SD=4.4)であった。産科歴は初産婦243名(45.8%), 経産婦287名(54.2%)であった。その他の特徴につい ては表1の通りである。(表1) 表1 対象者の背景 全数(n=530) 病院(n=233) 診療所(n=191) 助産所(n=106) n (%) n (%) n (%) n (%) 年齢 35歳未満 35歳以上 349181 (65.8)(34.2) 14786(36.9)(63.1) 13853(72.3)(27.7) 6442 (60.4)(39.6) 産科歴 初産婦 経産婦 243287 (45.8)(54.2) 126107(45.9)(54.1) 10289(46.6)(53.4) 2878 (26.4)(73.6) 切迫早産の治療経験 あり なし 43199 (18.7)(81.3) 18746(80.3)(19.7) 15338(19.9)(80.1) 1591 (14.2)(85.8) 合併症 あり なし 51119 (96.4)(3.6) 22013(94.4)(5.6) 1865 (97.4)(2.6) 1051 (99.1)(0.9) 分娩週数 37週0日∼37週6日 38週0日∼38週6日 39週0日∼39週6日 40週0日∼40週6日 41週0日以上 31 98 183 171 47 (5.8) (18.5) (34.5) (32.3) (8.9) 17 50 74 72 20 (7.3) (21.4) (31.8) (30.9) (8.6) 10 38 71 59 13 (5.2) (19.9) (37.2) (30.9) (6.8) 4 10 38 40 14 (3.8) (9.4) (35.9) (37.7) (13.2) 予定日超過 予定日前 予定日超過 312218 (58.9)(41.1) 14192(39.5)(60.5) 11972(62.3)(37.7) 5254 (49.1)(50.9) 前期破水の有無 あり なし 148382 (27.9)(72.1) 16271(69.5)(30.5) 13754(28.3)(71.7) 2383 (21.7)(78.3) 分娩誘発の有無 あり なし 102428 (19.2)(80.8) 17954(76.8)(23.2) 14348(25.1)(74.9) 1060(100.0)(0.0) 分娩誘発の実施理由 前期破水後陣痛なし 胎児因子 母体疾患因子 その他 28 26 8 40 (27.5) (25.5) (7.8) (39.2) 15 16 4 19 (27.8) (29.6) (7.4) (35.2) 13 10 4 21 (27.1) (20.8) (8.3) (43.8) ̶ ̶ ̶ ̶ (̶) (̶) (̶) (̶) 分娩様式 正常分娩 器械分娩 緊急帝王切開 475 32 23 (89.6) (6.0) (4.4) 202 18 13 (86.7) (7.7) (5.6) 167 14 10 (87.5) (7.3) (5.2) 106 0 0 (100) (0.0) (0.0) 児の出生体重 2500g未満 2500g∼3999g 4000g以上 23 502 5 (4.3) (94.7) (1.0) 13 219 1 (5.6) (94.0) (0.4) 9 179 3 (4.7) (93.7) (1.6) 1 105 1 (0.9) (98.2) (0.9) NICUへの入室 あり なし 52010 (98.1)(1.9) 2285 (97.9)(2.1) 1874 (97.9)(2.1) 1051 (99.1)(0.9)

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2.分娩誘発の実態  分娩誘発を実施した女性は102名(19.2%)で,実施 しなかったのは428名(80.8%)であった。分娩誘発の 実施理由では,前期破水後に陣痛発来を認めない者は 28名(27.5%),胎児因子が26名(25.5%),母体疾患因 子が8名(7.8%),その他は40名(39.2%)であった。(表 1)  分娩誘発を実施していた背景として,35歳未満の女 性,初産婦,予定日超過において有意な関連を認めた。 (表2)  正常分娩で分娩誘発を実施していたのは475名のう ち77名(16.2%),器械分娩32名のうち13名(40.6%), 緊急帝王切開では23名のうち12名(52.2%)であった。 分娩誘発実施の有無と分娩様式では有意差がみられ た(p<.0001)。分娩誘発ありの場合,誘発がなかった 場合と比べて,器械分娩になるリスク比は3.17倍(RR 3.17, 95%CI [1.62, 6.18]),緊急帝王切開になるリスク 比は5倍(RR 5.01, 95%CI [2.28, 10.9])であった。 3.分娩前7日間の陣痛発来への取り組みの実態 1 ) 何らかの陣痛発来への取り組みを実施した割合  (図1)  分娩前7日間に何らかの陣痛発来への取り組みを実 施したのは,491名(92.6%)で,全く実施しなかった のは39名(7.4%)であった。   実 施 し た 取 り 組 み 方 法 は, ウ ォ ー キ ン グ354名 (66.8%),乳頭刺激296名(55.8%),スクワット234名 (44.2%), 階 段 昇 降223名(42.1%), 鍼 灸 指 圧108名 (20.4%),下剤69名(13.0%),性交52名(9.8%)であった。 表2 分娩誘発の背景と転帰 (N=530) N 分娩誘発 χ2値 p あり(n=102) なし(n=428) 年齢 35歳未満 35歳以上 349181 7824 (22.3)(13.3) 271157 (77.7)(86.7) 6.337 .012 産科歴 初産婦 経産婦 243287 6834 (28.0)(11.8) 175253 (72.0)(88.2) 22.047 .000 切迫早産の治療経験 あり なし 99431 1983 (19.2)(19.3) 34880 (80.8)(80.7) 0.000 .988 合併症 あり なし 19511 966 (31.6)(18.8) 41513 (68.4)(81.2) 1.929 .229 分娩週数 37週0日∼37週6日 38週0日∼38週6日 39週0日∼39週6日 40週0日∼40週6日 41週0日∼41週6日 31 98 183 171 47 6 20 25 38 13 (19.4) (20.4) (13.7) (22.2) (27.7) 25 78 158 133 34 (80.6) (79.6) (86.3) (77.8) (72.3) 6.873 .143 予定日超過 予定日前 予定日超過 312218 5151 (16.3)(23.4) 261167 (83.7)(76.6) 4.102 .043 卵膜剥離 あり なし 不明 91 432 7 11 88 (12.1)(20.4) 34480 (87.9)(79.6) 3.360 .067 前期破水 あり なし 148382 3765 (24.5)(17.2) 111317 (75.5)(82.8) 4.376 .360 分娩様式 正常分娩 器械分娩 緊急帝王切開 475 32 23 77 13 12 (16.2) (40.6) (52.2) 398 19 11 (83.8) (59.4) (47.8) 28.273 .000 NICUへの入室 あり なし 10520 1011 (10.0)(19.4) 4199 (90.0)(80.6) 0.561 .696 354 296 234 223 108 69 52 192 93 170 114 58 4 19 400 300 200 100 0 ■実施者数 □陣痛発来を意図した人数 (N=530) (人) 性交 下剤 鍼灸指圧 階段昇降 ス ク ワ ッ ト 乳頭刺激 ウ ォ ー キ ン グ 図1 取り組み実施者と陣痛発来を意図した実施者 (重複回答)

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 実施者のうち陣痛発来を意図して取り組んだ割合 は,スクワットは234名中170名(72.6%)と最も多か った。鍼灸指圧では108名中58名(53.7%),ウォーキ ングは354名中192名(54.2%),階段昇降は223名中 114名(51.1%),性交は52名中19名(36.5%),乳頭刺 激は296名中93名(31.4%),下剤は69名中4名(5.8%) を占めていた。スクワット,鍼灸指圧,ウォーキング, 階段昇降の実施者では,陣痛発来を目的として取り組 んだと回答した割合は5割以上と多く,性交,乳頭刺 激では陣痛発来を目的として取り組んだと回答した割 合は3割と低かった。  取り組みを全く実施しなかった39名は,出産回数 は平均2回(SD=0.8)で,経産婦が34名(87.1%)と多 かった。分娩誘発を実施した者は7名で,初産婦は4名, 経産婦は3名であった。39名全員が40週6日までに分 娩しており,41週以降の分娩となった者はいなかった。 2 ) 陣痛発来への取り組み実施内容  以下,陣痛発来の意図に関わらず,実施した内容に ついて記載した。 (1)1日に実施した平均回数と1回に実施した平均時間 (表3)  実施者の1日の平均回数では,「1日に1回実施した」 という回答が最も多かった。スクワットでは184名で 実施者の78.6%,ウォーキングでは277名で実施者の 78.2%,乳頭刺激では227名で実施者の76.7%,階段 昇降では71名で実施者の31.8%を占めていた。  実施者の1回の平均時間は,ウォーキングは平均62 分(SD=38.4)であり,最小値は5分,最大値は210分 であった。30分毎でカテゴリ化すると,「31分∼60分」 に属するものが174名(49.2%)と最も多かった。階段 昇降は平均9.9分(SD=12.1)であり,最小値は5秒,最 大値は90分であった。スクワットは平均7.3分(SD=6.0) であり,最小値は1分,最大値は45分であった。乳頭 刺激は平均5.5分(SD=4.7)であり,最小値は1分,最 大値は30分であった。階段昇降,スクワット,乳頭 刺激では実施者の約5割以上が「1回に実施した時間」 では「5分以下」に属していた。 (2)1日の合計実施時間と主観的運動強度(表3)  1日の平均実施回数と,1回の平均実施時間から,1 日に実施した合計時間を算出した。 表3 陣痛発来への取り組み実施内容 ウォーキング (n=354) (n=223)階段昇降 (n=234)スクワット (n=296)乳頭刺激 n (%) n (%) n (%) n (%) 1日に実施した平均回数 1回 2回 3回 4回以上 不明 277 65 8 1 3 (78.2) (18.4) (2.3) (0.3) (0.8) 71 53 20 63 16 (31.8) (23.8) (9.0) (28.3) (7.2) 184 19 12 9 10 (78.6) (8.1) (5.1) (3.8) (4.3) 227 42 17 2 8 (76.7) (14.2) (5.7) (0.7) (2.7) 1回に実施した平均時間 0分∼30分a 31分∼60分b 61分∼90分c 91分∼120分 121分以上 不明 99 174 27 30 20 4 (28.0) (49.2) (7.6) (8.5) (5.6) (1.1) 119 41 48 ̶ ̶ 15 (53.4) (18.4) (21.5) (̶) (̶) (6.7) 135 50 34 ̶ ̶ 15 (57.7) (21.4) (14.5) (̶) (̶) (6.4) 218 59 14 ̶ ̶ 5 (73.6) (19.9) (4.7) (̶) (̶) (1.7) 1日に実施した合計時間 0分∼30分a 31分∼60分b 61分∼90分c 91分∼120分 121分以上 不明 78 161 29 44 37 5 (22.0) (45.5) (8.2) (12.4) (10.5) (1.4) 62 58 81 ̶ ̶ 22 (27.8) (26.0) (36.3) (̶) (̶) (9.9) 115 49 50 ̶ ̶ 20 (49.1) (20.9) (21.4) (̶) (̶) (8.5) 181 72 33 ̶ ̶ 10 (61.1) (24.3) (11.1) (̶) (̶) (3.4) 運動強度 非常に楽である かなり楽である 楽である ややきつい きつい かなりきつい 非常にきつい 不明 9 20 165 151 5 2 1 1 (2.5) (5.6) (46.6) (42.7) (1.4) (0.6) (0.3) (0.3) 16 17 61 93 17 9 2 8 (7.2) (7.6) (27.4) (41.7) (7.6) (4.0) (0.9) (3.6) 10 8 46 137 21 8 3 1 (4.3) (3.4) (19.7) (58.5) (9.0) (3.4) (1.3) (0.4) ※階段昇降,スクワット,乳頭刺激では,a:5分以下,b:6分∼10分以上,c:11分以上

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 ウォーキングでは平均値76.5分(SD=55.8),最小値 10分,最大値360分であった。30分毎でカテゴリ化す ると,「31分∼60分」に属するものが161名(45.5%)と 最も多かった 。  階段昇降では平均14分(SD=15.5)であり,最小値は 1分,最大値は100分であった。5分毎でカテゴリ化す ると,「11分以上」が81名(36.3%)と最も多かった。  スクワットでは平均9.4分(SD=9.3)であり,最小 値は1分,最大値は60分であった。乳頭刺激では平 均7.5分(SD=8.7)であり,最小値は1分,最大値は60 分であった。「5分以下」に属するのは,乳頭刺激では 61.1%,スクワットでは49.1%であった。  ウォーキング,階段昇降,スクワットの実施者にお いて,平均運動強度を尋ねると,中等度の強度が約7 割以上を占めていた。 (3)7日間の実施日数  取り組み実施者において,分娩前の7日間に実施し た日数は,性交以外の全ての取り組みにおいて,「7日 間毎日実施」が最も多く,25∼45%を占めた。次に多 かったのは「1日間のみ実施」という回答で,19∼30% を占めていた。 4.取り組みと転帰 1 ) 運動と転帰  運動(ウォーキング,階段昇降,スクワット)につ いて,7日間の合計実施時間を算出した。度数分布を 確認後,先行研究から一定の実施時間と主観的運動強 度で中等度を抽出した。RPEスケールで,運動に適 した中等度(「楽である」「ややきつい」)の運動強度と, 運動に適さない中等度以外の運動強度(「非常にきつ い」から「非常に楽である」までの弱すぎるまたは強す ぎる強度)で比較した。また,ローリスク妊婦(以降, ローリスク群)のみを対象者として抽出した。  ウォーキングでは,全体の7日間合計実施時間の平 均は221分(SD=310)であり,最小値0分,最大値2520 分であった。また,ウォーキング実施者のみでは,7 日間合計実施時間の平均は333分(SD=328)であり, 中央値240分,最小値15分,最大値2520分であった。  初産婦ローリスク群229名において,ウォーキング を「中等度の運動強度で1日最低50分以上7日間合計 300分以上(以下,A)」実施した71名のうち分娩誘発 があったのは13名(18.3%)で,「中等度以外の運動強 度かつ7日間合計300分未満(以下,B)」の158名のう ち分娩誘発があったのは50名(31.6%)であり,Aにお いて分娩誘発が有意に少なかった(p=.037)。つまり, 初産婦ローリスク群において,有意に分娩誘発が少な かったウォーキングの方法は,「中等度の運動強度で 1日最低50分以上7日間合計で最低300分以上」ウォー キングを実施することであった。  ウォーキング実施の程度によって,2500g未満の低 出生体重児の割合について有意差は認められなかった。  初経産を合わせたローリスク群502名において,「中 等度の運動強度で1日最低60分以上7日間合計420分 以上ウォーキングを実施した(以下,C)」90名のう ち新生児がNICUへ入室したのは4名(4.4%)であり, 「中等度以外の運動強度かつ7日間合計420分未満(以 下,D)」412名のうちNICUへ入室したのは3名(0.7%) と,CにおいてNICUへの入室が有意に増加していた (p=.022)。  階段昇降とスクワットについて,上記と同様の流れ で分析を行ったが,有意な関連は認めなかった。 2 ) 乳頭刺激と転帰  乳頭刺激について,7日間の合計実施時間を算出し た。全体の7日間合計実施時間の平均は19分(SD=39) であり,最小値0分,最大値420分であった。また, 乳頭刺激実施者のみでは,7日間合計実施時間の平均 は35分(SD=47)であり,中央値21分,最小値1分,最 大値420分であった。乳頭刺激の方法は,295名(100%) が手で実施しており,器械を使用した者はいなかった。  上記より,先行研究で有効とされる乳頭刺激の最小 実施時間から分析対象者を抽出した。しかし,3日間 合計180分以上乳頭刺激を実施したのは2名(0.3%)の みであり,少数のため転帰の検討はできなかった。有 効とされる方法で乳頭刺激を実施した2名は,分娩誘 発後,経腟分娩となっていた。 3 )その他の取り組みと転帰  鍼灸指圧を実施した108名の内訳は,鍼のみ1名 (0.9%),鍼とお灸の併用28名(25.9%),ツボ押しや お灸のみなど78名(72.3%),無回答1名(0.9%)であ った。鍼灸指圧の種類により,背景や転帰に有意差は 認められなかった。  性交実施者52名におけるコンドームの使用の有無 では,「使用した」は17名(32.7%),「使用しなかった」 は33名(63.5%),無回答は2名(3.8%)であった。また, 陣痛発来を目的とした19名のうち,コンドームを使

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用したのは7名(35.0%)であり,目的の有無別で比較 しても使用率は同程度であった。性交実施別またはコ ンドーム使用の有無により,背景や転帰に有意差は認 められなかった。  陣痛発来のために使用される下剤は,ひまし油とい う唐胡麻の種から抽出される強力な下剤である。下剤 を使用した69名のうち陣痛発来を目的としたのは4名 で,ひまし油を使用したのはそのうち2名のみであり, 少数のため転帰の検討はできなかった。ひまし油を使 用した2名は,自然陣痛発来後,経腟分娩となっていた。 4 ) 分娩誘発に影響する因子  初産婦ローリスク群において,分娩誘発に影響する 因子について,単変量解析にて抽出された因子と陣痛 発来の取り組みについて分析を行った。  分娩誘発を目的変数とし,「歩行」「分娩週数」「年齢」 について,強制投入法による二項ロジスティック回帰 分析を実施した。  初産婦ローリスク群において「分娩誘発あり」に対 して有意な関連が見られたのは,「ウォーキングを中 等度の運動強度で1日最低50分以上7日間合計300分 以上実施」(オッズ比[OR]0.425; 95%信頼区間[CI]: 0.208-0.866; p=.018)。であった。つまり,初産婦ロー リスク群においてウォーキングを中等度の運動強度で 1日最低50分以上7日間合計300分以上実施した者は, 分娩誘発を有意に減らしており,オッズ比は0.425で あった。(表4)  モデルの評価では,モデル係数のオムニバス検定に おいてχ2検定の結果はp<0.05で有意であり,適合度は 良好であった。判別的中率は72.5%で,モデルの予測 精度の値は高かった。実測値に対して予測値が 3SD を超えるような外れ値は存在しなかった。  経産婦ローリスク群において上記と同様の分析を行 ったが,分娩誘発に対して有意な関連は認められなか った。 5 ) サブグループ解析  予定日以降に分娩した女性で,陣痛発来が無かった ために分娩誘発を行ったと考えられる女性を対象とし て,サブグループ解析を実施した。 予定日以降に,分娩誘発実施を実施した人51名から, 「合併症あり」「前期破水あり」「低出生体重児」を除外 すると,自然な陣痛発来が無かったために分娩誘発を 実施したと考えられるのは32名であった。また,予 定日以降に自然に陣痛が来たと考えられるのは133名 であった。これら合計165名を対象として,陣痛発来 の取り組みと転帰について単変量解析を実施した。  単変量解析の結果,スクワットを「7日間で30分以 上実施(以下,E)」の49名のうち陣痛が来なかったの は3名(6.1%),「7日間で30分未満(以下,F)」の115名 では29名(25.2%)と,Eにおいて陣痛発来のない人が 少なかった(p=.005)。  分娩誘発を目的変数とし,「歩行」「スクワット」「産 科歴」「年齢」について,強制投入法による二項ロジス ティック回帰分析を実施した。「自然な陣痛発来なし」 に対して有意な関連が見られたのは,「スクワットを7 日間合計30分以上実施」(OR 0.195; 95%CI: 0.051-0.746; p=.017)であった。また,初産婦に比べて経産婦では 陣痛発来のない人が少なかった(OR 0.119, 95%CI: 0.042-0.333; p<.0001)。つまり,ローリスクで前期破水 がなく予定日以降に分娩した人では,「スクワットを7 日間合計30分以上実施」すると自然な陣痛発来がない 表4 二項ロジスティック回帰分析による分娩誘発に関連する要因(初産婦ローリスク群) (n=229) 変 数 偏回帰係数(Β) 標準誤差(SE) 有意確率(p) オッズ比(Exp) 95%信頼区間 下限 上限 歩行 A 中等度の運動強度で7日間 合計300分実施 B 中等度以外の運動強度かつ 7日間合計300分未満(※) ­0.857 0.364 0.018 0.425 0.208 0.866 分娩週数 37週0日∼37週6日 38週0日∼38週6日 39週0日∼39週6日 40週0日∼40週6日 41週0日∼41週6日 0.297 0.130 ̶ 0.780 0.978 0.748 0.484 ̶ 0.391 0.587 0.691 0.789 ̶ 0.046 0.096 1.346 1.138 1.000 2.181 2.660 0.311 0.441 ̶ 1.013 0.841 5.829 2.942 ̶ 4.697 8.409 年齢 0.053 0.036 0.136 1.055 0.983 1.131 定数 ­2.550 1.264 0.044 0.078 モデルの適合度:χ2検定p<0.05,判別的中率 72.5% ※「ややきつい」「楽である」以外の運動強度かつ7日間合計300分未満の実施および実施なし

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人を有意に減らし,オッズ比は0.195であった。

Ⅳ.考   察

1.分娩前7日間に妊婦が行った陣痛発来への取り組 みの実態  何らかの陣痛発来への取り組みを実施したのは9割 を超え,その方法はウォーキング,乳頭刺激,スクワ ット,階段昇降の順に多かった。清水かおり, 片岡弥 恵子, 江藤宏美ら(2013, pp.267-278)は,分娩第一期に おける陣痛促進のための歩行について,施設形態に 関わらず「ほぼ全例」「ケースにより実施」で合わせて9 割以上であったと報告している。これらより,医療者 において陣痛発来には運動が有効であるという認識が 高いことが伺える。妊婦においての報告でChaudhry, Fischer, Schaffir(2011, pp. 168-171)は,複数回答で, 分娩7日前から陣痛を起こすために85%の女性が歩行 を行っていたとしている。本研究からも,妊婦は陣痛 発来を促すために歩行を始めとする運動を実行してい る実態が分かった。  本研究における,研究協力施設全体の分娩誘発率 は19.2%であった。アメリカでの22%(ACOG, 2009, pp.386-397)や,イギリスにおける20%(NICE, 2008) という報告と比較すると,本研究の分娩誘発の割合 は同程度である。日本産科婦人科学会周産期委員会 (2013, pp.1377-1387)による192施設(うち85%は周産 期センター)の報告では,分娩誘発と促進分娩の合計 は25.3%であり,本研究はその範囲内であった。 2.運動と分娩誘発の関連  本研究の対象者530名のうち,ローリスク群を対象 として転帰の検討を行った。初産婦ローリスク群に おいて【ウォーキングを中等度の運動強度で1日最低 50分以上,分娩前7日間合計300分以上実施した者】は, 分娩誘発を有意に減らしていた。この運動量のうち, 「1日最低50分以上」とは,1回の運動時間と1日の運動 回数から算出されており,連続運動時間を示す値では ない。しかし,ウォーキング実施者の79%は1日の実 施回数は1回と回答しているため,大部分は連続運動 として1日50分以上のウォーキングを実施していた。  また,サブグループ解析では,ローリスクで前期破 水がなく予定日以降に分娩した人では,「スクワット を7日間合計30分以上実施」すると自然な陣痛発来が ない人を有意に減らしていた。  運動が陣痛発来に与える影響として考えられること は,物理的機械的原因があげられる。これは陣痛発来 機序の仮説の一つであり,胎児下降部による子宮頸神 経叢の圧迫などで胎児によって直接子宮壁が刺激され ることである(荒木,2008, p.230)。しかし,運動がど のような機序で陣痛に影響するのかは明らかにされて いない。  また,妊婦が安全に行える最大の運動量がどの程度 かは明らかとなっていない。強い運動強度による影響 について13症例を調べた研究では,被験者の一部で 一過性の胎児心拍数減少が認められたと報告している (Watson, Katz, Hackney, et al., 1991, pp.382-386)。他に,

動物実験にて母体にトレッドミル運動を負荷すると, 筋肉への血流が増加するに従い子宮血流量が減少する ことが認められており,運動強度が強く,運動時間が 長くなるほどその傾向は顕著であったという報告があ る(Lotgering, Gilbert, Longo, 1983, pp.834-841)。その ため,人間においても,運動による骨格筋への血流の 再分配や,子宮収縮のために子宮血流量の減少が起こ るのであれば,胎盤循環障害により胎児機能不全が引 き起こされる可能性も考えられる。しかし,現在は人 間を対象とした明確な根拠となる研究は無く,その影 響は定かではない。ただし,一般的な成人においても 週3500∼4000kcal(週450∼600分の活動相当)を超え る運動量は使いすぎによる傷害が起こる可能性を考慮 する必要があるとされる(ACSM, 2010/2011, pp.168-192)。また,妊娠末期では関節を保護する軟骨や靭帯 がゆるみ,損傷しやすい状態である(Diane, Jay, 2005, pp.65-74)。本研究では,初経産婦を合わせたローリス ク群において,【中等度の運動強度で1日最低60分以上 7日間合計420分以上ウォーキングを実施】すると,児 がNICUへ入院した者が有意に多い結果となった。し かし,NICUへ入室した理由や時期は定かではないた め,実施する際の運動量の上限については今後さらな る研究が期待される。 3.陣痛発来への取り組みにおけるエビデンスギャップ 1 ) 乳頭刺激  乳頭刺激はシステマティックレビューにより非薬理 学的な分娩誘発方法として有効であるとされ,分娩後 出血を減らす(Kavanagh, Kelly, Thomas, 2005)という 利点もある取り組み方法である。ローリスク妊婦に対 しては安全とされているが,インドにおけるハイリス

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ク群への介入で3例の胎児死亡が認められている(Da-mania, Natu, Mhatre, et al., 1992, pp.58-59)。胎児死亡 が発生した時期や介入との因果関係は不明であるもの の,ハイリスク妊婦に対しては慎重な対応が求めら れる。本結果では,乳頭刺激実施者296名のうち93名 (31%)が陣痛発来を目的として取り組んでいた。こ れは,オハイオ州にて同様の調査を行ったChaudhry, Fischer, Schaffir(2011, pp.168-171)の15%という実施 率よりも高く,本邦の妊婦において乳頭刺激と陣痛発 来の関連は広く認識されていると推測された。しかし, システマティックレビューにて有効とされる1日合計 60分を3日間あるいは3日で180分以上の乳頭刺激を 実施したのは2名のみと非常に少なく,実施方法に関 するエビデンスギャップが確認された。乳頭刺激は妊 婦が主体的に実施でき,かつ陣痛発来への取り組みと して効果の期待できる方法だが,本研究の結果から有 効な方法で実施されていないことが分かった。 2 ) 鍼灸指圧・性交・下剤  本研究では,陣痛発来を目的として取り組んだ方法 として,鍼灸指圧19%,性交6%,下剤1%であった。 ひまし油,性交,鍼灸指圧は,システマティックレビ ューにおいて陣痛発来に対して十分な根拠がないとさ れる取り組みである。本結果から,妊婦においても取 り組みの実施率は低く,そのため大きなエビデンスギ ャップは生じていないと考えられた。

Ⅴ.研究の限界と今後の課題

 本研究は,分娩前7日間に関する実態調査からなる 観察研究であり,非妊時や妊娠中の運動習慣について は調査していない。そのため,ウォーキングやスクワ ットによる陣痛発来への効果について,今後は介入研 究によるエビデンスの構築が期待される。運動による 自然な陣痛発来を促す介入研究を行う場合,対象者の 背景等の統制を行うこと,運動中に主観的運動強度を 測定することで介入の標準化を行う必要がある。評価 指標としては,頸管熟化度や分娩および新生児アウト カムは,診療録からの正確なデータ収集を行うことが 求められる。  また,妊婦が安全に行える最大の運動量は明らかと なっていないため,この研究結果を適用する場合は注 意する。

Ⅵ.結   論

 530名の女性を対象に,分娩前7日間の陣痛発来へ の取り組みの実態と分娩誘発との関連を探索し,以下 の結果を得た。 1 .何らかの陣痛発来への取り組みを実施したのは 530名中491名(92.6%)で,その割合は重複回答に て,ウォーキング66%,乳頭刺激55%,スクワッ ト44%,階段昇降42%,鍼灸指圧20%,下剤13%, 性交9%であった。 2 .初産婦ローリスク群において,【ウォーキングを 中等度の運動強度で1日最低50分以上7日間合計300 分以上実施した】グループでは,分娩誘発を有意に 減らしており,オッズ比は0.425(95%CI: 0.208-0.866) であった。 3 .陣痛を起こすことを目的に乳房刺激を行ったのは 530名中93名であったが,先行研究で有効とされる 3日間合計3時間以上の乳房刺激を実施していたの は2名のみであった。 謝 辞  研究にご協力頂きました対象者の皆様ならびに調査 協力施設の皆様,研究をご指導くださった聖路加国際 大学大学院堀内成子教授に心より感謝申し上げます。  本研究は聖路加看護大学大学院修士論文に加筆・修 正したものであり,本研究は平成25年度聖路加看護 大学青木奨学金の援助を受けて実施しました。 文 献

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参照

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