Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service Japanese Sooiety for the Soienoe of Design
老 人福
祉
施 設
に
お け る
装飾
デ ザ
イ
ン
計
画
奈 井 江 町 老 人 総 合 福祉施設を事 例とし て
ADecorative Desi n
Work
in
aWelfare
Facilit
for
theOld
石崎
友 紀
札 幌 市 立 高 $ 専 門学 校
lshizaki
Tbmoki
Sapporo School ot theArts
1 .
は じ めにかつ て 石炭鉱業が
大
い に栄 えた 北海道空 知郡の中央 部、
石狩平 野の 北 側 に奈井 江 町 は あ る。1973
年の 全山 閉山後
は、 農 業を 基幹 と して、 企業 誘 致、 工業 団 地 造 成 等、
地場産業
振興が進め ら れてい る が、人冂 の 減 少と高 齢 化は続い てい る。(
注1
)開 町
50
年にあ た る1994
年「
健 康と福 祉の 町 」 宣 朞を行い 、 厚生省の紹 介に よ り北 海 道と気 候 風 土 が似た国である フィ ン ラン ドの福 祉モ デル指 定 都 市の一
つ、
ハ ウス ヤル ビ 町 と友好都
市 調印
を結
んだ。 以 来、
福 祉を通 して 国際 交 流が続け られ、
ここ で得
た 様々なノウハ ウを生 か し、
1996
年
、老
人総 合 福 祉 施設「
やすらぎ
の家 」が完 成 した。 (注2
) 私は かねて よ り、
福 祉と造 形 美 術との 関わ り に 関 亡・
を持っ てい た が、
こ のたび、
この施
設内
部 空 間の装 飾 ディ レ クシ ョンを担 当さ せてい た だい た、「北 からの 発 信 」の一
例と して、 こ こ に紹 介さ せてい た だ く次 第である。2
.
コ ンセプ ト 人は生 きてい く限 り、
年 月と共に老い てい く事は、
自然で平等な事である が、
老い と 共に生 じて くる様
々 な困 難、
不自
由 を補い 合 う もの の つ と して、今
日様
々 な 道 具の 開発、実
用 化が ⊥業
デ ザ イン の分
野 を 中 心 に 行 わ れてい る。
こ こ で は 工 芸 デ ザ イン の 立場か ら感 性に より多 くの 比 重 を置き、
例え れ ば心 地よい 音 楽 を繰 り返 し聞 くような 効果 を持っ たモ ノ づ く り を 通 して、
デ ザ イン と福 祉 との関わ りを探っ てみ た。一
年の 半分が白一
色で ある北 海 道で生活を24 sPEclAL IsSuEoF JssD vol
,
5 No,
t 1997 デ ザ イン学 研 究 特 集 号Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service Japanese Sooiety for the Soienoe of Design
共にするモ ノ である事を前提にレ ク チャ
ー
を重ね、
そ れ ぞれ異なる専門分 野の作 家達の 自 由 なイマ ジネー
シ ョ ン を持 ち 寄 り、
以下の事 項を ト分理解 した上で実 制作が行わ れた。1
)
キー
ワー
ドは 「絵 心 」「
共生」
。2
)色 や 形が認識し やすく、安
全で誰か ら も 理解さ れ や すい 平
易
な美的表 現。3
)フ ィ ン ラ ン ドの建築
空問 と北 海道の生 活 空 間 とを融 合さ せ たデザ イン。4 )
デ ザ インモチー
フに町の木「
ナ ナカマ ド」
町の花
「
ツ ツジ」
を用い、
室 内 壁 面に設 置 する。 次に個々 の作 例につ い て概要を述べ る。3 .
作 品3.
1
ス テン ドグラス北 海 道は開拓地として の性 格上
、
潜在
的に文
化 的要 素に対 する要求 が高い。
又冬 季の 都 市景 観 対 策と し て も有 効である と考 えら れ、
地方
自治 体による文 化 行政 と し てのパ ブリック アー
トが1970
年
代 初 期 か ら都 市 部で は展開 し てい た。 (注3
)石 狩 平野 に建て ら れ たこ の施 設の最上部に設置さ れ た直径3m
のス テン ド グ ラスはパブ リック アー
トと しての機能
も合わせ持っ てい る。昼 は建
物
内部、
夜は外へ と放た れ る光
が、
こ の地で 生 活 を共にする人々 の生命
の輝 きの 象徴 となっ てい く ことを願い、原 画を デ ザ イ ナー
出 身で、
絵 本の挿 絵で も活 躍 し てい る画 家に依 頼 した。
町 側か らは、
前 述の ように町の 木 「ナ ナカマ ド」
、
町の花 「ツツ ジ」をデ ザ イン モ チー
フとして期 待さ れた が、そ れ らは他に移 し、
こ こ で は「
ば ら」
を選 んだ。 なぜなら、
ばら は古
代ギ リシヤの神 話以来「
花々 の 女モ」と称さ れ、 「美 と愛」
「歓喜」
「春の再 来と 生命の復活」
「秘 密 」等の象
徴であっ た。(
注 4 )女性
の入 居 者が大 部 分 を占
め る と予想 され るこ の施 設に、
よ りふ さ わ しい デザ イン モ チー
フ と考
えたか らであ る。
さらに北 海 道 同様 春と 夏が短 く、
崖内に閉 ざ される冬が長い 北陟の暮
ら しの 中で、
美しい装 飾は 不 可欠 な もの であっ た が、
「ばら」 は その 巾 でもフ ィ ンランドの一
般 家 庭の 日用 品の中で 繰 り返し用い られ てきた装 飾モ チー
フの一
つ で もあっ た か らである。 つ ぼ み か ら段 階的に開花
する7 種
の ば ら を 配置し、
それ ぞ れ の美し さ を音楽
を聞 くよう に繰り 返 し楽
し み、
昼 夜 永 く親し ん でい ただける よ うに願っ て デ ザ イン さ れてい る。3
.
2
壁 面レリー
フエ ン トラン スホ
ー
ルか ら続
く談
話コー
ナー
壁面に は、
私のデザ イン によ る 金工 レ リー
フ を設置 し た。
室 内 空 間は カ ラー
コー
ディネー
ター
によ り、
北 欧 調の 色が選 定さ れてい た が、
こ こ では さ ら にフ ィ ンラン ド製
の テー
ブル と椅 子が使用 さ れる為、 そ れ らの質
感に合わ せ た白木
無 地の壁 面が 選定
さ れた。 壁 面上 には 生命の根 源である太 陽を イメー
ジ し、
ア ル ミニ ウム の生型 鋳造
に よっ て成 形さ れ た同心 円の表 面に、
金 箔を張
っ て仕上 げ た レ リー
フ を配 置した。一
.
般 的 には、
金 属には冷た く、 圃 く、
重 苦 しい イメー
ジ が あ る。
ゆえに北 海 道の場 合、安
らぎの空 間には自然
の木を用 い るこ とが多い。 フォ ル ムは有 機 的で色は グ リー
ン系が使用 さ れる傾 向が強い 。 しか し こ こ で は敢
えてそ うせずに、 金属
で も居
心 地 良い空間 デザ イン表 現の 可能性 を探っ てい る。 表 面 処 理に金 を 用 い たの は、
乱 反 射 効 果が高い 色である と同 時に、 生命
の 輝 きを強 調 する為
でもある。 古 代 中 国の金文
で は 「金 」とい う文 字は 地 下 に埋 もれ てい た自然 金や 自然 銀がき ら き ら光る様を示したの が原 形であ る と V、う D(
注5 )
周 囲には最 新 素 材の カラ
ー
チタニ ウム を用い た。 陽極酸
化 法に よっ て、
表 面にカラ フ ル な グ ラ デー
シ ョ ンが な さ れ たパ イ プを、
ス パイ ラル状に壁 からデザ イン学研 究 特 集 号 SPECIAL ISSUEOF JSSD vot
,
5 No,
1 1997 25Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service Japanese Sooiety for the Soienoe of Design
浮 き上が っ て行 くよ
う
に立体
的に並べ た。閉じ込め ら れ た空 間に収
まっ た作
品では なく、室 内壁 面の枠 を越 え、
こ こで 暮らす 人々 の 心に開放 感を も た らすこ と を 期 待してデザイン し た。3
,
3
テ キスタ イル フ ィン ラン ド調の建 物と はい え和 室は必 要であっ た。 食 堂、廊 下、 休 憩コー
ナー
等の壁 面に は、
生 活 す る人々 の 目の高さ に合わ せ て麻布
地 に 町の木「
ナ ナ カ マ ド」町の 花 「ツ ツジ」の季 節毎
の 姿を手 描 染めで 表現
した作
品 を風呂敷
デザイナー
に依
頼し た。施 設の性 質上、
室 内 壁 面は白 無 地に近い色で統一
されてい る が、
屋外が白・一
色 と なる厳しい北 海 道の冬を想 定し、
麻 布 地の親
しみ やすい質
感が冷たい感じを和
らげ
、い つ も花に囲まれ てい る よう
な 穏 や か な精神
空 間と な る こと を目指 してい る。 各 作占凸は取
り外 しが容易
であ り、
季 節に よっ て組み合わ せを変えて使用 できる。例 えば、 北海 道に生活 する者に とっ て格 別の想い の こ もっ た冬のナ ナカマ ドの赤い実と、美しい6
月のエ ゾ ッ ッジを組み合わせて 同時に鑑賞
すること が できるの であ る。3.
4
サ イン計画各 棟の廊
.
ドに は、
生 活 する人々 が識 別 しやすく、親
し みを もっ て 記憶 しや すい ように 「や ま な み 通 り」 「きら ら 通 り」「
菜
の花通 り」「
森
の木 通 り」の各
愛 称 がつ けら れてお り、そ れぞれにふ さ わ しい サ イン デザ イン が求め られ た為、
2
名の グ ラ フ ィ ッ ク デザイナー
が競 作で デザ イン を行っ た 誤 ソ コ ンで仕 上 げた原 画 をオー
ク材の木タ イル に手彫 りでレリー
フ状に表 現し た。 ピ ク トグ ラムの効
果 だ け で な く造形性 を強 調し、
空 間の均 質化をやわ らげ、木工芸 品 的 な あた たか さや 親しみやすさ を出してい る。前 述のテ キスタ イル によ る花
の作品 と同一
の 壁 面で使
用す
る為、
サ イン の 大 き さ と高
さ を統一
して違 和 感の無い よう
留意
して配 置し た。4
,
お わ り に 北海 道は東 京 等と比 較し た場合、年 間を通 した 日照 時 間が短 く平均気
温が低い。 冬は大 変 長 く雪 が多
い。19
世 紀の 開 拓 時 代に移 住し た人々 にとっ て、
厳
しい 自然 と戦 うこ と が 生きる とい うことであっ た。
(
注1
)
けれ ど もこ こ で生まれ育っ た人々 が 高 齢化 社 会 を迎 えた20
世 紀 末、
先 住 民 達が そうであっ た よう
に、
こ の 気 候風 土 を文 字 通り肖然で平等なこ と であ る と受 け 入れ、
制作 し て行 くことの中か らこ そ、
美しい ま ま残さ れ た自然と共生する北 海 道 独 自の新たな造 形 表 現が生 まれ る の で は ないか と、
今回の 仕事
を終 え て改めて実
感し てい る。現在
は、
価値観
の多様
化に 反し、 知覚
中心の情 報 化 社 会の中で デザイン表 現が 類型化しつ つ ある ように感じ ら れてな ら ない 。 そう し た中で、
工芸デザイン の持
つ素
材 感や手触
りの ノ ウハ ウ、・
.
.
一
品 制作 的 要素
を取
り入 れなが ら、
より五 感に訴 えか けるデザイン表 現 を提 案の一
つ と して、
21
世 紀の生活 空 間を どう
展 開して行 くべ きか を 、 今 後 も制作 を続 けな が ら考 えて い き たい。・
建 築 名・
設 計 管 理・
制 作・
ス テ ン ドグ ラス・
壁面レ リー
フ・
テキス タ イル・
サ イン シス テ ム・
カラー
コー
ディネー
ト 奈 井江 町老人総 合 福 祉 施 設 やすらぎの家 石本 設 計 事 務 所 ネルサ 工房 堀 川 理 万 子 石崎 友 紀浅
山美
里 斎 藤 利 明 古田 和 夫 宮 内 博 美 参 考、
引用 文 献1 )
奈 井江 町 :町勢 要覧 資 料篇、
1994
2
) 奈 井江 町 :「健 康と福 祉の 町」
を 目指 し て〜
フ ィ ンラン ド、
ハ ウスヤル ビ町との 交 流 を 中心に、 1994
3
)竹
田直
樹 :「凵本
の パ ブ リッ クアー
ト」
P188、 1995
4
)シー
モア・
ク ワス ト エ ミ リー ・
ブ レ ア・
チュー
ニ ング「
花の絵 集 」P54
〜 55
、1975
5
) 朝日新 聞社 編、 シ リー
ズ 「金属の文 化・
1
」 金と銀
との博 物 誌、 1985
26 sPEcIAL IssuE oF JssD vol
.
5 No.
1 1997 デ ザ イ ン学研究特集 号Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service Japanese Sooiety for the Soienoe of Design
▲
1
▲4
[
コ
:エ ン トランス
『天
球
の音 楽 』屋 内の 窓に映し出さ れ たス テン ドグ ラス。 (直 径3000mm
)匿]
1
ロ ビ
ー
壁 面レリー
フ『 COESISTENZA
’96
』 (
共
生)
金 箔
、
アル ミニ ウム、
陽 極酸
化 法に よ る カ ラー
チ タニ ウム、 ス テン レス 。(
3600
×6000mm
) ▲2
▲3
▲5
固
ピ ク トグ ラム(
全8
点 ) オー
ク材 をレリー
フ加工。 (700
×700mm
)区]
テ キス タ イル『こ こ に咲い てい ま す 』 (全
6
点)
季 節毎
の 「ナ ナカマ ド
」「
ツ ツジ」 (
700
×700mm
)
匿]
:廊下
・談
話コー
ナー
壁 面 テ キス タイル と ピク トグ ラムを高さを揃 えて14
ケ所に設 置 し た。
デ ザ イン学 研 究 特 集 号 sPEclAL IssuEoF JssD vol