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Jpn. J. Oral Biol., 26: , Structural changes in alveolar bone of cow due to development, eruption and occlusion of teeth Manabu Takahas

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(1)

1984 .

ウ シの歯 槽骨 構造 の成長 変化

高 橋 学

日本 歯 科 大 学 歯 学 部病 理 学 教 室(指 導:須 賀 昭 一 教 授) 〔受 付:昭 和59年9月4日 〕

Structural

changes

in alveolar

bone

of cow due to

development,

eruption

and

occlusion

of teeth

Manabu Takahashi

Department of Pathology, Nippon Dental University, Tokyo

1-9-20, Fujimi, Chiyoda-ku, Tokyo

(Director : Prof. Shoichi Suga)

(Accepted for publication: September 4, 1984)

Key words: alveolar bone/occlusal stress/bone remodeling/microradiography

Abstract: The architectural structure of the alveolar bone is considered to be related to feeding habit, tooth morphology, degree and direction of occlusal stress , which differ among the various species of animals. Present study is a part of the comparative histological investigations performed on the jaw bone of various mammals from this point of view . The specimens examined were the lower jaw of cows, aged 3, 7 and 10 months in utero , and 8 days, 3 months, 1.5, 2, 2.5, 5 and 10 years after birth.

Large longitudinal and mesio-distal ground sections were made after embedding in polyester resin and

were subjected for microradiography.

During root formation of the deciduous molars before eruption , the alveolar bone proper consists of regularly and densely arranged very thin trabeculae and the spongy bone shows a thin arrangement of thick trabeculae (Figs. 2-5). During the early stage of eruption of the permanent molars whose crown is much longer than the root, the interdental septa at the level of the anatomical crown consists of both alveolar bone proper and spongy bone in which thick trabeculae is arranged densely and broadly.

In contrast, alveolar bone at the level of developing root is surrounded by alveolar bone proper

and spongy bone in which trabeculae is distributed less densely than that surrounding the crown

(enamel)(Figs. 6-10).

These facts seem to suggest that both the alveolar bone surrounding the enamel and coronal

cementum formed on the enamel surface play very important roles in supporting the erupting teeth whose crown is much longer than the root . After the occlusal surface approaches the occlusal horizon, the molars still continue to migrate occlusally with a prominent abrasion of the occlusal surface of the crown. While tooth migration progresses , the bone trabeculae tends to increase in density toward the side of the root apex. The interdental septa, finally , disappears completely due to mesial tooth migra-tion progressing for so long a period (Figs . 11, 12).

On the other hand, in the interradicular septa, very thick bone trabeculae is distributed densely throughout the entire level from the crest to root apex (Fig . 12). These findings seem to indicate that, in the old animals, the molars are supported by alveolar bone at the entire level of the interradicular septa.

It is interesting to note that, during the continuous occlusal migration of molars with progressive

occlusal wear, the distance between the lower border of the mandible , occlusal surface and crest of interdental septa is constant throughout the entire stage (Fig . 14).

I 緒 言 歯 槽骨 の構 造 は,咀 嚼 に際 して歯 に加 わ る機 能 圧 に 対 応 し て い る と 考 え ら れ る 。 し た が っ て,そ れ は 歯 の 形 態,発 育,咬 合 状 態,食 性 な ど と密 接 な 関 連 を 持 っ て 変 化 す る と考 え て よ い で あ ろ う。 そ の 点 を 明 ら か に す る た め に は,い くつ か の 方 法 東 京 都 千 代 田 区 富 士 見1-9-20(〒102)

(2)

高橋 学:ウ シ の 歯槽 骨 構 造 の成 長 変 化 1117 が 考 え られ る が,そ の 一 つ と して,実 験 的 な 処 置 に対 す る歯 槽 骨 変 化 の 観 察 が あ げ られ る 。 す で に わ れ わ れ の 教 室 で は,イ ヌ を 用 い て さ ま ざ ま な 実 験 条 件 下 で の 歯 槽 骨 の 構 造 変 化 を,マ イ ク ロ ラ ジ オ グ ラ フ ィ ー と ラ ベ リ ン グ 法 と に よ っ て 系 統 的 に 検 索 を 進 め て き た1-16)。 一 方,そ れ と は 別 に,歯 の 形 態,咬 合 状 態,食 性 な ど で 異 な る 多 くの動 物 種 の 歯 槽 骨 に つ い て の 比 較 組 織 学 的 な 検 索 が重 要 な 意 義 を 持 つ と考 え られ る 。 歯 槽 骨 は,歯 牙 の 形 成,萌 出,そ の 後 の さ ま ざ ま な機 能(咀 嚼)条 件 の 変 化 に 応 じて 絶 え ず 構 造 的 変 化 を進 め て い る か ら,比 較 組 織 学 的 研 究 に あ た って も,そ れ ぞ れ の 動 物 に つ い て 経 年 的 な 構 造 変化 と し て と ら え な く て は な ら な い。 そ の た め に は,発 育 の 段 階 に 沿 っ て 集 め た 歯 槽 骨 の 系 統 的 な 検 索 が 必 要 で あ る 。 本 研 究 は,そ の よ う な 観 点 か ら企 て られ た 各 種 の 家 畜 歯 槽 骨 の 比 較 組 織 学 的 な 観 察 の 一 つ で あ る 。 Ainamo17)は,歯 を そ の 成 長 が 限 局 し て い る 人 間 の 歯 の よ うな 有 根 歯 と ケ ッ 歯 目 動 物 の 歯 の よ う な無 根 歯,そ れ に 草 食 動 物 の よ う な,そ れ ら の 中 間 に位 置 す る 歯 の3つ の グ ル ー プ に 分 け て い る。 こ の よ うな 観 点 か ら 見 る と,従 来 多 く行 な わ れ て きた 歯 槽 骨 構 造 の 研 究 は,お も に 人 間 タ イ プ の 有 根歯 に つ い て で あ っ た 。 本 研 究 で は,有 根 歯 と 無 根 歯 の 中 間 型 の 歯 を持 つ ウ シ の 歯 槽 骨 を そ の 乳 歯 形 成 期 か ら 永 久 歯 萌 出 後 か な り年 月 を経 過 し た も の ま で に つ い て,わ れ わ れ の 教 室 で こ の 方 面 の 研 究 に 従 来 か ら 用 い て き た大 研 磨 片 の マ イ ク ロ ラ ジ オ グ ラ フ イ ー に よ る 観 察 法 に よ っ て 系 統 的 に検 索 を進 め た 。 II研 究 材 料 と観 察 方 法 (1)  研 究 材 料 材 料 は 主 に 屠 殺 場 か ら 得 られ た ホ ル ス タ イ ン種 の ウ シで あ る 。 こ れ ら は ,配 合 飼 料 と牧 草 な ど の 粗 飼 料 に よ っ て 牛 舎 内 で 飼 育 さ れ,食 肉 に 供 す る 目的 で 屠 殺 さ れ た も の で あ る。 採 取 し た 試 料 の 内 訳 は,胎 生6,7,10ヵ 月 ,生 後8日,3ヵ 月, 1年6ヵ 月,2年 ,2年6ヵ 月,5年,10年 の 合 計10個 体 で あ る。 (2)  試 料 の 作 製 法 観 察 は 主 に 下 顎 骨 の 臼 歯 部 に つ い て 行 な っ た。 屠 殺 場 で 入 手 し た 頭 部 よ り摘 出 し た 下 顎 骨 は,ま ず,硬 組 織 ト リ ミ ン グ 用 切 断 機(マ ル トー カ ッ タ ーMC-101D)で 前 方 は ,第1乳 臼 歯,ま た は 第 1小 臼 歯 部 よ り約1cm近 心 側 で ,後 方 は,下 枝 中 央 部 付 近 で 切 断 した 。 そ の 後,胎 生 期 の も の を 除 く他 の 試 料 は非 常 に 大 き く,一 体 と して 研 磨 片 と す る の が 困 難 で あ っ た の で,生 後8日,な ら び に3ヵ 月 の 試 料 は 第3乳 臼 歯 と 第1大 臼 歯 の 間 で 前 ・後 に2分 割 し,ま た,生 後1年6ヵ 月 ,2 年,2年6カ 月,5月,10年 の 試 料 で は,第3小 臼 歯 と 第1大 臼 歯 の 間,第1大 臼 歯 と第2大 臼 歯 の 間,そ れ に 第2大 臼 歯 と第3大 臼 歯 の 間 で 切 断 して4つ に 分 割 し た 。 切 断 後 ,ど の 試 料 も歯 肉 部 を除 く周 囲 軟 組 織 を 除 去 し た 後 ,10%中 性 フ ォ ル マ リ ン で 固 定 し た。 さ ら に そ の 後,樹 脂 な ど の 浸 透 を容 易 に す る た め に,荒 砥 で 側 面 の 緻 密 骨 を 削 り落 し て 海 綿 骨 の 一 部 を 露 出 さ せ た 後 ,増 強 ア ル コ ー ル 系 列 で 脱 水,ス チ レ ン モ ノ マ ー を通 過 させ ,polyester resin (理 研 合 成 樹 脂)に 浸 漬,包 埋,重 合,硬 化 さ せ た。 そ の 後,研 磨 法 に よ り厚 さ 約100μmの 近 ・ 遠 心 的 な 縦 断 大 研 磨 片 と し た 。 以 上 の 過 程 は, 須 賀7,18)の 方 法 に 従 っ た 。 研 磨 片 作 製 に あ た り,非 常 に 大 き い顎 骨 内 に 含 ま れ る 全 歯 牙 の 歯 冠 か ら根 尖 ま で が 研 磨 片 上 に で き る だ け完 全 に 出 る よ うに 面 出 し に特 別 の 注 意 を 払 っ た。 た だ し,分 割 を行 な わ な か っ た 幼 若 な 動 物 の 顎 骨 の 場 合 に は,第3乳 臼 歯 を 中 心 と し て , そ の 前 後 の 歯 牙 の 歯 軸 が 出 る よ う に 研 磨 片 と し た。 ま た,試 料 片 が 大 き い た め ,研 磨 片 作 製 の 途 上 で 厚 さ が 不 均 一 に な る お そ れ が あ る の で,あ か じ め 砥 石 面 の 調 整 に 注 意 し,平 坦 な 砥 石 の 間 に 試 料 を は さ ん で,常 に 均 一 な 力 を加 え な が ら研 磨 を 進 め た 。 (3)  観 察 方 法 ま ず 研 磨 片 の マ イ ク ロ ラ ジ オ グ ラ ム を 撮 影 し た 。 用 い た 装 置 は,ソ フ テ ッ ク ス社 製 の コ ン タ ク トマ イ ク ロ ラ ジ オ グ ラ フ ィ ー 装 置CSM特 別 仕 様 型 で あ る 。 撮 影 条 件 は,管 球 のCuタ ー ゲ ッ ト か ら乾 板 の 乳 剤 面 ま で の 距 離30cm ,加 速 電 圧21

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歯 基 礎 誌26: 1116-1143, 1984.

kV,管 電 流10mAで ,露 出 時 間 は15分 で あ る。 フ イ ル ム はEastman Kodak社 のspectroscopic Plate,649-Oで あ る 。 現 像 に はKodak社 指 定 の 現 像 液,D-158を 用 い,20℃ で5分 間 現 像 の 後,停 止,定 着,水 洗,乾 燥 を 行 な っ た。 そ の 後,乾 板 の 乳 剤 面 は カ ナ ダバ ル サ ム を用 い て カ バ ー グ ラ ス で 被 っ た 。 こ の マ イ ク ロ ラ ジ オ グ ラ ム は そ の 後,マ ク ロ写 真 撮 影 装 置(マ ル チ フ ォ ト,日 本 光 学)を 用 い て 弱 拡 大 撮 影 し,そ の ネ ガ フ ィ ル ム よ り 引 伸 し プ リ ン トを 得 ,そ れ ら を貼 り合 わ せ て,下 顎 臼 歯 部 の 全 体 像 を構 成 し た そ の 後,さ ら に 歯 牙 と そ の 周 囲 の 歯 槽 骨 の 分 布 状 態 を 明 確 に 把 握 す る た め に,貼 り合 わ せ た 写 真 上 に ポ リエ ス テ ル フ ィ ル ム を 置 き,骨 部 を黒 イ ン ク で ト レ ー ス した 。 こ の よ う に して 得 られ た ト レ ー シ ン グ 図 は ,発 育 に 伴 う歯 と 歯 槽 骨 の 各 部 分 の 位 置 的 関 係 の 変 化 の 観 察 に 用 い られ た(Figs .13, 14)。 III  観 察 成 績 今 回 検 索 し た ホ ル ス タ イ ン 種 の 牛 は,有 蹄 目, 反 芻 亜 目,洞 角 科,牛 属,真 性 家 牛 亜 属 に 属 し て い る19)。 所 見 に 入 る前 に ウ シ の 咀 嚼 の 生 理,歯 式,歯 槽 骨 の 基 本 的 構 造,さ ら に所 見 の 記 載 方 法 に つ い て 述 べ て お く こ と に す る 。 (1)  咀 嚼 の 生 理 ウ シ は お も に 線 維 質 の 多 い 硬 い 食 物 を充 分 に 粉 砕 し,よ く 咀 嚼 し よ う と す る 食 性 か ら,す りつ ぶ し型 の 歯 と して の 形 態 を 持 ち,上 ・下 顎 の 歯 は 互 1) Deciduous teeth 2) Permanent teeth

Fig. la Dental formula of cow .

い に 向 い あ っ て,さ し む か い型 の 咬 合 を 示 し て い、 る。 臼 歯 歯 冠 は,咬 耗 す る と,や わ らか い セ メ ン ト質 が 最 も 強 くす り減 り,一 番 硬 い エ ナ メ ル 質 は 減 る こ と が 少 な い か ら 凸 出 し て 残 る。 そ の た め, 咬 合 面 に は 外 周 が エ ナ メ ル 質 で 囲 まれ ,内 部 に 象 牙 質 が 露 出 し て い る 畝 の 部 分 と,畝 の 間 を埋 め る セ メ ン ト質 の 部 分 と に よ っ て 凹 凸 が で き る こ と に な り,線 維 質 の 食 物 を 臼 磨 運 動 に よ っ て す りっ ぶ す の に 都 合 の よ い 状 況 が 作 ら れ て い る20)。 ウ シ に は,こ の よ う な ヒ トや 肉 食 動 物 に は 見 ら れ な い 咬 合 面 形 態 が 用 意 され る こ と に な る。 も う 一 つ の 重 要 な 調 節 要 素 と して ,咬 耗 が 進 行 し て い る 間,咬 合 面 が 絶 え ず 対 合 歯 と接 触 す る よ う に垂 直 方 向 へ の 移 動(vertical migration)が 進 行 して お り,歯 根 が す り減 る よ う に な る段 階 ま で歯 に よ って 上 ・下 顎 の 垂 直 顎 間 距 離 が 一 定 に 保 持 され る し くみ が 存 在 して い る21). (2)  歯 式 歯 式 は,Fig.1aに 示 し た 通 りで あ る。 上 顎 で は,乳 歯,永 久 歯 と も切 歯 と犬 歯 は な く,こ の 部 の 歯 肉 は 厚 く角 化 した 歯 床 板 を 形 成 し て い る。 下 顎 は,切 歯4本 の う ち,第4番 目 は 実 際 は 犬 歯 で あ る が 便 宜 上 切 歯 と し て 扱 わ れ る こ とが 多 い。 本 研 究 で は,切 歯 部 は 対 合 歯 が な い の で 咬 合 様 式 が 特 殊 で あ り,他 の 動 物 の 所 見 と 比 較 す る 意 味 が 少 な い と思 わ れ る の で 検 索 対 象 か ら除 き ,下 顎 の 小 臼 歯 部 と 大 臼 歯 部 の み を検 索 の 対 象 と した(Fig . 1b)。

Fig.1b  Buccal aspect of dental arch of adult cow.

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高橋 学:ウ シの 歯槽 骨構 造 の成 長 変化 1119

Fig. 2 7 months in utero. Microradiogram of mesiodistal ground section of mandibular bone containing the deciduous molar germs (right is mesial) (•~2).

Fig. 3 10 months in utero. Microradiogram of mesiodistal ground section of mandibular bone containing the deciduous molar germs (right is mesial) (•~2).

(3)  歯 槽 骨 の 基 本 的 構 造

歯 槽 骨 は,ヒ トや イ ヌ な ど と同 様,構 造 上,固 有 歯 槽 骨(alveolar bone proper)と 支 持 歯 槽 骨 (supporting alveolar bone)に 分 け られ る(Or-ban's Oral Histology and Embryology, 198022))。 固 有 歯 槽 骨 は,歯 根 膜 に面 し た 幅 狭 い緻 密 な 骨 質 で,歯 槽 硬 線(lamina dura)と 呼 ば れ て い る 部 分 で あ る 。 一 方,支 持 歯 槽 骨 は,歯 肉 に 面 す る 緻 密 な皮 質 骨(cortical bone)と,そ れ と 固 有 歯 槽 骨 と の 間 を 占 め る海 綿 骨(spongy bone)と か ら な る 部 分 で あ る。 (4)  所 見 の 記 載 方 法 一 個 体 の 中 で も,歯 牙 に よ りそ の 発 育,萌 出 の 時 期 に か な り の違 い が あ る。 した が っ て 歯 牙 発 育 に伴 う歯 槽 骨 変 化 の 記 載 は,必 ず し も個 体 の 年 齢 の 順 に よ る こ と な く,歯 牙 自 体 の 発 育 や 萌 出 程 度 に 沿 っ て 行 な う こ と に した 。 た だ し一 方 で は,歯 槽 骨 構 造 は 増 齢 的 な 変 化 も と げ る の で,そ れ に つ

(5)

歯 基 礎 誌26: 1116-1143, 1984. い て も注 意 を 払 っ た。 記 載 は,乳 歯 期 と 永 久 歯 期 に 分 け て 行 な う。 乳 歯 期 は 根 の 形 成 か ら始 ま り,萌 出 後,永 久 歯 と の 交 換 に よ っ て 脱 落 す る ま で で あ り,永 久 歯 は 根 の 形 成 開 始 か ら,萌 出 後 約10年 経 過 し た 段 階 ま で の 所 見 を 記 載 した 。 A.  乳 臼 歯 を 囲 む 歯 槽 骨 の 所 見 所 見 の 記 載 に あ た っ て は 歯 牙 の 形 成,萌 出,萌 出 後 の 過 程 を 便 宜 的 に,(1)歯 根 形 成 前 期,(2) 歯 根 形 成 後 期,(3)萌 出 期,(4)萌 出 後 期 の4段 階 に 分 け た 。 (1)  歯 根 形 成 前 期 乳 歯 根 の 長 さ は ま だ 短 く,完 成 し た 歯 根 の 全 長 の1/4以 下 の 段 階 で あ る 。 歯 頸 部 付 近 の エ ナ メ ル 質 は な お 基 質 形 成 期 に あ り,そ の 石 灰 化 度 は 象 牙 質 の そ れ よ り低 い(Fig.2のm2,m3,Fig.3のm1 , m3)。 こ の 時 期 の 歯 槽 骨 を 構 成 す る骨 梁 の 太 さ と 分 布 密 度 は 部 位 に よ っ て 大 分 違 っ て い る 。 ま ず 槽 内 中 隔 で は,下 顎 管 の 上 縁 に 近 い 部 分 で は 太 い 骨 梁 が や や 密 に不 規 則 に 分 布 し て い る 。 そ れ に対 し て, 歯 根 膜 に 近 い 部 分 で は 非 常 に細 く,短 い 骨 梁 が あ ま りは っ き り し た 規 則 性 を 示 さ な い で ま ば ら に 分 布 して い る(Fig.2のm2,m3)。 こ れ ら2つ の 骨 領 域 間 の 移 行 は か な り急 で あ る こ と が 注 目 さ れ る 。 槽 間 中 隔 を 見 る と(Fig.2のm2とm3の 間), 近 心 側 の歯 根 膜 に 沿 う部 分 で は 骨 梁 は 太 く,密 に 配 列 して い る が,遠 心 側 の 歯 根 膜 に 向 うに 従 っ て 細 く,短 く な る 。 た だ し注 意 す べ き こ と は,遠 心 側 の 歯 根 膜 面 近 くで は 骨 梁 は 細 く,短 く て も分 布 密 度 は か な り高 い こ と で あ る。 な お,近 心 の 歯 根 膜 に 面 す る 部 分 で は 吸 収 が 各 所 で 進 行 して お り, ま た,太 い 骨 梁 か ら な る 部 分 の 各 所 で は 内 部 改 造 が 進 行 して い る こ と が わ か る 。 そ れ に 対 し て 細 く,短 い 骨 梁 か ら な る 部 分 で は も っ ぱ ら形 成 だ け が 進 行 し て い る 。 以 上 の 所 見 は,こ の 部 で の 骨 形 成 は 近 心 側 で 始 ま り,そ れ は 次 第 に遠 心 側 に 向 っ て 進 行 し て い る こ と を 示 して お り,そ れ は 歯 胚 (m2,m3)の 遠 心 に 向 っ て の 移 動 と 関 連 し て い る も の と 考 え ら れ る 。 歯 根 の 形 成 が さ ら に 進 む と(Fig.3のm2, m3),部 位 に よ る骨 梁 配列 の特 徴 は次 第 に は っき り して くる。 槽 内 中隔 の内,歯 根 膜 に沿 う部分 で は 細 く,短 い骨 梁 が歯 根 膜 面 に対 して ほぼ 直角 を な す よ うな方 向性 を持 って密 に配 列 して い る。 そ れ に対 して,そ れ よ り内方(将 来 の海綿 骨 部)で は,少 し太 めの骨 梁 が か な り 間 隔 をお い て不規 則 に分 布 してい る。 それ よ り下 方 で は,下 顎 管 の上 縁 に沿 うよ うに か な り太 い 骨 梁 が密 に配 列 して い る。 こ の よ うな骨 梁 配 列 の特徴 か ら,槽 内 中隔 は 3つ の部 分 に は っ き りと 区別 す る こ とが で き る。 詳 細 に見 る と,歯 根膜 に沿 う部 分 で は もっぱ ら 骨 新 生 のみ が活 発 に 行 な われ て い るの に対 して, それ よ り内 方 で は形 成 と吸収 の 両 方 が活 発 に進行 してお り,そ の結 果,さ ま ざ まな輪 廓 を持 つ骨梁 を形成 して い る。 さ らに下顎 管 に沿 う部分 では, 活 発 では な い が骨 形 成 は継 続 的 に進 行 して お り, そ れ に対 して吸 収 は あ ま り見 られ な い。 以上 の よ うな骨 の形 成 と吸収 の 組 み 合 せ の程 度 の違 い が3 つ の部 分 の構造 の違 い を作 って い る と 考 え ら れ る。 一 方,槽 間 中隔(Fig.3のm2とm3の 間)で は,こ の前 の段 階 とほ とん ど同 じよ うな 所 見 がな お 観 察 され る(な お,m1とm2の 間 で は,近 心 面 と遠 心 面 の両 方 で骨 形 成 が進 行 して い る)。 下顎 骨 下 縁 の緻 密 骨 は,そ の下面 に沿 って平行 して走 る多 数 の細 く,長 い骨 梁 の積 み重 ね か らな って い る。 発 育 に伴 って骨 梁 は太 くな り,密 に配 列 す る よ うに な るが,そ の 傾 向 は表 面 か ら下顎 管 側 に向 うに従 って 著 しい。 一 方,緻 密 骨 全体 の厚 み は次 第 に増 して行 く。 以 上 の所 見 か ら,こ の部 の緻 密骨 は下 方 に向 って 一 方的 に形成 を進 めてい る こ とがわ か る。 な お,こ の時 期 で は緻 密骨 部 で の骨 改 造 は ま だ見 られ な い。 (2)  歯 根 形 成 後期 歯 根 の形 成 は さ らに進 み 全長 の1/2以上 に な る。 歯 頸 部 のエ ナ メ ル質 は,す で に高度 に石 灰化 し, 歯 根 の象牙 質 表 面 に は薄 い 線 維 性 セ メ ン ト質 が形 成 され て い る(図 上 で は見 え ない)。 歯 冠 は まだ萌 出 して い な い(Fig.4のm2,m3)。 この時 期 に な る と,槽 内 中隔,槽 間 中 隔 とも部 位 に よ る骨 梁 配 列 の 構造 上 の違 い が一層 明瞭 に な って い る。 まず,槽 内 中隔 で は,歯 根膜 に沿 って

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高橋 学:ウ シ の歯 槽 骨 構 造 の 成 長 変化 1121

Fig. 4 8 days after birth. Microradiogram of mesiodistal ground section of mandibular bone containing the deciduous molar germs (right is mesial) (x 2) .

Fig. 5 3 months after birth. Microradiogram of mesiodistal ground section of mandibular bone containing the deciduous molars (right is mesial) (x 2) .

細 く,短 い骨梁 が 規 則 正 し く密 に配 列 す る層 の形 成 が見 られ る。 この層 を今 後,固 有 歯 槽 骨 と呼 ぶ ことにす る。 全 体 的 に骨 形成 が活 発 で あ るが,近 心 に面す る部分 の 歯 根 膜面 の各 所 で吸 収 が 見 られ るのに対 して,遠 心 面 や根 分岐 部 付 近 で は,細 い 骨梁 の活 発 な形 成 の み が進 行 して い る。 それ よ り内方(以 後,海 綿 骨 部 と呼 ぶ こ とにす る)で は,太 く長 めの骨 梁 が か な りまば らに分 布 し,そ の表 面 では 形成 と吸 収 が活 発 に進 行 してお り,そ の結 果,形 態 は不 ぞ ろ いで ある。 これ らの 所 見 か ら,こ の部 分 と先 の 固有 歯槽 骨 とを は っ き りと区別 す る こ とが で き る。 興 味 あ る こ とは,根 分 岐 部 付 近 で は 固有 歯 槽 骨 と海綿 骨 の境 界 あた りで細 く,短 い骨 梁 が密 に配 列 す る層 が見 られ,さ らに こ の層 と固有 歯 槽 骨 層 との 間 に は骨 質 の 乏 しい幅 狭 い層 が 介 在 し て い る。 た だ し,こ の層 の 存在 は根 尖 側 に向 うに従 っ て不 明瞭 とな る。 一 方,歯 根 形 成 初期 に極 め て特徴 的 に 見 られ た 下顎 管上 縁 に沿 った太 い骨 質 の密 な 配列 は,部 分

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歯 基 礎 誌26: 1116-1143, 1984. 的 に は ま だ 残 っ て い る が(Fig.4のm1,m3), 他 の 部 分 で は 改 造 機 転 の 進 行 に よ り,次 第 に す う 疎 化 し て,海 綿 骨 部 と の 区 別 が つ け 難 くな っ て い る 部 分 が あ る(Fig.4のm2)。 槽 間 中 隔(Fig.4のm1とm2の 間,m2とm3 の 間)で は,こ の 前 の 段 階 と類 似 し た 所 見 を示 し て い る が,そ の 骨 梁 の 構 造 配 列 は 規 則 性 を 増 し て い る 。 す な わ ち,近 心 側 の 固 有 歯 槽 骨 は,比 較 的 太 め の 骨 梁 が 密 に 幅 狭 く配 列 し,ま た ,そ の 各 所 で 吸 収 が 進 行 し て い る。 そ れ に 対 し て ,遠 心 側 で は 細 い 骨 梁 が 層 状 に 配 列 し 活 発 な 形 成 を 示 し て い る。 一 方,内 部 の 海 綿 骨 で は 固 有 歯 槽 骨 よ り太 め の 骨 梁 が や や 疎 に 不 規 則 に 配 列 し て い る。 た だ し 注 意 す べ き こ と は,そ の 太 さ と長 さ が 遠 心 側 か ら 近 心 側 に 向 う に 従 っ て 次 第 に 増 し て い く傾 向 が 見 ら れ る こ と で あ る。 そ の 結 果 ,そ の 部 の 骨 梁 の 形 態 と配 列 は 近 心 側 の 固 有 歯 槽 骨 の そ れ と移 行 的 で あ る 。 以 上 の 所 見 は,萌 出 前 期 に 引 き 続 き 歯 胚(m1, m2,m3)が 遠 心 に 向 っ て 移 動 し て い る こ と と関 連 し て い る と 考 え られ る 。 下 顎 骨 下 縁 の 緻 密 骨 は,緻 密 の 度 を 増 しな が ら,下 方 へ の 形 成 を 進 め厚 み を 増 して い る。 し か し,ま だ 内 部 改 造 は 始 ま っ て い な い (3)  萌 出 期 歯 冠 の 上 方 は す で に 萌 出 して い る 。 歯 根 の 形 成 は ほ ぼ 完 了(Fig.5のm3)し て い る か 間 近 で あ る が,根 尖 孔 は ま だ 閉 鎖 し て い な い(Fig .5の m1,m2)。 エ ナ メ ル質 表 面 に は ,歯 頸 部 付 近,な ら び に 各 裂 溝 の 底 部 で 薄 い セ メ ン ト質(歯 冠 セ メ ン ト質)が 形 成 され て い る(図 上 で は 見 え な い) 。 槽 内 中 隔 で は,固 有 歯 槽 骨 は 細 い 骨 梁 が 幅 狭 く 密 に 配 列 し た 層 と して 特 徴 づ け ら れ る。 こ の 部 分 で は,な お,お も に新 し い 骨 の 形 成 が 活 発 で あ る 。 た だ し,こ の 前 の 段 階 に 比 べ る と全 般 的 に 骨 梁 は わ ず か に 太 く長 くな っ て い る。 しか し,そ の 配 列 は 多 少 不 規 則 で あ る 。 ま た,特 に 根 分 岐 部 直 下 で の 所 見 か ら,新 生 骨 の 形 成 は,歯 牙 の 上 方 へ の 挺 出 に 伴 う も の で あ る こ と が 想 像 さ れ る 。 な お,一 部 の 歯 牙 の 歯槽 骨 の 近 心 側 の 歯 根 膜 面 で 細 長 い 骨 梁 が 層 状 に形 成 され て お り,遠 心 側 の 歯 根 膜 面 で は 吸 収 が 見 られ る 。 こ の よ う な 所 見 か ら, そ の歯 牙 は近 心 に 向 っ て 移 動 して い る もの と想像 され る(Fig.5のm1)。 一 方,海 綿 骨 部 では,固 有歯 槽 骨 よ りや や太 め の不 規 則 な形 態 を した骨 梁 が疎 に分 布 して い る 。 こ の部 の 骨 梁 は こ の前 の段 階 に比 べ て さ らに太 さ と密度 を増 し,そ の石 灰 化度 は 固 有歯 槽 骨 で のそ れ に比 して高 い。 そ の分布 密 度 は,根 分岐 部 直下 付 近 で高 く,固 有 歯槽 骨 と 連 続 す るよ うに見 え る。 しか し,両 層 は石 灰 化 度 の違 い か らある程度 区 別 す る こ とが で き る(Fig.5のm2,m3)。 し か し,根 尖 方 向 に向 うに 従 って 骨 梁 は 次第 に 太 く,長 くな るが,一 方,分 布 密 度 は低 くな る傾 向 に あ る。 そ の形 態 や配 列 状 態 か らそ こ では改 造 が 活 発 に進 行 して い る こ とが うかが われ る。 一 方,下 顎 管 の上 縁 で は,以 前 見 られ た太 い骨 梁 の緻 密 な分 布 はす で に消失 し,太 さの さま ざま な骨 梁 が連 な っ た 幅 狭 い 一 層 が 見 られ る だけ で あ る(Fig.5のm1,m2,m3)。 槽 間 中隔(Fig.5のm1とm2の 間,m2とm3 の間)は 極 めて幅 狭 くな りこ の 前 の段 階 で見 られ た構 造 は 失 わ れ,密 な骨 梁 の集 合 のみ か らな って い る。 な お,遠 心 側 の歯根 膜 面 で は吸収 が見 られ る。 下 顎 骨 下縁 の緻 密 骨 は,骨 梁 の太 さを増 す こ と に よ り緻 密度 を高 め る一 方 ,下 方へ の形成 をなお 進 め厚 み を増 しつ つ あ る。 ま た内 部 で の改造 は起 って い な い。 (4)  萌 出 後期 今 回 の検 索 に あ た って は,乳 歯 の萌 出 が終 って か ら歯根 の吸 収 が 始 ま る ま で に 相 当す る試 料 を入 手 す る こ とはで きな か っ た。 こ こで は,永 久歯胚 の発 育 に よ って 乳歯 根 の吸 収 が あ る程 度 進 ん だ段 階 で の所 見 を述 べ る(Fig.6)。 永 久歯 歯 胚 の発 育 に よ って 歯 根 は根 尖 側 の ほぼ 1/2の槽 内 中隔 側 が吸 収 され て い る 。 また,根 尖部 付 近 で は,槽 間 中 隔側 か ら も吸 収 が 起 って い る (Fig.6のm3)。 永久 歯 胚 の歯 根 形成 は始 ま っ たば か りで あ る(Fig .6のP3)。 この段 階 で は,全 体 的 に見 て萌 出 したば か りの 段 階 で見 られ た 細 い 骨 梁 の疎 な配 列 は 内 部改 造 の 進 行 に よ り,極 めて太 い骨 梁 の密度 の高 い配 列 に 変化 して い る。

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高 橋 学:ウ シ の歯 槽 骨 構 造 の成 長 変 化 1123

Fig. 6 1.5 years after birth. Microradiogram of mesiodistal ground section of

the lower permanent premolars and their surrounding alveolar bone( x2) .

槽 内 中 隔 で の 骨 の 分 布 は,根 分 岐 部 の レベ ル か ら歯 根 長 の 中 程 ま で に 限 られ て お り,そ れ よ り下 方 は 吸 収 に よ り消 失 し て い る。 固 有 歯 槽 骨 で は, 海 綿 部骨 よ りわ ず か に 骨 質 分 布 は 密 で,一 部 で は 不 規 則 な が ら層 状 の 配 列 を示 し て い る。 そ れ に 対 して,海 綿 骨 部 は 太 い 不 規 則 な 骨 梁 の網 目状 の 配 列 か ら な っ て い る(Fig。6のm3)。 槽 間 中 隔 で は(Fig.6のm2とm3の 間),も はや 構 造 的 に 固 有 歯 槽 骨 と海 綿 骨 の 差 が な くな り 歯根 膜 面 の 各 所 に 吸 収 窩 が 認 め られ,ま た,そ の 内部 で も 吸 収 が 活 発 に進 行 し て い る 。 下 顎 骨 下 縁 の 緻 密 骨 は,こ の 段 階 の は る か 以 前 に 下 方 へ の形 成 を 停 止 して お り,横 走 す る多 数 の ノ・一 バ ー ス 氏 管 を含 む 非 常 に 緻 密 な 骨 質 に な っ て い る 。 ま た そ こ に は,replacementosteonの 形 式 に よ る 内 部 改 造 の 進 行 に よ り,石 灰 化 度 の 異 な る 骨 質 に よ る モ ザ イ ク 模 様 が 見 られ る よ う に な っ て い る。 B.永 久 歯 を 囲 む 歯 槽 骨 の 所 見 永 久 歯 で は,小 臼 歯 と大 臼 歯 と で は 歯 根 の 長 さ と歯 冠 の 長 さ の 比 率 が か な り異 な っ て い る。 す な わ ち,歯 冠 長:歯 根 長 の値 は 大 臼 歯 の 方 が 小 臼 歯

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歯 基 礎 誌26: 1116-1143, 1984. よ りは るか に 大 き く2倍 ほ どに 及 ぶ。 した が っ て,咬 頭 頂 が萌 出 した時 期 にお け る歯 根 形 成 の程 度,咀 嚼 圧 の加 わ り方,萌 出後 に お け る挺 出 の程 度 な どは大 臼歯 と小 臼歯 とで 大 分 違 うと考 えな く て は な らな い。 そ の よ うな観 点 か ら見 る と,大 臼 歯 の所 見 と小 臼歯 の所 見 を一 括 して 永 久歯 の所 見 と して取 扱 うこ とは適 当 で な い と考 え られ る。 そ こで,こ こで は ひ とま ず小 臼 歯 の 所 見 と大 臼歯 の 所 見 と を別 に記 載 す る こ とに した。 a.  小 臼歯 を囲 む 歯 槽 骨 の 所見 便 宜的 に,(1)萌 出 初期,(2)萌 出 中期,(3) 萌 出 末期,(4)萌 出 直後 の4段 階 に分 けた。 (1)  萌 出初 期(Fig.6のP3) 歯 根 の形 成 は始 ま った ば か りで,歯 頸 部 付 近 の エ ナ メ ル質 は基 質 形 成 期 に あ り,そ の石灰化度 は 象 牙 質 の そ れ よ り低 い。 こ の時期 で は,形 成 しは じめ た根 の 周 囲 な らび に根 分岐 部 下 面 に,細 い 骨梁 が根 面 に沿 う よ うに 縞状 に形 成 され は じめ て い る。 歯 髄腔 が幅 広 く開 いて い る根 尖 は下顎 管 に少 し 入 り込 む よ うに位 置 して お り,そ れ と下 顎 管 との 間 には極 め て薄 い骨 が断 続 的 に連 な っ て い る。 (2)  萌 出 中期(Fig.6のP2) エナ メル質 の石 灰 化 はす で に最 終 段 階 に あ り, 歯 根 も全 長 の1/2以上 形成 され て い る。 歯冠 の上 に は歯根 が ほ とん ど吸収 され た 乳歯 が まだ残 存 して い る。 この段 階 にな る と,エ ナ メ ル質 の歯 頸 部 近 く, 根 の周 囲,な らび に根 分 岐 部 下面 に は歯 の表 面 に 平 行 す る よ うに 細 い新 生 骨 が縞 状 に密 に形成 され て い る。槽 間 中隔 に あ た る部分 で は,そ れ らは深 層 に向 って 太 く緻 密 にな り,か つ て乳 歯 を囲 ん で い た古 い緻 密 な骨 と連 絡 して い る。 一方,海 綿骨 では不 規則 な形 を した極 め て太 い 骨 梁 が極 め て ま ば らに分 布 してお り,石 灰 化 像 か らそ の骨 質 で は か つ て活 発 な改造 が進 行 して いた こ とが わ か る。 (3) 萌 出 末 期(Fig.7のP3) こ の前 の段 階 よ り も歯 根 の長 さを増 し,根 尖孔 もそ の幅 をわ ず か に狭 め始 め て い る。 歯 冠 の上 方 1/2で は,高 度 に石 灰 化 したエ ナ メ ル質 表 面 に薄 い 細胞 性 セ メ ン ト質 の形 成 が認 め られ る。 歯冠 の上 には な お,吸 収 され て 歯冠 だ け に な っ た乳歯 が残 存 して い る。 この段 階 で は,槽 内 中隔 で は 固有 歯 槽骨 は歯 根 膜 面 に沿 っ た比較 的 太 い骨 梁 の 幅 狭 い密 な配 列 か らな る。 た だ し,根 分岐 部 直 下 の ご く狭 い範 囲 で は細 い骨 梁 が歯 根 膜 面 と平 行 して 縞 状 に配 列 して い る。 そ れ に対 して,海 綿 骨 部 で は大 小 不 ぞ ろい の骨 梁 が極 め て まば らに分 布 して い る。 一 方,槽 間 中 隔 に あ た る部 分 で は,歯 根 膜 面 に 面 して固 有 歯槽 骨 が認 め られ る よ うに な るが,そ れ は大 小不 ぞ ろ い の 骨 梁 が不 連続 に一例 に並 んで い る だ けで あ る。 それ よ り上 方 の歯 冠 の下方1/2に 沿 って は,か つ て 乳 歯 の 周 囲 に作 られ た と思 われ る緻 密 な骨 が 存 在 して お り,歯 冠 の概 形 に沿 って 吸 収 され て い る。 歯 根 尖 は 一部 下 顎 管 の 中 に入 り 込 む よ うに位 置 して い る。 下 顎 管 と根 尖 との間 に は ご く細 い 骨 の 一層 が,ま た,海 綿骨 部 との 間 に は太 めで緻 密 な骨 梁 が連 な って い るの が見 ら れ る。 下顎 骨 下 縁 の緻 密 骨 は,多 数 の横 走 す るハ ーバ ー ス氏 管 を含 む石 灰化 度 の さま ざ ま な骨 質(骨 単 位,osteon)の 密 な集 合 か らな っ てい る。 (4)  萌 出直 後(Fig.7のP2) 歯 冠 の上1/3は す で に萌 出 してい る。 歯 冠 の上 方 3/4の エ ナ メル質 表 面 に は歯 冠 セメ ン ト質 が形 成 さ れ て い る。 根 の形 成 は完 了 し,根 先端 ま でセ メ ン ト質 が 形成 され て い る。 槽 内 中隔 で は,固 有 歯 槽 骨 は前 の段 階 と同様, 比較 的 太 い 骨 梁 の 幅 狭 い密 な 配 列 か らな る。 そ れ に対 して,海 綿 骨 部 で は,上 方1/2で は太 い骨梁 が密 に分 布 してお り,特 に根 分 岐 部 直 下,な らび に近 心 側 に面 した部 分 で密 度 が極 めて 高 く,固 有 歯 槽 骨 と連 続 して い る。 それ に対 して,下 方1/2で は不 規 則 な 形 を した太 さ の さ ま ざ まな骨 梁 が 極 め て ま ば らに分布 して い る。 槽 間 中 隔 で は,か つ て乳 歯 根 の周 囲 に作 られ た と思 わ れ る太 く緻 密 な骨 質 が 残 って い る が,比 較 的 広 い 歯 根膜 腔 に 面 して 層 状 の 骨 形 成 が 見 られ る。 根 尖 と下 顎 管 との間 に は,細 い骨 梁 が幅 狭 く一 層 認 め られ る。 下 顎 骨 下 縁 緻 密 骨 で は,前 段 階 同様,多 数 の横 走 す るハ ー バ ー ス氏 管 を含 む石 灰化 度 の さま ざま

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高橋 学:ウ シ の 歯槽 骨 構 造 の 成長 変化 1125

Fig.7 2.5 years after birth. Microradiogram of mesiodistal ground section of the lower permanent premolars and their surrounding alveolar bone (•~2),

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歯 基 礎 誌26: 1116-1143, 1984.

Fig.8 1.5 years after birth. Microradiogram of mesiodistal ground section of th el ower permanent molars and their surrounding alveolar bone (•~2)

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高橋 学:ウ シ の歯 槽 骨 構 造 の成 長 変 化 1127 な骨単位 の密 な集 合 か らな る が,下 顎 管 に面 した 一部 で石 灰化 度 の低 い新 生 骨 の 形 成 が 認 め られ る。 b. 大 臼歯 を 囲 む歯 槽 骨の 所 見 便 宜的 に,(1)萌 出 直 前,(2)萌 出 直 後,(3) 萌 出後初期,(4)萌 出 後 中期,(5)萌 出 後 末期 の 5段 階 に分 け た。 (1) 萌 出 直前 極 めて長 い歯 冠 の 頂 は咬 合 平 面 に極 め て近 づ い ているが,歯 根 の形 成 は ま だ完 成 した場 合 の1/5に も及 んで いな い(Fig.8のM3)。 歯冠 の上 方約1/4で は エ ナ メ ル質 の表面 に細 胞 性 セメン ト質 が形 成 され て い る。 歯冠 の下 方約1/5で はエ ナメル質 は ま だ石 灰 化 を終 え て い な い。 槽 間 中隔(Fig.8のM2とM3の 間)の 頂 は ちょうど歯 冠 の上 方1/4の レベ ル に あ る。槽 間 中隔 の上 方約1/2の エ ナ メ ル質 に面 す る部 分 では,固 有 歯槽骨 は歯 根 膜 に沿 っ た太 い骨 梁 の幅広 い縞 状 の 集合 か らな り,そ の 中 に歯 根 膜 側 か ら海 綿 骨 側 へ 走 る血管 を含 む ス ペ ー スが 各所 で作 られ て い る。 それ に対 して,海 綿 骨 部 で は,樹 枝 状 を した太 い 骨梁が疎 に網 状 に分布 して い る。 とこ ろが,歯 牙 の下方約1/2の歯 冠 の最 下 方 と形 成 期 の歯 根 に面 す る レベル で は,固 有歯 槽 骨 は にわ か に 幅 狭 く な り,細 い骨 梁 が海 綿 骨 側 に向 って 活 発 に形 成 を進 めて いる のが わ か る。 そ れ に対 して そ の歯根 膜 側 は平坦 で あ る。 同 じ レベ ル の 海綿 骨 部 で は,太 い 骨梁 は ご くわず か で,そ の 間 に は石 灰 化度 の低 い 極 めて微細 な骨 梁 が極 め て まば らに 散 在 して い る にす ぎな い。 槽内 中隔 で は,固 有 歯 槽 骨 は 細 い骨 梁 が歯 根 膜 面に沿 って 幅広 く密 に形 成 され て い る。 それ に対 して,海 綿 骨 部 では,固 有 歯槽 骨 よ り太 く改 造 像 の著 明 な骨 梁 が ご くわ ず か に分 布 して い る 一方,形 成 され つ つ あ る根 尖 の レベ ル か ら下 顎 管上縁 に か けて で は,非 常 に太 く,長 い骨 梁 が 下 顎 管上 縁 に対 してや や斜 走 す る よ うに 密 に分 布 し ている。 下顎 骨下 縁 緻密 骨 は,横 走 す るハ ーバ ー ス氏 管 を含 む石 灰 化度 の さ ま ざま な緻 密 な骨質 の モザ イ ク状 の集 合 か らな る 。 そ の上 面 に沿 って血 管 を含 む と思 われ る空 洞 が下 顎 管 と 連 続 す る よ うに形成 さ れ て お り,そ の 表 面 の 各 所 に は 石 灰 化 度 の 低 い 新 生 骨 層 が 認 め られ る。 (2)  萌 出 直 後(Fig.8のM2) 歯 冠 の 頂 は す で に ご くわ ず か に 萌 出 し,そ の 頂 に は わ ず か で は あ る が 咬 耗 が 生 じ て い る。 歯 根 は さ ら に形 成 を 進 め 歯 冠 長 の1/3ぐ ら い に な っ て い る 。 細 胞 性 セ メ ン ト質 は,歯 頸 部 付 近 の極 く一 部 を 除 い て ほ ぼ エ ナ メ ル 質 全 表 面 に 形 成 され て い る。 ま た,歯 根 で は 上 方 約2/3に 線 維 性 セ メ ン ト質 が,上 方 約1/3に 細 胞 性 セ メ ン ト質 が 形 成 さ れ て い る 。 槽 内 中 隔 で は,固 有 歯 槽 骨 は こ の 前 の 段 階 よ り 幅 は 狭 い が,太 い骨 梁 の 極 め て 密 な 配 列 か ら な っ て い る 。 海 綿 骨 部 で は,固 有 歯 槽 骨 よ りや や 細 め の 骨 梁 が ご くわ ず か に 分 布 し て い る に す ぎ な い 。 ま た,根 尖 は 下 顎 管 上 縁 に 近 接 して お り,海 綿 骨 部 の そ の レベ ル に は 細 長 い 骨 梁 が 一 列 並 ん で い る の み で あ る。 一 方,槽 間 中 隔(Fig.8のM2とM3の 間, M2の 右 方)の 歯 槽 頂 は,前 段 階 と 同 様 歯 冠 の 上 方 の 約1/4の レベ ル に あ る 。 歯 槽 頂 か ら歯 頸 部,さ ら に 歯 根 の 上 方 の 約1/6に か け て の 固 有 歯 槽 骨 は , 石 灰 化 度 の さ ま ざ ま な 骨 梁 の 複 雑 な 集 合 か ら な り,そ の 中 に 多 数 の ハ ー バ ー ス氏 管 を 含 ん で い る 。 す な わ ち,そ の 中 で はreplacement osteonの 形 に よ る 改 造 が 活 発 に 進 行 して い る 。 歯 根 膜 面 の 各 所 で は 骨 形 成 が 見 られ る が,そ れ に ま ざ っ て 吸 収 が 進 行 して い る 部 分 も あ る 。 以 上 の 部 分 と 同 じ レ ベ ル の 海 綿 骨 部 で は 樹 枝 状 の 骨 梁 が 疎 に 網 状 を な して 分 布 して い る。 そ れ に 対 して,歯 根 の 下 方5/6の レベ ル に入 る と,固 有 歯 槽 骨 な 急 激 に 幅 狭 く な り,細 い 骨 梁 の 不 規 則 な樹 枝 状 の 疎 な 配 列 か ら な る よ う に な る 。 こ こ で はosteonの 形 成 は 認 め ら れ な い。 海 綿 骨 部 も こ の レベ ル に 入 る と,急 に 細 い 骨 梁 が 点 在 す る の み と な る 。 こ の 項 の 観 察 に 用 い られ た 槽 間 中 隔 の 反 対 側 は,前 項 で の べ た 萌 出 直 前 の 歯 胚 に 接 し て い る。 そ の 側 と比 べ る と骨 梁 の 分 布 密 度 は わ ず か に 高 い 。 (3)  萌 出 初 期(Fig.9と10) 歯 冠 の 頂 の 咬 耗 は 進 行 し,歯 冠 長 は す で に 完 成 して い る 歯 根 の 長 さ と ほ ぼ 同 程 度 に ま で な っ て い

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歯 基 礎 誌26: 1116-1143, 1984.

Fig.9 1.5 years after birth. Microradiogram of mesiodistal ground section of the lower first molar and its surrounding alveolar bone (•~2).

Fig.10 2.5 years after birth. Microradiogram of mesiodistal ground section of the lower first molar and its surrounding alveolar bone (•~2).

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高橋 学:ウ シの 歯 槽 骨構 造 の成 長 変 化 1129 る。 根 尖 は 下顎 管 上 縁 の骨 質 と ほぼ 同 じ レベ ル に ある。 下顎 下 縁 か ら歯 根 各 部位 ま で の 距 離 を この 前 の段 階 で の それ と比較 す る と(Fig.14),咬 耗 に伴 って歯 牙 全 体 が 次 第 に上 方 に挺 出 し て い る こ とがわ か る。 エ ナ メ ル質 表面 は ほ ぼ全 域 にわ た っ て細 胞性 セ メ ン ト質 で被 われ てお り,ま た,歯 根 の下 方1/3は細 胞 性 セ メ ン ト質 が 厚 く被 っ て い る (Fig.9)。 槽 間 中隔 の 歯槽 頂 は歯 冠 の上 方 の約2/5の レベ ル にある。 固 有歯 槽 骨 の構 造 は,生 理的 歯 牙 移 動 に 伴 って遠心 側 と近 心 側 とで異 な って い る。 す な わ ち,遠 心 側 は極 め て密 な層状 の骨 質 か らな り,そ の幅 は広 い。 そ の歯 根 膜 に近 い部 分 は石 灰化 度 は 低 く,そ こ では 骨 形成 が進 行 して い る こ とが うか がわれ る。 そ の中 に は歯 根 膜 か ら海綿 骨 内 に向 っ て走 る多 数 の細 い ハ ーバ ー ス 氏 管 を含 ん で い る。 歯根 の下 方3/4の レベ ル に入 る と固 有歯 槽 骨 の幅 は 多少狭 くな る傾 向 が あ る。 一 方,近 心 側 で は各所 に,特 に歯根 膜 面 に多 数 の吸収 窩 の見 られ る細 い 骨梁 の と ぎれ とぎれ の配 列 か らな る が,歯 根 の 下 方1/2では,骨 梁 は密 に配 列 す る傾 向 が あ る。 しか し,こ こで も歯 根膜 面 に吸 収 窩 が見 られ る。 一 方,海 綿骨 部 の 内,上 方 約1/2(主 と して歯 冠 を取 り囲 む レベ ル)で は,石 灰化 度 の さま ざ まな 骨質 の集 合 よ りな る骨 梁 の網 状 の 密度 の高 い配列 によって 占 め られ て い る。 そ の中 に は多 数 のハー バー ス氏管 を含 み ,吸 収 と添加 が入 り混 って進行 して いる。 す な わ ち,こ こで は骨 改 造 が活 発 で あ るこ とがわ か る。 それ に対 して 下方1/2に 入 る と, 樹枝状 を した骨 梁 の分 布 密 度 は 著 し く低 下 す る。 さ らに そ の下方,す なわ ち根 尖 レベ ル では,細 く, 短 い骨 梁 が わ ず か に散 在 して い る に す ぎ ない。 槽 内 中隔 では,固 有 歯槽骨 の幅 は この 前 の段 階 よ りわ ずか に狭 く,石 灰 化 度 の さ ま ざま な骨 梁 の 密 な配 列 か らな っ て い る。 その 中 に は(特 に遠 心 側)ハ ー バ ー ス氏 管 を 中心 とす る骨 改 造 が見 ら れ る。 一 方海 綿 骨 部 を見 る と,根 分岐部直下 では固 有 歯槽 骨 よ り太 い骨 梁 が塊 状 に密 に分 布 し て い る が,そ れ よ り下 方 で は,太 く,長 い骨 梁 と細 か い 点状 の骨 梁 が極 めて疎 に分 布 して い る に す ぎ な い。 下顎 管 上 縁 で は,太 く,長 い 骨梁 が一 列 見 られ る が,そ れ は根 尖 レベ ル で槽 内 中隔 と槽 間 中隔 の 固有 歯槽 骨 と連 な って い る。 さ らに 日時 が経 過 し,咬 耗 が進 み 歯 冠 長 は歯 根 長 よ り も短 くな る と(Fig.10),そ れ に 伴 って歯 根 の各 部 と下 顎骨 下 縁 との 間 の距離 は この前 の段 階 よ り も増 して お り,こ の 間,歯 牙 は上 方 へ の挺 出 を続 けて きた こ とを示 して い る(Fig.14)。 ま た,歯 根 の下 方1/3で の細胞 性 セ メ ン ト質層 の厚 み は さ らに増 して い る。 歯槽 骨 の構 造 は,こ れ よ り 前 の時期 とほ ぼ同 じ であ る が,詳 細 に 見 る とそ の構造 は い くぶ ん異 な って い る。 槽 間 中隔 で は,歯 槽 頂 は歯 冠 の ほぼ1/2の レベ ル に あ る。 固 有歯 槽 骨 は,前 の時 期 と同 様 遠心 側 と 近 心 側 で は そ の構造 が異 な る。 す なわ ち遠 心 側 の 固 有 歯槽 骨 は,エ ナ メル質 に沿 う 部 分 と歯 根 の上 方1/4の範 囲 で は極 めて密 に幅 広 く層 状 に形 成 され て お り,表 層 では現 在 も骨 形成 は進 行 して い る。 歯 根 の下 方3/4の レベ ル に入 る と骨 梁 は細 くな り始 め,ま た,層 状 の構 造 も消失 し,下 方1/2で は骨 梁 は細 長 く歯根 膜 に沿 って 一列 並 ん で い る にす ぎな くな る。 一 方,近 心 側 の 固有 歯 槽 骨 で は,各 所 に 吸 収 窩 が 見 られ,そ れ は特 に上 方2/3で 著 し く固有 歯 槽 骨 の輪 廓 は不 明瞭 に な る。 海 綿 骨 部 で の骨 梁 の分布 密 度 は根 尖 に近 い レベ ル まで密 度 が高 い の が,こ の前 の段 階 と異 な る所 見 で あ る。 槽 内 中隔 の 固有 歯 槽 骨 は,前 の 時期 と比 べ て薄 くな り,歯 根 膜 に沿 って と ぎ れ と ぎれ に一 列 並 ん で い るだ け で あ る。 海綿 骨 部 で は,前 の 時 期 同 様,根 分岐 部 直 下 の 狭 い範 囲 で は太 い 骨 梁 が極 め て密 に分 布 して い る が,そ の下 方 では もは や不 ぞ ろい の細 い骨 梁 が ご くわ ず か に分 布 して い る にす ぎな い。 下 顎 管 上縁 で は,太 く,長 い緻 密 な骨 梁 が一 層 認 め られ,そ れ は根 尖 を囲 む 固 有歯 槽 骨 と ほ ぼ同 じ レベ ル か それ よ り下 方 に あ る。 そ の上 方 に は,細 か な骨 梁 が多 量 に散 在 して い る。 (4)  萌 出 中期(Fig.11) この時 期 に な る と,こ の前 の段 階(Figs.9,10) よ り咬耗 に よ って 歯 冠 長 は さ らに短 くな り,歯 根 の長 さの約1/2ぐ らい にな って い る。 そ れ に 伴 っ て,歯 牙 は ます ます上 方 に挺 出 して お り根 尖 レベ ル と下顎 管 上 縁 との間 には全 く 骨 質 の見 られ ない

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歯 基 礎 誌26: 1116-1143, 1984.

Fig. 11 5 years after birth. Microradiogram of mesiodistal ground section of the lower first molar and its surrounding alveolar bone (•~2). ス ペ ー ス が 存 在 して い る 。 ま た,生 理 的 な 歯 牙 移 動 の 進 行 に よ り,歯 冠 の 隣 接 面 は 互 い に密 着 し て い る(Fig.11のP3とM1の 間)(こ れ ま で の 段 階 で は 間 隙 が 存 在 し て い た)。 ま た,そ れ に伴 っ て 槽 間 中 隔 の 幅 も狭 くな っ て い る。 槽 間 中 隔 の 歯 槽 頂 は 歯 根 の 上 方 約1/5の レベ ル に あ る。 固 有 歯 槽 骨 は,太 く,密 な 骨 質 の 歯 根 膜 面 に 沿 っ た 連 な りか ら な っ て い る 。 そ の 内 部 に は ハ ー バ ー ス 氏 管 を含 み,replacement osteonの 形 に よ る 骨 改 造 が 進 行 し て お り,石 灰 化 度 の 異 な る 骨 質 に よ る モ ザ イ ク 模 様 が 見 ら れ る。 生 理 的 歯 牙 移 動 と 関 連 し て 遠 心 根 に 面 す る 部 分 で は 骨 の 添 加 が,近 心 根 に 面 す る部 分 で は 吸 収 が 見 ら れ る 。 一 方,海 綿 骨 部 で は,骨 梁 は ご く わ ず か しか 見 られ な い 。 しか し こ れ は,両 側 の 固 有 歯 槽 骨 が 近 接 し,こ の 部 の ス ペ ー ス が 狭 くな っ た こ と と も関 係 して い る の で あ ろ う。 槽 内 中 隔 の 所 見 は こ の 前 の 段 階 ま で の 所 見 と は 大 き く変 っ て い る。 ま ず 固 有 歯 槽 骨 は,多 数 の ハ ー バ ー ス 氏 管 を含 み,骨 形 成 と吸 収 が 各 所 で 見 ら れ る 内 部 改 造 の 活 発 な 骨 梁 の 不 規 則 で 密 な 配 列 か ら な っ て い る 。 た だ し,近 心 根 に 面 す る 歯 根 膜 面 で は 骨 形 成 が さ か ん で,遠 心 根 に 面 す る 部 分 で は 吸 収 が 活 発 で あ る。 海 綿 骨 部 と先 に の べ た 固 有 歯 槽 骨 と の 境 界 は 構 造 上 は っ き り しな い 。 そ れ は 石 灰 化 度 の 異 な る骨 質 の モ ザ イ ク状 の 集 合 よ り な る 太 い 骨 梁 の 網 目状 の 配 列 か らな っ て い る 。 そ の 中 に は,多 数 の ハ ー バ ー ス 氏 管 を 含 ん で お りreplacement osteonの 形 に よ る骨 改 造 の 活 発 な進 行 が う か が わ れ る。 そ の 分 布 密 度 は 上 方 と下 方 で そ れ ほ ど の 違 い は な い が,根 尖 レ ベ ル よ りや や 上 方 で 終 っ て い る 。 下 顎 管 上 縁 は,太 く,長 い 骨 質 の と ぎ れ と ぎ れ の 一 列 か ら な っ て お り,そ の 内 部 で は 骨 改 造 が 活 発 で あ る 。 これ と先 の 海 綿 骨 部 の 下 端 と の 間 に は 骨 質 を 含 ま な い 広 い ス ペ ー ス が 見 ら れ る 。 下 顎 骨 下 縁 緻 密 骨 は,多 数 の 横 走 す るハ ー バ ー ス 氏 管 を含 ん だ 石 灰 化 度 の さ ま ざ ま な 骨 質 の極 め て 密 な 集 合 か ら な っ て い る が,そ の 上 方1/4で は 石 灰 化 度 の低 い 骨 質 の 分 布 密 度 は 高 く,下 顎 管 に 面 す る 部 分 の 各 所 で 骨 の形 成 が 見 られ る。

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高橋 学:ウ シ の歯槽 骨構 造 の成 長 変 化 1131

Fig. 12 10 years after birth. Microradiogram of mesiodistal ground section of the lower second and third premolars and first molar and their surrounding alveolar bone. (•~2) (5)  萌 出 後 末 期 咬 耗 は 前 の 段 階(Fig.11)よ り い っ そ う 進 行 し,歯 冠 は 歯 頸 部 に近 い ご く一 部 が 残 っ て い る段 階(Fig.12のP2,P3)か ら歯 冠 部 が 全 く消 失 し て,咬 合 面 は 平 担 に な っ て い る 段 階 ま で あ る(Fig. 12のM1)。 そ れ に 伴 っ て 歯 牙 は い っ そ う上 方 へ 挺 出 して い る(Fig.14)。 歯 根 の 分 岐 部 内 側,な らび に 根 尖 部 で は 細 胞 性 セ メ ン ト質 が 厚 く形 成 さ れ て お り,そ れ は 象 牙 質 か ら な る 本 来 の 歯 根 の 幅 よ り も厚 い 。 槽 間 中 隔 部(Fig.12のP2とP3の 間,P3と M1の 間)で は 歯 槽 骨 は 消 失 し て お り,各 歯 根 は ご く狭 い ス ペ ー ス を 介 して 密 接 して い る。 そ の 部 で は 細 胞 性 セ メ ン ト質 は 吸 収 され て い る。 さ ら に 一 部 で は ,吸 収 は 象 牙 質 に ま で 及 ん で い る。 槽 内 中 隔 で は,固 有 歯 槽 骨 と海 綿 骨 部 の 区 別 が 前 段 階 同 様 不 明 瞭 で,多 数 の ハ ー バ ー ス氏 管 を含 む 石 灰 化 度 の さ ま ざ ま なosteon集 合 か ら な る 太

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歯 基 礎 誌26: 1116-1143, 1984.

7 months in utero 10months in utero 8days 3 months

Fig. 13 Tracing of microradiograms showing the structural changes of alveolar bone due to development , eruption and continuous occlusal migration, of the lower deciduous third molar .

1•¡: Crest of the interdental alveolar septa 2•œ: Cement-enamel junction

3•£: Crest of the interradicular alveolar septa

い骨 梁 が,根 分岐 部 直 下 よ り 下顎 管 上 縁 に か け て 極 めて密 に網 状 に分 布 して い る。 骨 梁 表面 の各 所 で は吸 収 が 認 め られ,ま た,先 に述 べ た さま ざ ま な石 灰 化 像 か ら骨 の改造 が活 発 に進 行 して い る こ とがわ か る。 これ らの 中 で も,根 分岐 部 付 近 では 骨 梁 は細 く分 布 も疎 な傾 向 が あ り,そ の各 所 で 吸 収 像 が見 られ る。 そ れ に対 し,根 尖 を取 り囲 む レ ベル に入 る と,骨 梁 は太 くな り密 度 も高 くな る傾 向 が 明瞭 で あ る。 また,こ の前 の段 階 ま で に見 ら れ た 下顎 管 上縁 を示 す幅 狭 い一 列 の骨 梁 の 存在 は 見 られ な い。 下顎 骨 下縁 緻 密 骨 では,前 の段 階 に比 べ そ の厚 さを一 層 増 して い るが,特 に注 目 され る の は上 方 2/ 3の 層 では,長 い骨 梁 の疎 な網 状 の配列 か らな っ て い る こ とで あ る。 そ れ に対 して 下方3/5で は,横 走 す るハ ーバ ー ス氏 管 を含 む石灰 化 度 の さ ま ざ ま な骨 質 の極 めて 密 な集 合 か らな って い る。 C.  歯 の発 育 に 伴 う 歯 と歯 槽 骨 各 部 の位 置 関係 の 変 化 歯 の発 育 と萌 出 に伴 って歯 と 歯 槽 骨 の各部 分 の 位置 的 な関 係 が どの よ うに変 化 して い くか を 観 察 す る た め に,マ イ ク ロラ ジオ グ ラム上 に トレー シ ン グフ ィル ム を置 き そ の上 で石 灰 化 部位 の トレー ス を行 な い,そ の トレー シ ン グ図 を年齢 順 に下顎 骨 の下 縁緻 密 骨 の下 端 を ほぼ 同 レベ ル に置 いて配 列 し,比 較 観 察 を試 み た。 (1)  乳 臼歯 発 育 に伴 う変 化(第3乳 臼歯 部 で の 所 見)(Fig.13) 胎 生7ヵ 月 か ら生 後8日 目に至 る間,形 成 され つ つ あ る根 の尖 端 は 下顎 管 の 上 縁 の レベ ル に位 置 して い る。 そ れ と下 顎 骨 下縁 との間 はわ ず か に増 す が,そ れ はお も に 下縁 の緻 密 骨 の厚 み の増加 に よ る もの で あ る。 生 後3ヵ 月 に入 る と 根 尖 と緻 密 骨 下縁 との間 の距離 は増 して い るが,こ れ は咬 耗 に伴 う歯 牙 全 体 の上 方 へ の挺 出 と緻 密 骨 の厚 み の

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高 橋 学:ウ シ の歯 槽 骨 構 造 の成 長 変 化 1133 増加 に よ る も の で あ る。 胎 生 期 か ら生 後8日 目 ま で の 槽 間 中 隔 の 歯 槽 頂 は エ ナ メ ル ・セ メ ン ト境 よ り上 方 に 位 置 し,こ の 間 これ ら2つ の 点 の 間 の 距 離 は あ ま り 変 化 し な い 。 こ の よ う な 所 見 は,歯 牙 の 形 成 と 萌 出 の 程 度 とバ ラ ン ス を と っ て 歯 槽 頂 部 も 上 方 に 向 っ て 骨 の 形 成 を続 け て い る こ と を 示 し い る。 しか し生 後3 カ月 目 に な る と,エ ナ メ ル ・セ メ ン ト境 と槽 間 中 隔 の 歯 槽 頂 の位 置 関 係 は そ れ 以 前 の そ れ と は 逆 転 し,歯 槽 頂 は エ ナ メ ル ・セ メ ン ト 境 よ りわ ず か で あ る が 下 方 に 位 置 す る よ うに な る 。 こ の よ うな 所 見 は,歯 槽 頂 の 形 成 に は 限 界 が あ り,咬 耗 に 伴 う 歯 牙 の 挺 出 が 起 っ て も,も は や 歯 槽 骨 の上 方 へ の 形 成 は そ れ に 伴 わ な い こ と を 示 して い る 。 (2)  永 久 歯 発 育 に 伴 な う 変 化(大 臼 歯 部 で の 所 見)(Fig.14) 歯 根 の 形 成 段 階 に あ る 根 尖 は 常 に下 顎 管 上 縁 と 密 接 して い る が(1年6ヵ 月 のM3,M2),歯 根 の 形 成 が 完 了 し た 頃(1年6ヵ 月 のM1)か ら以 後, 咬 耗 の 進 行 に 伴 っ て 増 齢 的 に 下 顎 管 の 上 縁 か ら離 れ 次 第 に上 方 に 移 動 し て い る(2年6ヵ 月 のM1 か ら10年 ま で のM1)。 極 め て 興 味 あ る こ と は,こ の間,歯 牙 の 挺 出 に 伴 っ て 槽 内 中 隔 の 頂 は 上 方 へ の 形 成 を進 め緻 密 骨 の 下 縁 と の 間 の 距 離 は 広 が っ て 行 くの に 対 し て,槽 間 中 隔 の 頂,な らび に 咬 合 面 と緻 密 骨 下 縁 と の 間 の 距 離 は 終 始 ほ と ん ど変 わ らな い こ と で あ る。 こ の よ う な 所 見 は,槽 間 中 隔 の頂 の レベ ル は 根 の 形 成 の か な り 早 い 段 階 か ら、 ま た,咬 合 面 の レベ ル は 萌 出 し た 直 後 か ら決 定 さ れ て お り,そ の 後 著 し い 歯 牙 の 挺 出 が 進 行 して い る 間 で もそ れ ぞ れ の レベ ル を 維 持 し て い る こ と を 示 して い る 。 しか し,咬 耗 が 一層 進 行 し エ ナ メ ル ・セ メ ン ト 境 レベ ル を 歯 根 側 に 越 し た 頃 に は,歯 牙 の 上 方 へ の 挺 出 ば か りで な く側 方 へ の 移 動 も著 し く進 行 し て お り槽 間 中 隔 は 消 失 し て い る(10年 のM1) 。 こ の段 階 で は 咬 合 面 は 低 くな り,も は や 激 しい 咬 耗 に対 応 して 挺 出 を続 け る こ と が で き な くな っ て い る。 た だ し,槽 内 中 隔 は 歯 牙 の挺 出 程 度 に 合 わ せ て形 成 され て い る。 し か し こ の よ うな 状 態 は,お そ ら く挺 出 の 限 界 に ま で 及 ん で い る こ と を 示 して い る も の と思 わ れ る 。 次 に興 味 あ る所 見 は,槽 間 中隔 は固 有 歯槽 骨 の 幅 が 広 く海 綿骨 の分布 密 度 が比 較 的 密 な上 方 の部 分 と,固 有 歯 槽骨 の幅 が狭 く 海 綿骨 の疎 な下 方 の 部 分 に分 け られ る こ とはす で に述 べ た が,そ の境 界 の レベ ル とエ ナ メ ル ・セ メ ン ト境 との関係 を見 る と,は じめ の段 階 で は境 界 は エ ナ メル ・セメ ン ト境 の上 方 に あ るが,萌 出 が進 む に従 って エ ナ メ ル ・セ メ ン ト境 を越 して根 尖 側 に移 動 し,つ い に は根 尖 レベ ル にま で お よぶ よ う に な る こ とが わ か る。 一 方 ,槽 内 中隔 の海綿 骨 の 分 布 密 度 を見 る と, 萌 出 の当 初 は全 体 にわ た っ て著 し く疎 で あ る が, 萌 出 が 進 む に従 い根 分岐 部 直 下 か ら緻 密 化 が始 ま り,そ の範 囲 はつ い に は 根 尖 レベ ル に ま で及 び (5年),さ らに挺 出 が進 む と根 尖 レベ ル よ り下 方 に ま で及 ぶ こ とがわ か る。 IV  総 括 と考 察 1.  われ われ の 教 室 に お け る 歯槽 骨構 造 につ い て の従 来 の 研 究 に つ い て 歯槽 骨 は,咀 嚼 に際 して歯 に加 わ る 機 能 圧 に対 応 した機 能 的 構造 を持 って い る。 われ わ れ の 教室 では,そ の構造 の機 能 との係 わ り合 い,人 為的, な らび に病 的条 件 の下 で の 変化 を明 らか に す る た め に,イ ヌ を用 い て系統 的 な実 験 的 研究 を進 め て きた。 そ の際,大 研 磨 片 の ラベ リン グ像 の螢 光 顕 微 鏡 法 に よる観 察 と,石 灰 化 像 のマ イ ク ロラ ジオ グラ フ ィー に よ る観 察 が用 い られ た。 それ を整 理 して み る と,次 の よ うで あ る。 歯槽 骨 は歯 根膜 に沿 い,歯 根 膜 線 維 を封 入 して 緻 密 に配 列 して い る固 有 歯槽 骨 と,そ の外 側 を占 め,支 えて い る支 持 歯槽 骨(そ の 多 く は 海 綿 骨 部)と か らな っ て い る。 生 理 的 な歯牙 移動 に あ た って は圧 迫 側 と牽 引 側 の固 有 歯槽 骨 に そ れ ぞれ 特 徴 ある変 化 が起 り,歯 牙 と歯 槽 骨 との相 対 位 置 の 変化 に対 応 しよ う とす る。 一 方,注 目す べ き こ と は それ と同 時 に海 綿 骨 部 に も 活 発 な内 部 改 造 が進 行 して,目 ま ぐる し く変 化 す る咬 合 状 態 にふ さわ しい機 能 構 造 を常 に 維 持 しよ う と して い る こ とで あ る9)。 咬 み 合 せ状 態 を さま ざ まに 変 え る こ とに よ って 起 る構 造 変化 か ら歯 槽骨 の 各 部 分 が 果 す役 割 を確

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歯 基 礎 誌26:1116-1143,1984.

M3

M2

M1

1.5 years 1.5 years 1.5 years

Fig. 14 Tracing of microradiograms showing the structural changes of

alveolar bone due to 1•¡: Crest of the interdental alveolar septa

2•œ: Cement-enamel junction か め よ う と した 。 対 合 歯 を抜 去 す る こ と に よ り, 最 も著 明 な 変 化 を 示 した の は 海 綿 骨 部 で,そ の 多 孔 化 で あ っ た13)。 ま た,過 剰 な 咬 合 圧 を 加 え た こ と に よ っ て 著 しい 変 化 が 現 わ れ た の も 同 じ 部 位 で,そ の 骨 梁 分 布 の 緻 密 化 が 起 っ た15)。こ れ ら の こ と か ら,海 綿 骨 が 固 有 歯 槽 骨 に 加 わ っ た 機 能 圧 の 分 散 に 重 要 な 働 き を して い る こ と が 想 像 さ れ る。 抜 歯 に 続 い て 起 る 歯 槽 骨 変 化 は,抜 歯 窩 内 で の 新 生 骨 形 成 だ け で は な い。 そ れ を 取 り囲 む 歯 槽 骨 の 各 部 分 に 現 わ れ る 構 造 変 化 も重 要 で あ る1,3,16) これ は,歯 の喪 失 に よ って起 っ た機 能 の条 件 変化 に よ る2次 的 変化 で,そ れ は海 綿 骨 部 に起 っ た多 孔 化,下 顎 骨 の外 周 を 占 め る緻 密 骨 の 吸収 や 添加 に よ る輪 廓 の変 化,緻 密 骨 内壁 の輪 廓 の変 化 ,な どで あ っ た。 矯 正 学 的 な歯 牙 移動 に際 して も,歯 根 を取 り囲 む 固有 歯槽 骨 に起 る圧 迫 側 と牽 引 側 の それ ぞ れ に 特 有 な変化 ば か りで な く,海 綿 骨 を主 とす る支 持 歯 槽 骨 の機 能 構 造 の変 化 が 注 目 さ れ て い る2,5) 補 綴 物(架 工 義 歯)を 装 着 す る こ と に よ って,そ

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高橋 学:ウ シの 歯槽 骨構 造 の成 長 変化 1135

2.5 years 5 years 10 years

development, eruption and continuous occlusal migration , of the lower permanent molar. 3▲:Crest of the interradicular alveolar septa

4※:Lower margin of mandible

の支 台歯 に強 い異 常 な 方 向性 を持 っ た 機 能圧 が加 わ った場 合 に も海 綿 骨部 に 目 ざま しい 改造 変化 が 進行す るの が観 察 され た4)。 歯牙 の萌 出 過程 で も海 綿 骨 を主 とす る支 持 歯 槽 骨 の改造 変 化 の活 発 化 を 無 視 す る こ と はで き な い。 これ も萌 出 に伴 って 目 ま ぐる し く 変 わ る機 能 圧 の方向 や程 度 の変 化 に対応 す る もので,萌 出 が 終 わ る と,そ れ は にわ か に安 静 化 す る こ とが わ か った8,12)。 歯 の根 尖 部 や歯 頸 部 に炎 症 病巣 を 起 させ る と, そ の周 囲 に は吸 収 を主 とす る 著 しい破 壊性 の変 化 が起 る。 しか し,そ れ と平 行 して,従 来 あ ま り注 目 され て い な か った が そ の外 側 の広 い 範 囲 を 占 め る海綿 骨 部 や 下 顎 管 の壁 に,極 めて活 発 な改 造 変 化 が進 行 す る こ とが 明 らか に され た6,10)。 以 上 の各種 の 実験 を通 して 注 目 され た重 要 な事 実 を要約 す る と次 の よ うに な る。 (1) さま ざま な生 理的,ま た は病 理 的 な過程 で 起 る骨 変化 は,作 用 の加 わ った局 所 に現 わ れ る変 化 と,そ れ よ り離 れ た部 分 に現 わ れ る 変 化 とに分

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歯 基 礎 誌26:1116-1143,1984. けて考 え る べ き で あ るそ れ ぞれ の変 化 の 内 容 は異 な って い る。 (2) 作 用 が直接 加 わ った部 分 で の 変化 は比 較 的 早 期 に現 わ れ,完 了す る の に対 して,そ れ よ り離 れ た部 分 に現 われ る変 化 は比 較 的 遅 く現 わ れ ,長 い 時 間 をか けて 進 行 す る。 (3) 作 用 の加 わ った部 位 に現 わ れ る 変 化 の範 囲 は比 較 的 狭 い が,そ れ よ り離 れ た部 位 に現 わ れ る 変 化 の出 現 範 囲 は驚 くほ ど広 い。 (4) 局所 変 化 は作 用 に対 す る 直 接 的 な反 応 で機 能 に 関連 す る こ とは 少 な い。 それ に対 して そ の外 側 か ら遠 隔 部 にか け て現 わ れ る 変化 は作 用 に対 す る 間接 的 反 応 で歯 槽 骨 全 体 の 機 能構 造 に係 わ る も の で あ る。 歯 槽 骨 の各 部 位 が持 つ基 本 的 役割 や さ ま ざま な 条 件 に対 す る反 応性 の違 い を知 る にあ た っ て,こ の よ うな実 験 の系列 が極 めて 有効 で あ る こ とは論 をま た な い。 しか し,そ の他 に,食 性 や 歯牙 の形 態 の異 な る動 物 の歯 槽 骨 の 構 造 を比較 解剖 学 的 な 観 点 か ら観 察 す る こ と も極 めて 有効 で あ る と考 え られ る。 本 研 究 はそ の よ うな研 究 の一 つ で あ る。 わ れ われ の教 室 で 実験 に用 い られ て き たイ ヌ は 肉 食 獣 で あ り,そ の歯 の歯冠 は 肉 を引 き 裂 くの に適 した形 態 を とっ て い る。 本研 究 では,そ れ とは 全 く食 性 を異 に し(草 食 性),し か も歯 の形 態 も異 な る ウ シの歯 槽 骨 に現 われ る 生 理的 変 化 のパ ター ン を経 時 的 に観 察 した もので あ る。 ウシ の歯 に は,次 の よ うな特 徴 が あ る。 1)  食性 が草 食 で あ る こ とに関連 して,歯 冠 の 咬 合 面 は 臼磨 運 動 をす るの にふ さ わ しい形 態 をそ な えて い る。 2)  臼磨 運 動 に伴 って,常 に激 しい咬耗 が進 行 して い る。 3)  歯冠 長 は歯 根 長 よ り もは るか に長 く,激 し い咬耗 に伴 っ て 著 明 な垂 直 方 向 へ の歯 牙 移 動 をか な り長 い期 間 にわ た っ て とげ る。 以 上 の よ うな,独 特 な状 況 の もとで 歯槽 骨 の構 造 を観 察 す る と,従 来 の研 究 とは 別 の 方 向 か ら機 能 圧 に対応 した歯 槽 骨 の構 造 を と ら える こ とが で き る。 この よ うな観 点 か ら ウシの 歯槽 骨 を観 察 し た研 究 は ま だ行 な われ て いな か っ た と思 わ れ る。 2.  ウ シの 歯(臼 歯)の 形 態 と特 徴 ウシ の歯 は,ヒ トや イ ヌ な ど と比 べ て,極 めて 特 徴 的 な形 態 を持 って お り,そ れ が 歯槽 骨 の構 造 変 化 に反 映 して い る と考 え られ る。 そ こで,歯 槽 骨 の 構造 変 化 を論 じる前 に そ の歯 の 特 徴 を述 べ て お くこ と にす る。 乳 菌 と永 久 歯 を比 べ る と,永 久 歯(特 に大 臼歯) の方 が,ウ シの歯 と して の 形 態的 特徴 を よ く表 わ して い る と思 わ れ るの で,そ れ に つ い て述 べ る。 勿 論,乳 臼 歯,な らび に永 久 小 臼 歯 も,大 臼歯 に 類 似 した形 態 を持 って い る。 ウ シの歯 の第1の 特 徴 は,萌 出 直前 にお いて歯 冠(解 剖 学 的 歯冠)は す で に極 めて 大 き く形 成 さ れ て い るの に対 し,歯 根 は ま だ ご くわ ず か に しか 形 成 され て い な い こ とで あ る。 この極 め て大 きな 歯 冠 は,歯 根 の形成 が始 ま る前 に長 い期 間 をか け て形 成 され て い た の で あ る23)。歯 冠 の頂 が萌 出 し た後 の しば ら くの間 は,臼 磨運 動 の 著 しい ウシの 食 性 か らそ の部 で著 しい咬 耗 が進 行 して い る一 方 で 歯根 は そ の形成 を続 け て い る。 歯 根 の形 成 が完 了 した時 点 に お い て,す で に 咬 合面 の 歯 質 は咬耗 に よ って か な り消 失 して い る。 今,失 わ れ た歯 質 を含 めて歯 冠 長 と歯 根 長 と を比 較 す る と前者 は後 者 の約4倍 に も及 ぶ(Fig.15)。 この萌 出 前 に形

Fig. 15 Drawing showing the longitudinal

sec-tion of cow molar.

C-Cementum D-Dentin E-Enamel

Fig.  la  Dental  formula  of  cow .
Fig.  2  7  months  in  utero.  Microradiogram  of  mesiodistal  ground  section  of  mandibular
Fig.  4  8  days  after  birth.  Microradiogram  of  mesiodistal  ground  section  of  mandibular        bone  containing  the  deciduous  molar  germs  (right  is  mesial)   (x  2) .
Fig.  6  1.5  years  after  birth.  Microradiogram  of  mesiodistal  ground  section  of          the  lower  permanent  premolars  and  their  surrounding  alveolar   bone(  x2) .
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参照

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