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環境経済学

2016年12月2,9,16日

九州大学大学院 経済学研究院

藤田敏之

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6 環境政策手段

6.1 直接規制(1)

政府が環境基準を法律的に義務づけ,直接企業に遵守させるタイプの 規制が直接規制 環境基準を守れない企業は罰金,操業停止などの処分を受ける 中央集権的な規制であり,過去の公害問題においては直接規制が環境 政策の主な手段であった 環境基準・・・排出量基準,技術基準,排出原単位基準 政府の役割 (1)社会的に最適な排出量(削減量)の導出・・・5章のe*を実現 (2)総排出量の各企業への割り当て・・・次節で説明する限界費用均等 化が必要

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6.1 直接規制(2)

複数の企業が存在する場合,ある削減目標を最小費用で達成するには, すべての企業の限界費用が等しくなければならない

これを限界費用均等化原理とよぶ (例)企業A, Bの規制

MACA,MACB:企業A,Bの限 界削減費用 総排出量を e* にしたいとき, 両企業の限界費用が等しくな るようにA,Bの排出量をeA, eB (e*=eA+eB)にするのが効率的 費用が最小(図の斜線部分) Bの削減 金 額 排出量 MACA MACB oA oB 総排出量目標 e* eA eB Aの削減 金 額

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6.1 直接規制(3)

限界費用均等化原理の直観的意味 ある規制の下で限界削減費用が等しくない場合,限界費用の高い企業 に多くの排出をさせてその分の削減を低い企業にさせれば,総削減量 は同じで全体の費用は低くなる.限界費用が等しいときはこのような調 整を行う余地がない さきほどの例で企業A, B に(eA, eB)とは異なる規制 (eA’, eB’)を課すとき,総費 用は大きくなり,損失(斜 線部分)が生じることにな ってしまう Bの削減 金 額 排出量 MACA MACB oA oB 総排出量目標 e* eAeB’ Aの削減 金 額

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6.1 直接規制(4)

直接規制を適切に行うためには,政府が限界削減費用,限界外部費用 についての情報を持っていなければならない 地球温暖化など汚染者が不特定多数存在する場合には,限界費用均 等化原理がみたされることは期待できず,効率的な規制を行うことは困 難である.また規制を遵守しているかどうかを監視(モニター)するため の行政費用もかかる 特定の企業が規制を戦略的に利用しようとして政府にロビイングを行う ことがある 技術指定型の規制の場合,企業の削減技術開発への誘因を損なう可能 性がある 近年では,直接規制の形態として,政府と企業との交渉によって規制が デザインされる自主的取り組み(片務的公約,自主協定,公的自主計 画)が一般的になっている

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6.2 ピグー税(1)

最適な(効率的な)排出水準における限界削減費用(=限界外部費用) を排出量1単位あたりの税金として課す政策をピグー税とよぶ 生産活動における環境の利用への価格づけ(価格割当) 企業行動 税率 t が与えられれば,企業は限 界削減費用が t となるような排出量 e を合理的に選択 (税支払い額+削減費用を最小化) A:税支払い額,B:削減費用 t e 金 額 排出量 MAC A B o

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したがって 最適排出水準 e* に対応 する限界削減費用 t* が 最適税率となることがわ かる

6.2 ピグー税(2)

最適ピグー税率 t* e* 排出量 MAC MEC o t e 金 額 排出量 MAC o e’ 排出量がe’の場合 t e 金 額 排出量 MAC o 排出量がe’’の場合 e’’ e以外の排出量を選択すると企業にとっての費用が増す 金 額

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6.2 ピグー税(3)

ピグー税は複数の汚染者について自動的に限界費用の均等化(限界費用 =税率)をもたらすという点で,直接規制よりも優れている 既存の税をピグー税に置き換えることにより,汚染の減少,既存の税のも たらす死荷重の緩和という2つのメリットを同時に達成する(二重の配当) 地球環境問題のような不特定多数の排出源が存在する場合の規制にふさ わしい手段 しかし最適税率を決定する際に必要な情報量は莫大であり,企業からの抵 抗もあることから,厳密な意味でのピグー税という手段が現実に用いられた ことはない.現実の税政策としてごみ有料化,産業廃棄物税などがあるが, これらの税率は低すぎるので単なる財源調達手段とみなされる 削減目標を適当に定め,試行錯誤的に税率を変更することにより目標を最 小費用で達成しようとするボーモル=オーツ税のほうが現実的 税金のかわりに削減量1単位あたりの補助金を企業に与えるという政策も 考えられる

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6.2 ピグー税(4)

●簡単な数式による表現 企業 企業 i の排出量を xi とおき, とおく 利益Bi(xi) Bi’ > 0, Bi’’ < 0,被害D(x) D’ > 0, D’’ > 0 社会的に最適な排出量の決定 最大化のための1階条件は この式をみたすxi をxi*とおき, とおくと ここでピグー税率を t とする 企業の利益は となり,これを最大化するxi をxi*とおくと よって とおけば最適になる (限界削減費用均等化)

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●デポジット制度のメカニズム OP: 飲料の価格 DD’: 飲料の需要曲線,PP’: 供給曲線 PT: 投棄される容器1つあたりの外部 費用(一定とする) PQとPP’の垂直距離: 容器の限界回収 費用 TT’ : 飲料の社会的限界費用(使用済 み容器が投棄される場合)

6.3 デポジット制度(1)

税,補助金制度を組み合わせた政策としてデポジット制度(またはデポ ジット・リファンド制度,預託金払戻制度)がある デポジット制度・・・使用済み飲料容器の投棄行為による環境悪化を規 制するために,飲料の価格に一定の預り金(デポジット)を上乗せして, 容器を所定の場所に返却した人にデポジットを払い戻す制度 O 金 額 数量 P P’ Q D’ D T 限界回収費用 T’

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社会全体の利益 i) a+b-d ii) a+b iii) a+b+c (これが社会的最適) デポジット制度の利点 ・投棄行為を監視する必要がない ・デポジットを上下させて投棄量をコ ントロールできる

6.3 デポジット制度(2)

消費者の合理的行動を考えると i) 規制なしのとき OC消費し,すべて投棄 ii) PTのデポジットを課すとき OB消費し,すべて投棄 iii) さらに回収した人にデポジットを返却するとき OB消費し,OA回収 O 金 額 数量 P P’ Q D’ D T B C A a b c d T’

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6.4 排出量取引ーキャップ・アンド・トレード(1)

政府が汚染物質の排出に権利を与え,一定の排出権(クレジット,排出 許可証)を発行し各企業に割り当てる(ここまでは直接規制と同じ) 企業の排出権の売買を許容する → 排出権の市場ができ,排出権価格が決定され取引が行われる 排出量の上限(キャップ)が決まり,総量規制がなされる(数量割当) 排出量 Aの限界 削減費用 このような取引はキャップ・ア ンド・トレード方式と呼ばれる wA, wB: 排出権の割り当て (初期配分,排出枠) e* = wA+wB 初期配分においてはAの限界 削減費用がBよりも高い → 取引の機会 金 額 MAC A MACB oA oB 総排出量目標 e* wA wB 金 額 Bの限界 削減費用

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6.4 排出量取引ーキャップ・アンド・トレード(2)

排出権価格が限界削減費用より低ければ,排出権を買うほうが得 排出権価格が限界削減費用より高ければ,排出権を売るほうが得 ある価格のもとでAは排出権の需要者,Bは供給者になり,排出量取引 が生じる → このような取引は両者の限界削減費用が等しくなるまで続く 排出権の均衡価格 p は限界削減費用に等しくなる MACA MACB oA oB wA wB MACA MACB oA oB wA wB p eA eB 取引量 eA-wA =wB-eB 排出権価格

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6.4 排出量取引ーキャップ・アンド・トレード(3)

Aの費用 a+b → a+b-c cだけ減少 Bの費用 d → d+f-(e+f)=d-e eだけ減少 両 者 と も 取 引 に よ っ て 得 を す る d

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6.4 排出量取引ーキャップ・アンド・トレード(4)

排出権がどのように配分されても,公正な取引が行われれば,各企業の 限界費用は排出権価格に等しくなり,限界費用均等化原理が成り立つ. 排出権の均衡価格は最適ピグー税率と一致する 初期配分に関係なく効率性はみたされるが,各企業の利益は初期配分 に依存するので衡平性は保証されない キャップ・アンド・トレード方式の排出量取引が成功した例として,アメリカ 国内での二酸化硫黄があげられる またCO2排出量取引がEU域内,米国,カナダの一部において実施され, 日本やオーストラリアでの導入が検討されている 排出量取引は目標としたい規制水準がはっきりしているとき有効 問題点・・・排出権総量・初期配分の決定方法,市場における不完全競 争,排出量遵守のためのモニタリングにかかる費用

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6.4 排出量取引ーキャップ・アンド・トレード(5)

●数式による表現 企業 利益 Bi(xi) 企業 i の排出量を xi とおき,初期配分を とおく さらに排出権価格を p とおくと,企業 i の総利益は をみたす xi

とおく をみたすp*が均衡価格 均衡においては, 限界削減費用の均等化が達成される

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Kyushu University UI project Kyudai Taro,2007

6.5 ベースライン・アンド・クレジット(1)

排出量取引には削減プロジェクトの削減効果を排出権として認証するベー スライン・アンド・クレジット方式という形態もある 例:京都議定書の共同実施(JI):先進国同士の共同プロジェクトでCO2を 削減し,投資国が削減分の排出権を得る クリーン開発メカニズム(CDM):先進国がCO2削減プロジェクトを途上国 において実施し,削減分の排出権を得る cf. 経済産業省の国内CDM MACA MACB oA oB e* wA wB Bには削減 義務がない MACA MACB oA oB wA wB eA eB B国での削 減によって A国が得る 排出権 A:CDM投資国,B:CDMホスト国 A国の技術を 用いた場合の 限界削減費用

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oA

6.5 ベースライン・アンド・クレジット(2)

Aの費用 a+b → b aだけ減少

Bの費用 変化なし(長期的には技術獲得によるメリットがある) ※ここに示したのは極端な例であり,個々のCDMプロジェクトによる削減 は小さい.またAがBに対していくらか排出権価格を支払うことも考えられる 問題点・・・プロジェクト効果の認証(追加性) MACA MACB oB wA wB MACA MACB oA oB wA wB eA eB b b a a

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6.6 環境政策の比較(1)

限界削減費用と限界外部費用が既知の場合,税政策と排出量取引(総 量規制)政策は同じ効率的な結果を導く ピグー税率 t* により排出量 e* が達成される 初期配分 e* により排出権価格 t* が決定される 金 額 排出量 MAC MEC o e* しかし不確実性が存在する場 合,効率的な状態を単一の政 策で達成することができず,両 政策の効果は異なる 以下では政府がもつ企業の限 界削減費用についての情報が 不確実である場合について説 明する(Weitzmanの議論) t*

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6.6 環境政策の比較(2)

限界削減費用がMACH,MACLである確率がそれぞれ1/2であるとし,そ の平均がMACであるとする 税政策の場合,政府は税率 t のピグー税を課す 金 額 排出量 MAC MEC MACL MACH o t eL eL* eH* eH 限界削減費用がMACHならば 税率tH*によりe H*という排出量 を実現するのが最適であるが, 実現される排出量はeH 同様にMACLならば税率tL*に よりeL*という排出量を実現する のが最適であるが,実現され る排出量はeL 2つの赤い領域の面積の平均 が損失(の期待値) tH* tL*

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6.6 環境政策の比較(3)

排出量取引政策の場合,政府はeの排出量に相当する排出権を発行し 企業に配分する 金 額 排出量 MAC MEC MACL MACH o e e L* eH* 限界削減費用がMACHならば 実現される排出権価格はtH 限界削減費用がMACLならば 実現される排出権価格はtL 2つの紫の領域の面積の平均 が損失の期待値 tH tL

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6.6 環境政策の比較(4)

どちらの政策が望ましいかは限界削減費用曲線,限界外部費用曲線の 相対的な傾きに依存する 金 額 排出量 MAC MEC MACL MACH o t e 限界外部費用曲線の傾きが 急のとき 図からわかるように排出量取 引政策のほうが望ましい (税政策の場合汚染排出量が 大きく変動し,甚大な被害が発 生するリスクがある) eL eH

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Kyushu University UI project Kyudai Taro,2007

6.6 環境政策の比較(5)

限界外部費用曲線の傾きが 緩やかなとき 税政策のほうが望ましい (排出量取引政策の場合排出 権価格のズレにより大きな非 効率性が生じる) 金 額 排出量 MAC MEC MACL MACH o t e eL eH 閾値を越えると深刻な被害が発生するような汚染 → 排出量取引 限界外部費用がほぼ一定の汚染 → ピグー税

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6.7 環境政策の併用

不確実性が存在するとき単一の政策では必ず非効率が生じてしまう そこで数量規制と税政策の併用を考える.規制対象は1つの企業とし, 排出量取引は考慮しない(限界削減費用はMACH,MACLの2通りで政 府にとっては不確実) 政府はまずeの排出を命じる.そして 実現された排出量がeより大きいとき, 超過分1単位あたりpの税を課す.逆 にeより小さいとき,削減分1単位当 たりsの補助金を支払う このルールのもとで,企業の限界削 減費用がMACHならば排出量eH*が 選択され,MACLならばeL*が選択さ れるので,効率性が達成される (Roberts and Spenceの議論)

金 額 排出量 MAC MEC MACL MACH o p e eL* eH* s

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参考図書

●直接規制 柴田弘文『環境経済学』東洋経済新報社,第8章,pp. 145-151. ●ピグー税,デポジット制度 柴田弘文『環境経済学』第9章,pp. 153-164, pp. 172-176. 細田衛士・横山彰『環境経済学』有斐閣アルマ,第7章,pp.165-170. 時政・薮田・今泉・有吉『環境と資源の経済学』勁草書房,第4章,pp. 67-74. ●排出量取引 柴田弘文『環境経済学』第9章,pp. 176-184. 時政・薮田・今泉・有吉『環境と資源の経済学』第4章,pp. 74-79. ●環境政策の比較,環境政策の併用 コルスタッド『環境経済学入門』第2版,有斐閣,第10章, pp. 193-202. 時政・薮田・今泉・有吉『環境と資源の経済学』第4章,pp. 79-82.

参照

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