物上代位に関する一考察
著者
相川 修
著者別名
AIKAWA Osamu
雑誌名
白山法学
巻
14
ページ
1-25
発行年
2018-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00010184/
物上代位に関する一考察
相 川 修
Ⅰ はじめに Ⅱ 判例・学説 1 伝統的判例理論 ( 1 ) 最高裁判決平成 1 年10月27日(民集45巻 3 号268頁) ( 2 ) 最高裁判決平成10年 1 月30日(民集52巻 1 号 1 頁) ( 3 ) 最高裁判決平成12年 4 月14日(民集54巻 4 号1552頁) ( 4 ) 最高裁判決平成13年 3 月13日(民集55巻 2 号363頁) ( 5 ) 最高裁判決平成14年 3 月12日(民集56巻 3 号555頁) ( 6 ) 小括 2 学説の変遷(平成10年 1 月30日判決を起点とした学説の推移) ( 1 ) 平成10年 1 月30日判決までの学説状況 ( 2 ) 平成10年 1 月30日判決以後の学説状況 Ⅲ 結びに代えて Ⅰ はじめに わが民法は、先取特権の章の第304条において、「先取特権は、その目的 物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の 物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡 し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。」と規定する。これ は、一般の先取特権や動産の先取特権の場合、公示制度が不確定であり、 例えば先取特権の目的物である動産が第三者に処分されたときには、先取 特権の追及効が切断されることから生ずる不利益を補うものであるとされ ている(1)。これに対して、不動産を客体として設定される抵当権は、登記が対抗要件であり、売買の場合については、登記の追及効に加えて、代価弁 済及び旧制度の滌除(抵当権消滅請求)の規定が存在するため、物上代位 は積極的には要さないとされてきた(2)。また、賃貸の場合についても、抵当 債務者及び物上保証人の収益権能を尊重し、その収益から債務の弁済を促 進させるのがふさわしいというのが基本的な理解であった。ただし、滅失 又は損傷の場合には、抵当権の基礎とする抵当目的物の所有権が消滅又は 変更するため、特に滅失の場合には、抵当目的物の所有権が消滅し、これ に基礎を置く抵当権も無効な抵当権となり追及効がなくなるため、その価 値代替物として、抵当権者は、物上代位権を行使することができるとされ てきた。抵当権に関しては、基本的には、物上代位権行使には積極的意義 はないとの理解であった。筆者は、フランス法における近代的抵当権の研 究及びわが民法の担保物権についての研究を主に行ってきた(3)。後者につい て言及すれば、平成10(2000)年前後に集中して、実体法上の争点に関し ての多くの研究がなされ、夥しい数の判例法が集積され、判例法の確立を 経て、担保・執行法の改正がなされたのは記憶に新しいことである。筆者 は、前々稿において、その争点の一つである法定地上権に関する諸問題に ついて検討を行った(4)。また抵当権侵害を理由とする妨害排除請求権につい ても、筆者は前稿において検討を行った(5)。そして、筆者は、本稿におい て、抵当権に基づく物上代位権の行使について、判例・学説の推移を鳥瞰 し、その争点に関する到達点を精査し、その上で残存する問題点を指摘し ようとするものである(6)。 注 ( 1 ) 近江幸治『民法講義Ⅲ[第 2 版補訂]』56頁等(2007年・成文堂)。紙幅の制約 により、本稿は、本文及び注についても最少限の記載を心掛けると共に、本稿が小 論となることをご寛恕いただきたい。なお、物上代位権の沿革については、実体法 上のものと執行法上のものの混希的な性質を有するというのが基本書的な説明にな るだろう。
( 2 ) 内田貴『民法Ⅲ〔第 3 版〕』400~401頁(東京大学出版会・2005年)から引用 すれば、「…抵当権が法定果実にも当然に及ぶとすると、抵当権者が賃料収益をこ とごとく吸い上げてしまい、抵当不動産の使用収益を設定者にゆだねた意味がなく なる恐れがある。他方で、1980年代のバブル経済が崩壊して地価の上昇が止まって 以来、抵当権者は、抵当不動産の収益から債権を回収することに大きな関心を寄せ るようになった。」としたうえで、「抵当権は対抗要件を備える限り追及効があるの で、売買代金への物上代位を認める実益はない。しかも、売買代金から債権回収し たい抵当権者のためには、別の制度(代価弁済制度)が用意されている。したがっ て、物上代位は否定すべきである。」とする。 ( 3 ) 拙稿「フランス法と抵当制度」『名古屋経済大学法学部開設記念論集』所収、 「一九世紀フランスの判例法にみる抵当制度―公証人介在の証書による抵当権の流 通性の問題を中心にして―」『民法学の新たな展開』所収、「フランス民法典抵当権 規定における公証人慣行の役割―フランス抵当制度と公証人慣行の役割研究その 1 ―」名経第 5 号、「フランス抵当制度論の到達点と課題」早法第74巻第 3 号、「1976 年の法律における公証人慣行の役割―フランス抵当制度と公証人慣行の役割研究そ の 2 ―」名経第 8 号、「一九世紀の判例法における公証人慣行の役割―フランス抵 当制度と公証人慣行の役割研究その 3 ・完―」名経第 9 号等々である。 ( 4 ) 拙稿「法定地上権に関する一考察」東洋ロー第12号 1 頁以下(2016年)。 ( 5 ) 拙稿「抵当権価値権論に関する一考察」東洋ロー第13号 1 頁以下(2017年)。 「短期賃貸借」『現代の都市と土地私法』所収(有斐閣・2000年)160~179頁。 ( 6 ) 直近の拙稿でも触れたが、2008年から2014年の 7 年間、ステージ 4 B のガンを 患った妻と母の闘病を支え、母、妻の順に二人を相次いで看取った。この個人的事 情で研究活動は停滞し、周囲の方々にご心配とご迷惑を掛けしてしまった。本稿 は、時機を失してはいるが、前々稿、前稿同様に、筆者の研究活動の整理と今後の 展開のための小論であることにご理解を賜れれば幸いである。物上代位の詳細な研 究としては、清原泰司『物上代位の研究』(民事法研究会・1997年)、生熊長幸「民 法304条・372条(先取特権、抵当権の物上代位)」、『民法典の百年Ⅱ』(有斐閣・ 1998年)537頁、角紀代恵「民法370条・371条(抵当権の効力の及ぶ範囲)」同書所
収593頁などを参照されたい。 Ⅱ 判例・学説 1 伝統的判例理論 ( 1 ) 最高裁判決平成 1 年10月27日(民集45巻 3 号268頁(7)) (事実の概要) X が所有する店舗兼建物(以下、「本件建物」とする。)は 1 階が A に、 2 階が B に賃貸されており、また C の 1 番抵当権、及び Y の 2 番抵当権 が設定されていた。C が抵当権の実行を申し立て、競売開始決定がなされ たのち、Y は抵当権の物上代位権行使として、A、B が供託していた賃料 の還付請求権を差し押さえ、転付命令を得た。そこで、X は Y に対して、 Y が取得した金員の返還を求める訴えが提起された。X は、抵当権は非占 有移転型担保物権であるから、賃料には抵当権の効力は及ばないことをそ の主張の根拠とした。 (判旨) 「抵当権は、目的物に対する占有を抵当権設定者の下にとどめ、設定者 が目的物を自ら使用し又は第三者に使用させることを許す性質の担保権で あるが、抵当権のこのような性質は先取特権と異なるものでないし、抵当 権設定者が目的物を第三者に使用させることによって対価を取得した場合 に、右対価について抵当権を行使することができるものと解したとして も、抵当権設定者の目的物に対する使用を妨げることにはならないから、 前記規定〔372、304条〕に反してまで目的物の賃料について抵当権を行使 することができないと解すべく理由はなく、また賃料が供託された場合に は、賃料債権に準ずるものとして供託金還付請求権について抵当権を行使 することができる。」と判示し、目的不動産について抵当権が実行されて いる場合でも、抵当権が消滅するまでは、賃料債権に対する抵当権に基づ
く物上代位権行使は可能であるとしたのである。これまでの先例は、戦後 の下級審の裁判例において、肯定・否定の裁判例に分かれていたが、本判 決がこの問題に判断を示したのである(8)。 注 ( 7 ) 主だった判例評釈等を網羅しておこう。小林亘「判批」金法1265号22頁、高橋 眞「抵当不動産の賃料に対する物上代位の可否」龍谷23巻 2 号78頁、小田原満知子 「判批」曹時43巻 3 号、鎌田薫「判批」リマークス 2 号、石口修「判批」ビジネス サイエンス 1 号、小田原満知子「判批」ジュリ952号81頁、道垣内弘人「抵当権の 物上代位と抵当不動産について供託された賃料の還付請求権」民商102巻 5 号、副 田隆重「判批」法セ426号、宮川不可止「判批」手形研究446号12頁、大窪誠「抵当 権の物上代位と抵当不動産について供託された賃料の還付請求権」法学55巻 1 号、 小林資郎「判批」ジュリ臨時増刊957号73頁、小田原満知子「判批」ジュリ増刊 (最高裁時の判例 2 私法編)107頁、半田正夫「判批」ジュリ増刊(担保法の判例 1 )133頁、小田原満知子「判解」最高裁判所判例解説民事篇平成 1 年度351頁、樋 口直「判批」判タ762号38頁(平成 2 年度主要民事判例解説)、物部康雄「判批」金 法1493号44頁、高木多喜男「判批」金法1581号154頁、大西武士「判批」判タ902号 26頁、東京地方裁判所民事執行センター実務研究会「判批」判タ1103号75頁、中山 知己「〔民法判例百選 1 第 6 版〕抵当権の物上代位( 1 ):賃料債権」・別冊ジュ リ195号174頁、鎌田薫「供託賃料に対する抵当権者の物上代位(特集 最近の担保 判例とその評価)」法時63巻 6 号10頁、鈴木正和「判批」判タ723号53頁、生熊長幸 「判批」法教別冊附録126号21頁、中山知己「判批」別冊ジュリ223号170頁、篠原啓 輔「〔実務に効く担保・債権管理 判例精選〕賃料に対する物上代位〈不動産担保 の実行〉」ジュリ増刊100頁。なお、紙数の関係上、雑誌の刊行年は省略する。 ( 8 ) 内田、前掲書404頁以下。このようなバブルの崩壊を前提とした結論には、後 順位抵当権者が先順位抵当権者に優先して物上代位権行使が可能であること、賃貸 人(抵当権設定者や物上保証人)の手元には不動産の管理費用も残らないとの指摘 がある。
( 2 ) 最高裁判決平成10年 1 月30日(民集52巻 1 号 1 頁(9)) (事実の概要) X は、平成 2 年に、A に対して30億円を貸し付けた。X は、その担保 のために、B 所有の建物(以下、「本件建物」とする。)に抵当権の設定を 受けた。その後、A は平成 4 年12月に倒産した。B は、本件建物を複数の 賃借人に賃貸しており、賃料の合計額は月に725万余円であった。しか し、平成 5 年 1 月12日、B は、本件建物の全部を、Y に対して期間を定め ずに賃料月額200万円、敷金 1 億円、譲渡転貸自由の約定で賃貸し、その 時点での賃借人は Y から転貸する契約に変更された。同年 4 月19日、B は C から7,000万円の貸付を受け、翌日20日、本件建物についての賃料債 権、その平成 5 年 5 月分から平成 8 年 4 月分までを、上記貸付債権の代物 弁済として B が C に譲渡する旨の契約を締結した。同日、Y はこの譲渡 を承諾し、以上の趣旨を記載した債務弁済契約書を作成し、公証人による 確定日付を得た。平成 5 年 5 月10日、X の物上代位権に基づき、東京地裁 は B の Y に対する本件建物についての賃料債権に対する差押命令を発 し、同年 6 月10日、上記命令は Y に送達された。そこで、X は、上記債 権差押命令に基づき取立権を取得したとして、Y に対し、 9 か月分の賃料 の支払を求めた。 第 1 審は、X の請求を認容。Y がこれを不服として控訴。原審は、民法 304条 1 項ただし書が金銭その他の払渡し・引渡し前に差押えを要求する 趣旨は、「右差押えによって物上代位の対象である債権の特定性が保持さ れ、これによって物上代位権の効力を保全せしめるとともに、他面第三者 が不測の損害を被ることを防止しようとすることにある」とした上で、こ の第三者保護の趣旨に照らし、債権譲渡も右「払渡し・引渡し」に該当す ると述べて、差押え前に対抗要件を具備した債権譲受人があるときは、抵 当権者は物上代位権を行使できないとし、Y の物上代位権の行使は権利濫 用との X の主張も否定して、X の請求を棄却した。X が上告。
(判旨)原判決を破棄、X の請求を認めた第 1 審判決の結論を正当とした。 「民法372条において準用する304条 1 項ただし書が抵当権者が物上代位 権を行使するには払渡し又は引渡しの前に差押えをすることを要するとし た趣旨目的は、主として、抵当権の効力が物上代位の目的となる債権にも 及ぶことから、右債権の債務者(以下「第三債務者」という。)は、右債 権の債権者である抵当不動産の所有者(以下「抵当権設定者」という。) に弁済をしても弁済による目的債権の消滅の効果を抵当権者に対抗できな いという不安定な地位に置かれる可能性があるため、差押えを物上代位権 行使の要件とし、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前には抵当権設 定者に弁済をすれば足り、右弁済による目的債権消滅の効果を抵当権者に も対抗することができることにして、二重弁済を強いられる危険から第三 債務者を保護するという点にあると解される。」 「右のような民法304条 1 項の趣旨目的に照らすと、同項の「払渡し又は 引渡し」には債権譲渡は含まれず、抵当権者は、物上代位の目的債権が譲 渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権 を差し押さえて物上代位権を行使することができるものと解するのが相当 である。けだし、(一)民法304条 1 項の「払渡し又は引渡し」という言葉 は当然には債権譲渡を含むものとは解されないし、物上代位の目的債権が 譲渡されたことから必然的に抵当権の効力が右目的債権に及ばなくなるも のと解すべき理由もないところ、(二)物上代位の目的債権が譲渡された 後に抵当権者が物上代位権に基づき目的債権の差押えをした場合におい て、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前に債権譲受人に弁済した債 権についてはその消滅を抵当権者に対抗することができ、弁済をしていな い債権についてはこれを供託すれば免責されるのであるから、抵当権者に 目的債権の譲渡後における物上代位権の行使を認めても第三債務者の利益 が害されることとはならず、(三)抵当権の効力が物上代位の目的債権に ついても及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることがで き、(四)対抗要件を備えた債権譲渡が物上代位に優先するものと解する
ならば、抵当権設定者は、抵当権者からの差押えの前に債権譲渡をするこ とによって容易に物上代位権の行使を免れることができるが、このことは 抵当権者の利益を不当に害するものというべきだからである。」 「そして、以上の理は、物上代位による差押えの時点において債権譲渡 に係る目的債権の弁済期が到来しているかどうかにかかわりなく、当ては まるものというべきである。以上と異なる原審の判断には法令の解釈適用 を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであっ て、論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。そして、前記事実関係 の下においては、上告人の本件請求は1800万円(平成 5 年 7 月分から同 6 年 3 月分までの月額200万円の割合による賃料)の限度で理由があり、そ の余は理由がないというべきであるから、第一審判決の結論は正当であ る。したがって、原判決のうち、第一審判決中被上告人敗訴の部分を取消 して右部分に係る請求を全部棄却すべきものとした部分(原判決主文第 一、二項)は破棄を免れず、右部分については被上告人の控訴を棄却すべ きであるが、上告人の控訴を棄却した部分は正当であるから、その余の本 件上告を棄却すべきである。」と判示したのである。 本判決は、民法304条の 1 項の趣旨目的に照らすと、同項の「払渡し又 は引渡し」には債権譲渡は含まれず、抵当権者は、物上代位の目的債権が 譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債 権を差し押さえて物上代位権を行使することができるものと解するのが相 当であり、物上代位による差押えの時点において債権譲渡に係る目的債権 の弁済期が到来しているかどうかにかかわりなく、当てはまるものという べきであるとした事例である。債権譲渡は、債権の帰属の変更であるが、 判例法は、抵当権は登記により公示されているのであるから、債権譲渡が 対抗要件を備えていてもこれに優先することをここに認めたのである(10)。 注 ( 9 ) この最高裁判決についても、主だった判例評釈等を掲げておこう。野山宏「判
批」曹時50巻 6 号、野山宏「判批」ジュリ1137号102頁、田高寛貴「判批」法教215 号、大西武士「判批」判タ974号、清原泰司「判批」判時1643号、升田純「判批」 金法1524号、丸山健「判批」ひろば51巻11号、加藤新太郎「判批」NBL658号、小 磯武男「判批」金法1536号、鈴木直哉「抵当権の物上代位に基づく賃料債権の差押 えとこの債権の譲渡」大阪経済法科大学法学研究所紀要28号、古積健三郎「判批」 リマークス19号26頁、松岡久和「賃料債権の譲渡と物上代位の優劣」民商120巻 6 号、高橋智也「同一の賃料債権に対する抵当権の物上代位と債権譲渡の競合・優 劣」首法40巻 1 号661頁、香川保一「判批」民情157号、多治川卓朗「抵当権者によ る物上代位権の行使と目的債権の譲渡」名法27巻 2 = 3 号、四ツ谷有喜「抵当権者 は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後におい ても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるとされた事 例」北法50巻 6 号1601頁、高橋眞「判批」ジュリ臨時増刊1157号68頁、野山宏「判 批」ジュリ増刊(最高裁時の判例 2 私法編)112頁、道垣内弘人「判批」法教増 刊(民法の基本判例〔第二版〕)84頁、野山宏「判解」最高裁判所判例解説民事篇 平成10年度 1 頁、佐賀義史「判批」判タ1005号62頁(平成10年度民主解)、佐久間 弘道「判批」金法1579号21頁、秦光昭「判批」金法1581号172頁、東京地方裁判所 民事執行センター実務研究会「判批」判タ1103号90頁、今尾真「判批」別冊ジュリ 195号176頁、伊藤進「判批」NBL637号 8 頁、古積健三郎「判批」〈判例セレク ト ’98〉」法教別冊附録222号15頁、古積健三郎「判批」〈逆引き民法☆24の判旨 4 〉」 法教394号125頁、今尾真「判批」別冊ジュリ223号172頁、篠原啓輔「〔実務に効く 担保・債権管理 判例精選〕賃料に対する物上代位〈不動産担保の実行〉」ジュリ 増刊100頁。 (10) 最判平成10年 1 月30日は第 2 小法廷の判決だったが、その後、第 3 小法廷で最 判平成10年 2 月10日が同旨を判示し、また、第 1 小法廷で最判平成10年 3 月26日 が、一般債権者による差押えと物上代位の優劣が争われた事案で、差押えと抵当権 設定登記の先後を基準に判断する旨を判示している。内田、前掲書414頁参照。
( 3 ) 最高裁判決平成12年 4 月14日(民集54巻 4 号1552頁(11)) (事実の概要) X は、昭和63年 6 月、A との間で、A の B(銀行)に対する金銭消費 貸借契約上の債務につき保証委託契約を締結した。同年10月、X の A に 対する求償債権等を被担保債権として、A らが共有する建物(以下、「本 件建物」とする。)に極度額を 1 億9,800万円とする根抵当権が設定され、 その旨の登記がされた。 X は、平成 9 年10月28日、上記保証委託契約に基づき、A の B に対す る債務7,216万余円を弁済し、A に対して同額の求償債権を取得した。C は、同日、A から本件建物を買い受け、同月30日所有権移転登記も経由 した。その翌31日、C は、Y に本件建物を賃貸し、Y は、第三債務者にな る D らに対して、本件建物の一部を転貸した。 X は、平成10年 9 月10日、本件根抵当権に基づく物上代位権の行使とし て、Y の第三債務者 D らに対する転貸賃料について差押命令を申し立て、 同月16日、債権差押命令を得た。 Y は、上記差押命令に対して、執行抗告したが、原審(東京高決平成 11・ 4 ・19判時1691号74頁)は、以下の理由で Y の執行抗告を棄却した。 民法372条によって準用される同法304条 1 項ただし書に規定する「債務 者」には、抵当権の設定者及び抵当不動産の第三取得者のほか、抵当権設 定後に抵当不動産を賃借した者も含まれるから、抵当権者は、上記賃借人 が取得すべき抵当不動産の転貸賃料に対しても物上代位権を行使すること ができる、とするものである。この決定に対して、Y が許可抗告をした。 【判旨】以下の理由で、原判決を破棄し、原審に差し戻した。 「民法372条によって抵当権に準用される同法304条 1 項に規定する「債 務者」には、原則として、抵当不動産の賃借人(転貸人)は含まれないも のと解すべきである。けだし、所有者は被担保債権の履行について抵当不 動産をもって物的責任を負担するものであるのに対し、抵当不動産の賃借
人は、このような責任を負担するものではなく、自己に属する債権を被担 保債権の弁済に供されるべき立場にはないからである。同項の文言に照ら しても、これを「債務者」に含めることはできない。また、転貸賃料債権 を物上代位の目的とすることができるとすると、正常な取引により成立し た抵当不動産の転貸借関係における賃借人(転貸人)の利益を不当に害す ることにもなる。もっとも、所有者の取得すべき賃料を減少させ、又は抵 当権の行使を妨げるために、法人格を濫用し、又は賃貸借を仮装した上 で、転貸借関係を作出したものであるなど、抵当不動産の賃借人を所有者 と同視することを相当とする場合には、その賃借人が取得すべき転貸賃料 債権に対して抵当権に基づく物上代位権を行使することを許すべきもので ある。」 「以上のとおり、抵当権者は、抵当不動産の賃借人を所有者と同視する ことを相当とする場合を除き、右賃借人が取得すべき転貸賃料債権につい て物上代位権を行使することができないと解すべきであり、これと異なる 原審の判断には、原決定に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があ る。論旨は理由があり、原決定は破棄を免れない。そして、抗告人が本件 建物の所有者と同視することを相当とする者であるかどうかについて更に 審理を遂げさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。」と判示した のである。 本件判例は、本件建物の根抵当権者である相手方が、本件建物の賃借人 であり、転貸人である抗告人が第三債務者に対して有する転貸料債権の差 押えを申し立てたところ、これが認容され、抗告人の執行抗告も棄却され たため、許可抗告を申し立てた事案で、根抵当権者は、抵当不動産の賃借 人を所有者と同視することを相当とする場合を除き、賃借人が取得すべき 転貸賃料債権について物上代位権を行使することができないと解すべきで あり、これと異なる原審の判断には、原決定に影響を及ぼすことが明らか な法令の違反があるとして、原決定を破棄し、本件を原審に差し戻した事 例である。賃料に物上代位権行使が可能とした判例法(前掲最判平成10・
1 ・30)の射程との関係で、転貸賃料に対する抵当権者の物上代位権行使 が認めらるのか、この争点につき、執行妨害型を例外としながらも、原 則、物上代位権の行使を否定したものである。バブルの崩壊による執行妨 害型の事例の多発とはいえ、抵当権の物上代位権行使に一定の歯止めをか けたとみる見解もある(12)。 注 (11) この判決についての主だった判例評釈等を掲げておく。渡辺達徳「判批」法教 242号、平井一雄「判批」金判1102号55頁、大西武士「判批」判タ1042号89頁、西 牧正義「判批」ひろば54巻 4 号、大西武士「判批」NBL713号、松岡久和「判批」 民商124巻 2 号、安永正昭「判批」金法1620号29頁、内田貴「転貸賃料に対する物 上代位」法協119巻 6 号199頁、鎌田薫「判批」ジュリ臨時増刊1202号59頁、春日通 良「判 解」 最 高 裁 判 所 判 例 解 説 民 事 篇 平 成 12 年 度 466 頁、 野 口 恵 三「判 批」 NBL695号56頁、冨田一彦「判批」民主解(判タ1065号)60頁、松本明敏「判批」 金法1585号 6 頁、荒木新五「判批」判タ1039号47頁、東京地方裁判所民事執行セン ター実務研究会「判批」金法1580号68頁、古積健三郎「判批」法教別冊附録246号 19頁、能登真規子「転貸料債権に対する抵当権に基づく物上代位の可否」名法190 号377頁、篠原啓輔「判批」ジュリ増刊100頁等。 (12) 内田、前掲書408頁。 ( 4 ) 最高裁判決平成13年 3 月13日(民集55巻 2 号363頁(13)) (事実の概要) 昭和60(1985)年11月、訴外 A と Y(被告・控訴人・上告人)との間 において、A が所有する建物(以下、「本件建物」とする。」)を Y に賃貸 する旨の契約が成立した。その際、Y は、その賃貸借契約に基づき A に 保証金3150万円を預託した。平成 9 (1997)年 2 月、A と Y は、従前の 賃貸借を解消し、改めて新しい賃貸借契約を締結した。その際、Y は、そ の新しい賃貸借契約に基づき A に330万円を預託すること、昭和60年に Y
が預託していた保証金の一部330万円を今回の契約の保証金に充てるこ と、及び A は、昭和60年に Y が預託していた保証金の残余の部分を平成 9 年 8 月までに返還することが約定された。しかし、A がこの保証金の 残額の返還を履行できなかったため、同年 9 月、A・Y 間で、本件建物の 9 月分の賃料と上記保証金返還債務の一部とを同月 1 日に相殺したものと すること、及び本件建物の同年10月から平成12(2000)年 9 月までの賃料 と上記保証金返還債務の一部とを対当額で相殺することを合意した。 金融機関である X(原告・被控訴人・被上告人)は、A との間におい て、A が X のために本件建物に根抵当権を設定する契約が成立し、昭和 60年 9 月、同設定登記が経由された。X は、A に対して、この根抵当権 が担保する債権で弁済期が到来するものを有していた。そこで、X は、A が Y に対して有する賃料債権の差押えを申し立て、執行裁判所は、この 申立てを認容し債権差押命令を発した。この債権差押命令の正本は、同月 中に、A、Y に送達された。 本件は、X が Y に対して、この債権差押命令に基づく取立権の行使と して、平成10(1998)年 2 月から 6 月までの期間に係る賃料の支払を請求 したものである。Y は、第 1 審の弁論において、平成 9 年 9 月に成立した 合意に基づく相殺の抗弁を提出した。第 1 審は、Y の抗弁を斥け、X の請 求を全部認容した。Y が控訴。原審は、Y の控訴を棄却したため、Y が 上告受理申立てをし、最高裁判所は、これを上告審として受理する旨を決 定した。 (判旨)上告棄却。 「抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は、抵当 不動産の賃借人は、抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を 自働債権とする賃料債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することはで きないと解するのが相当である。けだし、物上代位権の行使としての差押 えのされる前においては、賃借人のする相殺は何ら制限されるものではな
いが、上記の差押えがされた後においては、抵当権の効力が物上代位の目 的となった債権に及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみる ことができるから、抵当権設定登記の後に取得した賃貸人に対する債権と 物上代位の目的となった賃料債権とを相殺することに対する賃借人の期待 を物上代位権の行使により賃料債権に及んでいる抵当権の効力に優先させ る理由はないというべきである。……抵当不動産の賃借人が賃貸人に対し て有する債権と賃料債権とを対当額で相殺する旨を上記両名があらかじめ 合意していた場合においても、賃借人が上記の賃貸人に対する債権を抵当 権設定登記の後に取得したものであるときは、物上代位権の行使としての 差押えがされた後に発生する賃料債権については、物上代位した抵当権者 に対して相殺合意の効力を対抗することができないと解するのが相当であ る。」としたうえで、 「以上と同旨の見解に基づき、本件建物について賃貸借契約を締結した Y と A との間において Y が本件根抵当権設定登記の後に取得した A に対 する債権と A の Y に対する賃料債権とを対当額で相殺する旨合意してい たとしても、X による物上代位権の行使としての差押えがされた後に発生 した賃料債権については、上記合意に基づく相殺をもって X に対抗する ことができないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原 判決に所論の違法はない。」との判断を下した。 本判例法は、相殺合意がある場合も、反対債権が抵当権設定登記の後に 取得したものであるときは、物上代位による差押え前に発生した賃料債権 は相殺の合意により消滅するが、差押え後に発生する賃料債権は、相殺の 合意の効力を抵当権者に対抗することができないことを明らかにしたので ある(14)。 注 (13) この最高裁判決についても、主だった判例評釈等を掲げておこう。田高寛貴 「判批」法セ46巻 7 号、岡内真哉「判批」銀法593号65頁、占部洋之「判批」法教
254号115頁、能登真規子「判批」法時74巻 2 号、下村信江「賃料債権に対する抵当 権者の物上代位権行使と賃借人による相殺」阪法51巻 5 号、小磯武男「判批」金法 1633号58頁、杉原則彦「判批」ジュリ1220号99頁、鳥谷部茂「判批」リマークス24 号30頁、杉原則彦「判批」曹時54巻 8 号245頁、山野目章夫「判批」ジュリ臨時増 刊1224号70頁(平成13年度重要判例解説)、杉原則彦「判批」ジュリ増刊(最高裁 時の判例 2 私法編)114頁、藤沢治奈「判批」法協121巻10号214頁、杉原則彦 「判解」最高裁判所判例解説民事篇平成13年度257頁、森邦明「判批」平成13年度民 主解(判タ1096号)48頁、小林明彦、鳥谷部茂、松岡久和、三上徹「物上代位と相 殺の優劣に関する最三小判平13・ 3 ・13を読んで実務上残された最大の論点に決着 /抵当権の対抗力を拡張する判決に疑問/理論的にも結論的にも支持できるが射程 が問題/物上代位制度に残された問題点」金法1607号 6 頁、吉岡伸一「判批」金法 1669号40頁、道垣内弘人「判批」金法1620号33頁、清水俊彦「判批」判タ1066号76 頁、荒木新五「判批」判タ1068号79頁、東京地方裁判所民事執行センター実務研究 会「判批」判タ1103号99頁、JK「判批」金法1617号54頁、松岡久和「判批」法教 別冊附録258号17頁等。 (14) 「差押えと相殺に関する判例法によれば、差押え前に存在していた反対債権に よる差押えが認められるが、最高裁は、賃料に対する抵当権の効力が登記によって 公示されていることを理由に、抵当権設定登記の後に取得した反対債権による相殺 をもって、抵当権者に対抗できないとしたのであり、判例法理からすれば理論的に 導かれるものである。」内田、前掲書409頁等参照。 ( 5 ) 最高裁判決平成14年 3 月12日(民集56巻 3 号555頁(15)) (事実の概要) X(原告・控訴人・上告人)は、訴外 A らとの間の執行力ある和解調 書の正本に基づき、平成10年 3 月17日、松山地方裁判所宇和島支部におい て、A の訴外 B(愛媛県)に対する用地買収契約に基づく土地残代金342 万9263円(以下、「甲債権」という。)の全額及び第 1 審判決別紙物権目録 記載の建物(以下、「本件建物」という。)の補償残金3044万2003円(以
下、「乙債権」という。)のうち1057万0737円について差押命令を得て、同 命令は、同月19日に、第三債務者である B に、同月23日に A に、それぞ れ送達され、同年 4 月17日に確定した。 X は、同年 5 月 6 日、差押えに係る甲債権の全額及び乙債権のうち1057 万0737円について転付命令を得て、同命令は、同月 7 日、B 及び A にそ れぞれ送付され、同月20日確定した。X が本件転付命令を取得した当時、 本件建物には、訴外 C(以下、「いよぎん保証」という。)、Y(被告・被 控訴人・被上告人)及び D が、この順位による抵当権又は根抵当権を有 し、その旨の登記を経ていた。C は、乙債権のうち735万7932円につい て、Y は、乙債権のうち1460万6236円について、D は、乙債権のうち847 万7835円について、それぞれ抵当権ないし根抵当権に基づく物上代位権の 行使として、平成10年 5 月13日、松山地方裁判所宇和島支部において、差 押え命令を得、同命令はいずれも、同月14日 B に送達された。その後、B は、甲債権及び乙債権の全額3387万1266円を供託した。松山地方裁判所宇 和島支部は、本件供託金の配当を実施するために、同年10月20日の配当期 日に、配当表を作成したが、X は、Y への配当のうち209万5405円、D へ の配当のうち847万7835円に対して、それぞれ異議の申出をした。 本件は、X が Y らに対して、本件転付命令が Y ら及び C のした抵当権 ないし根抵当権に基づく物上代位に優先すると主張して、上記配当表の配 当金のうち、X への配当額342万6760円を1400万円に、Y への配当額を 1460万6236円を1251万0831円に、D への配当額847万7835円を 0 円にそれ ぞれ変更することを求める配当異議の訴えである。 原審は、賃料債権の譲渡につき第三者に対する対抗要件が備えられた後 において、当該賃料債権に対して抵当権に基づく物上代位による差押えを 認めた判例(最判平成10年 1 月30日)を引用し、Y ら及び C の抵当権な いし根抵当権に基づく物上代位がこれに先立つ本件転付命令に優先すると 判示し、X の請求を棄却した。X が上告受理申立てをし、最高裁判所は、 これを上告審として受理する旨を決定した。
(判旨) 「転付命令に係る金銭債権(以下、「被転付債権」という。)が抵当権の 物上代位の目的となり得る場合においても、転付命令が第三債務者に送達 される時までに抵当権者が被転付債権の差押えをしなかったときは、転付 命令の効力を妨げることはできず、差押命令及び転付命令が確定したとき には、転付命令が第三債務者に送達された時に被転付債権は差押債権者の 債権及び執行費用の弁済に充当されたものとみなされ、抵当権者が被転付 債権について抵当権の効力を主張することはできないものと解すべきであ る。けだし、転付命令は、金銭債権の実現のために差し押さえられた債権 を換価するための一方法として、被転付債権を差押債権者に移転させると いう法形式を採用したものであって、転付命令が第三債務者に送達された 時に他の債権者が民事執行法159条 3 項に規定する差押え等をしていない ことを条件として、差押債権者に独占的満足を与えるものであり(民事執 行法159条 3 項、160条)、他方、抵当権者が物上代位により被転付債権に 対し抵当権の効力を及ぼすためには、自ら被転付債権を差し押さえること を要し(最高裁平成13年(受)第91号同年10月25日第一小法廷判決・民集 55巻 6 号975頁)、この差押えは債権執行における差押えと同様の規律に服 すべきものであり(同法193条 1 項後段、 2 項、194条)、同法159条 3 項に 規定する差押えに物上代位による差押えが含まれることは文理上明らかで あることに照らせば、抵当権の物上代位としての差押えについて強制執行 における差押えと異なる取扱いをすべき理由はなく、これを反対に解する ときは、転付命令を規定した趣旨に反することになるからである。なお、 原判決に引用された当審判決は、本件とは事案を異にし、適切ではない。」 とし、上告人の請求を認容し、原判決を変更し、上告審としてその判断を 下したものである。 転付命令は、確定しなければ効力を生じない(民執法159条 5 項)はず であり、本件の事実関係において、転付命令が確定する前に、抵当権者 は、抵当権に基づく物上代位の行使のための差押えをなしているのである
から、平成10年の判例法が採用した第三債務者保護説の観点からすれば、 まだ支払がなされていない以上、債権譲渡の場合と同じで物上代位が優先 してもおかしくない事案であった。しかし、本判決は、304条の「差押 え」の意義との関係で執行法上の意義を持ち出すことで、転付命令を優先 させる判断を下したのである(16)。 注 (15) この最高裁判決についても、主だった判例評釈等を掲げておこう。旬刊金融法 務事情編集部「判批」金法1641号12頁、秦光昭「判批」NBL741号 4 頁、片岡宏一 郎「判批」金法1650号 4 頁、田高寛貴「判批」法セ47巻 2 号104頁、芹澤俊明「判 批」銀法46巻10号62頁、松岡久和「判批」民研544号 3 頁、上原敏夫「判批」金法 1655号 6 頁、内山衛次「判批」法教266号144頁、生熊長幸「判批」判時1797号182 頁、吉岡伸一「判評」判タ1105号80頁、並木茂「判評」金法1662号42頁、同「判 評」金法1663号67頁、遠藤曜子「判批」NBL759号72頁、亀井洋一「判批」銀法47 巻 5 号84頁、「民事執行判例エッセンス2002」判タ臨時増刊1103号88頁、清原泰司 「判批」銀法47巻 9 号88頁、吉岡伸一「判評」金融判研13号33頁、萩澤達彦「判 評」リマークス27〔下〕123頁、綿引穣「判評」平成14年度民主解(判タ臨時増刊 1125号)210頁、遠藤歩「判批」首法44巻 1 号435頁、清原泰司「判批」桃山法学 2 号 1 頁、三村晶子「判批」曹時56巻11号157頁、栗田隆「判批」平成14年度重要判 例解説(ジュリ臨時増刊1246号)129頁、三村晶子「判解」最高裁判所判例解説民 事篇〈平成14年度〉〔上〕276頁、米村滋人「判批」法協124巻 7 号1743頁、松下淳 一「判批」民事執行・保全判例百選(別冊ジュリ177)212頁、松下淳一「判批」民 事執行・保全判例百選〈第 2 版〉(別冊ジュリ208)166頁、篠原啓輔「判批」実務 に効く担保・債権管理判例精選(ジュリ増刊)100頁等。 (16) 物上代位に強力な地位を与えすぎた先の一連の判例を修正したと見るべきでは ないかと思うとの指摘がある。内田、前掲書415頁等。
( 6 ) 小括 判例法理は、これまで物上代位権行使が困難と理解されてきた法定果実 に対する抵当権に基づくその代位を可能とする道を切り開いたことにな る。また、債権譲渡、転付命令といった債権の帰属の変更の場合の、物上 代位権行使との優劣について、一定の結論を示したことになる。すなわち 前者については、債権譲渡の対抗要件具備と抵当権設定登記の先後を基準 とすること、及び後者については、転付命令の確定日と抵当権設定登記日 の先後を基準にするのではなく、転付命令の送達時と抵当権の物上代位権 に基づく差押えの先後を基準とすることで物上代位権行使の可否を判断す るというものである(17)。また、法定果実に対する物上代位権行使を認めると しても、転貸賃料に対するその行使には消極的であることも判示した。さ らには、抵当権に基づく物上代位権行使とその対象となっている債権との 相殺の合意との優劣についても判断を下したことになる。こうした一連の 判例法の確立ですべての争点が解決されたのであろうか。加えて、判例法 が採用した論理には、実体法上の要件の解釈の問題に、手続法上の意義を 理由として、その問題の所在をすり替えて紛争解決をはかったとの批判が あるが、この問題は依存放置されたままである(18)。こうした問題についての 検討が必要なのではあるまいか。 注 (17) 転付命令は債権の委付(法定譲渡)であり、債権譲渡同様、債権の帰属の変更 である。異なるのは、執行裁判所が関与しているか否かだけである。したがって、 同様の帰結が採用されることが予想されていたのが実情である。近江、前掲書147 頁。 (18) 判例法理が確立されたとの一事を以て、また担保執行法改正の際に、民法371 条、372条の改正をし、判例法と法文の齟齬を埋め平仄を合わせたからといって、 抵当権解釈からすれば、この問題は解決済みであるとは評価することに抵抗がある のは筆者だけであろうか。近江、前掲書56頁等参照。
2 学説の変遷(平成10年 1 月30日判決を起点とした学説の推移) ( 1 ) 平成10年 1 月30日判決までの学説状況 ① 優先権保全説 ② 特定性維持説 ③ 二面説 372条が準用する304条の物上代位の規定につき、担保物権一般の基本理 論及び差押えの意義に関して、平成10年判決を境に以下のような推移を見 せたのである。 ① 物上代位の基本理論 物権の一般原則に反して、なぜ物上代位が認められるのか、この点につ いて、a 価値権説、b 特権説、c 二面説、の 3 つの考え方が主なものであっ たが、ここに要約しておこう。 a 価値権説(差押えについては特定性維持説に親和的な考え) 担保物権、殊に抵当権は価値権支配であり、304条にいう「売 却、賃貸、滅失又は損傷」によって代償物に変形した担保目的物 は、その価値変形物(交換価値のなし崩し的実現)であるから、担 保物権の効力はその代償物に当然に及ぶと構成する考えである(19)。 b 特権説(差押えについては優先権保全説に親和的な考え) 担保物権は物権である以上、その目的物が消滅すれば物権も消滅 するのは物権法の一般原則に照らして当然のことであり、目的物の 代償物に対して担保権の効力が及ぶのは、法律が特別に定めた政策 的判断によるものだと構成する考えである(20)。 c 二面説 価値権説が交換価値のなし崩し的実現を強調したところで、物権 原則を否定することはできないはずであり、考え方の基本として は、特権説が正当であろう。しかし、全二者の主張がそのまま妥当 するのは「売却、滅失又は損傷」の場合のみであり、「賃貸」の場 合は、いわば殖産であるから、交換価値のなし崩し的実現でもない
し、物権が消滅したのではないから「代償」の観念も当てはまら ず、一元的に説明することは困難であると構成するのである。その 上で、先取特権、質権・抵当権では、それぞれの制度に固有の問題 があるのだから、これら各原因については個別的に検討すべきであ るとする考えである(21)。 ② 「払渡し又は引渡し」、「差押え」の異議 物上代位権行使が認められるとして、「差押え」がなぜ必要なのか、に ついても複数の考え方が存在したが、ここに本稿の叙述に必要な範囲で素 描しておこう。 a 特定性維持説 担保物権、殊に抵当権は価値権支配であり、304条にいう「売 却、賃貸、滅失又は損傷」によって代償物に変形した担保目的物 は、その価値変形物(交換価値のなし崩し的実現)であるから、担 保物権の効力はその代償物に当然に及ぶと構成するのである。その 上で、目的物の代償物が債務者の一般財産に混入する前に抵当権の 客体として特定するために「差押え」が必要であるとするのであ る。 b 優先権保全説 担保物権は物権である以上、その目的物が消滅すれば物権も消滅 するのは物権法の一般原則に照らして当然のことであり、目的物の 代償物に対して担保権の効力が及ぶのは、法律が特別に定めた政策 的判断によるものだと構成するのである。その上で、その優先権を 公示するために抵当権者は「差押え」をする必要があるとするので ある。 c 二面説 304条ただし書の「差押え」の必要性の観点から、物上代位の差 押えには、物上代位の目的物である債権を特定する意味を持つと同 時に、優先権を公示して保全する意味の 2 つの機能があると構成す
る考え方である。 大審院判例は、「特定性維持説(価値権説)」に立っていたが、大連判大 正12・ 4 ・ 7 は、改めて「優先権保全説(特権説)」に立つことを表明 し、同時に、抵当権者が自ら差押えをする前に、他の債権者が転付命令を 得た場合には、譲渡された場合と同様に、債権の帰属が変更するから、物 上代位権の行使はできないと判示した。これに対して学説は、担保物権者 は、転付命令を取得した後でも、目的債権が譲渡された後でも、物上代位 権を行使できるが、これら新債権者(転付債権者や譲受債権者)に払渡し があるとその請求権は消滅するから、その前でなければならない、と主張 し判例法を強力に批判したのである(22)。 この学説からの批判に対し、最高裁判所は、上記大審院が確立した判例 法理の見解(大連判大正12・ 4 ・ 7 )に立つことを明らかにするのであっ た (23) 。そして、この判例法は、学説によって支持され、平成10年判決まで通 説を形成してきたといってよいのである(24)。 ( 2 ) 平成10年 1 月30日判決以後の学説状況 それまでほとんど議論されることもなかった判例法が採用した第三債務 者保護説の登場で、どのような学説状況の変化がみられたのか、本稿に必 要な範囲で纏めておこう。 a 特定性維持説 担保物権、殊に抵当権は価値権支配であり、304条にいう「売 却、賃貸、滅失又は損傷」によって代償物に変形した担保目的物 は、その価値変形物(交換価値のなし崩し的実現)であるから、担 保物権の効力はその代償物に当然に及ぶと構成する考え方である。 b 優先権保全説 担保物権は物権である以上、その目的物が消滅すれば物権も消滅 するのは物権法の一般原則に照らして当然のことであり、目的物の 代償物に対して担保権の効力が及ぶのは、法律が特別に定めた政策
的判断によるものだと構成する考え方である。 c 二面説 304条ただし書の「差押え」の必要性の観点から、物上代位の差 押えには、物上代位の目的物である債権を特定する意味を持つと同 時に、優先権を公示して保全する意味の 2 つの機能があるとする構 成する考え方である。 d 第三債務者保護説 第三債務者は、差押命令の送達を受ける前には抵当権設定者に弁 済すれば足り、この弁済による目的債権消滅の効果を抵当権者に対 抗することができるとして、二重弁済を強いられる危険から第三債 務者を保護することに差押えの意義があると構成する考え方であ る (25) 。 新たな判例法の確立で、学説状況も判例法支持への趨勢もみせてはいる が、依然として、以下のような指摘もなされている。すなわち「物上代位 で要求される「差押え」には、その代償物が債務者の一般財産を構成する 前に特定する意義もあることは否定できない。しかし、「差押え」の実際 の機能に着目するならば、請求権等に変じた目的物につき、第三債務者に 対する処分の禁止・弁済の制限という形で、その優先権を保全しているこ とも疑いのないところである。したがって、304条の「差押え」は、一面 において代償物を特定し、他面において優先権を公示する機能を営んでい ると考えるべきである。」というのである。そして、実体法上の物上代位 が機能するためになぜ法律要件の「差押え」が必要なのか、その目的が問 題であり、手続法上の差押えの法律効果としての弁済禁止効により第三債 務者が保護されることが実体法上の「差押え」の要件の目的であるとする のは論理のすり替えであるとするのであるが、的を射た指摘である(26)。 注 (19) 我妻栄『新訂担保物権法』(1971年・岩波書店)290頁、近江、前掲書62頁等々。
(20) 最判昭和59・ 2 ・ 2 民集38巻 3 号431頁、最判昭和60・ 7 ・19民集39巻 5 号 1326頁。 (21) 近江、前掲書62頁等。 (22) 我妻、前掲書60頁、柚木=高木『担保物権法〔第 3 版〕』(1982年・有斐閣) 281~282頁、鈴木禄也『物権法講義・ 4 訂版』(1994年・創文社)155頁、川井健 『担保物権法』(1975年・青林書院新社)61頁、川井健『民法概論 2 (第 2 版)』 (2005年・有斐閣)271頁等々。 (23) 田中ひとみ「物上代位権行使と差押」慶応大学法学研究科論文集24号70頁 (24) 高島平蔵『物的担保法論Ⅰ』(1977年・成文堂)65頁、高木多喜男『担保物権 法』旧版の130頁等。 (25) 清原、前掲書101頁、高木多喜男『担保物権法〔第 4 版〕』(2005年・有斐閣) 149頁等。 (26) 近江、前掲書65頁。筆者も同感である。結論ありきの帰納法による論理である からやむを得ないのであろうが、実体法の解釈の問題を執行法の問題にすり替える 構成には馴染めないのである。 Ⅲ 結びに代えて 本稿は、前々稿、前稿に引き続き、筆者が公刊の時期を逸してしまった 論考のうち、抵当権の性質論に関する論考のひとつ、法定果実等について の抵当権に基づく物上代位権行使の可否に関する小論である(27)。この問題に 関して、判例法がその行使を承認し17年余りが経過した。いまその軌跡を ふり返ってみるとき、本稿において指摘したように、その請求を認める根 拠とした「第三債務者保護説」という法理論の問題、また債権譲渡、転付 命令といった債権の帰属変更法理との優劣の問題、さらには実体法上の 「差押え」の意義の根拠を手続法に求めることの当否の問題等々、これら の問題について精査し、その内容を定立するという積極的な検証が尽くさ れたとは評価できないと思うのは筆者だけであろうか。時流に即した現代
的な研究も重要であるが、基礎的な研究が軽視されてよいのであろうか。 紙幅が尽きたので、そのことを再度ここに指摘し、別稿においてさらなる 検討をすることをここに記し、本稿を結びたいと思う(28)。 注 (27) 拙稿、前掲注( 6 )論文、22頁注(22)参照。今回の論理展開も元最高裁判所 判事の浜田邦夫氏が使用した「法匪」に該当するのかも知れない。このことは歴史 が評価するであろうが、たとえば、筆者の研究対象であった近代的抵当権論との脈 絡で、ドイツの所有者抵当について、近代法の理想型ではなく、後にプロイセンの 特殊事情が原因となった検証されたことが記憶にある。わが法の物上代位の問題、 抵当権に関するいくつかの問題の解決策となった判例法の確立も、団塊の世代の人 口増、その世代の社会への参加に伴う異常とも評価できる競争社会と利益追求至上 主義による経済発展、そして土地は下落しないとの土地神話の妄信に裏付けられた 旺盛な地上げによる土地の高騰、そしてその反映としてのバブル経済の崩壊、こう したものを清算するための手段として、一般法理の適用、特措法の立法等による問 題解決ではなく、それまでの演繹的思考方法を放棄し、帰納的方法による思考が採 用された結果であった、とでもなるのであろうか。 (28) 本稿までの前 2 稿を含め本稿も、紙数の制約上、その筆者の問題意識に関する 本質部分の十分な検討が困難となってしまった。これら抵当権の性質論に関連する 諸問題につき稿を改め詳細に検討したいと考える。ご寛恕願いたい。筆者の問題意 識の根底には、「市民社会の中に根づいている慣習や良識の中にこそあるべき法の 姿がある」(篠塚昭次『不動産法の常識 上巻』 2 ~ 8 頁(日本評論社、1970年)と の理解がある。かつての都市銀行の mof 担の言葉で表現された旧大蔵省、日銀の 「護送船団方式」の金融政策も綻びをみせている。金融の自由化、ゼロ金利政策に よる経営基盤の悪化のもと、大手メガバンクは、相次いで小口リテール業務の中心 である住宅ローン貸付からの撤退、支店網の整理及び行員のリストラを発表してい る(2017年12月の全国紙参照)。