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妖怪に対する社会心理学的手法を用いた探索的研究 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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妖怪に対する社会心理学的手法を用いた探索的研究

著者

高橋 綾子

著者別名

TAKAHASHI Ayako

雑誌名

東洋大学大学院紀要

55

ページ

21-30

発行年

2019-03

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00010600/

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要 旨

本研究の目的は、以前妖怪が果たしていた役割を現代では何が代わりに担っているのかに ついて社会心理学的手法を用い探索的に検討することである。本論では妖怪を「未知なる奇 怪な現象または異様な物体であり、人間に何らかの感情や行動を生じさせ、かつ、固有名詞 を持ち、社会的役割を果たすもの」と定義し、社会や人間に対する妖怪の作用を「社会的役 割」と呼ぶ。本研究では社会的役割に着目し、妖怪事典の内容分析による代表的な妖怪の類 型化(高橋・桐生, 2018)の結果を用い、以前妖怪が果たしていた社会的役割を現代では何 が代わりに担っているのかについての探索的な検討を試みた。妖怪の類型化では3つのクラ スタが得られ、クラスタごとの特徴や各クラスタに属する妖怪の特性が大まかに把握できた と同時に、妖怪の特性と恐怖喚起、注意喚起といった社会的役割との関連が示唆された。現 代における代替物においても同様に3クラスタが得られたが、分布には偏りが見られ、代替 物が補完できていない機能がある可能性が示唆された。今後は本結果をもとに現代における 社会的役割の置換対象、表出方法、過不足の有無などについてより詳細に検討する。 キーワード:妖怪、社会的役割、類型化、代替物

目 次

問題・目的 方法 結果 機能の抽出と代替物の選定、コレスポンデンス分析・クラスタ分析、各クラスタの特徴 考察 引用文献

妖怪に対する社会心理学的手法を用いた探索的研究

社会学研究科社会心理学専攻博士前期課程2年

高橋 綾子

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問題・目的

本研究の目的は、以前妖怪が果たしていた役割を現代では何が代わりに担っているのかに ついて社会心理学的手法を用い探索的に検討することである。 妖怪とは、人知の及ばない奇怪な現象、異様な物体などの総称であるが、本論では「未知 なる奇怪な現象または異様な物体であり、人間に何らかの感情や行動を生じさせ、かつ、固 有名詞を持ち、社会的役割を果たすもの」と定義し、社会や人間に対する妖怪の作用を「社 会的役割」と呼ぶ。ただし、妖怪と幽霊などその他不思議現象は区別して論じることとする。 幽霊は人間の妖怪化の特殊な形態であるという説(小松, 2013)もあるが、妖怪には「社会 的役割」があり、幽霊その他にはそれが無いという点で明確な違いがあると考えるためであ る。 ブントの民族心理学に始まり、神や超常現象、心霊現象など超自然的な現象に対する心理 学的研究は数多く行われてきた。我が国においても、菊池(1995)によって、現在の科学知 識では解明できない不思議な出来事が「不思議現象」と名付けられて以降、それらに対する 態度尺度の開発(小城・川上・坂田, 2008)や、潜在的信奉に対する認知的アプローチ(丹 藤, 2017)などが試みられてきたが、これらはあくまで不思議現象全般についての研究である。 帝塚山大学の日本文化学科・英語文化学科・心理学科の3学部によって作成されたウェブサ イト、妖怪ワンダーランド(2007)には、妖怪から人の心の本質が見えてくること、「人の 心の揺らぎ」が妖怪という存在を生み、育てていく要因であること、が都市伝説や占いなど と合わせて述べられている。桐生・水谷・平(2014)、及び桐生・平(2017)は日本心理学 会において自主企画シンポジウムを開催し、妖怪についての心理学的アプローチを検討して いる。生理心理学的観点による不思議現象に対する心的過程の考察、教育場面において活用 される恐怖体験の効果などが紹介され、現代社会に有用となり得る研究の枠組みを検討する ことが今後の課題であるとの認識が共有されている。しかしながら、これらは問題提起にと どまっており、実証的な研究は未だなされていない。 他の分野について見てみると、民俗学者の柳田國男(1977)は妖怪を「われわれの畏怖と いうものの、最も原始的な形」と捉え、現代の妖怪研究の第一人者であり怪異・妖怪伝承デ ータベース監修者の小松和彦(2015)は、妖怪研究を「人間の心の研究であり、人間の社会 の研究」と位置付けている。いずれも妖怪と「心」の関係は示唆されているが、妖怪にとも なう認知や感情にまでは踏み込んでおらず、日本の文化や風土を色濃く反映した妖怪に特化 した心理学的研究はほとんど行われていないのが実情である。 本研究の最終的な到達点は、妖怪に対する日本人の認知、感情を明らかにし、その生起メ カニズムと社会的役割を検討することである。これらの研究を進めるにあたり、妖怪に関す る多種多様な情報を整理することは必須であるが、前述のとおり心理学の先行研究はなされ ていない。また、他分野においても、現在に至るまで哲学者の井上円了や前述の柳田らがそ

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れぞれの学術的見地から妖怪を捉えようと試みてきたが、実証的で再現可能な分類とはなり 得ていない。そこでまず、高橋・桐生(2018)は妖怪事典の内容分析による代表的な妖怪の 類型化を試み、3つのクラスタを得た。本研究ではこの類型化の結果を用い、以前妖怪が果 たしていた社会的役割を現代では何が代わりに担っているのかについて社会心理学的手法を 用いた探索的な検討を試みた。本研究の結果を通して、妖怪の社会的役割と現代における代 替物との相違点や過不足、それらが我々の認知や感情にもたらす効果や弊害について考察する。

方 法

分析方法 分析は次の手順に従っておこなった。 1)機能の抽出  日本における代表的な妖怪の類型化(高橋・桐生, 2018)で得られた3つのクラスタの代 表的な妖怪から機能を抽出した。代表的な妖怪は、情報量が多く、各クラスタの特徴をよく 表しているものを3つずつ選出し、妖怪事典に記載されている機能を抽出した。各クラスタ の代表的な妖怪は以下のとおりである。 恐怖喚起―非人間型:おに、てんぐ、いったんもめん 注意喚起―非人間型:こそこそいわ、ぬりかべ、たたみたたき 人間型:かっぱ、ざしきわらし、にんぎょ  例えば、日本怪異妖怪大事典(小松, 2013)においていったんもめんは次のように表記さ れている。「伝承地域は九州に集中している。布の単位である一反の大きさといわれ、夜間 に出現する性質を持ち、闇夜に紛れ人を襲う。(中略)目も手もない「布に似た」飛行物体 の目撃談が多数を占める。」  この場合、下線部の「夜間に出現する」「人を襲う」「飛行する」を機能として抽出した。 同様に、9種類の妖怪について、代表的な妖怪の類型化(高橋・桐生, 2018)で用いた分析 資料を用い、機能を抽出した。また、ここでの機能とは、妖怪の社会的役割における具体例 を指す。例えば、「抑止」という社会的役割に対する具体例は「いましめ」「悪いことの前 兆」、「救済」という社会的役割の具体例は「仕事を手伝う」「医薬を伝授」などである。な お、社会的役割の項目は現段階では定めていないため、3つのクラスタごとに機能を抽出し、 クラスタ内で多く共通していた項目を変数とした。 2)代替物の選定  社会心理学専攻の大学院生8名とともにブレインストーミングを実施し、1)で抽出した 機能を現代において担っていると考えられる項目を選定した。例えば、現代において「信仰 の対象」という機能を果たしているものは何か、を問い、「宗教」「神」「仏」「アイドル」な どと自由にあげてもらった。その後、それぞれの項目の妥当性を検討し、選定した。

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3)統計分析  統計ソフトウェアR version 3. 4. 3を用い、コレスポンデンス分析およびクラスタ分析を 実施した。

結 果

機能の抽出と代替物の選定  代表的な妖怪の類型化(高橋・桐生, 2018)の結果をもとに抽出した機能33種類を変数と し、25の代替物に、機能を抽出した代表的な妖怪3種類ずつを加えた34項目について、該当 するものを1、0に変換し、分類した。変数の一覧と出現率をTable1に示す。 コレスポンデンス分析・クラスタ分析 コレスポンデンス分析の結果、第1軸は固有値 .440(寄与率 .204)、第2軸は固有値 .302 (寄与率 .140)であった。 第1軸(横軸)について負荷量の高い順に見ていくと、正方向へ害は与えない、ただ出現 する、負方向へ不吉、悪いことの前兆、が布置された。第2軸(縦軸)については、正方向 へ立ちふさがる、凶暴、負方向へ医薬を伝授、仕事を手伝う、が布置された。以上の結果よ り、第1軸を無害—有害、第2軸を俗—聖と命名した。 次に、コレスポンデンス分析で得られたカテゴリスコア、サンプルスコアを用いて、クラ スタ分析(ward法)を行い、3つのクラスタを得た。Figure 1.にクラスタ別のカテゴリー布 置、Figure 2.にクラスタ別のサンプル布置を図示する。第1クラスタには11、第2クラスタ には12、第3クラスタには10の変数が含まれていた。

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れJ

戸 れj σコ -2

2 3 Figure1.クラスタ別のカテゴ1)ープロット

イドル H

俗なる無害型

H

れJ ー2

2 3 4 Figure2.クラスタ別のサンプルプロット

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 得られた3つのクラスタ(サンプル)を独立変数、第1軸、第2軸のスコアを従属変数とし た一元配置の分散分析を行った結果、第1軸、第2軸ともに有意な群間差がみられた(第1 軸:F (2, 30) = 22.72, 第2軸:F (2, 30) = 30.69, ともにp< .000)。Figure3.とFigure4.に各群 の平均値を示す。TukeyのHSD法(0.05%水準)による多重比較を行ったところ、第1軸に ついては第3クラスタ>第1クラスタ>第2クラスタ、第2軸については第2クラスタ=第3クラ スタ>第1クラスタという結果が得られた。

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各クラスタの特徴 以上の結果から得られた各クラスタの特徴を以下に述べる。 第1クラスタは第1軸がほぼ0に近く、第2軸が著しくマイナスの値を示していた。このク ラスタに属する変数は、医薬を伝授、善悪の二面性、信仰の対象などで、有害、無害のどち らにもなり得、聖である傾向が非常に高いと考えられるため「聖なる型」とした。他のクラ スタとは対照的に、特定集団の関心の対象であり、その集団内で共有される聖なる象徴とな っていることが特徴である。主な代替物は、AI、法律、インターネットである。 第2クラスタは第1軸がマイナスの値、第2軸がプラスの値を示していた。人間にとって有 害であり、俗なる傾向にあると考えられるため、「俗なる有害型」とした。含まれる変数は、 凶暴、残虐、不吉、魔物などで、人間の恐怖を喚起し、攻撃性を持つ。主な代替物は自然災 害、都市伝説、犯罪者である。 第3クラスタは第1軸が著しくプラス、第2軸もプラスの値であった。人間にとって害は無 いが、俗なる傾向があると考えられるため「俗なる無害型」とした。含まれる変数は害は与 えない、ただ出現する、音を立てるなどで、人間を驚かせることはあっても恐怖は与えない という特徴を持つ。主な代替物はキャラクター、テーマパークである。

考 察

本研究の目的は、代表的な妖怪の類型化をもとに、その結果から抽出した機能を現代では 何が代わりに担っているのかについて探索的に検討することであった。妖怪の類型化では3 つのクラスタが得られ、クラスタごとの特徴や各クラスタに属する妖怪の特性が大まかに把 握できたと同時に、妖怪の特性と恐怖喚起、注意喚起といった社会的役割との関連が示唆さ れていた。これらの結果から得られた機能を抽出し、現代における代替物を検討したところ、 同様に3クラスタが得られたが代替物の分布には偏りが見られた。 「聖なる型」は他のクラスタと異なり、有害にも無害にもなり得る中間地点に位置してい る。自然科学やAIなど人間の作り出したものでありながら信仰の対象となっているものと、 神や仏といった存在自体が信仰の対象であるものが混在しているところに、その両義性が感 じられる。 対照的であったのは「俗なる有害型」と「俗なる無害型」である。量、質ともに多数の代 替物が見られた「俗なる有害型」に対し、「俗なる無害型」にはキャラクター、テーマパー クという2つ代替物しか見られなかった。加えて、この2つの代替物はその性質も似通って おり、ポジティブな機能しか持ち合わせていなかった。しかしながら、妖怪の社会的役割の 根底にあるのはネガティブな機能であり、両方の機能を持ち合わせているケースはあれど、 ポジティブなだけでは妖怪たりえないと考えられる。それゆえ、「俗なる無害型」の代替物 はその機能を果たしきれていないといえるであろう。

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上記の結果からは、現代においては、人間の恐怖を喚起し行動を抑止するような役割を果 たすものは多数存在するが、注意を喚起し行動の規範となるものや教訓といった役割を果た すものが少ないことが示唆された。  しかしながら本研究は探索的な検討を試みたにすぎず、代替物の傾向を把握するに留まっ ている。今後は現代社会における妖怪の代替物に対する認知や感情との関連、社会的役割の 置換対象、表出方法、過不足の有無などに対するさらなる検討が望まれる。まずは、本結果 で得られた3つのクラスタに属する代替物について、印象評価等の調査実施が必要であろう。 これらを通し、本結果の妥当性を確認するとともに、集団規範発生のメカニズムなどとの関 連も含めた社会心理学的な検討が期待される。 注1 本論文における研究は、日本応用心理学会第85回大会において一般研究発表した内容(高橋・ 桐生, 2018)に加筆したものてある。

引用文献

千葉幹夫(編)(2014).全国妖怪事典(講談社学術文庫) 講談社

Émile Durkheim (1925). Les formes élémentaires de la vie religieuse : le système totémique en Australie. F. Alcan

(エミル デュルケム 著, 古野 清人(訳)(1975). 宗教生活の原初形態(岩波文庫) 〈上〉〈下〉 岩波書店) 香川雅信(2005). 江戸の妖怪革命 河出書房新社 菊池聡・宮元博章・谷口高士(編)(1995).不思議現象 なぜ信じるのか こころの科学入 門 北大路書房 桐生 正幸・水谷 充良・平 伸二(2014). 妖怪心理学 第1話 混沌 日本心理学会第79回大会 発表論文集 桐生 正幸・平 伸二(2017). 妖怪心理学 第2話 九州河童伝説 日本心理学会第81回大会発 表論文集 小城英子・川上正浩・坂田浩之(2008). 不思議現象に対する態度:態度構造の分析および 類型化 社会心理学研究,23(3),246-258. 小松和彦(2015). 妖怪学新考 講談社 小松和彦(監修)(2013). 日本怪異妖怪大事典 東京堂出版

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Michael Dylan Foster(2009).Pandemonium and Parade: Japanese Monsters and the Culture of Yôkai. University of California Press

(マイケル.デュラン.フォスター著, 廣田龍平(訳)(2017). 日本妖怪考─百鬼夜行から 水木しげるまで 森話社)

水木しげる(2014).決定版 日本妖怪大全 妖怪・あの世・神様(講談社文庫)講談社 村上健司(編)(2015).改訂・携帯版 日本妖怪大事典(角川文庫)角川書店

R Core Team (2017). R: A language and environment for statistical computing. R Foundation for Statistical Computing. Retrieved from https://www.R-project.org/. (Janualy 14, 2018.)

高橋綾子・桐生正幸(2018). 日本における代表的な妖怪の類型化, 東洋大学21世紀ヒューマ ン・インタラクション・リサーチ・センター研究年報, 15, 97-100

丹藤克也(2017). 顕在的・潜在的不思議現象信奉に素朴概念および認知的抑制が及ぼす影 響 愛知淑徳大学論集−心理学部篇−, 7, 39-48

帝 塚 山 大 学(2007). 妖 怪 ワ ン ダ ー ラ ン ド Retrieved from http://www.tezukayama-u. ac.jp/yokai/index.html(2018年5月25日)

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Abstract

It is believed that supernatural beings (such as, ghosts, demons, etc.) exist. In Japan, Yokai means supernatural beings. The purpose of this study is to clarify the cognitive, emotional, and psychological utility related to Yokai and to exploratorily examine the psychological mechanism and the social roles. In this research, we defined Yokai as “An unknown bizarre phenomenon or mysterious object that causes people’s emotions and behaviors, has an individual name and plays social roles”. Furthermore, we will distinguish Yokai from other supernatural beings.

The result of classification of representative Yokai shows three groups. We were able to grasp that the characteristics of Yokai of each group, and it is suggested that the characteristic and the social roles such as arousing fear, arousing attention, etc. are related. The result of classification of current alternatives shows these groups are the same as representative Yokai. From the distribution, it also shows that there is the function that alternatives can not complement.

Based on these results, additional research is needed to clarify the factors of the social roles and proceed with process investigation of the psychological mechanism of Yokai from the viewpoint of social psychology.

Keywords:Yokai, Social roles, Classification, Alternatives

Classification of representative Yokai and Current

alternatives by multivariate analysis

参照

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