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認知症の危険因子と予防療法

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Academic year: 2021

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52:968 Fig. 1 糖尿病がアルツハイマー病の危険因子である機序 (仮説をふくむ). 糖尿病がアルツハイマー病を促進する機序を 2 段階で考え る.第一段階:インスリン抵抗性はβ アミロイド集積を 促進する.第二段階:β アミロイド集積に糖尿病の負荷が 加わるとタウのリン酸化が亢進し神経原線維変化,神経変 性が進行する. 加齢 インスリン抵抗性 糖尿病 タウ・リン酸化 神経変性 第一段階 第二段階 加齢 AE 集積 ApoEH4

<シンポジウム(1)―6―3>認知症疫学研究が提供するエビデンス

認知症の危険因子と予防療法

直行

(臨床神経 2012;52:968-970) Key words:アルツハイマー病,糖尿病,ベータアミロイド,タウ,インスリン・シグナル 糖尿病が孤発性アルツハイマー病(AD)の後天的危険因子 のひとつであることがコンセンサスをえつつある.しかしな がら,その機序に関してはいまだ明らかでない.糖尿病がどの ような機序で AD 発症率を高めるのかを解明することで,そ の危険因子の制御による AD の発症・進展抑制に加え,AD そのものの発症機序の理解にも寄与できる可能性が期待され る. ❶アルツハイマー病と後天的危険因子 多くの疫学的研究により,糖尿病が AD の後天的危険因子 の ひ と つ で あ る こ と が 報 告 さ れ て い る.The Rotterdam study において糖尿病は AD の発症リスクを 2 倍に増加させ ることが報告されており1),また日本の久山町研究においても 耐糖能異常は AD の発症を 2∼4 倍に増加させることが報告 されている.また,メタ解析においても糖尿病は AD の発症 危険因子であることが支持された2).しかし,糖尿病が AD の発症リスクを増加させる機序に関しては解明およびその理 解が十分でない. ❷アルツハイマー病の疫学病理学的研究 その理解のため,病理学的研究が非常に有用である.日本に おける代表的な疫学的研究である久山町研究では 75g ブド ウ糖負荷試験を施行した後フォローアップをして,剖検時(75 g ブドウ糖負荷試験平均 15 年前後)における老人斑などの AD 病理を検討したところ,インスリン抵抗性の存在は老人 斑の出現の有無と相関していた3).一方,Kalaria がおこなった

2009 年の Nature review neurology のレビュー4)では AD 患

者の剖検脳をもちいた臨床研究のメタ解析では,糖尿病の存 在は老人斑集積レベルを変化させないことが示されている. この一見すると反駁する結果はどうように解釈すれば良いの だろうか.「糖尿病が AD の発症リスクを増加させる機序が 老人斑の形成前後でことなる」のではないかと著者は仮説を 立てた(Fig. 1).第一段階として「インスリン抵抗性は老人斑 の形成を惹起する」,第二段階として「老人斑の存在下に糖尿 病はタウのリン酸化を促進し,神経変性を促進する」という仮 説である. ❸糖尿病モデルにおけるβ アミロイドの蓄積の報告 まず,第一段階の「インスリン抵抗性が老人斑の形成を惹起 する」という実験的検証は実はあまり多くない.1994 年の Sparks らの論文に遡ると,野生型ウサギに 2 カ月 2% コレス テロール負荷をすると細胞内および細胞外のβ アミロイド集 積が増加したと報告している. ❹糖尿病合併アルツハイマー病モデルにおける認知機 能の低下と脳内アミロイド量の変化 われわれは次に 2 段階目の「老人斑形成後における AD に対する糖尿病の影響」をしらべるため,AD と糖尿病の掛け 合わせマウスを作製し,その病態解析をおこなった.その結 果,AD と糖尿病の掛け合わせマウスにおいては認知機能障 害が生後 8 週齢という非常に早期よりみとめられた5).そのメ カニズムを探るため,脳ホモジネートをもちいて,β アミロイ ド量を検討したところ,脳全体では糖尿病の合併の有無でそ の量に変化はなかった. 大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学〔〒565―0871 吹田市山田丘 2―2〕 同 老年・腎臓内科学 (受付日:2012 年 5 月 23 日)

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認知症の危険因子と予防療法 52:969 Fig. 2 糖尿病とアルツハイマー病の相互的病態修飾作用(仮説含む)(文献6)より引用). 糖尿病とアルツハイマー病が合併する場合の相互作用の概要(仮説含む)を示す.糖尿病はアルツハ イマー病病態を修飾する.逆方向に糖尿病はアルツハイマー病の病態を修飾する.その相互病態修飾 にインスリン・シグナルは重要な役割を担っているのではないか. ❺糖尿病合併アルツハイマー病モデルにおける脳血管 アミロイド沈着の増強 次に,脳血管を取り出しβ アミロイド蓄積を検討したとこ ろ,驚いたことに糖尿病合併 AD モデルマウスでは従来の AD モデルマウスに比較し,脳血管へのβ アミロイド蓄積が 顕著であった.次に最終糖化産物(Advanced glycation end-product:AGE)の受容体である RAGE に注目し,抗 RAGE 抗体をもちいて免疫染色をおこなった結果,糖尿病合併 AD マウスの血管において RAGE の発現亢進がみとめられた.さ らに糖尿病合併 AD マウスにおける炎症性サイトカインを 検討したところ,IL-6 や TNFα といった炎症性サイトカイン の増加が脳血管周囲においてみとめられた. ❻糖尿病合併アルツハイマー病モデルにおける脳内イ ンスリン・シグナリングの低下 さらに脳における機能分子の検索をおこなったところ,糖 尿病合併 AD マウスにおいて血管の炎症とともに,脳内のイ ンスリン・シグナリングの低下をみいだした.脳内インスリ ン・シグナル6)は脳内の糖代謝やシナプス機能に重要な役割 を果たしているとの報告が複数存在する.また,脳内インスリ ン・シグナリングを欠損させるとβ アミロイドが低下する一 方で,タウのリン酸化は促進し,神経原線維変化は増加する方 向に働く,すなわちこの 2 大 AD 病理に対してはまったく逆 方向の効果を持つことが想定されている.それゆえ,糖尿病合 併 AD の治療の方向性を決定するた め に は 脳 内 イ ン ス リ ン・シグナリングの変化の意義を明らかにする必要がある. ❼アルツハイマー病が糖尿病病態を修飾する可能性 糖尿病があると AD 病態が悪化すること,その機序として の脳血管アミロイドの増加,脳内インスリン・シグナリング の低下について述べたが,逆に AD が糖尿病の病態を悪化さ せる可能性があることをみいだした5)(Fig. 2).AD と糖尿病 の間に悪循環の関係があることが示唆されるが,この関係は すでに臨床研究においても報告されている.実際の臨床にお いては認知症による糖尿病薬の飲み忘れや過食も糖尿病コン トロールを悪化させることはしばしば経験することである. ❽糖尿病関連モデルにおけるタウリン酸化の亢進 AD 剖検脳の複数の研究において糖尿病の有無で老人斑と 同じく神経原線維変化の程度に差がないと報告されている. しかし,一方で糖尿病モデル動物ではタウのリン酸化の亢進 が複数報告されている.ストレプトゾシンをもちいた I 型糖 尿病モデルマウスは多くの研究室から脳におけるタウのリン 酸化の亢進が報告されている.また,II 型糖尿病モデルとして は db!db マウスにおいて 24 週齢でタウリン酸化の亢進が報 告されている.末梢にインスリンを投与した高インスリン血 症マウスにおいてもタウのリン酸化亢進がみとめられてい る.このように糖尿病関連モデルマウスにおいてタウのリン 酸化の亢進が多く報告されており,糖尿病によるタウ病変の 促進効果に注目する必要があろう.

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臨床神経学 52巻11号(2012:11) 52:970 ❾運動と認知機能 認知症におけるあらゆるランダム化比較試験の中で有効性 を示した報告は非常に少ない.興味深いことに,身体運動はラ ンダム化比較試験において認知機能の改善効果が示されてい る.認知症のない高齢者を定期的な歩行をする群としない群 に振り分けたところ,歩行した群では,歩行しない群にくらべ 認知機能の改善をみとめた7)∼9).またレジスタンス運動(筋肉 に抵抗をかける運動,週 1∼2 回)に関しても認知機能に改善 をみとめたとする報告がある10).これらの結果はインスリン 抵抗性の改善を介した認知機能の改善の可能性を示唆する. おわりに 認知症の危険因子として糖尿病がコンセンサスをえつつあ る.その機序は①インスリン抵抗性による老人斑形成の惹起, ②β アミロイド毒性に対する生体防御反応の糖尿病による破 綻が考えられた.運動によるインスリン抵抗性の予防,そして 糖尿病によるアルツハイマー病進展の分子機序解明に基づく disease modifying drug の開 発 が 予 防 療 法 と し て 期 待 さ れ る.

※本論文に関連し,開示すべき COI 状態にある企業,組織,団体 はいずれも有りません.

1)Ott A, Stolk RP, van Harskamp F, et al. Diabetes mellitus and the risk of dementia: The Rotterdam Study. Neurol-ogy 1999;53:1937-1942.

2)Kopf D, Frolich L. Risk of incident Alzheimer s disease in diabetic patients: a systematic review of prospective

tri-als. J Alzheimers Dis 2009;16:677-685.

3)Matsuzaki T, Sasaki K, Tanizaki Y, et al. Insulin resis-tance is associated with the pathology of Alzheimer dis-ease: the Hisayama study. Neurology 2010;75:764-770. 4)Kalaria RN. Neurodegenerative disease : Diabetes,

mi-crovascular pathology and Alzheimer disease. Nat Rev Neurol 2009;5:305-306.

5)Takeda S, Sato N, Uchio-Yamada K, et al. Diabetes-accelerated memory dysfunction via cerebrovascular in-flammation and Abeta deposition in an Alzheimer mouse model with diabetes. Proceedings of the National Acad-emy of Sciences of the United States of America 2010;107: 7036-7041.

6)Sato N, Takeda S, Uchio-Yamada K, et al. Role of Insulin Signaling in the Interaction Between Alzheimer Disease and Diabetes Mellitus: A Missing Link to Therapeutic Po-tential. Curr Aging Sci 2011.

7)Erickson KI, Voss MW, Prakash RS, et al. Exercise train-ing increases size of hippocampus and improves memory. Proc Natl Acad Sci U S A 2011;108:3017-3022.

8)Lautenschlager NT, Cox KL, Flicker L, et al. Effect of physical activity on cognitive function in older adults at risk for Alzheimer disease: a randomized trial. Jama 2008; 300:1027-1037.

9)Baker LD, Frank LL, Foster-Schubert K, et al. Aerobic exercise improves cognition for older adults with glucose intolerance, a risk factor for Alzheimer s disease. J Al-zheimers Dis 2010;22:569-579.

10)Liu-Ambrose T, Nagamatsu LS, Graf P, et al. Resistance training and executive functions: a 12-month randomized controlled trial. Arch Intern Med 2010;170:170-178.

Abstract

Non-genetic risk factors for dementia

Naoyuki Sato, M.D.

Department of Clinical Gene Therapy, Graduate School of Medicine, Osaka University Department of Geriatric Medicine, Graduate School of Medicine, Osaka University

Growing evidence supports that diabetes mellitus (DM) is one of the non-genetic risk factors for Alzheimer s disease (AD). However, the mechanisms by which DM increases the risk of AD have not been fully understood. Epidemiological studies suggested that DM modifies AD pathology. The studies using AD animal models with DM also indicated that these two types of diseases interacted pathologically with each other. Elucidation of the mechanism of the pathological interaction between AD and DM could open the door for generation and develop-ment of novel therapeutic strategies for AD, especially in the elderly.

(Clin Neurol 2012;52:968-970)

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