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筋萎縮性側索硬化症における脊髄前角細胞の神経突起の変化について : 最近の知見から

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総 説 〔東女医大誌 第59巻 第6号頁 514∼518 平成元年6月〕

筋萎縮性側索硬化症における脊髄前角細胞の神経突起の変化について

一最近の知見から一

東京女子医科大学 脳神経センタ.一神経内科(主任::丸山勝一教授) サ サ キ ショウ イチ

佐 々 木 彰 一

(受付 平成元年2月9日)

Changes of Neuronal Processes of Anterior Horn Neurons in Amyotrophic Lateral Sclerosis

Shoichi SASAKI

Departlnent of Neurology(Director:Prof. Shoichi MARUYAMA), Neurological Institute,

Tokyo Women’s Medical College

The neuropathology of the spinal anterior horns in amyotrophic lateral sclerosis(ALS)had been almost exclusively focused on alterations in the somata of large anterior horn neurons before Carpenter indicated that proximal axonal swellings(spheroids)could be a sign of early changes in ALS. Recently, several investigators reported some connections between the proximal axonal

swellings and their perikarya. Most of the cell bodies connected with the swellings show no obvious abnormality, which seems to indicate that proximal axonal swellings represent an early pathological change and that some impairment occurs in the relevant portions at an early stage. On the other hand, small, thin dendrites are frequently observed in this disorder, and most of the cell bodies with these thread−like atrophic processes show central chromatolytic change. In addition, it has been reported that some dendrites could be focally swollen in the primary portion. These findings suggest that early changes also occur in the dendrites.

はじめに 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の脊髄前角におけ る病理学的研究は,従来主に大型前角細胞の胞体 の変化についてなされ,神経突起の変化について は最近まであまり注意が払われてこなかった. 1968年,Carpenter1)が脊髄前角に認められる嗜銀

球を直径20μm以上のspheroidとそれ以下の

globuleに分け, spheroidがALSの初期変化であ る(globuleは正常人にもみられる)可能性を指摘 して以来,神経突起の変化についても関心がよせ られるようになった.本稿では,ALSにおける脊 髄前角細胞の突起の変化について,最近の知見を 紹介する. 1.Proximal axonの変化 1959年,Wohlfart2)はALSの脊髄前角に円形の 小さな嗜銀球を見出し,これらの存在が錐体路変 性と関連していることから;嗜銀球は上位運動 ニューロンの軸索のterminal knobの変性ある いは再生による変化であると考えた.1968年, Carpenter1)が臨床経過の短いALS症例の前角に 多数のspheroidsを見出し, ALSの初期変化とし ての意義を唱えてから,この嗜銀球は改めて脚光 を浴びるようになった.すなわち,spheroidと直 接連続している神経細胞体には明らかな異常が認 められないことから,spheroidはALSにおける 初期変化であるとした.その後,一般にspheroid は臨床経過の短いALS症例の特に腰髄前角に認 められることが知られている3)∼8).Carpenterの報 告以後,典型的ALSでspheroidと神経細胞体と の直接の連続性がみられた例はなく,spheroidが

(2)

すべてproximal axonの腫大であるとするには 疑問が残されていた,とくに,井上と平野6)は臨床

経過10ヵ月の多数のspheroidsが認められた

ALS症例の脊髄を横断/縦断/斜断切片を用いて 詳細に検索したが,spheroidと胞体との連続性は 発見できなかった.同症例を電顕で観察した平野

と井上7)は,spheroidが錯綜する10nm

neuromamentの蓄積から成り,しぼしぼ髄鞘に よって被われていることから,spheroidは軸索に 由来するとし,さらに神経細胞体および樹状突起 にもneuromamentの蓄積を見出している.しか も,spheroidは必ずしも臨床経過の短い症例ぽか りでなく,経過の長い症例にも顕著ではないが認 められている8).最近,Sasakiら9)は下位運動 ニューロン障害がdominantである臨床経過の短 い(6ヵ月)症例の腰髄前角の連続パラフィン切 片に鍍銀染色を施し,神経細胞体と神経突起の腫 大との連続性を少なからず見出している.さらに, Sasakiら10》は同症例の腰髄部のエポン包埋連続 厚切り切片を作製し,トルイジンブルー染色で proximal axonの腫大(spheroidを含む)と胞体 との連続性を確認している(写真1).その後,岡 本らu)は81歳のALS症例で,また黒田ら12}も ALS 8症例の検索で胞体とproximal axonの腫

大との連続性を見出している.従って,少なくと もspheroidのあるものはproximal axonが腫大 したものと言うことができる.一方,エポン包埋 トルイジンブルー染色標本あるいはパラフィン切

濡紙

v.

擁畿・、

写真1 Proximal axonの腫大と胞体との連続性が 認められる.トルイジンブルー染色×650 片鍍銀染色標本で,spheroidと同様のものが前角 細胞のperikarya内に時に認められること,また 平野ら7}8}の報告のようにneuro創amentがperi・ karyaあるいは樹状突起内に蓄積していることな どから,spheroidがproximal axonのみならず perikaryaあるいは樹状突起から生ずる可能性も 示唆されている.Spheroidの電顕像は一般的には 錯綜する10㎜neuromamentカ・ら成り,その内部 にミトコンドリアおよびvesiclesなどが混在し て認められ,稀に平野小体やhoneycomb・like structureなどがみられている8}(写真2). Sasaki ら13)は胞体と連続するproximal axonの腫大を 電顕で観察し,腫大はinitial segmentのdistal portionから始まり有腰部軸索の丘rst intemode にかけてexpandしており,前者では長軸方向に 平行に走るneuromamentの増加,後者では錯綜

するneuromamentのacc㎜ulationがみられた

と報告している.また,proximal axonの腫大と 連続する胞体は,時にミトコンドリアの異常集積 がみられることがあるものの,多くはほぼ正常で あることから,proximal axonの腫大は初期変化 を示すものであろうと述べている13}. SpheroidはまたALSの実験動物モデルでも認 められている14,噌17).β,β’一iminodipropionitrile (IDPN), al㎜inum(A1)の各中毒およびheredi・

tary canine muscular atrophy(HCSMA)など

写真2 Spheroidの電顕三

主に錯綜する10nm neuromamentから成り,その内部 にミトコンドリアおよびvesiclesが散在して認めら れる.×3,500

(3)

である.これらの動物モデルは,病変が主にprox−

imal axonに生ずることから, proxirnal

axonopathyの疾患概念に分類されている15).こ れらの動物では多数のspheroidsがみられ,また spheroidと胞体との連続性も容易に認められる.

IDPN中毒では, neuro創amentの著明な増加は

proximal axonにみられるが, perikaryaおよび

樹状突起内には一般に生じない.Neuro丘lament のproximal axonでの蓄積は, slow axonal

transportの障害によると考えられている. Al中 毒を起こしたウサギでは,最初proximal axonの

腫大がみられ,その後perikaryaおよび樹状突起 にもneuro創amentの増加が認められている.そ

の発症機構は,slow transport systemによって運

ばれるcytoskeletal elementのtransportに障害 が生ずるためと考えられている.IDPNおよびAl 中毒によるproximal axonの腫大はreversible である.一方,HCSMAでは多数のspheroidsの みでなく,central chromatolysisや神経細胞の脱 落がみられている.その腰髄レベルでは1前角当 り40以上の腫大がみられ,大部分は軸索に,ある ものは樹状突起に由来している.電顕では, neurofilamentの異常蓄積がproximal axonぽか りでなく,perikaryaおよび樹状突起にもみられ ている.HCSMAではヒトALS同様, proximal

axon, perikaryaおよび樹状突起における

neuro丘lamentのaccumulationおよび前角細胞 の脱落が認められるが,通常ヒトALSの前角細 胞にみられるBunina小体が認められないこと, 臨床的に上位運動ニューロン徴候が認められない 点など,ヒトALSとは臨床的および病理学的に 重要な差異がみられる.ALSでは軸索に関する病 理学的所見として,proximal axonの腫大および

neuro丘lamentの蓄積以外に, atrophic changeす

なわち神経細胞体から突出する軸索が細くなるこ

とが報告されている10)18).ALSではcentral chromatolysisを起こしたneuronから突出する

神経突起は小さく細い.また,そのようなatro−

phic cell processesは,多数のspheroidsおよび central chromatolysisカミ認められる症例により 多くみられている18). 一般に,正常状態ではperikarya,樹状突起およ

びproximal axonにおけるneuro創amentは

phosphorylationされていないが, IDPNおよび

Al中毒の実験動物モデルやcentral

chromatolysisを起こした神経細胞ではperlkar−

yaのneurofilamentがphosphorylationされて

いる19).また,ALSでは前角細胞のperikaryaお よびP「oximal axonal segmentにphosphoryla.

tionされたneuromamentの蓄積が認められ,

IDPNやAl中毒と同様にそのpathomechanism

はneurofilamentのtransportの障害によるもの との報告がある19)が,この点に関しては,今後さら に免疫組織学的および電顕的検索が必要と思われ る. 2.樹状突起の変化 ALSでは一般に樹状突起のatrophic change がみられ,神経細胞から突出する樹状突起は糸の ように細い18)20)∼22).鍍銀染色では,萎縮した樹状

突起が突出する胞体の多くはcentraI

chromatolysisの所見を示すが,神経細胞は一様

に小さく,いわゆるaxotomyによるcentral

chromatolysisとは異なっている18).一方,. ALS でもnormal−looking neuronカ・ら突出する神経 突起はnormal−lookingのことも多い. Golgi染色 では,樹状突起のextensionが貧弱で,神経細胞か ら突出する樹状突起の数も少なく,その径は細く しぼしぼ短いことが報告されている21).樹状突起 の表面はs!noothでなく,不規則になっている21). Katoら2Dは長い距離にわたって突起の変化が追 跡できるGolgi染色の観察から, ALSでは前角細 胞の樹状突起のloss,とくにdistal portionでの 10ssが特徴であると指摘している.最近, Carpen− terら22)はALS15症例のうち9例の前角細胞で1 本以上の著しく萎縮した樹状突起がみられ(対照 例では6例中1例のみこの現象が観察された),他 方proximal axonは通常の直径を保っていたこ とから,ALSでは樹状突起内のneuromamentの 減少によって起こる樹状突起の進行性の萎縮が

motor neuron deathに先立って生ずるとし, den− dritic attritionの重要性を報告している.一方, 佐々木ら23>は樹状突起の萎縮に付け加え,その初

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期には樹状突起のあるものにprimary portionで むしろ腫大が認められたと述べている.また, Sasakiら10)はエポン包埋トルイジンブルー染色 標本の検索から,proximal axonの腫大と直接連 続性の見られた前角細胞体および樹状突起セこは明 らかな異常が認められなかったとしている, ALSにおける樹状突起の変化は萎縮が主なる ものであるが,その一部はむしろ腫大していると の報告もあり,樹状突起の変化はALSのpath− ogenesisとも関連して,今後さらに追求する必要 がある. ま と め 従来,ALSにおける脊髄前角の病理学的研究は 前角細胞の単純萎縮,pigmented atrophyなど胞 体に関する記載が主であったが,最近,神経突起 の変化,とくにproximal axonおよび樹状突起の 初期変化に関心がよせられている.Carpenterの 報告以来,spheroidと神経細胞体のconnection はまれな所見とされてきたが,最近そのような connectionを示す症例が相次いで報告された,10 nm neurofilamentの蓄積から成るspheroidsの あるものがaxonに由来することは確かである が,spheroidと同様のものがperikaryaあるいは 樹状突起にもみられており,spheroidがそれらに も生じる場合がある.換言すれぽ,neuromament

の過剰産生あるいはneuro創amentのaxonal

transportを含めて, ALSのpathogenesisは

neuro丘brillary changeカミ関与している可能性が ある.さらに,実験動物モデルとの比較において,

ヒトALSではその初期変化としてdendritic

swellingを起こすかということも重要な問題で

ある.ALSのpathoetiologyあるいはpath−

ogenesisに関する研究の遅れは, ALSの真の動物 モデルがないこと,臨床経過の短い症例でかつ死 後時間が短くよく固定された組織が得られにくい ことなどが一因である.そのような症例を用いて

の詳細な病理学的検索がALSのpathogenesis

解明には不可欠であり,それに代る方法はない.

ALSのpathomechanismを解明するためには,

ALS患者の病理組織にたよらざるを得ない.ま た,この組織のみがevidenceを提供する“source” であり,組織の入手に関し臨床家の協力が要請さ れる, 稿を終えるにあたり,御校閲を頂いた丸山勝一教 授,竹宮敏子教授および小林逸郎助教授に深謝する. 文 献

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2)Wohlfart G:Degenerative and regenerative axonal changes in the ventral horns, brain stem and cerebral cortex in amyotrophic lateral sclerosis. Acta Universitatis Lundensis(New

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9)Sasaki S, Kamei H, Yama筑e K et al:Swell−

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13)Sasaki S, Maruyama S, Yamane K et al:

Ultrostructure of the swellings of proximaI

axons of anterior horn neurons in motor neur一

(5)

on disease, (lilitasig)

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参照

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