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愛知県における事故件数と交通量の関係についての分析

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Academic year: 2021

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(1)

愛知県における事故件数と交通量の関係についての分析

Analysis for the Relationship between the Number of Accidents and

Traffic Volume in Aichi Prefecture

加藤 翔馬

1

安藤 圭祐

1

伊藤 暢浩

1

岩田 員典

2

内種 岳詞

1

向 直人

3

蒋 湧

2

Shoma Kato

1

, Keisuke Ando

1

, Nobuhiro Ito

1

, Kazunori Iwata

2

,

Takeshi Uchitane

1

, Naoto Mukai

3

, Yong Jiang

2

1

愛知工業大学

1

Aichi Institute of Technology

2

愛知大学

2

Aichi University

3

椙山女学園大学

3

Sugiyama Jogakuen University

Abstract: Each year, about 1.35 million people die as a result of traffic accidents in the world. The 2030 Agenda for Sustainable Development also has set an ambitious target of halving the global number of deaths and injuries from road traffic crashes by 2020 [1]. In Japan, Aichi Prefecture has the most traffic accidents by a prefecture for 16 years until 2018. Aichi Prefecture arose the goal “By 2020, reducing the annual number of traffic fatalities within 24 hours after an accident to no more than 155” in the 10th Aichi Prefecture Traffic Safety Plan released in 2016 [2]. In this paper, we analyze the relationship between the number of accidents and traffic volume in Aichi Prefecture to reduce traffic fatalities. In this analysis used the latest traffic accidents data including 2019. As a result of the analysis, we found some relationship between them. Furthermore, we find the possibility of a rapid increase in the number of traffic accidents when the traffic volume exceeds a certain criteria. We will estimate the criteria near future.

1

はじめに

世界保健機関 (WHO) の発表 [3] によると,世界では 毎年,交通事故により 135 万人が亡くなっていると報 告されている.また交通事故は,2016 年における全年 代の死亡原因で第 8 位になっており,特に 5 歳から 29 歳における主な死亡原因であるとしている. 愛知県においては,都道府県別の交通事故による死 者数は,2018 年までの 16 年間連続でワースト 1 位で ある.2019 年の死者数は 156 人で千葉県に次いでワー スト 2 位となったものの,2020 年 11 月 11 日現在の死 者数は,愛知県警察の交通事故日報 (暫定数) [4] によ ると,129 人で暫定ワースト 1 位となっている.とはい え,愛知県警察が発表している交通統計 [5] によると, 2019 年までの過去 10 年の交通事故による死者数と人 身事故件数は年々減少傾向にある. 連絡先: 愛知工業大学 大学院 経営情報科学研究科        〒 470-0392 愛知県豊田市八草町八千草 1247        E-mail: b19709bb@aitech.ac.jp 内閣府は第 10 次交通安全基本計画 [6] の目標として, 2020 年までに交通事故による死者数を 2,500 人以下に することと,死傷者数を 50 万人以下にすることを掲げ ている.また,愛知県も,この国の基本計画を踏まえ, 第 10 次愛知県交通安全計画 [2] の目標として,2020 年 までに交通事故による死者数を 155 人以下にすること と,死傷者数を 39,000 人以下にすることを掲げている. 先行研究では,基本統計量を用いて愛知県の交通事 故データを分析し,事故件数が 8 時台と 18 時台に増加 する要因は,通勤時間帯の当事者の内在的・外在的要 因により引き起こされた事故が多いからではないかと いう考察をおこなった.しかし,交通事故件数と交通 量の関係が示されていない点が指摘されていた. そこで本稿では,交通事故件数と交通量の関係に注 目した分析をおこなう.また,交通事故件数と交通量を 考える際には,曜日や季節などの周期性を考慮する必 要があるためそれを加えた分析をおこなうことにする.

(2)

2

本稿の位置付け

2.1

関連研究

これまで,土木計画学及び交通工学の分野ではより 安全な交通の実現を目的とした多くの研究がなされて いる. 塩見ら (2016) [7] は,交差点の構造に注目した研究 として,交差点幾何構造と事故リスクの関係性を定量 的に明らかにした.事故リスクを定義し,ポアソン回 帰モデルを用いて交差点幾何構造が事故リスクに及ぼ す影響を求めた結果,交差点の規模を表す変数が有意 に事故リスクを増大させることを示した.また,構築 したモデルから設計した交差点事故対策シナリオによ る事故削減効果を算出し,有効性の高い交差点を対象 に規模の縮小を含む交差点改良をおこなうと,35%程 度の事故件数の削減が可能であることを示した.渡部 ら (2016) [8] は,交通における主体の挙動に注目した 研究として,交差点における右折車の運転者が直進す る対向車の間を右折するかどうかを判断する挙動につ いて,特に危険性が高まると考えられる多車線交差点 を対象に分析をおこなっている.挙動の意思決定プロ セスを検討した上でその判断を二項ロジットモデルに より表現し,右折を許容する時間の閾値を算出,評価 している.その結果から,対向車の車線走行位置によ りこの閾値が変化することを定量的に示している.ま た,この閾値の差は,右折車が対向車の間を抜けて右 折する上でのリスクと捉えることができ,安全性の確 保のためにはこのようなリスクを抑えていく必要があ ることが示されている.これらの研究では,交通安全 の達成に向けたアプローチとして,交差点の安全性に ついて,構造や主体の挙動に注目して研究をおこなっ ており,交通事故のマクロ的な分析はおこなわれてい ない. 兵藤ら (2016) [9] は,交通量に注目した研究として, 時間交通量,沿道状況,道路構造がそれぞれ交通事故 リスクに与える影響を事故類型別にポアソン回帰モデ ルを用いて算出し,事故発生要因の分析をおこなって いる.例えば,出会頭事故においては,時間交通量に よる事故リスクの有意な傾向は見られないものの,道 路延長当たりの交差点数に比例して事故リスクが高く なるという結果が示されている.車両単独事故におい ては,時間交通量が少ない状況,すなわち高い走行速 度を選択しやすい状況下で事故リスクが高まる可能性 を示している.以上のように,事故発生要因と事故リ スクの関係は,事故類型別に異なることを示している. この研究では,対象とした地域の一般道路において継 続的に計測をした交通量データはなく,代替として集 計された交通量データを用いており,時間ごとの推移 についての分析はおこなわれていない.

2.2

本稿の目的

本研究は,愛知県における交通事故死者数の減少や, 被害の軽減のため,情報技術により交通事故の特徴に ついて明らかにし,交通安全の確保に貢献することを 目的とする. 先行研究 (2019) [10] として,我々は名古屋市におけ る死亡事故及び重傷事故を対象に,相関分析をした結 果,{ 事故内容,道路形状 } のペアが交通事故による 被害を軽減していくための手がかりになるとして分析 をした.結果,道路形状の項目のうち,「単路その他」, 「中中交差点内」での事故件数が比較的多く,これらの 道路形状は,被害の大きい事故に繋がりやすい道路形 状であると推測した.更に内訳を確認するため,それ らの道路形状に対し発生時別の事故件数の推移を比較 した.その結果,どちらの道路形状においても,事故 件数が 8 時台と 18 時台にピークを迎えるような山なり の変化をしており,これは,通勤時間帯の当事者の内 在的・外在的要因により引き起こされた事故が多いの ではないかという仮説を示した.しかし,以上の分析 では,交通量のデータを含めていないため,単に通勤 時間帯に交通量が増えたために交通事故件数が増加し たという可能性や,愛知県の道路における道路形状の 全数を把握できていないため,単に事故の比率が多く 見えるという可能性を排除できていない. そこで本稿では,朝夕の事故件数が増加した理由を 探るため,交通事故件数と交通量の関係に注目した分 析をおこなう.加えて,季節や曜日といった周期性は, 交通事故や交通量に関係のある要素であり,それを加 えた分析をおこなう.

3

データの概要

本稿の分析で使用するデータは,交通事故データと 断面交通量データである.それぞれのデータに対する 説明を以下に述べる.

3.1

交通事故データ

交通事故データとは,緯度経度情報,発生年月日時, 事故類型や道路形状など,その交通事故の性質を表現 する変量が含まれたデータである.分析に使用する交 通事故データは,2009 年から 2019 年までに愛知県警 察によって記録されたデータであり,レコード数は約 50 万件,当事者情報も合わせると約 100 万件ある. 先行研究は,名古屋市の死亡事故及び重傷事故を対 象としていたが,本稿では名古屋市以外を含めて考え, より広い考察を与えるため,愛知県の県庁所在地であ る名古屋市だけでなく,筆者らの土地勘があり且つ,大

(3)

学の近隣の市でもある豊田市,長久手市,瀬戸市の 4 つの市を対象に考察をおこなう.図 1 に名古屋市,豊 田市,長久手市,瀬戸市の位置関係を示す. 図1: 名古屋市,豊田市,長久手市,瀬戸市の位置関係 また,参考として表 1 に 2020 年 11 月 12 日現在確 認できる各市の統計情報 (総人口数,世帯数,面積) を 示す [11–14]. 表1: 各市の統計情報 市 総人口数(人) 世帯数(世帯) 面積(平方km) 名古屋市 2,328,138 1,128,177 326.5 豊田市 422,858 182,600 918.3 長久手市 60,077 24,636 21.6 瀬戸市 129,102 56,870 111.4

3.2

断面交通量

(公財) 日本道路交通情報センターが提供する断面交 通量データは,各都道府県警察が車両感知器などの計 測機器で収集した断面交通量に関する情報を警察庁に おいて取りまとめ,CSV ファイルに変換し提供してい るデータである [15].断面交通量とは,同サイトの説 明によると「ある道路断面をある方向に通過する単位 時間当たりの交通量 (単位:台)」である.断面交通量の 計測方法を図 2 に示す. 断面交通量のデータは,各計測地点ごとに 5 分単位 で,その計測地点を通過した車の台数が計測される.そ のため断面交通量は,車両台数が多くても,渋滞など により移動速度が遅くなると少なくなる. 分析に使用する断面交通量のデータは,愛知県にお ける 2019 年 10 月及び,2020 年 2 月から 9 月までの 9ヶ月分のデータである.また,断面交通量のデータに は,計測地点の位置情報が含まれていないため,(公財) 日本交通管理技術協会が提供している断面交通量の計 測地点の位置情報 [16] を組み合わせて利用する. 進⾏⽅向 計測地点 図2: 断面交通量の計測方法

4

分析と考察

4.1

周期性を考慮した事故件数と交通量の

分析と考察

本節では,事故件数と交通量は周期性による特徴が あるのか,また,特徴があるなら,それぞれの周期性に はどのような違いがあるのかを明らかにするため,時 間別,季節別,曜日別の事故件数,交通量に注目し,そ れぞれの特徴について考察をする. 図 3 に各市における季節別・曜日別の 1 時間ごとの 事故件数・交通量の計 4 つを示す.図 3 に対して,そ れぞれ考えられる特徴について,第 4.1.1 項では,季 節に注目をした考察を,第 4.1.2 項では,曜日に注目 をした考察を述べ,最後に第 4.1.3 項で,本節の全体 を通した考察を述べる. 図 3 のそれぞれの図において,各グリッドのグラフ は 1 時間ごとの事故件数・交通量を表しており,それ らを縦方向に市ごと,横方向に季節別・曜日別に並べ ている.なお,グラフが事故件数である場合は,各市 によって件数が大きく異なるため,事故件数の目盛り を市ごとに変更している.交通量は,断面交通量デー タを各市の計測地点数で平均化し算出している. 4.1.1 季節に注目をした考察 図 3(a) について,各市における秋冬の夕方の事故件 数に注目すると,春夏と比べて事故件数が多い.これ は,通勤時間帯と日没の前後の時間帯が被ることで,運 転者の視界状況が不良となることが影響していると推 測できる. 図 3(b) について,各市における春の交通量は,夏秋 冬に比べ少ない.これは,新年度による生活環境の変化 に伴い,車での移動を控えようとする意識からくる影響 であると考えられる.しかし,本稿で使用した断面交通 量データは,新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) の流行期間中のものであり,各自治体による外出自粛

(4)

春 夏 秋 冬 名古屋市 豊田市 長久手市 瀬戸市 0 5 10 15 20 0 5 10 15 20 0 5 10 15 20 0 5 10 15 20 0 1000 2000 3000 0 200 400 600 0 30 60 90 0 50 100 150 時間(時) 事故件数 (件 ) (a) 各市における季節別の 1 時間ごとの事故件数 春 夏 秋 冬 名古屋市 豊田市 長久手市 瀬戸市 0 5 10 15 20 0 5 10 15 20 0 5 10 15 20 0 5 10 15 20 0 250 500 750 1000 0 250 500 750 1000 0 250 500 750 1000 0 250 500 750 1000 時間(時) 交通量 (台 ) (b) 各市における季節別の 1 時間ごとの交通量 月 火 水 木 金 土 日 名古屋市 豊田市 長久手市 瀬戸市 0 5 101520 0 5 101520 0 5 101520 0 5 101520 0 5 101520 0 5 101520 0 5 101520 0 500 1000 1500 2000 2500 0 100 200 300 400 0 20 40 60 80 0 25 50 75 100 125 時間(時) 事故件数 (件 ) (c) 各市における曜日別の 1 時間ごとの事故件数 月 火 水 木 金 土 日 名古屋市 豊田市 長久手市 瀬戸市 0 5 101520 0 5 101520 0 5 101520 0 5 101520 0 5 101520 0 5 101520 0 5 101520 0 250 500 750 1000 0 250 500 750 1000 0 250 500 750 1000 0 250 500 750 1000 時間(時) 交通量 (台 ) (d) 各市における曜日別の 1 時間ごとの交通量3: 各市における季節別・曜日別の1時間ごとの事故件数・交通量 や県境をまたぐ移動自粛などの要請により,春の交通 量が減少しているためであるとも推測できる. 各市の交通量に注目すると,長久手市は名古屋市よ りも交通量が多い.これは,長久手市のすべての計測 地点が,長久手市を東西に横切る主要地方道の愛知県 道 6 号力石名古屋線 (通称,グリーンロード) に偏って いるからであると推測できる.グリーンロードは,長 久手市に隣接しており且つ,愛知県の中でも人口の多 い市である名古屋市と豊田市を結ぶする幹線道路であ り,その道中には,大型の商業施設や宅配便業者の主 要な支店,大学等の教育機関などがある.そのため,グ リーンロードは,交通量が多く平均速度も速い. 図 3(a),図 3(b) について,コロナ禍の影響により, 春の交通量が減少しているとすると,各市における交 通量は,季節によって大きな影響を受けないと考えら れる.それに伴い,図 3(a) から読み取れた「秋冬の夕 方の事故件数の増加は,通勤時間帯と日没の前後の時 間帯が被ることで,運転者の視界状況が不良となるこ とが影響している」という可能性は,交通量の影響を 受けず事故が増加する原因として考えられる. 4.1.2 曜日に注目をした考察 図 3(c) について,各市における平日の朝夕の事故件 数に注目すると,休日と比べて多い.これは,朝夕の通 勤時間帯による影響であると考えられる.ここで,平 日の朝方の事故件数に注目すると,豊田市では 7 時台 が,瀬戸市では 7∼8 時台がピークなのに対し,名古屋 市と長久手市では 8 時台がピークである.これは,郊 外から名古屋市に向かって通勤する人の移動が影響し ていると推測できる.しかし,平日の夕方の事故件数 に注目すると,いずれの市においても 17 時台がピー クである.また先行研究では,夕方の事故件数は 18 時 台がピークであったが,図 3(c) の結果はいずれの市に おいても 17 時台がピークである.今回の分析では,先 行研究では対象としていない軽傷事故についても集計 しているため,軽傷事故が 17 時台に多くなると考えら れる. 図 3(d) について,各市における休日の交通量の形状 に注目すると,日中に交通量がピークとなる山型であ る.これは,休日により通勤がないことによる影響で あると推測できる.また,この休日の交通量の形状は, 日中で活動することに基づいた形状であると捉えるこ とができ,平日の通勤時間帯の影響を見ることができ

(5)

ると考える. 長久手市の平日の朝方の交通量に注目すると,他の 市と比べ交通量の変動が大きい.これは,第 4.1.1 項 で述べた通り,グリーンロードが名古屋市と豊田市を 短絡する幹線道路であり,長久手市は目的地までの道 中として移動することが多く,その分交通量が増える ためであると考えられる. 図 3(c),図 3(d) について,先行研究では,通勤時 間帯に事故件数が多い傾向にあるのは「当事者の内在 的・外在的な要因により引き起こされた事故が多いので はないか」という仮説を示したが,それには交通量の データを分析していないため,「単に通勤時間帯の交通 量が増えたために事故件数が増加した」という可能性 を排除できないとしていた.これはすなわち,直感的 に交通量は事故件数と,ある程度の関係があると考え られていることを示唆している.しかし,平日の交通 量に注目すると,長久手市,瀬戸市においては,9 時台 において一時的に交通量が減少しているとはいえ,各 市においての交通量は事故件数のように顕著に減少す るわけではない.このことより,単に交通量に比例し て事故が変化したとは考えにくい. 4.1.3 全体を通した考察 全体を通して,各市における事故件数と交通量との 関係に注目をすると,長久手市は交通量が多く事故の 少ない市であり,名古屋市は交通量が多く事故の多い 市である.このことから,市によって対応できる交通量 には許容量があり,それを超えた交通量になると,事 故が増加するのではないかと考える.

4.2

事故件数と交通量の相関分析と考察

第 4.1 節の結果を踏まえ,事故件数と交通量との間 には,比例関係ではない何らかの関係があると推測で きる.そこで,この関係を明らかにするため,事故件 数と交通量について相関分析をおこなう. 4.2.1 分析 事故件数は関連研究でも,正規分布ではなく,ポア ソン分布や負の二項分布に従うと仮定され分析がなさ れている [7, 9, 17].そのため本稿では,ノンパラメト リックな指標であるスピアマンの順位相関係数を使用 する. ここで,スピアマンの順位相関係数 r は,サイズを n, 各変量の順位を xi, yiとすると,式 (1) で算出される. r = 1−6 ∑n i=1(xi− yi)2 n(n2− 1) (1) 事故件数と交通量は市ごとに独立であると仮定して, 各市において季節曜日別の 1 時間ごとの事故件数と交 通量について相関分析をする.各市における相関分析 の結果を検定結果と合わせて表 2 に示す.なお,相関 係数 r は−1 ≤ r ≤ 1 の値で表され,絶対値が大きいほ ど相関関係は強くなる.相関係数の無相関検定は母集 団の相関係数が 0 であるかを検証する検定方法である. 表 2: 各市における相関分析の結果と検定結果 市 相関係数 r 統計量 S p 値 名古屋市 0.948 2,646,074 p < 2.2e−16 豊田市 0.900 5,064,150 p < 2.2e−16 長久手市 0.832 8,512,688 p < 2.2e−16 瀬戸市 0.883 5,912,175 p < 2.2e−16 表 2 の結果,相関係数はいずれの市においても 0.8 以上と高くなっている.またこの結果は,有意水準 α を 0.01 としたときに,「相関係数は 0 である」という帰 無仮説を棄却できるため統計的に有意である.以上よ り,各市において事故件数と交通量との間には強い相 関があることが示された. また,各市において季節曜日別の 1 時間ごとの事故 件数と交通量の関係を季節別,曜日別 (平日・休日) に 色分けした結果をそれぞれ図 4,図 5 に示す.なお,図 中の曲線は局所多項式回帰フィッティングにより算出 している. 図 4,図 5 は,各市において,右に行くほど交通量 が多く,上に行くほど事故件数が多いため,曲線がよ り急になると危険度が増すと捉えることができる. 4.2.2 考察 相関分析の結果,いずれの市においても事故件数と 交通量には強い相関があることが示された.しかしな がら,相関分析で使用したデータが,各市において季 節曜日別の 1 時間ごとの事故件数と交通量であり,2 次 元プロットする際,データの持つ時間の連続的な情報 が欠落している.そのため,明け方や夕暮れ時など事 故発生時間を考慮することで関係をより詳しく説明で きる可能性が残る. 図 4,図 5 の結果から,季節別,曜日別のデータか ら算出した曲線を見ると,各市において,一定の交通 量までは事故件数が比例して増加しているが,それを 超えると,事故件数が指数関数的に増加している.こ れは,第 4.1 節の考察で,市によって対応できる交通 量の許容量について述べたが,この影響がこの曲線に 現れている. 図 4 の結果,名古屋市,豊田市,長久手市における春 の事故件数と交通量の関係は,他の季節より高い比率

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長久手市 瀬戸市 名古屋市 豊田市 0 300 600 900 0 100 200 300 400 500 250 500 750 0 200 400 600 0 30 60 90 120 0 10 20 30 0 200 400 600 0 10 20 交通量(台) 事故件数 (件 ) 季節 春 夏 秋 冬 図 4: 各市における事故件数と交通量の関係(季節) 長久手市 瀬戸市 名古屋市 豊田市 0 300 600 900 0 100 200 300 400 500 250 500 750 0 200 400 600 0 30 60 90 120 0 10 20 30 0 200 400 600 0 10 20 交通量(台) 事故件数 (件 ) 曜日 平日 休日 図 5: 各市における事故件数と交通量の関係(曜日)

(7)

で推移している.ただし,今回使用した交通事故デー タは 2009 年から 2019 年までのデータであるのに対し, 断面交通量データは 2020 年のデータのみであるため, 第 4.1.1 項で述べたように,コロナ禍の影響で春の交 通量は実際には他の季節と変わらないとすると,春の 事故件数と交通量の関係の推移は,他の季節とおおよ そ同じ推移になると考えられる. それに対し,瀬戸市では,冬の事故件数と交通量の 関係は他の季節より高い比率で推移しており,瀬戸市 の冬は,他の季節と同じ交通量であっても,より危険 であると推測できる. 図 5 から,各市において平日の事故件数と交通量の 関係は,休日に比べて事故件数が指数関数的に増加し ている.そのため,平日は,休日と同じ交通量であっ ても,より危険であると推測できる.

4.3

本稿の考察と今後の課題

本稿では,事故件数と交通量の関係について周期性 を考慮して分析と考察をおこなってきた. 第 4.1.1 項では,事故件数と交通量を合わせて確認 したとき,交通量に影響されず事故件数が増加してい る特徴的な条件が確認された.第 4.1.3 項では,各市に おける事故件数と交通量との関係には,市によって対 応できる交通量には許容量があり,それを超えた交通 量になると,事故が増加するのではないかと考察した. 使用した断面交通量データは,コロナ禍のものであ るため,今後は,長期的な断面交通量データの収集と さらなる分析をする必要がある.また,断面交通量の 計測地点が,特徴的な道路に偏ることも考えられるた め,道路交通センサスなどの別の交通量に関するデー タを考慮したり,市による地理空間で見たときに地域 メッシュなどの手法で今後は分析をする必要がある. 本稿の結果は少なくとも.事故を減らすためには,時 間あたりの交通量を,各市において事故件数が指数関 数的に変化し始める値まで減らせば,交通事故削減に 対して,何らかの効果が得られる可能性があることを 示している.また,今後は交通事故の削減に寄与して いくため,交通量をどの程度減らせば,事故を減らすこ とができるかというモデル作成についても検討する.

5

おわりに

本稿では,愛知県における交通事故死者数の減少や, 被害の軽減のため,県下 4 地域を対象に,朝夕の事故 件数の増加について周期性を考慮しつつ,交通量との 関係を明らかにすることを目的とし,時間帯別,曜日 別,季節別の事故件数,交通量に注目し,それぞれの 特徴について考察をした. 結果,事故件数と交通量を合わせて確認すると,交 通量に影響されず事故件数が増加している特徴的な条 件が確認された.また,各市ごとの相関分析の結果,許 容量を超えると事故件数が指数関数的に増加すること から,許容量を超えないように交通量を制御すること が必要であると考えられる.今後は本稿で示した事故 件数が増加する条件の詳細な分析や,「交通量をどの程 度減らすことで交通事故を減らすことができるか」と いうモデルの作成についても検討していきたい.

謝辞

本研究は名古屋大学未来社会創造機構 HMI・人間特 性研究部門の「エージェントを介した運転支援研究プ ロジェクト」と,愛知大学経営総合科学研究所の共同 研究プロジェクト「人工知能と地理情報システムを用 いた愛知県の死亡事故データ分析」の助成を受けてい る.また,本研究に必要不可欠な交通事故データをご 提供頂いた愛知県警察に深く感謝する.

参考文献

[1] World Health Organization. Road traffic injuries. https://www.who. int/news-room/fact-sheets/detail/ road-traffic-injuries, 2 2020. (Accessed on 11/12/2020). [2] 愛 知 県. 第 10 次 愛 知 県 交 通 安 全 計 画. https://www.pref.aichi.jp/uploaded/ attachment/218261.pdf, 2016. (Accessed on 11/12/2020).

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(8)

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参照

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