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<シンポジウム>近世フランスにおける女性相続人

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<シンポジウム>近世フランスにおける女性相続人

著者

滝澤 聡子

雑誌名

関学西洋史論集

33

ページ

3-9

発行年

2010-03-30

URL

http://hdl.handle.net/10236/12885

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近世 フ ラ ンスにおけ る女性相続人

滝 澤 聡 子

は じ めに 近世 フ ラ ンス貴族の人口動態的問題は、 社会流動性の問題 と と も に15 ・ 16世紀のフ ラ ンス貴族の危機意識 を探 る う え で注日 さ れて い る ' 。 こ の人口動態的間題か ら み る 危機意識 と は、 当時の フ ラ ンス貴族が家系 の存続に危機感 を抱 く よ う にな っ た こ と を さ す も ので あ るが、 こ れは、 フ ラ ンス貴族の間で家督の継承は 「長子相続、 男子優先、 父祖除外」 の封建法の 3 原則 を軸に、 家系 が有する財の立地場所に基づ いた各地の法 に則 っ て実践 さ れて い た こ と 、 養子制 度や庶子への継承は認 め ら れて い な か っ た と い う 事実 を前提 と す る も の で あ る 2。 近世 と い う 時代 も ま た宗教戦争 に代表 さ れ る よ う に戦乱が繰 り 返 さ れた時代で あ っ た。 つま り 従軍が義務付け ら れて いた貴族男性の死 亡率が高か っ た ので あ る。 さ ら に、 成人年齢に達す る 1 世帯 あた り の子供の数は 2 人 を超 え な い その時代 の幼児死亡率の高 さ も指摘 さ れて き て い る こ と で あ る。 つ き つ め れば、 成人 し た 2 人 の子供 が女性 だけ の場合は1/3の確立 で あ り え たので あ る。 ま た、 馬上試合や決闘 な ど貴族独特の風習が男性の死亡率 を押 し上げたこ と も指摘 さ れて い る。 つま り 、 家系 か ら男性が消 え て し ま う 状態 に な る条件 には事欠 かな か っ た と い え よ う 3。 こ う し た家系 存続の危機 に貴族は ど う 対応 し た のだ ろ う か。 そ こ で注日 し た い のは、 残 さ れた娘 の存在で あ る。 フ ラ ンスの貴族階級 にお いて は、 男性が不在 と な っ た家系は、 女性 を包括相続人 と し て認める土壌が整 っていた。 ただ し女性は結婚によ っ て父祖の家系 を離れる不安定 な存在で あ っ た こ と も事実 で あ る。 未来永劫に確固 た る べき家系 が、 夫側の家系 に飲み込ま れる危険性 をは ら んだ、 不安定 な性質 を も つ女性 の手 に委 ね ら れ る よ う に な る こ と を、 貴族は ど う 受 け 止 め、 どの よ う に対処 し た のだ ろ う か。 本稿では、 家系 が女性の手 に陥 る こ と と な っ た と き、 貴族は具体的 に どのよ う な行動 を と っ て、 家系 の存続の危機に対応 し よ う と し たのか、 ま ず通常 の貴族相続 は どのよ う な も ので あ っ たか を 確認 し た う え で、 改めて女性相続人 を生 み出 し た家系 の相続 を確かめ、 考察 し て い く 。

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1 . 貴族家系の相続と 結婚 そ れで は、 実際 に貴族家系 では、 どのよ う に相続が行 われて いた のか、 具体例 を用 いて検証 し て いこ う。 その際に対象 と な る家系 には、 15 ・ 16世紀 の一般的 な フ ラ ンス 貴族で あ る、 地方の農村部 に暮 ら し、 複数の所領 を有す る帯剣貴族の家系 を選択す る。 ま た、 風土的 な伝統 と し て遺言 によ る相続が可能 で あ る こ と か ら、 相続に家系 の意志 が如実 に反映 さ れ る南部地方 の貴族家系 を 選ぶ 4。 以上 の条件 を踏ま え て いて、 さ ら に、 あ る程度の史料力 残 る家系 の中で、 こ こ では17世紀半ばの著名な紋章学者であ っ た ル ・ ラ ブル ールが著 し た家系 史書 5 が残 る カ ス テ ル ノ 一家 の例 を播 く 。 ま た、 検証 の対象 と す る期間の設定で あ る が、 15世紀後半 に10代日当主 と な っ た ラ ンスロ か ら13 代当主 で あ っ た エ チエ ンヌ ま で の 4 世代、 およ そ120年間 を それにあてはめ る。 代 ・ 当主名 ・ 配偶者 家名 ・ 家紋 所 領 特筆事項 10代 ラ ンスロ x マ ル グリ ト ・ ド ・ コアラ ズ (1479年) ド ・ カ ステルノ ー= ラ ・ ルベ ール 家紋は先祖伝来の四分 割紋 カ ス テ ル ノ ー、 ラ ・ ル ベ 一 ル等 ( 年 収 2,000エ キュ = 6,000 リ ー ウ゛ル ) 1508年に遺書 : 長男 を包括相続人 に指 名。 次 ・ 三男にそれぞ れ2,000 リ ー ウ゛ル と 共 有領地 を譲渡。 未婚の 末 娘 の持 参金 と し て 2,000 リ ー ヴルを約東 11代 ア ン ト ワ ー ヌ X カ ト リ ーヌ ・ ド ・ バジヤック (1511年) 同上 同上 妻 の母親は レ ウ゛ィ 家出 身 12代 グ ロ ー ド x ア ン ド レ ・ タ ン タ ン (1558年) ド ・ コ ア ラ ズ、 別名 カ ス テ ル ノ ー 家紋の変化 カ ス テ ル ノ ー、 ラ ・ ルベ ール、 コ ア ラ ズ、 ウ' ェ ラ ッ ク 等 コ ア ラ ズ家 を代 襲 (1537年) 13代エ チエ ンヌ x ジ ヤ ンヌ ・ ド ・ バ ジヤ ック (1597年) ド ・ カ ステルノ ー ・ ド ・ コ ア ラ ズ 紋は同上 同上 妻の母親は レ ヴ イ家出 身 カ ステルノ 一家 では、 対象期問の 4 代 にわた っ て 「男子の長子相続」 で家督が受け 継がれて い る こ と力 確認で き る。 貴族相続の原理 で い う な ら、 父 か ら長男へ受け継が れる財は代々ほぼ不変 のはずで あ るが、 こ う し て世代 ご と に確認 し て い く と、 やは り 変化は起こ って いる。 カ ステルノ 一家の場合では、 1537年に12代当主 ク ロ ー ドが代襲

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に彼 を自身 の包括相続人 に指名 し た こ と で、 コ ア ラ ズ家 の相続人 と な っ た。 ジ ヤンに 子が な か っ た た め、 コ ア ラ ズ と ヴ ェ ラ ッ ク の所 領 を、 す べ て の動産 や土地 に付随 す る 権利 を も 含 めて ク ロ ー ド に譲渡 す る と さ れた が、 そ れには あ る条件が提示 さ れて い た。 コ ア ラ ズの名 と 家紋 を 使用 す る こ と が求 め ら れた ので あ る。 ク ロ ー ド は、 遺言 に従 っ て カ ス テ ル ノ 一家 の家 紋 に変化 を加 え る。 た だ、 完全 に コ ア ラ ズ家 の家紋 を 使用 す る のでは な く 、 コ ア ラ ズ家 の紋 の一部 と な っ て いた、 コ ア ラ ズ家 がかつ て姻戚関係 を結 ん だ、 ヴ ェ ラ ッ ク 領 の元 の所 有者 で も あ っ た コ マ ン ジ ュ伯家 の家紋 を、 従来 の カ ス テ ルノ 一家の 4 分割紋の上に重ねたので あ る。 代襲は、 生物学的存続の危機に陥 った家 系 の名や紋 を、 他者 に代わ り に相続 さ せ る こ と で、 その家系 を観念的 に存続 さ せ る性 質 を持つ ゆえ に、 貴族身分に好 ま れた相続の制度で あ っ た こ と は容易 に想像がつ く 6。 た だ し、 代襲 に よ っ て、 も と の家系 の ア イ デ ン テ イ テ イ が完全 に消 し 去 ら れ る こ と を 避 け よ う と す る家系 の意志 も こ こ で は確認 で き る ので あ る。 カ ス テ ル ノ ーの名 と 紋 を 完全に消 し 去 れば、 生物学的 には存続 し て いて も、 観念的 に家系 は消減す る こ と と な る。 その折 り 合 い をつけ る ために、 名の呼び方 と 紋の変更 に工夫 を加え た、 貴族の家 系 意識 が垣間見 え る策 を ク ロ ー ド は と っ た ので あ る。 と こ ろ で、 代襲相続 し た こ と に よ り、 所領が増大 し た ほかに カ ス テル ノ 一家 に も た ら さ れた所領は、 検証 し た こ の 4 代の中 では確認 さ れて はい な い。 確かに、 結婚 で妻 は持参金 を持 つて く る。 た だ し 、 それは次世代 の娘 た ちへの持参金 に あ て ら れる こ と が、 こ の時代の貴族の風習 で あ っ た。 ま た、 持参金額 と 夫 の年収は比例す る と いわれ て い る。 つ ま り 、 6,000 リ ー ヴルの年収 の カ ス テル ノ 一家 には少 な く と も6,000 リ ー ウ' ルの持参金 が支払 え る家系 の娘 が選ば れ、 も た ら さ れた持参金 の6,000 リ ー ヴルは、 娘 た ち の間 で (南部 の場合) 等分 さ れる こ と と な る。 例え ば11代当主 ア ン ト ワー ヌ の 姉妹 は 3 人 い た か ら、 そ れ ぞれが持参金 と し て2,000 リ ー ウ'ル を受 け 取 っ た と 思 わ れ る。 つま り 彼女 た ちは6,000 リ ー ウ'ルの年収 の家系出身者 な のだが、 2,000 リ ー ヴルの 年収の家系 へ下降婚せ ざ る を得 な く な るので あ る。 こ れは、 複数 い る娘 た ちの下降婚 現象 で あ る 7。 娘 に6,000 リ ー ヴルの持参金 が支払 え る家系 は少 な く と も6,000 リ ー ヴ ル以上 の年収 を得て い た と いえ よ う 。 そ う な れば必然、 結婚対象 と な る家系 は狭 く な る。 カ ス テルノ 一家 と バ ジヤ ッ ク 家 の婚礼が教会法に抵触 し な い間隔で繰 り 返 さ れた のは、 そ れが理由 だ と 思 わ れ る。 さ ら に、 カ ス テ ル ノ 一家 の長男 の妻 に、 バ ジ ヤ ッ ク 家 よ り さ ら に家格が上のレ ヴ イ家本家か ら女性が来 な いのは、 下降婚の許容範囲 と い う も のが、 貴族間 で暗 黙裡 に了 承 さ れて い た か ら で は な い だ ろ う か。 ジ ヤ ンヌ ・ ド ・ バ ジ ヤ ッ ク の母 親、 フ ラ ン ソ ワ ー ズ ・ ド ・ レ ヴ イ が1574年 にバ ジ ヤ ッ ク 家 へ も た ら し た持参金額 を 記 し た史料 が残 っ て い る 8。 32,500 リ ー ヴル と い う のが そ の額 で あ っ た。

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16世紀半ばの物価の高騰や代襲相続によ る財の倍増分 を差 し 引 いて も、 バ ジヤ ッ ク家 の年 収 が推定24,000 リ ー ヴル 9 の年 収 の カ ス テ ル ノ 一家 と 差 が あ る こ と が分 か る と 同 時に、 レ ヴ イ家本家 の家格 を も推 し 量 れる。 レ ヴ イ家本家 の娘 に と っ て、 結婚相手 と な る家系 の下 限はバ ジヤ ッ ク 家 で あ り 、 カ ス テ ル ノ 一家 で は決 し て な い ので あ る。 2 . 女性相続人の結婚 で は、 家系 に女性 し か残 さ れな く な っ た場合 は、 ど う な っ た の だ ろ う か。 女性相続 人が結婚す る場合は、 持参金ではな く 家系 の財すべてが彼女の一身 に付随 し て く る こ と にな る。 女性相続人 の家系 側は、 彼女が結婚す る こ と で、 夫の家系 へ飲み込ま れる こ と を最 も警戒 し て いた こ と は、 結婚の契約書内 には、 相続に関 し て の細かい条項が 定め ら れる こ と か ら も明 ら かで あ る。 カ ス テル ノ 一家 の例 で も 確認 し た が、 南部 で は 公文書 によ る相続人 の指定が可能で あ っ た こ と か ら、 と り わけ こ の地方の女性相続人 の結婚契約書か ら は、 お家 の断絶 を何 と か回避 し よ う と す る家系 の策が明白 に みて と れ る。 そ の内 の一 つ、 ガ ン ダル女 伯、 マ ル グ リ ト ・ ド ・ フ オワ = ガ ン ダル (1567

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1593) の結婚契約書 を みてみよ う '°。 マル グ リ ト の出身家系 で あ る フ オワ家は、 フ ラ ン スの南西部 に筆頭所領 を持つ11世 紀にま で遡 る こ と ので き る名門貴族家系 で あ る。 15世紀半ばには、 最有力 の封建諸候 10家 の中 に も加 え ら れ、 伯領で あ っ た所 領はぺイ リ ー ( フ ラ ン ス同輩衆領) に承認 さ れた。 一 方 の工ベル ノ ン公、 ジ ヤ ン ・ ル イ ・ ノ ガ レ ・ ド ・ ラ ・ ウ' ァ レ ッ ト (1554 1642) で あ る が、 彼はア ン リ 3 世の有名 な龍臣 の一人 で、 彼の領地がぺイ リ ーで あ る 公領に承認 さ れた の も 国王 の厚意か ら で あ り 、 も と も と の出自は ガ ス コ ーニ ュ の中小 の地方貴族であ っ た。 つま り 国王の寵愛 を武器に一代で権力 と 財力 を蓄え、 中央宮廷 にの し 上 が っ て き た人 物 で あ っ た ので あ る''。 彼 ら の結婚契約書は13項日 に分別で き る。 マル グリ ト が相続す る フ オワ家 の財は亡 き父 よ り 受け継 いだ フ オワ = ガ ンダル領 と 後見人 で あ る叔父 よ り 受け継 ぐ予定の フ オ ワ = ビ ュ ッ ク 領で あ っ た こ と が契約書 に明記 さ れて い る。 契約書 の う ち、 相続人 と な る子供 につ い て記載 さ れた項日 を ま と めて みよ う 。 ま ず も っ て 「長男 が フ オワ と ガ ン ダルの名 と 紋 を と り 、 家系 の相続人 と な る こ と。 相続 し た財は他者 に分割す る こ と は で き な い こ と 」 と さ れた。 つ ま り フ オワ = ガ ン ダル家 のノ ガ レ ・ ド ・ ラ ・ ウ' ァ レ ッ ト 家代襲の要求であ る。 さ ら に 「父工ベルノ ン公が借財の返済に用意 し てい る10万エキ ュ は公か ら長男へ譲渡 さ れる」 こ と、 「両家系 に固有の財の用益権 も長男が受け継 ぐ」 こ と が約束 さ れて い る。 ま た、 長男 が子供 を残 さ ず死亡 し た場合は、 女性相続人 の 「再婚か ら生 じ た男子 を出生順 に応 じ て 相続人 と す る」 と す る と さ れた。 新 た な代襲

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要求 で あ る。 こ の場合は、 フ オワ = ガ ンダル家 のマル グ リ ト の再婚相手 の家系 への代 襲要求 と な る。 ま た、 こ の結婚か ら男子が生 ま れな か っ た場合は、 長女 が、 長男 の と き と 同 じ 条件 で フ オワ = ガ ン ダル家 の包括相続人 と な っ た。 さ ら に、 「包括相続人 と な っ た長女が結婚す る際 には10万 エ キ ュ を贈与 す る」 こ と。 「 結婚相手は、 フ オワ と ガ ン ダルの名 と 紋 を携帯す る者 と し、 人選は工ベルノ ン公が行 う が、 彼が妻 よ り 先 に 他界 し て いた場合はガ ンダル女伯がお こ な う。 二人 と も他界 し て いた と き は、 父方、 母方の両家系 か ら最 も近 し い親族 4 名で行 う 」 と さ れる。 こ れはま た新 た な代襲 を要 求す る条項 にな る。 今度の場合、 フ オワ = ガ ンダル家 の代襲の要求先は、 家系 の新 た な女性相続人の結婚相手の家系 であ る。 さ ら に 「長女が子供 を残 さ ずに死亡 し た場合 は次女が上記の条件で相続人 と な り、 次女 も欠如 し た場合は三女 と、 出生順に基づい た」 相続人 を指定 し て い く 。 こ う し て万全 を期 し て、 ガ ンダル女伯は工ベル ノ ン公 と 結婚 し、 男子 3 人 を得て、 夫 よ り 先 に他界す る。 ただ フ オワ= ガ ンダル家 の代襲要求 は、 契約書 どお り 完全 には実行 さ れて はい な い。 家系 の相続人 と な っ た長男は ア ン リ ・ ド ・ ノ ガ レ ・ ド ・ フ オワ と 名乗 り 、 使用 し た紋 は、 完全 な フ オワ = ガ ン ダルの紋 では な く 、 ノ ガ レ家 の紋 も 組 み入 れ ら れて い る'2。 カ ス テ ル ノ ーの家 の例 で も 確認 さ れ た も の と 同 じ 現象 が起 こ っ て い る と い え よ う 。 女性相続人側の家系 が結婚に際 し、 夫の家系へ自身の家名 と家紋へ完全に変更す る よ う 求 め る代襲要求 は、 フ オワ家 のよ う な名門 の家系 貴族 だけ が選択 し た わけ で も、 相続人 の指定 が認 め ら れて い た南部 の貴族 だ か ら実践 で き た と い う わけ で は な い よ う で あ る。 と い う の も、 北部 に あ た る、 ブル タ ーニ ュ地方 に暮 ら す中小 の地方貴族 にお いて も、 家系 が女性相続人 の手 に委ね ら れる可能性があ る と みるや、 未来 の夫 の家名 と 家紋 を妻の も のへ完全 に変更 す る こ と を条件 と す る、 つ ま り 代襲 を要請す る結婚契 約書 が作成 さ れて い る か ら で あ る '3。 以上、 女性相続人 の結婚契約書 を見て、 ま ず気 づ く のは、 女性の家系 が現在の不安定 な状態 を安定 し た も の と す る ために、 代襲制 を 最大限に利用 し よ う と す る こ と で あ る。 こ れは、 地域 も貴族間の階層 に も関係 な く 、 一定の財 を有す る貴族層 に幅広 く 浸透 し て いた相続の仕方 で あ っ た と いえ よ う。 女性 相続人の家系 がと る代襲制は、 家系 の実質的 な財 と 併せて家の名や紋 と い っ た象徴的 な も の を も 女性 の血 のつ な が っ た 子供 に継 がせ る こ と で、 夫 の家系 の代 わ り と な ろ う と す る性質 を も つ。 そのため、 夫の家系 の代襲 を要請す る女性相続人 の結婚契約書は、 フ オワ家 のよ う に女性側の家系 の威信が相手 の も のよ り 非常 に高 い場合や、 ブル タ 一 ニ ュ の例 を出せば、 年収 を指標に し て約2.5倍の差が認め ら れる場合'4、 つま り 女性側 が男性 の家系 よ り、 は る かに有力 な場合 に作成 さ れて い る こ と が共通 す る。 代襲 を要 求す る ために、 女性相続人側は、 通常 よ り も大 き な下降婚 を実践す るので あ る。

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おわ り に 貴族の相続には、 所領等の不動産や動産、 夫婦の共有財 と い っ た実質的な財のほか、 家名や家紋 と い っ た象徴的 な財の 2 種の相続があ っ た。 筆者は前者 を 「実質相続」、 後者 を 「象徴相続」 と 呼ぶ。 家系 が女性の手 に委ね ら れた と き、 女性相続人側の家系 が固執 し た のは 「象徴相続」 のほ う で あ っ た。 「象徴相続」 を確保す れば、 夫 の家系 の代襲に成功 し、 以後 も女性側の家系がこ れま で通 り 存続す る こ と にな るか ら で あ る。 女性の実 の子供 に よ る継承 に な る こ と か ら、 生物学的 に も血 が途絶え た こ と に な ら な い。 つま り 家系内 に女性 し か残 さ れな く な っ た場合、 彼女の結婚 によ っ て家系 が消減 す る の を避け る た めには、 代襲制 を用 い る のが、 女性相続人 の家系 側 に と っ て の理想 で あ っ た。 その場合、 女性側の家系は非常に大 き な下降婚 を実践す る。 通常の貴族相 続の場合で も、 娘が複数 い る場合、 彼女 た ち を結婚 さ せ る際には、 母親の持参金 を分 割 し て使用 す る こ と か ら、 父 親よ り 年収 の少 な い貴族 を夫 に も つ、 い わ ゆる娘 た ち の 下降婚現象が生 じ る こ と は確認 さ れて い る が、 そ れで も こ う し た下降婚には暗黙裡の 了 解の よ う な も のが あ っ た ら し く 、 あ ま り に も家 格 に差 が み ら れ る女性 の下降 婚は実 践 さ れて はい な か っ た。 と こ ろ が、 女性相続人 の結婚 で は、 その タ ブ ー さ え も が取 り 払われて い るので あ る。 近世の貴族の結婚 に対 す る見方 に、 女性側の下降婚は考え に く か っ た と 唱 え ら れ る 説 が あ る '5。 確かに、 第二身分 と 第三身分の結 びつ き にお いて は、 そ う か も し れな いが、 同 じ貴族間では、 女性の下降婚は決 し て少数の例ではな く 、 そ れ に も 意 味 が あ る の で あ る。

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1 近世貴族の人口動態的問題に関 し ては ミ シ ェ ル ・ ナ シエの研究、 社会流動性の問題に関 し て は、 ド ニ ・ ク ル ー ゼや エ レ ー ヌ ・ ジ ェ ル マ = ロ マ ンの研究 に詳 し い。 M . Nassiet, Parente, noblesse et Etat dynastiques, XVle-XVIe lodes, Paris, 2000; D. Crouzet, ォRecherches sur la

crise de l 'aristocratie on France au XVIe siecle; les dettes de la M aison do Neversサ, H istoire,

economic et societe, vol. 1, n° 1, 1982, pp 7-50; H. Germa-Romann, Du ォBel Mourir サ au ォBien Mour rサ, Le sentiment do ta mort chez les gentilshommes f ran,. al (1515-1643リ, Geneve,

2001.

2 J. Imbert, H istoire du droit pr ive, Paris, 1950, pp 41-45.

3 貴族男性の死亡率の高さ についての考察は、 ナ シエの前掲書第 2 部第 4 章に詳 し い。

4 北部 の貴族の相続 につ い ては、 慣習法の制約 が強 い ため、 家系 の意思 がみえ に く い と い う 理 由 が あ る。

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1659.

6 代 襲 制 に つ い て は、 プ チ ジ ヤ ンの 研 究 が 他 の 追 随 を 許 さ な い。 M . Petitjean, Essaz sur

1'histolre dos substitutions Du IXe au XVe slecle dans la pr atique et la doctr ine specialement on France mer dionale, Dijon, 1975. 同書、 483頁 の中で著者は、 考察対象 と な っ た フ オレ地

方 で、 貴族層は他の どの階層 よ り 代襲制 を好 んで利用 し た と 述べて い る。

7 こ の現象についての考察はナ シエ前掲書 (143

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147頁) に詳し い。

8 Pasquier, Inventalre histor que et genea1oglque_ de la branche Lev s-M ir poix;, t 3. extrait do M .

Nassiet, op. cit., p l 46.

9 コ ア ラ ズ家 を カ ス テルノ 一家 と 同格 と みな し、 代襲 によ る両家併合 で年収 が倍増 し た と し た。

ま た、 物価の高騰率は、 最低 と さ れる 2 倍で計算 し た。

10 B.N.F., Fr l7557, f°137.

11 初代工ベル ノ ン公の人 と 生 涯 につ いて は ラ ル カ ド の研究 に詳 し い。 V. Larcade, ォComment le

premier due d'Epemon so fit prince d'Aquitaine (1587-1604)サ, A Ia recherche de 1'Aqu lta lne,

Textes reunis par J. Pontet, J.-P. Jourdan, M . Boisson, Bordeaux, 2003, pp.170-204.

12 Pere Anselme, H istoire ge ea1ogique et chrono1ogique de la maison royale do France,_, Paris,

t.3, 1728, p.857.

13 例 え ば1509年 に結ば れた ジ レ ッ ト ・ ド ・ ラ ・ ウ ッ セ と フ ラ ン ソ ワ ・ ド ・ ラ ・ ム ツセ の結婚契

約書 (Archives Departementales d' Ylle-et-Vilaine 23 J 112) や1512年に結ばれた カ ト リ ーヌ ・

ド ・ ケ デ イ ヤ ッ ク と ベ ル ト ラ ン ・ フ ェ レ の 結 婚 契 約 書 (Archives Departementales

Loire-Atlantique E 3801) がそれに相当す る。

14 ラ ・ ウ ッ セ家 の年 収 は2,000 リ ー ヴル で あ る の に対 し 、 ラ ・ ム ツセ家 の年収 は870 リ ー ウ'ル で あ り 、 ケ デ イ ヤ ッ ク 家 の年 収 が700 リ ー ヴルで あ る のに対 し、 フ ェ レ家 の年収は280 リ ー ヴル

で あ っ た。 M. Nassiet, ォDictionnaire des feudataires des eveches de Dot et Saint-Male en

1480サ, Bu11etZn de 1'Assoclation bretonne, 1990, pp.183-203, 1991, pp.265-296, 1992,

pp.221-251 よ り特定。

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