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中学生の学校生活における罪悪感と向社会的行動との関連

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中学生の学校生活における罪悪感と向社会的行動との関連

今岡多恵,庄司一子

The Relationships Between School Life of Guilt and Prosocial

Behavior in Junior High School Students

Tae IMAOKA, Ichiko SHOJI

2018 年 11 月9日受理 抄   録  本研究では,中学生の学校生活における罪悪感が向社会的行動にどのような影響を 及ぼすかについて調査を行った。その結果,学校生活における罪悪感の「罪悪感の程 度」は罪悪感機能尺度のすべての下位尺度に正の影響を及ぼした。また,「罪悪感機 能尺度」のうち「自己改善」,「他者配慮」は向社会的行動に正の影響を及ぼし,「自省」 は向社会的行動に負の影響を及ぼす傾向にあることが明らかになった。このように学 校生活における罪悪感は,向社会的行動のような対人関係を円滑にするうえで必要な 要因と関連していることが示唆された。 キーワード:罪悪感の程度,罪悪感機能,向社会的行動,中学生の学校生活, 質問紙調査 問題と目的  近年の文部科学省によって実施された児童生徒の問題行動など生徒指導上の諸問題 に関する調査によると,中学生の学校の管理下・管理下以外における暴力行為発生件 数は,過去 10 年にわたり3万件以上であり,小学生や高校生に比べて多い(文部科 学省 , 2017)。また,いじめの認知件数も依然として多く,憂慮すべき状況にある。 こうした問題に対して,近年,罪悪感が注目されている。  罪悪感とは,自己の行為,非行為,状況,意図に対して生じるおそれのある異議か ら連想される不快な感情状態をいい(Baumeister, Stillwell, & Heatherton, 1994), ある行為が内的・外的な規範に違反したときに私たちの心に起こる「悪いことをした」 と い う 感 情( 鑪 , 2002), 後 悔 や 自 責 の 念(Tangney, Wagner, Fletcher, &        

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Gramzow, 1992),苦痛を伴う感情(Hoffman, 2000, 菊池・二宮訳 2001)などと定 義されている。こうした特徴を有する罪悪感が「さぼる」などの虞犯に対する罪意識 に正の影響を及ぼす(松井・中村・堀内・石川 , 2005)といった結果や,罪悪感と学 校適応感に正の関係がある(石川 , 2010)のような結果が示され,罪悪感を抱くこと がポジティブな影響を及ぼすことが明らかにされている。  その一方で,罪悪感は,抑うつや不安など精神疾患をもたらすとも指摘されてきた (Freud, 1923/1970; Erikson, 1950/1977)。蓮井・永田・北村(2008)は,罪悪感が 多くの心理的,精神的問題においてその対処を考慮しなければならない感情であると 指摘している。さらに,罪悪感の定義において罪悪感が自己を責めることによって生 じる不快で苦痛を伴う感情であることを鑑みると,多くの心理的・精神的問題を引き 起こす対処を考慮しなければならない感情であることがうかがえる。しかし,近年の 罪悪感に関する検討は,罪悪感を抱くような状況に対して「どの程度悪いと思うか」 や「どのくらい謝りたいと思うか」のみを尋ねるに留まっているため,罪悪感の適応 的・不適応的側面がどこまで考慮されているか不明であることが指摘されている(今 岡・庄司 , 2017)。  こうした指摘を踏まえて,今岡・庄司(2017)は,罪悪感の程度だけでなく,罪悪 感を抱いた後の罪悪感の機能(以下,罪悪感機能)に着目し,罪悪感機能を「罪悪感 を抱いた際に生じる適応的,そして不適応的な思考や反応」と操作的に定義して,学 校適応感との関連について検討した。その結果,罪悪感機能の「自己改善」,「自省」, 「他者配慮」は学校適応感に正の影響を及ぼし,罪悪感機能の「ネガティブ感情喚起」 は学校適応感に負の影響を及ぼしていることを明らかにし,罪悪感機能の違いが学校 適応に異なる影響をもたらすことを指摘した。今岡・庄司(2017)の研究により,罪 悪感機能の構造が明らかになった。しかし,罪悪感機能が学校適応感以外の要因とど のように関連するかについては明らかにされていない。学校に対して教育的な示唆を 与えるためには,罪悪感機能と他要因との関連について検討するなど研究を進める必 要がある。そこで本研究では,向社会的行動との関連に着目する。  向社会的行動は「他の個人や集団を助けようとしたり,こうした人々のためになる ことをしようとなされた自主的な行為」と定義されている(Eisenberg, 1982)。従来 の研究より,罪悪感と向社会的行動との関連を検討した研究は多く(Baumeister et al.,1994; Chapman, Zahn-Waxler, Cooperman, Iannotti, 1987; Hoffman, 1998; Lewis, 1992; Tangney, 2003, 高井 ,2004),罪悪感と向社会的行動は深く関係してい ることがわかる。具体的には,Chapman et al.(1987)は,罪悪感を抱く子どもは, 罪悪感を抱かない子どもよりも苦痛な出来事について他者を助けることが多かったこ とを明らかにしている。このように,罪悪感が向社会的行動を高めることは明らかと なっている。しかし,罪悪感機能が向社会的行動に具体的にどのような影響を及ぼし ているかについて詳細な検討はされていない。  そこで,本研究では,今岡・庄司(2017)が開発した罪悪感機能尺度を用いて,中 学生の学校生活おける罪悪感(罪悪感の程度と罪悪感機能)が向社会的行動にどのよ

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うな影響を及ぼすのかについて検討することを目的とする。具体的には,調査対象者 に学校生活における罪悪感の経験を1つ想起してもらい,その経験についての罪悪感 の程度と罪悪感機能が向社会的行動にどのような影響を及ぼすかという罪悪感機能が 媒介する一連のプロセスについて検討する。 仮 説  本研究では,次の2つの仮説を検討する。まず,本研究では,調査対象者に対して 学校における罪悪感に関する経験を1つ想起してもらい,その経験に対する罪悪感の 程度と罪悪感機能を尋ねている。そのため,Figure 1 に示したように罪悪感の程度 は罪悪感機能の先行要因となり,罪悪感の程度は罪悪感機能のすべての下位尺度に正 の影響を及ぼすことが予想される(仮説 1)。次に罪悪感機能と向社会的行動との関 係において,Chapman et al.(1987)は罪悪感を抱く子どもは苦痛な状況にある他 者を助けるといった向社会的行動を示すことを指摘している。こうした指摘から,罪 悪感機能は向社会的行動の先行要因となり,さらに罪悪感機能のポジティブな機能は 向社会的行動に正の影響を及ぼすこと,ネガティブな機能は負の影響または影響を及 ぼさないことが予想される(仮説2)。      中学生の学校生活における罪悪感   罪悪感の程度 罪悪感機能 向社会的行動 Figure 1 罪悪感機能を媒介させた因果モデル 方 法 1.調査対象者  首都圏の公立中学校において,クラス単位の調査を実施した。内訳は,中学1年生 345 名(男子 186 名,女子 159 名),中学2年生 244 名(男子 121 名,女子 123 名), 中学3年生 243 名(男子 126 名,女子 117 名)の合計 832 名であった。 2.調査時期および実施方法  調査の実施時期は,2010 年6月から7月であった。調査の手続きは,調査対象者 の確保,回収率,回答の質の確保の観点から調査対象者の在籍する学級単位で授業時 間などを利用して集団で実施された。調査を行った場所は,普段授業を受けている教 室であった。質問紙は無記名式で行い,調査対象者の回答の匿名性が確保されること を質問紙に明記した。また,調査に対する同意については,質問への回答は自由意志 であること,答えられない項目や答えたくない項目は無理に回答する必要がないこと を質問紙に明記した。これらの方法はすべての学年において共通であった。統計処理

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には,統計解析ソフトウェア IBM SPSS Statistics(Version16.0)を使用した。 3. 調査内容  ⑴ 中学生の学校生活における罪悪感  中学生の学校生活における罪悪感を測定するため,今岡・庄司(2017)が作成した 尺度を使用した。具体的な内容については,①と②に示した。  ①学校生活において経験された罪悪感の程度  まず,中学生の学校生活における罪悪感の程度を検討するため,学校生活を送る上 で罪悪感を抱くような出来事を1つ想起してもらい,その経験に対して「どれくらい 悪いことをしたと感じたか」について「非常に感じた(3点)」,「少し感じた(2点)」, 「あまり感じなかった(1点)」,「まったく感じなかった(0点)」までの4段階評定 法で回答を求めた。  ②罪悪感機能尺度  ①で想起された罪悪感に関する経験について,「その出来事を体験した後(罪悪感 を抱いた出来事を体験した後),次のことがどれくらい当てはまりますか」という教 示である罪悪感機能尺度を用いた。この尺度は,「自己改善」14 項目,「自省」9項目, 「ネガティブ感情喚起」5項目,「他者配慮」3項目の4因子構造からなる。全 31 項 目に対して,「非常にあてはまる(4点)」,「少しあてはまる(3点)」,「あまりあて はまらない(2点)」,「まったくあてはまらない(1点)」までの4段階評定法で回答 を求めた。  ⑵ 向社会的行動の尺度  向社会的行動を測定するため横塚(1989)が作成した「向社会的行動尺度(中高生 版)」を使用した。この尺度は,「家族を相手とした向社会的行動」,「友人への行動的 援助」,「寄付や奉仕に関わる向社会的行動」,「友人への学習面での援助」,「友人への 心理的援助」の5因子構造からなる。本研究は学校生活に限定をして検討を行ってい るため,横塚(1989)が作成した向社会的行動尺度から,主に学校生活に関連のある 項目を内容的妥当性も考慮しながら計 7 項目を選び,使用した。この7項目に対して, 「いつもやった(5点)」,「しばしばやった(4点)」,「数回やった(3点)」,「1度やっ た(2点)」,「やったことがない(1点)」までの5段階評定で回答を求めた。 結 果 向社会的行動尺度の尺度構成について  使用した尺度について,因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行ったところ, 1因子構造であることが示された(Table 1)。Cronbach のα係数は .84 であり信頼 性も確認された。 罪悪感経験が向社会的行動に及ぼす影響  調査対象者 832 名のうち罪悪感の程度において罪悪感を「全く感じない」に回答し た者が 15 名であった。これらの対象者は,罪悪感を経験していないと判断し,分析

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対象から外した。また,回答不備者も分析対象から外し,分析対象者数は 570 名であっ た。  分析に先立って,各尺度間の相関分析を行った結果,全ての変数間に有意な相関が 得られた(Table 2)。  そこで,仮定した因果モデルについて共分散構造分析を行った。具体的には中学生 の学校生活における罪悪感の程度を外生変数に,罪悪感機能の各下位尺度を内生変数 とし,向社会的行動にどのような影響を及ぼすのかについて分析を行った。また,内 生変数である罪悪感機能の各下位尺度間はそれぞれ相関関係にあり,これらの変数の 誤差の間にも共分散を仮定した。分析した結果,モデルの適合度は,GFI=1.00, AGFI=.98,CFI=1.00,RMSEA=.02 であった。モデルを Figure 2 に示す。 Table 1 向社会的行動の因子分析(最尤法・プロマックス回転) 項目 負荷量 3苦しい立場にある友達を親身になって助けた。 4友達の悩みを聞いてやったり、相談相手になった。 2友達の荷物をもってやったり、傘に入れてやった。 1友達がけがをしたり、病気の時、手当てをした。 7友達の失敗を笑ったりしないで励ましてやった。 5休んだ友達にノートを貸した。 6友達に勉強を教えてやった。 .80 .78 .70 .68 .64 .52 .46 7項目のα係数 .84 Table 2 各尺度間の相関 1 2 3 4 5 6 1.罪悪感の程度 2.自己改善 3.自省 4.ネガティブ感情喚起 5.他者配慮 6.向社会的行動 ― .43*** ― .58*** .82*** ― .33*** .38*** .48*** ― .46*** .72*** .67*** .47*** ― .16*** .36*** .28*** .19*** .35*** ― ***p<.001

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の気持ちに共感し行動を改める項目や他者の助けとなる行動をしようとする項目が多 く含まれており,既述した向社会的行動の定義と類似する特徴がある。そのため,「自 己改善」や「他者配慮」が機能することにより向社会的行動が促されたことが考えら れる。  他方,罪悪感機能の「自省」が向社会的行動に負の影響を及ぼす傾向にあることが 明らかとなった。Hoffman(2001, 菊池・二宮訳)は,向社会的行動(向社会的な道 徳行動)には,通常,不快や痛み,危険などを感じたり,その他のタイプの苦痛を感 じている誰かを助けたりすることが含まれていることを指摘している。こうした苦痛 に対して共感する共感的苦痛を経験することで向社会的行動のような援助行動がとら れることを指摘している(Hoffman, 2001; 菊池・二宮訳)。また,向社会的行動は自 己制御機能との関連が指摘されている。自己制御機能とは,「自己の要求や意思に基 づいて自発的に行動を調整する能力」と定義されている(新名 , 1991)。自己制御機 能には 2 つの側面があり,「自分の意思や欲求を明確にもち,これを他人や集団の前 で表現し主張する」自己主張的側面と「集団場面で自分の意思や欲求を抑制・静止し なければならないとき,これを抑制する」自己抑制的側面がある(柏木 , 1988)。首 藤(1995)の幼児を対象とした研究において,自己主張は向社会的行動と正の相関が あるのに対して,自己抑制は向社会的行動と関連がないまたは負の相関があることが 示された。罪悪感機能の「自省」は,自分の行為に対する抑制など反省の念を示すよ うな反応が喚起されるような項目が含まれている。既述した先行研究の指摘と合わせ て考えると,罪悪感を抱いた際に申し訳ないなどの反省の念が深くなり,たとえ向社 会的行動を促す共感的苦痛が喚起されたとしても,行動抑制が強く働いてしまってい る可能性が指摘できる。よって,たとえ他者のためになるような行動であったとして も,その行動をとることに対して罪悪感機能の「自省」が何らかのブレーキをかけて しまう可能性が示唆された。 まとめ  本研究の目的は,中学生の学校生活おける罪悪感(罪悪感の程度と罪悪感機能)が 向社会的行動にどのような影響を及ぼすのかについて検討することであった。本研究 で得られた知見をまとめると,学校生活における罪悪感の「罪悪感の程度」は「罪悪 感機能尺度」のすべての下位尺度に正の影響を及ぼし,そのうち「自己改善」,「他者 配慮」は向社会的行動に正の影響を及ぼし,「自省」は向社会的行動に負の影響を及 ぼす傾向にあることが明らかになった。このように学校生活における罪悪感は,向社 会的行動のような対人関係を円滑にするうえで必要な要因と関連していることが示唆 された。特に「罪悪感機能」の「自省」は,今岡・庄司(2017)において学校適応に 正の影響を及ぼしていることが明らかにされている。そのため,「自省」は一見して 適応的な機能であるようにうかがえる。しかし,本研究においては向社会的行動に負 の影響を及ぼす傾向がみられた。このことから,罪悪感機能の「ネガティブ感情喚起」 のみならず,「自省」においても注意をして生徒対応する必要性がうかがえた。

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引用文献

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参照

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