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大学全入時代の短期大学における講義のあり方(1) : 講義評価と双方向性コミュニケーションの実践から見えること

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大学全入時代の短期大学における講義のあり方(1)

−講義評価と双方向性コミュニケーションの実践から見えること−

岩田 昌子

The way of lectures in junior college

in the open admission era(1

− What does the practice of student evaluation and interactive communication reveals ? − Masako IWATA 短期大学の講義において何をどのように伝えることが、大学全入時代の今必要とされ ているのか。平成 19 年度前期の講義での取り組みを紹介し、これに対する講義評価に ついて検討した。その結果、知識習得に比べて、生きることを考えたり、マナーを身に つけることを講義の中で学べていないことがわかった。しかしながら、双方向性コミュ ニケーションの取り組み(感想文のやり取りなど)から教員の意欲や熱意を学生が受け 取っており、このことが教員との関係作りにある程度の効果を及ぼしていると示唆され た。今後は講義において知識以外にも学ぶことがあるということを学生に認知させ、わ かりやすく伝える方法を検討し、双方向性コミュニケーションの取り組みにも改良を加 えていきたい。 はじめに 2007 年 9 月、中央教育審議会が「学士力(仮称)」の素案をまとめた。これは大学卒 業までに学生が最低限身につけなければならない能力とされるものであり、「知識」「技 能」「態度」「創造的思考力」の 4 分野 13 項目からなる。これは大学全入時代の到来を 来年度に控え、「大卒者」の質を維持する狙いがある。大学がレジャーランド化、大衆化 したといわれて久しいが、実に様々な学生が大学において学問を修めている。そのよう な現状において、多くの大学教員が学生に何をどのように教えていったらよいのか、戸 惑い、困惑しているのも事実である1 ) 2 )。無論、大学教員が無為に困惑している わ けで はなく、多くの教員が持ち前の研究者魂を掻き立てられ授業改善の研究を行っており、

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大学も FD 研修会を行うなど組織的な対策もなされている。 中学高校までの「授業」と、大学においての「講義」にはいくらかの違いがある。中 学高校までの授業では教科書を用い教員が計画的に板書をし、これをノート書き写すこ とで、学習が進む。これに対して、大学においての講義は比較的大人数で一斉に受講し、 教員が自ら作成してきた講義ノートをもとに話し続け、学生はそれを聞くというスタイ ルである 3)。つまり、講義は教員から学生への一方的な情報発信であり、それを受けて 学生が専門的知識を学び取るものでる。しかし、現在の大学教育においては、このよう な一方的な知識の伝達では効果的な教育が難しいため、講義における双方向性コミュニ ケーションのあり方が研究されている。たとえば、感想文 4)ミニッツペーパー5 )質問 書6 )、ブリーフレポート7 )、大福帳8 )、授業通信の発行9などである。これ らは 紙 面を 利用しての学生とのコミュニケーションであり、生の会話とは異なるが、教員と学生と の双方向性コミュニケーションを行う補助的なツールとなっている。 筆者もこれらのことを踏まえ、講義において様々な取り組みを行ってきた。そこで筆 者の講義に寄せる思いを含め、平成 19 年度前期の取り組みを紹介する。 1.講義への思いと取り組み 筆者は臨床心理学を専門とし、教員としての顔と臨床心理士としての顔を持つ。これ までに病院臨床やスクールカウンセラーとしての経験を持つが、その中で「人間として 生きる」ということについて考えてきた。そのため、講義が知識伝達の場としてのみ存 在するのではなく、学生自身が「人間として生きる」ことを考える場ともしてもらいた いのだ。 加えて、教員と学生との「人と人と のつながり 」も大切にしたい。豊田(2002)は、 教師が児童・生徒から好かれることにより、児童生徒の学習活動が促進されることは明 らかであるとしている 10)。また、大学生は、「個人的親しみやすさ」を持った教員を好 むこと 11)や講義中の教員の熱意、ユーモア、友好的態度、信頼性が学生の講義への満 足にとって重要であることも明らかになっている12)。このような点より教員は友達や家 族とは異なるが、学生が親しみを感じることができ、信頼できる存在としてここにあれ たらよいと思うのだ。 心理療法においても治療に効果な影響を与える要素のひとつに治療者と患者との関係 性がある 13)。特に治療期間が長いほどその影響も大きいと考えられている 14。心理療 法と講義は異なるが、自己実現への道のりという点では同じ要素もあるであろう。また、 心理療法は定期的に面接を繰り返し自己実現を目指すが、講義も定期的に決められた時 間に顔を合わせるという点が似ている。筆者は、こども学専攻(筆者の所属コース)の

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学生とは 2 年間、長期休暇を除き、週に1度 90 分、通算 60 回、講義で顔を合わせるこ とになる。2 年間という限られた時間ではあるが、その中で、講義の時空間を「自己実 現を目指しての成長の時・場」としたいのだ。 このような思いのもと、平成 19 年度前期講義において表1のような双方向性コミュ ニケーションを意識した取り組みを行った。 そこで、本論では講義評価を含め、これらの筆者の思いや取り組みがどのように受け とめられたかを報告し、考察したい。 2.調査 (1) 対象 被験者は平成 19 年度前期に私立短期大学にて筆者の講義を受講した 3 科目 4 クラス の学生 139 名である。 表1 平成 19 年度前期 講義における双方向性コミュニケーションに関する取り組み 名称 内容 目的 感 想 文 ・ 講義時間の最後10 分程度で B6 感想用紙 に記入し、その場で提出 ・ 提出後は筆者が目を通し、コメントを記 入 し 次 回 講 義 出 席 確 認 時 に 手 渡 し で 返 却 ① 教 員 が 学 生 の 理 解 度 およ び 授 業満足度を把握 ② 学 生 が 講 義 を 振 り 返 るこ と で の復習効果(知識の定着) ③ 学生と教員との関係を深める 感 想 ま と め プ リ ン ト ・ 講 義 開 始 時 に 「 前 回 の 講 義 内 容 の ま と め」と「感想文でおもしろかったもの」 をまとめたプリントを配布 ・ 前回の講義を振り返り、重要なポイント は再確認 ・ 感 想 の 中 で 皆 に 知 っ て お い て 欲 し い こ とや、間違って理解していることを訂正 ・ まれに教員のコメントも記入 ① 学 生 が 先 週 の 講 義 内 容を 思 い 出 す こ と で の 復 習 効 果( 知 識 の定着) ② 学生の間違った理解の訂正 ③ 受 講 生 同 士 で の 分 か ち 合 い と、理解の幅を広げる そ ら の い ろ ︵ た よ り ︶ ・ クラスだより ・ 筆 者 の 普 段 感 じ て い る こ と な ど ま と め たプリント(読んだ本、見た映画、五月 病についてなど) ・ 毎週発行 ・ 講義開始時に配布 ① 学生が教員に親しみを持つ ② 学生の興味の幅を広げる ③ 時 期 に あ わ せ た 心 理 学ト ピ ッ ク の 紹 介 で 、 学 生 生 活の メ ン タルサポート(予防活動)

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(2) 材料と手続き 平成 19 年 7 月 26 日、27 日の学期末試験実施前 30 分に「授業に関するアンケート」 を行った。これについては「成績には一切関係がなく、成績をつけ終えてから統計的に 処理する」と断った上で学籍番号を記入させた。 内容は「授業について」「自分自身の受講態度について」「感想を書くことについて」 「感想まとめプリントについて」「そらのいろについて」などである。「はい」「どちらか というとはい」「どちらともいえない」「どちらかというといいえ」「いいえ」の 5 段階 評定でおこなった。質問の詳細は表 2 のとおりである。 なお、講義評価は藤田 15)、受講態度は牧野 12、感想文・感想まとめプリント・そら のいろは藤田9)を参考に質問項目を設定した。 (3) 主な結果と考察 ① 講義評価 各項目の得点は図1の通りとなった。なお平均は4.0 である。 得点の高かった項目は「10:教師は十分な準備をし、意欲的に進めていた(4.5)」 「17:この授業は将来役に立つと思う(4.5)」など教員の熱意や講義内容の評価に関 するものであった。 これに対し得点の低かった項目は「21:この授業を受けて生き方について考えた (3.4)」「20:この授業を受けて勉強の仕方が学べた(3.5)」「22:この授業を受けてマ ナーを学べた(3.5)」など知識伝達以外のプラスアルファの要素についてであった。 「1,2:説明・指示のわかりやすさ(4.1,4.0)」「3:板書(4.0)」など講義方法につい てはおおむね平均的な得点を示した。 4.1 4.0 4.0 4.1 4.1 4.0 4.0 3.8 3.6 4.5 3.9 4.1 3.9 3.8 3.6 4.2 4.5 4.4 4.4 3.5 3.4 3.5 3.7 4.2 4.0 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 平均 図1 講義評価

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表2 質問項目 (4) 感 想 に 何 を 書 い て よ い か わ か ら な か っ た (5) 感 想 を 書 く こ と で 自 分 の 悩 み が 打 ち 明 け ら れ た (6) 感 想 プ リ ン ト の イ ラ ス ト で 季 節 を 感 じ ら れ た (7) 返 事 を 読 む の が 楽 し み だ っ た (8) 返 事 を 読 む こ と で 勉 強 に な っ た (9) 返 事 を 読 む こ と で 教 師 ( 岩 田 ) の こ と が 身 近 に 感 じ ら れ た (10) 返 事 を 読 む こ と で 教 師 ( 岩 田 ) に 興 味 ・ 関 心 を 持 て た (11) 感 想 文 の や り 取 り が 出 席 や 授 業 へ の 意 欲 を 高 め て い た (12) 感 想 文 の や り 取 り に よ り 保 育 者 に な ろ う と い う 意 欲 が 高 ま っ た (13) 感 想 文 の や り 取 り に よ り 教 師 ( 岩 田 ) の 熱 意 が 伝 わ っ た 4 . 感 想 ま と め プ リ ン ト (1) 授 業 振 り 返 り の 用 紙 を 毎 回 す べ て 読 ん で い た (2) 前 回 の 授 業 内 容 が 書 い て あ る こ と で 、復 習 に な っ た (3) 前 回 の 授 業 内 容 が 書 い て あ る こ と で 、そ の 日 の 授 業 に 入 り や す か っ た (4) 前 回 の 授 業 の わ か ら な か っ た 点 が 理 解 で き て よ か っ た (5) 他 の 受 講 生 の 感 じ 方 を 知 る こ と が で き た (6) 教 師( 岩 田 )が き ち ん と 感 想 を 読 み 、検 討 し て い る こ と が わ か っ た (7) 自 分 の 感 想 が 載 り う れ し か っ た (8) こ の プ リ ン ト が 出 席 や 授 業 へ の 意 欲 を 高 め て い た (9) こ の プ リ ン ト に よ っ て 保 育 者 に な ろ う と い う 意 欲 が 高 ま っ た (10) 教 師 ( 岩 田 ) の 熱 意 が 伝 わ っ た 5 . そ ら の い ろ (1) 毎 回 す べ て 読 ん で い た (2) 読 む の が 楽 し み だ っ た (3) 教 師 ( 岩 田 ) の こ と が 身 近 に 感 じ ら れ た (4) 教 師 ( 岩 田 ) に 興 味 関 心 を 持 て た (5) そ ら の い ろ を 読 む こ と で 、自 分 自 身 で も い ろ い ろ な こ と を 考 え た (6) そ ら の い ろ が 出 席 や 授 業 へ の 意 欲 を 高 め て い た (7) そ ら の い ろ に よ っ て 保 育 者 に な ろ う と い う 意 欲 が 高 ま っ た (8) そ ら の い ろ に よ っ て 教 師( 岩 田 )の 熱 意 が 伝 わ っ た 1 . 講 義 評 価 (1) 説 明 や 指 示 は 明 瞭 で 聞 き 取 り や す か っ た (2) 説 明 や 指 示 は わ か り や す か っ た( よ く 理 解 で き た ) (3) 板 書 は わ か り や す か っ た (4) 重 要 な と こ ろ を 強 調 し て く れ た (5) 学 習 の 目 標 が は っ き り と 示 さ れ て い た (6) 学 生 が 質 問 や 意 見 を 述 べ ら れ る よ う 配 慮 さ れ て い た (7) 質 問 や 発 言 に 対 し て 満 足 す る 対 応 が な さ れ て い た (8) 学 生 の 反 応 や 理 解 度 を 把 握 し て 授 業 を 進 め て い た (9) 小 テ ス ト や 課 題 提 出 な ど で 学 生 の 到 達 度 が は か ら れ た (10) 教 師 は 十 分 な 準 備 を し 、 意 欲 的 に 進 め て い た (11) 理 解 を 助 け る た め に 視 聴 覚 教 材 が 適 切 に 用 い ら れ た (12) 配 布 資 料 の 使 い 方 は 効 果 的 で あ っ た (13) こ の 授 業 の 1 時 間 あ た り の 情 報 量 は 適 切 で あ っ た (14) 私 語 や 遅 刻 へ の 対 処 な ど 、 教 室 内 で の 学 習 す る 雰 囲 気 が 保 た れ て い た (15) 授 業 か ら 触 発 さ れ る こ と が 多 か っ た (16) 授 業 の 内 容 は 興 味 ・ 関 心 の 持 て る も の で あ っ た (17) こ の 授 業 は 将 来 役 に 立 つ と 思 う (18) こ の 授 業 を 受 け て よ か っ た と 思 う (19) 授 業 を 受 け る 前 と 比 べ て 、 現 在 新 た な 知 識 や 技 術 が 得 ら れ た と 感 じ る (20) こ の 授 業 を 受 け て 勉 強 の 仕 方 を 学 べ た (21) こ の 授 業 を 受 け て 生 き 方 に つ い て 考 え た (22) こ の 授 業 を 受 け て マ ナ ー を 学 べ た (23) こ の 授 業 を 受 け て 保 育 者 に な ろ う と い う 意 欲 が 増 し た (24) こ の 授 業 の 総 合 評 価 は よ い 2 . 受 講 態 度 (1) 私 は こ の 授 業 に ま じ め に 出 席 し た (2) 私 は こ の 授 業 の 予 習 を 熱 心 に し た (3) 私 は こ の 授 業 の 復 習 を 熱 心 に し た (4) 私 は こ の 授 業 で 私 語 を し な い よ う 気 を つ け た (5) 私 は こ の 授 業 で 内 職 を し な い よ う 気 を つ け た (6) 私 の 受 講 態 度 の 総 合 評 価 は よ い 3 . 感 想 文 (1) 感 想 を 書 く の が 好 き だ っ た (2) 感 想 を 書 く の が 大 変 で あ っ た (3) 感 想 を 書 く こ と で 授 業 の 復 習 と な っ た

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これらの点より、講義内容についてはおおむね満足が得られているようであるが、 筆者の思い「人間として生きる」につながるプラスアルファの要素は講義の場にお いて十分認知されているとはいえないことがわかった。 ② 受講態度 各項目の得点は図2 の通りである。なお、平均は 3.4 点である。 得点の高かった項目は「1:この授業にまじめに出席した(4.1)」であり、出席に対 しての意識は非常に高いことがうかがわれる。 これに 対し 、「2,3:予習、復習(2.6,2.6)」の項目は低く、講義時間外での自学自 習の態度は身についてい ないと考えられる。牧野 12)お い て も 講 義 外 で の 積極的な学習態度の低さ が報告されており、これ と同様の結果となった。 「4,5:私語、内職をし な い よ う 気 を つ け た (3.7,3.8)」に関しては予 習・復習に比して努力を しているという意識があ ることがわかった。 ③ 感想文 各項目の得点は図3の 通 り と な っ た 。 平 均 は 3.2 点である。なお、項 目2,4 は「2:感想文が大 変であった」などの反転 項目であり、図の得点は 反転後の得点である。他 の双方向性コミュニケー ションツールと比較して 平均点が低得点となって 2.8 1.3 3.7 1.8 2.7 3.6 4.0 3.6 3.7 3.6 3.4 3.2 4.1 3.2 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 平均 図3 感想文 4.1 2.6 2.6 3.7 3.8 3.3 3.4 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 1 2 3 4 5 6 平均 図2 受講態度

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いるが、反転項目の影響があるものと見られる。 得点の高かった項目は「13:感想文のやり取りにより教師の熱意が伝わった(4.1)」、 「7:返事を読むのが楽しみだった(4.0)」、「3:感想を書くことで授業の復習となっ た(3.7)」「9:返事を読むことで教師のことが身近に感じられた(3.7)」であった。こ のことより、感想文のやり取りが教員と学生との関係作りに有効であることや学生 も感想を書くことが復習となるという実感を持っていることがわかった。これらの 結果から、感想文の目的(表1 参照)のうち「③学生と教員との関係を深める」、「② 復習効果」がある程度達成できているといってよいであろう。 得 点 の 低 か っ た 項 目 は 反 転 さ せ た 後 の 「2:感 想を書くのが大変であ った(1.3)」 「4:感想に何を書いてよいかわからなかった(1.8)」で、感想を書くことは学生にと って負担となっており、何を書いてよいか戸惑うものであることがわかった。 また「5:感想を書くことで自分の悩みが打ち明けられた(2.7)」という項目も得点 が低く、これについては藤田9)においても同様の結果が出ており、感想文を書 く こ とが相談の手段とはなりにくいことがわかった。項目7,9 からは教員との関係作り に感想文のやり取りが有効であることが示唆されたが、相談をするという深い関係 性にまでいたることは難しい、もしくはそのような関係は求めていないことが示唆 された。 ④ 感想まとめプリント 各項目の得点は図4の と お り で あ る 。 平 均 は 3.9 であった。他の双方 向性コミュニケーション ツールと比較して高得点 であった。 得点の高かった項目は 「6: 教 師 がき ち ん と 感 想を読み、検討している こ と が わ か っ た(4.5) 」 「10:教師の熱意が伝わった(4.4)」などであり、教員への評価につながる項目が高 かった。また、「5:他の受講生の感じ方を知ることができた(4.2)」も高かった。学 生は講義内で発言を促してもなかなか発表しないが、まとめプリントを用いての横 3.7 4.0 3.9 3.7 4.2 4.5 3.7 3.6 3.4 4.4 3.9 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 平均 図4 感想まとめプリント

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の交流は行えるようである。この点より、感想まとめプリントの目的「③受講生同 士での分かち合いと、理解の幅を広げる(表1)」は達成できていると言えるであろ う。 これに対して、得点が低かった項目は「9:保育者・教員になろうという意欲が増 した(3.4)」、「8:出席や授業への意欲を高めていた(3.6)」などであった。これらの 得点は「感想まとめ」内の項目比較においては低いものの、「感想文」や「そらのい ろ」との比較においては、必ずしも低いとはいえない。このため、他のツールと比 較して、ある程度は資格取得や受講意欲にも効果的な影響を及ぼしていると考えら れる。 同様に講義内容の理解に役立っているかを問う項目「2:前回の授業内容が書いて あることで、復習となった」「3:前回の授業内容が書いてあることで、その日の授 業に入りやすかった」「4:前回の授業のわからなかった点が理解できてよかった」 も感想まとめ内においては得点が高いわけではないが、いずれも 3.7 以上の得点と なっている。これらは感想まとめプリントの目的「①復習効果」「②間違った理解の 訂正」に相当する部分である。目的③よりは弱いものの、目的①②についてもある 程度効果があったといえるであろう。 ⑤ そらのいろ 各項目の得点は図5の とおりであった。平均は 3.4 である。 得 点 が 高 か っ た の は 「8: 教 師 の熱 意 が 伝 わ った(3.9)」であり、低か った項目は「7:保育者・ 教員になろうという意欲 が 増 し た(3.0)」、「6: 出 席や授業への意欲を高め ていた(3.1)」であった。この得点傾向はいずれも、感想文、感想まとめと同様であ ったが、他のツールに比較していずれも低得点となった。「そらのいろ」も教員の熱 意として受けとめられてはいるが、受講動機を高める効果が高いとはいえない。 そらのいろの目的である「①教員に親しみをもつ」「②興味の幅を広げる」に関す 3.5 3.4 3.5 3.6 3.5 3.1 3.0 3.9 3.4 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 1 2 3 4 5 6 7 8 平均 図5 そらのいろ

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る項目 3,4,5 においても 3.5 前後の得点があり、教員との関係作りや学生の興味 の幅を広げることにはある程度の効果があったと思われる。 ⑥ 全体 平成 19 年度前期の 3 科目 4 クラスにおいては、「教員の意欲」および「将来役立 つ」という点に関しては評価が高かった。この傾向は双方向性コミュニケーション ツールにおいても見られる。感想文、感想まとめプリント、そらのいろ、いずれに おいても教員の熱意に関しては評価されていた。これらのツールがあったがゆえに 講義評価でも意欲的であると判断された可能性もある。これら3ツールを比較する と、平均点は感想まとめプリント(平均 3.9)の評価がそらのいろ(平均 3.4)・感 想文(平均 3.2)に比べて高かった。また同一質問項目(受講意欲・資格取得意欲・ 教師の熱意)においてはいずれも、「感想まとめプリント>感想文>そらのいろ」の 順で得点が高かった。この得点傾向は各ツールの特性の影響が大きいと考えられる。 感想まとめプリントは講義内容に直接関係があり、かつ学生にとってはインプット 情報である。これに対して感想を書くことは、講義内容に直接関係はあるもののア ウトプット情報であり、そらのいろは講義内容には直接関係のないインプット情報 である。実際、復習効果においても感想まとめプリントは 4.0、感想文は 3.7 であ り、同じ授業に直接関係のあるツールでも、インプット情報のほうが効果的である と考えているようである。各科目とも資格取得のための科目であり、資格取得を目 指す学生にとってより実利的な情報つまり「知識」の獲得につながるツールへの関 心・評価が高いのは当然の結果であろう。 また、教員の意欲や熱意を学生が受け取っており、このことが教員との関係作り にある程度の効果を及ぼしていると示唆された。この点は筆者の教育への思いのひ とつである「教員と学生とのつながりを大切にする」ということが、講義および双 方向性コミュニケーションツールを通して伝わっていると考えてよいであろう。 しかしながら、もうひとつの思い、「人間として生きる」という部分に関しては筆 者が期待するほどの効果をあげていないことがわかった。講義評価において「生き 方について考えた」、「マナーを学べた」など「人間として生きる」につながるプラ スアルファの要素は軒並み得点が低かった。講義の場においては開始・終了時にあ いさつを行い、講義中にも自らの問題として生きることを考えるような課題を課し てきたつもりでいたが、そのようには受とめられていないことがわかった。また、 感想文の返事、まとめプリントの掲載感想の選択、そらのいろの内容などにおいて もプラスアルファの部分を意識できるよう努めたつもりであるが、十分な効果をあ

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げているとは言えなかった。 3.今後の課題 今回の結果からは「人間として生きる」ということを考える部分、つまり知識習得以 外のプラスアルファの部分に学生が関心を持っているとはあまり感じられなかった。学 生には講義の中からは知識以外にも学び取るものがあるという意識は少ないようである。 今後はこの部分を認知させ、わかりやすく伝える方法を検討し、双方向性コミュニケー ションツールにも改良を加えていきたい。 また、学生の受講態度の自己評価は講義評価に比して低かった。筆者の熱意を感じて もらえたのは非常にうれしいことではあるが、学生自身が熱意を持って受講でき、自分 のがんばりに満足できるような講義にしていきたい。そのために必要なことは何である のかを考えていくことも必要であろう。 ところで、筆者は講義をしていて、同じ内容の講義を複数回行うが、同じ内容を行っ ているつもりでも、そのクラスの雰囲気や筆者自身の講義の慣れなどにより、講義のし やすさが異なると感じている。このような教員の側の要因(熟達度や逆転移)や教員と 学生との関係性、講義を進めていく過程での関係性の変化などについても検討していき たい。 今回は対象集団も異なるため質問紙調査では得られた結果について検定などの統計的 な分析を行っていない。今後は、統計的な解析が行えるような質問形式や対象の選定な ども考慮する必要がある。 おわりに 短大生は大学で何を学び、何を身につけていくのか。筆者の講義の受講者はいずれも 資格取得を目指しており、知識の獲得は必要条件である。しかし、それだけでは十分と はいえないと考えている。短期大学を修了することで、平成 17 年度よりそれまでの「準 学士」から「短期大学士」の学位が与えられようになった。そのため、短期大学は高度 な教養を身につける場として、より明確な位置づけがなされ、知識だけの習得ではなく 教養を身につけることも必要となろう。ところが、実際には修業年数や過密なカリキュ ラムから十分に教養教育を行うことが難しい面もある。このような中でいかにして講義 の中でも教養を身につけていくかを考えていくことは重要であろう。 大学全入時代の今、学問的知識に加え何をどのように伝えていくことが講義に求めら れているのか、教員の側でもしっかりと考えていくことが必要である。

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参考文献 1)カワン・スタント,(2000):変革時代における大学授業法の実践に関する研究(6)−双 方向コミュニケーション(感想文)によるスパイラル効果−,桐蔭論叢,7,p.132∼143 2)筒井美紀,(2006):ノートを取る学生は授業を理解しているのか?−<大事なところは 色 を 変 え て 板 書 し て ほ し い =83%>を前にし て−,京都女子大学現代社会研究,9,p.5∼ 21 3)藤田哲也,(2006):大学基礎講座改増版,北大路書房,p.11∼29 4)清水康幸,(1998):学生とともに創る大学授業−感想文との格闘を通じて−,青山学院 女子短期大学総合文化研究所年報,6,p.49∼67 5)Davis,B.G.Wood,L.,&Wilson,R.香取草之助(監訳) ,(1995):授業をどうする! カリフ ォルニア大学バークレー校の授業改善のためのアイデア集,東海大学出版会 p.128∼141 6)田中一,(1999):さよなら古い講義 質問書方式による会話型教育への招待,北海道大 学図書刊行会 7)宇田光,(2005):大学講義の改革 BRD(当日レポート方式)の提案,北大路書房 8)織田揮準(1991):大福帳による授業改善の試み 大福帳効果の分析,三重大学教育学部 紀要,42,p.165∼174 9)藤田哲也,(2001):授業通信による学生との相互行為Ⅰ−相互行為はいかにして作られ たか−京都大学高等教育研究,7,p.7∼82 10)豊田弘司,(2002):大学生における「好かれる教授」と「嫌われる教授」の特徴,奈良 教育大学教育実践総合センター紀要,11,p.19∼22 11) 豊田弘司,(2005):大学教授の好意度を規定する対人認知の次元,奈良教育大学教育実 践総合センター紀要,14,p.1∼4 12)牧野幸志,(2000):学生による授業評価と自己評価、成績、および学生の満足感との 関係−教養選択科目「社会心理学」の場合−,高松大学紀要,35,p1∼16 13)Miller,S.D,.Duncun,B.L,.&Hubble,M.A.曽我昌祺(監訳),(1997):心理療法 その基礎 なるもの −混迷から抜け出すための有効要因−,金剛出版 14)近藤千加子,田畑治(2005):短期終結ケースの効果要因についての一考察−抑うつ女子 大生の事例から−,愛知学院大学心身科学部紀要,1,p.31∼39 15)藤田哲也(2005):授業評価に対する心理学的アプローチ,名古屋高等教育研究,5,p.257 ∼280

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