原 著
外来患者におけるリラクセーション法の初回体験時の反応と継
続受診への影響
柳 奈津子
1,小板橋喜久代
2 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院保健学研究科 2 京都府京都市山科区大宅山田町34 京都橘大学看護学部 要 旨 【目 的】 本研究の目的は,外来においてリラクセーション法を体験した患者の初回体験時の反応を分析することである. また,継続の有無による初回体験時の反応の相違から,その後の継続的な受診への影響について検討することである. 【方 法】 対象は,2006年4月~2014年3月にA病院のリラクセーション外来を受診した143名の患者である.診療記 録から年齢,性別,疾患,受診した回数,ストレス度,リラックス度などを抽出した.体験時の反応の違いを患者の属性 や継続受診の有無により比較した. 【結 果】 対象患者143名の平均年齢は49.0±13.9歳,男性16名,女性127名であっ た.疾患は,精神的疾患46名,身体的疾患68名,その他が29名であった.10-20歳代のストレス度が高かった(p=0.004). 初回体験のみで終了した者は,継続して受診した者に比べ,初回体験後のリラックス度が低かった(p=0.028). 【結 語】 年齢や疾患,体験による反応に応じて,生活に取り入れて活用できるように支援方法を工夫し,継続につなげていくこと が重要である. 緒言 現代はストレス社会といわれ,1 多忙な生活,情報過多, 過重労働,人間関係など,人々はストレスを引き起こさせ る様々な要因をたくさん抱えている.ストレスによる健康 の変調を感じる人も増え続けている.また,病気を持ち, 治療を続けながら地域で生活する人も増えている.病気の 治療やその後の生活を維持していく上で,ストレスに対処 することは欠かせない課題である.外来を受診する患者は, 病気を持ち続けていることの悩み,入院中とは異なる不安, 持続する痛み,社会的ストレスなど,さまざまな辛さを抱 えている可能性がある. リラクセーション法は,心と身体の調和をはかるための セルフケアである.セルフケアとして活用できるようにな るためには,継続して実施することが必要である.リラク セーション法の効果については,不安の軽減2 や疼痛の緩 和3 などが明らかにされている.また,Ⅱ型糖尿病患者,4 本 態性高血圧患者,5 線維筋痛症患者6などの疾患に関連する 症状の改善を認めており,いずれも継続的にリラクセー ション法に取り組んだ成果である. 海外においては,セルフケアとしてのリラクセーション 法が日常的に活用されている.例えば,シンガポールでは, 外来において慢性疾患患者に対するマネジメントとして, 看護師がリラクセーション法を教示している.7 国内にお いては,臨床における効果の検証も進められ,8,9 少しずつ 文献情報 キーワード: リラクセーション法, 外来患者, 呼吸法, 看護 投稿履歴: 受付 平成29年11月24日 修正 平成29年12月26日 採択 平成30年1月5日 論文別刷請求先: 柳 奈津子 〒371-8514 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院保健学研究科 電話:027-220-8981 E-mail: [email protected]リラクセーション法の初回体験時の反応 ではあるが現場での活用が広がってきている.10 我々は,A病院の看護専門外来のひとつであるリラク セーション外来において,がん,精神疾患,慢性疼痛など の患者にリラクセーション法の指導を行ってきた.その中 で,継続的に取り組むことで疼痛の緩和や精神的な安定を はかることができた事例を複数例経験している.11 その一 方で,1回だけの指導で終了してしまった事例も数多く, それらの事例に何らかの特性があるのか分析する必要があ ると考えた.これまで我々は,複数回の体験を総合的に評 価してきたが,初回の体験のみの反応に焦点をあてた分析 は行ってこなかった.また,リラクセーション法を継続的 に実施するには,個人の状況により様々な要因があると考 えられる.その要因のひとつとして,リラクセーション法 を継続して実施した事例は,肯定的な気持ちがあった12こ とを参考に,体験によるリラックス反応に焦点をあてた分 析が必要であると考えた.初回体験後に継続して受診しな かった,あるいは継続して受診した患者の初回体験による 反応を分析することにより,リラクセーション法の初回体 験時の指導を行う上での示唆を得ることができると考える. 本研究によって,患者の特性による反応の違いなどが明ら かになることは,看護ケアとしての活用を促す一助になる と考える. 目的 本研究の目的は,外来においてリラクセーション法を体 験した患者の特性と初回体験時の反応について後方視的に 分析することである.また,初回のみで終了した患者(非 継続群)と2回以上継続して受診した患者(継続群)にお ける初回体験時の反応の相違から,その後の継続的な受診 への影響について検討することである. 研究方法 1.対象 2006年4月~2014年3月にA病院のリラクセーション 外来を新規に受診した患者である. 2.データの収集方法 対象患者の診療記録を用いて,年齢,性別,疾患,受診 回数,リラクセーション法の初回体験時の反応(生理的デー タ;血圧,脈拍,唾液アミラーゼ活性値,主観的データ; リラックス度,ストレス度,体験後の感想)を抽出した. 唾液アミラーゼ活性値は,唾液アミラーゼモニター(ニプ ロ株式会社)によって測定されたものである.専用のチップ を用いて唾液を採取し,数分で測定値を得ることができる. リラックス度とは,主観的なリラックス反応を評価する ための尺度によって得られた値である.研究者らが独自に 作成したものである.「呼吸が落ち着いている」,「手や足先 があたたかい」,「腕・足の力が抜けている」,「顔・首・肩の 力が抜けている」,「気分が落ち着いている」,「心身ともにリ ラックスしている」の6項目から構成されており,「まった く感じない」,「あまり感じない」,「まあまあ」,「すこし感じ る」,「とても感じる」の5段階で評価する.13 合計得点は, 最大30点であり,得点が高いほどリラックス度が高まっ た状態である.リラクセーション外来の受診者101名に 行った場合において,Cronbach’s α信頼性係数=0.866が 得られ,信頼性が確認されている.14 ストレス度とは,ストレス状態を評価するための尺度に よって得られた値である.患者への負担が少なくなるよう に質問項目数の少ない尺度として,研究者らが先行研究を 参考に作成した.約1週間のストレス状態を評価するため, リラクセーション法の体験前のみ測定する.「何となく不 安になることがある」などの心理的症状についての5項目, 「手足が冷えやすい」などの身体的症状についての5項目 の計10項目で構成されている.「ほとんどない」「ときに はある」「しばしばある」「いつもある」の4段階で評価す る.最大30点であり,得点が高いほどストレスが強い状 態である.リラクセーション外来の受診者101名に行った 場合において,Cronbach’s α信頼性係数=0.763が得られ, 一定の信頼性が確認されている. 3.リラクセーション外来における指導の概要 外来における指導は,週1回の予約制で実施している. 医療者からの紹介,または,患者本人の希望があれば受診 できる.集団指導(最大5名まで)を基本としており,初 回は継続者とは別に実施している.リラクセーション法の 修得には3ヶ月が必要とされる15ことから3ヶ月以上の継 続的な実施を推奨している.外来を受診する頻度や回数は, 患者の任意である.リラクセーション法の種類として,呼 吸法,漸進的筋弛緩法,自律訓練法,誘導イメージ法があ り,初回以外は,患者の体調や希望に合わせて指導してい る.本研究で取り上げた初回は,リラクセーション法の基 本である呼吸法を指導している. 初回時,疾患に関連した症状,その他辛いと感じること, 受診の動機・目的などを確認する.体験前後に血圧,脈拍 などの生理的指標を測定し,リラックス度などの主観的反 応は,自記式質問紙に記載してもらう.所要時間は1時間 程度である. 4.分析方法 単純集計を行い,対象者の概要を示した.対象者全体の 分析に加え,属性別の反応,継続的な受診の有無別の反応 に分けて,体験時の状況を分析した.継続的な受診の有無 別の反応については,初回のみで終了した患者を非継続群 とし,2回以上継続した患者を継続群として両群間におけ る反応の違いを比較した.量的データは,正規分布である ことを確認し,体験前後の比較には対応のあるt検定,2
には,一元配置の分散分析,その後の多重比較においては
Bonferroniの修正を行い,調整済みp値を用いた.正規分 布にならない変数については,Wilcoxon符号付順位検定,
Mann-WhitneyのU検 定,Kruskal-Wallis検 定 を 行 っ た. また,Spearmanの順位相関係数を用いた.統計的分析には,
IBM SPSS Statistics Version 24を用い,有意水準を5%と した.結果の表記は,平均値±標準偏差を用い,歪みが大 きく正規分布とならない変数は,中央値を用いた.体験後 の感想については,内容を分析し「否定的な感想」「肯定的 な感想」に分類した. 5.倫理的配慮 群馬大学医学部疫学研究に関する倫理審査委員会の承認 (25-60)を得て実施した.研究目的,内容,匿名化するこ と,プライバシーの保護,協力の辞退による不利益はない こと,対応する窓口などを明記した文書を外来に掲示した. 結果 1.対象者の概要 調査期間に外来を新規に受診した患者は,150名であっ た.そのうち,初回の体験前後の記録がなかった7名は分 析から除外し,対象者は143名であった. 性16名(11.2%),女性127名(88.8%)であった.年齢 を性別でみると,男性は49.1±14.9歳,女性49.0±13.8歳 で有意差はなかった. 疾患は,精神的疾患46名(32.2%),身体的疾患68名 (47.5%), 仕 事 や 介 護 な ど そ の 他 の ス ト レ ス が29名 (20.3%)であった.年代別の傾向を疾患からみると,10 ~20歳代は,不安障害やパニック障害などすべて精神的 疾患であった.30歳代では,肝疾患,心疾患などの身体 的疾患(50.0%)が増えたが,そのうちがんは2名であった. 40歳代以降は,がんも増え,身体的疾患68名の中では36 名(53.0%)が,がんであった(表2). 受診回数は,中央値2回,最大値31回,四分位範囲(25% ~75%)は5(1~6)回であった.性別でみると,男性は 中央値3回,四分位範囲(25%~75%)が5(2.5~7.5)回, 女性は中央値2回,四分位範囲(25%~75%)が4(1~5) 回であった.性別による有意差はなかった. 2.対象者全体の体験前後の反応 1)生理的・主観的データの分析 対象者全体の体験前後の反応を表3に示した.リラク セーション法の体験前と比較して,体験後に収縮期血圧, 脈拍数が有意に低下した(p<0.001,p<0.001).唾液ア ミラーゼ活性値については,唾液分泌量が少ないなどの理 由により測定値が得られなかった者は除外され,分析対象 者は68名であった.唾液アミラーゼ活性値は,体験前に 比べ,体験後に有意に低下した(p=0.011).リラックス 度の得点は有意に上昇した(p<0.001).ストレス度は, 15.9±5.7点であった. 体験後の感想においては,「苦しくなった」などの否定的 な感想のみであった者は,21名(14.7%),「呼吸法がうま くできなかったが,今後,落ち着ける場所で実施していき たい」などの否定的な感想と肯定的な感想が混在していた 者は,27名(18.9%),「心地よい感じがした」などの肯定 的な感想のみであった者は76名(53.1%),体験による感 想の記載がなかった者は19名(13.3%)であった. 2)属性別の生理的・主観的データの分析 年齢,性別,疾患別に生理的・主観的データを分析した. 年 齢 別 で は,10-20歳 代(n=14),30-40歳 代(n=56), 表1 対象者の概要 n=143 (人) (%) 年齢(歳) (全体) 平均値±SD 49.0±13.9 (男性 n=16) 平均値±SD 49.1±14.9 (女性 n=127) 平均値±SD 49.0±13.8 性別 男性 16 11.2 女性 127 88.8 疾患 精神的疾患 46 32.2 身体的疾患 68 47.5 その他*1 29 20.3 受診回数(回) 中央値 2 四分位範囲(25%~75%) 5(1~6) SD=Standard Deviation,標準偏差 *1仕事,介護,育児に関連したストレスなど 表 2 対象者の年代別の概要 n = 143 年代 人数 疾患 受診回数(回) 精神的疾患 身体的疾患 その他 中央値 最大値 四分位範囲 (人) (%)(人) (%) (主な疾患)*1 (人) (%) (主な疾患)*1 (人) (%) 10 歳代 5 3.5 5 10.9 不安障害,拒食・心身症的症状など 0 0 0 0 1 2 1 20 歳代 9 6.3 9 19.6 パニック障害4,心身症,不眠症など 0 0 0 0 2 17 6 30 歳代 18 12.6 7 15.2 うつ3,パニック障害 2,不安障害など 9 13.2 がん 2,肝疾患など 2 6.9 1.5 11 3 40 歳代 38 26.5 11 23.9 うつ10 など,統合失調症など 18 26.5 がん 10 など 9 31.0 2 13 3 50 歳代 43 30.1 7 15.2 うつ2,不安神経症など 23 33.8 がん 13,知覚異常 3 など 13 44.8 3 26 7 60 歳代 20 14.0 4 8.7 うつ3,不眠症など 14 20.6 がん 8,パーキンソン病など 2 6.9 5 28 5 70 歳代 10 7.0 3 6.5 うつ,不眠症など 4 5.9 がん 3 など 3 10.3 2.5 31 12 *1 数字は人数
リラクセーション法の初回体験時の反応 50-70歳代(n=73)に分類して比較した(表4).10-20歳 代の体験前の収縮期血圧は,50-70歳代に比べて有意に低 か っ た(p=0.022). 体 験 前 の 拡 張 期 血 圧 に お い て も, 10-20歳代は他の年代に比べ低かった(p=0.025,p=0.007). また,10-20歳代は50-70歳代に比べストレス度が高かっ た(p=0.004). 性別,疾患別(精神的疾患,身体的疾患,その他)にお ける体験前後の反応に差異は認められなかった. 初回体験後,その後継続して受診した回数と他の要因と の関連をみた.属性では,年齢との関連が認められた(rs =0.253,p=0.002).また,初回体験後のリラックス度と の関連が認められた(rs=0.258,p=0.002). 3.体験前後における非継続群と継続群の反応の比較 1)群別の対象者の概要 非継続群と継続群の対象者の概要を表5に示した.非継 続群の患者は54名(37.8%),継続群の患者は89名(62.2%) であった.年齢は,非継続群45.3±14.4歳,継続群51.3± 13.1歳であり,両群間に有意差を認めた(t=-2.52,p= 0.013).性別については,非継続群は男性3名(5.6%), 女性51名(94.4%),継続群は男性13名(14.6%),女性 76名(85.4%)であった.疾患については,両群ともに身 体的疾患が最も多く,非継続群26名(48.1%),継続群42 名(47.2%)であった. 2)群別の生理的・主観的データの分析 体験前および体験後における非継続群と継続群の反応の 違いを比較した(表6).両群間の比較において,収縮期 表3 対象者全体の体験前後の反応 n=143 体験前 体験後 t 値 p 値 収縮期血圧(mmHg) 121.6±17.6 116.7±15.2 4.59 <0.001 拡張期血圧(mmHg) 80.4±12.0 80.4±10.9 -0.02 0.987 脈拍数(回 ╱ 分) 78.0±11.5 74.3±10.5 5.59 <0.001 リラックス度(点) 15.9±4.4 22.8±4.9 -16.26 <0.001 ストレス度(点)*1 16.0±5.7 (z値) 唾液アミラーゼ活性値(KU╱L)*2 38.0 27.5 -2.56 0.011 平均値±標準偏差 *1過去1週間の状況についての評価のため体験前のみ測定 *2中央値(n=68) 表4 年代別の体験前後の反応 10-20 歳代 n=14 30-40 歳代n=56 50-70 歳代n=73 F 値 ANOVAP 値 調整済みP 値 収縮期血圧(mmHg) 体験前 111.2±12.3 119.7±16.7 125.0±18.4 4.22 0.017 *0.022 体験後 110.4±10.5 114.0±16.8 119.9±14.0 3.87 0.023 拡張期血圧(mmHg) 体験前 71.3±14.1 80.6±11.7 81.9±11.2 4.85 0.009 *0.025 体験後 77.7±8.1 79.0±12.5 81.9±10.0 1.55 0.215 **0.007 脈拍数(回 ╱ 分) 体験前 82.1±15.0 78.6±11.6 76.9±10.7 1.29 0.278 体験後 78.9±9.5 75.5±9.8 72.6±10.9 2.79 0.065 リラックス度(点) 体験前 14.2±4.3 16.9±4.5 15.6±4.3 2.68 0.072 体験後 21.4±3.9 23.1±4.8 22.9±5.2 0.64 0.529 ストレス度(点)*1 19.9±4.1 16.6±6.0 14.7±5.3 5.89 0.003 **0.004 (n=9) (n=21) (n=38) (P値) 唾液アミラーゼ活性値(KU╱L)*2 体験前 52 44 37 0.689 体験後 37 26 34 0.677 平均値±標準偏差 *1過去1週間の状況についての評価のため体験前のみ測定 *2中央値 * ** ** *
血圧,拡張期血圧は,体験前および体験後ともに有意差は なかった.脈拍数は,体験前および体験後において,非継 続群に比べ継続群が有意に低かった(p=0.023,p=0.020). 唾液アミラーゼ活性値は,体験前,体験後ともに有意差は なかった.リラックス度においては,体験前に有意差はな く,体験後は,非継続群の得点が有意に低かった(p= 0.028).ストレス度の得点においては有意差はなかった. 3)群別の体験後の感想の分析 体験後の感想について,否定的,肯定的,両者の混在に 分けて表7に示した.否定的な感想のみの記載があった者 は,非継続群が17名(31.5%)であったのに対し,継続 群では4名(4.5%)であった.否定的な感想と肯定的な 非継続群 n=54 継続群 n=89 (人) (%) (人) (%) 年齢 平均値±SD(歳) 45.3±14.4 51.3±13.1 t=-2.52 P=0.013 性別 男性 3 5.6 13 14.6 女性 51 94.4 76 85.4 疾患 精神的疾患 15 27.8 31 34.8 身体的疾患 26 48.1 42 47.2 その他 13 24.1 16 18.0 SD: Standard deviation,標準偏差 表6 継続的な受診の有無による反応の比較 非継続群 n=54 継続群n=89 t 値 p 値 収縮期血圧(mmHg) 体験前 118.8±15.0 123.2±18.9 -1.45 0.149 体験後 113.9±15.1 118.4±15.1 -1.71 0.089 拡張期血圧(mmHg) 体験前 79.2±10.8 81.1±11.8 -0.91 0.365 体験後 79.3±9.4 81.0±11.8 -0.90 0.371 脈拍数(回 ╱ 分) 体験前 80.9±11.6 76.4±11.2 2.30 0.023 体験後 76.9±11.4 72.8±9.8 2.35 0.020 リラックス度(点) 体験前 16.4±5.1 15.9±4.0 0.21 0.834 体験後 21.6±5.4 23.5±4.5 -2.22 0.028 ストレス度(点)*1 16.8±5.6 15.4±5.8 2.30 0.145 唾液アミラーゼ活性値(KU╱L)*2 (n=31) (n=37) (Z値) (P値) 体験前 60 37 -1.26 0.207 体験後 36 26 -1.24 0.216 平均値±標準偏差 *1過去1週間の状況についての評価のため体験前のみ測定 *2中央値 表7 体験後の感想 非継続群 n=54 継続群 n=89 (人) (%) (人) (%) 否定的な感想 17 31.5 4 4.5 否定と肯定の混在 6 11.1 21 23.6 肯定的な感想 19 35.2 57 64.0 感想なし 12 22.2 7 7.9 否定的な感想(例) 呼吸がうまくできなくて困った 場所がリラックスできる環境ではなかった 初めてだったので,場所,どんな事をするか 緊張してしまった 否定と肯定の混在(例) 眠くなったが,呼吸を合わせようと努力する 自分がいた 呼吸法がぎこちないが,心地よかったので慣 れていくと思う 肯定的な感想(例) とても気分が落ち着き眠気が増してきた 自分で呼吸法を覚え,思いついたら行いたい と思う
リラクセーション法の初回体験時の反応 感想が混在していた者は,非継続群は6名(11.1%)であり, 「眠くなったが,呼吸を合わせようと努力する自分がいた」 などの感想があった.継続群は21名(23.6%)であり,「最 初なので少し緊張したが,足が楽になった」「呼吸法がぎ こちないが,心地よかったので慣れていくと思う」などが あった.肯定的な感想のみであった者は,非継続群19名 (35.2%),継続群57名(64.0%)であった.肯定的な感想 としては,両群ともに「体が温まった」「緊張がほぐれた」 「すっきりした気分」などのリラクセーション法による効 果についての感想が多かった.加えて,「今後もやってみた い」「継続していきたい」など継続する意思が確認できた 感想は,継続群のみにみられた. 考察 外来を受診した患者の特性,初回体験による反応の特徴, 継続的な受診への影響について考察し,継続のための対応 策について検討した. 1.対象者全体の特性 これまでにリラクセーション外来を受診した患者は,圧 倒的に女性が多かった.性別による年齢や受診回数に違い はなかった.疾患については,がん患者が最も多いことが 明らかになった.精神的な疾患に分類された者の中には心 身症の患者もおり,リラクセーション外来を受診した患者 の多くは,心と身体の両面からの辛さがあるといえる.心 身相関の乱れによる辛さを感じている者は,リラクセー ション法がその乱れを整えるひとつの対処法となり得るか と期待して受診していると考えられる.リラクセーション 法を適用する目的は,身体的な緊張を解くことを介して, 心の緊張を緩和することである.このことからも,予測さ れる効果に適した対象者が受診しているといえる. また,対象者の疾患の傾向について年齢別にみると,10 ~20歳代の対象者は,総数が少ないものの全例が精神的 な問題を抱えていることが明らかとなった.平成28年度 の国民生活基礎調査16によると,気分障害・不安障害に相 当する心理的苦痛を感じている者の割合は,20~29歳が 最も高く13.7%を占めている.このことから,一般的に見 ても20歳代の若年者は,精神的な問題を抱えている者が 多く,リラクセーション外来を受診した若年者の疾患の傾 向と一致するといえる.精神的な問題を抱え,外来を受診 する若年者は,ごく一部であると考えられ,外来の患者の みならず,地域において,若年者が自ら取り組むメンタル ヘルスケアの支援も積極的に取り組むべき課題であると考 える. 2.リラクセーション法の初回体験による反応の特徴 リラクセーション法の初回体験前後の比較から,生理的 反応,主観的反応のいずれにおいても有意な変化を認めた. リラクセーション法の体験によって,対象者は副交感神経 活動が優位な状態になったと考えられる.今回の結果は, 繰り返して複数回リラクセーション法を体験した先行研究14の 患者の反応と同程度の反応を示しており,初めての体験で あってもリラックス反応が生じていることを確認できた. 今回は,初回体験に限定したデータであったことから,初 回に行う呼吸法に限定した効果を検証したことになる.呼 吸法は,簡単であり,短時間での実施が可能なものである. 初めてリラクセーション法に取り組む者に対しては,適し た方法であったことから,初回体験においてもリラックス 反応が認められたものと考える. 外来患者の反応を評価した先行研究17と比較して,唾液 アミラーゼ活性値の反応の違いが認められた.今回は,受 診する患者に飲食に対するオリエンテーションができてい なかったため,測定に適した安定した口腔内の状況ではな かったことが予測されていた.しかし,体験後に有意な唾 液アミラーゼ活性値の低下を認めており,この結果から交 感神経活動が抑制された状態になっていたと考えられる. リラクセーション法の各技法(筋弛緩法,自律訓練法,誘 導イメージ法,瞑想法)のいずれかの体験による複数回の 体験データを分析した先行研究17では,有意差はないが唾 液アミラーゼ活性値が上昇していた.このように異なる反 応を認めた要因として,リラクセーション法の技法の違い が考えられる.呼吸法以外のものは,修得に時間を要する ため,1回の体験だけはリラックス感を得られず,先行研 究は修得段階のデータも含まれていることから本研究の結 果と違いが生じたと考える.従って,初回に呼吸法を指導 しているという選択はリラックス反応を得やすいという点 から,効果的であったと考える. 3.年齢による反応の相違と継続的な受診への影響 年齢別の反応として,血圧値に有意差が認められたが, これは,加齢に伴う末梢血管抵抗の増加によるためと考え られる.また,10-20歳代は50-70歳代に比べてストレス 度が高かった.10-20歳代の対象者は,全例が精神的な問 題をもつため,その影響であるといえる.また,見方を変 えると,同じストレッサーであったとしても50歳代以降 と比べれば,社会での経験が未熟であり,物事に対する受 け止め方の違いが影響した結果,得点が高くなってしまっ ている可能性も考えられる.不安を感じやすい人は症状に 気づきやすく,その症状を有害であるととらえやすい傾向 にある18とされる.物事の受け止め方によって,個々のス トレス度は異なってくると考えられる. また,受診回数と年齢の相関から,年齢が高い人ほど受 診回数が多く,若年者ほど受診回数が少ない傾向がみられ た.結果にあるように,継続群の平均年齢は,51.3±13.1 歳に比較し,非継続群の平均年齢は45.3±14.4歳と,非継 続群が有意に低かった.これは,10歳代の多くが初回の みで終了している影響もあると考えられる.学生の場合に
受診は限界があると考える.一般的に10-20歳代は身体的 な健康度が高いことから,精神的な健康度も高いと考えら れる.日常生活での悩みやストレスの有無は,12-19歳は, 男 女 と も に あ り と 答 え た 人 が 最 も 少 な か っ た( 男 性 31.1%,女性39.9%)ことが報告されている.16 そのため, 一般的にこの年代であれば,リラクセーション外来を継続 的に受診する必要性はないと判断される可能性がある.し かし,今回の対象者は,疾患から考えると継続して取り組 む必要性がある状況であると考える.若年者が,継続的に 受診したくてもできない状況があるならば,その点を考慮 し,受診せずに自宅での練習を主とし,生活の中に取り入 れていく具体的な方法を一緒に考えて提示していく必要が ある.対象者のニーズに応じて,長期的に継続して実施し ていくための支援が必要と考える. 4.リラックス反応の相違による継続的な受診への影響と 対策 非継続群と継続群における両群間の反応の違いを比較し た.脈拍数において,両群間の体験前および体験後に有意 差を認めたが,低下量は同程度と考えられる.リラクセー ション法実施前の患者の脈拍数は,79.9±10.5回/分18や 68.1±7.7回/分19という報告があり,報告により大きく 異なっている.測定条件が異なっていると考えられるが, 本研究における両群の差異は大きなものではなかったと考 える. リラックス度においては,非継続群は継続群と比較する と体験後の得点が有意に低かった.非継続群の患者におい てもリラックス感は得られていたものの,継続群の患者の 方が主観的なリラックス感がより高まっていたといえる. 近藤19 は,リラクセーション法を継続的に指導した患者 の語りを分析し,効果がすぐ得られないと練習を中断して しまう可能性があることを指摘している.非継続群の患者 の一部は,十分なリラックス感を得られなかったために, 次回の受診につながらなかった可能性が考えられる. 体験後の感想からもそのことが裏付けられた.両群とも に肯定的な感想をもった者が最も多かったが,非継続群に 否定的な感想のみの者が多かった.初めての体験であるが 故に,緊張感や難しさを感じたものと考える.このような 否定的な感想は,継続群にもみられたが,継続群は,否定 的な感想に加えて肯定的な感想が混在している者が多かっ た.例えば,「呼吸法がぎこちない」という上手くできなかっ た気持ちがある一方で,「心地よかったので慣れていくと思 う」という心地よい体験と継続への意思が読み取れた記述 も認めた.否定的な感想があったとしても,そこにわずか ながらも,落ち着いた,楽になったなど肯定的な経験が伴 えば継続する気持ちにつながっていくと考える.荒川20は, リラクセーション法を指導する際には,肯定的なフィード バックが重要であると述べている.対象者によっては,否 換のための助言も必要である.たとえ,否定的な意見のま まであったとしても,継続のための意欲を引き出すような かかわりも重要であると考える. これまでの分析から,心と身体の辛さを感じ,受診して きた患者に対して,まずは,初回によりよい体験ができる ような指導をしていく必要があると考える.「場所がリ ラックスできる環境ではなかった」という意見もあったこ とから,よりリラックスしやすい環境を整えていくことも 必要である.また,受診が困難となる理由について確認し, 年齢や疾患,体験による反応に応じて,エビデンスの提示, 生活に取り入れる工夫の検討などにより,継続につなげて いくことが重要である.個々の状況やニーズに合わせた対 応による支援が,指導者である看護師の役割であると考え る. 研究の限界と今後の課題 リラクセーション法の初回体験による主観的反応におい て,非継続群と継続群の比較から,明らかな違いが認めら れた.このことから,初回の体験は,その後の継続的な受 診に影響を与えたと考えられる.しかし,継続的な受診を 阻害する要因は様々である.今回は,診療記録を用いた後 方視的解析であり,得られた情報量に限界があった.その ため,非継続群が継続しなかった理由の詳細を見極めるこ とができていない.その理由を明確にするには,前向きな 質的研究が必要である. 今回の分析からは,明らかにできないが,継続的な受診 の説明はしているものの,その必要性については十分理解 されるように伝え切れていない可能性も考えられる.今回 導き出された,いくつかの対応策を実践し,その効果につ いて検証していきたい.また,本研究は,初回の反応に焦 点をあてた分析であり,今後は継続できた事例を分析し, 長期的な継続を促す支援についても検討したいと考える. 結論 外来患者におけるリラクセーション法の初回体験時の反 応を分析し,以下の結論を得た. 1.外来を受診した患者のうち,10-20歳代は精神的な問 題を抱えておりストレス度が高く,40歳代以降はが ん患者が多かった. 2.リラクセーション法の初回の体験前後の比較において, 生理的にも主観的にもリラックス反応が認められた. 3.継続群に比べ,非継続群は初回の体験後のリラックス 度が低かった. 4.体験後の感想において,両群ともに肯定的な感想をもっ た者が最も多かったが,継続群に比べて非継続群に否 定的な感想のみの者が多かった.
リラクセーション法の初回体験時の反応 5.年齢や疾患,体験による反応に応じて,初回の体験が よりよい体験となるような工夫により,継続的な受診 につながる支援の重要性が示唆された. 謝辞 本研究の実施にあたりご協力いただきました患者の皆様 に心より感謝申し上げます. 文献 1.渡辺俊男.ビジネスマンのためのリラクセーション.東京: 日本生産性本部,1988: 111
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Natsuko Yanagi
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Abstract
Objective: