介助式車いす操作時における
身体的及び精神的負担評価
佐藤 望…
*Evaluation on physical and psychological load while handling
attendant-propelled wheelchair
Nozomi SATO
Abstract
The purpose of this study was to evaluate the physical and psychological load while handling attendant-propelled wheelchair. Participants performed wheelchair transport tasks under five different floor conditions. Surface electromyogram (EMG) and electrocardiogram (ECG) were measured as physiological indices. Psychological load was measured using the magnitude method after each task. The EMG values of the ramp ascent, ramp descent, step ascent, and step descent conditions were significantly higher than that of walking on the flat floor condition. The EMG values of the lower extremities and forearm were relatively higher than those of the upper arm and back. The heart rate calculated from the ECG data during the ramp ascent, ramp descent, and step ascent conditions was significantly higher than that during walking on the flat floor condition. Psychological load on the forearm, upper arm, and back was significantly higher for the ramp descent condition than for other conditions. These results suggest that physical load on the lower extremities and forearm was high while handling attendant-propelled wheelchair. There were discrepancies in the evaluation between physiological and psychological load in the upper arm and back. Considerations of physical and psychological load while handling attendant-propelled wheelchair were discussed.
Keywords:① attendant-propelled wheelchair ② physical load ③ psychological load
問 題 研究背景 我が国では急速に高齢化が進展している. 2017 年 10 月 1 日 現 在 に お け る 65 歳 以 上 の 人口は 3,515 万人,総人口に占める割合であ る高齢化率は 27.7% となっており (内閣府 , 2018),2007 年の同時期における 21.5% (内閣 府 , 2008) から過去 10 年間で 6.2 ポイント増加 した.推計によれば,今後,更なる高齢化率 の上昇が見込まれている (内閣府 , 2018).こ の動向に伴い,介護認定制度において要支援 または要介護の認定を受ける 65 歳以上の人数 も増加傾向を示している.その値は 2011 年度 末が 515 万人 (厚生労働省 , 2013),2016 年度 末が 619 万人 (厚生労働省 , 2018a) であり,5 年間で 104 万人増加している. これら要支援または要介護を必要とする高 齢者では身体機能の低下による車いす利用者 受付:令和元年 6 月 4 日 受理:令和元年 8 月 1 日 *近畿大学総合社会学部 准教授(人間工学・産業心理学)
1)本研究の一部は 5th International Conference on the Applied Human Factors and Ergonomics で発表した. 2)本研究は近畿大学大学院総合理工研究科平成 23 年度外部資金導入支援研究費の助成を受けた.
が増加している.介護保険制度における車い すの貸与件数は 2001 年以降,2007 年を除き 年々増加している (厚生労働省,2017).また, 福祉用具の貸与種目別単位数の割合は,「特殊 寝台」が 28.8%,「車いす」が 16.6%となって おり,それらの付属品を含めると貸与種目全 体の 60% を占めている (厚生労働省,2018b). 介護保険制度を利用せずに車いすを購入して いるケースも想定されることから,車いす利 用者数は更に多いものと考えられる. 車いすは大別すると手動式と電動式に分類 され,手動式は更に自走式と介助式に分類さ れる (野村・橋本,2003).個人差はあるもの の加齢に伴い,筋量の減少 (谷本他 , 2010), 関節可動域の狭小化 (Medeiros, de Araújo, & de Araújo, 2013) などが生じる.すなわち,高 齢者では車いすの操作に要する身体機能が低 下しているため,通常,介護保険制度で貸与 される車いすは自走式ではなく介助式の車い すである. 上述したように,急速な高齢化に伴う車い す利用者が増加している現状を鑑みると,今 後,医療・福祉従事者のみならず被介助者・ 被介護者の家族などが介助式車いすを操作す る割合も増加することが推測される.したがっ て,介助式車いすの操作時における身体的及 び精神的負担を明らかにすることは,介助者 の心身の健康や車いす操作における安全性, ひいては車いすに乗車する者の安全性に関わ る重要な課題と考えられる. これまで手動式車いすの操作に関わる心身の 負担に関する研究は,自走式車いすを中心に検討 が行われてきた.例えば,駆動方法 (Kwarciak, Turner, Guo, & Richter, 2012; Weston, Khan, & Marras, 2017),ギア機構の有無 (Howarth, Pro-novost, Polgar, Dickerson, & Callaghan, 2010) や座面高 (Louis & Gorce, 2010) といった仕様, 路面の勾配 (橋詰・北川 , 2010; Morrow, Hurd, Kaufman, & An, 2010; 鍋島・山田 , 2003),脊 髄損傷者における操作特性 (van Drongelen et al., 2005) などの要因と負担との関係について 数多くの研究が実施され,仕様の改良や路面 の整備などに対する推奨案が提示されてきた. 一方,介助式車いすの操作者すなわち介助 者の身体的負担や安全性の問題については, 自走式車いすに関する研究に比べ研究数が少 ないものの,知見が蓄積されつつある.それ らには路面の勾配や段差に着目したものが多 く認められる.吉原 (1997) はスロープの勾 配を 4 度から昇ることが不可能になるまで 2 度ずつ増加させ,車いす操作に伴う負担を運 動解析と負担感により評価している.結果か ら,勾配 8 度までが大きな負担なくスロープ を昇ることが可能であると報告している.能 登・村木 (2010) は若年者と高齢者を対象とし て,介助式車いすを用いスロープを昇降させ る実験を実施している.操作条件として,昇り, 降り前向き,降り後ろ向きの 3 条件を設定し, スロープの勾配を 7 段階で変化させ,介助者 の負担感,他 2 項目について測定を行ってい る.その結果,若年者,高齢者共にスロープ の勾配が大きくなるにつれ,いずれの操作条 件においても身体的負担感が増加したことを 報告している.宮脇・佐々木・巖見・大日方・ 島田 (2009) は生体力学的手法により,スロー プを昇る際に腰部の負担が高まることを明ら かにしている.中村・黒岡・田内 (2013) は介 助者が段差乗り越時に前輪を上げる動作にお いて脚,腕,腰への負担が生じることに着目し, これらの部位の負担感を指標として,前輪を 上げるために踏むティッピングレバーの最適 な位置を明らかにしている. 本研究の目的 以上に示したように,近年,介助式車いす 操作時における心身の負担に関する研究は報 告件数が増えている.また,生体力学的手法 による検証例も認められる.しかし,それら の中には評価指標として実験参加者の主観評 価のみに基づく報告も多い.したがって,主 観評価と生理指標による評価を併用し負担を 多角的に捉えることにより,介助式車いす操 作時の負担軽減化に向けた方策を見出す選択 肢が増えるものと考えられる.
そこで本研究では,異なる路面条件下で介 助式車いすを操作した時における介助者の身 体的負担を生理指標および主観指標により定 量的に評価し,基礎的な知見を得ることを目 的とした. 倫理的配慮 本研究は近畿大学大学院総合理工学研究科 生命倫理委員会の承認を得て実施した (承認番 号 11-010). 方 法 実験参加者 実験参加者は介助式車いすを操作する上で 筋骨格系や循環器系に支障がない健康状態を 有している大学生 10 名 (男性 2 名,女性 8 名) であった.実験参加者の平均年齢は 20.5 歳 (SD = 0.53),平均身長は1,589 mm (SD = 49) であっ た.実験参加希望…者には実験参加前に書面及 び口頭により実験内容と研究倫理上の配慮事 項を説明し,書面による同意を得た上で実験 に参加させた. 使用機器 使用した介助式車いす (日進医療器 (株) 製,TK-20C) の 仕 様 は, 全 高 870mm, 全 幅 600mm, 全 長 1,000mm, 前 座 高 440mm, 後 座 高 400mm, 座 幅 400mm, 座 奥 行 410mm, 前輪外径 6 inch (152mm),後輪外径 16 inch (406mm),重量は 11.2kg であった. 使用したスロープ ((株) ダンロプホームプ ロダクツ製,R-205E) は,全長 2,050mm × 全 幅 785mm であった. 実験条件 実験参加者には体重 50 kg の実験協力者が搭 乗した車いすを操作しながら 1,300mm の距離を 歩行させた.路面条件として,① 平面,② スロー プ上昇,③ スロープ下降 (前向き),④ 段差上 昇後にスロープ上昇,⑤ スロープ下降 (前向 き) 後に段差下降,以上 5 条件を設定した. スロープ上昇条件,スロープ下降条件では スロープの勾配が 1:12 (8.3%) になるようス ロープの短辺下部に木製の台を設置した.段 差上昇後にスロープを上昇させる条件及びス ロープ下降後に段差を下降させる条件では上 記の短辺と反対側の短辺の下部に 25mm の 木材を設置し,床面からスロープへの段差が 30mm になるようにした.その際,スロープ の勾配が変化しないよう木製の台の高さも調 節した. 測定指標 生理指標として尺側手根屈筋,上腕三頭筋, 広背筋,大腿直筋,腓腹筋の表面筋電図及び 心電図を計測した.筋電図は Perotto (1994) に示された各筋の位置に基づき,ディスポー ザブル電極を筋繊維に沿って電極間距離 20mm で装着した.電極装着後,各計測部位におけ る最大自発筋収縮 (maximal voluntary contrac-tion: MVC) 時の筋電図を計測し,MVC に対す る各条件下での筋電図の割合である %MVC を 算出し筋負担の評価に用いた.計測した筋電 図データは全波整流し,歩行開始から歩行停 止に要した時間の区間で積分計算を行った. 心電図は胸部 CM5誘導によりディスポーザブ ル電極を用いて導出し,得られた心電図 RR 間 隔データより心拍数を求めた.筋電図と心電 図の計測には携帯型多用途生体アンプ ((株) デジテックス研究所製,Polymate Ⅱ AP216) を用いた.サンプリング周波数は 1KHz とし た.筋電図及び心電図データの解析には多用 途生体情報解析用ソフトウェア (キッセイコ ムテック(株) 製,BIMUTAS Ⅱ) を用いた. 主観指標としてマグニチュード推定法を用 い,下腕部,上腕部,背部,大腿部,下肢部 における負担感を測定した.実験参加者には 平面での車いす操作時の身体的負担感を 100 とした場合,他の 4 条件における身体的負担 感がどの程度であるかについて整数で回答さ せた.得られた回答は対数変換して解析に用 いた.
実験手続き 実験は 3,440mm × 3,540mm のシールドルー ム内で実施した.実験参加者が実験室に入室 後,まず,実験内容を説明し同意書への署名 を得た.次に筋電図および心電図の電極を装 着し,MVC を 2 回計測した. MVC計測後,各条件につき 2 試行,計 10 試 行を行った.平面歩行条件では,勾配をつけ ずに床面に設置したスロープ上を歩行させた. スロープ上昇条件,スロープ下降条件,スロー プ下降後に段差を下降する条件では実験者が スロープ上に車いすを設置し,その地点から 歩行を開始させた.段差上昇後にスロープを 上昇する条件では,実験者が車いすの前輪に 段差が接触する位置に車いすを設置し,その 地点から歩行を開始させた.その際,ティッ ピングレバーを使用するよう指示した. 試行終了毎に負担感を問う質問票調査を実 施した.試行順序は参加者間でランダム化し た.試行間の休憩は 5 分とした. 統計解析方法 測定データには参加者内 1 要因分散分析を 適用した.但し,身体的負担感のデータは平 面条件に対する負担感を基準値 (100) とした ため,平面条件を除く 4 条件を解析対象とした. 有意な主効果が得られた場合は Bonferroni 法 による多重比較 (有意水準 .05) を行った. 結 果 Figure 1 は尺側手根屈筋における %MVC の 結果を示している.分散分析の結果,路面の 有意な主効果が認められた (F(4, 36) = 185.84, p<.01).多重比較の結果,平面条件と比べ, 他の全ての条件の方が有意に高値を示した (い ずれも p<.01).段差上昇後にスロープを上昇 する条件はスロープ上昇条件よりも有意に高 値を示した (p<.05).スロープ下降後に段差を 下降する条件は,スロープ上昇条件,スロー プ下降条件,段差上昇後にスロープを上昇す る条件よりも有意に高値を示した(いずれも p<.01). Figure 2 は上 腕 三 頭 筋 に お け る %MVC の 結果を示している.分散分析の結果,路面の 有意な主効果が認められた (F(4, 36) = 45.75, p<.01).平面条件と比べ,他の全ての条件の 方が有意に高値を示した (いずれも p<.01). スロープ上昇条件はスロープ下降条件よりも 有意に高値を示した (p<.01).段差上昇後に スロープを上昇する条件はスロープ下降条件, スロープ下降後に段差を下降する条件よりも 有意に高値を示した (いずれも p<.01).スロー プ下降後に段差を下降する条件はスロープ下 降条件よりも有意に高値を示した (p<.01). Figure 3 は 広 背 筋 に お け る %MVC の 結 果 を示している.分散分析の結果,路面の有 意な主効果が認められた (F(4, 36) = 150.00, p<.01).平面条件と比べ,他の全ての条件の 方が有意に高値を示した (いずれも p<.01). 段差上昇後にスロープを上昇する条件は,ス ロープ上昇条件,スロープ下降条件,スロー プ下降後に段差を下降する条件よりも有意に 高値を示した (順に p<.05, p<.01, p<.05). Figure 4 は 大 腿 直 筋 に お け る %MVC の 結 果を示している.分散分析の結果,路面の有 意 な 主 効 果 が 認 め ら れ た (F(4, 36) = 51.32, p<.01).平面条件と比べ,他の全ての条件の 方が有意に高値を示した (いずれも p<.01). Figure 5 は腓腹筋における %MVC の結果を 示している分散分析の結果,路面の有意な主 効果が認められた (F(4, 36) = 165.29, p<.01). 平面条件と比べ,他の全ての条件の方が有意 Figure 1 各路面条件における尺側手根屈筋の % MVC エラーバーは標準誤差を示す。
に高値を示した (いずれも p<.01).スロープ 上昇条件と比べるとスロープ下降条件,スロー プ下降後に段差を下降する条件の方が有意に 高値を示した (順に p<.01, p<.05). Figure 6 は心拍数の結果を示している.分 散分析の結果,路面の有意な主効果が認めら れた (F(4, 36) = 5.32, p<.05).多重比較の結 果,平面条件と比べ,スロープ上昇条件,ス ロープ下降条件,段差上昇後スロープを上昇 する条件の方が有意に高値を示した (いずれも p<.05). Table 1 は身体的負担感の結果を示してい る.分散分析の結果,下腕部において路面の 有意な主効果が認められた (F(3, 27) = 4.19, p<.05).多重比較の結果,段差上昇後スロー プを上昇する条件と比べ,スロープを下降す る条件の方が有意に高値を示した (p<.05). 上腕部でも路面の有意な主効果が認められた (F(3, 27) = 3.76, p<.05).多重比較の結果,段 差上昇後スロープを上昇する条件と比べ,ス ロープを下降する条件の方が有意に高値を示 した (p<.05).また,背部でも路面の有意な主 効果が認められた (F(3, 27) = 4.87, p<.01).多 重比較の結果,段差上昇後スロープを上昇す る条件と比べ,スロープを下降する条件の方 Figure 6 各路面条件における心拍数 エラーバーは標準誤差を示す。 Figure 2 各路面条件における上腕三頭筋の% MVC エラーバーは標準誤差を示す。 Figure 3 各路面条件における広背筋の% MVC エラーバーは標準誤差を示す。 Figure 4 各路面条件における大腿直筋の% MVC エラーバーは標準誤差を示す。 Figure 5 各路面条件における腓腹筋の% MVC エラーバーは標準誤差を示す。
が有意に高値を示した (p<.05).大腿部では有 意な主効果は認められなかった.下肢部では 主効果に有意傾向が認められたが (F(3, 27) = 2.70, p<.10),多重比較では条件間に有意差は 認められなかった. 考 察 本研究の目的は,異なる路面条件下で介助 式車いすを操作した時における介助者の身体 的負担を生理指標および主観指標により定量 的に評価することであった. 筋電図による評価の結果,スロープ昇降動 作,また,それらの動作に段差乗り越え動作 が加わると,尺側手根屈筋,上腕三頭筋,広 背筋,大腿直筋,腓腹筋のいずれにおいても 最大発揮筋力の 40% 以上の筋力が発揮されて いることが明らかになった.その中でも腓腹 筋においては 60% 前後の高値を示している. また尺側手根屈筋においても 50 ~ 60% の値 を示している.以上の結果から,介助式車い すを操作して坂路や段差を昇降する場合には 定常的に下腕部や下肢における負担が高いこ とが示唆される. 腓腹筋の筋活動により評価された下肢の筋 負担が高くなった理由として,スロープ上昇 時には車いすを前方向へ移動させるための推 進力と車いすがスロープ上を後退しないよう 支持する力を得るために筋活動が増大化した ことが考えられる.同様に,段差上昇時にも 車いすを前方へ移動させる推進力と,後輪を 段差上に移動させるために車いすを持ち上げ る際に生じる負荷 (車いすの重量と乗車者の体 重) を支持するための筋力が発揮されたと考え られる.また,スロープの下降時にはスロー プの勾配と車いすの重量によって前のめりに なる姿勢を制御するための筋力が発揮された 可能性が考えられる. 尺側手根屈筋の筋活動により評価された下 腕部の筋負担が高くなった理由として,スロー プ上昇時には車いす操作時にハンドルを把持 すると同時に車いすがスロープ上を後退しな いよう支持する力を得るために筋活動が増大 化したことが考えられる.一方,スロープ下 降時には車いす操作時にハンドル,ブレーキ を把持すると同時に車いすがスロープ上を滑 り落ちないよう支持する力を得るために筋活 動が増大化したことが考えられる.また,段 差昇降時にはハンドルを持ち上げるために手 関節の回外運動が生じ,かつ,ハンドルを強 く把持するために筋活動が増大化したことが 考えられる. 上腕三頭筋の筋活動により評価された上腕 の筋負担はスロープ下降時と比べ,スロープ 上昇時に高くなる傾向が認められた.この理 由は尺側手根屈筋と同様に,スロープ上昇時 には車いすを前方向へ移動させるための推進 力と車いすがスロープ上を後退しないよう支 持する力を得るために筋活動が増大化したこ とが考えられる.しかし,尺側手根屈筋にお ける筋活動の動態とは異なり,上腕三頭筋で はスロープ上昇時と比較するとスロープ下降 時に,また,段差上昇・スロープ上昇時と比 較するとスロープ下降・段差下降時に筋活動 が低値を示す傾向が認められた.上腕三頭筋 はスロープ下降時におけるハンドルの把持・ ブレーキ操作に直接関与する筋ではないこと Table 1 各条件における身体的負担感
が筋活動の動態の差異をもたらした一因と考 えられる. 広背筋の筋活動により評価された背部の筋 負担は上腕三頭筋における筋活動の動態と類 似していた.広背筋の停止は上腕骨の小結節 稜であることから (左・山口 , 2010), 連動し た動態を呈したものと考えられる.また,段 差昇降時の値が他の路面条件と比べて高く なっている.この理由して,広背筋は肩関節 の挙上に関わる筋であることから (左・山口 , 2010),段差昇降時にハンドルを持ち上げる ための筋力が発揮されたものと考えられる. 大腿直筋の筋活動は平面条件を除く路面条 件間で有意差が認められなかったものの,最 大発揮筋力の 50% 前後の筋力が発揮されてい る.腓腹筋における筋負担と相俟ってスロー プ・段差の昇降を行う際には下肢全体での筋 負担が高まっていると考えられる. 心拍数の結果からも介助式車いすを操作し てスロープや段差を昇降する場合には身体的 負担が高まっていることが示唆された.しか しながら,平面条件を除く路面条件間では心 拍数に有意差が認められなかった.心拍数は 運動強度を客観的に反映する指標 (矢部・今 井・久保・安田・西田 , 2007) である点から判 断すると,平面条件以外の条件間における運 動強度に顕著な差はないと考えられる.しか し,本研究では歩行距離が短かったため,負 荷に対する心拍応答の変化が的確に捉えられ なかった可能性なども考えられる.したがっ て,結果の解釈には慎重を期す必要がある. また,これまでの研究においては介助式車い すを押して坂路や段差を昇る場合の身体的負 担が着目されてきたが,坂路や段差を降りる 場合の身体的負担についても知見を増やすこ とが必要であろう. 身体的負担に対する主観評価の結果からは 下腕部,上腕部,背部において介助式車いす を操作しながらスロープを下降する条件での 負担感が高いことが明らかになった.この結 果は,主観評価と生理指標による評価が必ず しも一致しないことを示している.スロープ を下降する条件では前向きで下降させたため, 乗車者の安全上,車いすがスロープ上を滑り 出さないようにより注意を払ったことが負担 感を増強させた一因となった可能性も考えら れる.しかし,この理由が妥当あればスロー プ下降・段差下降条件でも同等の負担感が生 じるはずである.得られた結果にはこの解釈 が合致しないため,今後,他の理由について の検討が必要である. まとめと今後の課題 本研究の結果から,介助式車いすを操作し ながらの坂路・段差昇降によって下腕部・下 肢を主とした筋負担が生じていることが示唆 された.過度の筋負担が継続的にもたらされ ることによる筋骨格系障害を未然に防ぐため には,車いすの更なる軽量化やパワーアシス ト機能を有した車いすの普及が急務である. これら技術面からのアプローチに加え,車い すを操作する際に不具合な姿勢が誘発されな いよう車いすの正しい操作方法について教育・ 訓練を実施する機会を増やすことも重要であ ろう. 本研究の課題として,以下 3 点を挙げる. 第 1 点として,本研究での計測値は坂路・ 段差昇降動作それ自体に伴い生じる値より高 値を示している可能性が否めない.その理由 は本研究では設備上の制約から車いすを操作 し歩行する距離が 1,300mm と短く,また,車 いすの発進から停止に至るまでの区間を解析 対象としたため,車いすを発進・停止させる ための加減速に要する筋活動や負担感が測定 結果に影響していることが考えられるためで ある.能登・齋籐・村木 (2009) は看護師を対 象者とした実験において,介助式車いすの操 作では発進 (加速時) に上肢の負担感,停止時 (減速時) には上肢,腰部,下肢の負担感が高 まることを示唆している.したがって,今後 は定速走行が可能となる十分な距離を確保し た上で筋負担の再検証が必要であろう. 第 2 点として,本研究では市販の車いすを 実験に用いたことから車いすのハンドル高が
調節できなかった.この理由により実験参加 者の肘高とハンドルの高さの距離について統 制がとれていなかった.ハンドル高さと身長 との差異が車いす操作時の肘関節・肩関節モー メントに影響を及ぼし,その結果,上肢の負 担が異なること (水谷 , 2013) や,肩,腰背部 の筋負担が異なること (Lee, Kim, Lee, & Lee, 2013) が報告されている.したがって,ハンド ル高が可変な車いすを用い負担を検証するこ とが必要であろう. 第 3 点として,本研究では車いす操作によ る筋骨格系障害の誘発リスクを考慮し,実験 参加者を若年者に限定した.しかし,高齢者 の介助式車いす利用者が増加していることか ら,車いすの操作は高齢の配偶者によって行 われるケースが増えているものと考えられる. 高齢者では筋量の減少が生じることから,若 年者よりも筋負担が高くなると考えられる. したがって,今後,安全性に十分配慮した上 で高齢者を対象として介助式車いす操作時の 負担評価を実施することが望…まれる. 引用文献 橋詰努・北川博巳 (2010). 車いす使用者の身体 的負担の定量化と走行環境に関する研究 福 祉のまちづくり研究所報告集, 87-94. Howarth, S. J., Pronovost, L. M., Polgar, J. M.,
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