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学校間交流における障害理解学習の効果 : 交流活動と事前事後学習を通して

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(1)Title. 学校間交流における障害理解学習の効果 : 交流活動と事前事後学習を通 して. Author(s). 田名部, 沙織; 細谷, 一博. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 68(2): 191-202. Issue Date. 2018-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/9643. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第68巻 第2号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 68. No.2. 平 成 30 年 2 月 February, 2018. 学校間交流における障害理解学習の効果 ― 交流活動と事前事後学習を通して ―. 田名部沙織・細谷 一博* 北海道教育大学大学院教育学研究科 *. 北海道教育大学函館校 障害児臨床研究室. The Effect of the Learning of Disability Understanding for Inter-school Collaborative Learning TANABU Saori and HOSOYA Kazuhiro* Graduate School of Education, Hakodate Campus, Hokkaido University of Education *. Department of Special Education, Hakodate Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 本研究の目的は,小学校と特別支援学校間で行われる学校間交流と学校間交流の事前事後学 習を一体として捉え,障害理解学習を実施し,小学生6年生を対象とした障害理解学習の効果 について検討することである。 本研究では,障害理解授業4回(事前学習3回と事後学習1回)及び一緒に絵を制作するこ とを目的とした交流活動2回を実施した。その結果,「障害理解アンケート(小林ら,2016a)」 では,障害理解の発達段階(徳田,2005)の第1段階:気づきの段階,第2段階:知識化の段 階,第4段階:情緒的理解の段階,第5段階:受容的行動の段階に関する項目に関しては,学 習前後で有意差がみられず,第3段階:情緒的理解の段階では,授業後の方が有意に低下した ことが明らかとなった。今後,学校交流における障害理解学習において,児童に障害理解の効 果を与えることができるような実施体制の確立に向けて,各授業内容を細かく評価し検討して いくことが求められている。. Ⅰ はじめに. 告)」において,「障害者理解を推進することによ り,周囲の人々が,障害のある人や子どもと共に. 中央教育審議会初等中等教育分科会(2012)は,. 学び合い生きる中で,公平性を確保しつつ社会の. 「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育シ. 構成員としての基礎を作っていくことが重要であ. ステムの構築のための特別支援教育の推進(報. り,次世代を担う子どもに対し,学校において,. 191.

(3) 田名部沙織・細谷 一博. これを率先して進めていくことは,インクルーシ. 通常学級の担任が,児童の障害理解やかかわりを. ブな社会につながる」と示しており,インクルー. どのように育めばよいのか手探りの段階であるこ. シブな社会を実現するには,学校において障害理. とを明らかにしている。さらに,高野・片岡(2014). 解を育むことが重要であると述べている。徳田. は,交流及び共同学習の実践においては,交流場. (2005)は,障害理解の発達段階( 〈第1段階〉. 面のみならず事前事後学習を計画的に行うこと. 気づきの段階, 〈第2段階〉知識化の段階,〈第3. が,子どもたちの障害や障害のある人に対して主. 段階〉情緒的理解の段階, 〈第4段階〉態度形成. 体的に考えることを促し,障害のある人と適切に. 段階, 〈第5段階〉受容的行動の段階)を示し,. 関わる上で必要であると述べている。したがって,. これを促進していくための教育が障害理解教育で. 今後学校間交流の形態に合わせ,児童の障害理解. あるとしている。したがって,子ども達に障害理. やかかわりを最大限に育むことができる事前事後. 解を図るためには,教育現場において障害理解教. 学習の開発が必要といえる。. 育の実施が必要といえる。. 学校間交流の事前学習について,村田・鈴木・. また,平成32年4月から実施される小学校学習. 藤嶋・細谷(2016)は,学校間交流に向けた物理. 指導要領(文部科学省,2017)は, 「障害のある. 的な準備だけではなく,実際に活動を共にする友. 幼児児童生徒との交流及び共同学習の機会を設. 達の困難なことや得意なことを念頭に置きながら. け,共に尊重し合いながら協働して生活していく. 支援方法や接し方を考えることが重要であること. 態度を育むようにすること(第1章総則) 」と記し. を明らかにし,特別支援学校児童の個に応じた対. ており,今後「交流及び共同学習」がこれまで以. 応方法を事前学習の中でどの様に障害理解に結び. 上に目的を持ち,学校教育の中で取り入れられる. 付けていくのかが今後の課題としている。また,. ことが推測される。さらに,全国特別支援教育推. 鈴木(2015)は,交流学校の児童が特別支援学校. 進連盟(2007)は,交流及び共同学習の機会を円. の児童に必要な配慮について気付けるような事前. 滑に進めるためには,障害についての知識や障害. 学習が必要であると指摘している。さらに,真城. のある子どもたちへの理解を促すための事前学習. (2003)は障害をもつ子どもたちと実際に関わり. が必要であるとしている。小林・梁・今枝・楠・. を持ち,1人の個人としての関係を作り上げてい. 金森(2016b)は,知的障害理解プログラムは交. く過程を通じて,その子どもの障害だけではなく,. 流及び共同学習と事前事後学習を一体として行. 性格や必要な支援などについて理解を深めること. い,内容に連続性を持たせる必要があると述べて. が大切であり,障害理解教育の実践においては,. いる。したがって,今後,交流及び共同学習の推. これをより促進するような働きかけを子どもたち. 進に伴い,事前事後学習と交流及び共同学習を一. に提供しなければならないと述べている。. 体とした障害理解教育の必要性が高まるといえる。. これらのことから,学校間交流の事前事後学習. 交流及び共同学習の形態の1つとして,特別支. としては,交流する特別支援学校の児童1人1人. 援学校と通常学校との学校間交流がある。細谷・. に合わせた関わり方を通常学校の児童が考えるこ. 伍樓・鈴木・藤嶋(2016)は,学校間交流の場合,. とが重要であり,障害理解教育として最大限効果. 学校間の物理的な距離の問題や日常的に同一校内. を挙げることができるような学習内容の検討が必. に在籍しているわけではなく,限られた交流回数. 要といえる。. の中で,共に活動する障害のある児童の理解方法. そこで本研究では,小学校と特別支援学校間で. について検討が必要である。さらに,今後学校間. 行われている学校間交流と学校間交流の事前事後. 交流の実施において最大限の効果を挙げるための. 学習を一体として捉えた障害理解学習を実施し,. 障害理解教育の実施について検討を重ねる必要が. 小学校通常学級児童を対象とした障害理解学習の. あると述べている。また,宮脇・阿部(2009)は,. 効果について検討することを目的とする。. 192.

(4) 学校間交流における障害理解学習の効果. Ⅱ 方 法 1.対象児 A大学附属B小学校6年生2クラスの児童70名 (男子38名,女子32名)を対象とした。B小学校 には特別支援学級は設置されておらず,学校生活 の中で障害児者と直接的な関わりはあまりない が,5年生で事前学習も含めた特別支援学校との 学校間交流を経験している。 2.本研究の流れ 本研究の流れをFig.1に示す。最初に障害理解 学習の実施前に6年生の障害の理解度を把握し, その理解度に合わせた授業を考えるため,高野・ 片岡(2014)の実施した意識調査を参考に, 「実 態把握アンケート」を実施した。内容は障害の意 味や特別支援学校とはどういう学校かなどであ る。そして201×年11月上旬に事前アンケートと して障害理解の5段階(徳田,2005)で設定され た項目(小林・梁・今枝・楠・金森,2016a)を 参考に作成した 「障害理解アンケート」を実施し, 5件法を用いて回答を求めた。 「障害理解アンケー ト」の具体的な内容をTable1に示す。そして,. Fig.1 本研究の流れ. 201×年11月上旬から12月上旬に交流活動に向け て事前学習を各クラス3回実施し,12月中旬に交. ケートと同様の内容の「障害理解アンケート」を. 流活動を各クラス2回ずつ行った。その後「振り. 実施すると共に交流学習を含めた障害理解学習の. 返り用紙」を実施した。振り返り用紙の内容は①. 感想を記入する「感想用紙」を実施し,学習前後. 交流したお友達の良いところ・素敵なところ・す. での障害理解の変化と児童が学習の中で印象に. ごいところなど,気づいた分だけ記入してくださ. 残っていることを把握した。. い,②交流をして,楽しかったことを教えてくだ. なお,本研究では障害理解学習を学校間交流の. さい,③交流をして,難しかったこと・困ったこ. 事前事後学習である障害理解授業と学校間交流. とがあったら教えてくださいの3項目とし,交流. (交流活動)の2つを一体として捉えたものとす. 活動を通して児童が感じたことを把握した。さら. る。. に12月下旬に事後学習を各クラス1回実施し,事. 3.分析方法. 後学習後には,事後アンケートとして,事前アン. 本研究では,障害理解学習の事前事後に実施し. Table1 障害理解アンケート. た障害理解アンケートと振り返り用紙の③を分析 対象とした。「障害理解アンケート」で得られた 結果は,事前事後ともに,回答に不備があったも の,どちらかで欠席した回答を除いて分散分析を 行った。また,振り返り用紙の③及び事後アンケー トで実施した【感想用紙】で得られたデータは. 193.

(5) 田名部沙織・細谷 一博. KJ法を用いて複数名で分析を行った。なお,KJ. イズを行った。授業のまとめは「活動を楽しむた. 法を用いた分析の際には,振り返り用紙の③は,. めの工夫は方法や必要度は違うがみんなにとって. 1文ずつ分析をした。感想用紙は,1人ずつ分析. も便利である」とした。障害理解授業1回目の詳. を行い,1人の文章中に複数のカテゴリーが存在. 細をTable2に示す。また,実際に使用したスラ. している場合は,複数のカテゴリーに該当するこ. イドを資料①に示す。. ととした。. 2)障害理解授業(2回目). 4.授業内容. 2回目のめあてを「交流するお友達に合わせて. 1)障害理解授業(1回目). 活動を楽しむための工夫を考えよう」とした。授. 1回目のめあては, 「交流するお友達について. 業はテレビに映したスライドを用いて実施した。. 知り,活動を楽しむための工夫を考えよう」とし. 展開①では,交流活動の内容(大きな絵に装飾を. た。授業はテレビに映したスライドを用いて実施. する)や絵の題材を決めた。また,交流する友達. した。展開①では実態把握アンケートの結果から. だけではなく,みんなで一緒に作品を完成させる. 特別支援学校がどのような学校か理解していない. ことを意識できるように強調した。展開②では,. 様子がみられたので,交流する特別支援学校と対. 情報共有シート(細谷・白府,2013)を用いて交. 象小学校で行っている国語の授業や時間割を比べ. 流するお友達の苦手なこと・好きなことや好きな. て,両校の同じところ・違うところをグループで. キャラクターをグループごとに確認し,どのよう. 考えることを通して,特別支援学校がどのような. な装飾がどんな方法でできるのか考えた。展開③. 学校なのか確認した。展開②は知的障害の原因や. で装飾の手順が分かりやすいように,一緒に活動. 苦手なことを学習するとともに,知的障害のある. する特別支援学校の児童1人1人に合わせてグ. 子はみんなよりもゆっくりと成長し,できること. ループごとに手順を考え,最後にどんな工夫をし. が増えていることを確認した。展開③では,架空. たのか全体で共有した。授業のまとめは「交流す. の人物が困っている場面を設定し,その人物ので. る友達と活動を楽しむための工夫は1人1人に合. きることから解決するための工夫を考える工夫ク. わせて考えることが大切」である。障害理解授業. Table2 障害理解授業(1回目). 194.

(6) 学校間交流における障害理解学習の効果. 2回目の詳細をTable3に示す。また,実際に使. とめは,「相手の立場にたって考え準備すること. 用したスライドを資料②に示す。. が大切」とした。障害理解授業3回目の詳細を. 3)障害理解授業(3回目). Table4に示す。. 3回目のめあては「交流学習に向けて準備をし. 4)交流学習(2回実施). よう」とした。展開では,全体で交流するお友達. 活動時間は25分で,場所は小学校の体育館・音. に合わせて交流学習当日の活動場所を決め,その. 楽室・家庭科室を使用した。各班のグループは,. 後交流学習に向けて装飾の準備などを行った。ま. 小学校の児童(4~5名)と特別支援学校の児童. た,交流する友達の良いところ・素敵なところを. (2~3名),特別支援学校の教員(1名)で構. 見つけることを交流学習の宿題とした。授業のま. 成されている。交流学習のめあては「一緒に大き. Table3 障害理解授業(2回目). Table4 障害理解授業(3回目). 195.

(7) 田名部沙織・細谷 一博. な絵を完成させよう」とした。各班に分かれて,. に示す。. それぞれの班に割り当てられた大きな絵の一部に みんなで装飾をした。. Ⅲ 結 果. 5)障害理解授業(4回目) 4回目のめあては,「交流を振り返り,みんな. 1.障害理解アンケート. で一緒に活動するために大切なことを考えよう」. 事前事後アンケートで実施した障害理解アン. とした。授業はテレビに映したスライドを用いな. ケートの結果をTable6に示す。質問①,質問②,. がら実施した。展開①ではパワーポイントで振り. 質問④,質問⑤は F=(1.64),n.s.であり,質問. 返り用紙の回答を紹介しながら,困ったことを受. ③ は F=(1.64),p<.01と 主 効 果 が 認 め ら れ た た. け止めたり,原因を説明した。また,高野・片岡. め,多重比較検定を行った結果,事前よりも事後. (2014)を参考に,授業前よりも良いところに目. が有意に低い結果が示された。したがって,障害. を向けることができるようになったことを気付け. 理解の発達段階でみると第1段階:気づきの段. るようにした。展開②では,グループごとに障害. 階,第2段階:知識化の段階,第4段階:態度形. のあるお友達と一緒に活動するために大切なこと. 成段階,第5段階:受容的行動の段階には効果が. を考え,全体で考えたことをカテゴリー分けし,. みられなかった。また,第3段階:情緒的理解の. 大切な観点を明らかにした。その後,自分たちの. 段階に関しては事前よりも事後が低くなり,マイ. 身の周りには他にどの様な障害のある人や困って. ナスな効果を与えた結果となった。. いる人がいるか考え,一緒に活動するために大切. 2.交流活動で難しかったこと・困ったこと(振. な観点はみんなに当てはまることであることを確. り返り用紙③). 認した。 授業のまとめは, 「みんなで一緒に活動(生. 振り返り用紙③「交流をして,難しかったこと・. 活)するには,相手のことを考えることや良いと. 困ったことがあったら教えてください」に関する. ころ・自分と同じところに目を向けていくことが. 結果をTable7に示す。得られた回答をカテゴリー. 大切」である。障害理解授4回目の詳細をTable5. 分けした結果,5つのカテゴリー「行動:43文. に示す。また,実際に使用したスライドを資料②. (50.0%)」 「コミュニケーション:14文(16.3%)」. Table5 障害理解授業(4回目). 196.

(8) 学校間交流における障害理解学習の効果. Table6 障害理解アンケート. 相手の良いところが分かってとても楽しかった」 等,「理解・学び向上」は「交流をして身の周り にはいろんな人がいて,相手のことを考えて行う ことが大切だと思った」「障害のある人と直接か かわることを通して困ったことやできることが分 かり勉強になった」等, 「イメージの変化」は「交 流をすることで前は『いろいろ困ることがある人』 と思っていたけど,交流後は『いいところもある 人』ととらえることができた」等,「意欲向上」 は「また機会があれば交流をしたい」等, 「その他」 は「2回目の方がスムーズに交流ができた」「特. Table7 難しかったこと・困ったこと (振り返り用紙). 別支援の子もふつうの人と変わらず一緒に色々な ことができた」等であった。 また,「授業」に関する結果をTable9に示す。 得られた回答をカテゴリーわけした結果,5つの カテゴリ―に分けられ, 「楽しい:9文(30.0%)」, 「理解向上:9文(30.0%) 」 , 「自ら考えることの 楽しさ:7文 (23.3%) 」 「 ,意欲向上:3文 (10.0%) 」 ,. 「 関 わ り 方:11文(12.8 %)」「 時 間 不 足: 6 文. 「時間不足:2文(6.7%)」の5つに分類できた。. (7.0%) 」 , 「その他:12文(14.0%)」となった。. 各カテゴリーの具体的な内容としては, 「楽しい」. 各カテゴリ―の具体的な内容としては, 「行動」. 「交流活動に向けて準備することが楽しかった」. は「急にさけんで泣いていること」 「いきなり走. 等, 「理解向上」は「障害があっても,良いところ,. りだす」等, 「コミュニケーション」は,「話が通. 自分たちと同じことがあると分かった」「授業を. じない」 「何を言っているのかわからない」等, 「関. 通して,特別支援学校通っている人の事を知るこ. わり方」は「どうやって接したらいいのかわから ない」 「どうやったら自分たちの方をむいてくれ. Table8 交流活動について(感想用紙). るのかわからない」等,「時間不足」は「交流活 動の時間がたりなかった」等であった。 3.障害理解学習の感想(感想用紙) 事後アンケートで実施した感想を分類した結 果, 「 交 流 活 動:64文(64.6 %)」,「 授 業:30文 (30.3%) 」 , 「その他:5文(5.1%) 」に分けるこ とができた。 「交流活動」に関する結果をTable8 に示す。 得られた回答をカテゴリーわけした結果, 「楽しい:30文(46.9%)」,「理解・学び向上:. Table9 授業について(感想用紙). 13文 (20.3%) 」 「 ,イメージの変化:10文(15.6%)」, 「意欲向上:6文(9.4%)」, 「その他:5文(7.8%)」 の5つに分類できた。各カテゴリーの具体的な内 容としては, 「楽しい」は「一緒に活動ができて 楽しかった」 「最初は不安だったが,交流すると. 197.

(9) 田名部沙織・細谷 一博. とができた」等, 「自ら考えることの楽しさ」は「楽. ケーション」「関わり方」などに関して困り感を. しく活動できるように工夫を考えることが勉強と. 抱いたことが明らかとなった。具体的な内容をみ. なり楽しかった」等, 「意欲向上」は「他にも色々. ると,「急に泣いてさけんでいること」「話が通じ. な活動をしてみたい」等,「時間不足」は「準備. ない」など,交流活動の中で児童自身では特別支. の時間を増やしたい」等であった。. 援学校の児童の困っている場面を解決できなかっ たり,接し方が分からないという経験をしている. Ⅳ 考 察. ことが推測される。児童が交流したのは知的障害 のある児童であり,知的障害のある子の特徴とし. 本研究は小学校通常学級児童を対象に,学校間. て,相手の言っていることが理解できなかったり,. 交流と学校間交流の事前事後学習を一体とした障. 自分がおかれている状況が認識できなかったり,. 害理解学習の効果について検討することを目的と. それをどう表現してよいのかがわからなかったり. した。. するために,泣いたり抵抗したりすることがある. 1.障害理解学習の効果. (水野,2016)と挙げられていることから,児童. 本研究では,3回の事前学習と1回の事後学習. は知的障害に伴う特徴に関して困難を感じたとい. の計4回の障害理解授業を通して,児童が特別支. える。本実践では,事後学習で,児童が感じた困. 援学校の児童に合わせて活動内容や工夫を考える. 難さを受け止め,困難さが生じた原因を科学的に. など児童主体の授業を展開した。交流活動では,. 説明する時間を設けたが,児童の交流活動の経験. 児童が考えたことを実践し,交流する友達と一緒. から生じたマイナスな印象を少なくすることがで. に絵の制作活動を行った。. きず,児童が障害のある人に対して助けたいとい. その結果,Table6の障害理解の発達段階に示. う気持ちが低下したことが考えられる。. される,第1段階:気づきの段階,第2段階:知. 一方で,障害理解学習の感想において「交流活. 識化の段階, 第4段階:態度形成段階,第5段階:. 動」に関する感想(Table8)と「授業」に関す. 受容的行動の段階に関する質問では,障害理解学. る感想(Table9)をみると,障害に関する理解. 習の前後で有意差が認められなかったため,効果. が向上したことや障害のある人に対するイメージ. はえられなかったといえる。また,第3段階:情. が肯定的に変化したこと,障害や交流に関する学. 緒的理解の段階に関する質問④「障害のある人で. 習意欲が向上したことが明らかとなった。具体的. 困っている人がいたら,助けてあげますか。」では,. な内容をみると,「交流前は『いろいろ困ること. 事前よりも事後の方が低いという結果となり,児. がある人』と思っていたが,交流後は『いいとこ. 童は障害理解学習を通して,障害のある人が困っ. ろもある人』ととらえることができた」や「障害. ていても助けられないと考えたといえる。. があっても,良いところ,自分たちと同じところ. また, 障害理解学習の感想において「交流活動」. があることがわかった」などの内容がみられたこ. に関する感想(Table8)と「授業」に関する感. とから,児童は,障害のある子の困ったところだ. 想(Table9)では,それぞれの合計文章数を比. けではなく,いいところや同じところに目を向け. 較すると,交流活動に関する内容が授業に関する. ることの大切さを学んだといえる。障害理解授業. 内容より約2倍も多いことから児童は障害理解学. の中でも,相手のことを考えることや相手の得意. 習全体を通して,障害理解授業よりも交流活動の. なこと・いいところに目を向けることの大切さを. 方が印象に残っているといえる。さらに,交流活. 強調するような授業展開をし,交流活動では交流. 動で困ったことについて回答を求めた振り返り用. する友達の良いところを探しながら活動するよう. 紙の結果(Table7)をみると,児童は特別支援. にした。これらの取り組みが児童の学びにつな. 学校の児童との交流を通して,「行動」「コミュニ. がった可能性が考えられる。. 198.

(10) 学校間交流における障害理解学習の効果. 2.今後の展望及び課題. が「支援者」と意識するような授業展開であった. 感想用紙(Table8,Table9)をみると「楽しい」. 可能性も考えられる。したがって,小学生だけで. や「自ら考えることの楽しさ」に関する内容がみ. はなく特別支援学校の児童にも活動目的を意識付. られることから,児童は本授業に対して楽しく取. けが必要であり,事前学習と交流活動を通して自. り組むことができたが,学習内容が障害理解に反. らを「支援者」と意識しないような授業や活動を. 映することはできなかったと考える。. 展開する必要があるといえる。. 本実践では,事前学習において児童が交流する. これらのことから,学校間交流と学校間交流の. 特別支援学校の児童に合わせて活動内容や接し方. 事前事後学習を一体とした障害理解学習では,交. を考える授業を展開したが,障害そのものの理解. 流活動は小学生と特別支援学校の児童が活動目的. までにはつなげることができなかった。したがっ. を共有し,お互いが対等に活動できる内容が必要. て村田ら(2016)と同様に,本研究においても学. である。また,事前学習では活動目的の達成に向. 校間交流の事前・事後学習における個に対する関. けて,準備をすることを中心としながら,障害に. わり方の学びを障害理解にどのようにつなげてい. 関する知識の学習や交流する児童に合わせて関わ. くのかが課題として示された。. り方を考える学習を取り入れ,事後学習では,交. また, 事後学習に関して高野・片岡(2014)は,. 流活動の振り返りの中で次回に向けて改善策を考. 児童の障害への意識をプラスイメージにする点で. えたり,交流活動で生じた困り感や疑問を丁寧に. 効果的であると述べている。しかし本実践では,. 解決するような内容を実施することが重要といえ. 交流活動で得た障害のある人と交流することへの. る。さらに,一連の学習に系統性を持たせながら. マイナスなイメージを払拭することができなかっ. 実施していく必要があるといえる。. た。重田・吉田(2000)は,交流の中で生まれて. 学校間交流における障害理解教育は,限られた. きた障害に対する疑問や誤解に対応して,教師が. 交流回数の中で,学校事情によって交流回数や授. 科学的・系統的に教えていくことが重要と指摘し. 業内容など,その実施体制が決まっていない(細. ている。また,細谷・木原(2013)は,交流活動. 谷ら,2016)。今後,児童に障害理解の効果を与. での失敗を次回どのように改善すれば成功するか. えることができるような実施体制の確立に向け. 考えることで,問題解決や探求活動に主体的,創. て,各授業において児童がどの程度学びを得るこ. 造的,共同的に取り組む態度を育てることにつな. とができているのかなどを把握し,授業内容を細. がると述べている。したがって,事後学習では,. かく評価し検討していく必要があるといえる。. 交流を通して感じた困り感や不安を科学的に教え ながら丁寧に払拭していくことや,どのように改 善すればよかったのか次回の交流活動につなげる ような取組みが必要といえる。 さらに,真城(2003)は,交流活動について, 「活動目的の共有」を行うことが大切と述べると ともに, 「支援者」と「非支援者」のような特定 の関わり方に固定化しないようにすることが重要 と指摘している。本実践では,「一緒に絵を完成 しよう」という活動目的を小学生には伝えたが, 特別支援学校の児童への共有までには至っていな. Ⅴ 参考文献 1)中央教育審議会初等中等教育分科会(2012)共生社 会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築の ための特別支援教育の推進(報告) . 2)細谷一博・木原美桜(2013)交流及び共同学習にお ける「小学生の学び」に関する質的研究,北海道特別 支援教育研究,7⑴,1-6. 3)細谷一博・白府士孝(2013)特別支援学校の学校間 交流における相互理解の促進に向けた情報共有シート の開発に関する試行的実践,北海道教育大学紀要(教 育科学編) ,63⑵,183-189.. かった。また,事前学習では,一緒に活動するた. 4) 細 谷 一 博・ 伍 樓 あ や の・ 鈴 木 洸 平・ 藤 嶋 さ と 子. めに関わり方や活動の手順を考えるなど,小学生. (2016)学校間交流の実施における児童理解に焦点を. 199.

(11) 田名部沙織・細谷 一博. あてた障害理解授業の開発,北海道教育大学紀要(教 育科学編),67⑴,117-124. 5)小林智志・梁真規・今枝史雄・楠敬太・金森裕治 (2016a)私立小学校における系統的な障害理解教育プ ログラムの作成に関する研究(第Ⅱ報)-プログラム の効果の検証を通して-,大阪教育大学紀要 第Ⅳ部 門,64⑵,29-38. 6)小林智志・梁真規・今枝史雄・楠敬太・金森裕治 (2016b)私立小学校における系統的な障害理解教育プ ログラムの作成に関する研究(第Ⅲ報)-知的障害理 解を目的とした授業実践を通して-.大阪教育大学紀 要 第Ⅳ部門,65⑴,47-59. 7)宮脇恭子・阿部美穂子(2009)交流及び共同学習の 実践における教師の工夫-T市小学校教師のアンケー ト調査から-.富山大学人間発達科学部,3,31-39. 8)水野智美(2016)はじめよう!障害理解教育子供の 発達段階に沿った指導計画と授業例.図書文化社. 9)村田花子・鈴木洸平・藤嶋さと子・細谷一博(2016) 小学校と特別支援学校の学校間交流における障害理解 促進を目指した事前学習授業の実践.北海道特別支援 教育研究,10⑴,1-9. 10)文部科学省(2017)小学校学習指導要領. 11)真城知己(2003)障害理解教育の授業を考える.文 理閣. 12)重田幸治・吉田一成(2000)交流教育による障害児 理解学習の実践事例.山口大学教育学部附属教育実践 総合センター研究紀要,11,81-92. 13)鈴木達也(2015)知的障害特別支援学校における交 流及び共同学習の実践に関する調査研究.教育実践高 度化専攻成果報告書妙録集,5,109-114. 14)高野秀幸・片岡美華(2014)交流及び共同学習の在 り方に関する実践的研究:事前事後学習を大切にした 取り組み.鹿児島大学教育学部教育実践研究紀要,23, 111-120. 15)徳田克己(2005)障害理解心のバリアフリ―の理論 と実践 徳田克己・水野智美(編)1.障害理解と心の バリアフリー.誠信書房.2-10. 16)全国特別支援教育推進連盟(2007)よりよい理解の ために交流及び共同学習事例集.ジアース教育新社.. (田名部沙織 函館校大学院生) (細谷 一博 函館校准教授) . 200.

(12) 学校間交流における障害理解学習の効果. 資料①:障害理解授業(1回目)スライド. 201.

(13) 田名部沙織・細谷 一博. 資料②:障害理解授業(2回目と4回目). 202.

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参照

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