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脳の自己3層モデルと加齢・災害人間脳科学

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Academic year: 2021

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(1)

脳の自己3層モデルと加齢・災害人間脳科学

著者

杉浦 元亮

雑誌名

東北医学雑誌

131

2

ページ

133-134

発行年

2019-12

URL

http://hdl.handle.net/10097/00130726

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教授就任記念講演

― 2019年 6 月 3 日(月) : 医学部百周年開設記念ホール 星陵オーディトリウム 講堂

脳の自己 3 層モデルと加齢・災害人間脳科学

東 北 大 学 教 授 杉  浦  元  亮

(3)

2 略 歴 生年月日 1971 年 7 月 10 日 出身地  東京都 1996年 3 月  東北大学医学部卒 2000年 3 月  同大学院医学研究科博士課程修了・博士(医学)取得 2000年 4 月  東北大学未来科学技術共同研究センターリサーチアソシエイト/助手 2002年 9 月  ユーリヒ研究センター医学研究所客員研究員(学術振興会海外特別研究員) 2004年 9 月  宮城教育大学教育学部助教授 2006年 10 月  生理学研究所大脳皮質機能研究系助教授 2008年 2 月  東北大学加齢医学研究所准教授 2012年 4 月  災害科学国際研究所に兼務 2016年 4 月  より現職 2010年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞授賞

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教授就任記念講演

脳の自己 3 層モデルと加齢・災害人間脳科学

A Three-Layer Neural Model of Self and Human Brain Science on Aging and Disaster

杉  浦  元  亮 加齢医学研究所 人間脳科学研究分野/災害科学国際研究所 災害認知科学研究分野(クロスアポイントメント) 私は自身の研究分野を「人間脳科学」と標榜してい ます.要は脳計測を用いた社会科学です.人間を脳の 働きから理解したい,そしてその理解を社会に応用し たいと考えています.人間を脳の働きから理解すると いうことは,人間の心や行動を認知プロセスで考える ということです.脳内の認知プロセスを可視化するた めに,刺激提示や課題を用いた実験を行いその時の脳 活動を計測します. こういった脳機能イメージング技術について簡単に 説明します.主に神経細胞群の電気活動を測る方法と エネルギー需要を測る方法があります.私が主に用い る機能的 MRI は後者です.正確には神経活動に伴う 血管動態反応,すなわち動脈血の流入による脱酸素化 ヘモグロビン濃度の低下を,毛細血管内の磁場均一性 向上に起因した MR 信号上昇としてとらえます. ただ,測っただけでは何もわかりません.実験デザ インの工夫が重要です.例えば A という認知プロセ スの神経基盤を知りたければ,A を含む条件と A だ けを含まない条件で脳活動を測って両者を差分するこ とを考えます.あるいは,A という数値指標と脳活動 が相関する領域を探すこともできます.このようにし て得られた各被験者の脳活動量推定値画像を,多人数 分集めて多くの人で共通して活動する脳領域を探すこ ともあれば,何らかの個人差(能力・性格)と脳活動 が関係する領域を探すこともあります. このような技術を使って,私が学生時代から関心を 持っていたのが「自己」の神経基盤で,特に自己顔認 知に関わる脳活動を研究してきました.心理学では「自 己」は人間らしさの核心と考えられてきましたが,自 己に関わる条件とそうでない条件を比較した脳機能イ メージングの多くの研究で結果が一致しませんでし た.私はそういった一見バラバラの結果を,身体的自 己・対人関係的自己・社会的自己,という 3 つのカテ ゴリーで整理できることを指摘し「脳の自己 3 層モデ ル」を提案してきました. このモデルでは,各カテゴリーあるいは階層の自己 を,それぞれ独立した脳内スキーマ(運動出力と環境 からのフィードバック入力の連合)が作り出す順予測 モデルで説明します.自分の身体運動に自己主体感を 感じるメカニズムを,運動-知覚の脳内スキーマを用 いた順モデル制御の副産物として説明する考え方は, すでに 20 年以上の歴史を持つ考え方です.私のモデ ルの特徴は,これを対人関係的自己や社会的自己まで 拡張した点です.この考え方の重要なところは,この 神経基盤の理解を,受動的な「自己」の感覚だけでな く,人が能動的に周囲の物理的・社会的環境と関わり あう仕組みにまで拡張できることです.つまり,この 脳内スキーマを人が環境に適応するための基本的な脳 の仕組みと理解することで,人間の心と行動のさまざ まな不思議が説明できます. 対人行動の不思議の裏には,他者反応の脳内スキー マがあります.例えば,コミュニケーションが得意な 人と不得意な人がいます.なぜ人に話しかけるのは難 しいのでしょう.話しかけることに特有な認知プロセ スを可視化するために,ある行動をしている他者に話 しかけているときと,ただその行動を説明していると きの脳活動を比較しました.その結果,他者反応の脳 内スキーマとして知られる前頭前野背内側と側頭頭頂 接合部,側頭極の活動が浮かび上がりました.人に話 しかけるということには,それによって相手がどのよ うな反応をするか予想するという作業が内在するよう です.それによって話しかけることの難しさが説明で きます. 社会的意思決定の不思議の裏には,社会的価値の脳 内スキーマがあります.例えば,人は何を考えて職業 を選ぶのでしょう.仕事の面白さと収入が 2 大要因と 考えられますが,それらは脳の中では別の価値として 表象されているのでしょうか.二つの脳内価値表象を 可視化するために,職業の就きたさ評価をしていると きの脳活動を計測し,別に評価してもらった職業ごと

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134 杉浦 ─ 脳の自己 3 層モデルと加齢・災害人間脳科学 の面白さ予測と,収入予測とそれぞれ脳活動が相関す る脳領域を探しました.その結果,いずれの価値表象 も,社会的価値の脳内スキーマとして知られる後部帯 状回に見つかりました.ただその領域は微妙に異なり, それぞれ異なる記憶想起プロセスへの関与が知られて いる領域でした.人が職業選択をする際に用いられる 社会的自己価値要素の多様性は,それを記憶から想起 するプロセスの多様性と結びつけて考えるのが良いよ うです. 一方で身体運動制御をつかさどる運動-知覚の脳内 スキーマの話は明確で,あまり人間の心や行動の現代 的課題とは関係がないように見えます.しかし,そう ではありません.一見複雑で高度に見える心と行動の 不思議の裏で,密かに運動-知覚の脳内スキーマが暗 躍していたりするのも,人間の脳の面白いところです. 例えば,誰もが迎える「死」について,それを恐怖に 思う人とそうでない人では何が違うのでしょうか.そ の違いを反映する脳の働きを可視化するために,健常 高齢者を対象に自分の死について考えているときの脳 活動を計測し,アンケートで数値化した死に対する恐 怖の強さとの関係を調べてみました.すると,恐怖の 強い人は運動-知覚の脳内スキーマの一部である縁上 回という領域の活動が下がっていることがわかりまし た.死への恐怖は,脳がそれをリアルな物理的世界の 出来事として認識することを妨げているのかもしれま せん. 以上,あまりまとまったお話にはなりませんでした が,人間脳科学が人間の心と行動の様々な不思議に, メカニズム的な新しい見方を提供してくれる幅広い可 能性についてお伝えしたつもりです.そしてこのよう な新しい見方が,様々な現代の社会的課題,例えば超 高齢社会や災害に対する備えなど,に新しい解決法を もたらしてくれるものと信じています.そしてそれを 実現するのが,加齢医学研究所と災害科学国際研究所 にクロスアポイントメントという立場を頂戴した私の 使命であると認識しております.このような応用的取 り組みはいろいろな分野の先生方との協働抜きには不 可能です.これからのお力添え,ご指導ご鞭撻を,何 卒よろしくお願い申し上げます.

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