1.は じ め に
「執着を捨てよ」と釈迦は説く.執着こそが苦の原因 であり,欲望と執着を捨てて生きることが悟りの道だと いう.しかし,「手放すこと」は時として苦痛を伴うも のである.人はなぜ「手放したくない」と思うのだろう か? どうしたら「手放せる」ようになるのだろうか? 「手放すこと」によって幸せになれるのだろうか? 古 来より現代に至るまで,宗教,哲学,心理学,行動科学, 自己実現といった分野で,自分を知り幸せに生きるため のさまざまな人間的な知恵が育まれてきた.しかし,近 年,このような人間哲学的テーマにも科学的にアプロー チしていこうとする研究領域が立ち上がりつつある [安 西 11, CCARE 13, Csikiszentmihalyi 08, Kahneman 11, ケリー 13, Minskey 06, Seligman 00].この新しい科学的アプローチを可能にする近年の技 術革新の一つは人工知能技術を駆使したデータ指向科 学(Data Driven Science)が勃興してきたことにある [Pentland 13].ウェアラブルコンピューティングや深層 学習といった最近の人工知能技術の発展は,従来の科学 研究の方法論に大きな影響を与え,情報学をコアにした 新しい発見科学(Discovery Informatics)を創出させる 可能性がある [城戸 13c, 北野 93, Swan 14].これは,パー ソナルビッグデータをウェアラブルデバイスによって, 長期間収集し,大規模なデータベースに蓄積し,深層学 習などのデータマイニングやベイズ推定など数理的な手 法によって解析して新しい科学発見を導きだすというも のである. もう一つは,遺伝子解析技術などの画期的な進歩 により,パーソナルゲノムを始めとするビッグヘルス データを利活用する時代が到来してきていることにある [Ashley10, Butte 08, Dudley 13, Jun 08] .特に,三つ
のビッグヘルスデータ,医療データ,オミックス(Omics) データ,QS(Quantified Self)データが重要である. 医療データとは,家族歴,処方歴,診断歴,問診票,電 子カルテなどである.オミックスデータとは,網羅的な 生体分子についての情報のことで,遺伝子(Genome), 遺伝子発現産物(transciptome),タンパク質(proteome), 代謝産物(metabolome)などがある [Rui 12] .QS デー タとは,スマートフォンや,ウェアラブルデバイスなど によって得られたあらゆるパーソナルなライフログデー タのことである [QS 11, QSTokyo 13] .これらの三つの ビッグヘルスデータの統合は,生命現象をシステムと して理解することを目指したシステム生物学(Systems Biology)や,遺伝子の個人差を病気の予防,診断,治 療に活かすオーダメイド医療(personalized medicine) の研究を促進するであろう. このような背景から,我々は遺伝子解析と人工知能 技術に基づく近未来のパーソナルゲノム情報環境の基盤 技術構築を目指し,「人に気付きを与える情報環境」と いう着想を得て,MyFinder という情報環境を提案し評 価してきた [Kido 11, Kido 12, Kido 13a, 城戸 13c, Kido 14a]. 個人属性と遺伝子情報との関連性をもとに,より 信頼性の高い遺伝子リスクを予測するための計算モデル を構築し,さらに個人のゲノム情報が人々に与える影響 を評価している.病気のリスク予測や原因解明を目指す 従来の遺伝子解析研究に加え,個人の心理や行動データ を合わせて分析しようと試みている点が新しいチャレン ジである [Kido 11].この MyFinder 構想が目指してい る発見科学は,コミュニティ指向である.コミュニティ での知の集積や集合知を喚起しながら科学発見を目指す アプローチで我々はこれを Citizen Science と呼んでい る.従来の枠を超えた新しい科学領域の創出を目指すも のである [城戸 13c]. 本稿では,オーダメイド医療の分野のみならず,人の
パーソナルゲノムは心の理解に迫れるか?
─コミュニティコンピューティングで「手放したくない心理」の個人差を探る─
Can We Understand the Mind with the Aid of Personal Genome?
─ Investigating the Individual Differences in Loss Aversion Behaviors
Using Community Computing Approach ─
城戸 隆
理研ジェネシス,JST さきがけ「情報環境と人」領域Takashi Kido RikenGenesis./JST PRESTO.
Keywords:
personal genome, artificial intelligence, quantified-self, citizen science, community computing, loss aversion, prospect theory.行動特性や認知心理に関わる分野においても,個人差が 測定可能であり,パーソナルビッグデータを用いること によって,情報科学的なアプローチで新たな科学発見を もたらし得る可能性があることを示す.第 1 に,著者ら が進めている MyFinder 構想の全体像を示し,オーダメ イド医療の実現を目指した疾患リスク予測モデルと予測 が人々に与える影響の評価の取組みを紹介する.第 2 に オーダメイド医療の枠を超え,コミュニティ指向の発見 科学に適した対象として,人の認知機能の個人差の解明・ 促進を取り上げ,その基礎理論と位置付けているプロス ペクト理論 [Kahneman 11] を紹介する.第 3 に,プロ スペクト理論とパーソナルゲノムを結び付けたコミュニ ティコンピューティングによる科学発見プロジェクト (Citizen Science)の事例と予備実験での発見を報告し, 現状の研究課題とコミュニティ指向の発見科学の将来展 望について議論する.
2. MyFinder 構想:パーソナルデータに基づく
気付きの創発
我々は,パーソナルゲノム情報環境「MyFinder」を 用いた研究フレームワークを提案している [Kido 11, 城 戸 13c] .これは人工知能における知的エージェントの 概念と,生命医科学におけるパーソナルゲノム研究を融 合させるものである.近年のパーソナルゲノム研究が, 主に疾患リスクや薬剤応答性といったオーダメイド医療 の実現を主眼にしているのに対し,MyFinder では現代 の急速なライフスタイルの変化が,心身にどのような進 化的影響を与えているのかなど,ウェルネスや精神医科 学,行動科学などの側面も重視している点が異なる.こ の構想のコンセプトを図 1 に示す. MyFinderには二つの大きな目標がある.一つは「人(自 分)に気付きを与える情報環境」の実現である.これは 自分を知りたいという動機に基づいており,パーソナル ゲノムによる自己の探求がテーマである.MyFinder 構 想では,我々の食生活,睡眠,仕事のスタイル,時間の 使い方,ソーシャルなインタラクションや趣向や好みな どを日々,知的エージェントが観測し解析することによ り,我々の日々の物理的,化学的,心的なストレスをモ ニタリングしていく.この目的を遂行するために,自分 自身の遺伝子データ,およびさまざまなセルフトラッキ ングデータを用いて図 2 に示すような項目の評価を行っ てきた [Kido 12, Kido 13a, 城戸 13c, Kido 14a].もう一つは,「コミュニティコンピューティングに よる科学発見」を目指すものであり,我々が Citizen Scienceと呼んでいるさまざまなプロジェクトを開始し ている.これは「他者」との関わりの中で初めて見え てくる「気付き」を探求するもので「集合知による気付 きの創発」がテーマである.特に我々は,メタボリッ ク(糖尿病などの生活習慣病の予防),睡眠,利他心(認 知特性や性格)といったテーマのプロジェクトに注力し ており,参加型のコミュニティをつくり,科学発見を目 指すプロトタイププロジェクトを進めている [城戸 13c, QSTokyo 13]. 以下では,まず疾患リスクの予測や病気の原因解明を 目指した従来の遺伝子解析研究の最新の展開について述 べ,次に人の心理や行動データをパーソナルゲノムと合 わせて解析していくための認知心理科学的知見について 述べる. 2・1 疾患リスクの予測: パーソナルゲノム医療の医学的根拠 [城戸 14b]. 今,遺伝子解析の分野では,パーソナルゲノム時代 の到来が叫ばれている.パーソナルゲノム(Personal Genome)とは,個人の遺伝情報のことで遺伝子の個人 差はさまざまな病気のかかりやすさや体質,薬の効き方 などと関係している [Ashley 10, Butte 08, Jun 08, PG 13].数年前,米国で Google の共同創業者 Segey Brin 氏夫妻と Anne Wojciki 氏が 23andMe というベンチャー 企業を立ち上げたのを皮切りに,パーソナルゲノムを用 いたさまざまな予防医療サービス(例えば,Navigenics, deCODEmeなど)が登場してきたが,今年に入って日 本でも Yahoo, DeNA などが遺伝子サービス事業への参 入開始を表明し,日本のメディアでも話題になっている. しかしながら,疾患リスクの予測は,ゴールドスタンダー 図 1 MyFinder 構想 図 2 パーソナルゲノムデータの解析と評価
ドが確立されていない状況で,医学的根拠が大きなテー マとなっている. 図 3 は,パーソナルゲノムサービス 3 社(23andMe, Navigenics, deCODEme)の 22 疾患について, 我々 が日本人 3 名の疾患リスク予測結果を比較した結果で ある [Kido 13b].22 のうち 6 疾患ではリスク予測は完 全に一致(例えば,Alzheimer’s disease),7 疾患で は,ほぼ一致(例えば,Heart Attack)しているもの の,8 疾患ではリスクが逆転している(例えば,Type 2 diabetes).各社のリスク予測の全体の傾向は一致して いる(kappa=0.58)ものの,一致率がかなり高いとま ではいえない.予測結果に不整合が生じる主な要因は, (a)SNP 選択,(b)平均疾患リスクの推定,(c)疾患 リスク予測アルゴリズム,(d)人種差の影響推定の影響 が大きい.22 疾患において,3 社で共通して用いられた SNPは 7.1%のみで,少数のコア SNPs が予測に大きな 影響を与えている.人種差の影響は重要で,日本人の疾 患リスク予測精度を高めるには,特に東アジア人のコア SNPsを整備していくことが重要である. 我々は,現在,パーソナルゲノムのリスクを正し推定 し,個人にとっての意味を適切に解釈していくための評 価指標体系や数理モデルの構築に取り組んでいる.また リスク予測において,人種差や性差が生じやすい・生じ にくい領域を明らかにするための解析手法も開拓してい る.これらの成果は,オーダメイド医療の実用化だけで なく,性差や人種差が生じた進化的考察や疾患の治療に 有益な分子遺伝学的知見の洞察にもつながると期待され る. こうした「遺伝子の個人差を医療に生かす」研究は「人 の心を理解する」研究(これは人工知能研究の究極的な 目標の一つだと著者は考える)にも生かせるだろうか? 次節以降では,前述した遺伝子解析研究に心理学的・ 行動学的知見を合わせていくための手掛かりについて述 べる. 2・2 人はリスクをどう感じるか? 「日本社会は確率的予測が不得意であり,すべて 100%,0%で解釈する傾向がある.このような状況では, 疾患リスク予測は,かえって過度の不安などの不都合を もたらす可能性もある.また,逆に 100%でないことを 理由に予測を無視する可能性もある」[鎌谷 14].このよ うな人のリスクの感じ方を認知心理学的に理解すること は可能だろうか? Kahneman [Kahneman 11]らは,人がリスクを伴う 意思決定を行う際に,「確率が低いところと確率が高い ところで,意思決定のウェイトに大きな変化が見られる こと」を指摘している.あまり起こりそうもない結果(低 い確率:0 ∼ 10%)を過大評価し(「可能性の効果」), ほぼ確実な結果(高い確率:90 ∼ 100%)を過小評価す る(「確実性の効果」)傾向がある.確率が極端に低い場 合または高い場合(1%以下または 99%以上)に,「ま れな事象は完全に無視されウェイトがゼロになること」 がある一方で,「めったにない結果に過大なウェイトを 付ける」ときもあり得る.例えば,「多くの人は原子炉 のメルトダウンを心配して時間を費やすことはしない が,そうしたまれな事態があり得るかもしれないとなっ たら,確率をはるかに上回る重みを付けてしまうだろう」 と予測している.「ごく低い確率の変動には人は無頓着 で,がんの発生リスクが 0.001%でも 0.00001%でも区 別がつかない」[Kahneman 11]. Kahnemanらの分析はギャンブルでの人々の選好分 析から得られた知見であるが,これを疾患リスクの受 止め方に当てはめてみるとどうであろうか? 例えば, 「5%の確率でがんになる」では,人は,すべて 100%,0% で解釈する傾向でリスクがゼロだと割り切るだろうか? あるいは,可能性の効果で,小さいリスクを過大評価 するだろうか? 不安の度合いが意思決定のウェイトに 反映されることになるが,どんな心理的・認知的要因が リスクの解釈に関わってくるのであろうか? リスクの伝え方しだいで受止め方に大きな差が出てく るという報告もある.例えば,「肺がんの治療法を選択 する際に,「術後 1 か月の生存率は 90%です」と「術後 1か月の死亡率は 10%です」では,最初の選択(被験者 の 84%)を選んだほうが,後の選択(50%)より圧倒 的に多かった.「この病気にかかると 1 万人に 1 286 人 が死ぬ」という情報と「この病気の死亡率は,24.14% である」という情報を示されたとき,前者がより危険だ と判断された.抽象的な「確率」よりも,鮮明で認知が 図 3 22 疾患のリスク予測結果の一致率
という」[Kahneman 11]. 図 4 のグラフは,利益と損失の心理的価値を表してい る.グラフが S 字形であるのは,「利益」と「損失」と もに額が大きくなればなるほど,その感覚(「心理的価 値」)が鈍ってくることを示している.「1 万円が 2 万 円になればありがたみは大きいが 90 万円が 100 万円に なってもそれほどの価値はない.S 字カーブは左右対称 ではなく損失領域の傾きは,利益領域の傾きよりもはる かに大きい」.これが損失回避性を表している. Kahnemanらは,プロスペクト理論を用いて人がど のようなときにリスク追求的になるのかを考察してい る.人は,利益か損失かを重視すること,起こり得る確 率が低いときと高いときでは人の意思決定のウェイトが 異なること(前述)という二つの観点を組み合わせ,表 1に示すような 4 分割パターンを導いている.例えば左 下欄は,「非常に低い確率で利益が得られる「宝くじ」 の状況で,人はリスク追求的になること」を示す(「夢 をみる権利を買う」).右下欄は,「非常に低い確率で高 い損失を伴う「保険をかける」状況で,リスク回避的に なること」を示す(「不安を取り除き心の平安を買う」). Kahnemanらは,ギャンブルにおける人間心理の洞 察から損失回避性を捉えたが,次節で述べるように損失 回避性の対象は金銭的な損得だけではない.例えば,「も しも,セーターを家でなくしてしまったら,そのセーター を見つけ出すまで探し続ける」という質問に同意する強 さによって損失回避性を測ることができる.もし,この 容易な言葉のほうが,確率の低い事象が過大評価される 傾向がある」[Kahneman 11]. このように,遺伝子解析結果の解釈の適切な伝え方は, 心理的・文化的・宗教的背景にも関わってくる.社会心 理学的知見 [アロンソン 94] から,どのような遺伝子リ スク知識が,異なる背景の人に,どのようにして伝わる かを明らかにしていくことも重要なテーマである.我々 は,4 000 名規模の Web 社会意識調査を過去 2 年間に わたり実施している.パーソナルゲノム情報の社会心理 学的評価に関するデータや知見も公開していく予定であ る.
3. プロスペクト理論:
人の認知特性の理解に向けて
本稿の目的は,MyFinder 構想のフレームワークをオー ダメイド医療だけでなく認知心理の分野にまで広げてい くことにある.前章では,「人がリスクをどのように感 じるか」について,遺伝子解析結果の伝え方という観点 から考察し,人の確率の解釈に,心理的・認知的要因が 深く関わってくることを論じた.MyFinder 構想では, 遺伝子の個人差を医療に加え,認知心理機能の解明や促 進に活かすことを目指している.本章では,認知心理特 性を解明する基礎理論として「プロスペクト理論」を紹 介し,プロスペクト理論とパーソナルゲノム研究を結び 付けるコミュニティ指向の発見科学のアイディアについ て述べる. 3・1 プロスペクト理論 プロスペクト理論 [Kahneman 11] とは,人が利益や 損失を伴う選択肢でどのような意思決定をするか,損失 と利益をどのような評価するかをモデル化した理論であ る.得をするときと損をするときでは,価値の感じ方が 異なる.損失は利益よりも強く感じられる.これを損失 回避性(loss aversion)という.例えば次のような問題 を考えてみる. 問題:あなたはコイン投げのギャンブルに誘われまし た.裏が出たら,1 万円払います.表が出たら,1 万 5千円もらえます.このギャンブルは魅力的ですか? あなたはやりますか?([Kahneman 11] 邦訳の例 題を改変) 「多くの人にとって,1 万円損をする恐怖感は,1 万 5 千円得をする期待感よりも強い.Kahneman らは,多 数の調査により,「損失は利得より強く感じられる」と 結論し,たいていの人は損失の約 2 倍(1.5 ∼ 2.5)の 利益が見込めないとギャンブルには乗らないことを見い だした.しかし,金融市場の取引のプロの場合には,損 失許容度が高いことが知られている.被験者に「トレー ダーになったつもりで答えて下さい」と指示すると,損 失許容度が高まり,損失に対する感情反応は大幅に減る 図 4 プロスペクト理論における価値関数 [Kahneman 11] 表 1 プロスペクト理論に 4 分割パターン ([Kahneman 11] の邦訳より抜粋) 利 益 損 失 高い確率 確実性の 効果 1.95%の確率で1万ドル もらえる 2.万が一の落胆を恐れる 3.リスク回避 4.不利な調停案も受け入 れる 1.95%の確率で 1 万ドル 失う 2.何とか損を防ぎたい 3.リスク追求 4.有利な調停案も却下す る 低い確率 可能性の 効果 1.5%の確率で1万ドル もらえる 2.大きな利得を夢見る 3.リスク追求 4.有利な調停案も却下す る 1.5%の確率で 1 万ドル 失う 2.大きな損を恐れる 3.リスク回避 4.不利な調停案も受け入 れるいスコアであった.LAQ スコアが最も低かったのは市 民活動グループ(mean=2.78)であった.LAQ スコア と衝動性には男女差は見られなかったが,不安感では女 性(mean=2.82)のほうが男性(mean=2.62)よりも 有意に高い傾向が見られた(p =0.003). 3・3 プロスペクト理論の進化論的意味 前節で紹介した LAQ による Baets らの実験で,損失 回避傾向が,職業,年齢,教育レベルで有意に異なっ てくるのは非常に興味深い.年齢が高く,教育レベル が高いほうが,損失回避傾向が小さくなるとは何を意 味するのだろうか? 市民活動グループが最も損失回避 傾向が小さくなるとはどう解釈できるのだろうか? [Kahneman 11]らの研究で,損失回避性が,どの人間 にも非常に強く認められるのは,この特性が生まれなが らにして遺伝的に人間に備わったものであることを示唆 している.損失は利益よりも強く感じられるというのは, 「チャンスよりも脅威に対して素早く反応する個体のほ うが生存に有利であった」と進化的な解釈を与えること も可能である.一方で [Baets 12] らの結果は,損失回避 性には,個人差があり,環境要因(年齢,教育レベル, 職業)が大きく影響していることを明らかにしている. これらの事実から洞察できるのは,人は生まれついて損 失回避の傾向を強くもっていて,その呪縛から逃れるの に多大の努力(教育,年月)を要するということなので はないだろうか? 本稿の冒頭の釈迦の言葉,「執着を 捨てよ」にも通じるものがある.「人は生まれながらに して,執着心をもち,執着から欲望が生じ,欲望から怒 りが生ずる」が,無知からくる欲望や執着を断ち切るこ とによって,悟りを得ていくという思想である. 3・4 コミュニティ指向の発見科学 我々が目指す Citizen Science では,自発的な参加 者によって参加型コミュニティ(その多くは Crowd Sourcingによる)を形成し,Health & Wellness に関 わる科学データの収集,解析,ツール開発を行っている [Catlin-Groves 12, DIY 13, Kido 13a, Swan 12a, Swan 12b].集合知による気付きの創発を促すことにより,従 来の手段では難しかった科学仮説の発見・検証や新たな 科学領域の創出を目指している(例えば,ビタミン剤の 効果,楽観性・悲観性傾向,睡眠などのプロジェクトに ついては [城戸 13c, Kido 14a] に報告している). 本稿のプロスペクト理論の進化論的意味を問うという 研究プロジェクトは,従来,あまり研究がなされていな かった着眼点であり,パーソナルゲノム研究と認知心理 学研究をつなぐ新領域開拓につながる.また,Citizen Scienceの参加者にとっても,「執着を捨てる」という人 生を豊かに生きるための知恵につながるテーマに魅力を 感じる方は少なくないと予想される.自らを知りたいと いう知的好奇心と,重要な科学発見や社会問題の解決(幸 質問に強く同意するとすれば,損失回避傾向(セーター を失うという損失を回避する傾向)が強いとみなすこと ができる.つまり, 損失回避傾向は,「手放したくない 心理」の強さと解釈することも可能である. 3・2 「手放したくない心理」に個人差はあるか?: 損失回避性の測定 [Baets 12] プロスペクト理論において損失回避は中心的テーマで あるが,脳科学の進展などにより損失回避の個人差に関 する研究が注目されるようになったのは比較的最近であ る [Tom 07]. Baets [Baets 12]らは,個人の損失回避傾向を測定す
る Loss Aversion Questionnaire(LAQ)という 20 問か らなる質問票を開発している.Kahneman らはギャン ブルにおける確率的な意思決定を研究調査の対象として いたが,LAQ では,「解雇されるなら,自分から辞めた ほうがよい」というような,Personality 調査に近い設 問内容になっている. Baetsらは二つの集団(N1=187, N2=455)におい て LAQ の妥当性を調べ,下記の四つの仮説を検証して いる. 1.損失回避傾向の個人差は心理学的質問票(LAQ) で測定できる. 2.損失回避傾向は,リスク回避傾向(Risk Aversion) と正の相関がある. 3.損失回避傾向は,不安傾向(Anxiety)と正の相関 がある. 4.損失回避傾向は,衝動性(Impulsivity)と負の相 関がある. その結果,仮説 1,2,3 については統計的妥当性が検 証された.仮説 4 については,予想に反し有意な正の相 関が認められたが,その理由については未解明だとして いる.
Baets [Baets 12]らは,LAQ スコアが対象集団によっ
て有意に異なることを報告している.高学歴集団と高 年齢集団において,損失回避傾向が有意に下がってい る.高学歴の集団(大卒以上:n =198)の LAQ 平均 スコアが 2.82 であるのに対し,非高学歴(n =207)の LAS平均スコアは 3.44 であった(p<0.0001).また低 年齢齢集団(36 歳未満:n =228)の LAQ 平均スコア が,3.38 であるのに対し,高年齢集団(36 歳以上:n = 233)の LAQ 平均スコアは,2.85 であった(p< 0.0001). 同様な有意な平均スコアの減少は,損失回避傾向(Risk Aversion),不安傾向(Anxiety),衝動性(Impulsivity) でも見られた.また,LAQ スコア(および不安(Anxiety), 衝動性(Impulsivity))は,職業の違いによっても有意 に異なった(p< 0.001).学生集団は,損失回避(mean= 3.46)と不安(mean=2.97)で最も高いスコアを示し, 起業家は衝動性(mean=2.79)が最も高く,管理職は 衝動性(mean=2.30),不安(mean=2.43)で最も低
福に生きるための知恵)に貢献したいという利他的な思 いが大きなインセンティブになる.Citizen Science に向 いたテーマだといえる.
また,Citizen Science において集合値による気付きの 創発プロセスを分析していくことは,Ishida ら [Ishida 12]によって提唱されている Field Informatics や Larry Leiferら [Leifer 13] のイノベーションデザインの研究分 野にも関連し,新しい知の創造手段や新しい情報学の研 究領域創出につながっていくと著者は考えている.
4.コミュニティコンピューティングによる科学発見
を目指して:Thinking Fast & Slow Study
前述してきたように本稿の目的は,従来の遺伝子解 析研究に心理学的・行動科学的データを合わせて解析 していくことにより,パーソナルゲノム研究の新たな 展開(「人の心の解明」を目指す展開)を提示していく ことにある.本章では,人間の思考が早い思考(Fast Thinking)と 遅い思考(Slow Thinking)の複雑な相 互作用から成り立っているとする Thinking Fast & SlowStudy を取り上げ,認知心理学とパーソナルゲノム研究 との融合を試みた Citizen Science プロジェクトを紹介 する.これは“手放したくない心理の強さ(損失回避傾 向)”の個人差を,遺伝子および心理テストを用いて検 証しようとした初めての試みである. 4・1 プロジェクトの目的
Daniel Kahneman [Kahneman 11]の著書 Thinking Fast & Slowの着想を Citizen Science Project として実 装し,下記の仮説を検証する. 4・2 仮 説 脳内活動に関連する遺伝子の変異が,個人の損失回避 傾向と関連している. 4・3 スタディデザイン A:候補遺伝子の選定 損失回避の特性に遺伝的個人差があるかを調べるた めに文献調査を行い,表 2 に示す 13SNPs を解析対 象として選定した.これらは,過去に疾患・非疾患比 較,心理テスト,脳活動測定実験(fMRI)などによ り,ヘロイン,コカイン中毒,報酬や感情処理に関す る脳活動,ギャンブル中毒,楽観性,失敗を避けよう とする傾向などと関連性が報告された遺伝子変異であ る [Clarke 12, He 12, Pecina 12, Saphine 11, Smillie 11, Wilson 13].
B:フェノタイプデータ:損失回避傾向(LAQ) 表 3 に,損失回避傾向を測定する心理テストであ る LAQ(Loss Aversion Questionnaire)の設問の例 を示す(正確をきすために原文の英語のまま記す). 各設問に 1 ∼ 5 の評価(1=strongly disagree,5= strongly agree)を与える.例えば,質問 1 の「家で セーターをなくしたら,見つかるまで探し続ける」で は,評点が高いほど(例えば 5),損失回避傾向が高い(損 失回避傾向度 5:セーターをなくすという損失を回避 しようとする傾向が強い)ということになる.文末に (R)が書かれた設問は,逆方向の評価(評点が高いほ ど損失回避傾向が低い)となる.例えば,設問 2 の「他 人から陰口を言われても気にしない」では,評点が低 いほど(例えば 1),損失回避傾向が高い(損失回避 傾向度 5:他人からのネガティブな評価を受けるとい う損失を回避する傾向が強い)ということになる.各 設問ごとに損失回避傾向の尺度が 5 段階(1 ∼ 5)で 算出され,それらを合計したものが損失回避傾向のス コア(LAQ Score)となる.
C:Citizen Science Project の実装
参加型クラウドソーシングのプラットフォーム Genomera [Genomera 13]を用いて,下記の Citizen
Scienceのプロジェクトを Web 上に実装した.
“ Thinking Fast and Slow Study”(http://
genomera.com/studies/thinking-fast-and-表 2 解析対象の SNPs
遺伝子 SNP 文献 コメント
PDYN rs1022563 Clarke 12 Heroin and cocaine addiction
PDYN rs1997794 Clarke 12 PDYN rs910080 Clarke 12
DRD2 rs4581480 Pecina 12 Reward and emotion processing & openness to experience DRD2 rs12364283 Pecina 12 DRD2 rs4274224 Pecina 12 DRD2 rs1076560 Pecina 12 DRD2 rs2283265 Pecina 12 DRD2/
ANKK1 rs1800497 Smillie 11 Reward-prediction COMT rs4680 He 12 Decision making 5-HTTLPR rs25531 He 12
T102C rs6313 Wilson 13 Gambling disorder OXTR rs53576 Saphine 11 Optimism
表 3 損失回避傾向を調べる質問票(LAQ)の例 損失回避傾向を探る質問の例
1.If I lose a sweater at home, I keep on searching until I find it.
2.I really don’t care if someone talks bad about me behind my back.(R)
3.I would feel very down if I got fired, even if I know I will find a similar job.
4.In marriage, a woman should keep her own last name. 5.Losing your house to a fire is bad, but I would manage.(R) 6.I wouldn’t care if I had to move to a smaller place.(R) 7.I’d rather quit than get fired.
8.I don’t care what people would think if I was suddenly unemployed.(R)
slow-study)* 1 解析対象となるフェノタイプのデータは,損失回避 傾向を探るための 20 問からなる質問票─LAQ の回答, ジェノタイプのデータは,23andMe 社 [23Me 13] に よる 13SNPs の候補遺伝子のタイピングデータであ る.2013 年 6 月に開始し,2014 年 8 月の時点で 44 名のボランティアが参加し,29 名が 23andMe 社の 13SNPsのジェノタイプデータを共有している.遺伝 統計学を用いてジェノタイプデータとフェノタイプ データの相関を解析した.各 SNP について Kruskal-Wallis検定を用いてジェノタイプの 3 群比較を行い, p値を求め関連性の強さを比較した. 4・4 参 加 者 の 構 成 性別を開示しているボランティアは,男性 17 名,女 性 11 名,年齢を開示しているボランティアは 10 名未満 で 20 代後半から 30 代後半がほとんどであった.大多数 が米国在住(さまざまな都市に分布)だが,若干の米国 外在住者もいた.人種を開示したボランティアのほとん どは白人で数名のアジア人を含んだ.損失回避の質問票 の回答とジェノタイプデータの両方がそろっている 21 名を解析対象とした. 4・5 予 備 実 験 結 果 損失回避傾向と SNPs との関連性を調べた結果を図 5に示す.X 軸は SNPs, Y 軸は,関連解析の p 値を対 数変換して符号を反転した値(−log(p-value))であ る.プロットされた 1 点は,1 個の SNP に対応し,縦 軸の上方にあるほど関連性が高い.最も損失回避スコ ア(LAQ Score)と関連性が高い SNP は,rs4274224 であった.rs4274224 のジェノタイプと LAQ スコア (Loss Aversion Questionnaire Score)との関係を図 6 に示す.X 軸は,rs4274224(DRD2 遺伝子上の遺伝子 多型),Y 軸は LAQ スコア(Loss Aversion Score)を表 す.AG タイプ(n = 12)が最も LAQ スコアが低く(LAQ
score= 59.3),AA タイプ(n = 6)が最も LAQ スコア が高かった.(LAQ score = 72.5)AA タイプと AG/GG タイプのLAQスコアの差は,統計的に有意であった(p= 0.029). 4・6 考 察 損失回避性(LAQ Score)と最も高い関連性が見い だされた DRD2 遺伝子変異(rs4274224)は,[Pecina 12]の fMRI を用いた脳活動実験でも , AA タイプは AG, GGタイプよりも金銭報酬の期待(Monetary Incentive
Delay Taskによる)や感情的な言葉(Emotion Word
Stimulus Taskによる)に有意に反応しやすく,新しい 経験や知識を追い求める傾向(Openness to experience) を調べる心理テストでも,有意に低いスコアであったこ とが報告されている. Kahneman [Kahneman 11]は,人間の意思決定が 直観的,感情的な「速い思考:Fast Thinking(システ ム 1)」と意識的,論理的な「遅い思考:Slow Thinking (システム 2)」の相互作用からなり,日常的になされる 多くの判断がシステム 1 に導かれていると論じている. Kahnemanは,システム 1 は膨大な情報をすばやく効 率的に処理できる半面,多くの過ちを犯すとし,多くの 研究事例を報告している. 今回の予備実験の結果から導かれる仮説として「AA タイプは,システム 1 思考がより強く働きやすい脳内メ カニズムを遺伝的に備えている」可能性が考えられる. システム 1 思考が働きやすい AA タイプは,より直観 的な意思決定を下しやすく損失回避傾向も大きいという 仮説である. 21人の参加者は,ほとんどがヨーロッパ人(米国人) である.DRD2 の遺伝子多型(rs4274224)の頻度は, 欧米人とアジア人では大きく異なる.日本人では,この 遺伝子多型で G アレルをもつ人の割合(28.8%)は,ヨー ロッパ人(50.9%)よりも少ない.我々の仮説が正しけ れば,システム 1 思考がより強く働きやすい AA タイプ が多いのは,欧米人(AA=26.9%)よりも,日本人(AA= 52.1%)ということになる.この違いは,前述した「日 本社会は確率的予測が不得意ですべて 0%か 100%で判 断する傾向がある」とする経験に基づく主張に一石を投 じるかもしれない. しかし,この仮説は現在のところ,議論の決着はつけ 図 5 SNPs と損失回避スコアとの相関(p 値分布) 図 6 見いだされた有意な SNP との相関 p=0.029
AG/GG(n=15) AA(n=6) AA(n=6) AG(n=12) GG(n=3)
*1 このプロジェクトは,損失回避だけでなく,[Kahneman 11] に絡む楽観性,自信過剰,「逃避か闘争か」傾向などの関連遺伝 子探索も含む.
ることはできず,より大規模な集団での検証が必要ある. 今後,サンプル数が増えれば解析精度の向上が期待でき る. また,[Baets 12] の研究では,損失回避性が環境要因 (年齢,職業,教育レベル)の影響が大きく,高年齢層, 高教育レベル層のほうが低くなる傾向があることが報告 されている.一つの仮説は,遺伝的な影響を受けやすい システム 1 思考にシステム 2 思考を働かせてコントロー ルができるように,いわば意思の力の働かせ方を学習 していくことが可能であるということである.Stanford の The Center for Compassion and Altruism Research and Education(CCARE)では,心理学や脳科学の観点 から,人の意思の力,マインドフルネス,瞑想効果など をテーマにした研究がなされている [CCARE 13, ケリー 13].教育や自己鍛錬が意思決定に及ぼすメカニズムを 科学的に解明し,効果の大きい自己修練プログラムを開 拓していくことは今後の大きな挑戦である. ドーパミンレセプター(DRD2)変異は,創造性や心 の病との関連性も研究され,非常に創造的な人と統合失 調症の患者には,共通したパターンがあり,同じドーパ ミンレセプター変異をもっているケースが多いという報 告もある [城戸 10].DRD2 変異がドーパミンの脳内伝 達の流れに影響し,損失回避傾向や新しい経験や知識を 追い求める傾向,感情的な言葉に反応しやすい傾向に影 響を与えている可能性もあり得る.DRD2 変異の脳内メ カニズムへの影響の解明も大きな課題である.
5.現状の課題と将来展望
本稿の目的は,パーソナルゲノム情報と人工知能技 術の利活用が,オーダメイド医療の分野のみならず,人 の行動特性や認知心理に関わる分野においても新たな科 学発見をもたらし得ることを示すことにあった.そこ で,知的エージェントとパーソナルゲノム研究を融合し た MyFinder 構想を提案し,オーダメイド医療の疾患リ スク予測とパーソナルゲノム情報の社会心理学的評価で 培われた方法論や知見が,認知心理の分野にも適用でき るという仮説のもと,その実装を試みた.そして,認知 心理のプロスペクト理論の中心テーマである「人の損失 回避性」の個人差に MyFinde 構想のアプローチを適用 するという着想を得,Citizen Science プロジェクトとし て実装し,予備実験において DRD2 遺伝子変異が損失 回避性の個人差に関連している可能性を見いだした.予 備実験から洞察された二つの仮説,すなわち(1)損失 回避傾向の個人差に DRD2 遺伝子変異が関わっている こと,(2)学習により損失回避傾向を軽減させることが できることは,今後,専門の科学コミュニティの中で議 論,検証されていくべきものだが,「人の心の誕生と進化」 に関わる新しい科学領域の創出を予感させるものであ る.また,従来方法とは異なり,コミュニティコンピュー ティングによって科学発見を目指す Citizen Science の アプローチ自体も,イノベーションデザインを目指す新 しい知の創造手段として AI 研究の研究対象となり得る. また [城戸 13c] でも論じたように MyFinder 構想の着 想の原点は「自分を知りたい」ということであり,これ はつきつめていくと「自分とは何か」という哲学的な問 いにも通じる(例えば,[Perry 08] は Personal Identity に関する深い哲学的洞察をしている).我々は自分の意 思で人生を方向付ける決定を自ら下していると考えてい るが,もし,こうした決定が,自分の遺伝子が占める特 性や,我々を取り巻く社会からの無意識のシグナルにか なり支配されていたとしたらどうであろうか? こうし た「自分を知ることの意義」に関する哲学的,社会的な インパクトに関する研究も重要である. しかし,現状のアプローチには課題もある.MyFiner 構想では,知的エージェントが人間の心身が発するシグ ナルや行動を観測し解析することにより,我々の日々の 物理的,化学的,心的なストレスをモニタリングし,行 動特性や認知特性を学習していくことを目指している が,現時点ではその実装には至っていない.本稿で紹介 した行動特性データは,主に心理テストなどに基づくも とである.今後,MIT Affective Computing [Picard 00] のようにウェアラブルセンサからストレスレベル,モー ド,睡眠といったメンタルヘルスシグナルを抽出し,行 動支援やフィードバック支援に用いるなど,人が無意識 に発するシグナルを環境が読み取る環境知能(Ambient Intelligence)の技術が重要であると考える.また,現 在は,疾患リスクや薬効予測などオーダメイド医療で主 役となる遺伝統計解析技術を主に解析に用いているが, 科学発見を目指すパーソナルビッグデータからの知識抽 出には,深層学習やベイズ推定,データマイニングなど 数多くの AI 技術の適用の余地がある. このような問題意識から,新たな境界領域の創出を 目 指 し, 来 年 の,AAAI Spring Symposium 2015 で “Ambient Intelligence for Health and Cognitive Enhancement”の国際シンポジウムを主催予定である (https://sites.google.com/site/aaai2015aihce/ home/). [城戸 13c] でも論じたように,自分を知ること,人間 の本性に迫っていくことは,人工知能研究の原点である. 著者は,現代人の急速なライフスタイルの変化が,人 類進化的な視点で人の心や身体に大きな影響を与えてい るのではないかという仮説をもっている.「人工知能を 使って,脳や遺伝子や身体の働きを解明し,その働きを 修正し,現代人の心が豊かになる研究をしたい」という のが,著者の根本的な研究のモチベーションになってい る. 生命医科学,認知科学,進化心理学とも相互に関わり ながら,現代人とテクノロジーが共進化する未来社会の 創造に貢献していければ幸いである.謝 辞 本研究は,科学技術振興機構(JST)さきがけ“遺伝 子解析と人工知能技術を用いたパーソナルゲノム情報環 境の提案と評価”の支援を受け,理研ジェネシス社,ス タンフォード大学,DIY Genomics,ならびに多くの研 究協力者の皆様からの多大なサポートを得て実施してい る.ここにお世話になったすべての方々に深く感謝の意 を表する. 2014年 10 月 7 日 受理
◇ 参 考 文 献 ◇
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著 者 紹 介
城戸 隆(正会員) 1996年慶應義塾大学大学院理工学研究科計算機科学 専攻にて遺伝的アルゴリズムを用いたハイブリッド 探索に関する研究で博士号取得.1997 年から NTT 情報通信研究所知的エージェントグループ,1998 ∼ 2001 年マレーシアのマルチメディアスーパーコ リドー計画のもとで NTT 海外 R&D 拠点立上げの ために赴任.2002 ∼ 06 年遺伝子解析のベンチャー 企業である HuBit Genomix 社にて疾患関連解析の研究開発に従事. 2006∼ 09 年,スタンフォード大学 Genetics Department の StanfordMicroarray Database groupにて客員研究員.2009 年より理研ジェネシ
ス社にて研究開発に従事し,2010 年より JST さきがけの大挑戦型プロ ジェクトとしてパーソナルゲノムに関する研究を進めている.