1 研究目的
本研究の目的は,Perry-Smith & Blum(2000)の理論的フレームワークを日本のデー タに適用し,ワークライフ施策の束(bundles)と企業の財務業績との関係を実証的に 明らかにすることにより,日本でのワークライフ施策の戦略的人事施策としての可能 性を探ることにある1)。
これまでに戦略的人的資源管理(Strategic Human Resource Management)では, HRM(Human Resource Management)と組織のアウトカムとの関連について,多数 の研究が行われてきた。これらの研究の多くが「ハイパフォーマンス HRM プラクティ ス(high performance HRM practices)」と組織のアウトカムとの関連を解明した研究
であった2)。「ハイパフォーマンス HRM プラクティス」には,厳選した募集・選考,
幅広い能力開発,業績ベース報酬および意思決定への参加,などが含まれている。 Perry-Smith & Blum(2000)は,ワーク・ファミリー施策が「ハイパフォーマンス
HRMプラクティス」にほとんど含まれていないことを指摘し,その理由として,次の
2つをあげている。すなわち,第1は,ワーク・ファミリー施策の企業レベルでのア ウトカムを実証的に分析した研究が少ないことである。第2は,ワーク・ファミリー 施策の採用を分析した研究は,その規定要因として制度的圧力をあげていることであ る(Goodstein, 1994; Ingram & Simons, 1995)。
ワークライフ施策に焦点をあてて,その企業レベルでのアウトカムへの影響につい て,実証的に分析した研究には,次のような研究があげられる。Perry-Smith & Blum (2000)は,米国企業 527 社を対象にして,組織業績,マーケティング業績および売上 高・利益の成長率とワーク・ファミリー・バンドル(work and family bundles)との 間に有意な正の関係があることを見出し,ワーク・ファミリー・バンドルを 「ハイパ 論 文 ― 135 ― 産業経済研究所紀要 第18号 2008年3月
ワークライフ施策と
企業業績との関係に関する実証分析
An Empirical Examination of Relationship between Work-life Bundles
and Corporate Financial Performance
咸 惠 善
フォーマンス HRM プラクティス」に取り入れることを主張している。坂爪(2002)は, 日本企業206 社を対象にして,ファミリー・フレンドリー施策が従業員の働きがいや働 きやすさ,女性の離職率に影響をあたえていることを明らかにした。またファミリー・ フレンドリー施策間での交互作用を確認し,他の人事施策同様,内的整合性(internal fit)を考慮するファミリー・フレンドリー施策の実施を主張している。Konrad & Mangel(2000)は,米国企業 195 社を対象にして,女性比率が高い企業ほど,専門職 者の比率が高い企業ほど,ワーク・ライフ・プログラム(work-life programs)と生産 性(従業員1人当たりの売上高)の間に正の関係が強いという分析結果を報告してい る。本研究では,ワークライフ施策の束と組織のアウトカム,企業にとって最も重要 な戦略的目標の1つである,企業の財務業績との関係を,東京証券取引所上場企業 109 社から得たデータを用いて分析を行うことにする3)。 2 理論的フレームワークと仮説
Perry-Smith & Blum(2000)の理論的フレームワークには次のような特徴がある。 第1は,ワークライフ施策について,束(bundle)アプローチをすることである。束 アプローチは,個別の施策ではなく諸施策の全体,システムに焦点をあてている。束 型整合性(fit as bundle)は,個々の施策の最適な組み合わせがシナジーを創出し,ハ イパフォーマンスをもたらすことを想定している。それには各施策間の組み合わせの 様式が積算的(multiplicative)であるという特徴がある(Guest, 1997; 竹内, 2003)。 束アプローチによって,人事施策の束のほうが,個々の施策の合計よりもより広い, 高いレベルの効果を把握することができる。その結果,企業レベルの効果を分析する には,このアプローチがより適切である(Becker & Gerhart, 1996)。
ワークライフ施策には,扶養家族にケアを提供する施策,柔軟な勤務形態,情報と 照会サービスおよび金銭的な援助,などがある(咸,2004)。これらは束の一部分をな
すもので個別の施策のタイプを示す。ワークライフ施策の束とは,「従業員が非仕事役
割を果たすのに助けになる相互補完的関係にある,いくつかのケースでは,代替ある いは重複の関係にある,複数の人事施策からなる1つの人事施策グループを意味する (Perry-Smith & Blum, 2000, p. 1107)」。
第2に,ワークライフ施策の束と組織のアウトカムとの関連を「象徴的行為理論 (Pfeffer, 1981)」と「資源ベース理論(Barney, 1991)」とを統合した理論的フレーム ワークによって説明することである。象徴的行為理論では,組織の行う重要な関心事 あるいは特別な扱いを象徴化する行為が,それらの実際的な内容に関係なく,組織に 無形のベネフィットをもたらすとされている。ワークライフ施策の束を提供する組織
の行為は,現在および将来の従業員が組織の哲学や価値観について意思決定できるよ う彼(女)らにシグナルを出す行為である。ワークライフ施策の束は,組織が従業員 福祉に関心を持っていることを象徴化し,それを示す価値システムとなる。 ワークライフ施策がそれほど普及していない段階では,企業が,従業員のワークと ライフのコンフリクトを軽減し,従業員に安心を与えるワークライフ施策を従業員に 提供することに対して,従業員は特別な扱いを受けていると思うだろう4)。こうした 従業員志向価値観のワーク・コンテクストでは,返報性メカニズムが働き,従業員は 余分に努力すること,組織の成功により関心を持つこと,あるいは組織の目標を内面 化することにより組織に応えようとする。その結果,組織のアウトカムが向上する (Ostroff, 1992; 坂爪, 2002)。 資源ベース理論によると,ワークライフ施策の束は,持続的な競争優位の源泉にな る資源の1つである。資源ベース理論の基本的な仮定は,組織が競争優位を獲得し持 続すれば成功するということである。資源ベース理論は,企業の持つ資源が独自かつ 移動不可能なものであると仮定し,企業は希少かつ模倣困難な資源の蓄積が重要であ ると指摘している。資源には3つのタイプがある。第1のタイプは,物理的資源 (physical capital resources)である。それには工場で使用する物理的技術,企業の工 場・装備,企業の地理的立地が含まれる。第2は,人的資源(human capital re-sources)であり,それにはマネジャーと従業員のトレーニング,経験,判断,知識, 関係,洞察が含まれる。第3は,組織資源(organizational capital resources)である が,それには企業の公式的な報告構造,企業の公式・非公式の計画,コントロール, 調整のシステムおよび企業内外の利害関係者との社会的関係が含まれる。HRM は人的 資源と組織資源に大いに影響をあたえている。それゆえ,HRM は,競争優位を獲得す るための資源として用いることができる。しかしHRMが競争優位の獲得するための 手段として,どの程度使用可能であるかは,組織が置かれている環境に部分的に規定 される。 資源ベース理論では,資源の価値創出の核となるものは模倣困難性である。模倣困 難な資源がもつ主な特徴として,次の2つをあげることができる。それらは,経路依 存性(path dependency)と因果関係の曖昧さ(causal ambiguity)である5)。
ワークライフ施策の束が,組織のアウトカムに影響をあたえる複雑なメカニズムに は,競合者の模倣の可能性を阻害する因果関係の曖昧さが存在する。一連の多数の施 策によって生み出されたシナジーと,またそれが反映する組織の哲学や価値観は競合 者の模倣を妨げる。非経済的な要因,例えば,マネジャーの価値観や態度である。そ れが多数のワークライフ施策の企業への採用を阻害するということである。つまり, 企業のワークライフ施策の採用が複雑で困難なことであることが模倣を妨げる要因と なる。例えば,ワークライフ施策として従業員に仕事上の自律性が与えられるとき, ― 137 ― ワークライフ施策と企業業績との関係に関する実証分析
一方では,マネジャーの従業員へのより多い信頼を必要とするし,他方では,マネ ジャーの従業員に対するより多いコントロールを放棄することが要求される。組織に よっては,組織パラダイムにおける基本的な転換を必要とするので,幅広いワークラ イフ施策の束を採用することは容易ではない。幅広いワークライフ施策を1つのセッ トで採用する企業は数少なく,この希少性がワークライフ施策の束が持続的な競争優 位の源泉になる可能性を高めている。 仮説1 より幅広いワークライフ施策の束を採用する企業ほど,企業業績は 高い。 次に,ワークライフ施策の束と組織のアウトカム間の関係をモデレートする組織属 性として,企業規模,企業年齢および女性比率を取り上げ,次のような仮説が設定さ れる。 「企業規模」は,企業が制度的要請あるいは制度的圧力に順応する度合いを示す1 つ の 指 標 で あ る 。 企 業 規 模 が 大 き い ほ ど , 制 度 的 圧 力 に 順 応 す る 傾 向 が あ る (Goodstein, 1994; 咸, 2002a)。企業は制度的圧力に順応することによって正当性と存 続保障を獲得する(Meyer & Rowan, 1977)。規模が大きい企業ほど,ワークライフ施 策の採用によりより多いベネフィットが得られる。 規模が大きい企業ほど,ワークライフ施策を採用する傾向がある(Goodstein, 1994; Ingram Simons, 1995; 咸, 2001)。規模が大きい企業ほど,採用の先頭に立ち,初期採 用者としての有利な地位にある。たとえ規模が小さい企業は,容易にワークライフ施 策を採用することが可能であっても,これらの施策がある程度確立された時期に採用 する可能性が高く,施策の確立段階での採用は,これらの施策採用による潜在的な競 争優位は低下する。 一連の多数の施策は,不確実な環境の下では,企業にそうした環境への持続的な適 合の維持を可能にする柔軟性を提供する。こうした柔軟性は,とくに規模が大きい企 業ほど有益である。なぜなら,規模が大きい企業ほど,変化を阻害するより強い慣性 と硬直さを内在している傾向があるからである。しかし規模が小さい企業には,それ 自体にすでに柔軟性が存在しているので,規模が大きい企業に比べ,一連の多数の施 策に基づく柔軟性の重要度は低い(Wright & Snell, 1998)。
仮説2 a ワークライフ施策の束と企業業績との関係は,規模が大きい企業ほ
ど強い。
にある(Martinez & Dacin, 1999; Meyer & Rowan, 1977)。正当性と重要資源へのアク セスは,企業年齢が低い企業にとって,非常に重要なことであり,それに比べて効率 性の重要度は低い。したがって,企業年齢が低い企業ほど,施策についてのコストと ベネフィットの分析が明確でない場合,正当性があるように見せるための形式的な採 用が多い。類似した状況下では,企業年齢が高い企業ほど,効率性と正当性とのバラ ンスを考慮する可能性が高く,こうしたアプローチは形式的採用よりもより有効的で ある。 仮説2 b ワークライフ施策の束と企業業績との関係は,年齢が高い企業ほど 強い。 企業は,労働力のような重要な内部資源のニーズに対応することによって,それを コントロールしている(Pfeffer & Salancik, 1978)。ワーク・ライフ・バランスのニー ズは,女性にとって顕著なニーズの1つである。企業が女性をどの程度雇用している のかは,ワークライフ施策の採用の規定要因の1つになっている(Goodstein, 1994; Ingram & Simons, 1995; Milliken, Martins, & Morgan, 1998; 咸, 2001)。ワークライフ施 策が価値のある施策だと思う従業員の比率の高い企業ほど,これらの施策を採用する ことによって,とりわけ象徴的な価値をより多く得られることが予想される。 仮説2 c ワークライフ施策の束と企業業績との関係は,女性比率が高い企業 ほど強い。 3 方 法 (1)サンプル 本人は,2000 年4月から5月にかけて「イノベーティブな報酬制度と人事戦略に関 する調査」を行った。調査の対象は『会社四季報(1999 年度版)』に人事担当役員氏 名が明記されている企業(東京証券取引所上場企業)1,470 社であり,質問票を人事 担当役員宛に郵送し,同じく回答も郵便で回収した。有効回答数は109 社であった。 サンプルを企業規模別,業種別および企業年齢別にみると,次の通りである。企業 規模別には,300 人未満 9.2 %,300 ∼ 999 人 26.6 %,1,000 ∼ 1,999 人 26.6 %,2,000 ∼ 4,999 人 21.1 %,5,000 人以上 16.5 %である。業種別には,建設業 4.6 %,製造業 55.0 %,卸売・小売業,飲食店 15.6 %,サービス業 22.9 %,その他 1.8 %である。企 ― 139 ― ワークライフ施策と企業業績との関係に関する実証分析
業年齢別には,10 ∼ 29 年 3.7 %,30 ∼ 49 年 21.1 %,50 ∼ 74 年 44.0 %,75 年以上 31.2 %である。 サンプルの特徴は,企業規模別には5分の3以上が従業員数1,000 人以上,業種別 には2分の1以上が製造業,企業年齢別には5 分の4 以上が企業年齢 30 年以上である。 (2)測定尺度 1)従属変数 「企業業績」は,2種類の尺度を使用した。1つは「最近3 年間(1997 年度∼ 1999 年度)経常利益」で,「客観的企業業績」である。赤字の年はなかった=3,1年だ け赤字の年があった=2,2年赤字の年があった=1,3年間赤字だった=0という 値をあたえて測定した。もう1つは「同業他社と比較した場合,貴社の最近3 年間 (1997 年度∼ 1999 年度)経常利益」で,「主観的企業業績」である。上回っている=2, 同じ程度=1,下回っている=0という値を与えて測定した6)。 2)独立変数 「ワークライフ施策」を測定する項目である。これは会社内保育所,保育所費用援 助,育児情報サービス,出産休暇制度,育児休業制度,介護休業制度,フレックスタ イム制度,在宅勤務制度の8つからなっている。ある=1,なし=0という値をあた えて測定した。 3)モデレーターと統制変数 ワークライフ施策の採用や企業の業績に影響を与える諸要因,具体的に,組織のコ ンテクストや戦略,「ハイパフォーマンス HRM プラクティス」のなかで,最も重要な
役割をはたす「ハイコミットメント作業システム(high commitment work systems)」 を統制変数として用いた7)。「産業」(製造業=1,非製造業=0),「市場競争」(まっ たくそう思う=5,ほとんどそう思う=4,どちらかといえばそう思う=3,どちら かといえばそう思わない=2,ほとんどそう思わない=1,まったくそう思わない= 0),「事業戦略」(攻撃型=3,分析型=2,防御型=1,受動型=0;この類型は Miles & Snow(1978)の戦略類型に基づくものであり,点数が多いほど「攻撃志向型
戦略」である),「組合」(有=1,無=0),「価値観」は企業の家族問題への関与に
対する考え方を,事業戦略と同様に6点尺度で測定した。「ハイコミットメント作業シ
ステム」が次の4つ項目で測定された。それらはQC(有=1,無=0),TQM
(有=1,無=0),自主管理チーム(有=1,無=0)およびジョブ・ローテーショ
モデレーターとして,「企業規模」および「企業年齢」は,対数変換した数値を用い た。「女性比率」は正規従業員数に占める女性の比率の数値を用いた。 4 分析結果 表1は,ワークライフ施策8つの項目を使用して因子分析(主成分分析による抽出, その後,バリマックス回転)を行った結果である。因子分析によって3つの因子が抽 出された。3つの因子までで分散の62.5 %が説明された。これらの3つの因子各々に ついて,第1因子はワークライフ施策のうち,休暇・休業に関する項目の因子負荷量 が高いことから「休暇・休業施策」と名づけた。第2因子は,保育所費用援助,育児 情報サービスの項目の因子負荷量が高いことから「費用・情報提供施策」と名づけた。 第3因子は,この因子に対する因子負荷量が高い項目が会社内保育所,フレックスタ イム制度,在宅勤務制度であるが,「柔軟な勤務形態施策」と名づけた。 表1 ワークライフ施策項目の因子分析結果 表2は,ワークライフ施策のクラスター分析結果である。各企業の因子スコアを求 めてクラスター分析(Ward’s Minimum Cluster Analysis)を行い,4つのグループに 分けた。グループ1は,休暇・休業施策と費用・情報提供施策の採用度合いが相対的 に低く,柔軟な勤務形態施策も採用するグループであり,このグループに属する企業 の比率は7.3 %(8社)である。グループ2は,柔軟な勤務形態施策と費用・情報提 供施策の採用度合いが相対的に低く,休暇・休業施策も採用するグループで,このグ ― 141 ― ワークライフ施策と企業業績との関係に関する実証分析 因子1 因子2 因子3 会社内保育所 0.009 0.445 [0.586] 保育所費用援助 −0.052 [0.905] −0.023 育児情報サービス 0.085 [0.849] −0.010 出産休暇制度 [0.451] 0.012 0.412 育児休業制度 [0.912] −0.053 0.039 介護休業制度 [0.859] 0.085 −0.081 フレックスタイム制度 0.011 −0.020 [0.688] 在宅勤務制度 0.005 −0.084 [0.683] Eigen value 1.784 1.755 1.462
ループに属する企業の数が最も多く,47.7 %(52 社)である。グループ3は,費用・ 情報提供施策の採用度合いが相対的に低く,休暇・休業施策と柔軟な勤務形態施策も 採用するグループで,それに属する企業の比率は,グループ2よりは低いが,37.6 % (41 社)である。グループ4は,休暇・休業施策,柔軟な勤務形態施策および費用・情 報提供施策を採用するグループで,それに属する企業の比率は7.3 %(8社)である9)。 表2 ワークライフ施策項目のクラスター分析結果 表3は,本研究で使用している諸変数の平均値,標準偏差および相関係数を示す。 客観的企業業績と主観的企業業績の相関は,有意な正の関係(r=0.35,p< 0.01) である。主観的企業業績と事業戦略との相関は,有意な正の関係(r=0.26,p< 0.01)である。企業規模と企業年齢の相関は,有意な正の関係(r= 0.21,p< 0.05) である。企業規模と市場競争の相関は,有意な負の関係(r=-0.23,p< 0.05)であ る。企業規模と事業戦略の相関は,有意な正の関係(r=0.21,p< 0.05)である。 企業規模とジョブ・ローテーションの相関は,有意な正の関係(r=0.28,p< 0.01) である。企業年齢と市場競争の相関は,有意な負の関係(r=-0.20,p< 0.05)であ る。企業年齢とジョブ・ローテーションの相関は,正の関係(r=0.19,p< 0.05) である。女性比率と組合の相関は,有意な負の関係(r=-0.19,p< 0.05)である。 女性比率と QC の相関は,有意な負の関係(r=-0.31,p< 0.01)である。女性比率 と TQC の相関は,有意な負の関係(r=-0.31,p< 0.01)である。組合と価値観の相 関は,有意な負の関係(r=-0.20,p< 0.05)である。事業戦略と QC の相関は,有 意な正の関係(r=0.24,p< 0.05)である。事業戦略とTQM の相関は,有意な正の 関係(r=0.20,p< 0.05)である。 クループ1 グループ グループ3 グループ4 休暇・休業施策 −3.20 (1.44) 0.21 (0.28) 0.31 (0.09) 0.23 (0.28) 費用・情報提供施策 −0.03 (0.85) −0.63 (0.31) −0.36 (0.24) 3.19 (1.30) 柔軟な勤務形態施策 0.11 (0.85) −0.23 (0.03) 0.75 (1.02) 0.10 (1.35) 企業規模 3.06 (0.30) 2.98 (0.52) 3.37 (0.40) 3.55 (0.33) 企業年齢 3.96 (0.30) 4.05 (0.37) 4.17 (0.34) 4.15 (0.43) 女性比率 18.43 (9.21) 18.01 (10.61) 17.02 (10.22) 29.54 (17.65) N 8 52 41 8
― 143 ― ワークライフ施 策 と 企業業績と の 関係に 関 す る 実証分析 表3 諸変数の平均値,標準偏差および pearson 相関係数 変 数 名 平均 標準偏差 相 関 係 数 (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (11) (12) (1) 企業業績 2.56 0.74 1.00 (2) 主観的企業業績 0.99 0.75 0.35** 1.00 (3) 企業規模 3.17 0.50 0.08 0.15 1.00 (4) 企業年齢 4.10 0.36 −0.03 −0.16 0.21* 1.00 (5) 女性比率 18.52 11.31 −0.003 0.08 0.002 0.03 1.00 (6) 組 合 0.84 0.36 −0.11 −0.11 0.20* 0.38** −0.19* 1.00 (7) 市場競争 0.98 0.14 −0.08 0.09 −0.23* −0.20* 0.14 −0.06 1.00 (8) 事業戦略 1.57 0.85 0.10 0.26** 0.21* −0.07 −0.02 −0.09 0.09 1.00 (9) 価 値 観 2.82 1.02 0.03 0.01 −0.01 −0.08 −0.05 −0.20* −0.03 −0.03 1.00 (10) Q C 0.57 0.50 0.08 0.01 0.16 0.11 −0.31** 0.06 −0.12 0.24* 0.05 1.00 (11) T Q M 0.44 0.50 −0.03 −0.07 0.17+ −0.06 −0.31** −0.05 −0.02 0.20* 0.06 0.55** 1.00 (12) 自主管理チーム 0.15 0.36 0.07 0.11 0.16 −0.01 −0.11 0.10 0.06 0.04 0.07 0.19+ 0.05 1.00 (13) ジョブローテーション 0.61 0.49 −0.12 0.09 0.28** 0.19* 0.09 0.10 −0.11 0.04 0.08 0.29** 0.16 0.23** +P<0.10 *P<0.05 **P<0.01
表4 共分散分析(ANCOVA)の結果(LS 平均値と標準誤差) 表5 主観的企業業績の共分散分析の結果 クループ1 グループ2 グループ3 グループ4 F値 P値 企業業績 1.587 (0.375) 2.554 (0.133) 2.511 (0.163) 4.137 (0.761) 1.90 0.134 主観的企業業績 0.449 (0.337) 0.946 (0.120) 0.934 (0.146) 1.777 (0.684) 3.41 0.022 N 8 34 49 6 Source 自由度 平方和 平均平方和 F値 P値 Model 24 17.798 0.742 1.56 0.076 Error 72 34.202 0.475 Total 96 52.000 R−Square 0.342 Source 自由度 平方和 平均平方和 F値 P値 グループ 3 4.866 1.622 3.41 0.022 業 種 1 0.110 0.110 0.23 0.632 企業規模 1 0.242 0.242 0.51 0.478 企業年齢 1 1.485 1.485 3.13 0.081 女性比率 1 0.046 0.046 0.10 0.756 企業規模×グループ 3 0.628 0.209 0.44 0.725 企業年齢×グループ 3 2.205 0.735 1.55 0.210 女性比率×グループ 3 3.715 1.238 2.61 0.058 組 合 1 0.095 0.095 0.20 0.655 市場競争 1 0.154 0.154 0.32 0.570 事業戦略 1 2.320 2.320 4.88 0.030 価 値 観 1 0.005 0.005 0.01 0.916 Q C 1 0.165 0.165 0.35 0.557 T Q M 1 1.620 1.620 3.41 0.069 自主管理チーム 1 0.012 0.012 0.03 0.872 ジョブローテーション 1 0.127 0.127 0.27 0.607
表4は,仮説をテストするために共分散分析を行った結果を示す。推定モデルに統 制変数とモデレーター,モデレーターとグループの交互作用項を投入し共分散分析を 行った。「客観的企業業績」については,グループ1とグループ2の間には有意差が存 在する。グループ1とグループ3の間にも有意差が存在する。グループ1とグループ 4間にも有意差が存在する。「主観的企業業績」については,グループ1とグループ4 間のみに有意差が存在する。「客観的企業業績」については,仮説1のような傾向がみ られるので,仮説1は部分的に支持された。交互作用項が有意であることが確認され たのは,「主観的企業業績」についての女性比率とグループの交互作用のみであった (表5)。仮説2 c は部分的に支持された。 5 考察 以上,ワークライフ施策の束が,企業のコンテクストや戦略,ハイコミットメント 作業システムとは関わりなく,企業の財務業績に直接的に影響を与える人事施策であ るかを探るために分析を行ってきた。分析結果は次の通りである。第1に,ワークラ イフ施策の束と客観的企業業績間には正の関係があることが認められ,仮説1は部分 的に支持された。つまり,より幅広いワークライフ施策の束を採用する企業ほど,客 観的企業業績が高いという分析結果が得られた。ワークライフ施策の束と企業業績間 の正の関係は,Perry-Smith & Blum(2000)の理論的フレームワークに基づくと,ワー クライフ施策の束が,企業の持続的な競争優位の源泉であると同時に,企業の哲学や 価値観を反映するシステムとして企業に価値を付与し,企業業績の向上に結びつくと 説明できる。 第2に,ワークライフ施策の束と主観的企業業績間の関係のモデレーターが女性比 率であることを見出した。すなわち,ワークライフ施策の束と主観的企業業績の関係 は女性比率が高いほど強いという分析結果を得た。
Perry-Smith & Blum(2000)の研究結果は,より幅広いワーク・ファミリー施策の 束を採用している企業ほど,組織業績,マーケティング業績および利益・売上高の成 長率が高く,またワーク・ファミリー施策の束と利益・売上高の成長率間のモデレー ターとしては,企業年齢と女性比率を見つけた。本研究と Perry-Smith & Blum(2000)
の研究で用いた諸変数は異なるが,彼らの分析結果と概ね一致するといえる10)。彼ら の象徴的行為理論と資源ベース理論を統合した理論的フレームワークが,日本におい てある程度の適用可能性があることが確認できたといえよう。しかしながら,彼らの 理論的フレームワークは,施策の制度化の初期段階においてもっと妥当なものである と考えられる。なぜなら,施策の制度化の初期段階において,施策の採用による象徴 ― 145 ― ワークライフ施策と企業業績との関係に関する実証分析
的価値はより高く,また一連の多数の施策の束として,ワークライフ施策を採用する 企業は数少ないと考えられるからである。 本研究の限界としては,次のようなことがあげられる。第1 に,サンプルに偏りが あることである。有効回答の回収率(7.4 %)が低い。第2に,測定尺度上の問題であ る。まず,ワークライフ施策の測定尺度である。本研究では,調査時に企業の多くが 実施している施策を中心にそれらを施策項目に取り入れ,それらに対して同じ重み付 けをしている点である。施策によって,同じ施策でもその実施方法によって,企業の 業績への効果が異なることを考慮し,施策の数・種類の増加や異なる重み付けなどの 工夫が必要であろう。次に,企業業績の測定尺度である。本研究は,企業にとって, 最も重要な戦略的目標の1つである企業の財務業績(3年間の経常利益)を取り上げ, それを主観的な方法で測定している。企業業績は客観的に把握できるデータを使用す るのが望ましく,そうすることによって common method variance の問題も解決でき る。しかし本研究での客観的企業業績と主観的企業業績の相関は,有意な正の関係 (r=0.35,p< 0.01)であった。第3に,本研究が横断的な研究であることである。 横断的な研究では因果関係が確定できない。幅広い施策の束を採用しているので,企 業業績が高いか,その逆に,企業業績が高いから,幅広い施策が採用できたかは確定 できない。 今後の課題としては,次のようなことを考慮したより包括的な理論モデルを開発す ることである。第1に,本研究は,ワークライフ施策が,直接的に組織のアウトカム に影響をあたえるメカニズムを解明することを目的としたものではなかった。しかし ワークライフ施策と企業業績の間に存在するブラック・ボックスを解明する必要があ る。つまりワークライフ施策と組織のアウトカム間の媒介変数がなにかを明らかにす ることである。媒介変数には,組織コミットメント(Perry-Smith & Blum, 2000),組 織の市民行動(Sun, Aryee, & Law, 2007),働きやすさ(坂爪,2002)などがあげられ ている。第2に,組織のアウトカムとしては,企業の財務業績のほかに,離職,生産 性,品質やサービスなどを,またモデレーターとしては,ワークライフ施策の競争優 位の低下をもたらす環境要因,例えば,産業連結度や地域ベースのワークライフ施策 の入手可能性(Perry-Smith & Blum, 2000)などを用いることである11)。
注
1) 本研究では,ワークライフ施策(work and life programs)は,ワーク・ファミリー施策 (work and family programs),ファミリー・フレンドリー施策(family friendly programs)
と同義語として使用されている。
2) HRM(Human Resource Management)と組織のアウトカム(organizational outcomes)と の関連に関する研究には,ベストプラクティス・パースペクティブ(best practice
perspec-tive),コンティンジェンシー・パースペクティブ(contingency perspective),コンフィギュ
レーショナル・パースペクティブ(configurational perspective)といった3つのパースペク
ティブがある。Pfeffer(1997)は,ベストプラクティス パースペクティブから,「ハイパフォ
ーマンスHRMプラクティス」として,次の7つの施策をあげている。すなわち,それらは。 雇用保障,厳選した採用,自己管理チームと権限の委譲,組織の業績に応じた比較的に高い 報酬,幅広い訓練,待遇の平等化,業績情報の共有である。ハイパフォーマンス HRM プラ クティス(High Performance HRM Practices)は,「High Involvement HRM Practices」ある いは 「High Performance Work Systems」とも呼ばれている。
3) 既存の研究(Huselid, 1995; Delaney & Huselid, 1996; Harel & Tzafrir, 1999)では,HRM の従 属変数である組織のアウトカムとして,客観的あるいは主観的に測定された財務業績が使用 された。経営者や株主にとっては,企業目標達成が確認できる最も客観的な指標の1つが財 務業績である。しかしながら,企業には,経営者や株主以外に,多様な利害関係者が存在す るので,HRMが多様な利害関係者にどのような影響をあたえるかを考慮すべきであるとの 指摘(Boselie, Dietz, & Boon, 2005; Schuler & Jackson, 2005)がある。
4) Greenhause, & Beutell(1995)によると,ワーク・ファミリー・コンフリクトとは,個人の
仕事領域と家族領域における役割要請がいくつかの観点で,互いに両立しないような役割葛 藤の一形態のことである(藤本, 1998; 坂爪, 2002)。 5) 資源の蓄積において経済学者が経路依存性(path dependency)と呼ぶ性質があるために模 倣が困難な場合がある。とくに目に見えない資源,例えば,企業文化の場合,それがどのよ うな経路を経て,蓄積されたかを正確に把握するのは不可能に近く,たとえ把握できたとし ても再現するのは困難である。因果関係の曖昧さ(causal ambiguity)が存在すると,潜在 的な模倣者がなにを,いかにして模倣するかがわからなくなる(蔡, 1998)。 6) 本研究では,組織のアウトカムとして,組織の財務業績,とりわけ経常利益を使用している。 人事担当役員に対して,次の2つ項目について答えを求めた。1つは過去3年間赤字が何回 あったかという事実を聞く項目,もう1つは過去3年間同業他社に比べて,経常利益がどう であったかを聞く項目である。測定方法は主観的方法であるが,前者の項目では事実を聞く という意味合いで客観的企業業績としている。
7) 人事施策の統制変数として,Perry-Smith & Blum(2000)では,先進的な人事施策(スタッ ― 147 ―
フの選考,訓練の有効性,インセンティブ報酬,苦情処理,分権的意思決定)が,坂爪
(2002)では,個人を尊重する人事施策(人材マネジメント方針の整合性,貢献期待の明確
化,仕事プロセスにおける自律性の尊重など)が用いられた。
8) Osterman(1995)の「high commitment work systems」 あるいは「high performance work
systems」は Osterman(1994)の「flexible work organizations」と類似したものである。
「ハイコミットメント作業システム」という用語は,製造業に由来するが,その概念自体は他 の産業にも適用できる(Osterman, 1994)。本研究において,ハイコミットメント作業システ ム施策各々の採用状況を,業種別にみると,「QC」を採用している企業は59 社で,建設業 1 社,製造業50 社,サービス業8社であった。「TQM」を採用している企業は45 社で,建設業 4社,製造業36 社,小売・卸売業・飲食店1社,サービス業4社であった。「自主管理チー ム」を採用している企業は15 社で,製造業9社,小売・卸売業・飲食店1社,サービス業が 5社であった。「ジョブ・ローテーション」を採用している企業は65 社で,建設業4社,製 造業37 社,小売・卸売業・飲食店8社,サービス業 15 社,その他1社であった。 9) 本研究でのワークライフ施策の採用状況は次の通りである。1つ採用1社(0.9 %),2つ採 用12 社(11.0 %),3つ採用 27 社(24.8 %),4つ採用 36 社(33.0 %),5つ採用 22 社 (20.2 %),6つ採用6社(5.5 %),7つ採用 4 社(3.7 %),採用施策なし2社(1.8 %)であ った。
10) 本研究,Perry-Smith & Blum(2000),両方の研究結果は,企業が幅広い施策を採用すれば 企業業績が向上する,また施策の適用者が多いほど,企業の業績が向上するということを意 味する。しかしながら,企業が施策を採用するのには時間とコストがかかるし,単純に more is betterであるととらえるのは,注意が必要であると考えられる。この点は今後の研究課題 である。
11) Dyer & Reeves(1995)は,HRM 研究における組織の有効性(effectiveness)を人的資源ア
ウトカム(欠勤,離職,個人あるいは集団のアウトプット),組織のアウトカム(生産性,品
質,サービス),財務的アウトカム(ROI, ROA)の3つのアウトカムに分けている。
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