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炎症研究の新しい展開に向けて

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Academic year: 2021

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炎 症VOL.20 NO.6 NOVEMBER 2000 647

JAPANESE JOURNAL OF INFLAMMATION EDITORIAL

Contemporary topics in immunology and inflammation Kiyoshi Takatsu*

炎 症 研 究 の 新 しい展 開 に向 け て

高 津 聖 志*

生 命体 は個 体 と して の恒 常 性(ホ メ オ ス タ シ ス)を 維持 す るた め に感 染 寄 生体,外 来 物 質 な どの侵 入 を排 除 す る必 要 が あ る.哺 乳 動 物 は進 化 の過 程 を通 じて免 疫 シス テ ム を獲 得 し,改 良 して きた.免 疫 シス テ ム はそ の担 当細胞 の恒 常 的 な 自己 新 生 に基 づ い て維 持 され る点 に特 徴 が あ り,そ の 中核 に位 置 す るの が 血球 系幹 細 胞 で あ る.こ の細 胞 は 自己 複 製 を繰 り返 す の み な らず,娘 細 胞 を産 生 す る こ とに よ り免 疫 系 の恒 常 性維 持 の源 と して 大 き く寄 与 して お り,再生組 織 や遺 伝 子 を用 い た細 胞 治療 に適 して い る. 血 球 系 幹 細 胞 か ら免 疫 ・炎 症 の制 御 に関与 す る細 胞 群 の分 化,そ れ らが器 官(組 織)を 構 成 す る一 連 の場 の形 成,細 胞 応 答 に不 可 欠 の外 因性 因 子,そ れ に対 応 す る細 胞 応 答 の分 子 機 序 の理 解 が必 要 で あ る こ とはい う まで もな い. 免 疫 シ ス テム は大 き く自然 免 疫 と獲 得 免疫 に分 類 で きる.自 然 免疫 に関与 す る細 胞 群 は直 接 外 界 と接 触 す る粘 膜 組 織 にお いて 侵入 異 物 を感 知 し,一 次 防御 機 構 を発 動 す る.自 然 免 疫 に よ る防御 に引 き続 き,獲 得 免疫 が作 動 し全 身 に配 置 され た リ ンパ 組 織 にお け る二 次 防 御 反 応 を開始 す る.獲 得 免 疫 は,リ ンパ 球 の免 疫 記憶 に よ り予 想 され る異物 の再 侵 入 へ の準備 を可能 に す る と と もに,再 侵 入 に対 し迅 速 に対 応 す る.免 疫 シス テ ム を構 成 す る各 免疫 器 官 ・免 疫 細 胞 群 の認 識 ネ ッ トワ ー クが 障 害 され た と きに 免 疫 異常 を示 し,感 染 症,免 疫 不 全,自 己 免 疫疾 患 な どが起 こ り,ア レル ギ ー疾 患や 慢 性 炎症 な どの免 疫 病 が 惹起 され る.自 然 免 疫 と獲得 免 疫 は そ の構 築 と機能 にお い て オ ー バ ー ラ ップ し,か つ 相 互 に連 携 しつ つ機 能 す る シス テ ム と して捉 え る こ とが で き る.ペ プチ ド抗 原 を用 い た獲 得 免 疫 の研 究 か ら,(1)ペ プ チ ド以 外 の抗 原,糖 脂 質 な ど に対 す る 自然 免 疫 が どの よ う に して起 こる のか,病 原微 生物 の感 染 初 期 に 自然 免疫 が どの よ う に機 能 す る のか,自 然免 疫 の活 性 化 が 獲 得 免 疫 の発 生 や活 性 化 に如 何 に影響 す るか,(2)免 疫 応 答 に関 与 す る細 胞 の発 生,免 疫 応 答 の “場 ”で あ る免 疫 器 官(組 織) の形 成 や発 達 は どの よ う に制 御 され て い るの か,な どが 重 要 な研 究 課 題 に浮 か び上 が って きた.造 血 幹 細 胞 か ら自然 免疫 や粘 膜 免 疫 に関 与 す る細 胞 群 へ の分 化 の系 譜 の 決 定 とその 制御,免 疫 器 官 形 成 や 発達 の決 定 と制 御 機 構 を明 らか にす る必 要 が あ る.

*DepartmentofMicrobiology and Immunology , Division of Immunology, Institute of Medical Science, Univercity of Tokyo 東 京 大 学 医 科 学 研 究 所 感 染 ・免 疫 部 門 免 疫 調 節 分 野

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648 炎 症VOL.20 NO.6 NOVEMBER 2000 そ れ に関 連 して,遺 伝 的 内在 プ ロ グ ラム,分 化 に かか わ る分 子 や遺 伝 子 の 同定,転 写 制 御,シ グナ ル伝 達 の分 子 機 構 を明 らか にす る必 要 が あ ろ う. ア レル ギ ー,自 己免 疫 疾 患 な どの 克服,移 植 片 拒 絶 反 応 の制 御 は社 会 的 ニ ー ズ の 高 い課 題 として 緊 急 の対 応 が 急 が れ て い る.SLEや リウマ チ とい った典 型 的 な 自己 免疫 疾 患 か ら問 質性 肺 炎,ク ロー ン氏 病,サ ル コイ ドー シ ス,血 管 炎 症 候 群 とい った疾 患 も広 義 の 免疫 病 と考 え る こ とが で き るが,現 在 もその 本 態 が不 明 で あ り根 本 的 な治療 法 は少 な い.近 年,再 生 医 療,細 胞 治療,遺 伝 子 治 療 の重 要性 が認 識 され て い るが, その いず れ もが外 因 性 の 遺 伝 子 も し くは遺 伝 子 産 物 や細 胞 を利 用 し,器 官 あ るい は シ ス テ ム を標 的単 位 と した 治 療 法 で あ る.こ れ らの治療 法 を有効 に実践 してい くために は,各 免 疫 系 を構 築 す る器 官 の形 成 ・発 達,お よび細 胞 の機 能 発 現 の関 す る遺 伝 子 の カ ス ケ ー ドを解 明 す る必 要 が あ る.免 疫 ・炎症細胞 の遺伝子改変や移植技術 を用いて, 炎症 の抑 制,組 織 修 復 や再 生 の基 盤 技 術 を開 発 す る こ と,既 存 の遺 伝 子群 に変 異 を導 入 した疾 患 モ デル マ ウス を作 製 し,変 異 遺 伝 子 の機 能 異 常 が 個 体 レベ ル で免 疫 病 態 を もた らす分 子 機 構 を明 らか にす る こ とが 重 要 にな る と思 われ る. 21世 紀 の生 命 科 学 研 究 の大 きな 流 れ と して,生 物 の個 体 発 生 や 機 能分 化 に か か わ る 複 雑 な シ ス テム の 解 明 が期 待 され て い る.遺 伝 学 や逆 遺 伝 学 の 解 析 法 の進 展 に伴 い, 多数 の変 異 個 体 の分 子 遺 伝 学 的解 析 に基 づ き,発 生 ・分 化 や 高 次機 能 調 節 シ ス テ ムの 遺 伝 子 レベ ル で の解 析 が可 能 に な った.各 種 幹 細 胞 の単 離 や 発 生 工 学 的手 法 の開 発 も 目覚 しい.ヒ トの疾 病 を念 頭 にお き,(1)個 体 発 生 や機 能 分 化 を支 え る制 御 シ ス テ ムの 解 明,(2)高 等動 物 の胚 発 生,形 態 形 成 にか か わ る遺 伝 的 内在 プ ロ グ ラム の 同定,(3)発 生 ・分 化 にか か わ る転 写 制 御,シ グナ ル伝 達,お よび種 々 の レベ ル の幹 細 胞 シ ス テム の解 明,(4)組 織 分 化 ・再 生 の制 御,細 胞 分 化 の制 御,発 生 分化 の異 常 と しての 各 種疾 患 の制 御,ま た発 生 分 化 の人 為 的機 能 変換 な どの研 究 の 重 要性 が指 摘 され て い る.ヒ トの全 能 性,多 能 性,お よ び各種 組 織 幹 細 胞 の単 離 増 殖分 化 能 や幹 細 胞 の細胞 株 化 (ES細 胞 な ど)の研 究,試 験 管 内 で の組 織 形 成 の再 現,個 体 内 で の各 種 組 織 の再 生 現 象 の誘 発,人 工 的 な細 胞 運 命 の改 変,分 化 形 質 の恒 常 性 の維 持,再 生 の遺 伝 子 プ ロ グラ ムの 解析,疾 患 の遺 伝 子 治 療 に結 び つ く研 究 方 向 が 積極 的 に模 索 され は じめて い る. 今 後 明 らか に され るで あ ろ うお び た だ しい量 の ゲ ノム情 報 を利 用 し,炎 症 お よび免 疫 病 の 原 因遺 伝 子 を 同定 し,免 疫 病 の修 復 を可 能 とす る医療 技 術 の設 計 は緊 急性 をお びて くる.こ れ らの課 題 を解 決 す るた め に,免 疫 シス テ ム の基 本 原 理 を これ まで とは異 な るア プ ロ ー チ で統 合 的 に理解 し,そ れ を医 療 の 向 上 と発 展 に結 び つ け る基盤 と技 術 の 整備 が重 要 で あ ろ う.今後 炎 症制 御 に関 す る研 究 は この よ うな流 れ の なか で展 開 す る こ とが予 想 され る.炎 症研 究 に他分野 の多 くの研 究者 との共 同研究が必須 にな ると思 わ れ る.今後 の炎 症 研 究,そ れ を リー ドす る学 会 の将 来 構 想 が 重 要 で あ る よ う に思 う.

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