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統合失調症の心理学の問題について エリ・エス・ヴィゴーツキー

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(1)心理科学 第 41巻第 2号 (2020年 12月). 統合失調症の心理学の問題について エリ・エス・ヴィゴーツキー К проблеме психологии шизофрении Л. С. Выготский Советская невропатология, психиатрия, психогигиена. 1932, Т.1, вып.8, С.352-364. 訳:中 村 和 夫 ( 近畿地区 ). て稀になっているという現状にある。. ≪訳者まえがき≫. こうした状況も踏まえて、私が改めてこの論文. ここに訳出したヴィゴーツキーの論文「 統合失. の翻訳を試みたのには次のような事情がある。私. 調症の心理学の問題について」の原著は、 『ソビエ. 事で恐縮だが、2019年 3月に定年退職をしたこと. ト神経病理学、精神医学、精神衛生学』 (1932年、. を契機に、私はこれまで気にはしつつも、遠巻き. 第 1 巻、第8分冊 )に掲載されたものである。柴. にしていただけの精神病理学や心理臨床の領域に. 田義松先生が 1962 年に明治図書から邦訳を出さ. ついて勉強をしようと思い立ち、関連する文献を. れたヴィゴーツキーの『 思考と言語 』を目にした. 読み始めた。その中で、精神科医の北山修著『覆. 人は、その下巻に付録として収録されていた「 精. いをとること・つくること ≪わたし≫の治療報告. 神分裂症における概念の破壊( 精神分裂症の心理. と「その後」 』 ( 岩崎学術出版社、2009年)の中に収. 学の問題によせて ) 」と題する論文を記憶してい. 録されていた「症例E 文字通りの経験が比喩にな. るかもしれない。実は、この二つの論文は同じも. る過程(一九八五) ― 『橋架け』の過程― 」と出会い、. のである。ただし、厳密には、異なる部分がある。. 大いに興味を惹かれた。統合失調症患者では、比. 柴田先生の邦訳は 1932年の原著ではなく、1956. 喩の使用の病理として、比喩の文字通りの意味を. 年に出版された『 ヴィゴーツキー心理学選集 』の. 真に受けて訂正ができない傾向が知られている。. 中に再録されたものであり、32 年版と比べると、. 北山は、患者との面接治療の過程で、患者が「比. ごくわずかではあるが、単語が異なっていたり、. 喩を介してなんとか国語的に共有された発想とつ. 単語や文が省かれていたり、括弧が付されていた. ながりを持てる状態」と「急にすべてをウラの意味. りする部分がある。何よりも気になるのは、単語. に解釈したり文字通りの意味を真に受けたりとい. と文に強調を付された箇所が、32 年版と 56 年版. う状態」の間で「急激な動揺を示したりするが、混. ではまったく異なっていることである。そうであ. 乱から回復するときはいつもこれらの比喩が国語. るならば、ヴィゴーツキーが存命中に発行された. 発想論的共有世界への大きな『かけ橋』となって. 32 年版は著者の校正ないしは確認を経ているは. いる」ことを見出すのである。そして、ここから、. ずであるから、当然にこちらが尊重されるべきで. 文字通りの体験とそれが比喩として語られる体験. あろう。また、現在普及している同じ柴田先生の. の移行過程に注目した治療の技法論的可能性に思. 新訳版『 思考と言語 』 (新読書社、2001年)には、. い至り、面接治療の過程において、患者の、また. この付録は再録されていないので、今日では、多. 患者と治療者との間での比喩の使用と理解の変容. くの人にとって、この論文に触れる機会がきわめ. 過程に注目した実践を試みるのである。 - 48 -.

(2) 中村:統合失調症の心理学の問題について. これは、統合失調症と言語機能の重要な一側面. 説だと控え目に述べられているが ― の裏づけとし. との切り離しがたい関係を物語る、きわめて興味. て、子どもから大人への過渡的年齢期に見られる. 深い知見である。やはり精神科医の加藤敏による. 複合的思考から概念的思考への移行の様相と、統. と、統合失調症の名称の提唱者であるブロイラー. 合失調症患者に見られる概念的思考の崩壊とそれ. は、観念や表象の連合弛緩を統合失調症の基本症. に代わって主役となる複合的思考の様相が、実験. 状とすることで、統合失調症の病態の中核に言語. 的データに基づいて丹念に比較検討されるのであ. の障害を見据えていたという。また、ラカンはブ. る。しかし、同時に、注意すべきは、 「統合失調症. ロイラーの観点を構造論的立場から積極的に打ち. のあらゆる混乱の基本的な核として概念形成機能. 出して、狭義の言語変容だけでなく、幻覚や妄想、. を指摘するとき、まさにこれによって、私たちは、. ひいては統合失調症の病態の核心を主体の言語活. 崩壊の光景全体の、分裂のドラマ全体の心理学的. 動の障害に帰していたという。さらに、加藤は、. 中心を発見するが、しかし、統合失調症の一次的. 自らの治療経験から、統合失調症患者に支配的に. 要因、根本的原因それ自体を発見するのではない。. 見られるディスクールの特徴のひとつに、 「 鏡像. 概念形成機能の破壊は、私たちの見地からは、統. 型のディスクール 」をあげている。鏡像型のディ. 合失調症の過程の最初の結果であり、その前提で. スクールとは「 紋切り型の言語表現に代表される. はない」と述べられていることである。統合失調. ディスクールの系列で、これは既成の日常的な言. 症の全貌の解明には、なおいっそう深い総合的な. 語コードに準拠し、それを模倣し、ほとんど字義. 研究の必要性が認識されてもいるのである。. どおりに反復することからなる 」ものである( 加. 以上の議論の詳細は本文に委ねることになるが、. 藤敏「 分裂病と言語 」イマーゴ、8 月臨時増刊号、. この論文は、また、発生的心理学(発達心理学)と. 1992 年 )。. 精神病理学との関係について、 「過渡的年齢期の心. こうして、北山が注目した、言葉を比喩的に用. 理学は統合失調症を理解する鍵を手渡してくれる. いる能力 ― 言葉を転義に用いたり、言葉の転義. こと、そして反対に、統合失調症の心理学は過渡. を理解したりする能力 ― の力動的な障害は、主. 的年齢期の心理学を理解する鍵を与えてくれるこ. 体の言語活動の障害として、統合失調症の病態の. と」を事実もって証明するよい例にもなっている。. 中核を成していると考えられるのである。ここに、. 統合失調症の臨床像も、時代や社会の変化と共. ヴィゴーツキーの論文との接点とこの論文の持. に大きく変容していると言われている。ほぼ一世. つ重要な意味が見出される。周知のように、ヴィ. 紀前に提起された統合失調症に関するヴィゴーツ. ゴーツキーは、先に、失語症患者に概念的思考の. キーの理論に基づく分析が、はたして、現在の事. 崩壊と結びついて起こる比喩の理解の混乱を見出. 例にどれほど当てはまるものなのか、とくに概念. しているが、同様なことが統合失調症患者にも生. 形成機能の崩壊という本質的なモメントが、かつ. ずるのである。この論文の中で、ヴィゴーツキー. ての事例にも今日の事例にも本質的な共通の位置. は、一連の実験的研究において、概念的思考が崩. を占めうるものかどうか、この論文に示された内. 壊し、高次な心理機能の統合的システムが分裂を. 容について、引き続き検討をしていく価値は大き. した統合失調症患者に、比喩的思考や言葉の転義. いと私には思われるのである。. の理解が深刻に損壊されていることを確認してい. なお、原文には見出しなどはまったく挿入され. る。さらには、思考の混乱だけでなく、知覚や情. ていない。本文中の小見出しは、多少でも読みや. 動の混乱、人格の現実意識と自己意識の混乱も概. すくするために訳者が便宜的に付したものであ. 念形成機能の障害、概念的思考の崩壊と直接に因. る。また、本文中の太字の部分は原文において強. 果的かつ構造的に結びついていると考えている。. 調が付されている部分であり、 [ ]の中は訳者. そして、論文では、このような考え ― まだ仮. による補足である。 - 49 -.

(3) 心 理 科 学 第 41 巻 第 2 号. 理学の特徴とが類似していることは、古くから知. ≪本文≫. られている。早発性痴呆とか若年性精神病といっ た名称そのものに表現されたこの類似が、周知の. はじめに. ように、性的成熟の時期と統合失調症の精神生活. 個々の心理科学の現状を際立たせている最も本. の様相との間で、広範な性格学上の比較をおこな. 質的な特徴は、最近になってとくに強く目立ち始め. うための誘因となったわけである。ドイツではク. た次のような動向にある、ということは、おそらく. レッチマー( Kretschmer, E. )が、ロシアではブ. 疑いえないだろう。すなわち、異なる領域での主た. ローンスキー( Блонский П. П. )がこの類似を. る心理学的な研究がお互いに接近し合い、共通の心. 主張し、しかも、同じように次のことを指摘して. 理学的な法則性 ― その具体的な表われはきわめて. いる。すなわち、一方で嵐のように経過する性的. 多様な形で見出されるのだが ― を明らかにしてい. 成熟期と、他方で始まったばかりの精神病状態と. るということである。とりわけ、このことは、精神. の間に、明確な境界を定めることは時に不可能で. 病理学と発生的心理学ないしは児童心理学に関して. ある、と。研究の過程で私たちもまた、それらを. 当てはまる。これらの領域は、それぞれの研究の何. 実際に取り扱う中で、過渡的年齢期の心理学と統. らかの部分的な結果をたまたま利用することはあっ. 合失調症の心理学というこの問題へと導かれた。. ても、最近まで、お互いにほとんど独立に研究され. しかし、私たちがこの論文の中でその結果につい. ていた。しかしながら、心理学的な法則はそれがど. て述べたいと思っているこれらの研究は、また、. のような形で表われようと共通である、という確信. 統合失調症の心理生活の本質に関する一般的な特. は、ますます研究者の頭脳を捉え始めている。そこ. 徴について、私たちが若干の理論的考察をおこな. で、二つの方向からおこなわれている試みに注目し. うための契機となっているこれらの研究は、これ. てみよう。それらは、心理機能をその発達と崩壊の. までに確立された見解によって支持されるものと. 中で実際に比較研究する試みと、これらの過程の構. は正反対の結論をもたらしている。. 造とはたらきの法則を、教養ある大人におけるその. 私たちの比較分析の重要な転機となったのは、. 正常な状態の中で明らかにする試みである。とく. 概念形成の過程である。子どもの思考や少年少. に、私たちは、自らの実験的および臨床的研究の中. 女( 訳注 2)の性的成熟期への突入に伴う思考の漸次. でこのような方法を採用し、この研究方法の実り豊. 的な変化を研究することにより、私たちは、一連. かさを確認できた。精神病理学的な研究と発生-心. の実験的研究の共通の事実的結論として、次のよ. 理学的な研究の結果の接近は、終局点でのみ ― す. うな命題を確認できた。すなわち、複合的思考か. でに得られた成果の比較考察として ― 生じたわけ. ら概念的思考への交替が、過渡的年齢期の心理学. だが、それに対して、私たちは、研究の過程そのも. における最も本質的な特質であること、この特質. の、研究の途上そのものの中に比較研究法を導入す. は、思考の領域や他のすべての知的過程における. ることを試みた。この研究の光に照らし出されて、. 変化を特徴づけるだけではなく、少年少女の人格. 古くからの多くの問題が新しい様相を見せている。. や世界観の構造と動態 ― つまりは、彼らの自己 意識や現実意識の構造 ― を特徴づけている、と. 過渡的年齢期と統合失調症の心理学的特徴 の比較分析. いうことである。これとは別に、私たちは、や はり精密に実験的な研究方法を進めることによっ. ( 訳注 1). 過渡的年齢期. て、統合失調症の心理の最も本質的な特質が概念. の心理学と統合失調症の心. (訳注1)ここで「過渡的年齢期」とは、子どもから大人への発達の移行期のことで、いわゆる思春期(前期青年期)を意味してい る。 ( 訳注 2)この原語の「 подросток 」はおよそ 12 ~ 16 歳頃の思春期の少年や少女を指している。いわゆる幼児期や児童期 の「子ども」とは区別されているので、ここでは訳語を「 少年少女 」とした。 - 50 -.

(4) 中村:統合失調症の心理学の問題について. 形成機能の破壊と混乱にある、ということを見出. して、自由に選ばれた( 実験の最初のうちは )無. した。概念的思考の基礎にある心理システムの分. 意味な単語[ 無意味綴り ]の助けを借りて、新し. 裂は、青年期におけるこの機能の形成と同じくら. い人工的な概念を作り上げるように求める状況が. いに、統合失調症の心理の基本的な特質なのであ. 与えられた。これらの概念の成分になったのは、. る。ここから明らかなように、どちらの場合にも、. 人為的に選び出され、お互いに自由に結びつけら. とくに複合的思考と概念的思考の間の境界を越え. れた一連の特徴である。こうして、被験者[ 患者 ]. る際には、いくつかの外面的に共通の類似した要. の前に、実験台の上で創られた人工の世界以外に. 素を容易に見て取ることができるのである。. はどこにも存在しない新しい概念を形成する、と. 両者―少年少女と統合失調症患者―はこの境界. いう課題が展開された。実験上の単語の助けに. を越えるわけだが、それぞれ異なった方向に進むの. よって、実験上の概念を形成するというこの方法. である。それゆえ、とくに、この境界を越えたり境. は、新しいものではない。この方法にはそれ自身. 界に近づいたりするまさにその瞬間に両者を静的に. の発展の長い歴史があるのだが、それに言及する. 観察するならば、十分な事実的根拠をもってして、. つもりはない。この方法は、最近になって、アッ. どちらの場合にも類似をもたらす一連の要素を確認. ハ( Ach, N. )とその弟子たちによって、方法論的. することができる。しかし、両方の状態を動的に注. に申し分なく洗練された、ということだけを指摘. 視するならば、過渡的年齢期と統合失調症の心理過. しておこう。この点では、私たちが実験で用いた. 程は、本質的には、お互いに反対の性質をもち、反. 方法は、アッハによって提案されたものと共通の. 対の方向を向いた、類似の徴候よりも反対の徴候に. 原理に立脚しているが、まったく別の目的を追究. よってお互いに関連した過程だということがわか. していたので、概念形成過程の実験的な構造は、. る。このことは、一方の場合には成長と発達と建設. 全体として、アッハの方法と比べて本質的に違っ. の過程が観察され、他方の場合には分裂と崩壊と破. た形で経過していった( 原注 1)( 訳注 3)。この方法に立. 壊の過程が観察される、という点で正しいだけでは. 脚することにより、私たちは、すでに明瞭な形で. ない。これらの過程を特徴づけているそれぞれの. 思考の混乱が観察された患者だけでなく、実験状. 個々の特質の点でも、またとくに、概念形成機能と. 況以外では形式的思考の領域での何らかの破壊に. いう点でも正しいのである。概念形成機能を研究す. 気づくことが難しい患者においても、新しい概念. ることにより、私たちは、過渡的年齢期の心理学は. を形成する機能の破壊を確認することができた。. 統合失調症を理解する鍵を手渡してくれること、そ. しかし、最も興味深いのは、このような否定的. して反対に、統合失調症の心理学は過渡的年齢期の. な局面ではなく、研究によってもたらされた肯定. 心理学を理解する鍵を与えてくれること、を確信す. 的な結果である。この実験場面に置かれると統合. ることができた。どちらの場合にも、鍵となるのは、. 失調症患者は課題を前にして無力である、という. 概念形成機能の研究なのである。. ことが重要なのではない。彼が課題をどのように 解決するのか、ということが重要なのである。解. 統合失調症患者における概念形成機能の破壊と 複合的思考の特徴. 決の拒否や他の不首尾で曖昧な試行を考慮の外に 置くならば、明白かつ明瞭な実験結果が観察され. 私たちの実験では、 [ 統合失調症の ]患者に対. た残りのすべての場合において、私たちは、通常. ( 原注 1)概念形成のこの実験的な研究方法は、私たちの指導の下でサーハロフ( Сахаров Л. С. )によって開発された (1928年)。方法については次の文献を参照のこと。サーハロフ「 概念研究の方法について 」 『 心理学 』、第 3 巻、 第 1 分冊、1930年。問題の理論については次の文献を参照のこと。ヴィゴーツキー『 少年少女の児童学 』、第 9 章と第 4 章、1930 年[ この原注では 1930 年の発行となっているが、原本の表紙には 1931 年の発行と印刷され ている]。 ( 訳注 3)この概念形成の実験の概要については、ヴィゴツキー( 柴田義松訳 ) 『思考と言語 』 ( 新読書社、2001 年 )の第 5 章に述べられているので、それを参照されたい。 - 51 -.

(5) 心 理 科 学 第 41 巻 第 2 号. の概念に代わるすべてのもの[ 人工的な概念 ]の. れぞれに類似の特徴をたどっていって]構築され. 形成について、特段に複合的な性質を確認でき. ており、そこには、 [鎖の]個々の輪の結合はある. た。これら複合の一連のタイプを列挙することは. が、複合全体のすべての要素間の結合は存在して. できるが、ここでの報告の目的にとっては、複合. いない。連合的複合も類似した構造を持っている。. の内的構造のタイプの多様性にもかかわらず、思. 連合的複合とは、実験上の単語によって表示され. 考の複合的な性質それ自体を特徴づけている共通. た所定の見本に対して、被験者は一連の別の図形. のものを指摘すれば十分であろう。複合を概念か. を選ぶのだが、選ばれた図形のある一群はある特. ら区別する本質的な特徴は次の点にある。すなわ. 徴について見本と一致しており、別の一群は別の. ち、複合の基礎には、様々な対象のグループを概. 特徴について見本と一致しており、第三の一群は. 念の場合と同様にひとつの全体に統合する結合が. さらに別の特徴について見本と一致している、な. あるのだが、この結合は、概念がそれに基づいて. どというものである。実際に大家族を彷彿とさせ. 構築される抽象的で一般的な性格とは異なって、. る対象の統合が生じているのであり、ここでは、. 具体的で事実的な性格を帯びているという点であ. とても多様な性格を持つ、きわめて異なった水準. る。複合は、種類の異なる対象を、ふつう家族名. にある、それでいて、個々のグループを様々な方. で表示される共通のグループに統合することによ. 法で統合する親戚関係が、全体のすべてを構築す. く似ている、ということを指摘すれば、複合と概. るための実際の基礎になっているのである。. 念のこの違いを、いっそう身近に示すことができ. 思考のこのような複合的な性格について、私た. るだろう。家族名が、事実上の血縁に基づいてお. ちは、性的成熟の時期に先行する児童期に徹底的. 互いに関係づけられる人物の具体的なグループの. に究明することができた。純粋に否定的な要素 ―. 記号であるのとまったく同様に、私たちの実験に. 思考に真の概念が欠如していること ― が原因と. おける実験上の単語も、統合失調症患者には、通. なっているどちらの場合にも[児童期の複合の場合. 常、個々の具体的な特徴の類似性や事実上の近似. にも統合失調症患者の複合の場合にも]、複合的思. や一致に基づいて統合される対象のグループの、. 考の個々の特徴のあらゆる外面的および形式的な. このような家族名として意味づけられるのであ. 類似にもかかわらず、それでもやはり、両者にお. る。その際には、将来の複合のどの要素も、その. けるこの思考[複合的思考]の基本的タイプはまっ. 複合の他の任意の要素との何らかの特徴の近似に. たく異なっている、と確信をもって言うことがで. 基づいて複合の成分になることができるのだが、. きる。かくして、統合失調症患者の思考は単なる. 決して、この複合全体の他のすべての要素との近. 退化を追体験しているわけではない。概念の崩壊. 似に基づいてはいないのである。. が、複合による結合を登場させるのである。繰り. 統合失調症患者の概念形成のこのような複合の. 返して言おう。 [統合失調症患者では]、すでにしっ. 典型例は、連鎖的複合である。その場合、被験者. かりと確立された概念が自動的思考(訳注 4)の中では. [患者]は、実験上の単語によって表示された所定. まったく申し分なく用いられているのに、新しい. の見本に対して、ある何らかの特徴において見本. 概念の形成はもはやきわめて困難なのである。思. と一致する別の図形を選び取る。三番目の図形は、. 春期前の子どもには、まったく逆の状態が生ずる。. 二番目の図形と一致する新しい特徴によって選ば. 統合失調症患者における複合的思考の 発生的、機能的な位置. れる。三番目と四番目を結びつけるのは、さらに 新しい特徴である、などといった具合である。複 合は、このような同系卑属の線に沿って[順次そ. この事実から、きわめて重要な二つの結論を導. ( 訳注 4) 「 自動的思考 」とは、ここでの概念形成の人工的な実験場面とは異なる日常の生活場面で、母語による自然的な 概念を用いて、無自覚的に、とくに意識することなしに展開されている思考のことと思われる。 - 52 -.

(6) 中村:統合失調症の心理学の問題について. き出すことができるだろう。一番目の結論は次の. すぐに数千年もの深淵に転落し、その解読のため. ことである。すなわち、 [ 児童期における ]発生. にはフォルケルトのクモの思考との類比が必要で. 的な表出としての複合的思考と比較することによ. ある、などとはまったく想像もできない。フォル. り、私たちは、統合失調症患者の思考に見出され. ケルトのクモは、自分の獲物が実験者のピンセッ. る分裂と退化の度合いを評価するための正しい. トでクモの巣[ 網状の巣 ]からつまみ取られ、ク. 心理学的尺度、正しい基準を手にする、というこ. モのいる巣穴に置かれるとその獲物を識別できな. とである。この抽象的概念の崩壊と具体的で複合. いのである。. 的な思考形式への移行は、他の研究者たちにも指. 研究によって、統合失調症患者に観察される複. 摘されている。しかしながら、その際には、複合. 合的思考は、最初のうちは、概念的思考に最も近. 的思考と概念的思考との区別を可能にする発生的. い段階 ― この新しい機能[ 概念的思考 ]の形成過. および機能的な尺度と基準が、乱暴にも侵犯され. 程において、この新しい機能に直接に先行する段. ている。たとえば、統合失調症患者の思考の複. 階 ― にある、ということが明らかにされている。. 合的性格を指摘した後で、彼らの多くは、思考の. こうして、統合失調症患者の複合的思考は、機能. このような性格と、原始的な人間[ 未開人 ]の心. の形式的な構造の観点からは、性的成熟期の前日. 理の中や正常な人の夢の中の複合的な形成物との. に当たる学齢期の子どもの思考と類比することが. 間に、とどのつまりは、原始的な動物の知覚や表. できるし、類比すべきなのである( とはいえ、同. 象との間に、とりわけクモ ― その表象について. 一視すべきではない )。研究により、大人の思考. は、フォルケルト( Volkelt, H. )の有名な著作の. も、様々な領域で複合的思考の特質をそうとうに. ( 訳注 5). 中に記述されているが. ― との間にも、類似. 長い間持ち続けている、ということが明らかにさ. 点を見出しているのである。その場合、複合的思. れている。それゆえに、方法論的には、思考の表. 考へのこの移行は、通常、純粋に形象的な思考へ. 面的な研究では、ある層から別の層への滑落を明. の移行として描かれている。これらのすべての著. るみに出すことができないこと、生じている概念. 作における基本的な思想は、形式的かつ外的な側. のこの崩壊を目に見えるようにできる特別な研究. 面からは完全に理解されるけれど、それにもかか. が必要だ、ということになる。それは、特別な研. わらず、これらのすべてが、発生 - 心理学的な尺. 究だけが、学童の思考と少年少女および青年の思. 度の乱暴な侵犯をおこなっているのである。抽象. 考とが何によって区別されるのかを明らかにする. 的な概念的思考とクモの思考との間には膨大な数. ことができるのと、まさに同じことである。. の歴史的段階が存在していて、そのどの段階もク モの段階とは、統合失調症患者の複合的思考と正. 統合失調症患者の言葉の複合的意味への変化. 常な人の概念的思考との違い以上に、異なってい る。夢の思考と原始的な人間の思考とクモの思考. 私たちの実験から導き出される二番目の結論. を、これらはすべて非概念的な思考形式であると. は、統合失調症の過程の下では、概念の基礎にあ. いう純粋に否定的な特徴に基づくだけで、同一の. る心理システムの破壊が、すでにきわめて早くか. 発生的水準に置くことができないのとまったく同. ら生じているということである。この同じ結論. 様に、概念の崩壊した統合失調症患者の思考が今. を、統合失調症患者ではとても早くから言葉の意. ( 訳注 5)ハンス・フォルケルトはドイツの「全体的心理学」の代表者のひとり。ここで言及されている彼の著作とは、 『動 物の表象について ― 発達心理学への寄与 ― 』 (1914 年)のことと推察される。全体的心理学の知見では、動物や 人間の子どもや未開人の初期の知覚では、未分化な全体的な知覚が特徴的であり、発達の段階が進むと分節化さ れた対象的知覚が成立していく。分節化されていない表象と複合の特質とが類比されるのであろう。なお、フォ ルケルトのクモの表象については、ヴィゴツキー( 柴田・森岡・中村訳 ) 『 思春期の心理学 』 ( 新読書社、2004 年 ) の第 3章第 9節「精神分裂病の研究」に、もう少し詳しい説明がなされている。 - 53 -.

(7) 心 理 科 学 第 41 巻 第 2 号. 味が病的に変化し始める、といった別の形でも表. の意味と一致しうる、ということが示された。こ. 現できるだろう。言葉の意味の変化は、時に肉眼. の後者の場合に、複合的な意味のことを疑似概念. で発見する[ 簡単に発見する]ことが困難である。. と呼ぶのである。研究により、このような疑似概. この変化は、その発見のためには特別な実験的方. 念は子どもの思考の基本的な形式であること、疑. 法が必要とされるが、それでもなお、この変化は. 似概念は、本質的には、概念の意味と実際に一致. 必ず確認することができるものである。. している複合的な意味にほかならないこと、が明. 本質的には、子どもの思考の発達領域における. らかにされている。ではここで、実験のデータに. 類似の事実の研究が、一見すると逆説的なこの現. よって、子どもの思考の発達の歴史のこの複雑な. 象の謎を解き明かしてくれる。一連の研究者の著. 事態を説明しよう。. 作によって、子どもは大人とは別の法則に従って. 何よりもまず、現代の言語心理学がおこなって. 考えているということ、それゆえ、子どもと大人. いるように、言葉の意味と言葉の対象指示とを区. の言葉の意味はその心理学的な構造において一致. 別しなければならない( 訳注 6)。これら二つの要素. していない、ということが確認されている。当然. は一致することはない。異なる言葉は同一の対象. のことであるが、子どもの発達のきわめて初期の. を指示することができるが、異なる意味を持ちう. 段階で、子どもと大人の間での相互理解がいった. るのである。私たちは、同一の人物を念頭に置き. いどのようにして可能なのだろうか、という疑問. つつ、イエナの勝利者とワーテルローの敗者と言. が生ずる。もし、大人とその大人と会話している. う。これらの言語的表現は、どちらの場合もナポ. 子どもにとって、同一の言葉の意味が一致してい. レオンを指示しているが、それぞれの場合におい. ないならば、どのように彼らはお互いを理解する. て、異なった意味を持っている。. のだろうか。. ここで用いられた例と同じく、子どもの複合的. ここでは、上で私たちが立てたまさに同じ問題. な意味は、研究が示しているように、その対象指. が、別の形で表現されているわけである。 [ ここ. 示においては、大半の場合に大人の概念の意味と. では、 ]次のように問題が立てられている。実験. 一致しうるし、一致しているはずであるが、両者. が示したように、もし、統合失調症患者では言葉. は意味の上ではお互いに一致していないのであ. の意味がきわめて早くから変化し始め、それゆえ. る。子どもが「 イヌ 」や「 家 」と言うときには、子. に、その言葉の意味がもはや同一の言葉の一般的. どもは、大人が念頭に置くものと同じ対象のグ. な意味と一致していないならば、どのようにして. ループや同種の事物を念頭に置いているが、しか. この事実が見落とされ続けているのか、してみれ. し、これらの事物を別のやり方で思い浮かべてい. ば、正常な人と統合失調症患者との間では、彼ら. るのである。子どもはこれらの対象のグループ. が同一の言葉を使いながらも、これらの言葉の背. を、大人が統合するのとは別のやり方で統合して. 後に一致していない意味を思い描いているとき、. いる。言葉の意味の基礎にある一般化は、大人と. いかにして言語的コミュニケーションや相互理解. 子どもでは異なった方法でおこなわれているので. が可能なのだろうか。この問いに対する答えは、. ある。子どもの言葉と大人の言葉のこの対象指示. 子どもの思考の実験的な研究において私たちが確. の一致は、実際には、子どもの言語発達の条件そ. 認できたことの中にある。これらの研究によっ. のものからきわめて簡単に説明される。子どもの. て、複合的な意味は、概念の意味と完全には一致. 言葉は自由に、自然発生的に発達するわけではな. しえないが、一定の関係や一定の範囲内では概念. い。子どもは、自分で言葉とその意味を作り出す. ( 訳注 6)言葉の意味と言葉の対象指示との区別について、より詳しくは、邦訳のヴィゴツキー( 柴田義松訳 ) 『 思考と言語 』 (新読書社、2001年)の第 5章「14 言語学の資料との比較 」を参照のこと。 - 54 -.

(8) 中村:統合失調症の心理学の問題について. のではない。そのどちらをも、子どもはすでに用. 一の事情とは次のようなことである。すなわち、. 意された形で発見するのである。子どもは、自分. 統合失調症患者は、もし新たな言語形成の機会が. の周囲の環境のすでに出来上がった言葉の中に入. 不可能になれば、その言語的思考においては、子. り込むのである。この言語環境の中では、言葉に. どもの頃から暗記した言葉に、それゆえ、確立さ. は一定の対象が強固に割り当てられている。どの. れた名前のシステムに立脚するだろうというこ. 事物もそれ自身の名前を持っていて、子どもは、. と、また、もし彼に概念的結合の崩壊が生ずるな. 様々な事物の名前を習得しつつ、それらの事物を. らば、そのときには、概念に代わる複合的な思考. 自分に可能なやり方で、つまりは複合的に統合す. 形式が、否応なしにまた選ばれるだろうというこ. るのである。しかし、この複合の成分に加わるの. と、しかし、これらの複合的思考は、一定のグ. は、子どもに自由に選ばれた事物ではなく、大人. ループの事物に決まった名前を割り当てていると. が確立した結合によって子どもに押しつけられた. いう事実そのものによって、すでにあらかじめ制. 事物なのである。. 約されている、ということである。. この規則から逸脱するやいなや、子どもの複合. 私たちと同様に統合失調症患者にとっても、. と大人の概念とは、その意味だけでなく対象指示. テーブルだけがテーブルと呼ばれる。しかし、こ. においても離れ始める。聾唖児の思考に関する私. の共通の名前の下で、私たちと彼とは、両者に共. たちの研究によって、聾唖児の典型的な思考の. 通なこの対象を異なるやり方で思い浮かべている. 形式は複合的思考であり、意味形成の混同心性的. のである。統合失調症患者にとっては、テーブル. な形式のような、いっそう初期の思考形式である. は複合の中で統合されていて、言葉はこの複合の. ことが示されている。聾唖児の身振り言語の発達. 家族名である。私たちにとっては、テーブルは一. は、確立された言語表示の、既成の拘束力のある. 般的な概念に相当しており、言葉はこの概念の記. システムとは無関係におこなわれている。それゆ. 号ないしは担い手の役割を果たしている。簡単に. え、この複合は、その対象指示に関しても大人の. 言えば、子どもと同様に、統合失調症患者には、. 概念とは一致していないのである。. 一定のやり方で対象のシステムと相互に関係づけ られた、すでに出来上がった言葉のシステムが与. 統合失調症患者の言葉の複合的意味への 変化を説明する二つの事情. えられているのである。したがって、統合失調症 患者は、自分が確立しなければならない複合的な. 統合失調症患者の言葉の意味の病理学的変化の. 結合を自由に選ぶわけではなく、それゆえに、そ. 場合にも、類似した状態がある。ここでは、私た. の複合は、必然的に疑似概念の形をとるのであ. ちの興味を引く事実の説明のために、 [ その説明. る。つまり、その対象指示の限りでは概念と一致. ( 訳注 7). を同じ程度に援. するが、意味においては一致していないのであ. 用しうるが、研究の発展の現段階では、問題解決. る。第二の事情とは、概念的思考の発生に起因す. にとって、これら二つの要因[ 事情 ]のうちのど. るものである。すでに述べられたように、学齢期. ちらか一方を正しいとする事実的根拠はない。第. の子どもには、直接に先行している、外面的には. の仮説となる ]二つの事情. ( 訳注 7)以下に、 「二つの事情」についての説明が展開されるのだが、その理解の一助として、あらかじめその要点を提示し ておきたい。まず「第一の事情」とは、統合失調症患者に概念的結合(概念的思考)が崩壊した場合には、概念に代 わる複合的結合(複合的思考)が選ばれることになるが、この複合的結合は、子どもの複合的結合と同様に、すで に出来上がった既成の言葉のシステムの制約を受けているので、意味の上では概念と一致していないが、対象指示 に限っては概念と一致することになる、という事情である。次に「第二の事情」とは、統合失調症患者の複合的思 考の特質を説明する場合、思考の発達の歴史をたどれば、すべての人において共通に、概念はそのシステムの内部 に複合的思考を下層土として保存しつつ構築されているので、概念の崩壊に伴って前面に現れる統合失調症患者の 複合的思考も特別のものではなく、誰しもが持っているものだから、そこにおいては、対象指示に限っては一致し ており、お互いの理解が可能になる、という事情である。 - 55 -.

(9) 心 理 科 学 第 41 巻 第 2 号. 目立たない間に概念的思考へと移行していく段階. ということである。ここで私たちが手にするもの. としての複合的思考が現れる。それゆえ、個体発. は、思考の発達におけるより初期の初歩的な段階. 生での思考の発達の歴史においては、複合的な結. への滑落や、崩壊の結果としての退行なのであ. 合は概念に先行し、クレッチマーの巧みな表現を. り、病気の過程の新しい産物ではないということ. 用いるならば、新しい概念システムの内部に連合. である。このことを支持する別の論拠となるの. 的な下部構造として保存される、概念の内的中間. は、複合的思考は正常な人にも保持されており、 それは、思考の情動的混乱、疲労、眠りなどの状. ( 訳注 8). 層を形成しているかのようである. 。. 概念の構築は、すべての高次な心理システムの. 態の中で追究され、明らかにされるということを. 構築と同様に、新しい全体の内部に古い形成物を. 裏づける一連の間接的なデータである。. 二次的な層の形で保存しながら、古い形成物の上. それゆえ、統合失調症患者の複合的思考への移. に新しい形成物を増築することによって実現され. 行は、隠されてはいるが、最初から( 病気をする. る、と考える十全な根拠がある。この法則は、周. までは )発達した思考形式の中に保持されている. 知のように、神経システムの構築の歴史の中で一. 何ものかの発現を意味しているということ、そし. 般的な形で発見されたものだが、個々の心理機能. て、その場合には、 「 誰しもが隠された形で統合. ― 運動機能だけでなく中枢機能も含めて ― の構. 失調症を持っている 」― つまり、全体から離脱. 築の歴史の中にも、きっとその事実的裏づけを見. し、思考のドラマ全体の中で主役になるような思. 出すにちがいない。似たようなことは、統合失調. 考のメカニズムを誰しもが持っている ― と言う. 症患者の思考にも起こりえると思われる。統合失. ことができるのである。こうして、この場合には、. 調症患者においても、思考の発達の初期の段階と. 統合失調症患者の複合的思考の特質を説明する基. しての複合的な結合は、きっと、彼の持つ概念の. 本的源泉として、思考の発達の歴史が援用される. 下層土として新しいシステムの内部に保存されて. べきなのである。しかし、すでに上で指摘したよ. いるにちがいない。そして、複合的な結合は、そ. うに、現在のところは、どちらの仮説[ 事情 ]の. れが含まれている全体が崩壊すると、全体から離. 公算が大きいとするのか決めかねている。私たち. 脱して、それ自身の初歩的な独自の法則に従って. には、これら二つの仮説は同じようにありえると. 活動し始めるのである。この意味で、複合的思考. 思われるし、ある程度は私たちが研究している現. は、統合失調症の過程の固有な産物ではなく、病. 象に関係している、ということを認める用意はあ. 気になるまでは患者の心理の中に隠れた形で存在. る。しかしながら、今後の研究過程でこの問題が. していて、高次な思考形式の崩壊に伴って離脱. どのように解明されたとしても、また、これら二. し、独立の存在として働き始めた思考形式の発現. つの事情のうちのどちらが逆説的現象 ― 統合失. にすぎない、と考える多くの根拠が存在する。. 調症患者の言葉の意味は病理学的に変化するが、. これが正しいことは、主として、次のことに. 彼の思考の中で概念の代わりを務める複合的思考. よって裏づけられる。すなわち、他の病気で、概. がその対象指示において概念と一致しているがゆ. 念的思考の別様の破壊 ― その際には、ちょうど、. えに、これらの変化が長期間にわたり観察者の目. 統合失調症の思考のタイプと形式的に類似したい. から隠されているという現象 ― の真の原因か判. くつかの特質が現われる ― の場合にも、より初. 明しなかったとしても、おそらくは、現在のとこ. 期の思考形式への同じような移行が観察される. ろ、もはや次のことは疑いえないであろう。すな. ( 訳注 8)クレッチマーは、中枢神経システムの心理学的構造を層構造として把握している。下部の層の中枢は、上部の層 の中枢が漸次的に形成されることによって消滅するのではなく、上部の層の支配の下に第二次機制として全体連 関をもって作用し続け、上部の中枢がその能力を弱めたり、下部の中枢から切り離されたりした場合、下位の機 制が独立して、発達史的な機能のそこに残された部分が現れる、と考えられている。クレッチマー『 医学的心理 学』 ( 正木正訳、創元社、1953年。西丸・高橋訳、みすず書房、1985 年 )参照。 - 56 -.

(10) 中村:統合失調症の心理学の問題について. わち、これらの言葉の意味は本質的に疑似概念で. が見出されるはずである。. あり、それが疑似概念であるがゆえに、統合失調. 私たちは、まさにこのような手順で研究を進. 症患者にとって言葉は私たちに意味していること. め、私たちの見地から見てきわめて注目すべき事. と同じことを意味していないにもかかわらず、彼. 実を確認することができた。その事実とは、これ. に言語的コミュニケーションと言語的理解が可能. ら複合の機能が、私たちが最初の一連の実験に基. だという事情によって、思考のより初歩的な段階. づいて統合失調症患者に仮定しているところの、. への滑落過程全体がカムフラージュされている、. 言葉の意味の変化の隠れた過程の存在を実際に明. ということである。. るみに出すことができる、ということである。私. しかし、もし私たちが素描した点から統合失調症. たちの研究の中で実験的な検証を受けた多数の機. を検討するならば、私たちの見地からして、統合失. 能的な結果のうち、いまは、ひとつのことだけに. 調症の心理学全体にとって中心的な問題がおのずと. 言及しよう。それは、比喩的に任意の言葉 - 概念. 生じるだろう。もし私たちの実験が確認したことが. を用いる能力、つまり、言葉を転義に用いたり、. 正しいならば、もし統合失調症の過程に実際に概念. 言葉の転義を理解したりする能力のことである。. の崩壊、言葉の意味の変化が見られるならば、もし. 私たちは、健忘性失語症に罹っている患者の思. この過程が常に実際に生じていて、上で指摘された. 考を研究しているときに、この現象に初めて出会っ. 事情によりただ私たちの目から隠され、カムフラー. た。カテゴリー的思考ないしは概念的思考の混乱. ジュされているだけならば、そのときには、やはり. (ゲルプ(Gelb, A.)とゴルトシュタイン(Goldstein,. この事実から、この過程は実際に生じていて、ただ. K.) )が前面に登場するこの場面で、言葉の転義の理. 私たちから隠された形で経過しているのだ、という. 解や転義の使用が深刻に損壊されていることが確認. ことをすぐにも明らかにする機能的な結果を導き出. できたのである。患者は、最も単純な言葉の転義を. すことができるはずである。. も理解することができなかった。ピアジェ(Piaget, J.)が提案し、レオーンチェフ(Леонтьев А. Н.)が. 統合失調症患者の概念の崩壊の機能的結果: 比喩的思考 ― 言葉の転義の理解 ― の崩壊. 仕上げたテスト ― 与えられたことわざに、別の言 語形式で同じ着想を表す適切な文言を選ぶというテ. ことはきわめて簡単である。統合失調症患者に. スト ― は、彼らの大多数にとって解くことができ. とって、もし言葉が、それが私たちにとって意味. ないことがわかった(訳注9)。. していることを意味しないならば、そのときに. とても驚いたことには、言葉が完全に保たれて. は、このことは必ずや機能に反映する、つまり、. いて、外見的には概念の崩壊の徴候がまったく見. これらの言葉が行動の中でどのようにその効力を. られないにもかかわらず、統合失調症患者にも同. 発揮するのか、に影響を与えるはずである。たと. じことを、まったく違った形で確認することが. え複合が外面的には概念と類似の特質を持ちうる. できた。後になって、私たちは、シュナイダー. にしても、それでもなお、複合は別の法則に従っ. ( Schneider, K. )らによって公刊された著作から、. て機能している。そして、子どもの複合的思考が. 比喩的思考と言葉の転義の理解の崩壊は、思考の. 一連の独自の特徴をもって現れるのとまったく同. 統合失調症的混乱に付随して頻繁に生ずる徴候と. 様に、もしこれらの複合を行動の中で吟味するな. して現れる、ということを証明する一連の類似の. らば、統合失調症患者の思考の中に機能的な結果. 事例を知った。しかし、最も興味深いことは、直. (訳注 9)レオーンチェフのテストでは、たとえば、 「村の一人ひとりから一本ずつ糸を集めれば、裸の者にシャツを与えること ができる」 ( 日本の「塵も積もれば山となる」に相応)、 「ゆっくり馬を進ませれば、それだけ遠くへ行ける」 ( 同「急がば 回れ」に相応)、 「馬の首輪の革紐をつかんだ以上は、力がないなどとは言うな」 ( 同「乗り掛かった船」に相応)、 「自分 のものでないソリには乗るな」 (「身の程をわきまえろ」の意)などのことわざが採用されている。統合失調症患者は、 これらのことわざの比喩的表現を理解できず、そこに込められた意味を別の言い方で表わすことができない。 - 57 -.

(11) 心 理 科 学 第 41 巻 第 2 号. 接的な観察や簡単な臨床的検査では思考領域に他. 複合的意味のその後の発達と機能のこの光景全. のどのような明白な破壊も確認できなかったとき. 体は、隠されて目に見えない概念の崩壊過程の仮. にも、この現象[ 比喩的思考と言葉の転義の理解. 面を最終的に引き剥がし[ 正体を暴露し ]、真の. の崩壊 ]が明らかにされたということである。こ. 概念の代わりを務める疑似概念が、たとえ仮面で. れらの困難な状態は、人工的に形成された実験的. 隠されているにしても、その仮面の背後で、真の. な言葉ないしは概念に関与したときに、とくに明. 概念とはまったく別のやり方で活動し、発達し、. 瞭に現れた。正常な思考にとっては、新しく形成. その効力を発揮している、ということを明らかに. された実験的な言葉ないしは概念を転義に用い、. するのである。 「 何ごとも行動によって知られる 」. 比喩として理解することがとくに困難ではないの. ― この格言は、私たちの関心事である疑似概念. に対して、統合失調症患者は、その習慣的な思考. に全面的に適用できる。これは、実際、ヒツジの. が、子どもの頃から知っている形象的な表現のこ. 皮を着たオオカミ ― 概念の衣をまとった複合 ―. とわざなどの範囲内ではまだ完全に保たれている. である。複合を行動、行為の中で研究することを. のに、 [ それにもかかわらず、 ]この課題を前にし. 試みる者は、なんと素早く複合がその獰猛なオオ. て、著しい困難に陥るのである。さらに、この事. カミの本性を現わすのかを、すなわち、複合がい. 実は、夢に現れるような形象的な象徴的思考と概. かに急激に、高次な思考形式 ― 概念的思考 ― が. 念に基づいておこなわれる比喩的な象徴的思考と. その基礎にあった複雑なシステムを破壊し、一掃. の間のきわめて重要な違いを映し出している、と. するのかを見るだろう。しかし、このことを暴き. いうことを指摘しておこう。しばしば、夢の象徴. 出すためには、このような概念形成機能の基本的. に関する主知主義者の解釈に基づいてなされる両. な破壊のストレートな直接的結果 ― つまり、思. 者の同一視は、まったく心理学的な根拠がないと. 考の領域で観察される結果 ― から、他の心理機. 思われる。さらに、統合失調症患者の言葉の意味. 能の領域に存在するより間接的な結果へと移行し. の混乱は機能の中に間接的に発現する、という問. なければならない。こうした概念形成機能の破壊. 題を締めくくるために、次のような事情にとくに. のより間接的な例として、統合失調症患者の知覚. 注目しよう。私たちの実験は、実験的な概念の作. の実験と感情反応の実験だけを取り上げよう。. 成をもって終わったわけではない。その後で、私 たちは、この新しい形成物の機能的な発現形態に. 統合失調症患者の知覚と感情反応の研究から. ついて研究した。私たちは、この新しい形成物を 連合の系列の中に組み入れ、それの連合作用を観. 統合失調症患者の知覚の研究からは、次のこと. 察した。被験者[ 統合失調症患者 ]は、古い概念. が明らかにされた。すなわち、統合失調症患者に. も新しく形成された概念もその成分となっている. とっては、対象はきわめて容易にその具体的な. 判断を、おこなわなければならなかった。被験者. 形を喪失しているので、統合失調症患者の知覚が、. は、新しく形成された概念の意味を拡張し、それ. 有名なロールシャッハテストの際の私たちみんな. を実験上の対象グループから別の対象グループへ. の知覚と似るためには、対象どうしの不自然な寄. 移すように促された。換言すれば、私たちは、新. せ集めや、あるいは通常の知覚条件の別様な変更. しく創造された「 人工的な概念 」が被験者の思考. (明るさの変更、不適切な彩色での対象の表現や. システムの中で、その後、どのように活動し、発. 描写など)が、頻繁に、たくさん生じているとい. 達し、機能するのかをできるかぎり完全に追究し. うことだ。私たちが記述できることは、私たちの. ようとしたのである。こうして、上で述べられた. 実験の中で観察された対象の知覚の変化について、. 基本的事実の機能的な発現に富んだ光景を、私た. その変化を、無意味な色の染みを知覚している人. ちは目の当たりにすることができたわけである。. の行動 ― これはどんな精神病理学者にもよく知ら - 58 -.

(12) 中村:統合失調症の心理学の問題について. れている ― と比較した結果だけである(訳注 10)。こ. 情動の鈍磨それ自体ではなく、また情動反応の豊. れらの染みを眺めているとき、私たちはその中に. かな系列の消失それ自体ではなく、通常一緒に結. 動物、人間、風景、おとぎ話の生き物などといっ. 合して作用している概念からの離脱が、統合失調. た様々な形を見るようになるが、これと同じよう. 症患者の情動反応の特徴となっているのである。. に、通常の条件がちょっとでも変化すれば、対象. 私たちの研究からは、この結論をこれ以上は展開. の印象全体は、きわめて容易に次のような傾向を. できない。なぜならば、この結論は、基本的に、. 示すのである。すなわち、対象の印象全体が、統. すでに臨床的観察に基づいて知られていること、. 合失調症患者にとっては、こうした無意味な染み. すなわち、基本的な情動反応は保持されつつも高. に転化し、私たちのロールシャッハの染みの解釈. 次な対象的感情は崩壊しているとして、多くの研. にとてもよく似た多種多様な解釈の作用点にな. 究者が完全に正しく定式化していることを確認す. る、という傾向である。このような現象を理解す. るものだからである。私たちにとって新しいの. る鍵を与えてくれるのは、はたまた発生的心理学. は、これらの情動的混乱は基本的な混乱 ― 概念. である。発生的心理学は、知覚の発達、とくに、. 形成機能の破壊 ― に起因しているという事実だ. カテゴリー的知覚への移行というこの発達の最終. けである。. 段階が、知覚と概念の複雑な結合によって、つま. 思考の領域での混乱も知覚、情動、その他の高. り、その内部では知覚が単に二次的で従属的な要. 次な心理機能の混乱も、概念形成機能の混乱と直. 素にすぎない直観的思考の新しいシステムの発生. 接に因果的かつ構造的に結びついていると見なす. によって、実現されるということを示している。. ことができる ― とは言え、今のところ仮説的に. そんなわけで、私たちの誰にも、 [ 概念と結合. ではあるが ― ように思われる。はたまた、この. していない ]純粋な知覚を呼び起こすことは困難. 仮説の根拠は個体発生にある。概念形成機能の発. であり、それゆえに、私たちの誰にとっても、対. 生に伴って、少年少女のすべての高次な心理機. 象は、ロールシャッハテストのようには、様々な. 能において、すべての高次な活動形式において、. 解釈の原因、異なる視点で対象を統覚する原因と. いったい何が変化するのかを研究することによ. は成りえないのである。対象の知覚は、その直観. り、私たちは、一方ではこの機能の発生と、他方. 的な思考過程の一部なのである。知覚は、知覚. では他のすべての機能の改造 ― それら機能の高. と同時に関与する概念に従属している。それゆえ. 次な段階への上昇 ― との間に、直接的な発生的. に、私たちにとっては、あらゆる知覚が意味づけ. かつ機能的な結びつきを見出している。. られた知覚なのである。 [ それに対して、 ]複合的 思考の領域ではそうではない。概念の崩壊によっ て、思考のより初歩的な段階への移行によって、. 統合失調症の下での自己意識と 現実意識 ― 人格と世界観 ― の崩壊. 統一的システムの中で知覚と意味理解の比重を決. 研究によって次のことが明らかにされている。. 定している割合も本質的に変化し、統合失調症患. すなわち、高次な心理機能の発達とは、その機能. 者の知覚の特徴として上で述べられたような知覚. 内の変化の過程というよりはむしろ、人格全体の. の変化が容易に生ずるのである。. システムの中でそれぞれの機能の位置と役割を決. 統合失調症患者の感情反応の実験的研究に際し. 定している機能間の結合や関係の変化である、と. ても、同様なことが観察されている。ここでも、. いうことだ。過渡的年齢期には、個々の機能の根. ( 訳注 10)無意味な染みを見る場合でも、通常、私たちには「 知覚的体制化 」によってそれが意味のある何か( 具体的な対 象 )に見えてくる。それとは逆に、ここでの実験における統合失調症患者は、対象の具体的な形を喪失してい るので、対象の印象全体が無意味な染みに転化していて、それゆえに、対象の形状、大きさ、色、配置、さら には、それらの不自然な寄せ集めなどに独特な歪んだ知覚が現象するのだと考えられよう。 - 59 -.

(13) 心 理 科 学 第 41 巻 第 2 号. 本的な再編成、機能間の結合や関係の根本的な再. にはまったく当然に思われる。すなわち、統合失. 建が生ずるのであり、これによって、固有の新形. 調症の下での人格と現実意識の変化は、思考が概. 成物であり、高次な秩序の統一であり、システム. 念の段階から複合の段階へ滑落することに直接起. 的機能を成す、新しい全体的な心理システムの発. 因している、ということである。しかし、繰り返. 生がもたらされるのである。これらの心理システ. すが、このことは仮説にすぎない。 [ だが、 ]この. ムの崩壊、これらのシステム的機能の分裂は、概. 仮説は、もはや、以下の理由によって魅惑に満ち. 念形成の混乱と関連して統合失調症の場合にも観. たものになっている。すなわち、この仮説は、シ. 察される。しかし、研究はさらにその先の結果を. ステム ― 統合失調症の下ではその崩壊が観察さ. もたらしている。すでに述べられたように、私. れるわけだ ― の発達の歴史の側面から完全な正. たちの仮説 ― それは、一方での概念形成機能と、. 当性を得ているだけでなく、それが、光景全体を. 他方での少年少女の人格全体の変化との間の発生. 統一し、統合失調症の心理における多種多様な混. 的結合と依存関係についての実験的研究に立脚し. 乱の内的依存関係を理解し、これらの混乱をひと. ている ― は、さらに先へと私たちを導いている。. つの共通の根から導き出し、人格の心理学的発達. もし第一層を思考領域での直接的な結果として、. の歴史の光に照らして、統合失調症の分裂を理解. 第二層をその他の心理機能領域での二次的変化で. する可能性を私たちに約束しているからである。. あるとして考えるならば、そのときには、私たち は、少年少女の人格発達の歴史において、どのよ. おわりに. うに概念形成機能がさらに変化の第三層をもたら すのかを観察できるだろう。概念形成機能の発生. 最後に、ごく手短に、統合失調症の心理学的理. と結びついた変化のこの第三層は、少年少女の人. 論が提案されるときにしばしば生ずるひとつのと. 格と世界観、つまり、一方ではその自己意識の動. ても大きな誤解について説明したい。統合失調症. 態と構造であり、他方ではその現実意識の動態と. のあらゆる混乱の基本的な核として概念形成機能. 構造なのである。. を指摘するとき、まさにこれによって、私たち. 過渡的年齢期の心理学でこのことを観察でき. は、崩壊の光景全体の、分裂のドラマ全体の心理. たように、人格と世界観の形成は、少年少女の概. 学的中心を発見するが、しかし、統合失調症の一. 念的思考への移行の長期にわたる最高の結果なの. 次的要因、根本的原因それ自体を発見するのでは. である。統合失調症患者の心理学の基本的特徴と. ない。概念形成機能の破壊は、私たちの見地から. なっている、統合失調症の下での人格の現実意識. は、統合失調症の過程の最初の結果であり、その. と自己意識の崩壊を観察するとき、これらの変化. 前提ではない。. も、本質的には、もっぱら、概念形成機能の崩壊. 私たちは、統合失調症を心因性の病気と見なす. という中心部分と機能的に結びついた第三層のも. 傾向のある人の見地に立つつもりはまったくな. のである、という仮定を否定することはできない。. い。 [ しかし、]この精神病の真の器質的原因がど. 実際、外的現実についての意識と人格の自己意. のようなものであろうが、心理学には、心理学的. 識は、概念システムの中でもたらされる。周知の. 観点から人格の崩壊現象を研究する権利がある。. ように、児童期には、どちらも( 自己意識も現実. なぜならば、たとえ心理学以外の領域の原因がこ. 意識も )成人期でのこれらの過程の状態とは、本. の崩壊の主たる刺激、根本的原因となっていたと. 質的に異なっている。さらには、夢の中で現実意. しても、この崩壊は心理学的法則に従って生じる. 識と人格意識がどのように変化するかということ. からである。その上、私たちは、統合失調症の一. も知られている。それゆえ、発生的な実験のデー. 連の生理学的および臨床的な観察の中で、私たち. タに基づいて次のように仮定することは、私たち. の心理学的仮説と統合失調症の器質的特徴とを論 - 60 -.

(14) 中村:統合失調症の心理学の問題について. 理的につなぎ、心理学的な崩壊と生理学および病. 神経システムの状態に起因しうるのである。こう. 院臨床のデータとを結びつける素晴らしい架け橋. した外界との接触の喪失は、新しい生物学的な光. を見出している。私たちが主として念頭に置いて. の中で私たちの目に登場することになる。私たち. いるのは、統合失調症のよく知られた臨床的観察. の前に現れるのは、統合失調症の過程の本来の意. であるが、それによって研究者たちは、統合失調. 味での産物ではなく、内的抑制[ 内抑制・内制止 ]. 症の分裂の基礎には精神的な活動性の喪失がある. の発達によって神経システムの衰弱に反作用する. という結論に至っている。重要な研究者のひとり. 有機体の防御機能である。もしそうであるならば. と思われるユング( Jung, C. G. )は、夢と統合失. ( まさにそうであると認めるいくつかの生物学的. 調症との間に、全体として遠大な類比をおこなっ. 根拠がある )、私たちの前に現れるのは、私たち. ている。彼は、もし夢を見ている人が歩き回り、. の興味を引く仮説に直接言及するきわめて重要な. 会話をすることができるならば、その人は、統合. 結論である。. 失調症に苦しんでいる患者と何ら違いはないと語. 研究が明らかにしているように、個体発生にお. り、その基本的考えを定式化している。シュナイ. けるすべての高次な心理機能(とくに言語的な概. ダーは、疲労で眠り込んでいる人の状態と統合. 念的思考)は、社会的起源を持っている。それらは、. 失調症患者の思考や行動との間の基本的な類比に. 最初は社会的な共同の形式として発生し、 [後に]. 立脚して、統合失調症の心理学に関する多数の研. 個人の行動方法の領域に移行する。夢にとって特. 究を組織している。無力症は、すべての研究者に. 徴的なことは、外界との接触の停止が、同時に、. よって、統合失調症と結びついた体質的な特徴と. 人格の正常な機能の基礎にある自分自身との独特. して強調されている。きわめて様々な側面からお. な社会的接触の停止をも意味しているということ. こなわれているこれらすべての臨床的な観察は、. である。このことは、おそらく、概念的思考の破. その基礎に何らかの真実の断片を持っているに違. 壊の直接的な原因でもあるだろうし、他方、統合. いない、と思われる。私たちは、統合失調症と夢. 失調症の分裂の他のすべての諸徴候は、私たちが. の間の直接の類比は拒否するけれど、それでもな. 上で明らかにすることに努めたように、一定の確. お、両方の状態を接近させるいくつかの点が存在. 実さをもって、この基本的な破壊から導き出すこ. することも認めるべきである。統合失調症患者の. とができるだろう。いずれにしても、発生的心理. 自閉性、引きこもり、非社会性 ― 私たちの関心. 学の光に照らして検討された実験的研究のデータ. を引く患者の人格のこれら基本的な特徴は、何ら. は、この仮説の承認を裏づけているのである。. かの方法で、間接的な形で、いわば生物学的に結. (2019年 12月 15日受稿、2020年 2月 18日受理). びつくことができる、つまり、統合失調症患者の. “ On the Psychological Problem of Schizophrenia” by L. S. Vygotsky Kazuo NAKAMURA. - 61 -.

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